非日常的な日常

第六話

さよなら

『あ〜残念………ホント残念だ。これまでも解除されるなんて』
 …え!?解除?
「やったよ!由乃!私達助かったんだ!」
「…信じられない…よかった。あ〜疲れた」
 全身の力がぬけて床に座り込んだ。あ、まだ続いてる。
『由乃さんはすごいよ。推理力だけでなく運も備わってるなんて、そうない事だ。かつて英雄と呼ばれた人達は運という物が味方についていた人と言える。今までにたくさん英雄になれるような人達もいただろうがその人達が英雄になれなかったのは運が味方についていなかった。ただそれだけの事。でも最も重要な事。だから君は昔ではその事だけで言うなら英雄になれたかもね。……けどそれもここまで。』
 …ここまで…?
『俺にとってここまで解除されるなんて結構屈辱的。それに今までに爆破出来なかったものはない。そしてこれからも。………そうそう。島津さんに嘘をついていた事がある。この時計の爆弾の威力。半径1メートル以内じゃなくて半径30メートルなんだ。それとね‥後カップラーメン出来て食べ終わる位で爆発する。俺なら7分位かな』
 嘘でしょ…?
「由乃!本当にそんな事書いてあったの!?」
 …嘘でしょ?
「カタカナなんて見間違えないわ」
 嘘‥じゃない。
「あと7分か…なんか実感ないな」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?何か方法を考えないと!」
「7分じゃ無理よ。…結局今までの事は無駄。結局学校もまもれない。結局私は死ぬ…あがいても無意味だったのね。その事実は変わらない、か…」
「そうやって逃げるの?」
 …逃げるの?その言葉が頭の中を巡る。
 逃げる?
 私が? 今まで突っ走ってきた私が?
 でも今回ばかりは‥
「…もう疲れたわ。寝不足だし。少し眠りたい」
「そんな事言わないで!私は逃げない!それにさっき言ったでしょ?そんな運命私が変えてみせる、って」
 令ちゃん…でも世の中には絶対的なものがあるのよ、きっと。それがあいつが言ってた運なのね。
「私を信じてよ!」
 信じて?…何を考えてるんだ。
 馬鹿だ。
 私は。
 当たり前だ。お姉さまの言った事は絶対、だったっけ。
 それに。
 令ちゃんの事はいつだって信じてるよ。
「…うん。らしくなかったね私。令ちゃんを信じてるよ。‥もう後5分だけど」
「機械だったら水に入れて壊れるんじゃない?」
「防水だったわ」
「じゃあ‥確か時計を外そうとするとダメなんだよね。それは多分内側にセンサーが付いてて反応してると思うの。だから何かでセンサーを反応させときながら時計を無理矢理外す、ってのは」
「それいいかも!…でももしセンサーじゃなかったら?」
 なかなかいいアイディアだけどかなり危険だ。少しの誤差であっさり終わる。
「ちょっと見せて」
 令ちゃんが時計の隙間を念入りに見ている。だがすぐに肩を落としながら言った。
「ごめん‥センサーなんてなかった。…なら火は?もしかしたら熱で壊れるかも」
「家庭科室なら火はあるけど‥どうやって?」
「………」
「……」
 万策尽きる‥だね。
 さてと。
 時間もないし、
 行きますか。
「…令ちゃん。最後の手段があるわ。氷室はそのためにわざと家庭科室にしたのかもね」
「‥何を考えてるの?………まさか」
「きっとそのまさかよ。手首を落とせば時計を外す事にはならないわ」
「本気!?」
「…令ちゃんには見られたくないから先に逃げてて。時計の爆弾が解除されるわけじゃないからさ」
「…わ・分かった。すぐ救急車呼ぶからね」
 そう言って令ちゃんは走って行った。
 …これが令ちゃんを見る最後だからずっと見送った。
 そう。
 女の子の力で手首を切り落とすなんてできるわけない。それにそんな勇気ない。
 令ちゃんは私の言った事に動揺したのかな?単純な事に気付かないんだから。…おかげでこっちは助かったけど。これで令ちゃんをまもれた。
 あと2分しかないけどそれだけあれば令ちゃんから30メートル離れるのは容易い。そこが終の栖になる…
(屋上に行こうかな)
 爆風の範囲は上、横、というのを聞いた事がある。つまり上、横にあまり何も無いところなら被害が最小限で済むかもしれない。
 走っているとすぐに着いてしまった。
 ずっと着いてほしくない、このまま生きていたい、そういう気持ちと早く行かないと爆発してしまうという気持ちが混ざっていた。
 ……扉を開ける。
 空は、
 青い。
 何故かいつもより近く感じる。手を伸ばせば雲にだって登れそう。
 高く高く、
 高く高く。
 上を見ればどんどん行ける。
 ふと下をみる。
 上を見上げる少女と目が合った。……私?あれは私なの?
 意識だけが空と混ざり合ったような、そんな感覚。
 私は何故か幽体離脱みたいな事になったらしい。ただ意識だけが。それもいいか。このまま上に行ってみるのにも興味があるし。
『――――駄目よ』
 声が、
 聞こえた気がする。
『――――あげたでしょ―――』
 よく聞こえない。
 するといきなり目の前に人が現れた。人と言っていいのかな?
『私はあなたを助ける為にプレゼントしたのに。ちゃんと言っておけば良かったね』
「誰?」
 全然見た事がない。
『…そっか、私…。まいいや、それよりこんな所にいないで早く下に戻りなさい、あなたは前にお守りをもらってるから。それを開ければ中に小さな機械が入ってる。それを腕時計の画面の所に付けてスイッチを押して。そうすれば時計を突き破ってウィルスが注入されるわ。あの時計にはAI的な物が入ってるからどんなことをしても解除できないの。でもAI自体を破壊すれば助かるはずよ。本当は私のために作ったんだけどね…私はもう後戻りできなかったから。…ま、そんなのはどうでもいいからイッキに下に戻すわよ!そろそろ時間がない』
「…あなた千冬さん?」
『さあ行くわよ』
「ち・ちょっと待って!」
 と言ったらすでにそこには誰もいなくて、
 空の上でもなくて、
 もとの私に戻っていた。
 時計を見ると何故か屋上に来てからあまり経っていない。急いでお守りを取りだし言われた通りにやってみた。すると一瞬で時計の画面が消えて、腕から外れた。
 カシャンと落ちた音でやっと意識がはっきりした。
「助かったのね、今度こそ」
 おぼつかない足取りで階段を降りて行く。
 思い返しても不思議な事ばかりだ。屋上に来てからが夢みたい。でもあれは千冬さんだったのかな。見た目は変わってたけどきっとそうだ。
 お守りが証拠。
 それになにより。
 あなたの気持ちが証拠だよね。
 ありがとう。絶対にあなたの事は忘れない。
 
 校舎を出ると令ちゃんが走って来た。もう二度と会えないと思ってたのに。
 これもあなたのおかげです。
 確かに何故こんなに私を助けてくれたの、とか幽体離脱みたいなのとか非日常的な事はあった。
 でも今はいいかな。
 令ちゃんの腕の中はどこよりもあったかくて気持ちいいし。
 
 そういえば前もさっきも言えなかったけど今言うね。
 きっと届いてくれるよね。
 
 さよなら、
 の一言だけだし


 
あとがき

ごきげんよう、皆様。最後まで読んでくださってありがとうございました!
ホント由乃や令が原作と離れていき誰?みたいに思った方もいるでしょう。お気を悪くした方はごめんなさいm(_ _)m
とりあえずここで非日常、は終わりなのです。けど!けど一応続く予定でいこうかなぁと。
ですから、続きが見たい方は下の第六´話を。もうここでおわりでいいや、みたいな方は…まぁ。
この先は非日常っぽいんですけど、ミステリーっぽくでvv きっと面白くなる!かな≪笑
でわでわ皆様、よろしければ見ていって下さいなv  ファイ


第六´話