時・・・



ここは・・どこ?
僕は道をふらふらと歩いている。
目の前がかすんできた・・・僕・・死んじゃうのかな?
あ・・・前のめりに倒れた・・・あんまり痛くない・・・やっぱり、死んじゃうのかな・・
「おい、どうした?」
誰か・・・男の人の声が聞こえる・・
でも・・・意識が・・・・・


僕は布団の中で目を覚ました。
周りを見てみるとアパートか何かの部屋みたい。
「気がついたか、」
男の人の声がしてそちらを振り向いたら、そこには悪い人・・って感じの顔つきをした人がいた。
でも・・・なんでだろ・・ぜんぜん怖さを感じない・・むしろ・・どこか懐かしいような・・・・・
「どうした?」
あ・・気づいたら涙を流してた。
「・・・腹がすいているなら、おかゆを作ったんだが、食べるか?」
僕はとびっきりの笑顔でうなずいた。
男の人はおかゆを大きめのうつわによそって、蓮華と一緒に渡してくれた。
僕はそれらを受け取る。
あれ?・・・いただきますと言おうとしたけど・・・
あれ?声が出ない・・
「どうした?」
身振り手振りで声が出ないということを伝えようとがんばる。
しばらくしてわかってもらえたよう。
「・・声が出なくなったか・・・知り合いに少し詳しい者がいるから彼女に見てもらうか?」
僕は不安を感じながらうなずいた。
「まあいい、今は食べろ」
僕はうなずいておかゆを食べた。
おいしい・・塩加減も上手だし・・うん、どんどん食べられちゃう。
「そういえば・・まだ名乗っていなかったな。俺はゲンドウ、六分儀ゲンドウだ。」
ゲンドウ・・・六分儀・・・なんでだろ・・その名前に特別なものを感じる・・・本当に特別なものを
「名前は・・・あ、声が出ないんだったな・・・筆談ならできるか?」
男の人は紙と鉛筆を渡してくれた。
僕は自分の名前を書こうとしてはっと気づいた・・・僕って誰なんだろ?
ぜんぜん思い出せない・・・六分儀さんに助けてもらう前・・僕はどこで何をしてたんだろ・・・
「・・どうした?」
六分儀さんは心配そうに声をかけてきてくれたけれど・・・僕は何も思い出せない・・・とだけ書いた。
「・・・記憶喪失か・・・」
六分儀さんは顔をしかめて、暗い声でそう一言だけいった。
その後は黙ってお粥を最後まで食べた。
「・・・うむ・・・風呂はどうするか・・一人ではいれるか?」
僕はたぶんと唇を動かしてみる。通じるかな?
「そうか・・・女物は用意してないし・・サイズもあわんだろうが・・・とりあえずこれでも着てくれ」
女物・・僕って女なんだ・・・
お風呂に案内されて服を脱ぐ・・・
ぼろぼろの学生服・・これは男物・・・でも・・僕の胸は膨らんでる・・・
なんでなんだろ?
まあとりあえず、お風呂に入って体を洗うことにした。
体を流してから、湯船にはいろうとした時、ふと湯気で曇った鏡に視線がいった。
軽く水滴を手で拭いて自分の顔が映るようにする。
女の子の顔・・・どこかで見た気が・・・
当たり前か、自分の顔なんだし・・・
僕は、鏡から視線をはずして湯船に浸かった。
温かいお湯が気持ちいい・・・


次の日、僕は六分儀さんに連れられてマンションを訪れた。
僕はきょろきょろと周りを見ている。
六分儀さんはインターホンを押した。
『はい、どなたですか?』
「俺だ。昨日言っていた子を連れてきたんだが・・・」
『すぐに開けますね。』
鍵が開いてドアがあけられて、中から女の人が出てきた。
綺麗な人・・・でも・・・この人も何か・・特別な感じが・・・
「あら、言ってたとおり、かわいい子なのね」
この人の匂い・・・懐かしい・・・
「・・・どうしたの?」
気づいたら女の人の胸で涙を流してた。
「どうした?」
なんでだろ・・・僕は我に返ってすぐにぱっと離れた。
「こんなところでなんだし・・さっ、あがって」
中に通されて、ソファーに座る。
女の人が紅茶とケーキを持ってきてくれた。
紅茶のいい香りがする。
「ゲンドウさんの言ってたとおり、私に似てるのね。」
「ああ・・・で、違うのか?」
「電話で言ったとおり・・残念ながら違うわ」
僕ってこの人に似てるんだ・・そういえば、昨日お風呂場で見た鏡に映った僕の顔・・・確かににてるかも・ ・・
「私は碇ユイって言うの、よろしくね。」
碇・・ユイ・・・また涙が出てきた。
とっても懐かしい気がする・・・なぜかこの人をずっと求めてた気がする。
はっと気づいたら僕は又ユイさんに抱きついて泣いていた。
「よしよし、」
ユイさんは僕の頭をなでてくれていた。
「泣き止んだわね。えらいわね。」
ユイさんにほめられると、とってもうれしくなる。
「上手だな。」
「そう?」
「ああ、早速ではあるが、お願いできるか?」
「でも・・ちゃんとしたお医者さんに見せたほうがいいんじゃないの?」
「いや、何があるかわからん。場合によっては見せないほうがいいかもしれないからな」
「なるほど、わかったわ・・・少し調べさせてもらっていいかな?」
僕はうなずいた。
それから1時間ほどいろいろとユイさんは僕を調べたけど・・・今は首をかしげている。
「そうね・・・一見するところは異常はないけれど・・・・記憶喪失とも関連があると考えるべきかしらね」
「脳のほうか・・・」
「多分・・・機能が破壊されているのか、単にうまく動かなくなっているのかはわからないけど・・・」
「・・・医者に見せるべきか?」
「・・・わからないわ・・」
何でだろ・・お医者さんに見せても無駄な気がする。
「警察には?」
「いや・・・迷っている。」
おんなじように警察に言っても・・・それが無駄だと思う・・・なんでだろ・・・
僕は紙にそのことを書いて二人に見せた。
「・・なぜかはわからないけれど・・無駄だと思う・・・か、」
「・・・どうしてか分からないというのになにかありそうだな」
結局二人が出した結論は知り合いだけで僕のことを調べてみるという物だった。
「・・でも、私たちが呼ぶのには名前がないというのは不便ね、」
「そうだな・・・何か、仮の名前でも決めないといかんな」
「・・・希望する名前なんかあるかしら?」
僕は女の子だから・・・女の子の名前・・・レイ・・アスカ・・マナ・・そんな名前が思い浮かんだ。
一番最初に思い浮かんだのはレイ・・か・・・
とりあえずこの名前を紙に書いてみせる。
「ふむ・・レイか、わかった。」
「レイちゃんね。貴女の本当の名前だったのか、それとも知り合いの名前だったのかはわからないけれど、何かのヒントになるかもしれないわね。」


それから二人は、いろいろと僕のことを調べてくれた。
でも・・・僕の予感通り、全くなにもつかめなかったみたい。


そんなある日、
「・・・レイ、」
六分儀さんが僕に声をかけてきて、僕は視線を六分儀さんに向けた。
「横良いか?」
僕がこくりとうなずくと、六分儀さんは僕の横に座った。
「・・・レイ・・俺は、来週から、南極に行く。」
南極?
「しばらくはもどれん・・・その間、彼女が預かってくれることになっている。」
ユイさんに?
「・・・心配か?」
僕はうなずく・・何か・・何か・・・六分儀さんが・・六分儀さんに何か起こりそうなきがする。
「安心しろ、なにも問題ない。」
僕はふるふると首を振り、覚えたての手話で六分儀さんに行ってほしくないと伝えたけど、六分儀さんは聞いてはくれなかった。


そして、僕はユイさんに預けられた。
「レイちゃん、ケーキでも食べる?」
僕はこくんとうなずく、
「・・・ゲンドウさんのことが心配なのね」
ハイと唇を動かして答える。
「大丈夫よ、ゲンドウさんは強いから、」
何か違う・・何か・・・違う気がする・・・


それから数ヶ月後、ユイさんが南極の六分儀さんのところを訪れることになった。
僕も行きたいというと、ユイさんは関係者に必死にお願いして、特別に僕も同行させてもらえることになった。
南極・・・どこか特別な感じがする・・・
六分儀さんに会いたいのはもちろんだけど・・・それだけじゃない気がする。


そして、特別機に乗った。
乗客の数は少ない・・後部が大きな貨物庫になっていて、様々な物資を運ぶらしい。
数少ない乗客の中に、大きなサングラスをかけたお爺さんがいた。
「あ、キールさんおはようございます。」
「ああ、おはよう・・・・日本は暑いな・・」
「まあ、これから寒い場所に行くのですから、暑いのもいいんじゃないでしょうか?」
「かもしれんな」
キール・・って言うんだこのお爺さん。


次の日、特別機は南極の調査基地に到着した。
専用の滑走路から格納庫に入る。
そして、ハッチが開けられて外の冷たい空気が入ってきた。
寒い・・
「はい、これを着なさい」
ユイさんが厚手の防寒具を差しだしてくれた。
防寒具を着込んでタラップを降りると六分儀さん達が出迎えにきてくれていた。
「よく来てくれたな」
「レイちゃんも連れてきたわよ」
「元気にしていたか?」
僕は笑顔でうなずいた。
「そうか、ここは寒い、早く研究所に入ろう」
皆はぞろぞろと連なって格納庫から研究所に入った。
研究所の中は暖房がしっかりしていて暖かい。
「こっちだ」
六分儀さんに部屋に案内された。
ユイさんとボクが相部屋になってる。
「短期滞在に必要なものはそろっていると思うが、足りないものや必要なものがあったらいってくれ、用意させる」
「分かりました。」


そして、この南極の調査基地にやってきて3日目・・・僕はどうしても気になっていた研究所の奥に入ってみた。
この先に何かあるきがする。
どうしてかは分からない・・・でも、何かすごく重要なものが・・・
僕はどんどん奥へ進んでいった。
「何をしている?」
六分儀さんに見つかってしまった。
手話でこの先が気になったからと言う事を伝えたら、少し叱られて部屋に戻された。
「許可が無いものはあそこ先に進めない、それがルールだ。ルールとは、」
どちらかと言うと無口な六分儀さんが長いお説教を・・・本当に、いけない行動だったみたい・・・


結局2週間足らずの滞在で終わってしまい、帰る日がやってきてしまった。
六分儀さんとユイさんは出発する前に何か話をしていた。
「さ、行きましょうか」
僕はコクリと頷き六分儀さんに手を振って飛行機に乗り込んだ。
やがて格納庫を出て滑走路で加速して大空に飛び立った。
僕は見えなくなるまでずっと調査基地を窓から見つめていた。


9月12日、僕は朝からずっと南の窓から南の空を見ていた。
「レイちゃん、どうかしたの?」
分からない、でも・・・気になる。と伝える。
なにがあるんだろう・・・・


その日は、一日中南の空を見ていた。


そして、次の日僕は警報やサイレンの音で目を覚ました。
「レイちゃん、大丈夫、落ち着いて」
なにがあったの?警報がずっと鳴りっぱなし・・・
「大丈夫・・ここは安全だから、」
南極で、何かあったの?と手話で聞くと、ユイさんは表情を暗くしてうつむいて黙ってしまった。
ユイさんは何か起こる事を分かってたんだ・・・でも、昨日の様子からすると・・・いつそれが起こるかと言う事は分からなかったみたい。
でも・・・なぜ・・そっか・・・六分儀さんは助かるって分かっているんだ・・・
「・・レイちゃん・・・何か食べる?」
僕はゆっくりと頷いた。
何かを作り、そして食べると言う事で気を紛らわそうとしていると言う事が簡単に見て取れた。


数日後、六分儀さんが帰って来た。
「おかえりなさい」
「ああ・・ただいま・・」
二人とも陰がある・・・二人とも・・・
南極で起きた正体不明の大爆発・・・やっぱり・・・
「・・・ところで、3日前から何も食べてないんだ・・何か作ってくれるか?」
「分かりました。」
ユイさんはキッチンへ行って料理の仕度を始めた。
ユイさんは料理を作ったり、食べたりするときは決まってどこかすまなさげな顔を浮かべる・・・こうなる事が分かっていたから、だからたくさん買い込んでいたんだとおもう・・・でも、それは自分たちだけ・・・だからこそ、そんな表情をするんだと思う・・・
そして、ユイさんが簡単な料理を作ってきて、皆で食べた。
ユイさんが作っただけあって味はとても美味しいけど・・・やっぱり・・・美味しさを楽しむ事はできない・・・三人とも雰囲気は沈んでる・・・そんな重苦しい雰囲気のなか食事をとった。


暫くして六分儀さんはユイさんのマンションに引っ越してくることになった。
こんな状況下で女二人だけでは危ないと言う事もあるって言っていた。
確かに六分儀さんなら用心棒じゃないけど、用心棒だってできるね。
「レイ・・、これはどこに置けばいい?」
僕は手振りで奥の物置へ入れるように伝えた。
「ありがとう」
六分儀さんが引っ越してきてくれたことは嬉しい。
家族が増えると言うことはそれだけでも嬉しいけどこんな時だけにいっそう嬉しく感じる・・・


それから半年ほどして僕たちは箱根に引っ越す事になった。
僕たちが乗っている電車は箱根にはいった。
箱根・・・・この光景・・・あの山並み・・・どこかで見た気がする。
「・・どうした?」
手話で、景色に見覚えがあるきがすると伝えると、六分儀さんは少し悩んでしまった。
「ひょっとしたらこっちの方に前はいたのかもしれないわね」
ユイさんの言っていること・・・たぶんそんな気もする・・・
ここに・・ここにいたのかもしれない・・・


2002年、僕は六分儀さんに連れられて南極に向かうセカンドインパクト調査団に参加する事になった。
ユイさんは研究所・・二人が勤めている研究所、確か名前は・・人工進化研究所で大切な研究があるから、日本を離れられないと言う事で一人で残る事になった。


今、船を六分儀さんと一緒に歩いている。
そんなとき、外を見ていた初老のお爺さんに六分儀さんが声をかけた。
「冬月先生、」
「ん?」
「君か・・・生きていたのか。君はあの葛城調査隊にいたと聞いていたが、」
「ええ、運良く前日に日本に帰っていましてね。難を逃れる事が出来ました。」
「そうか・・・ところで、その子は?」
「娘です」
「なに?」
「冗談です。預かっている子です。」
僕はぺこりと頭を下げた。
「そ、そうかね・・・」
僕はレイと言います。よろしくお願いします。と手話で伝えると、冬月さんはすこし驚いていた。
「彼女は・・」
「ええ、口が利けません。後天的なもののようですが、」
「そうか・・・セカンドインパクトは、多くの爪あとを残しているんだな・・・」
「ところで、彼女から貴方に、」
六分儀さんは冬月さんにユイさんからの手紙を渡した。
「・・ユイ君からかね・・・・彼女は来ていないのかね?」
「ええ、彼女も来たがっていはしましたが、長期間日本を離れるわけにもいかない研究があるので」
「そうか・・・」


僕は冬月さんと一緒に、調査隊の生存者のところに案内された。
窓越しにみたその子は膝を抱えてうずくまっている。
目には何もうつしていないみたい・・・
「名は、葛城ミサト」
葛城・・ミサト??どこかで聞いた気がする・・・ずいぶん前に・・
「葛城?葛城博士のお嬢さんか」
「はい、」
「・・・失語症か・・ひ・いや、なんでもない・・」
冬月さんは僕に配慮したんだと思う。
失語症・・・僕もだから・・・僕は、あの子をどこか親近感を持って見つめた。
「そろそろ行こうか?」
僕たちはその場を離れた。


僕たちが日本に戻ると、ユイさんが空港まで迎えに来てくれていた。
「お帰りなさい」
「ああ、今帰ったよ」
「レイちゃんもお帰りなさい」
僕はうなずいた。
「久しぶりに私が腕を振るってごちそうを作るから楽しみにしててね」
ユイさんのごちそう・・・セカンドインパクトから、あまり食べていない・・ユイさんが遠慮してかごちそうをあまり作らなかったから・・・


そして2年後、六分儀さんとユイさんが忙しいから、今は僕がすべての家事をしている。
僕の料理の腕も上がってきて、ユイさんもよく、六分儀さんも偶にほめてくれる。


そんなある日、書斎の横を通ろうとしたとき中で二人が何か話しているのが聞こえてきた。
僕は立ち聞きはまずいと思って、すぐにその場を離れた。


それから何日も毎日のように二人は書斎にこもっていた。
さすがにこうも続くと何を話しているのか本当に気になってくる。
そして、ついに今夜何を話しているのか聞こうと思っていたら、二人は小さな女の子を連れて帰ってきた。
小さな女の子は、蒼い髪をしていた・・・
僕はその女の子を見た瞬間・・・懐かしい・・・あいたかった・・・そんな風に思って涙がぽろぽろと出た。
なんでだろ・・・こんな小さな女の子に・・・懐かしいだなんて・・・
この気持ち・・・確か・・・六分儀さんやユイさんに出会ったときにも感じてたきがする・・・でも・・・なんでだろ・・・
「・・・レイちゃん、今日は大事な話があるの」
大事な話ってその女の子のこと?と手話で聞くとそれもある。と返ってきた。
「落ち着いて話すためにも、座りましょう」
みんなソファーに座った。
女の子はユイさんの腕の中ですやすやと静かに寝息を立てている。
「・・・」
「・・・まずは、私たちのことだが、今更ではあるが二人は結婚することにした。」
あ・・そっか・・・二人って、まだ夫婦じゃなかったんだった。
二人がついに本当に夫婦になるんだ・・・
僕もうれしい。
「あと・・・事情があって、この子も引き取ることになったの・・」
僕は女の子に目を向けた。
「この子、レナって言うの」
レナ・・・
「それから、良ければレイも私たちの娘として戸籍に登録しようかと思ったのだが・・・」
僕を娘に?
「ああ、一度、セカンドインパクトで、戸籍も滅茶苦茶になっているからな・・・やろうと思えば、二人を養女ではなく実の娘として登録することもできる。まあ、歳から言って、レイは私の娘ということになるが・・・」
僕が実の娘・・・とっても嬉しい・・・知らないはずのレナちゃんも一緒にとなると、複雑な思いを抱くのだろうけど、それが全くない・・・レナちゃんが二人の実の娘になるということ自体がとても嬉しい・・・何でなのかはわからないけど・・・
「良いのかしら?」
僕はうれし涙を零しながらうなずいた。
「・・・それで良かったら私のことをお母さんって思ってくれるかしら?」
お母さん・・・
声は出ないけど、唇を動かす。
ユイさん・・・お母さんは微笑んでくれた。
「俺のことは好きに思ってもらってかまわん。俺はお父さんなんて上等なもんじゃないからな」
僕は軽く首を振って、お父さん・・と唇を動かした。
「・・そうか、すまんな・・・」
・・お父さんが僕に対して頭を下げたからちょっとびっくりした。
「さ、今日の夕飯は私が作るからね」
お母さんはレナちゃんをお父さんに預けてソファーを立ちキッチンに向かう。
僕も手伝うためにキッチンに向かおうとしたら、お母さんに止められた。
「レイはレナの相手をしていて、そろそろ起きるはずだから」
僕は軽くうなずいてお父さんのそばによってレナちゃんを受け取った。
可愛い・・・
しばらくしたら、レナちゃんが目を開けた・・・きれいな紅い瞳が現れる。
「レナ、言っていたレイだ。」
「・・・おねえ・・ちゃん?」
僕は笑顔を浮かべながら頷いた。


こうして、僕たちの姓はみんな碇になった。
碇ゲンドウ、碇ユイ、碇レイ、碇レナ・・・みんな本当に仲のいい家族。
あれからしばらくして僕たちは箱根を離れ、長野県に買った家に引っ越しをすることになった。
お父さんとお母さんは研究所を辞めてお父さんは昔なりたかった小説書き、お母さんは主婦をするつもりらしい。
「もうすぐだ。」
お父さんが言ってからすぐに白いきれいな家が見えた。
「あれが、私たちの新しい家よ、」
庭も広いし、周りには木も多い、いい環境・・・・
そして家の前に車を止め、後ろをついてきていた引っ越し業者のトラックから業者の人が次々に家具を運び込んでいった。
「暫くかかるから、レナちゃんと遊んでいてくれるかしら?」
僕はこくりと頷いて、レナちゃんの手を軽く引っ張った。
レナちゃんも頷いて僕と一緒についてくる。
小鳥の囀りが聞こえる。
こんなところに住めるなんて良いな・・・自然・・・か・・・
「・・お姉ちゃん・・あっち」
林の方が気になったのかな?
レナちゃんと一緒に林の中に入ってみる。
林の中はひんやりとしていて気持ちいい・・・
レナちゃんは色々と気になるのかきょろきょろとしている。
少し行くと、ひらけたところがあって日溜まりになっていた。
日溜まりには背の低い花がたくさん咲いている。
「・お姉ちゃん・・きれい、ね」
僕はゆっくりと頷いた。
そして、僕たちは日溜まりでごろんと横になって昼寝をすることにした。
心地よさを味わっていたら、お母さんが僕たちを迎えに来た。
「こんなところにいたのね・・・でも、いい場所を見つけたのね。」
僕たちは頷く。
「さっ、あなた達の部屋の片付けもあるし戻りましょう」
3人で僕たちの新しい家に戻った。
「戻ってきたか、リビングは片づけておいた。キッチンは俺が下手に弄るとややこしくなるだろうからそのままだが、」
「ええ、キッチンは私がやっておきますから、貴方は書斎の本の整理をしてくださいな」
「ああ、そうする。」
お父さんは奥の方に歩いていった。
「二人の部屋は2階よ」
まだ、レナちゃんは階段を上るのが大変そうなので僕が手伝ってあげる。
「う〜ん・・・ちょっと、失敗だったかな・・・忘れてたわ・・・」
お母さんは、レナちゃんの部屋を2階にしたことについて考えてるみたい。
大丈夫、僕がレナちゃんが一人で上り下りできるようになるまで手伝ってあげるから、と手話で伝えた。
「ありがと、そうしてもらえると助かるわ。レナ、私でもいいから階段を上り下りする時は誰かに頼むのよ」
「うん」
2階は二つの部屋が並んでいる。
「で、左の部屋がレイで右の部屋がレナの部屋よ、」
僕の部屋にはいると、家具は既にセットされていた。
12畳くらいの広い部屋に机、ベッド、クローゼット、姿見、本棚、テレビ、パソコン・・・色々な物が置か れている。
それと、段ボールがいくつも、あの中には僕の物が色々と入っている。
窓からの眺めもいい、とってもいい部屋。
レナちゃんは、僕のベッドに寝かせておいて、お母さんと二人で色々と荷物の整理をした。


そして、夕食、テーブルを4人で囲んだ。
テーブルの上にはお母さんが作った御馳走が並んでいる。
荷物の整理をしてから作ったので結構遅い夕食になってしまったけれど、
「さ、新しい家族の生活が良い物になるように願って、乾杯といくか」
お父さんとお母さんはワイン、僕たちはジュースで乾杯をした。
これから幸せな生活になりそう。
この生活がいつまで続くのかはわからない・・・
僕は、どこかでそう遠くない内にこの生活に終わりがくるような気もしている。
どこか・・さけられない運命のような何かを・・・
だけど、そのときがくるまでは、精一杯、4人で幸せに暮らしていけたらいいと願っている。