罪と罰と償い



第一話 ささやかなる平和に終わりを告げて










閉ざされた空間は音を響かせ、反響を続ける。

一歩一歩歩くごとに靴と地面とが当たり、静まり返った空間に音をもたらした。

音源となっている当人はさして気にした様子も見せず、黙々と先を見据え歩みを止めない。

やがて一つの扉の前にたどり着き、それに反応した扉が自動的に開いた。

中に踏み入ればすっかり親しくなった面々が顔を並べている。


「おせ〜ぞ、シン。」

「ごめんファル、遅れた。」


赤い髪を背中まで伸ばした少年が鋭い目つきでシンと呼ばれた少年を睨む。

一見細身に見えるが、鍛えれたしなやかな筋肉が体を覆っていた。

研ぎ澄まされた様子は戦士といったものを思い浮かばせられる。

しかし、睨まれている少年は視線に怯むことなく謝罪を告げた。

言い訳するならともかく、素直に謝られてはそれ以上追求することはない。

まぁいいと気持ちを切り替えると壁に寄掛かっていた体を起こし、周りを見渡す。


「・・・リシエルはどうした?」

「彼女なら下の動向を覗っているよ。」


ソファーに座っている銀髪の少年が透き通るような声で答えた。


「そんなの後でもいいだろう・・・なんで止めなかったんだタブリス?」

「ここに集まるのは最後の意思確認みたいなものだからね。彼女に今更それを聞く必要はないよ。」

「だからってなぁ・・・」

「リシエルだって今回のことには賭けているんだ。それくらい大目に見るべきじゃないかな。」

「二人ともそれくらいにしようよ。」


いつまでたっても本題に入ろうとしない二人にシンが止めに入る。

このままでは永遠と続きそうな気がしていたので、両名とも素直に従った。

苦笑しながらその様子を見つめ、改めてシンジは本題へと移す。


「・・・いよいよ今日だね。」


和らいでいた空気が一瞬にして張り詰める。

言いあっていた二人の表情も真剣そのものだ。


「この日を待ちわびたぜ。」

「大切な人を取り返すとき・・・・だね。」


それぞれの言葉にシンは頷き、なぜか悲しそうな顔を浮かべる。


「みんなには悪いと思っているよ。僕の我侭のせいで余計な手間がかかるから・・・

 本当ならもっと簡単にできるはずなのに。」

「それもそうだな。」


当然とばかりにまったく否定しないファルにシンは苦笑するしかない。

歯に衣を着せぬところが彼らしいが。

しかし幾分か表情を和らげるとファラは別の言葉を続けた。


「確かに力押しで無差別にやれば簡単に済むさ。

 だけどな、それじゃあ関係のないやつまで被害にあっちまう。

 そんなやりかたでいけばサキエルたちの二の舞だ。

 それにあいつらのやっていることと何の変わりもねぇよ。」

「ファルの言うとおりさ・・・僕らはあいつ等とは違う。だからシンジ君のやり方には僕は賛成だよ。」


二人の言葉にシン・・・いやシンジは救われる。

かつてこの二人と彼とが険悪な仲だったとは、この様子を見て誰も思わないだろう。

自然と表情が緩み、笑みを浮かべる。


「じゃあ、二人ともこの計画に賛同ってことだね。」

「当たり前だろ。」

「当然さ。」


聞くでもないと言った違わない返事。

今更だと言う感じが覗える。

このことが分かっていたからこそリシエルは来なかったのだろう。

彼女の思いはすでに決まっていたのだから。


「そうと決まったら早速行動に移そうぜ!」


話しは終わりだとばかりに体を動かし、右の手の平に左の拳を打ち付ける。

パンという軽い音をたて、自らを鼓舞した。

シンジはファルの様子を見て、役割を忘れてるんじゃないかという不安にかれられる。


「暴れるのはいいけどやりすぎないよね・・・」

「分かってるって。俺の役割は囮だろ?」

「覚えているならいいけど・・・」


まかせてとけと意気込み、部屋を出て行く姿には自信がみなぎっている。

ただ暴れたいだけのようにも見えるが。


「ほんとうに大丈夫かなぁ?」

「気にしすぎだよシンジ君。彼はああ見えてもしっかり計算して動くタイプだからね。」


ぽんとシンジの肩に手を乗せ気持ちを収めさせる。

タブリス―――カヲルがそう言うならばとシンジは納得した。

なぜかカヲルは自らのことをタブリスではなくカヲルと呼ばせ、シンジのことを略しないでシンジ君と呼ぶ。

気になって聞いてみたら『特別な感じがするからさ』となんとも曖昧なことを言われる。

しかし、シンジにとってはそのほうが気楽で良い。

長年呼ばれ続けた名前だということもあるし、慣れ親しんだものだ。


「僕たちもそろそろ行こうか。」

「そうだね。」


カヲルに促されファルの後を追う。

静まり返った通路を歩きながらシンジはこれからのことを考えていた。

僅か数名の者によるある場所の襲撃。

普通に考えてもそれは無謀とも言えるものだった。

そしてこの襲撃の要となるものはシンジ。

彼が失敗すれば今回の計画はただの徒労となってしまう。

皆の期待に応えるためにもそれは許されることではなかった。

何よりも自分自身がそれを許さない。

これは自分に課せられた贖罪なのだから。


「絶対に・・・成功させてみせるさ。」


拳をぐっと握りこみ、内に猛る思いを押し込む。

そして隣を歩くカヲルに向かって言葉を紡いだ。


「頑張ろう、カヲル君。」

「そうだね。僕はシンジ君が動きやすいように彼らの目を引きつけておくよ。」

「だけど、無理は禁物だよ?」

「大丈夫さ・・・僕はそんなにやわじゃないしね。だけどシンジ君の期待には応えないとねぇ。」


意味ありげなニュアンスで言葉を呟き、視線を送る。

何か意地悪を思いついた子供を連想させれた。

また企んでいるよ〜と内心思っているがあえてそれは口にださない。

言ってしまえば何をされるか分かったものじゃない。

それは経験からくる確信であった。

ふと、カヲルの表情が真面目になる。


「励ましの言葉ならレシエルにもかけてあげたらどうだい、シンジ君?」

「・・・?どうして?」

「彼女が喜ぶからさ。」


にやっとカヲルらしくない笑顔を浮かべる。

一方シンジは心底分からないといった感じだ。


「よく分からないけど・・・そうしてみるよ。」


う〜んと唸りながら、先行して通路を歩き出す。


(ほんとうにこういうことに関しては鈍いねぇ・・・・シンジ君。

 そんなところもまた魅力的だったりするけど。

 ・・・たまにはレシエルにも良い目にあわせてあげるべきだよね。

 僕は敵が多ければ多いほど燃えるからねぇ。)


いつの間にかシンジを見つめる瞳が獲物を狙うものへと変貌している。

今ごろ寒気がする・・・とでも彼が思っているだろう。

シリアスが似合いそうで似合わないカヲルだった。








心を集中し、余計な思いを一切絶つ。

委ねるはエヴァンゲリオンそのもの。

小さい頃からやってきた行動の繰り返しは、彼女にとって慣れ親しんだものだった。

やろうと思う前に心と体が瞬時に行動を起こし、最も良い状態を作り出す。

彼女にとって・・・レイにとってそれは日常の一部となっていた。


「テストは終了よ。あがっていいわ。」


技術開発部部長の赤木リツコにより、終了の合図が投げかけられる。

データはリツコにとって充分なものだった。

レイのシンクロ率の高さは全盛期に及ばないとはいえ、高い。

他のチルドレンたちも少しずつだが上昇を始め、戦力としては充分役立つものになってた。

あれから2年というときを経て、戦力は増強されている。

チルドレンにおいては三人新しく追加され、エヴァにおいてもチルドレンの数にあうように製造されていった。

ネルフが保有する戦力はエヴァ5機とチルドレン4人。

機体の数が一機多いがそれには訳がある。

碇シンジがかつて駈っていたエヴァンゲリオン初号機だが、他のチルドレンとまったくシンクロしないのだ。

それゆえに今は凍結という形で残されてはいるものの扱われてはいなかった。

現在は零号機、弐号機、参号機、肆号機のみが改良を加えられている。

これ以上増えることもないだろう。

戦力としては充分すぎるのだから。

レイはエントリープラグから出て、更衣室に備えられているシャワー室へと入る。

体を洗い流しながら彼女はぼうっと考えていた。

自分は何をしているのだろうと。

朝起きて、朝食を食べて学校へ行く。

それが終わったらネルフへ行き、シンクロのテストやチルドレンの育成に努め帰宅。

休日は友達と遊びに出かけリフレッシュする。

当たり前の日常だ。

他の同世代から見れば少しばかり特殊な用事は混ざっているが。

そこに何の不満があるというのだろう。

いや、彼女はそこに不満などもっていない。

使徒と戦っていたあの頃と比べて落ち着いた生活を送れているのだ。

しかし、レイは使徒と戦っていたあの頃のほうが充実していたと思っている。

そこには彼女が一番大切に思う人がいたのだから。

小さい頃から傍にいて、離れえぬと信じて疑わなかった存在。

恋心を抱き、今もなおそれは続いている。

だが、レイの傍にはもうシンジはいなかった。

行き先もわからなければ、いなくなった理由さえも分からない。

なぜ?という思いだけが彼女を支配し続けていた。

シャワーを止めて、タオルで体についている水滴を拭う。

美しく成長したその姿は人の目を惹きつけてならなかった。

尤も、一番自分を見て欲しい人物が欠けているので、レイにとっとはどうでもいいことだった。

ため息をつき、ロッカーへと歩み寄る。

しまわれている下着と衣服を身にまとうとさっさと更衣室から抜け出していった。







(ほんとにレイってば行動が早いのよね〜)


つかつかと通路を歩きながら一人ブラウンの髪をした少女が愚痴る。

出るとこはでて引っ込むべきところは引っ込んでいる体型がすれ違う職員の目を引く。

これでレイと同い年とは思えないほどだ。

胸のボリュームに関してはレイも彼女に対して劣等感を抱いている。

不公平だ、と。

決してないとは言わないが慎ましいサイズとだけ言っておこう。

着替えている最中にじっと胸を睨まれるのは彼女―――アスカは遠慮したい。

それだけで責めれているような気がするのだ。

アスカに悪い点など存在しているわけではないが。

じきに成長するわよといつも言ってはいるが本当にそうであるかは不明だ。

なにせ同じ年齢で明確な差が出ているのは事実。

アスカが言ったところで説得力はなかった。

それはさておき、彼女はレイを探している。

チルドレンのうちの一人であるアスカは今週最後の訓練を終えて気分が良かった。

この後、レイを遊びに誘おうと思ったがいつの間にか姿を消していたのだ

そうはいってもそれは度々ある。

慣れてしまったとはいえ、急にいなくなるのは止めてほしかった。

だが、決まってその後は行く場所が限定されている。

ネルフの中庭といった植物に囲まれた場所。

そこにぼうっとレイはいつもいた。

物憂げな表情は儚く、人を寄せ付けない。

その雰囲気を壊してしまうことを恐れてしまうかのように。

理由は誰もが分かっているのだ。

一人の少年を思い、ずっとそこに佇んでいる・・・ということに。

アスカは中庭へとたどり着くと辺りを見渡し始める。

ネルフ内とは思えないほど優しげな雰囲気が気持ちいい。

彼女は雰囲気に身をゆだねようとするが、目的を思い出し一つのベンチに前にたどり着く。

思ったとおりそこにはレイが座っていた。

ぼうっと見つめる先には何が見えているのだろう。


「レ・・・」


ドォン!


寂しげにしているレイに声をかけようとしたその時、ネルフの施設全体が大きく揺れる。

地震とは違う振動。

まるで何かが爆発したような・・・

アスカが何事かと考える前にあたりは緊急警報で包まれた。









あとがきというなの戯言

さて、いろんなキャラが出てきました。

彼らは何をしようというのだろうねぇ〜

あいつ等って誰だ〜

シンジはどこに〜

って引っ張るなよ。

いよいよお次は主要キャラだしまくりだ〜


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