ネオエヴァ〜友を想う心〜

          プロローグ


                          
 203X年・・・

 旅に出るのだろうか?

 少年は、いくつかの鞄を背負ったり持ったりしていた。

「・・・気を付けていけよ」

 上は禿げているが白髪の老人が、黒髪に少し銀色の髪の混じった少年に声をかける。

「分ってるよ、おやっさんの出来の悪すぎる生徒と言うか、後輩と、
それに振り回されているおやっさんを止めて、世界を救えば良いんだろ?」

 少年がそんな事を言う。

「悪いな、結局、お前だけにそんな事を押し付けてしまった・・・」

「他に出来る奴が居ないんだから、仕方ないだろう・・・
 それに・・・おやっさんには、沢山恩があるしさ、気にすんな」

「コレを持っていけ、全部旧札だから、向うでもチャンと使えるはずだ・・・
 お前も一応持っているだろうがな・・・そっちの鞄に・・・」

 老人がブ厚い札束を四つほど渡す。

 一束、最低500枚以上はあるだろうか? それほどブ厚い束だ。

「こんなに?・・・でも、全部米ドルじゃないか、俺が跳ぶのは、日本だぜ・・・」

「あの頃は、チャンと両替が出来たし、日本円じゃかさばるだろう・・・
 それに働きながらだと、目的は達成しずらいだろうからな・・・」

 その札束は、全て千ドル札以上の高額紙幣だった。(いくら有るんだろう?)

「でも、よくこんなに集ったな・・・」

「まぁ、この世界では紙切れ同然だからな・・・
 チョッとした食料で集めてくれる奴が居たし・・・」

 この世界では、マトモな食料は超貴重品である。

 殺し合いによる奪い合いが発生する事があるほどの貴重なモノだ。

「そっか・・・悪いな、何から何まで・・・」

「何、俺や残された全員の望みだし、この絶望した赤い世界を変える為だ・・・
 その位で悪いな・・・」

 老人が見渡すと、そこには紅い海、LCLの海が広がっていた。

「殆ど人の居ない・・・
 傷付いた碇の息子は、自分の愛する者達に、居ない世界に絶望し、その命を消した。
 碇の奴は、本物のユイ君に拒絶され、俺に全ての後始末を押し付け、自らの命を絶った・・・
 絶望しかないこの世界を押し付けてな・・・本当に奴は、最後まで、ろくでなしだったよ・・・
 その手紙を見せれば、碇は兎も角、あの時の俺は信じるはずだ・・・
 あの人には絶大な信頼を持っていたからな。
 そのディスクは、もしもの時、出来れば、俺だけに見せて、判断を仰げ・・・
 碇の奴は自分のシナリオに固執する傾向があるからな・・・
 どうにかして、再教育しなければ危険だ・・・しかし、接触する時は充分に気を付けろよ」

 その老人の名は、【冬月 コウゾウ】

 かつて、ネルフの副司令を務めていた男だった。

「まぁ、第三使徒が来る一年以上前に行くんだ、何とかやるさ。
 それに、このセキュリティカードがあれば、施設のどこにでも入れるんだろ」

「あぁ、あの時の碇と同レベル以上のカードだからな・・・
 マギにも記録はされないだろう・・・まぁ、映像は無理だがな・・・気をつけろ」

「分かった・・・・・・では、そろそろ、行くよ、おやっさん」

 少年は何かの機械のスイッチを入れた。

「あぁ、碇の息子と昔の俺にヨロシクな・・・そして、碇の馬鹿を止めてくれ」

「あぁ、後、彼女の護衛も、だろ」

 冬月が頷く。

「彼女も、ユイ君の子供だからな・・・碇は、その事を考えなかった・・・
 だからこそ、復活した彼女に拒絶されたのだが・・・
(そして、ユイ君はそのままLCLに還ってしまった・・・)」

「じゃぁ、時間だから・・・」

「あぁ・・・さよならだ・・・」

 少年が歩き出すと、少年の身体が輝きだし、消えていく。

「俺の役目もココまでだな・・・ユイ君、私は君に許して貰えるだろうか・・・
 結局、全てを教えられず、もう一度、私は彼を利用しているだけかもしれない・・・
     もてあそ
 その魂を 弄 ぶかのように」

 そして、一発の銃声が鳴り響いた。



 2014年・・・第三新東京市

「さて、さて、初めは・・・」

 少年の目から、涙がこぼれる。

「・・・涙・・・そうか・・・あの世界のおやっさんは逝ったか・・・
 もう、グループは2人っきりになってしまっていたからな」

 少年は涙を拭き取ると、歩き出した。



 それから、また、幾月かの時が流れた・・・

「え〜コレから、皆さんの新しい友人になる、【綾波レイ】さんです」

 老教師に紹介された少女は、軽くおじぎをすると、そのまま何も言わずに、指定された席に座る。

 彼女はアルビノと言う体質らしく、目立つ存在だったのだが、人付合いが苦手なのか、
無愛想であった為に、直ぐに孤立していった。

 更に彼女は、充分、美形の部類に入る容姿だった為、
ある卑猥な男子生徒達のターゲットになってしまった。

 彼女が1人で焼却炉にゴミを捨てに行った時、数人の男子生徒の手によって、
体育用具室に無理矢理引き込まれた。
     
 そして、男子生徒達の卑猥な笑い声と共に、服が引裂かれ、(おか)されるハズであったが、
そうはならなかった。

 彼女の制服に手がかかった時、イキナリ体育用具室の鉄製の扉が外側に吹き飛んだ。

 男子生徒達は驚いて扉のあった方を見ると、一年の生徒が居た。

「なんだぁ〜貴様」

 男子生徒達は、相手が自分よりも年下のだった為、
その少年がカギのかかったドアを引きちぎったなどとは考えなかったし、
少年が1人に対し、自分達の方が数でも圧倒していた為、精神的に余裕であった。

 既に、ブラウスを引裂かれていたレイを見て、彼は激怒した。

「貴様等! 綾波さんから、手を放せ!」

 その少年は、怒気をまとって、男子生徒達の中に自ら飛び込んでいった。

 その後、男子生徒達は、ボロボロになり、跳び箱の中などに素っ裸で縛られて放り込まれた。

 御丁寧に、『この者達、レイプ未遂犯(過去実行した形跡あり)ゆえ、処罰を与える』と言う、
張り紙をされて・・・

 その後、壊れて開かなくなったドアを直しにきた用務員に見付かるまで、4日間放置され、
病院送りになり、その男子生徒達は、親子共々、第三新東京市から、その姿を消す事になった。

「何故・・・助けたの?」

 レイは助けてくれ、蒼(あお)いジャケットを貸してくれた少年に訊く。

「ん?・・・まぁ、その・・・知り合いが襲われていたら、助けるは当然だよ」

 扉を元に位置に戻しながら、少し赤くなって、少年は言う。

「・・・私、貴方の事、知らないわ」

 一瞬、少年は驚いたような顔をするが・・・

「あぁ・・・そういや、チャットやメール以外で、あんまり話した事無かったね」

 少年が思い出したかのように言うと、レイは首をかしげた。

「?・・・」

 レイは考えた。

 そう言えば、他の人は何も喋りかけて来なくなっても、チャットやメールで、
自分によく話し掛けて来る人が居た。

 初めの内はあまり相手をしなかったのだが、色々な事を教えてくれたりするので、
最近、少しだけだが、受け答えをしていた。

「最初はさぁ、皆とよく話し掛けてたんだけど、綾波さんって、そう言うの苦手みたいだったし、
俺、隣のクラスだし、綾波さんの教室に入り辛かったから・・・
 チャットやメールで、話し掛けていたんだけど・・・わかる?」

「・・・【冬月】さん?」

 レイが訊く。

「それは、チャットの時の名前で、本名じゃないよ。
 一応、前に自己紹介してたんだけど、憶えてない?」

 レイは首を横に振る。

「あはは、やっぱ忘れてたか」

 少年は笑いながら頭を掻く。

「ゴメンなさい・・・」

 レイは本当にすまなそうに言う。

「いいよ、じゃぁ、改めて自己紹介させてくれる?」

 レイは頷く。
   
「俺の名前は【朋意(ほうい) シン】て、言うんだ」

「ほうい君?」

「変な名字だろ、世話になった人がつけたんだ・・・
 何か意味があるらしいんだけど、俺には良くわから無いんだけどね・・・
 だから、出来れば名前で呼んでくれる?
 その方が俺も慣れているから」

「じゃぁ、シン君?」

「うん、それでお願いするね。
 俺も、綾波さんの事、レイちゃんって呼んでいいかな?」

 レイは少し考えて、頷いた。

「じゃぁ、レイちゃん、今日一緒に帰らない?
 送っていくよ」

 レイは助けて貰ったので、一緒に帰ることにした。

「じゃぁ、このゴミ箱を教室に持って行こう」

 シンはそう言って、レイの持ってきたゴミ箱を持った。

「えぇ」

 レイはそう言うと、シンの後を付いていく。

 そして良く見ると、1−Bの教室(三階にあります)の窓の下には、くっきりと足跡がついていた。

 コレがレイとシンとの本当の意味での出会いであった。

 それから、レイの内面は、シンのおかげで、少しづつ、しかし、劇的に変わっていく事になる。



 そして、また月日が流れた。

「はい・・・レイの精神面はかなり変化しているようですが、かえって落ち着いた状態にあり、
結果的に良好といえます」

 ネルフの司令執務室で、金髪黒眉の女性【赤木リツコ】が、
目の前に居る髭面の男、ネルフ司令【碇ゲンドウ】に報告する。

 ゲンドウの隣には、彼の腹心で副司令の冬月が立っていた。

「ウム、やはり学校に通わせ、同年代の子供達に接触させたのは、正解だったな・・・碇・・・
(全く、拘って反対ばかりしおって)」

「あぁ・・・で、その理由は、はっきりと解っているのか?」

 ゲンドウは、リツコに尋ねる。

「はい、どうやら、レイに友人が出来たようで、その子の影響が強いようですね」

 リツコは資料を見ながら、そう言った。

「ほう、どんな娘だ?」

 ゲンドウが興味を持ったのか、訊いてくる。

「いえ、男の子ですが」

「なにぃ!」

 リツコの言葉に驚いたゲンドウが叫ぶ。

「落ち着け、碇(全く、レイに固執しよって)・・・で、どのような少年なのかね?」

「はい、この資料によりますと、隣のクラスの少年で、名を【朋意シン】と言うようです」

「隣の?・・・どう言う経緯で、知り合ったのかね?」

 レイの性格を考えると、どうやって、隣のクラスの生徒と接点が出来たか良く解らず、
興味をそそられた冬月が尋ねる。

「はい、元々は学校のチャットルームでの話し相手だったようですが、
ある切っ掛けにより、親しい友人になったようです」

「その切っ掛けとは何だ?!」

 ゲンドウが歯軋りをしながら尋ねる。

「はい、レイに確認を取ったところ、学校の体育用具室で、
八人の上級生達に性的暴行を受けかけたところを助けて貰ったようです」

「「・・・・・・・・・・」」

 少し、ゲンドウと冬月の時が止まる・・・

「「な、なにぃ〜!!」」

 暫くして、ゲンドウと冬月は同時に驚愕の声をあげる。

「そ、そそ、それは事実かね!」

 冬月が動揺しながら訊く。

「はい、確かにそのような事はあったようですね・・・
 一応、ブラウスを破かれただけで、後は何も被害はなかったようです。
 しかも、保安部部長辺りにも、そのような報告が入れてあった事が、確認されてます」

「ご、護衛の、ほ、保安部の連中は何をしていたのだ」

 ゲンドウが訊く。

「その時の責任者は、
『学校内の事で、命を取られることも無いし、命令外の事なので、手出しできなかったし、
何も無かった』と言い・・・
 報告を受けて、止めていた保安部部長も、
『実害も無かったし、報告の義務を感じなかった』と言い張っています」

 確かにゲンドウの命令で、
   
『生命の危険や(さら)われる危険が無い限り、手出し無用、姿も見せるな』
 と厳命してあった。

 最も、これは、ゲンドウが、ユイの面影を持つレイに拘り過ぎており、
他者との接触を、なるだけ回避しようとする嫉妬心からでたものであるが・・・

「こ、これは問題だぞ、し、死ななければ良いと言う訳でもあるまい・・・
 命令に忠実すぎるのも、も、問題だな」

 冬月が声を震わせながら言う。

「・・・コレからは、命ではなく、全ての身の危険にと命令を変更する・・・
 で、その上級生達は、どうなった?」

 ゲンドウは背中に怒りのオーラを纏わせながら訊いた。

「その少年、【朋意シン】にその場で痛めつけられた後、跳び箱の中などに、縛って放り込まれ、
発見されるまでの四日間、放置されたままだった為、衰弱し、大半が現在も入院中らしいです」

「・・・・・・・」

 冬月は絶句している。

 それが単なる1中学生にできる事だろうか・・・

「・・・フッ、かまわん!
 この第三から、即刻放り出せ!!」

 しかし、ゲンドウはそんな事は気にもとめず、そう言った。

「誰をです?」

「そのレイを襲った男供をだ!
 親共々、この都市から追放しろ!」

「し、しかしだな、理由は如何する?」

 冬月が訊く。

「未だ入院している者もいますし・・・
 それに、その男子生徒達の親は、保安部と諜報部・・・つまり、ネルフ職員ですが・・・
(だから、握りつぶそうとしたようだし)」(なおさら、オイ!・・・だろう)

 と言うか、現在ネルフの関係者以外この街に住んでいる者はゴク少数である。

「なら、なおさらだ!!・・・
『本来、命に代えても、守るべきエヴァのパイロットを、逆に、レイプしようとする息子達を、
野放しにするような役立たず、いや、それ以上に悪質な者はネルフに居て貰っては、
逆に世界を破滅に導くからだ!!』
 と言って、早々に放り出せ」

 そして、その日の内に彼等は、入院していた病院からも、強制的に追い出され、
更に親子共々第三新東京市からも、追放され、親は実名で他の組織に名前などを回され、
完全に職を失い、男子生徒達は、親達から折檻を受けて、勘当されたらしい。

 また、その後、何故か彼等は直ぐに警察に捕まり、新聞に『連続レイプ犯、捕まる』と、
大々的に『実名』で発表され、少年院から、刑務所に移って数年間経つまで、
ずっと投獄されたらしい。(流石、ゲンドウ)

 その後、少年院や刑務所で何があったかは不明だが・・・

 彼等は全てを忘れ、濃い化粧をして、特殊なバーで働き始めたそうだ。(オ○マ○ーだな)

「・・・で、そのレイを助けた少年は、一体どう言う子なのかね?
 普通の子供ではないようだが」

 冬月が訊く。

「あ、はい、それが・・・その・・実は・・・まだ、よく解っていないのです」

 リツコが答えにくそうに言う。

「「なに?」」

 ゲンドウと冬月が、同時に訊く。

 ネルフと言うより、マギに調べられもせずに、この街で暮している者など、
考えられなかったからだ。

「調べて解っている事は、彼の両親は、セカンドインパクトの影響で、既に亡くなって居る事と、
彼が数十年以上は、余裕で遊んで暮らせるほどの大金を、米ドル等で持っていた事くらいです」

 リツコが書類を読み上げる。

「・・・非常に怪しくないか?・・・碇」

「あぁ・・・」

 冬月の問いにゲンドウは頷く。

「ただ、レイに害意を持ってない事は確かです。
 保安部からの報告によりますと、今までにレイを拉致しに来た工作員を七組ほどを、
保安部の部隊が駆けつける前に、1人で、返り討ちにしています。
 また、ストーカーと間違えて、腕利きの保安部員を十八名ほど、ノックアウトしています・・・
 その際、『レイの事を何故つけていたか』と訊かれた保安部員が、
『ネルフの重要人物だから、護衛していた』と、最後に喋ってしまった為、
その後、レイ担当の保安部員達とは、顔見知りになり、かなり協力的になっているらしいです」

「「・・・・・・」」

 リツコの報告を聞いて、絶句するゲンドウと冬月。

「まさか・・・ゼーレの・・・」

 暫くして、冬月が呟くように言う。
   
「だとしたら、迂闊(うかつ)に手が出せんぞ、碇」

「・・・問題無い、そのような報告は、俺達にはきてないからな」

 ゲンドウは平然とした顔で、そう言った。

 その顔を見て、冬月は、ゲンドウが、少年に対して、何かをする気である事を即座に悟った。

「いや、問題あるぞ、報告が遅れているだけかも知れんし・・・
 もし彼に何かして、ゼーレなどからの苦情を処理させられるのは・・・
 よしこうしよう!・・・
 もし彼に何かして、問題があった場合、碇、お前が全て自分独りで処理しろ!
 俺は絶対に、何もせんからな!
 うむ、それで良いなら、俺も問題無いとしてやろう!」

 冬月がそれは名案とばかりに言うと、ゲンドウはすっごく嫌そうな顔をする。

 勿論、ゲンドウは、何かあったら、いつものように、後始末は全て冬月に押し付ける気であった。

「グッ・・・問題あるか・・・」(お前な・・・)

「そうだぞ!
 いくら、イレギュラーとは言え、もしかしたら、我々の強力な札になってくれるやも知れんのだ。
 実際に、あの鈴の男も、何かと我々の役に立っているだろう・・・
   
(こう言って置けば、少しは 自 重(じちょう) するだろう)」

 皮肉にも、冬月のこの言葉は現実のものとなる。

「・・・なるほどな(確かにあの男は使い方は難しいが、コマになっている)」

 ゲンドウは納得する。

「とりあえず、ナントカして、彼に接触するのも、手かも知れん・・・しかし・・・どうやって」

 そう言って、冬月が腕を組んで考えていると、リツコが遠慮がちに言う。

「・・・あの・・・スイマセン、副司令、その事ですが・・・
 今度、その【朋意シン】と言う少年と、私は会う事になっています」

「何?・・・それは好都合だが、どうしてかね?」

 驚いた冬月は考えるのを止めて訊く。

「はぁ、それがレイと彼の事を話している内に、三人で会う事になりまして・・・
 彼との約束も取り付けて貰っています」

「ほ、本当かね?!」

「何時だ!」

 驚いたように冬月とゲンドウが言う。

「はい、今度の日曜、つまり明日の午前中からですが・・・
 精神的に安定した為、早まったレイの零号機の実験前にですが・・・
(その方がレイの精神も向上して良い結果が出そうだし)」

 レイの精神が、予想以上に安定してきたので、
正史より、零号機の起動実験が早まったらしい。

「う〜む、明日か・・・それなら、リツコ君が彼に会った後で、
その少年をどうするのか、判断したほうが良さそうだな・・・碇」

「フッ、問題無い、シナリオの修正範囲だ・・・」

「「(嘘つけ!!)」」

 冬月とリツコは本気でそう思った。



 次の日、リツコはレイと共にシンに会っていた。

 しかも、何故かカラオケボックスの一室で・・・二時間借りている。(盗聴され難いからとか?)

「どうも、私がレイの保護者役をやっている、【赤木リツコ】と言います」

 全く歌いもせずに、リツコは、話を始める。(ただし、音楽は流れている)

「はぁ、俺、いや、私が【朋意シン】です・・・
 しかし、何で私が貴女と会う事になったんですか?(思ったより早かったな)」

 シンがリツコに訊く。

「この娘の保護者として、この娘を助けていただいたお礼を言いたくてね」

「はぁ、ネルフの技術部主任としてではなく・・・ですか?」

 シンが平気な顔で訊く。

「(え?・・・なに?・・・何でそんな事まで)あ、あら、よく知ってるわね」

「えぇ、レイちゃんをガードしている方から、色々聞きましたので・・・」

「(そこまで喋るなんて・・・そこまで信頼される何かがあるの?・・・この少年に・・・
 確かに、少し白髪と言うか、レイみたいな銀髪が混じっているわね・・・
 でも、瞳は黒みたいだし・・・)」

 そして、リツコは、暫くシンと言う少年の正体を見極めるべく、簡単な雑談から、
色々な事を話した。
(勿論、レイも時々、自分から会話に加わっているし、
折角なので、一緒に歌も二、三曲歌ったらしい・・・二時間で・・・少ない)

「(知識も半端じゃないわね・・・かなりのモノが詰め込まれているみたい・・・
 下手をすると、マヤよりも・・・そろそろ、あの事を聞かなくっちゃね)
 ところで、よくレイを助けられたわね、その辺の事を教えてくれる?」

「何故ですか?」

 シンが逆に訊いてくる

「再発を防ぐ為よ(さて、どうやって助ける事が出来たの)」

 レイは2人のやり取りをオレンジジュースを飲みながら見ている。

「良いですよ、そう言う事なら・・・アレは先ず噂を聞いたんですよ」

 シンがリツコに言う。

「噂?(なにそれ?)」

「えぇ、上級生の間で、
『一年に1人だけ孤立している女が居るから、皆でマワして、共用にしちまおう』って、
言う変なのが・・・
 最初は何の冗談だろうと思ったんだけど、よく考えたら、レイちゃんって隣のクラスで、
孤立しているみたいじゃないですか。
 それで、気を付けて見てたら、ゴミを捨てていたレイちゃんが、
いきなり体育用具室に引き込まれて行くのが見えてたんです。
 それで、慌てて行ったら、案の定だったんで、急いで助けたんですよ・・・
(う〜ん、『チャンと掃除当番位、やった方が良い』とメールしたら、あんな事になるなんて・・・
 まぁ、助けられて良かったけど)」

 シンがそう言った。

 まぁ、実際は、噂に関係なく、レイを見ていたのであるが・・・

「シン君が、急いで教室の窓から飛降りて来てくれたから、何もされなかったわ・・・
 それに、この間も助けてくれた・・・」

 レイが付け加えるように、そう言って、頬を少し染めている。

「え?・・・一年生って、三階じゃないの?(そこから飛降りた?)って、言うか、この間もって?」

 リツコが驚いて訊く。

「え?・・・まぁ、あの時は慌てていたし、
二階くらいからだったら、小さい頃から、よく飛降りてたし・・・
 この間のは、まぁ、少しやり過ぎて、停学を喰らっちゃったけど・・・
 まぁ、レイちゃんを守れたから、いいかな?
 先生達も学校があってる時間帯は、外に出ず、自宅に居てくれれば、
それ以外は、謹慎はする必要は無いとは言ってくれましたが・・・(黙っていれば・・・)」

 シンが言うと、レイが再び赤くなっていた。(守れたと言うところで・・・)

「でも、それじゃぁ、なんねぇ〜こっちも守ってもらったんだし・・・
(それで、最近レイが学校に行かないで居るのね)
 何かあったら、その辺はこちらで面倒見るから(司令に話せば一発ね)・・・
 でも、やり過ぎたって?」

 どうやら、レイはシンが停学になってから、学校をサボってるらしい。
(て言うか、怖くて行けないよな)

「シン君、私を守ってくれる為に、相手を叩きのめしたから・・・」

「あの時はレイちゃんが押し倒されている所が目に入って、キレちゃって、
見境がつかなかったからね・・・つい、身体も鍛えている事を忘れてて」

 シンが恥かしそうに言う。

「・・・でも、おかげで私は、また何もされずにすんだわ」

 レイがシンを慰めるように言う。

「鍛えてるって、何かしてたの?(少しは正体が見えるかも)」

「えぇ、ココに来る前は、育てのジッチャンとアメリカに居ましたからね・・・
 その時にチョッと・・・」

「アメリカ?・・・それで、そのジッチャンとか言う人は、今、何をしているの?
(これは重要なキーポイントよ!)」

「ココに来る前に、亡くなりました・・・(本当は来た後直ぐだろうけど・・・)」

 シンは少し暗い顔をする。

「そ、そう、悪かったわね(それは聞き辛いわね・・・じゃぁ、別な方面で)
 それで、なぜ、この第三新東京に来たの?」

「へ?・・・何でそんな事を訊くんですか?
(なんで、ココまで他人の事を気にするんだろう?・・・聞いていたのと少し違うな)」

 リツコが自分の事を気にかけていると思い、不思議そうにシンが訊き返す。

 まぁ、実際は、シンの事を知る為に訊いているのだが、シンはその事を考えてなかった。

「え?(チョッと軽率だったかしら?)いや、何か目的があるのなら、
レイを助けてくれたお礼代わりに、手伝ってあげようかと思って(こんな言い訳で良いかな?)」

 あの手この手で聞き出そうとするリツコ。

「え?・・・で、でも、お礼が欲しくて、助けたんじゃなく、助けたかったから、
助けたわけで、今その目的も、半ば諦めてると言うか、どうでも良くなったと言うか、
それになんか、今回の事で問題があったら、何とかしてくれるって言うし・・・」

 赤くなったシンが、あたふたと慌てた様に言う。

「(結構遠慮がちなのね・・・結構可愛いし、ゼーレの手の者でも無さそうだし)
 あら、この世には、義理と人情って言うのがあるのよ、出来れば協力したいわ。
 レイだって、お礼くらいしたいでしょ」

 リツコがレイに言うと、レイは更に赤くなりながら頷いて言う。

「シン君の力になってあげたい・・・」

「(あ、あのレイが、ココまで女の子らしくなるなんて・・・何なのこの子)」

 女の子をしているレイを見て、リツコはそのまま固まる。

 確かに、リツコは、レイに拘り過ぎているゲンドウに嫌がらせをするつもりで、
レイに同年代の彼氏でもつけてやろうと思い、学校に通わせたのだが、
ココまで効果があるとは思ってもみなかった。

「ぎ、義理と人情っすか・・・そ、そこまで言われたら、話すしかないですね」

 どうやらシンはその言葉に弱いらしい。

「え? えぇ、是非とも協力させてもらうわ(チョッとレイに気を取られていたわ、危ない危ない)」

 リツコは少し焦りながら、そう言った。

「まぁ・・・人捜し・・・ですか・・・ね」

「「人捜し?」」

 レイとリツコが訊き返す。

「えぇ、世話になっていたジッチャン・・・【上条タツジ】って言うんですけど、
その人が亡くなる前に、俺、いや」

「あぁ、気にしないで、普通に喋っていいから、その方が私もらくだし・・・
(【上条タツジ】? かなりのキーポイントね)」

 一々一人称を言い換えようとするシンにリツコが言う。

 因みに、【上条タツジ】とは、冬月の恩師で、助教授時代にも何かと世話になっていた人物である。

「スイマセン、俺がまだ年齢的に未成年だから、保護者代理にある人を頼れって言われて」

「それがココに、第三新東京に居るの?(なら、その人を調べれば)」

「えぇ、そう聞きました」

 リツコの問いに頷きながら答えるシン。

「ふ〜ん、名前がわかれば、直ぐに捜せると思うけど、わかる?
(そうすれば、少しは彼の事がわかるかも)」

「えぇっと・・・確か名字は【冬月】って言う人なんですけど」

「シン君のチャットの時の名前ね」

 レイが言う。

「うん、忘れないようにそうしたんだ・・・
 上手くすれば、誰か知り合いが、接触してくるかも知れないと思ったから・・・
 結局、誰も知らなかったみたいだけどね・・・それとも興味が無いのかな?」

「フ・ユ・ツ・キ・ね(ん?・・・何か聞いた事あるわね)名前の方は?」

 メモを取りながら、リツコが訊く。

「え〜と【コウゾウ】って言う人なんです」

「コ・ウ・ゾ・ウ・ね(はぁ?)」

 そこでリツコは続けて読んでみる。

「【冬月コウゾウ】・・・・・・(って、うちの副司令の名じゃないの!)」

 驚くリツコ、レイも聞覚えがある名なので、首をかしげている。

「・・・(か、確認する必要があるわね)そうね、詳しく調べてから、報告するわ。
 何か確認するようなモノはある?」

 リツコが訊くとシンは思い出したかのように言う。

「そう言えば、本人にしか見せるなって言われた手紙がありますが?」

「貸してもらえる?」

 リツコが尋ねると、シンは即答で答える。

「ダメですよ、『他人に見られないように、直接本人に渡せ』って、
言われてますし、ロウ付けされてますしね」

「そう・・・(これは今持っている情報を副司令に話して、判断を仰いだほうが良いわね)
 じゃぁ、調べておくわ・・・
 それに、さっきも言ったように、今日、レイは本部でやる事があるのよ」

 そう、今日は零号機の起動実験があるのだ。

「へ〜面白そうだな・・・見学できます?」

 シンが訊く。

「え? 一般の・・・(待てよ? 実際に連れて行ったらどうかしら? 副司令に連絡して・・・)
 あ、チョッと待って貰える? あっちで許可が出るか、確認してみるから」

 この時、リツコは、何故そんな事をしようと思ったのか、後で考えても解らないと言った。

「少し待っててね」

 そう言って、リツコは席を立ち、化粧室に行き、ネルフの特殊携帯電話を使って、
冬月に連絡を取った。

「・・・えぇ、そうです・・・どうやら、彼の育ての親は、副司令と関係が有るらしいんですが」

『何? 本当か? なんという名か解るか?』

「【上条タツジ】と言うらしいんですか、心当たりは?」

『か、上条・・・タツ・・ジ・・・
 おぉ! 憶えているぞ! その人は、確か私の恩師にあたる人で、
生物学ではかなりの権威だった人だ! 他にも色々な分野でも凄い才能を持っていたが・・・
 いわゆる、人が良すぎて、競争が嫌いで、二番煎じに甘んじる人だったからな・・・』

「やはり・・・それで、彼は副司令宛に手紙を預かっているらしいんです」

『なんと! それで、上条教授はお元気なのか?』

「いえ、亡くなられたそうです」

 実際、この上条という老人は、アメリカで、一年程前に亡くなっていた。

 その知らせが冬月の元に来るのは、まだ暫くかかるのであるが・・・

『そうか・・・惜しい人を・・・それで、何故この回線で連絡を?・・・
 報告は、帰ってきてからでも良いと思うが?』

「それが、彼がエヴァの起動実験を見てみたいと言いまして」

『な!・・・き、君はそこまで重要な事を彼に話したのか?』

 冬月が呆れたように言う。

「(あちゃ〜しまった・・・誤魔化した方が良いか)いえ、彼は知っているようでした・・・
(ごめんなさいね、保安部の皆さん)」

 リツコはそう言って、心で謝っているが、シンは実際に保安部の皆さんに、
コッソリ、レイのスケジュールを聞いて、知っていたから、途中の会話で、誘導していったのだ。

『う〜む、そうだな・・・リツコ君から見て、彼はどう思うかね?』

「そうですね・・・
 その上条と言う人にかなり教えられたらしく、頭脳は既に一端の科学者より有りますね・・・
 うちの技術部に欲しいくらいです・・・
 レイの精神も彼と居る事でかなりのレベルで安定しているようですから、
起動実験に何かとプラスになるのではと・・・(ココまで言えば、副司令も許可をくれそうね)」

『そうか、そうだろうな、あの老人なら、才能ある人間を見ると、トコトン教え込むからな・・・
(ユイ君の時もそうだった)それで、それだけでは無かったのだろう?』

「えぇ、会話の中に少しカマをかけてみたんですが・・・
 どうやら、1度知り合いの軍人に鍛えられた事も有るそうで、
武術の腕も、かなりのモノを持っているようです・・・
 ただ、本人曰く、少し未熟なトコも有るそうですが・・・」

『信頼は出来そうかね?』

「私の見る限り、十二分に信頼できる人物と思います。
 客観的に見ても、彼は敵対勢力の者ではないと、私は判断します」

『そうか・・・それで、君はどうすべきだと思う?』

 リツコは少し考えてから、口を開く。

「1度副司令が自ら会ってみるのが、ベターなのではと考えます。
 それも早いほうがより良いかと・・・
 もし、私の前での姿が、作られたモノでしたら、実際に副司令に突然会ったら、
ボロが出ると思いますし」

『そうか、では、その私宛の手紙を持たせて来るように言ってくれたまえ・・・
 今日、実験後に、直接会おう』

 そこで、電話が切れた。

 リツコはシンにその旨(むね)を伝えると、シンは驚いたような顔をしながら言った。

「へぇ〜世界って、広い様で、狭いんですね」

 結局、今は手紙を持って来て居なかった為、1度取りに帰って、
ネルフ本部のゲートに来る手筈になった。

「じゃぁ、レイと私は実験の準備があるから、先に行くわね」

 実験の予定時刻まであまり時間が無かったので、リツコはレイを連れて、先に行く事にした。

 レイは少し不安そうな顔をしたが、リツコについていった。



 実験が始まる数分前、まだゲートには、シンが来たと言う報告は無い。

「遅いわね・・・(あ、そう言えば、シン君にどのゲートか、教えたけ?)」

 ここに来て、リツコは重要な事を思い出した。

「マヤ、すまないけど、レイの友達の【朋意シン】て言う子の携帯か、
家の電話番号を調べてくれない?
 レイの・・・隣のクラスの子だけど」

 リツコは直属の部下である【伊吹マヤ】に言った。

「え?・・・どう言う事ですか?」

「いえね・・・副司令に頼まれて、来るように言ったんだけど、どのゲートに来ればいいか、
教えてなかったのよ・・・私とした事が・・・」

 リツコが冷汗を流しながら言う。

「せ、先輩らしくありませんね・・・わかりました、直ぐに調べます」

 マヤが調べてくれたおかげで、家の電話番号はわかった。

 今時の子供には珍しく携帯はもっていないようなので、取り合えず、
家の方にかけてみる事にした。

「あれ? まさか・・・留守電も入って無いなんて・・・どうしたのかしら?」

 そこにゲンドウと冬月が入ってくる。

 ゲンドウは零号機の回線を開き、レイに調子の方を訊く。

 レイは『問題ありません』と答えたが、ゲンドウが、回線を繋ぎっぱなしだったので、
あるハプニングが起きた。



 零号機サイド

『ところで、【朋意シン】君はまだ来ないのかね?』

『あ、少しお待ちください』

 回線が繋ぎっぱなしだった為、冬月とリツコの声がレイに届いた。

「(シン君が来るはずなのに来てない?・・・なぜ?)」

 レイの鼓動が少し速くなったが、周りは緊張の為だろうと思い、気にせずに実験を開始した。

 そして、零号機との接続が佳境に入ったとき、リツコの声がレイの耳に入った。

『すいません、それが・・・ 先程から、彼に、電話をかけているんですが、
全然連絡が取れないんです・・・』

『まさか、何かあったのかね?』

「(何? どうしたの? シン君と連絡が取れない? なぜ? どうして?
 この気持ちは何? どうしたの? シン君は?)」

 レイの心が動揺し、乱れたしまった。



 管制室

「ぱ、パルス逆流!」

「中枢神経素子にも、拒絶が始まっています!」

 固定されている部分を壊し、零号機が暴走を始める。

「コンタクト中止! 6番までの回路を開いて!」

 リツコが慌てて叫ぶ。

「信号拒絶! ダメです!」

 マヤが報告する。

「零号機制御不能!」

「実験中止! 電源を落せ!」

 ゲンドウが叫ぶ。

「零号機! 予備電源に切り替わりました!!」

「完全停止まで、あと35秒!」

 零号機が、実験管制室の所を殴る、殴る、殴る。

 ゲンドウが居る辺りを特に殴る、殴る、殴る。

 しかし、なぜか特殊硬化ガラスにヒビは入って来ない。

 良く見ると、紅い膜があるようだが・・・誰も気付く余裕が無かった。

「司令! 危険です!! さがってください!!!」

 リツコが悲鳴を上げるように叫ぶ。

 しかし、ゲンドウは動かない。

 じっと零号機を睨むように見ている。(でも、足を見ると、震えているような・・・(笑))

「オートエジェクション作動!!」

 マヤが叫ぶ。

 ガン!ガン!ガン!ガン!

 エントリープラグが排出され、LCLを撒き散らしながら、実験室のあちこちにぶつかって行く。(それって、かなり拙いんじゃ・・・)

「いかん!(忘れてた!)」

 ゲンドウはそう叫ぶと、実験室に行く為に、ドアを出ようとするが・・・

 ガン!

「う〜ん」

 バタ・・・

 扉が開く前に出ようとしたのか、頭をぶつけて、そのままのびる。

 しかし、ゲンドウの目には確かに開いていたように見えた。

 そして、紅い何かも見えたような気がした。

 しかし、一瞬の事だったので、誰にも解らなかった。

 よって、その事は、気のせいという事で忘却の彼方に忘れられた。

「ぶ、無様ね・・・」

 その様子を見たリツコはそう呟いてしまった。

 ガコン!

 しかし、それと共にエントリープラグの落ちる音がした。

「は! いけない! レイ!」

 リツコが気付き、実験室を慌てて見ると・・・

 ドグワシャン!!

 その音と共に、実験室の扉が吹き飛び、1人の少年がエントリープラグに向かって、走っている所が見えた。

「え? あの子は!」

 リツコが少年を見て叫ぶ。

 少年は火傷をするのも構わず、加熱したエントリープラグのハッチを、
素手でこじ開けると言うより、引き千切っていた。

「・・・り、リツコ君、まさか彼が・・・」

 冬月がリツコに訊く。

「えぇ、多分、彼が【朋意シン】君だと思いますが、でも、どうやってあそこまで・・・」

 リツコはそう疑問に思いながら、どこかホッとしていた。

「それより、救護班を急いで実験室まで!」

 リツコが思い出したかのように叫ぶ。

「それと、保安部もだ!」

 冬月も叫ぶ。

「ふ、副司令?」

「彼が何者であろうと、その正体がハッキリするまでは、拘束する必要がある!
 何せ、誰にも気付かれずに、あそこまで進入できる能力と、
アレだけの力を持っているのだからな!」



 実験場

「レイちゃん!」

 シンがエントリープラグの中に入りながら叫ぶ。

「(誰? 司令? 違う・・この声は)」

 レイがその声に反応して目を開く。

「レイちゃん! 大丈夫!!(良かった・・・)」

 レイの瞳に、シンの顔が映る。

「えぇ(シン君・・・良かった)」

 レイはそう呟いて、再び意識を失う。

 シンはレイの脈を取り、状態を確認すると、抱き上げて、エントリープラグから出て来る。

 そこには、保安部の人間が銃をかまえて、並んでいた。

「ネルフ保安部のも」

 一番先頭に居た者が、銃を向けながら言うが・・・

「いい加減にしろ!
 貴様等が守るべきチルドレンが大怪我しているんだろうが!
 そんなヒマがあるんなら! 救護班を連れて来い!
 俺はどこにも逃げはせん!」

 シンが睨みながら、保安部員の言葉をさえぎって、そう一喝すると、
保安部員達はざわめき始める。

 すると、1人だけ銃を抜いていなかった保安部員が周りに言う。

「大丈夫だ! 彼の事は俺が保証するから、早く救護班を通せ!」

 その言葉が効いたのか、他の保安部員達は道をあけ、救護班を通す。

「レイちゃんは強く頭を打っています・・・
 それと右腕を骨折、左腕にはヒビが入っているようです、気を付けて運んでください」

 シンがそう言って、細心の注意を払いながら、担架にレイを載せる。

「わかった、後は専門家に任せろ!」

 救護班は急いで、処置室に向かう。

「もう、いいか?」

 先ほどシンを擁護(ようご)した保安部員が、他の者を押しのけて、やって来る。

「えぇ、ありがとうございます・・・貴方がココにいてくれて、よかったです」

 シンはそう言いながら、全てをさとったように両手を前に出す。

 どうやら知り合いらしい。

「すまんな、君が悪い奴じゃない事は俺も充分すぎる程、分っているが・・・
 一応、上からの命令なんだ」

 その保安部員はそう言いながら、手錠を取り出す。

「いいですよ、貴方は信用できますから・・・
 それに、ココで暴れたら、折角、助けてくれた貴方の顔に泥を塗る事になりますからね」

「・・・悪い」

 そう言って、その保安部員は、バツが悪そうな顔をしながら、シンの両手に手錠をかける。

「では、ついて来てくれるか?・・・冬月副司令が会いたいそうだ」

「えぇ」

 シンはそう言うと、大人しくついて行った。

 他の保安部員は、シンが蹴り飛ばしたと思われる人の力では、絶対に壊れるハズのない特殊鋼で、
作られた扉とエントリープラグのハッチを見て、身震いしていた。

 さらに扉の方には見事に彼の足型がついていたからだ。

 そして、彼等は、シンがもし全力で暴れたら・・・
『はたして、自分達に止められただろうか?』と言う疑問と、
『今、彼が敵でなくて良かった』と言う気持ちでいっぱいになった。



 司令執務室

 そこには、副司令の冬月だけでなく、頭に包帯を巻いたゲンドウが居た。

「不法侵入者であった【朋意シン】を連れてきました」

「ウム、彼を置いてさがってよい」

 冬月が言うと、保安部員はシンを残して去っていった。

「(ゲンドウも居るのか・・・
 ガードしてやっていたのに、怪我をしているとは、何をしようとしたんだ?
 このロリコンめ)・・・ところで、どちらが冬月さんですか?」

 長い沈黙の後、シンが話し掛けた。

「私だが?」

「チョッと待ってください」

 シンはそう言うと、手錠をかけられた手で、器用にポケットの中から、分厚い封筒を取り出す。

「これ、ジッチャンから、預かって来ました」

 冬月は近付いて行き、それを受け取る。

「(フム、敵対心はまるっきり無いな)受け取ったよ・・・
 しかし、何故君はあそこに居たのかね?」

 冬月が訊いて来る。

「それは、呼ばれたのは良かったんですが、どの入り口から入っていいのか分らなかったし、
それに嫌な感じがして、早くレイちゃんの所に行かないと、彼女が危ないと思ったからです」

 ゲンドウが、『レイちゃん』と聞いた所で眉をピクリと動かす。

「ほう(何と言う直感力だ・・・だからレイを二度も助ける事が出来たんだな)・・・
 これは私が読んでいいのかな?」

 冬月が訊く。

「はい、冬月さん宛ですから」

 シンはニコリと微笑むと、そう答える。

「君は、私が本当に冬月と思うのかね?」

「違うんですか?(知ってるけど、知らないフリをしてた方がいいな)」

「何故疑わない?」

 冬月が不思議そうに訊く。

「そうですね・・・
 先ず、リツコさんが、今日、冬月さんに会わせてくれると言ってましたし、
さっきの保安部の人も冬月副司令に会わせてくれると言いました。
 彼等の事は信頼してますし、それで騙されるなら、後悔もしません・・・
 それに、俺みたいな小物にワザワザ嘘を吐くような組織でもないでしょ、ココは」

「「・・・・・・・」」

 ゲンドウと冬月は驚いた。

 保安部の包囲網を掻い潜るような凄腕の組織の拉致襲撃グループを、
七回も撃退し捕らえた(警察や保安部に突き出したらしい)だけでなく、
保安部の中でも歴戦のつわもの達、十八人も手玉に取ったくせに、
自分の事を『小物』と言い切る少年に・・・

「そ、そうか、じゃぁ、ココで読ませてもらっていいかな?」

「えぇ、どうぞ」

 冬月は二重にしてあった封を開け、中に入っていた手紙と何かの資料を読み出す。

 そして、段々と震えてくる。

「どうした? 冬月」

 ゲンドウが冬月の様子に驚いて訊く。

「これを読んでみろ」

 冬月がゲンドウに渡す。

「・・・・・・!・・・こ、これは、あの教授の字なのか?」

「あぁ、間違いない、俺とあの先生の字の癖は殆ど同じだ、違うのはそこの所に、
余計にハネる癖があることくらいだ・・・事実なら、恐ろしいほど強力な置き土産だよ・・・
 これ以上ないな・・・強力な札だ」

 そして、冬月はシンの方を見る。

「ほ、【朋意シン】君だったね」

「はい」

「君はこの中身を見た事はあるかな?」

「いえ、ジッチャンは、絶対に冬月さんに見せるまで、誰にも見せるなって言いましたから、
封も開けずにいましたけど?」

 確かに手紙は二重にしてあったし、両方とも厳重にロウ付けしてあった。

「・・・もし、ここに書いてある事が事実なら、君に協力してもらいたいんだが良いかな?」

 冬月が訊いて来る。

 少し考えたシンが答える。

「それって、レイちゃんの手助けが出来るって事ですか?」

 ゲンドウがそれを聞いて、眉をまたピクリと動かす。

「あぁ、そうなるな・・・少なくとも彼女の負担は減らせるだろう」

 冬月は、ゲンドウを押えるように少し睨み、シンの方に言う。

「じゃぁ、やります、元々、冬月さんに保護者代理をお願いしなくてはならかったんですから、
協力できる事は出来る限りしますよ」

 シンは即答する。

「そうか、では、今日コレから、時間はあるかね」

「えっと」

 シンが考え込む。

「どうしたのかね?」

「いえ、レイちゃんが心配なので、お見舞いが出来るかどうか迷っちゃって」

 またゲンドウがピクリと反応する。

「大丈夫だ、実験終了後、彼女の病室に案内させるよ・・・
 その頃には意識も回復しているだろうし」

 冬月の言葉にもゲンドウは、またピクリと反応する。

「本当ですか?」

「あぁ」

 冬月はそう言うと、内線を使い、リツコを呼ぶ。



『赤木技術部主任、入ります』

「入れ」

 冬月が言うと、リツコが入ってくる。

「なんでしょう?」

「今日までに、レイ君が行っていたエヴァに関する実験を、一通り、彼にやってみてくれ」

 冬月の言葉に驚くリツコ。

「本気ですか?! アレはチルドレンじゃないと(近親者をコアにしないと)」

「良いから、俺宛に来た手紙に面白い事が書いてあった。
 それが事実なら、充分すぎる程、可能だ」

 自信満々に言う冬月。

「しかし、彼にはプラグスーツが」

「大丈夫だ、その分、低くでるかも知れんが、そのままでやってくれ」

「あの、なんか、よく分らないんですが・・・一応、俺、着替え持って来てないんっスけど?」

 冬月の言葉を聞いて、シンが、不安そうに言う。

「あぁ、大丈夫、実験後に、君に合う服を支給するから」

「はぁ?」

 よく分らず、シンが首をかしげる。

「後で俺も行くから、先に始めていてくれ」

「分りました・・・シン君、ついて来て」

「でも、これどうしましょう?」

 シンは、両手にはめられた手錠を見せる。

「こっちで外すから」

「はい」

 シンはそう言ってリツコの後について行った。

「・・・大丈夫なのか?」

「あぁ、【上条タツジ】先生は、俺の恩師だし・・・
 第一、あのユイ君に生物工学の全てを教えていた程の教授だ。
 お前も覚えているだろう、ワザワザ、ユイ君がエヴァの基本を作る為に、
もう一度ワザワザ教えを()いに行ったほど人だぞ。
 その人がユイ君データをもとに探し出したんだ・・・
 しかも、『チルドレンみたいな紛い物ではなく、本物の適格者だ』と太鼓判を押して、
我々に送ってくださったのだぞ」

「確かに、あの教授が優れた人であった事は俺も認めるが、死ぬ前も、そうとは限るまい」

 ゲンドウが反論する。

「だから、今からそれを調べるのだろう。
 もし、あの状態の零号機にシンクロ出来るのなら・・・
 初号機にもシンクロ出来るやもしれん」

「そうなると、予備(シンジ)は不要になるのか?」

 ゲンドウが冬月に言う。

「それは分らん、補欠として呼寄せるのも手だろう・・・
 しかし、初めから敵対しなくて正解だったな・・・ゲンドウ・・・
(それに、ユイ君の息子に対にて予備とは何だ!)」

「グッ!」

 冬月の嫌味に何も言い返せないゲンドウは、ただ冷汗をかく。

 その後、彼等にもたらされた報告は驚愕すべきものであった。

 あの状態で、零号機とのシンクロ率78.54%・・・

 正しく、十年前に捜し求めていた真の適格者であった。

 その後、ゲンドウは冬月に、レイの見舞いにも行けず、
一晩中嫌味を言い続けられたのは、お約束である。



 それからまた、かなりの日数が経ち、シンとレイは2年に進級し、同じクラスになった。
(同じチルドレンとして)

「今日は、この紫色のですか?」

「えぇ、初号機、今は09システムと呼ばれているけど・・・
 貴方が動かす事が出来るなら、貴方の機体になるでしょうね・・・」

 シンとリツコがエヴァンゲリオン初号機を見上げていた。

「・・・嬉しさ半分、悲しさ半分ですか・・・」

「あら? どうして?」

 リツコが不思議そうに訊く。

「だって、もしこれが俺の機体になったら、レイちゃんが、あの零号機に乗せられるんでしょ」

 シンが辛そうに言う。

「優しいのね・・・」

「それより、リツコさん、あの企画書・・・通りそうですか?」

「多分ね・・・でも、嫉妬しちゃうな、あんな企画、直ぐ思いついちゃうんだから」

「リツコさん達が居るからですよ・・・
 それに、零号機は元々プロトタイプですし、いつかは改修しないと・・・」

 シンはリツコに笑いながら言った。

「そうね・・・貴方のおかげで、技術部もかなり楽になったわ・・・
 貴方の知識って、私達にとって、チョッとしたオーバーテクノロジーよ・・・
(上条タツジって人、本当に天才だったのね・・・出世欲の全く無い・・・)」

「そうですか・・・(まぁ、そうだろうけど)」

「じゃぁ、実験を始めましょ、レイも見に来ているから、頑張ってね」

 そして、初号機の起動実験が始まった。



「シンクロ率94.47%、誤差±0.11、ハーモニクス異常ありません!・・・
 凄いですね、零号機に続いて、あの初号機まで・・・
 シン君は、まさにエヴァに乗る為に生まれて来たような子ですよ」

 どことなく嬉しそうにマヤが言う。

「えぇ、そうね(今までの理論が全て覆(くつがえ)されていく・・・これが本物の適格者?)」

 リツコはそれを見ながら、溜息をつく。

『・・・なるほど・・・リツコさん』

 初号機の中のシンから、通信が入る。

「何?」

『後で詳しく説明しますから、俺が言ってから十分間の記録を採らずに置いてくれますか?』

「どう言う事?」

『それと、その間、レイちゃんにモニターを見せないで置いてください』

 シンが真剣な目でリツコを見る。

 暫くリツコとの見つめ合いが続き、リツコが折れる。

「わかったわ、でも何をするの?」

『それも後で、本当は誰にも見せたくはないんですが・・・』

「分ったわ・・・マヤ、皆、悪いけど、ココから十五分位あけて貰える?」

「え? でも、実験の途中ですよ」

 マヤがリツコに言う。

「頼むわ・・・シン君に考えがあるみたいだし・・・」

「分りました、十五分間だけですよ・・・」

 そう言って、そこに居るスタッフ達と、見に来ていたレイはそこから出て行く。

 全ての技術部のスタッフはシンをかなり信頼しているらしい・・・

「これでいい?
 シン君、一応マギもデータを採らないようにしておいたけど、私が見る分は良いんでしょ?」

『その代り、騒いだり、驚いたり、僕が良いと言うまで他言しないで下さいね』

「え? えぇ、分ったわ」

『じゃぁ、いきます!』

 シンの掛け声と共に、跳ね上がるシンクロ率。

「な、何なの?」

 その価に驚くリツコ、なぜならその価は400%を遥に超えていた。

 慌ててモニターを見るリツコ、しかし、そこにはシンの姿はなかった。

「ど、どう言う事・・・これも適格者の力なの?」

 そして、呆然としているリツコを他所に、七分後、シンクロ率が下がっていき、モニターにシンの姿が現れる。

「し、シン君、これは一体!」

 しかし、シンはそれを聞いては居なかった。

『アハハハハハハハハハ!!』

 突然笑い出すシン、そして、ひとしきり笑うと、あることを呟き始めた。

『ククク、ダメだよ、おやっさん、貴方のシナリオじゃ、結局二の舞いだ・・・
 ヤッパリ俺が思ったようにしないと・・・ダメだよ・・・
 紅い、紅い海に・・・紅い世界になってしまう』

「シン君! 大丈夫? どうしたの?! 返事を」

 リツコがそこまで言った時、シンは始めて気付いたようにリツコに言った。

『あぁ、リツコさん、すいません、これで実験を終わります。
 司令と副司令に執務室で、直ぐに俺が三人で会たいって言ってると、伝えて貰えますか?』

「え? どう言う事?」

 イキナリの事で、リツコは訳が分らない。

『すいません、一刻を争います、急いでください』

 シンが突然マジメな顔になって言う。

「わ、分ったわ」

 そしてシンは、初号機を降りて行った。



 司令執務室

 そこには、イキナリ呼び出されたゲンドウと冬月が居た。

『サードチルドレン、【朋意シン】入らせてもらう』

「あぁ」

 ゲンドウの一言で、シンが何故か鞄を持って入ってくる。

「どうした? 突然、俺達に話があるとは・・・」

 ゲンドウが、いつものポーズをとって訊く。

 シンは、表向きにはサードチルドレンとして登録してあるが、本物の適格者であり、
また、その卓越した頭脳で、影では技術部特別顧問でもあり、
その格闘能力もかわれ、保安部、諜報部の特別顧問にもなっている為、
ある程度の融通をゲンドウ達が効かせている。

「いやね・・・このままだと、ダメなんですよ・・・あの世界の二の舞いになっちまうんだ」

 溜息を吐きながら、シンが言う。

「どう言う事だ?」

 ゲンドウは片眉を上げて訊く。

「そろそろ分っているんでしょ?
 上条教授のもとには俺は居なかったって、それとも、まだそこまで調べてなかったのか?」

 驚く二人。

 そんな事、まだ調べてなかった。(シンを信じきっていたのね)

「お前は何が目的だ?」

 あくまでも冷静を保ちながら、ゲンドウが言う。

「俺の目的は幾つかある、全部教えておいた方があんた等・・・
 いや、碇司令の為にも、冬月副司令の為にもなる・・・
 まぁ、ゼーレの爺さん達の為だけにはならないだろうけどな」

「・・・どう言う事だ?」

「まぁ、聞けよ・・・いいかい?」

 シンは落ち着けというジェスチャーをする。

「・・・あぁ」

 ゲンドウは聞いてからでもよかろうと思い、手にしていた銃をおろす。

「先ず、俺の目的は、あの赤い世界を作らない事、
シンジ君やレイちゃん達を守る事、
そして、ゲンドウ、貴様とゼーレの愚かな暴走を止める事だ・・・
 おっと、2人とも、そこで聞くのを止めるんじゃない・・・
 これは俺の真の育ての親、【冬月コウゾウ】貴方の望みでもあるんだ」

 銃を向けていたゲンドウが冬月を見る。

 冬月は訳が分らず、首を振る。

「とはいっても、今居る貴方じゃないですよ、コレから約十五年後位かな?
 その時の貴方に聞かされた望みです」

 冬月は愕然とする。

「ふん、絵空事をそのような戯言」

 ゲンドウがそう言いながら、再び銃をシンに向ける。

 シンは笑いながら言った。

「お前はユイさんに会いたくないのか?・・・再び共に、生きて暮したくはないのか?」

「何?!・・・何故お前が!」

 ゲンドウが、驚いて訊く。

「全てはこのディスクにあるモノをみれば、理解しやすいと思うぜ」

 シンはそう言うと、一枚のディスクを見せる。

「見てみろよ」

 そう言って、シンは冬月にディスクを投げ渡す。

「本当はな、ゲンドウに見せるつもりはなかったが・・・
 初号機の中に入って、そうもいかない事がハッキリと分った」

 シンの言葉を聞きながら、冬月はディスクをセットする。

 すると、モニターに今の冬月より、少し歳のいった冬月が映し出された。
(皺が増え、少し禿げてるが、冬月と言うことはよく分かる)

「「な!!」」

 驚くゲンドウと冬月。

 映像の冬月が話し出す。

『これを見ているのは、ワシ1人か?・・・
 ならば良いが、もし、碇も一緒に見ているのなら、おそらく、その時点で、
シンの荒療治が必要なほど、碇の奴が馬鹿をやっていると言う事だ。
 碇の人類補完計画は確かに発動したよ、未完成のままな・・・それがこの世界だ』

 後にどこまでも続く、紅い海が見える。

 二人はそれを見て呆然とする。

『あまり時間がないので、結果から言うぞ、碇の計画は、まるでダメだったよ・・・
 例え、完全に発動したとしてもな・・・
 その証拠に、碇は全ての責任を俺に押し付けて、自殺したよ・・・
 呆れるだろう・・・最後まで、碇は厄介ごとを俺に押し付けてくれたよ』

 驚くゲンドウ。

『あれが失敗した原因の一つは、碇が、ユイ君の事をまるっきり考えずに、
この計画を立て、色々と馬鹿な事をやっていた所為だ。
 あの頃のワシはそんな事を考えてもみなかったが・・・
 だから、碇とワシはユイ君に拒絶されたんだよ・・・
 そう、これ以上ないくらいにな・・・その結果は、さっき言った通りさ。
 それ以上は、時間がないので、シンに・・・訊いてくれ。
 シンは、この世界が出来た事で初めて生まれた、真なる適格者だ!
 彼さえ居れば、このような結末にはならないと思う。
 碇が邪魔をしなければ、な・・・
 だから、今のワシ達の全科学力を振り絞っても、シンをお前達の居る過去に送る。
 もし、お前達がもう一度、本当にユイ君に会い、受け入れて欲しいなら、彼の指示に従う事だ・・・
 彼なら、ユイ君を・・・』

 そこでディスクの記録が止まっていた。

「・・・・・・どう言う事だ」

 あくまでも銃を下ろさずにゲンドウが言う。

「おやっさんの言ってた通りさ、物騒なもんを下ろしな・・・
 喋るのはいいが、あんたの耳には痛いはずさ・・・
 咄嗟に撃たれたら、冬月のおやっさんの望みが消えて、繰返す事になる・・・
 生き地獄になるぜ(まぁ、俺には銃は利かないがな)」

 シンがそこまで言った時、冬月がゲンドウに手を差し出す。

「何のつもりだ冬月」

「碇、渡せ、もしもの時は、俺が彼を撃つ」

 そう言って、ゲンドウから銃を受け取って、シンに向ける。

「まぁ、分ってたけど、それでいいさ、俺が味方かどうかは冬月のおやっさんが決めてくれよ・・・
 冷静な判断が出来るだろうし、もし間違って撃たれても、俺は後悔しないから・・・
 じゃぁ、話すぜ、良いか?」

 それは、シンの本心であった。

「「あぁ」」

 二人が同時に言う。

「俺が先ずやる事は、ユイさんの完全なるサルベージ、時間がかかるがな」

「何!」

「可能なのか?!」

「あぁ、時間と特殊な条件が必要だがな・・・これが結構時間がかかる・・・覚醒とかな」

 シンが肩をすくめながら言う。

「最初っカラ、コレを今日の実験で始めるつもりだったんだが、問題があった。
 それがゲンドウ、貴様の所業をユイさんが、この時点でかなり知っていたと言う事さ」

 愕然とするゲンドウ・・・冷汗をかいている。

「どう言う事かな?」

 冬月が訊く。

「このまま、ユイさんをサルベージしたんじゃ、冬月のおやっさんと、この外道は、
完全にユイさんに拒絶されるって事だよ。
 初号機の中で話してきたから、間違いない、疑問に思うなら、リツコさんに聞いてみな・・・
 シンクロ率412%を超えた結果とその後どうなったか・・・直ぐに理解できると思うぜ」

 冬月とゲンドウは頷く。

「こっからが耳が痛いぜ、ゲンドウ、覚悟しな!
 ユイさんが知っているお前の罪だけを話す」

 ゲンドウはいつものポーズで、何とか冷静を保ちつつ、頷く。

「先ず、お前はユイさんとシンジは必ず側で育てると約束したのに、
一人息子のシンジをゼーレの目を誤魔化す人身御供にする為、
ゼーレの依り代になりやすい不安定な隙間だらけの心にする為に、劣悪な環境に放り込んだ事」

 冬月がゲンドウを睨む(そんな約束があったとは知らなかったからだ)

「更に、本来、シンジの約四歳違いの妹として生まれるはずだったレイを、
ユイの出来そこないのクローンとして扱い、シンジと同年代にしただけじゃ、飽き足らず、
魂を削ったり、人と扱わなかった事・・・
 おっと、最近じゃぁ〜性的な目でも見てたんだったな、もうこんな物つけんじゃねぇ〜!
 彼女に手を出す事も、俺が許さん!!」

 シンはゲンドウがレイの部屋に仕掛けさせた隠しカメラやマイクなどが入ったカバンを、
ゲンドウの顔面に纏めて投げつける。

 結構な量だ。

 ゲンドウはレイがユイの娘である事は知らなかったので驚いて、声をあげる。

「ど、どどど、どう言う事だ! 俺は知らんぞ!」

 かなり動揺している。

「知らんですむか!
 ユイさんが初号機に取り込まれた時、お腹にいたんだよ!!・・・
 ユイさんも初めは驚いたらしいぜ・・・だから、何とかして、初号機の外に出したんだろ・・・
 あのままじゃ消える可能性が高かったから・・・
 それなのに貴様が、リリスの遺伝子をぶち込んで、シンジ君と同じ年齢まで、
引き上げたんだろうが!・・・
 更に人形のようにあつかいやがって・・・
 レイちゃんは、貴様の都合の良い道具じゃねぇー!!」

 ゲンドウがそれを聞いて冷汗をかき始める。

「ユイさんの先輩で友人であった【赤木ナオコ】との浮気及び、利用し尽くしたと思ったら、
レイちゃんの最初の体と魂の一部を使って殺害した事」

 ゲンドウは段々顔が青くなっていく。

「(な、何故知っているんだ!)」

 そのゲンドウの様子を見ながら、冬月はシンの言っている事は真実と認識する。

「そして、利用する為だけに、その娘であるリツコを強姦、
無理矢理、手篭(てご)めにしている事や、五回ほど無理矢理中絶させた事・・・
 もうさせんじゃねぇ!!・・・いや、六回目はこの俺がさせん!!・・・
 全く、女や生まれてくる命を何だと思っているんだ! 貴様は!!」

 ドゴン!

 シンは壁を殴る。(凹んでます)

 つまり、また、リツコの中には・・・いるらしい。

 怒っているシンの握られた拳から、血が流れている。

「碇、き、貴様・・・何を考えている」

 あまりの事に冬月がゲンドウに銃を向けたくなる。

「そして最後、これは冬月のおやっさんも聞いている筈だ・・・
 子供達の未来を守る為にとユイさんが、対使徒用に開発したエヴァを、
ゼーレとか言う自分達のエゴの為に、その子供達の未来を奪う計画を立てているクソ爺達に、
逆にエヴァをその予備として扱えることを教えた事・・・
 更に、自分でも未来を潰す計画を立てている事・・・
 ユイさんが未来を残したいと言っていた筆頭の子供であるシンジ君の未来を、
半ば奪っているし・・・
 ユイさんが知っている事だけでも、愛想をつかされるじゃないか!」

 シンが言い放つ・・・

 既にゲンドウは今までの悪行(の一部)をバラされ、顔面蒼白、
冬月は完全に銃をゲンドウに向けている。

「お、俺に何をしろというのだ」

 ゲンドウは少し焦りながら言う。

「そうだな、ユイさんの知らない悪行も含めて、償う姿勢を見せて、
ユイさんに許してもらうしかないんじゃないのか?」

「なんだ?・・・まだ、こいつにはあるのかね?」

 冬月が訊く。(あ、青筋が・・・いっぱい)

「知っているでしょ・・・
 ユイさんのライバルで、一番の親友だった【惣流キョウコ=ツエッペリン】を弐号機の生贄にし、
その娘アスカに、トラウマを持たせ、弐号機の事を中心にしか考えられない、
更に利用しやすいように変なプライドの塊に育てさせた事などですよ・・・
 今、彼女は【惣流アスカ=ラングレー】に、名前が代わってますがね・・・
 まだありますが、今は聞かない方が良いですね・・・
 いくら温厚な冬月副司令でも、その引き鉄を引いちまう」

 シンが平気な顔で言う。

「お、俺に何をしろと言うのだ!!」

 ゲンドウが呟くように言う。

「聞いてなかったのか? 償いだよ、償い!」

「ど、どうすれば良いんだ」

 ゲンドウは今まで人に疎まれる事は平気でしてきたが、人に感謝されたり、
罪を償った事がないので分らない(最低の奴)

「ココまで酷いとはな・・・冬月副司令」

 イキナリ、シンが真面目な口調に戻る。

「何かね?(う〜ん・・・撃ち抜きたい)」

 冬月はゲンドウの方を見ながら答える。(危ない事も考えているが・・・)

「言い難いから、今度から、貴方の事はおやっさんってだけで呼んで良いかな?」

 冬月は、シンの言い方に、どことなく自分に対する情のようなものを感じた。

「好きにしたまえ」

 冬月はシンに微笑みながら答えた。

「ありがとう、じゃぁ、ゲンドウ、人前じゃ、一応、司令って呼んでやるけど、
償いが終るまで、呼捨てにさせて貰うぞ、良いな・・・
 俺が再教育してやる・・・さっき、ユイさんと話し合ってきめた」

 ゲンドウには、シンの言い方の裏に、自分を哀れむようなを感じた。

「・・・あぁ・・・」

 力を落として、ゲンドウが答える。

「では、コレから幾つか言う・・・それは確実に守って貰うぞ!
 破ったら、俺は貴様がどうなろうと、感知しないし、俺はおやっさんと一緒に、
ユイさんの提唱した真の人類補完計画を発動させる! 邪魔をするなら、殺す! いいな!!」

 シンの目は真剣だったし、殺気も放っていた。

「あ、あぁ、わかった」

「では・・・・・・・」

 シンの言ったものは、ゲンドウには、多少苦痛はある物の、可能なものであった。

「そ、それだけで良いのか?」

 ゲンドウが、恐る恐る尋ねる。

「馬鹿言ってんじゃねぇ〜よ・・・
 俺が言ったのは、ネルフをユイさんの望んでいた姿にさせるのに、必要な事・・・
 ユイさんをサルベージする俺への基本的な代金と下準備及び、
貴様じゃ絶対に出来ない償いを肩代りする為だ・・・
 後は自分で考えるか、完全にサルベージの終ったユイさんに訊け」

「そ、そうか、しかし、何故そこまで俺を(ひろ)う?」

「決ってんだろう! お前はゼーレを潰す事を考えると、有った方がいいコマだ!
 まぁ、お前を消して、おやっさんを司令にしても良いんだが・・・
 一応、お前が現在司令って事で立ててやっているんだ。
 言わば、俺がやる再教育は、お前をユイさんの提唱する、真のネルフの司令として、
身を綺麗にする為の洗濯だ、一寸の虫にも五分の魂って言うだろ・・・
 それとも、死んでいた方が良いのか?」

 ゲンドウを睨むシンの目は本気で怖い。

「いや、ただ、不思議に思っただけだ・・・」

 ゲンドウは身震いする。

「それに、一応はレイちゃんの父親だ・・・最低だがな・・・
 じゃぁ、早速、約束は守ってもらうぞ、良いな」

「あぁ、至急手配する」

 ゲンドウが答える。

「おやっさんは、ゲンドウが馬鹿をやって、自分の首を絞めないように、
フォローと見張りをお願いする・・・」

「フッ、俺の役目はあまり変わらんか」

 苦笑しながら冬月は答えた。

「スマネェー・・・
 俺はユイさんの分割サルベージとか、レイちゃんの削られた魂の補完とかで、
忙しくなると思うから・・・それに、おやっさん自身の贖罪の一つとでも思ってくれ」

「あぁ、そうだな・・・それに、ワシはこの事に慣れているしな・・・
 他にもあったら言ってくれ、協力は惜しまん・・・
 しかし、未来の俺はお前とどんな関係だったんだ?」

 冬月が訊いて来る。

「育ての親であり、先生であり、親友だった・・・
 俺達の周りには、殆ど人間は残っちゃ居なかったからな・・・
 話に聞くと、俺の母さんになってくれた女性も、俺を生んでスグに他界したらしい・・・
 多分、あの世界には、全人口あわせても、四万人も居なかったと思うぜ、
殺し合いもあってたからな・・・
 俺達の周り、ネルフの生き残りでさえ、三十人も居なかったんだ・・・
 そんな世界を皆で転々と旅をしてたんだ・・・色々とやることがあって・・・」

「そうか・・・苦労をかけたんだな」

 目頭が熱くなる冬月。

「よせやい、その分、このゲンドウに苦労をかけさせるんだし、
あんな世界に居ても、おやっさんのおかげで、俺は結構幸せだったぜ!
 二人だけになってしまった時も」

「そうだな・・・碇、お前の償いの道は険しいぞ」

「・・・分っている、ユイに許されるまで、頑張るさ」

「その調子だ、ゲンドウ、早く俺に心から司令と呼ばせてくれよ、じゃぁな・・・
 俺は最初のサルベージ作業にかからせて貰う」

 そう言い残して、シンは執務室を出て行った。

「冬月先生」

「なんだ? 碇」

「あの男は口は悪いが、本当は俺の事までをも、本気で考えてくれているんですかね」

「フッ、俺にもそうとしか聞えんかったが?」

「口は悪いが、本当に強力な助っ人ですな・・・」

「どうやら、俺の孫か息子みたいなモノらしいからな」

 それとなく自慢したくなった子供の居ない冬月。

「冬月先生、今後ともヨロシクご指導ください」

 ゲンドウが深々と頭を下げる。

「あぁ、出来の悪い生徒を見るのも・・・教師の醍醐味だからな・・・
 まぁ、貴様は後輩だが・・・」

 冬月がゲンドウの銃を机に置きながら言った。

 それから、ネルフの内部はゼーレに感づかれる事も無く、劇的に変化していった。


                              続く




 さぁ、このエヴァは、エヴァが出てくるのに、シンジは殆どエヴァに乗る予定なし!

 しかも(一応)重要な役職につくのだ!

 電波で書いているが、既に次の話も七割以上、受け取ってるぞ!(多分)

 ちなみにシンは、一応、肉体的には、ある人物達(エヴァキャラ)の子供らしいぞ!

 ついでに言うが、ヒントは、綾波やユイ、ゲンドウ、シンジの碇ファミリーではない事は、
明言する。(ばれてる?)

 だって、レイとシンジは一応兄弟って設定になっているから・・・

 このコンセプトは・・・罰&ゲンドウにも最後には幸せを・・・(ちゃんと出来るかな?)

 さて、次回は第三使徒とシンジが来るぞ!・・・どうなるのだろう

 クククククク・・・・・・(とりもち、今、電波の受けすぎで少し壊れてます)



シンジ「新連載が始ったね」
レイ 「ええ、」
アスカ「新連載!?今度こそLASでしょうねぇ」
シンジ「さ、さぁ・・・僕にはまだなんとも・・・」
アスカ「ここの作者は皆してアタシのことを・・ぶつぶつぶつ・・」
シンジ「ははは」(苦笑)
レイ 「確かに、苦労人ね」
アスカ「でしょ!いいかげんアタシがいい目を見る話が合っても良いじゃないの!」
レイ 「その可能性はあるわね」
アスカ「分かってるじゃないの」
アスカ「で、今度の新作って奴を見せて御覧なさい」
シンジ「はい、とりもちさんの『ネオエヴァ〜友を想う心〜』だよ」
アスカ「・・・・」
シンジ「あれ?」
アスカ「とりもちだぁあああ〜〜〜!!!??」
    ビリビリビリ!!(読まずに破った)
アスカ「そんな汚らわしいもんこのアタシに見せんじゃないわよ!!」
シンジ「ア、アスカ」
アスカ「ふん!帰るわ!」
シンジ「あ・・帰っちゃった・・・」
レイ (・・・・でも、朋意シン・・彼が私の恋人になりそう・・
    ・・・では、碇君の恋人は誰になるの?)


冬月 「ふっ、俺が良い役どころだな」
碇  「・・・」
冬月 「こんな良い役どころは珍しいよ」
碇  「・・・・」
冬月 「いや、実に続きが楽しみだな、なぁ碇」
碇  「・・・さあな、」
冬月 「ユイ君にも無事会えそうだしな、まあどう言う再会になるかは分からんが、」
碇  「・・・・」
冬月 「碇、どうかしたのか?」
碇  「いや、気にするな。」
冬月 「そうか、まあ、良いとしよう。しかし、朋意シン、彼はいったい何者なのだろうな?」
碇  「さあな」
冬月 「今日はいつもにも増して無愛想だな」
碇  「気のせいだ。お前の方こそやけに上機嫌だな」
冬月 「それも気のせいだな」
碇  「そうか、」
冬月 「そうだな」