真夏の夜の悪夢

プロローグ

 「彼女の位置づけはチルドレンではあるが非戦闘員という事になっている。」
 ネルフ総司令・冬月コウゾウ。
 「なるほど、それならば一人だけ浮いた存在と言うのも頷けます。」
 日重共会長・時田シロウ。
 「しかし、子供達には仲良くなって貰わねばならんだろう。」
 戦略自衛隊特別機甲部隊司令・加藤ヘイゾウ。
 第三新東京市跡に再建されたネルフ本部にて、ネルフ・戦略自衛隊・日本重化学工業共同体のトップ三名による階段いや怪談もとい会談が行われていた。
 「その心配は無い。既に葛城三佐に対策を指示している。」
 果たして、冬月がミサトに指示した対策とは…?


 第二新東京市内・コンフォート12。
 『これは無念の死を遂げた者の怨霊が光という形で写真に写りこんだのです。丁寧な供養が必要でしょう。』
 葛城邸の居間のTVには、男性アイドル二人が司会をするミステリー番組の心霊写真コーナーが佳境に入っていた。
 「フィルムがおかしかったか、現像する時に何かミスしたんじゃないの?」
 「アスカは幽霊の類は信じないの?」
 「どうせ何かを見間違えただけでしょ?幽霊の正体見たり枯れすすき、ってね。」
 「それを言うなら枯れ尾花、だよ。」
 「うわーん、また間違えた〜。」
 頭を抱えるアスカに苦笑するシンジ。
 「まあ、ドイツ育ちのアスカには幽玄という言葉は理解できないでしょうね。」
 と更に追い討ちを掛けるようにからかうミサト。
 「大丈夫だよ、アスカ。知らないことは恥かしい事じゃないと思う。最初から何もかも知っている人間なんてこの世にいるわけ無いからね。」
 シンジはそう言ってアスカを慰めた。
 だが、かつて何でも知っている先輩がいたのだが…。
 「さて、そんなアスカにも幽玄を感じて貰おうというイベントがあるわ。」
 「イベント?」
 「それは…ズバリ、キ・モ・だ・め・し!」
 「…何それ?」
 アスカは早速知らない言葉が出てきたのでぽかんとしている。
 「ま、簡単に言えばお化け屋敷みたいなものだよ。」
 「シンジくん、それははっきり言って違うわ!」
 「え、そうですか?スリルを楽しむという点で同じだと思うけど…。」
 「全然違うわ!お化け屋敷は所詮人間の作り物。予期せぬタイミングで予想外のものが出現する、言わば驚愕を楽しむ場所。それに対し、キモだめしは深夜の墓地など、いかにも幽霊が現われそうないわゆる心霊スポットでどれだけ恐怖を我慢できるかという、人間の恐怖心に重きを置いた勝負事なのよ!」
 力説するミサトだが、何かずれていると思うのは気のせいだろうか?
 「でも、この街にそんな心霊スポットがあるんですか?」
 「ふっふっふ、それがあるのよン。」
 「どこですか?」
 「それを今言っちゃったら面白く無いでしょ。とにかく関係部署に交渉中だから、期待して待っててね。あー楽しみ。」


 翌日、第二新東京市立第一高校。
 “しかし、こんなものまでわざわざ作るなんて、ミサトさんも随分と乗り気だな。”
 昼休み、シンジは弁当を食べながらミサトから今朝手渡された書類を読んでいた。
 「おりょ?何やシンジィ、昼休みからもうプリントで予習か?随分とガリ勉になったもんやのう。」
 隣のクラスからトウジがやってきた。
 「まさかとは思うが、ひょっとしてネルフの極秘文書か?」
 ケンスケもシンジの傍にやってきた。
 「別に機密文書なんてものじゃないよ。キモだめしのマニュアルさ。」
 「キモだめしのマニュアル?」
 「何や、面白そうやんか。ちょっと見せてみいな。」
 その時。
 「トウジったら、こんな所で油売って。週番の仕事は!?」
 トウジのクラスの学級委員長のヒカリがトウジにお小言。高校生になって少しはおしとやかになったのか、以前のようにいきなり耳を引っ張るような事はしない。
 「わかっとるって。10分前になったらちゃんとやるがな。」
 「何々…キモだめしの心得…一つ、キモだめしは夏にやるべし。」
 「一年中夏だから問題無いな。」
 「キモだめしするならいつでもできる。」
 「二つ、キモだめしは夜にやるべし。」
 「そらそうやな。真昼間にやったって全然おもろないわ。」
 「三つ、キモだめしは男女のペア二人で行うべし。」
 「おう、ええなあそれも。夜の建物の中で二人で歩く男と女…何かの物音にびっくりして、『キャー!』って女から抱きつかれたりして、グフフフフフ。」
 「トウジったら、何バカな事言ってるのよ…。」
 何故か赤い顔で文句を言うヒカリ。何を想像したかは訊かなくてもわかる。
 「四つ、行う際はネルフ特製ゼッケンをつけること。」
 「特製ゼッケン?」
 「しかもネルフ特製って、何で?」
 「それはね、このキモだめしはどうやらネルフがスポンサーらしいからさ。そのキモだめしの場所がどこかはまだ聞いてないけど、いろいろな交渉ごとはミサトさんがしてくれてるんだ。」
 「うーむ、という事は、かなり本格的なものになりそうだな。」
 と感心しつつ、ケンスケはマニュアルの次の行を見た。
 「五つ、参加者はネルフ関係者及びそれに準じる者のみとする…どういう事?」
 「それはまだミサトさんも教えてくれない…。」
 「じゃあ、参加資格があるのは、ワシとシンジと惣流と綾波と渚の五人だけか?」
 「準じる者も入れれば、マナやムサシやケイタも資格有りと思うよ。」
 「お、俺はダメなのか?一応親父がネルフの職員だぞ?」
 「ミサトさんに頼んでみよう。」


 そして数日後、キモだめしの舞台となる場所に十数名の少年少女が集った。
 その顔ぶれは、シンジ、アスカ、レイ、トウジ、カヲルのチルドレン五名、マナ、ムサシ、ケイタのトライデント・チーム三名、さらにミサトに特別許可を貰ったケンスケとヒカリにマユミ。
 「そして、今回のスペシャル・ゲスト!マリイ・ビンセンス博士〜!」
 ミサトの高らかな紹介と共に現われたマリイは少々眠そうな顔。
 「こんな夜更けにこんな薄気味悪い所に集合して、一体何を行うのかしら?」
 「題して、第一回ネルフ納涼キモだめし大会〜。」
 「いよっ!」
 「待ってました〜!」
 トウジとマナが合いの手を入れて拍手する。
 「ちょっと質問いいッスか?」
 「はい、何でしょう、ムサシくん。」
 「まず、ここは何処なんですか?」
 「ここは、廃校となった聖美神女学園です。」
 「うわ、本格的だ。」
 「ケイタ、何か知ってるのか?」
 「この学校でかつて三人の美少女が怪死を遂げた事件があったんだ。名前はヨウコとかセイとかエリコだったかな?」
 ちなみに本当はヒロコとアカネとユミである。
 「怪死というと?」
 「一人は顔が焼けただれ、もう一人は全身が骨を残して溶けて、残る一人は首を切断されるという、惨たらしい姿で死んでいたんだ。」
 「うわ…。」
 「きゃ…。」
 「そして、それはキョウコという少女の怨霊による仕業だとか…この女子高はお嬢様学校だったけれど、実はその中に黒薔薇会という不良グループがあったんだ。そのメンバーの名前はアスカとかサエコとかアケミとかいって、キョウコをよくいじめていたらしい。で、キョウコはある日アスカ達に時計塔の中に閉じ込められてしまった。謎の失踪事件になったけど、アスカ達は口を噤んでいた為、キョウコはなかなか見つからなかった。見つかったのは何と一年後…もう、ミイラのようになっていたんだ。それから、キョウコの怨霊が現われて…。」
 「ケイタくん、キモだめしが始められないから、それぐらいにして貰えるかしら?」
 「あっ、すみません。」
 「えー、キモだめしを始めるに当たり、まずはペアを決めましょう。ちょうど男子も女子も六人ずついるから問題なし、と。」
 ミサトは紙を一枚広げた。それは途中の線を隠したアミダクジだった。
 「男子は上に、女子は下に自分の名前を書いてください。線で結ばれた二人がペアとなります。」
 「はいはい、私が最初ー!」
 アスカがイの一番に自分の名前を書き込んだ。
 「やっぱりこういうのは先手必勝よね。」
 「アスカ、その言葉は使いどころを間違えてるよ…。」
 シンジは残り物には福があるとばかりに一番最後に残った所に自分の名前を書き込んだ。
 「それでは、アミダクジをオープン!」
 ミサトは途中の線を覆っていた紙を剥がすと、歌いながら線を辿っていく。
 「♪アッミダックジ〜、アッミダックジ〜。」
 そして、抽選の結果、ペアは次のとおりとなった。
 シンジとアスカ、レイとカヲル、トウジとヒカリ、ケンスケとマユミ、マナとムサシ、ケイタとマリイ。
 「んー、期待通りのカップリングになったわね。」
 断っておくが、ミサトはクジに細工はしていない。(ちなみに細工したのは作者です。)
 「や、山岸さん、よろしく…。」
 「こ、こちらこそ…。」
 「よろしくね、マリイ博士。」
 「頼りにしていますわ。」
 他の4組と違ってこちらの2組はあまり男女のペアになった経験がないらしい。
 「はい、ペアが決まったところで、次にチェックポイントについて説明します。」
 ミサトは次に各ペアに一枚ずつ紙を配った。それはこの廃校の地図だった。
 「えー、今渡した地図にチェックポイントが6つ記されています。各ペアはそのうちのどれか一つに行って私が昼間に置いた証拠物件を持って帰って貰います。」
 続いてミサトは箱を取り出した。
 「この中にチェックポイントと証拠物件を書いた紙が入っています。どこになるか、ドキドキわくわくの抽選スタート!」
 わっと6人が群がってクジを引いた。(抽選の結果は後でわかります。)
 「後、最後に一つ。スタートして1時間以内に戻ってくるように。時間をオーバーしたペアは…後でペナルティがあります。ペナルティの内容はまだ未定ですが。」
 「葛城三佐の手料理を食べる、とか?」
 「それは危険だね。自殺行為とも言えるだろう。」
 「レイにカヲルくん、何か言ったかしら?」
 「いえ、何も。」
 「じゃあ、準備はこれでお終い。各ペアはライトを二つ持っていくように。それでは、キモだめし、スタート〜。」
 ♪ゼッケンはどうした〜?(予算の都合で無しになったらしい。)

 (ここで好きなペアを選んでください。)

        〈シンジ+アスカ〉        〈トウジ+ヒカリ〉

        〈レイ+カヲル〉         〈ケンスケ+マユミ〉

        〈マナ+ムサシ〉         〈ケイタ+マリイ〉