超人機エヴァンゲリオン 2

第9話

クリスマスかくし芸大会

 12月。
 第一中は二学期の最終日、つまり終業式の後、クリスマスかくし芸大会が行われる。
 これは、高校受験で何かと息苦しい三年生のストレス発散の場として生徒会により毎年企画されている催しである。
 演目は自由。参加者は、クラブ・個人及び有志等、クラス単位でなくてもOK。ただし、一つだけ制約がある。それは、仮装・コスプレする事であった。無論、何かと忙しい三年生の為にその仮装・コスプレも怪傑ゾロみたいなマスク一つでもOKとはなっていた。

 「という事で、今日のホームルームの議題はクリスマスのパーティーについてです。まず、演目にクラスで参加するかどうかを決めようと思いますが…。」
 「受験勉強で忙しいんだから、そんなの参加しなくてもいいんじゃない?」
 「いえ、その受験勉強のストレス発散の為だから、できれば参加すべきと思う。」
 「でも、それで勉強がおろそかになっちゃったら、元も子も無いわよね。」
 「じゃあ、勉強に悪影響が出ないよう、簡単な演目にするしかないよな。」
 「それなら、合唱とかどうかな?それも、合唱コンクールの時に唄ったような堅苦しい曲じゃなくて、ポップスとか課謡曲とかアニメの主題歌でもいいんじゃない?カラオケみたいにみんなで楽しく唄えれば、ストレス発散になると思うよ。」
 「流石シンジくん。いい事言うねぇ。」
 「歌は心を癒してくれるからね。」
 「まあ、それなら手軽でよさそうやな。よし、ワシも合唱に賛成や!」
 結局、シンジの提案が採用され、3−Aは合唱をする事に決まった。
 さらに、何を唄うか?その曲目は、かくし芸実行委員として任命されたシンジ達黄金の七人+1が決める事になった。
 「さて、唄う曲目だけど…。」
 「どうやら、合唱だと簡単だから毎年どのクラスもやってて、その年の流行曲とか使うから被る事も多いそうよ。」
 「だったら、他のクラスと調整会議行ったらどう?」
 「あかん!それやったらおもろ無いやろ!何が出てくるかわからんのが楽しいんやないか。」
 「あ、そうだ、ソラミミってのはどう?」
 「ああ、例の外国の曲の歌詞が日本語っぽく聞こえるってやつだね。」
 「でも、それは映像があるから面白いんだぜ?唄ってるだけじゃウケないって。」
 「あら?映像の事なら相田くんにおまかせじゃないの?」
 「おいおい、簡単な演目だって言ったじゃんか。確かに映像を作るのは好きだけど、できれば今は勉強に集中したいんだよな…。」
 「じゃあ、そんなに凝った映像じゃなければいいんじゃない?たとえばOHPで投写するとか。」
 「そうか、それならコピー機使えば簡単だわ。」
 「すると、次は何の曲をソラミミにするか…。」
 「何か無い?言いだしっぺの綾野さん。」
 「【もすかう】なんてどうかな?TVのソラミミって1フレーズばっかりだけど、【もすかう】はフルコーラスでソラミミにできるそうよ。」
 「それってどんなの?」
 「百聞は一見に如かず。実際に見てみましょう。葛城先生、パソコン貸して頂けませんか?」
 「はいはい。ホント、貴方達は何事にも熱心ねぇ。感心しちゃうわ。」
 ミサトはパソコンをリビングのテーブルに持ってきた。既にNETには繋がっている。
 レミは検索をかけて、映像を見つけ出した。
 それは、ドイツの<ジンギスカン>という六人組のグループが唄っている【目指せモスクワ】が元になっていた。
 『♪もすかうもすかう、夢見るアンディさん、オッサンですかシャアですか、わはははは、HEY!』
 その見事なFLASHに一同は大爆笑した。
 「こ、これはイイ!絶対ウケルわ!間違い無い!」
 一緒に見ていたミサトも大笑いだった。
 「あとね、もう一つ見て欲しい映像があるの。実際に<ジンギスカン>が唄ってる映像なんだけど。」
 レミがみんなに見せた映像は確かに言ったとおり、ドイツのTV番組で<ジンギスカン>が【目指せモスクワ】を歌っているものだった。
 「カラフルな衣装だね。」
 「この色だったら、何とか戦隊にも見えちゃうわね。」
 そう、その映像の<ジンギスカン>は、六人が其々、白(+赤)・黄・青・赤・緑・黒のコスチュームを着ていたのだ。
 「はい、そこで提案です。このコスプレをして踊るというのはどうでしょう?」
 「ええっ?」
 「おお、面白そうじゃない。」
 「いや、ミサト先生は面白くていいかもしれませんが…。」
 「衣装はどうするんですか?また、ナッちゃんにお願いするんですか?」
 「今から六人分か…いくらナツキが裁縫上手でも、そらちょっと無理ですわ。」
 「あら…無理ですか…。」
 いい策が思いつかず、一同が首を捻っていると、レイがぽつりと言った。
 「…プラグスーツで代用したら?」
 「レ、レイっ!?」
 「綾野さんがいるのよ!」
 ミサトとアスカは大慌て。
 昔の事は話さないように…それが、元ネルフ関係者達の不文律だった。他人に余計な知識を与えれば、それがどんな悪影響を自分達あるいは相手に及ぼすかわからないからだ。しかし、しっかりとレミはその言葉を聞いてしまっていた。
 「何でしょう、そのプラグスーツというのは?」
 レイは自分の失敗に気づいた。
 「あ…申し訳ありません、葛城三佐…。」
 「わあぁーっ!それ以上言うなーっ!」
 「葛城三佐?三佐って、軍隊とかの階級じゃなかったっけ?」
 「い、いえいえ、何でもないのよ綾野さん。」
 「ファーストが言った二つの言葉は忘れてくれないかしら?」
 「ファースト?」
 「バカ、アスカも何言ってんのよ!」
 「あ…。」
 アスカも自分のミスに気づいて両手で口を覆った。
 ネルフの直接の関連者ではないが、事情を知っているケンスケとヒカリも黙っている。
 何だか空気が重く感じる、静寂なひと時…皆さん、いかがお過ごしでしょうか?みんなはどうやって過ごせばいいのかわからなかった。
 「皆さん、あの第三新東京市から来られたという事で、何か訳有りのようですね。」
 「綾野さん、その訳は言えないのよ。それを知ったら、もしかしたら貴女にも迷惑が掛かるかもしれないから。」
 「葛城先生。その言い方からすると、詳細は不明ですが朧気にはわかってしまいますよ。何か危険な事だって…。」
 「!…す、鋭い…。」(このコ…何となく、誰かに…。)
 「だから、私はこれで帰ります。」
 レミは鞄を持って椅子から立った。
 「ミサト、彼女をこのまま帰していいの?」
 「安心して。今日聞いた四つの事は誰にも喋らないから。」
 「四つ?」
 「葛城先生を名前で呼び捨てにするなんて、とっても親しい間柄なのね。」
 「げ!」
 「アスカはもう、何も喋らない方がいいよ…。」
 「あ、最後に一つだけ…そのプラグスーツとかがダメだったら、全身タイツという案もあるわ。あれって色のバリエーションは割と豊富だから。それでは失礼します。みなさん、ごきげんよう。」
 レミは丁寧な挨拶をしてミサト邸を辞した。
 「…ごめんなさい、私の不用意な一言で…。」
 レイは頭を下げた。自分のミスからアスカやミサトのミスも誘発させたからだ。
 「綾波、過ぎた事は言っても仕方ないよ。」
 「そうそう、あいつはオナゴにしてはなかなか侠気のある奴や。遠足の時もちゃんと秘密を守ってくれたし。」
 「お、おい、トウジ!何言ってんだよ!」
 ケンスケの反応をチラっと見たヒカリはトウジに氷の?微笑を向けた。
 「ねえ、トウジ。遠足の時の秘密って何の事?」
 「そう言えば、あの本はいつ返してくれるんですか、ミサト先生。」
 「渚も空気を読めよ!」
 「本?あ、あれ…あれはねぇ…。」
 ミサトは明後日の方向を見ながら首筋をポリポリと掻いた。あの、中学生に対しては過激すぎる18禁写真集は、とっくに大学時代の友人(現在プロの漫画家)に資料として売り飛ばしていたりする。
 「何を言ってるんだい?空気のどこに文字が書いてるのか、教えて欲しいねぇ。」
 「そういう事言ってんじゃないっての!」
 何の為にここに集ったのかも忘れてみんな大騒ぎ。
 と、そこに加持が大きな紙袋を抱えて帰ってきた。
 「はっはっは、相変わらず賑やかだな。うむ、元気があって大変よろしい。」
 「あ、加持さん、お帰りなさい。」
 「お邪魔してます。」
 「おいおい、シンジくん。加持先生と呼んで貰いたいなぁ。」
 「あ〜、ついにシンジもうっかり発言。」
 「い、いいじゃないか、綾野さんはもう帰ったんだし。」
 「何だかいつもより早い御帰還ね。」
 「ああ、最初からいきなり大当たりさ。戦利品もホレ、このとおり。」
 加持の抱えた紙袋はぎっしりと物が詰まっていた。
 各自に缶ジュース一本とパーティー用にビッグサイズのポテチ等がテーブルに置かれた。
 「それで、今日は何の会議をやってるんだ?」
 「「「「「「「あ、忘れてた!!!!!!!」」」」」」」
 結局、レミが見せてくれたFLASHを元に七人でOHPの資料を準備し、衣装も全身タイツをレンタルして揃える事になった。

 ミサト邸から帰る道すがら。
 「ああ、今日は失敗しちゃったな…義父様にもお詫びしなくちゃ…。」
 「大丈夫だよ、アスカ。心配する事無いって。」
 「どうして?」
 「綾野さんが、僕達の想像している人物なら、決して悪い方に行く筈が無いと思うから。」
 「確かに…でも、今までも、私達の想像の遥か斜め上を行っていたし…。」
 「それは、彼女の事をほとんど何も知らなかった時だよ。今は彼女の事をある程度知ってるから…例えば、仮装は三年生は簡単なものでOKって言われてるけど、彼女だったら…。」
 「また何か凄いカッコに変身する可能性大ね。成る程、シンジの言う事、よくわかった。」
 「あとは、言葉に隙を作られないようにする事だね。」
 「例えば?」
 「アスカと綾波はずっとお互いの事を名前で呼んでこなかった。だからあのミスをしたんだよ。」
 「ま、まあ、それは一理あるけど…じゃあ、何?あいつと名前で呼び合う事にするの?」
 「うん。いい機会だよ。ホント言うと、僕はアスカと綾波にはもっと仲良くなって貰いたいんだ。」
 「そんな、冗談じゃないわ!だって、あいつはお邪魔虫じゃない!おまけにシンジとの事だって横恋慕だし。」
 「確かにね。でも、アスカが僕の前に現れる前に、僕と綾波には絆ができたんだ。」
 「シンジ…どういう事?」
 「今ここで詳しくは言えないだろ?だからよく考えてよ。僕達が何をやってきたか…。」
 「う…うん…。」
 謎の生命体、[使徒]から人類を守る為の命懸けの戦い…。
 「だから、僕と綾波の間には同じ仲間として相手を想い合う絆ができた。でも、その頃の僕と綾波はそれを恋愛関係だとは思っていなかった。そんな時にアスカがやってきた。最初は高飛車で高慢ちきで、ひどい性格ブスだと思ったよ。」
 「それは悪うござんしたね。」
 アスカは舌をベーと出して可愛く悪態をついた。
 「でも、時間が経つに連れて僕はアスカの態度に慣れてきた。逆に、アスカが諺とかいろいろ失敗したりするのが逆に可愛くなってきた。いつの間にか、綾波よりもアスカの方が僕にとって大きい存在になっていた。」
 「あ…。」
 最初の失敗は諺‘虎の威を借るタヌキ(←キツネ)’だった。アスカは思わず赤面。
 「アスカが僕の為に泣いてくれたのを見て、僕は決心できたんだ。アスカに好きだって言おうって。」
 「う、うん…。」
 「アスカも僕の事を好きだって言ってくれたから、とても嬉しかったよ。」
 「シンジ…。」
 アスカはシンジの腕に縋り付いた。
 「私もね、初めて見たシンジは冴えない奴だと思った。どこにでもいる平凡な男の子に見えた。鈴原と相田がいたからかもしれないけど。」
 「はは…。」
 「でも、二人で一緒に戦った時、シンジの顔はとっても凛々しく見えた。その時からもしかしたら、私はシンジを好きになってたのかもしれない。でも、その後、あのゲームでシンジが全然私について来れないもんだから、その想いは心の隅に追いやられて見えなくなっちゃった。」
 「あ、ゴメン。」
 「ううん、いいの。それで、ある晩、私が寝惚けていて寝床を間違えたでしょ?でも、シンジは自分が移動して私を起こさないで置いてくれた。私が悪かったのに…あの時はゴメンなさい。」
 「いや、もうとっくに時効だよ。」
 「とにかく、シンジはいつも真摯で優しくて一生懸命だった。私の命も救ってくれた。それも二回も。なのに、私はシンジに我儘ばっかり言って…シンジの方が強いとわかったのが悔しかったからだと思う。シンジと会えなくなっても私は悪態ついて…でも、一人になったら私は思いっきり泣いた。自分は一体何をしているんだろうって…それで…あー、上手く言えないけど、シンジの事を認めたのね。すると、心の隅っこに行ってた想いが戻ってきて、胸いっぱいに広がった。後は、シンジと同じよ。」
 「アスカ…。」
 「シンジ…。」
 公園内の外灯に照らされる中、二人は見つめ合った。
 その時。
 「ヒューヒュー、ガキどもが見せ付けてくれるねー。」
 高校生か大学生か、いや学校には行っていないと思うがそれぐらいの年齢の不良かヤンキーかチンピラが二人、前から歩いてきた。
 「女の方は結構キレイじゃねーか。」
 「そんな奴は放っておいて、俺達と大人の楽しみをしようじゃん?」
 近道をして公園内を通って来たのがまずかった。以前と違って今は黒服の護衛はいない。
 アスカは以前に格闘術を習った経験があるが、シンジの方は修学旅行で空手の基礎を教えて貰ったぐらいである。
 防犯ブザーを鳴らしながら後方に逃げようか、と思ったその時。
 「「グォォォーーーンッ!!」」
 何か黒い獣がどこからともなく現われ、咆哮を上げながら不良かヤンキーかチンピラに襲い掛かった。
 「ぎゃあああーっ!何だこいつらぁっ!?」
 「い、痛えぇーっ、や、やめろおぉっ!!」
 咬まれたり引っ掻かれた不良かヤンキーかチンピラは、二匹の謎の獣に追いかけられ、明後日の方向に逃げていった。
 シンジとアスカは呆気に取られて呆然とそれを見送った。
 「今の…何?」
 「黒豹?」
 ♪江戸の黒豹〜
 …もとい、それは豹ではなく、山犬と山猫だった…のだが、それはこの際どうでもいい。
 「…えーと、何を話していたんだっけ?」
 「…途中で話が脱線したような気もするけど、綾波の事だった筈だよ。」
 「そうだっけ?」
 「えーと…僕と綾波の間に絆ができたけど、その後やってきたアスカと僕は好きどうしになった。でも、綾波は僕との絆についてそれが恋愛感情だと気づいたんだ。だけど、何しろ綾波だから、それが横恋慕と言う事がわからない。アスカは不満と思うけど、僕も綾波を傷つけたくはなかった。」
 それから先は以前にシンジから聞かされた。リリスの中にエヴァ初号機ごと溶け込んで一つになり、シンジは流されるままリリスの心と交合した(三回も)。でも、リリスの想いを受け止めた事が逆に功を奏し、クミの尽力もあってユイ、キョウコ、ハルカの三人は復活を遂げたのである。
 「八方美人と言われるかもしれないけれど、僕は…いや、誰も本当は他人を傷つけたくないと思うんだ。逆に平気で他人を傷つけようとする人は根っからの極悪人だよ。さっきの連中みたいな…。」
 「…うん…誰かが得をしたら誰かが損をしている、勝者があったら必ず敗者もいる…仕方がないとは思うけど…確かに傷つく人を見るのは嫌ね…。」
 「綾波には、誰か支える人が必要だ。でも、それは僕だけではなく、みんなで支えるべきなんだ。」
 「でも、私達はいつか死ぬわ。永遠に生きられる人なんて、きっと…。」

 二人が去った公園の片隅に少女が一人佇んでいた。いや、正確に言えば、その少女一人だけではなく、その前に二匹の黒い獣が鎮座していた。
 「あなた達、二人を守ってくれて有難う。」
 「わぉん。」
 「にゃー。」
 少女に頭を撫でられた二匹の獣は闇の中にその姿をかき消していった。



EXTRA HUMANOIDELIC MACHINARY EVANGELION2

CHILDREN’S GRAFFITI

EPISODE:9 A parlor trick meet in Christmas



 「おめでとう、シンジくんに洞木さん。新武蔵野高校への推薦、合格だって。」
 「「本当ですか!?」」
 「ええ。これがその書類よ。」
 「…やった…頑張った甲斐があったわ…。」
 「おめでとう、委員長。」
 「碇くんもおめでとう。」
 「これで二人とも第一志望に入学できる事になったから、一応、受験勉強とはおさらば…という事になるけど、だからと言ってもう全く勉強しなくていい訳ではないからね。新武蔵野高校はレベルが高いから、中学での勉強が不十分だったらあっという間に置いていかれるわ。後々の事を考えてこれからも日々勉強よ。まあ、これから試験を受ける他の生徒達みたいに根を詰める必要はないけどね。」
 「はい。」
 「わかりました。」
 二人が職員室を出ると、いつもの仲間が待っていた。
 「シンジ、何だったの?」
 「僕と委員長、新武蔵野高校に推薦で合格だって。」
 「ホンマか!」
 「ええ。」
 五人の仲間は一斉に歓声を上げて拍手した。
 「よかったわね。」
 「おめでとう。」
 「おめでとさん。」
 「めでたいねぇ。」
 「おめでた。」
 「…アスカ、それは使いどころが間違ってるわ…。」
 シンジとヒカリが仲間達の「おめでとう。」のカーテンコールを受けていたその時。
 「君達、何を騒いでるんだ?もう、下校時間だから帰りなさい。(第二部9話目にしてようやく初セリフだよ、やったぜ!)」
 「はーい、失礼しまーす。」
 シンジ達が去っていく背後で、ロンゲの男は何故か心の中でガッツポーズをしていた。でも、名前は呼ばれていないのだが…。

 「トウジはどこを目指すの?」
 「そうやな…ヒカリと同じ新武蔵野はレベル的には無理だし…市立工業高校かのう…。」
 「私もトウジと高校が違うのは残念だけど。」
 「でも、離れている方が相手を想う気持ちは強く大きくなるとも言うからねぇ。」
 「まあ、工業高校だから殆ど男子ばっかりだろうし、浮気の心配は無さそうね。」
 「もう、アスカったら。」
 「何言うてんねん!ワシは浮気はせえへん!」
 「本当に?」
 「…多分。」
 「多分って何よ!」
 「まちょっと覚悟はしておけ…つーのは勿論冗談やっ!!」
 ヒカリが大魔神になりかけたのでトウジは慌てて弁解。
 「ケンスケは?」
 「俺も新武蔵野を目指す。」
 「受かる自信はあるのかい?」
 「そんなのやってみなくちゃわからないさ。ま、何でそこを目指すかというとな、実はあそこの映研は凄いんだよ。今までに何人も新進気鋭の映像クリエイターを輩出している。だから俺も、是非あそこで腕を磨いてみたいのさ。」
 「すると、今までのクラブ活動の実績でアピールするという事だね?」
 「まあな。惣流もそうなんだろ?」
 「勿論。」
 「でも、惣流さんは確かドイツで大学を卒業してる筈だろう?今更高校を受験する必要があるのかい?」
 「だって、シンジと同じ高校に通いたいもの。」
 「あ、やっぱり…。」
 「じゃあ、アスカは国語をもっと強化しないとね。」
 「特に諺・慣用句だね。」
 「犬も歩けば?」
 「…猫も歩く?」
 「逃がした魚は?」
 「…泳いでる?」
 「腐っても?」
 「…食う?」
 「………大変だ、こりゃ………。」
 その日のうちにシンジはアスカに諺・慣用句辞典を購入させた。

 「♪おっさん、ボートでヘイコラホ〜〜〜〜(HEY、HEY、HEY、HEY!)」
 シンジのマンションの屋上で六人はダンスの練習をしていた。振り付けのチェックをしているのはケンスケ。
 今回、レミの提案したダンスの採用に最初に賛成したのは実はレイだった。
 「珍しいね、綾波が最初に賛成したなんて。」
 「そう?でも、楽しそうだったから…。」
 「で、誰が誰をやるんや?」
 「はい!私レッド!」
 「アスカ、ナントカ戦隊じゃないんだから…。」
 「まあ、いいじゃないか。惣流がレッドなら綾波がホワイト、シンジがブルー、グリーンはトウジでブラックが渚、残るイエローは女性だから委員長ってところだな。」
 「ケンスケは?」
 「映像担当及び総合監修だ。いいだろ?」
 「そうやな、元々映像についてはケンスケの右に出るものはおらんし、ピッタリちゃうか?」
 「確かにそうだね。こういう事を適材適所と言うんだよ、アスカ。」
 「適材適所、ね…メモメモ…ん?すると、ダンスの中央は…レイって事になるじゃないの!」
 「それがどうかして?」
 「あんた、自分がメインになれるから味一番に賛成したんでしょ!?」
 「フフッ。」
 「あー、ちなみにそこは味一番じゃなくてイの一番だからね、アスカ。」
 「イの一番、ね…メモメモ…。」
 シンジに教えて貰った事をすかさず単語帳にメモするアスカ。
 「熱心だねぇ、惣流さん。」
 「こうやって間違えた時にメモっておけば忘れないって、TVでやってたのよ。」
 「フッ…英単語ならまだしも、諺・慣用句の単語帳なんて、アスカぐらいのものね。」
 「うるさいわね。私は英語もドイツ語も話せるんだから今更習う必要は無いの。そう言うレイも一般常識の単語帳作っておいた方がいいんじゃないの?」
 等と言い合うアスカとレイそれにカヲルを見てトウジ、ケンスケ、ヒカリの三人は不思議そうな顔をした。
 「惣流と綾波が名前で呼び合っとる…。」
 「これって…青天の霹靂と言うのか?」
 「碇くん、どうなってるの?」
 「まあ、此間の事もあって、ちょっと考えたんだ…。」

 ミサト邸でひと騒ぎあった翌日、シンジはアスカを連れてリツコ邸を訪れた。
 玄関のドアを開けたリツコは目を丸くした。
 「あら、貴方達が来るなんて珍しいじゃない。どうぞ、お上がりなさい。」
 「「お邪魔しまーす。」」
 シンジとアスカの声を聞いて、リビングで一緒に勉強していたレイとカヲルはすぐさま玄関に駆けつけた。
 「碇くん!私に会いに来てくれたのね!」
 「でも、惣流さんも一緒という事は…?」
 「リツコさん、ミサトさんから昨日の事、聞いてます?」
 「まあ、一応ね。今日はその事について?」
 「はい。ちょっと考えたんですけど…。」
 リビングに通されたシンジ達はリツコの入れたコーヒーを一口飲んでから切り出した。
 「ほら、アスカ。自分から言わなくちゃ…。」
 「う、うん、そうね…えー、昨日の失敗の事はこっちに置いといて、とにかくダンスを成功させる為には、やはりお互いの関係が上手くいっていなきゃダメだわ。」
 「それはまあ、確かにね。‘以和為貴(和を以って貴しと為す)’と言うように、何事もチームワークが大切だし。」
 「流石はカヲルくん。勉強してるね。」
 「シンジ、何の事?」
 「ああ、ゴメン、話の腰を折っちゃったね。後で説明するから、アスカは続きを…。」
 「それで、古い話になるんだけど、前に第七使徒を倒す為に、私とシンジはダンスの特訓をした。最初は息が合わなかったけど…。」
 「私は最初から碇くんと合わせられたわ。今にして思えば、相性が良かったという事になるのかしら?」
 レイのお惚気にアスカは少々ムカついたが、“人間、ガマンが辛抱肝心よ。”と思い直した。
 「それで、どうやって息を合わせる事ができたんだい?」
 「名前で呼び合う事にしたの。私達は人類の存亡を賭けた戦いに赴くパートナー、もっと親密にならないといけなかった。ま、その甲斐あって今はお互いに生涯のパートナーになったけどね。」
 アスカのお惚気返しにレイは少々ムカついたが、“怒ったら負けよ。”と思って我慢した。
 「結局、何が言いたいの?」
 「…ここまで言ってわからないの?」
 「クリスマスのダンスを成功させる為に、今度も名前で呼び合おうという事ね。」
 流石にリツコは理解が早かった。
 「成る程…いつかシンジくんも言っていたね。もう、とっくに戦いは終わったんだし、いつまでもファースト・セカンドじゃいけない、って。」
 「二人にはもっと仲良くして欲しい…僕はそう願ってるんだ。」
 「…碇くん…私は貴方が好き…でも、彼女も貴方を好き…つまり、私達はライバルではないの?」
 “恋敵…と言った方がしっくりくるけど、黙っていよう…。”
 「それは認めるわ。ついでだから、もう一つ認めている事を教えてあげる。もし…万が一、私が死んでしまったら、シンジの事を託せるのは貴女しかいないわ、レイ。」
 「ア、アスカ、そんな事いきなり…アスカが死ぬなんて事…考えたくも無いよ…。」
 「あくまでも、もしもの話だってば。」
 「フフッ…恩讐の彼方に、とまで言うのは大袈裟だけど、まあ、そういう事ね。」
 似たような立場にあるリツコならではの言葉だった。
 「さて、どうするんだい、レイくん?」
 アスカとレイが仲良くする事をシンジが望んでいる、アスカはレイの事をある意味で信頼している、そしてダンスが上手くいくように努力する…そこまで理由があるのなら、レイが拒否する理由は見つからなかった。
 「…わかったわ…これからは、貴女をアスカと呼ぶ事にする。それでいいのね?」
 「ええ。」

 「以上が事の次第さ。」
 「成る程のう。これがホントの棚からバター飴やな。」
 「それを言うなら棚からボタ餅!しかも、意味が間違ってるわよ!」
 「それじゃ、アレだ…失敗は成功のマザー、だろ?」
 「怪我の功名!」
 諺は、文脈の意味を良く調べて、用法を守って正しく使いましょう。
 それはともかく、終業式の一週間前の日曜日の今日は、各自で練習してきたダンスを合わせてみている訳だ。
 「おっ、やってるわね。」
 ミサトが何やら紙袋を二つ抱えてやってきた。
 「ミサト先生、差し入れですか?」
 「それは見てのお楽しみ。」
 だが、紙袋から出てきたのは、光沢のある生地でできた、白や赤や青や黄や緑や黒の衣装が全部で6着。つまり、みんなの衣装だった。
 そしてもう一つの紙袋に入っていたのは、ロングのウィッグと顎のつけヒゲ、そして禿げヅラだった。
 「何でこんなものが?」
 「綾野さん曰く、やるからには本格的に…という事で、TOQ5に行ってパーティーグッズのコーナーから買ってきたのよ。」
 ロングのウィッグはトウジ、顎のつけヒゲはレイ、そして禿げヅラを付ける事になったのはシンジだった。
 「あっはっはっは、いい味出してるわよ、シンジくん。」
 ミサトは禿げヅラを付けたシンジを見て大笑い。
 「一ついい事を教えましょう、ミサトさん。笑い過ぎると顔にシワが増えますよ。」
 「んぐっ…。」
 「おっ、流石はシンジ。見事な切り返しじゃないか。」
 「ただ今の決まり手は切り返し、切り返しでシンジの勝ち〜。」
 ケンスケとトウジの即興漫才?でさらに笑い声が大きくなった。

 そして、迎えた二学期の終業式は特に何も盛り上がる事無く終了し、午後からはクリスマスかくし芸大会が始まった。
 有志による漫才、バンド演奏、どっかのサラ金CMのダンス、某黒服映画の格闘シーンの再現、某格闘ゲームのシーンの再現、お笑いプロレス、各クラブ伝統の宴会芸、クラス単位だとやはりみんなでアカペラーズやみんなでゴスペラーズ等の合唱系が多かった。
 そして、それを見ている生徒達のコスプレもアニメ系(ヤッターマン1号・2号&悪の三人組、ギャラクシー・エンジェルの蘭花、チャイニーズ・エンジェル鈴々、トップをねらえ!のノリコ等々)を筆頭にゲーム系(デ・ジ・キャラットのでじこ&うさだ、メイドコマンドー☆みゆき、聖コンプティーク学園制服等々)、スポーツ系(女子プロレスラー、フィギュアスケート、チアリーダー、エアロビのインストラクター、レースクイーン等々)、職業系(バレリーナ、パティシェ、巫女、シスター、婦警、看護婦、保母、スーパーモデル、アイドル歌手、アンナミラーズの制服、宇宙飛行士等々)、その他(ウェディングドレス、十二単、ゲーマー(嵐?)、マッド・サイエンティスト?女怪盗?スケバン?等々)と、多種多様であった。ちなみにシンジ達は例の衣装、ケンスケはまたしてもエヴァ初号機の着グルミ(どうやら気に入ったらしい)だった。また、コスプレといえば体育祭の時のように、手芸部がこれまでに作成した衣装もあらかたほとんど借り出されていた。
 そして、シンジ達が注目していたレミは…何と露出の激しいビキニ・アーマーを身に纏って現れた。出典は不明だが何かのアニメかゲームのキャラクターらしい。
 「相変わらず、綾野さんは凄いカッコだねぇ…。」
 「一応、説明しておくけど、ちゃんと肌色の全身タイツをまず着てから、その上にこのビキニ・アーマーを装着してるのよ。」
 「何や、ワシはてっきり夏祭りの時のサンバの衣装みたく、素肌に着てるもんやと思ったがな。」
 「がっかりさせて悪かったわね。だって、校内だからもしかしたら先生達がうるさいかと思ってさ。まあ、あの時みたいに外だったら、素肌に着てたかもね。(ホントはこれってコスプレじゃないのよね…。)」
 「うーん…だけどさ、俺達の演目の時にそのカッコだとちょっとマズイかな…。」
 「はいはい、その時は他の人達の後ろに入って目立たないようにしてるから。」
 そして、いよいよシンジ達3−Aの番がやってきた。
 単調ではあるが軽妙なイントロに乗ってダンス・ユニットの六人が登場、そしてその後方やや上部にはスクリーンが下げられた。
 「♪もすかう〜、塩分って入るんすか、コレ?爪をそっとポイッ、帰りなさい…。」
 ケンスケからプリントで配られた歌詞を見ながら、他のクラスメート達が唄い始めた。
 同時にケンスケはバックのスクリーンにネタをスライド映写していく。さらに、ダンス・ユニットも振り付けを忠実に(ブルー役のシンジは踊りを間違えるところまでわざと)再現した。
結果、このソラミミ合唱はステージ下の観客達に大爆笑を巻き起こし、終了と同時に大喝采を浴びることになった。
 「すごい…みんなが私達に拍手してる…。」
 「みんな、楽しんでくれたみたいだね。」
 「何だか、とっても嬉しいような気がする…そして、この想いは…心地良い…。」
 「僕も同感だよ。やはり、歌はリリンの生み出した文化の極みだね。」
 レイとカヲルがステージの余韻を感じながら、壇上から下の観客達を眺めていると。
 「あんた達、何二人でボ〜ッとしてるの?さっさと退場よ。」
 アスカの声で二人ははっと気づき、アスカに続いてステージ脇へ退場した。
 そして、フィナーレは音楽部によるベートーベンの第九交響曲の「歓喜の歌」が合唱され、クリスマスかくし芸大会は幕を閉じた。




超人機エヴァンゲリオン2 中学生日記

第9話「クリスマスかくし芸大会」

完
あとがき