HORRIBLE FANTASIA

CHAPTER2 THE FIST OF AIDA
EPISODE1「THE MAN WHO APPEARED!」

 西暦2015年。
 世界はサードインパクトの嵐に包まれた。
 だが、人類は絶滅してはいなかった。


 荒野を進む一台のトラック。
 それをバイクに乗った集団が丘の上から見ていた。
 集団の頭目らしき男が指を鳴らして合図した。するとすぐに集団は奇声を上げながらバイクで丘を駆け降りてトラックを追いかけ始めた。
 トラックに乗っていた人々はすぐに襲撃に気付いた。
 「ゼーレだ!ゼーレが襲ってきた!」
 「もっとスピードを上げろ!」
 「ダメだ!これ以上は…。」
 トラックはバイクの集団にあっという間に追いつかれ、集団の一人が投げた手斧がトラックの運転手の頭を直撃した。
 コントロールを失ったトラックは段差に乗り上げた弾みで傾き、横倒しになって停まった。
 後はもう、見るに耐えない惨殺ショーだった。ある者は刀で身体を真っ二つにされ、ある者は鉄のこん棒で頭をざくろにされ、ある者は槍で串刺しにされ…生き残ったのはうら若き女性ただ一人。それも集団の慰み者として輪姦され、その後は食料や飲料水と引き換えに人買いに売られ、どこぞで奴隷として一生を終える運命が待っていた。
 「すげえ、こんなに食料を持ってやがった!」
 「食料だけじゃねえ、水もたんまりあるぜ!」
 そして、一人が開けたアタッシュ・ケースには紙幣が一杯に詰まっていた。
 「こんなもんまで持ってやがった。今じゃケツを拭く紙にしかならねえってのによ!」
 アタッシュ・ケースは放り投げられ、紙幣は風に乗って荒野に散らばっていった。
 世界の文明はほとんど崩壊し、世は暴力のみが支配する混沌の時代となっていた…。

 「大変だあーっ!」
 くつろいでいたゼーレ達の所に、連中の仲間の一人がバイクで慌ててやってきた。
 「どうした?」
 「先遣隊が何者かに全滅させられた!」
 「何いっ!?」
 ゼーレ達は先遣隊が全滅させられた場所にやって来た。そこには、見るも無残な仲間達の死体が転がっていた。
 その死体は奇妙だった。まるで身体が内部から破裂したように見えるのだ。凶器等で殺されたのではなさそうだった。
 「頭!こいつ、まだ息がある!」
 「おい、どうした!何があった!?」
 ゼーレの頭目がその身体を揺さぶると、その男は虫の息ながら言葉を発した。
 「あ〜あぃあぃあぃ…あぃだ…の〜け〜ん…。」
 それだけ言うと、その男の頭は大きさが倍近く膨らみ、そして破裂した。
 「な、何だ今のは?」
 「まさか、小型の時限爆弾みたいなものを!?」
 ゼーレ達は得体の知れない敵の存在にざわついた。だが、頭目は冷静に最後に死んだ男の言葉の意味を考えていた。
 「あ〜あぃあぃあぃ・あぃだ・の〜け〜ん、とは何だ!?」

 こんな世界になってしまっても、互いに手を取り合って協力し、平和な村を作っている心ある人々もいた。
 そこにある日、一人の男がやって来た。埃に塗れたボサボサの髪、これまた埃に汚れた眼鏡を掛け、ボロボロのケープに身を包んでいた。
 だが、眼鏡の男は井戸を見つけてそこに歩み寄ったが、足がよろけて倒れこんでしまった。
 「あっ、何だお前!?」
 「余所者だな。さては水泥棒に違いないぞ!」
 村の人が眼鏡の男を見つけて押さえつけた。
 「水…水を飲ませてくれ…一口だけでいい…。」
 「どうする?」
 「とりあえずどこかに閉じ込めておこう。余所者は油断ならないからな。」
 眼鏡の男は地下の一室に放り込まれた。
 「長老が戻るまでそこでじっとしているんだな。」
 地面すれすれの明り取りからの僅かな光しか射さない薄暗い部屋の中で、眼鏡の男は固いコンクリートの床に身を横たえた。
 そして、そっと誰かの名前を呟いて微かな眠りに落ちていった。

 それから少しして、村の長老と呼ばれる人物が帰ってきた。
 「お帰りなさい、長老。」
 「ご無事で何よりです。」
 「ほっほっほ、この歳になると、危険に近づこうにも身体が近付けなくなってるのですよ。」
 「それで、隣の村との話は何だったのですか?」
 「向こうの村に食料を運んでいたトラックが、どうやらゼーレに襲われたそうです。我々も守りを固めねばなりません。」
 「ゼーレか…あの無法者集団め!」
 この村にも連中に肉親を殺された者が少なからずいた。
 「ところで、私の留守中、何か変わった事はありませんでしたか?」
 「いえ、これと言って何も…あ、そうだ、水泥棒らしい奴がいたんで地下室に放り込んでおきました。」
 「何、水泥棒ですと!?」
 水は人類が生きていく上である意味、最も重要な資源である。この村も豊富な地下水のお陰で人々が暮らしていけるのだった。
 「長老、もしかしてゼーレのスパイでは?」
 「連中の仲間だったら、身体のどこかにZのマークが入っている筈です。すぐに調べましょう。」
 長老は数人の護衛と共に地下室へとやってきた。
 「おい、お前!起きろ!」
 眼鏡の男は長老の前に立たされた。
 「これ、水泥棒さん。あなたは何処から来たのです?」
 「…水を…一口…。」
 それだけ言って眼鏡の男は膝からしゃがみこんでしまった。
 長老は眼鏡の男のケープを捲くり、その下の迷彩シャツのボタンを外してシャツを開いた。
 だが、身体にZのマークなど無かった。ただ、ガラスの小さな円盤に穴を開けて紐を通しただけの簡単な首飾りをしているだけだった。
 「ふむ…どうやらゼーレの仲間ではなさそうですね。誰か、コップに水を汲んできて下さい。」
 「えっ?そいつに飲ませるのですか?」
 「ほとんど口も効けないほど弱っているようです。」
 そして、ようやく眼鏡の男は長い間口にしていなかった水を飲む事ができた。
 「有難う御座います。お陰で助かりました。」
 「それで、あなたは何処から何処に行こうとしているのですか?」
 「当てはありません。ただ、ある女性を探しているのです。」
 「その女性とは?」
 その時だった。
 「たっ、大変だあーっ!ゼーレが、ゼーレの奴等が!!」
 どこからこの村の事を知ったのか、ゼーレがとうとう襲撃してきたのだ。
 村にも自警団がいたが、ゼーレの暴力の前には無力に等しかった。
 長老達が慌てて出てきた時には、自警団は既に全滅し、多くの屍となって転がっていた。
 「降伏しろ!さもなきゃ、この村の人間は皆殺しだ!!」
 ゼーレの頭目はそう言って長老を睨み付けた。
 「長老、戦いましょう!」
 「降伏したって結局は奴等に殺されるに決まってます!」
 「ですが…。」
 「こっちはどっちだっていいんだぜえ!」
 ゼーレの一人がいきなりナイフを投げた。そのナイフは物陰から刃物を構えて隙をうかがっていた村人の一人の眉間に突き刺さった。
 「も、もうやめて下さい!」
 「じゃあ、どうするんだよ!」
 「…わかりました…水も食料も好きなだけ差し上げます。そのかわり、そのままここを立ち去って下さい。」
 「ほーう、殊勝な心掛けじゃねーか。だが、口約束じゃ信用できねえなぁ。」
 約束など守る気も無いくせに信用などと言い出すゼーレの頭目。だが、長老たる者、村の人々を守らねばならない。その為には、老い先短いその命など惜しくはなかった。
 「…それでは…この私の命を差し上げます。」
 「長老!?」
 「何と言う事を!?」
 「良いのです。長老とは言っても、所詮は老いぼれた人間。何の力もありません。村の為にしてさし上げられる事はこれぐらいのものです。」
 長老はにっこり笑うと踵を返してゼーレの元へ歩み出そうとした。だが、その肩をいつのまにやってきたのか、眼鏡の男が掴んで引き止めた。
 「待って下さい。あなたは村にとって大切な人でしょう。死んではいけません。」
 「しかし…。」
 「私が代わりに行きましょう。」
 「何ですって!?」
 「力は無くても、あなたには人より長く生きた分だけ多くの知識がある筈です。それを役立てて下さい。」
 「待ちなさい!あなたはこの村とは何の関係もありません。命を捨てる必要は…。」
 「何の関係も無いからいいんですよ。」
 眼鏡の男は歩き出した。
 「何故だ!?何故あなたは何の関係も無いこの村の為に命を…。」
 「コップ一杯の水を恵んでもらったからです。」
 「コップ一杯の水…たったそれだけで…。」
 眼鏡の男は臆する事無く歩みを進め、ゼーレの頭目の前で立ち止まった。
 「どうやらお前が代わりにブチ殺されに来たようだな。」
 だが、眼鏡の男は眼鏡を外して傍らに放るとゼーレの頭目に言い放った。
 「死ぬのはてめえだ!!」
 「何だと!!」
 「アィダァッ!」
 眼鏡の…いや、迷彩服の男はその声と共にゼーレの頭目の顔面にパンチを入れた。頭目は思わず後ろによろめいた。
 「うおおおおーっ!!」
 雄叫びと共に迷彩服の男の髪の毛が逆立ち、背中の筋肉が盛り上がって迷彩服を引き裂いた。
 「アィダーッ!アーィダダダダダダダダッ、オゥワッダァーーッ!!」
 奇声と共に無数の突きがゼーレの頭目の顔面と全身に打ち込まれ、その身体を後方へ吹っ飛ばした。
 「…お、おのれ〜…。」
 ゼーレの頭目は何とか立ち上がったが、既にその全身の骨と言う骨に無数の皹が入っている事に気付かなかった。
 「ブ…ブチ殺して…やるう…。」
 「…きさまは既に殺されている。」
 迷彩服…いや、髪の毛を逆立てた男はそう言って背を向けた。その背中には…。
 「お…鬼…。」
 ゼーレの頭目はそう言い残して爆裂四散した。
 その凄惨な最後にゼーレの残党は戦慄を覚えた。
 「次に死にたい奴は出てくるがいい。」
 「ひ、ひええ〜っ!」 
 ゼーレの頭目を倒した男の一睨みの前にゼーレの残党は慌てふためいて逃げていった。

 「長老、彼にこの村に残ってもらった方が良かったのでは…。」
 「彼には彼だけの旅する目的があります。そういう男です。あの相田ケンスケという男は…。」
 眼鏡、ケープ、迷彩服の男…相田ケンスケは食料と水を分けてもらい、村から旅立っていった。
 “お達者で、根府川の先生。”
 ケンスケの旅は続く…。



超人機エヴァンゲリオン3

「妖夢幻想譚」第二章 相田の拳

第一話「現れた男!」完