HORRIBLE FANTASIA

CHAPTER6 GENDOU vs KOUZOU TRIPLE MATCH

 「…うむ、その件については君に全権を与える。好きにやってくれ給え。」
 ここはネルフ本部頂上にあるゲンドウの執務室。
 いろいろと重要な問題からそれほどでもないレベルの案件について、各人が報告書を持ってきたりあるいは指示を伺いに電話を架けてきたりしていた。
 その傍らで、パチーン!と盤上に打たれた駒が小気味いい音を立てた。
 「ところで冬月先生…一つお尋ねしたいのですが?」
 「何だ?」
 「どうしてわざわざ私の執務室に来てまで詰み将棋をやってるんですか?」
 「む…邪魔か?」
 「いえ、別に気にはしませんが…ここはいろいろと報告が入って来たりして煩いし、御自分の静かな執務室で思うがままに遊ばされては如何かと…。」
 「いやいや、‘心頭滅却すれば火もまた涼し’と言うではないか。盤面の状況に集中すればそんな事は気にならんよ。」
 「そうですか…。」
 ゲンドウは例によって例のポーズで執務室の出入り口のドアを意味も無く睨み、対する冬月もそんなゲンドウに一瞥もくれず、目の前の将棋盤を睨む。
 果たして、二人の現在の心境は…。
 “く…このヒマジン・オンザ・ピーポーめ。もうすぐユイとの結婚記念日、そのプレゼントについて考える時間も無いというのに、そっちは相変らず趣味の片手間に仕事をしやがって…。”
 “体のいい言葉でワシを追い払おうったって、そうはいかんぞ。お前の事だ、さっさと何処ぞに雲隠れして、後は万事ワシに押し付けるつもりだろうが。”
 こんなのがネルフのトップに君臨しているのはどう考えても不思議だ。謎だ。有り得ない。
 「まあ、もうすぐ還暦を迎えると言うのに未だ一人身の孤独な老人が相手だし、ここは若い者が折れるとしますか。」
 「ふむ…何かしら趣味と言える物が一つも無いと若くしてボケが始まると言うのはどうやら本当だったらしいな。」
 ‘タダより高い物は無い’と言うが、この時の二人の言葉は全くの商売っ気度外視、二束三文の価値も無かった。
 早い話が‘売り言葉に買い言葉’という事だ。
 「誰がボケてるというのだ!ボケ老人はそっちだろうが!」
 「ふん、早くも馬脚を現したな。それが年長者に対する言葉か?」
 「‘老いては子に従え’という言葉を忘れたか?年長者だからと言っていつまでも大きな顔をするな!そういうのを老害有って一利無しと言うのだ!」
 「それを言うなら百害有って一利無しだろうが、この大ボケ!」
 「ふん、上手く切り返したつもりだろうが、その大ボケとは漫才用語のボケ・ツッコミから来ている事を知らないようだな。つまり、ワザと間違った事を言うボケと認知症のボケとは違うのだ!」
 「やかましい!そんな下らん揚げ足取りをするところがまだまだ人間として成っとらんのだよ、若造が!」
 「ほう、私を若造と呼ぶなら、そっちはジジイと呼んでやろう。」
 「ジジイで結構。だったらお前はガキだな。」
 「口の減らないジジイだな!」
 「そっちこそだまれ、このガキ!」
 「やかましい、このくそジジイ!」
 「うるさい、くそガキ!」
 「くそジジイ!」
 「くそガキ!」
 「くそジジイ!」
 「くそガキ!」
 「くそジジイ!」「くそガキ!」
    ・
    ・
    ・
    ・
    ・


 「それで、何かで勝負して決着をつけよう、という事になったのね?」
 「ああ。で、どっちに対しても有利不利・得手不得手という事態にならないよう、ここは公正にMAGIで方法を決めたいと考えたんだ。」
 「へーえ、面白そうじゃない。その勝負、何になるのかわからないけど、是非とも立ち会ってみたいわぁ。」
 ここはネルフ本部の発令所。普段オペレーター席にいる三人は昼食で食堂に行っていて不在であり、かわりに三十路三人衆がいた。
 「ああ、元からそのつもりさ。これは三番勝負なんだ。だから俺と葛城とリッちゃんのうち、誰か一人が一番ずつ立会人になる訳だ。」
 「でも、もしどちらかが二連勝したら三番目は無いんじゃない?」
 「えー、それは困るわよ。だったら、私は最初の立会人がいい。」
 「じゃあ、俺が三番目の立会人を引き受けるよ。それなら問題無いだろ?トップバッターはジャンケンで決めてくれ。」
 そこでミサトとリツコがジャンケン(何故か三本勝負)をして、リツコ→ミサト→加持という順番で立会人は決まった。
 「で、本題は勝負の方法をどうやってMAGIに決めさせるかだが…。」
 「そうね…適当に二人のデータをインプットしてみて、勝負の方法は何が相応しいかを判断させてみるわ。」
 そして、MAGIの回答が出た。



 第一番勝負 「タイピングでドカン大作戦」

 ○月●日
 ここは第三新東京市のとあるゲーム・センター[HIGH−TECH ∫εGΔ]。
 「…何だ、ここは…?」
 どうやら冬月はゲーセンに入った事が無いらしい。
 「…ゲーム・センターか…随分と久し振りだな…。」
 対するゲンドウは遥か昔に来た事があるようだが、勿論その頃とはかなり様変わりしている。
 「お二人とも、こちらへどうぞ。」
 リツコが案内したのはとある対戦ゲーム機。それは、タイピングによる格闘対戦ゲームだった。
 「お二人の対戦方法について公正にMAGIに決めさせた結果、第一番勝負はタイピング・ゲームと決まりました。そこで、お二人にはこちらのタイピングによる格闘対戦ゲームで競って頂こうと思います。」
 「…むむ…タイピングというのはあれか、画面の指示どおりにキーボードを叩いて文章を作っていくのだな?」
 「そうです。先に入力が終った方が相手を攻撃できます。ただし、入力時に間違いが多いと相手への攻撃威力は小さくなってしまいますので注意下さい。」
 「それで、どうやって黒白をつけるのかね?」
 「その攻撃で相手をKOするか、もしくは制限時間終了後にダメージの少ない方がWINNERです。」
 リツコの説明を受けて、ゲンドウと冬月は向かい合ったアップライト筐体の前のそれぞれの椅子に座った。既にクレジットは投入され、今は各自のプレイヤー・キャラを選ぶ画面になっていた。
 プレイヤー・キャラはエヴァ零号機〜四号機及び量産機が選べるようになっている。
 「私は勿論初号機だ。」
 「ならば、私は幻の四号機にするか。」
 二人がプレイヤー・キャラの選択を終えると画面が切り替わり、左に初号機と右に四号機が現われた。どちらも両腕をだらりと下げてやや前傾姿勢を取り、まるでノーガードからのクロスカウンターを狙うかのようだ。
 『READY………GO!』
 二人の第一番勝負が始まった。

 【NURUINA】
 【MONNDAINAI】
 【NAZE,KOKONIIRU?】
 【SUBETEHAKOREKARADA】
 【DOUSHITA?SASSATOIKE】
 【YOKUYATTANA,SHINNJI】
 【MATAHAJIWOKAKASEOTTE】
 【YAMUWOENAIJISYOUDESU】
 【SONOTAMENO,NERUFUDESU】
 【KOREHACHANNSUNANODESU】
 【SUBETEHAKOKORONONAKADA】
 【ROUJINNNIHAIIKUSURIDAYO】
 【MATAKIMINIKARIGADEKITANA】
 【SAISYONONINNGENN,ADAMUDAYO】
 【NINNGENNNIHAJIKANNGANAINODA】
 【SOUINNDAIISSYUSENNTOUHAICHI】
 【HANNTAISURURIYUUHANANIMONAI】
 【MASAKA,KOKODEOKOSUTSUMORIKA?】
 【TOKEINOHARIHAMOTONIMODORANAI】
 【SHISUTEMUKAIHOU,KOUGEKIKAISHI】
 【SUBETEHAZE−RENOSHINARIODOORINI】
 【SENNTORARUDOGUMAWOBUTSURIHEISA!】
 【KOREMOYOSOUSARETEITAJITAINOHITOTSUDAYO】
 【KARENODAIICHIINNSYOUHA,IYANAOTOKODATTA】
 【ROUJINNHAYOTEIWOHITOTSUKURIAGERUTSUMORIDA】
 【OMAEHAKONOHI,KONOTOKINOTAMENIIKITEKITANODA】
 【HITOHAIKITEIKOUTOSURUKOTONISONOSONNZAIIGIGAARU】

 用意されていた問題文はこれだけあったのだが、二人の勝負では時間切れで最後まで到達しなかった。
 傾向としては、まずゲンドウはタイピングのスピードはまあ速い(それでも、マヤに比べたら天と地の差、ましてやリツコに比べたら…)のだが、どうも打ち間違いが多かった。それに対し、冬月のタイピングのスピードは非常にゆっくりとしたものだったが、打ち間違いは滅多に無かった。
 その結果、それぞれの相手キャラへの攻撃は、初号機は弱いパンチを数多く当てる事ができただけ、四号機は強力な蹴りをほんの二〜三回当てる事ができただけ…結局ダメージは同じで引き分けであった。
 「しかし、赤木博士…一つ疑問があるのだが?」
 「なんでしょう、副司令?」
 「なぜ、私のセリフは碇の1/3しか無いのかね?」
 「そんな事はどうでもいいんです!とにかく、第一番勝負は引き分けです!」
 リツコは強引に引き分けを宣言した。
 立会人として見ているとはいえ、二人がキーを打つスピードの遅さに自分がイライラしてしまい、これ以上立会人を続けるとストレスが溜まってしまうのでもう終わりにしたのであった。



 第二番勝負 「パチンコはCRが命?」

 △月▼日
 ここは第三新東京市のとあるパチンコ店[パーラーF|ε凵轣n
 「ゲームセンターの次はパチンコか…。」
 「これならば、お二人も馴染みでは無いかと思いまして。」
 前回のリツコの失敗は、ゲンドウも冬月もあまりキー入力をした事が無いからと考えられる。発令所のオペレーター達と違って、彼等の執務室にあるPCはほとんどキー入力がいらない(マウス或いは指で画面のボタンをクリックすればいい)ようなOSを組み込んでいたのだ。勿論それは二人が要望したからであったが…。
 「店内に置いてあるどの台を選んでも構いません。別々の機種を選んでもOKです。軍資金はそれぞれ10000円、時間はきっちり一時間です。」
 「つまり、一時間後に換金してどちらの資金が多いかで雌雄を決するという事か。」
 「しかし…我々が知っているパチンコとはかなり趣が変わっているな…。」
 おそらく、二人の知っているパチンコとは、盤の全面に釘が打ってあって、中央部やそこから上下左右斜めに少し離れた部分に役物があるといった、一昔(二昔?)前のものであろう。だが、入れるべき所に玉を入れてより多くの玉をGETするという点では変わりは無い。そして、釘の傾きを見て台を選ぶというのも同じであろう。
 「よし、これにしよう。」
 「私はこれにするか。」
 二人はそれぞれ選んだ台の前の椅子に座ると、ミサトから渡された額面10000円のパッキーカードをリーダーに入れた。
 「それでは、STARTです!」
 ゲンドウ、冬月の目前で銀に輝く玉が次々と撥ね上がって行く。そして、時たま入賞すると、盤面中央の液晶画面の映像が変化していく。
 と、画面右下に小さなキャラクター・アイコンが現われると同時に盤の右下の赤いボタンが点灯した。それを何の気無しに押してみると、アイコンのキャラクターがメッセージを。

  ゲ:「………。」
  ゲ:「ああ、すべてはこれからだ。」
  ゲ:「ああ、間違いない。使徒だ。」
  ゲ:「目標を撃破しろ。」
  ゲ:「出撃。」
  ゲ:「久し振りだな、シンジ。」
  ゲ:「問題ない。」
  ゲ:「よくやったな、シンジ。」
  冬:「………。」
  冬:「始まったな。」
  冬:「15年ぶりだな。」
  冬:「また恥をかかせおって。」

 実はこの赤いボタンはチャンスボタンと言って、アイコンのキャラクターのメッセージの組み合わせによっては大当たりとなるらしかったのだが…二人はものの見事に全部スカされた。
 …と思ったら、今度は盤面右上のエヴァ初号機を模した役物がいきなり動き出した。なんと暴走する時のように口を開けたのだ。
 暴走モードである。さらに、盤面上部にあるエヴァ初号機の胸部装甲を模した役物が開閉を始め、一気に玉が吸い込まれて次々と入賞していく。
 「おお、フィーバーだ!」(…死語?)
 二人はもう勝負そっちのけでパチンコにのめりこんでいった。
 だが…。
 「…終った…。」
 制限時間が来る前に冬月は全ての玉を飲み込まれ、敢え無く終了した。この時点でゲンドウがSTOPしていれば勝利できたのだが、それを立会人であるミサトが告げるわけにもいかなかった。
 「くっ…ここまでか…。」
 先に冬月が終了した事に気付かず、結局ゲンドウも制限時間前に全ての玉を飲み込まれて終了した。
 “うーん…先に終了した方が負けというルールにはしていなかったし…引き分けにするしかないわよね。”
 「しかし、葛城三佐…一つ疑問があるのだが?」
 「なんでしょう、副司令?」
 「なぜ、私のセリフは碇の1/2しか無いのかね?」
 「そんな事はどうでもいいんです!とにかく、第二番勝負も引き分けです!」



 第三番勝負 「エヴァと愉快な脇役たち」

 第一番勝負(タイピング)、第二番勝負(パチンコ)では予想外と言うか予想通りと言うか、どちらも引き分けに終わり、決戦は第三番勝負にもつれ込んだ。
 「ホントにもう、見ててイライラするんだから。」
 「期待していた程には面白くなかったわね。」
 リツコとミサトはラウンジでほとんどヤケ酒飲み。
 「悪いな、面白い所を持っていく事になっちまって。」
 最後の勝負の立会人である加持は二人に済まなさそうに言ったが、内心は‘残り物には福がある。’とばかりに喜んでいた。その最後の勝負がネルフを揺るがすとんでもない大騒ぎになる事も知らず…。
 「で、第三番勝負は何だっけ?」
 「マージャンだよ。東南戦、喰いタン無しの後付け無し、2万7千持ちの3万返し。」
 「それで、あの二人以外の面子は?」
 「…それがまだ決まってないんだ。どうやって選ぶか、頭を悩ませている。」
 「やるからには真剣勝負でないといけないわよね。」
 「そうだ、周囲に告知してみたら?我こそは、っていう人が一人や二人出てくるかも。」
 そんな訳で、[ネルフ麻雀大会のお知らせ]のポスターが各所に貼られたり、職員にメールで通知されたりしたのだった。
 ところが、その反響は三人の想像の範疇を超えていた…。

 「ネルフ麻雀大会か…参加すれば何かいい事があるのか?」
 「さあ?」
  ↓
 「参加すると何かいい事あるんだって?」
 「参加賞が貰える…ぐらいなんじゃ?」
  ↓
 「参加するといいもの貰えるんだって?」
 「何だろう?何か欲しい物でも?」
  ↓
 「参加すると何か欲しいもの貰えるんだって?」
 「何でもいいの?」
  ↓
 「参加すると何でもいいから欲しいもの貰えるんだって?」
 「私だったら…やっぱりエビチュね。」
 「私は休暇が欲しいわね。」
 「いや、やっぱり先立つ物が必要でしょう。」
 「金もいらなきゃ名誉もいらぬ、わたしゃも少し背が欲しい」
 「な、何だ、今のは?」
  ↓
 「参加すると賞金が貰えるんだって?」
 「一時的に賞金貰ってもな…どうせなら、給料上げて欲しいよ。」
  ↓
 「参加すると給料上げて貰えるんだって?」
 「給料上がってもこう忙しいんじゃ…そうだな、俺なら昇進を望むな。」
  ↓
 「参加すると昇進できるんだって?」
 「いや、それは多分勝てばの話だろ?」
 「じゃあ、優勝したら…?」
 「…ネルフの総司令に成れる、とか…?」

 何と、話にどんどん尾鰭が付いて、麻雀大会はいつの間にかネルフ総司令の座を掛けた大イベントという事になってしまった。
 そして、加持、リツコ、ミサトの三人はゲンドウと冬月の待つ執務室に呼び出された。
 「…どうやらこの中に少なくとも一人、自分の処遇に不満がある者がいるようだな。」
 ゲンドウは例のポーズのまま、その赤いサングラスの向うから鋭い眼光で三人を見据えた。
 「いったいどこをどうすればこの[ネルフ総司令杯・大麻雀大会]というデマが広がるのかね。」
 冬月は通路に張られていたのを慌てて引っ剥がしてきたポスターを取り出して三人の目の前に突きつけた。
 “““元はと言えばあんたらの醜い諍いが原因やろ。”””
 と三人は心の中でツッコミを入れるが勿論口には出さない。
 「とにかく、経緯を正直に話し給え。」
 「…えー、麻雀でお二人の最終決戦を行う訳なんですが、やはり麻雀をするには後二人の参加者が必要でして…。」
 三人は噂が一人歩きしていった経緯を正直に話した。と言っても、噂に便乗してエビチュが欲しいだの休暇が欲しいだの給料を上げて欲しいだの言ってた事は黙っていたが。
 「…それで、現在参加を表明しているのは全部で何人なのだ?」
 「これがその参加表明者のリストです。」
 加持が用意してきたメモを渡した。参加を表明した者は現在29人。
 そこにはネルフ職員の名前がつらつらと書き連ねてあった…のだが、下の方に目をやると意外な人物達の名前が!
 「お、おい!何故この者達の名前があるんだ!」
 「それが、自分達には皆目見当が付かなくて…。」
 その意外な人物達とは…早い話がネルフとは無関係の者達だったのだ。
 「まさか、こいつらは優勝すればネルフの総司令に成れると言うデマを信じて…?」
 「その可能性は大いに有る。」
 「マズイぞ、碇。奴らが優勝なぞしたらとんでもない事に…。」
 「落ち着け、冬月。奴らを排除する手立てを考えよう。」


 □月■日。
 ここは第三新東京市のとある雀荘[マージャン ヅガン]
 「よくぞ集まった、32名の精鋭達よ。」
 「…碇、何のノリだ?」
 「フッ…冗談はともかく、ここにネルフ総司令杯・大麻雀大会の開催を宣言する。冬月、ルール説明を頼む。」
 「うむ。参加者は全32名と大所帯なので、これを4人ずつ8グループに分け、それぞれでまず予選一回戦を行う。さらに各グループの一位の全8人を半分に分け、予選二回戦を行う。そして、各グループの一位2名が我々と最終決戦を行う。予選一回戦は東風戦でアリアリ、二回戦は東風戦でナシナシ、最終決戦は東南戦でナシナシとする。点数については全て27000点持ちの30000点返しとする。なお、ローカルルールは一切認めない。以上。」
 そして、グループ分けはあらかじめ抽選によって済んでおり、各人は壁に張り出された表を見て各麻雀卓へ集まった。

 予選一回戦
  第一卓
 出場者は碇ユイ、惣流キョウコ、鈴原ハルカ、赤木ナオコ。
 この組み合わせのキーワードは、ズバリ‘母親’であろう。
 “ユイ…頑張れ。”
 ゲンドウは心の中でユイを応援していたが、一位通過したのは生憎とナオコだった。
 “優勝したら…彼ともう一度…。”

  第二卓
 出場者は葛城ミサト、赤木リツコ、加持リョウジ、時田シロウ。
 もしかしたらこの組み合わせのキーワードは‘三十路’かもしれない。
 それはともかく、立会人の三人が出場者に入っているのには訳があった。
 責任として、君達も出場し、誰でもいいから勝ち抜くように。断固として部外者を勝たせるな!
 あの…もし負けたら?
 全員減棒だ。
 だが、残念な事に一位通過したのは部外者の時田だった。
 “優勝したら、開発費をJAの方に回してやる…。”

  第三卓
 出場者は日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤ、八巻リュウ
 これまた第二卓と同様、部外者を排除する為に旧オペレーターズ三人と八巻を組み合わせたのだが、三人がどんなに協力しても八巻の方が麻雀の腕は一枚上だった。
 “優勝したら…ネルフの情報を全て公開してやる…。”

  第四卓
 出場者は最上アオイ、大井サツキ、阿賀野カエデ、加藤ヘイゾウ
 これまた第三卓と同様、部外者を排除する為に新オペレーターズ三人と加藤を組み合わせたのだが、三人がどんなに協力しても加藤の方が麻雀の腕は一枚も二枚も上だった。
 “優勝したら…開発費をトライデントの再開発に回してやる…。”

  第五卓
 出場者は剣崎キョウヤ、加賀ヒトミ、ホーク、キール・ローレンツ
 これまた第四卓と同様、部外者を排除する為にネルフ職員とキールを組み合わせたのだが、実はホークはゼーレにもつながる二重スパイだった。よってキョウヤとヒトミの善戦むなしく、キールが一位通過を果たしたのだった。
 “優勝したら…フッ、その時の碇達の様が見物だな…。”

  第六卓 
 出場者は駿河ハジメ、香取コウジ、若岳ミツル、根府川タロウ
 これまた第五卓と同様、部外者を排除する為にネルフ職員と根府川を組み合わせたのだが、若い三人は協力し合わずに足を引っ張り合い、漁夫の利を得るような形で根府川が一位通過してしまった。
 “優勝したら…何をしましょうかね…。”

  第七卓
 出場者は大泉ジュンイチロウ、田所教授、高橋ノゾミ、徳永トウベエ
 どこからこの麻雀大会の事を聞きつけたのか、何と一国の総理大臣たる者が参加してきた。
 他の三人も合わせ、これぞ脇役中の脇役が集まったこのグループからは大泉総理が一位通過した。
 “優勝したら…やはりネルフを政府の管轄下に置かなくては…。”

  第八卓
 出場者はヒデコ、コトコ、キヨミ、リョーコ
 名前はあれども姿は見えず?という4名が集まったこのグループからはリョーコが一位通過した。
 もちろん、準主役級の存在感を見せた彼女にとっては他の3名を蹴散らす事など雑作もない事だった。
 “優勝したら…どうするかはその時考えるか…。”

 一回戦終了後、また抽選が行われ、予選二回戦のグループ分けが決まった。
 一回戦を勝ち抜くのが誰になるかまではゲンドウ達も予測不可能であり、この抽選はなんら作為の無いものだった。

 予選二回戦
  第一卓
 出場者はナオコ、時田、キール、根府川
 この組み合わせでは、もはや麻雀の腕の差ではなく、優勝に掛ける想いの強さが勝敗を分ける事になった。
 四位…根府川、三位…ナオコ、二位…時田、一位…キールであった。

  第二卓
 出場者は八巻、加藤、大泉、リョーコ
 はっきり言って日本政府関係者が三人。この時点でリョーコに勝ち目は無かった。尤も、別にリョーコは是が非でも優勝したい訳ではなかったが。
 “無理して一位になる必要はないか…。”
 “ここで手心を加えておけば後でそれなりの見返りも…。”
 “ここは、どうか一つ大人の対応を見せて頂きたい…。”
 三者三様の思惑が絡んだ結果、一位通過は大泉総理となった。

 そして、いよいよ最終決戦が始まった!
 東南戦、ナシナシで27000点持ちの30000点返しのルール…だが、実力伯仲の4名の戦いは、相手の待ち・仕掛を読み取り、なかなか和了がない。
 結果誰も全員不聴牌での流局が八局続き、西入となった。
 「うーん、これではラチがあかないわね。」
 「そうね…ルール変更する?」
 「そうするか…では、少しナシナシを緩和してですね…形式聴牌アリとします。」
 これで流局時に少しでも差ができると考えたのだが、それは同時に形式聴牌で逃げるという事も認めるわけで、結局またしても4連続で流局となった。
 「これでもダメみたいね。」
 「もう少しナシナシを緩和する?」
 「では、後付けもアリという事で。」
 しかし、一周目が終ってやはり全員マイナスの為、再度の東入の際にはついにクイタンも解禁された。
 それでも決着は付かず、二度目の南入の際にはローカルルール・焼き鳥が追加された。
 そして二度目の西入の際にはとうとう30000返しまで解除された。
 さらに二度目の北入の際には流局時の親流れもナシになった。
 それでも決着は付かず、流局が4回続いていい加減この勝負に付き合いきれなくなった加持は大胆な宣言をした。
 「えー、突然ではありますが、ここからは最初に和了した者を優勝者とします。」
 「ちょっと、加持、そんなムチャな…。」
 「ゲームセンターの麻雀じゃないのよ?」
 ところが…。
 「よかろう。」
 「一発勝負は私も好みとするところだ。」
 「私もいい加減、飽きていたしな。」
 「賛同した!」
 4名は加持の提案を受け入れ、泣いても笑ってもこれが最後!の一局が始まった。
 最初の配牌からは平凡な和了手しか想像できなかった。だが、その後の流れは全く想像を絶するものだった。
 では、中盤を迎えた時点での各人の手牌を見てみよう。

 <ゲンドウ>
  一九@HT\東南西北白發中
 <冬月>
  (一一一)(九九九)(@@@)(HHH)、T
 <キール>
  (發發發)(UUU)(WWW)、YY[[
 <大泉>
  (東東東)(南南南)(西西西)(北北北)、T

 (注)
   一九の漢数字は萬子、@Hの丸付数字は筒子、T\のローマ数字は索子、()で括った面子は哭いた事を意味する。

 何と、よりにもよって全員役満聴牌である。もはや奇跡としか思えない。
 ただ、和了り易さの点で言えば、キールに分があった。なぜなら、ゲンドウの待ちは国士無双十三面待ちとは言えT索・\索・白・中の四種類しかないのだが、実はT索以外は既に他の三人が一つずつ捨てており、結局ゲンドウ・冬月・大泉の三人はたった一つ残ったT索で和了するしかない。それに対し、キールの待つY・[索はY索がドラ表示に使われているだけで残る三つが未だヤマの中に残っているのだ。
 その状況がわかっているギャラリーが固唾を呑んで見守る中、四人によってゆっくりと牌が積もられ、そして捨てられていく。
 カチャリ………タン!
 その場に聞こえるのは、牌が奏でる音のみ。
 果たして、先に出るのはT索かY索か[索か…。
 だが、どれもなかなか出ない。
 “まさか、王牌の中に眠っているのでは…。”
 ギャラリーの誰もが思い始めたその時。
 「カン!」
 U索を積もったキールは果敢にも加槓した。そして嶺上牌は…外れであった。しかし、加槓によって新たに裏返ったドラ表示牌は…[索だった。
 さらに次にキールが積もったのは今度はW索。キールはやはりこれも加槓してみた。そして嶺上牌は…外れだった。しかし、それによってまた新たに裏返ったドラ表示牌は…またも[索だった。
 つまり、キールもたった一つ残ったY索で和了するしかなくなったのだ。
 そして、ついに勝負はクライマックスを迎えた。
 残る牌は一つ。積もるのはキール。果たして、そこにあったのはT索かY索か、はたまた別の牌か―――



超人機エヴァンゲリオン3

「妖夢幻想譚」第六章 ゲンドウvs冬月三番勝負

 完

あとがき