HORRIBLE FANTASIA

CHAPTER9 GETTER―EVA!

 S県F市。富士山の裾野に広がる広大な樹海に突如、異変が起きた。
 地面が大きく揺れだし、やがて大地を引き裂いて巨大な物体が地中から出現したのだ。
 その巨体を見た者は誰もがそれをある生物―恐竜―と見間違えるだろう。
 だが、その恐竜らしき物体は身体の表面が金属の鱗で覆われていた。
 そして、耳を劈くような咆哮を轟かせると、多くの人間がいる市街へと歩み出した。

 N県第三新T市。その中心にある大きな円形の窪地のまた中心にピラミッドと同じフォルムの正四角錐をした建造物が一つあった。
 「S県F市、青木ヶ原にメカザウルスが出現!現在、市街へ進行中です!」
 レーダーマップにはメカザウルスの進行状況が点滅する赤い光点で示されている。
 「JSDFが迎撃開始しました!」
 JSDF―Japan Sky Defence Force、すなわち日本航空防衛軍が戦闘機でメカザウルスに攻撃を仕掛けるが、その発射したミサイルが命中しても全くダメージを与えられない。それどころか、メカザウルスはなんとその口を開くといきなり青白い光線を発射してきた。
 回避できなかったJSDF戦闘機は光線を浴びた途端、爆発四散した。
 「…やはり、どんなに火力を強化しようとも、メカザウルスの装甲は破れんか…。」
 前方の大画面スクリーンを見ながら黒々とした見事な口ひげを蓄えた白衣の男は呟いた。そして、次々と状況を報告してくるオペレーターがいる一つ下のフロアでただ一人、無言で腕組みしながら戦況を見守る男に声を掛けた。
 「神君。エヴァンゲッターを出撃させ給え。」
 「了解しました。」
 振り向いて答えたその男は刃傷で片目が閉じたままの隻眼だった。だが、一つ残ったその目には鋭い眼光を湛えていた。
 「エヴァンゲッター、出撃せよ!」
 その命令が出るのを想定して既に準備していたのか、1分もしないうちにピラミッドの四つの斜面のうち、三面のその一部がゲートを開き、赤、紫、青の三機の超戦闘機が飛び出して空に舞い上がっていった。
 「ムサシ、ケイタ、マナ。現時点で判明している敵の攻撃手段は、開いた口からの熱光線だけだ。Gフィールドは破れはしないが、他にも攻撃手段が有るかもしれん。合体時には細心の注意を払え。」
 『『『了解!!!』』』
 JSDF戦闘機よりは一回り以上大きく、そしてそのフォルム―鋭角的なブロックで構成されている―からは戦闘機と言うよりも飛行メカと呼称すべきその三機はあっという間にS県F市に到達した。

 「ようし、合体してさっさと片付けようぜ!」
 「待ってよ、ムサシ。あいつが熱光線の他に攻撃手段が有るか無いか確かめてからにしようよ。」
 「そんな悠長な事言ってたら、F市がどんどん破壊されちまうぞ!ここはフェニックスの出番だ、俺がやる!」
 三機は並んで飛行していたが、真ん中の赤い機体が一機分前に出た。
 「チェンジ!ゲッターGO!」
 そして、奇跡の変形合体が始まった。
 赤い機体が他の機体の倍ほどにまで巨大化し、その機体後方に他の二機がドッキングした。
 赤い機体はその左右のブロックが変形して両腕を形成し、前方のブロックは一対の角を持つ頭部となる。
 青い機体と紫の機体は細長く伸びて両脚を形成した。
 最後に赤い機体の垂直翼が左右二つに分かれると、背中に一対の翼を持った人型の戦闘ロボットが完成した。
 その戦闘ロボットのタイプ名は[エヴァ・フェニックス]…空陸両用の汎用的なゲッター・エヴァである。
 エヴァ・フェニックスは大地に降り立つと、メカザウルスに正面から突進した。
 「ちょ、ちょっと、ムサシッ!正面から突撃なんてやめてよ!」
 「うるせえな!Gフィールドがあればゲッターエヴァは無敵じゃねえか!」
 「まあ、反撃喰らっても痛い目見るのはどうせムサシだし…。」
 と、エヴァ・フェニックスの接近に気付いたメカザウルスは両腕を前方に向けた。次の瞬間、その十指は全てミサイルとなって発射された。
 エヴァ・フェニックスはミサイルの直撃を受けた…かに見えたが、実際には見えない壁にぶつかったかのようにミサイルはいきなり空中で爆発した。その爆焔を目掛けて今度はメカザウルスの熱光線が発射された。しかし、今度はその熱光線は何も障害物が無いかのように爆焔の中をすり抜けて行った。そこにエヴァ・フェニックスはもはやいなかった。熱光線が発射された瞬間、上空へジャンプしていたのだ。
 「喰らいやがれ!」
 上空からの急降下ミサイルキックはメカザウルスの頭を狙ったのだが、相手はギリギリで頭部を捻ったのでその首に命中した。狙いは外れたが、メカザウルスは衝撃にもんどりうってひっくり返った。一方のエヴァ・フェニックスは華麗に着地する。
 「ようし、トドメだ!」
 が、その寸前で連絡が入った。
 『待て、ムサシ。メカザウルスを破壊するのはF市街から遠ざけてからだ。』
 「あーっ、メンドクサイな!」
 とは言ったものの、ムサシはその指示に従う事にした。
 エヴァ・フェニックスは未だ立ち上がれないでいる敵の尻尾を掴むと、ジャイアント・スイングで数回転し、F市街とは反対方向に投げ飛ばした。
 「これならいいだろ。トドメだ、ゲッター・ビームッ!」
 エヴァ・フェニックスの額から真紅のビームが発射された。そのビームに身体を貫かれたメカザウルスは大爆発を起こし、バラバラになって吹き飛んだ。
 「一丁上がり!」
 エヴァ・フェニックスはジャンプするとそのまま飛翔し、第三新T市へと帰還の途についた。



 俺の名は若松ムサシ。特務機関ネルフの特殊戦闘部隊・ゲッターチームの一員だ。チームと言うからには仲間がいて、他に俺と同格のヤツが二人いる。
 その一人の名は泉ケイタ。口数は少ないが確実に任務を遂行し、ここぞと言う時には頼りになるヤツだ。
 もう一人の名は神村マナ。俺のすることにやたらと口出ししてくるうるさい女だが、案外顔は可愛いのでまあ許そう。
 で、俺たち三人を束ねるのが隊長の神ハヤトというオッサンだ。いつも的確な指示をしてくれるので大いに信頼している。
 それと、この特務機関ネルフで一番偉いのが早乙女博士というジジイだ。ゲッター線と言う特殊な放射線の研究の第一人者で、科学者上がりのせいかいつも白衣姿だ。
 特務機関ネルフってのは国連直属の秘密機関らしいのだが、詳しい事はまだ聞かせてもらっていない。とにかく、世界の平和を守る為に組織された事は間違いない。と言っても、実際に世界の平和の為に戦っているのは俺達ゲッターチームの三人だがな。
 俺達が今戦っているのは恐竜帝国といって、爬虫類が何故か人間と同じ形に進化したハチュウ人類という生物の国らしい。木星トカゲというか人間トカゲというか、そんな連中が帝国とか言っているのが笑えるが、奴らの恐竜に似たフォルムを持つロボット兵器・メカザウルスには普通の軍事兵器じゃ対抗できない。だが、俺達にはゲッター・エヴァがある。
 形状の異なる三つの特殊戦闘機エヴァンゲッターが変形合体して出来る戦闘ロボットがゲッター・エヴァだ。赤の機体がゲッター・スカイダー号、紫の機体がゲッター・グランガー号、青の機体がゲッター・マリンザー号と呼ばれている。パイロットは俺がスカイダー号、ケイタがグランガー号、マナがマリンザー号だ。そしてゲッター・エヴァのメイン・パイロットが誰になるかで変形合体状況も完成状態も異なっている。
 俺がメインを担う場合はスカイダー号の後部に他の二機が接合し、スカイダー号が上半身、他の二機が両脚となって二足歩行の人型ロボットになる。これはエヴァ・フェニックスと名づけられ、空も飛べるので陸上・空中両方での戦闘に適した汎用タイプだ。
 ケイタがメインの場合は直立したグランガー号の機体上面にマリンダー号が、マリンダー号の後方に直立したスカイダー号が接合し、まるでケンタウロスのようなロボットになる。ケンタウロスにおける人間の上半身と馬の前脚をグランガー号が、馬の胴体をマリンザー号が、馬の後脚をスカイダー号が形成する訳だ。これはエヴァ・グリフォンと名づけられ、四つ足という利点を発揮できる山岳地帯での戦闘が多い。
 マナがメインの場合はマリンザー号・スカイダー号・グランガー号が一直線になってそのまま接合し、人魚のようなロボットになる。マリンザー号が頭部と両腕と胸、スカイダー号が胴体、グランガー号が人魚の下半身を形成している。これはその姿のとおりエヴァ・マーメイドと名づけられ、海での戦闘で力を発揮する。
 まあ、出番で言えばフェニックス、マーメイド、グリフォンの順になる。
 さて、どうして戦闘機が変形合体してロボットに成れるのか…それは、各機に内蔵されたゲッター・チェンジ・システムによるらしいが、詳しい原理はわからない。いや、俺達には難しくて理解できないというのが正しいのかもしれないが、正確に理解しているのはどうやら早乙女博士と神隊長だけらしい。とにかく、正しい位置にポジショニングして「チェンジ!ゲッターGO!」のキーワードをコールすれば自動的に合体してくれる訳だ。
 ゲッター・エヴァはメカザウルスなんてメじゃない。通常兵器はメカザウルスに傷一つ付けられないが、メカザウルスの攻撃ではゲッター・エヴァに傷一つ付けられない。それは、ゲッター・チェンジ・システムから放射されるゲッター線で形成されるゲッター・フィールド(通称Gフィールド)という目に見えないバリアーが機体を覆っているからだ。
 そう、無敵のゲッター・エヴァがあれば恐竜帝国など恐るるに足らず。世界の平和を守る為に俺達は戦い続ける。

 と、まあ、俺の今の状況はこんなところだが…三ヶ月前までは全く違う状況だった。
 三ヶ月前の俺は…戦略自衛隊付属中学校の特殊兵器課で学ぶ14歳の中学二年生だった。その時の名前はムサシ・リー・ストラバーグと言った。
 それがある日、目が覚めたら俺は若松ムサシという17歳の男の中にいた。いや、中にいたと言うよりは、俺が若松ムサシになっていたと言う方が正しいか。俺は思い通りに若松ムサシの身体を動かす事ができた。まるでこの男の身体に憑依して乗り移ったのも同然だった。では、乗り移られた若松ムサシの意識はと言うと、何度呼びかけてもこれが何の反応もない。眠っているのか消滅してしまったのかわからないが、幸いな事に彼の記憶は俺も受け継いでいた。だから俺は心の中で少々の戸惑いを感じながらも若松ムサシとして過ごしてくる事ができた。
 そして、神のイタズラか単なる偶然か知らないが、ここでの仲間の名前がケイタとマナ…あっちの世界の時も同じ名前の仲間がいたから不安な気分は何となくだが薄らいだ。とは言え、あっちの世界の時のまんまで話したらエライ事になる。異世界から心だけやってきてボディジャックしたなんて言ったら、間違いなく(キ)と思われてしまうだろう。
 誰が俺をこの世界に送り込んだかは知らないが、この見果てぬ悪夢が終わって元の世界に還れる日まで―それがいつなのか、本当に来るのかさえわからないが―今はただゲッター・エヴァの力を信じて戦い続けるしかない。


 長くなるので端折るが、俺達は何度も出撃し、恐竜帝国のメカザウルスを倒してきた。メカザウルスといってもいろいろあって、二足歩行のヤツ(アロサウルス・ティラノサウルス・メガロサウルスとか)、四つ足のヤツ(ブロントザウルス・ステゴザウルス・トリケラトプスとか)、恐竜と言うよりは翼竜(プテラノドン・ケトゥアルコルトルスとか)、海の中の海竜(イクチオサウルス・モササウルス・プレシオサウルス・エラスモサウルスとか)なんぞがいたのだが、戦い続けているうちにネルフが持つスーパーコンピューターMAGI(意味はよくわからんが、とにかく大層な名前に感じる)がとうとう敵の本拠地を見つけた。
 その敵の本拠地は南方にある箕面島だった。ハチュウ人類だから暖かい所が好みらしい。昔の日本は春夏秋冬という四季というのがあって、春は暖かく夏は暑く秋は涼しく冬は寒いという事だったのだが、現在はセカンドインパクトの影響で常夏になっている。だから眠りから醒めて侵略を開始したらしい。
 …ってーのは全部早乙女博士や神隊長の受け売りだけどな。
 ともかく、俺達は敵の本拠地を叩くべく出撃した。今回はJSDFだけでなく、JMDF―Japan Marine Defence Force、すなわち日本海上防衛軍の協力もある。必ず恐竜帝国をぶっ潰す!
 『チェンジ!ゲッターGO!』
 マリンザー号、スカイダー号、グランザー号の順に並んだ途端、マナがキーワードをコールした。
 三機のエヴァンゲッターは空中で合体し、エヴァ・マーメイドになって海中に飛び込んだ。まずは海中から接近しろと神隊長の指示が出ていた。
 はっきり言って俺達のゲッター・エヴァは無敵だ。正面から乗り込んで行ったって負けやしない。なのに何故そんなめんどくさい事をするのか訊くと、神隊長は理由を説明してくれた。曰く、その方法では敵との戦闘で時間がかかって各機のエネルギーが足りなくなる。敵の本拠地に乗り込むまで戦闘はなるべく避けなければならない、との事。流石は神隊長だ。戦略自衛隊の生徒だった自分が恥ずかしいぜ。
 JSDFとJMDFはメカザウルスと交戦するも、次々とやられていく。何の事はない、彼らは俺達の為に敵のメカザウルスを引き付ける囮になってくれた訳だ。犠牲者が出る事は避けられないだろう。あんた達の仇は必ず俺達が取ってやる!
 箕面島の海岸傍まで接近したエヴァ・マーメイドは海上に飛び出した。
 『オープン・ゲット!』
 それが合体を解除するキーワードだ。マナのコールで合体を解除した三機のエヴァンゲッターは空中で体勢を整えた。
 『チェンジ!ゲッターGO!』
 今度はケイタがコールして三機のエヴァンゲッターは空中で合体し、エヴァ・グリフォンになって箕面島に降り立った。目指すは頂上の噴火口に偽装したメカザウルスの発進口。JSDFが囮となってメカザウルスを引き付けている間、エヴァ・グリフォンは一気に斜面を駆け上がっていった。
 「あれが発進口か!」
 その火口にはマグマが赤々と燃えたぎっていた。
 『それは幻影だ。無視して突入しろ。』
 神隊長の指示が飛んだ。
 『オープン・ゲット!』
 エヴァ・グリフォンが火口に踊りこんだ後で、ケイタのコールでエヴァンゲッターは合体解除する。直後、俺がコールした。
 『チェンジ!ゲッターGO!』
 エヴァ・フェニックスで俺達は敵基地に侵入した。
 「で、どこに行けばいいんだっけか?」
 「もうっ!ムサシったら神隊長の話を聞いてなかったの!?まずは敵の動力源を破壊、次にメカザウルスの製造工場を破壊するのよ!」
 「オッケー!そんじゃ、高エネルギー探知開始!」
 エヴァ・フェニックスは敵のハチュウ人類の兵士を蹴散らしながら進んでいく。奴らの白兵武器など、ゲッターエヴァにはそれこそ蚊ほども効かないぜ!おまけに、敵は俺達が乗り込んでくる事を全く予想していなかったらしく、メカザウルスを出撃させてこない。いや、出撃させられないのも当然だ、なにせメカザウルスはこの基地内では大きすぎて、暴れたら基地自体が破壊されるからな。その点、俺達に取っちゃこの基地がどうなろうと知ったこっちゃないから好き勝手に暴れられるってもんだ。
 そうしてどんどん敵基地の奥へ侵入していくと、いきなり巨大な空間が現れた。前方に見えるのは…。
 「何だ、あれは?」
 「何って、どう見たってあれは…。」
 「玉座、だよね。」
 その空間の奥の方に何だかもの凄く高い階段があって、そこに玉座に見える物があった。悪の軍団の支配者がふんぞり返って座って部下にマヌケな命令を下したり、任務に失敗した部下をそこから処刑したりするのに使う、妙なゴテゴテとした装飾がくっついている巨大な椅子。いや、実際そこにハチュウ人類の支配者らしいヤツが座っていた。

 「あれって、もしかして敵の親玉じゃない?」
 「ああ、ビンゴだ。ヤツを倒せば恐竜帝国は終わりだ。」
 「何故、そうと言い切れるの?No.2がその地位を継ぐんじゃない?」
 「いいや、悪の帝国ってのは首領が死んだら崩壊するってのが相場だろ!」
 「また、そういう非現実的な話を…。」
 「二人とも見て!何か変だよ!」
 そう、玉座に座っていた者は眠りから醒めたようにゆっくり目を開くと、やおら立ち上がった。
 《わが名は恐竜帝国の帝王、ゴールド。よくも我々の邪魔をしてきてくれたな、ゲッター・エヴァよ。だが、ここで会ったが運の尽きだ。このワシ自らの手で葬り去ってくれる。》
 だが、勿論ハチュウ人類の言葉がムサシ達に理解できる筈も無い。そうこうしている間に、立ち上がった帝王ゴールドは両手を高く掲げるといきなり雄叫びを上げた。
 《ぬおおおおおお〜〜〜っ!!》
 そして、玉座と階段を破壊しながらそのままその身体は巨大化を始め、あれよあれよと言う間にエヴァ・フェニックスと同じ背丈となった。
 「何だと!?」
 ゴールドは腰に下げた剣を抜くといきなり切り掛かってきた。
 「うおっと!」
 寸前でエヴァ・フェニックスは体を開いて避けたが、ゴールドは俊敏に振り向いて第二撃を出してきた。だが、エヴァ・フェニックスはバック・ステップを取って一旦間合いを取る。
 「あの剣をGフィールドは防げると思うか?」
 「わからないわ。迂闊に突っ込んだら真っ二つにされるかも?」
 「何とか受け止めるしかないよ、ムサシ。」
 「受け止めると言ったって、こっちにも武器が有れば…。」
 そして、さらにゴールドの剣が襲ってきた。
 「チッ、こうなりゃ一か八かだ!」
 エヴァ・フェニックスは突如ゴールドにダッシュした。予想外の動きにゴールドは慌てるが、頭上から振り下ろす剣の軌道は変えられなかった。
 エヴァ・フェニックスはゴールドとの間合いを一気に詰め、渾身の右アッパー・カットを放った。
 《ぐあああっ!》
 顎から綺麗に打ち抜かれたゴールドは上に吹っ飛んで天井にぶつかり、落下して床に叩きつけられた。
 追撃をしようとエヴァ・フェニックスが間合いを詰めたその時、予想外の方向から衝撃を受けてエヴァ・フェニックスは弾け飛んだ。
 「な、何だ、今のは!?」
 その攻撃は、ゴールドの尻尾によるものだった。間合いに入ってからの外からの攻撃だったため、気付かなかったのだ。これではそう簡単に間合いを詰めて攻撃できない。そうしている間にゴールドは立ち上がってしまった。
 「くそっ、このままじゃ埒が開かねえ。ゲッター・ビームッ!」
 必殺のゲッター・ビームが発射された。だが、ゴールドは体を開いてビーム線を避けた。敵が弱って動きが鈍くなったところで発射しなければ、速度の遅いゲッター・ビームは避けられてしまう。では、避けられないように至近距離で発射しようにも間合いに入れない。
 「どうするの、ムサシ?」
 「このままじゃエネルギーが切れちゃうよ。」
 マナとケイタがムサシに問い掛けた直後、神からのアドヴァイスが入った。
 『落ち着け。間合いに入れなければその外から攻撃しろ。敵の武器を使うんだ!』
 「敵の武器?…そうか!」
 見ればゴールドは今、剣を持っていない。先ほど天井に激突した時に天井に刺さったままになっていた。
 《しまった!》
 エヴァ・フェニックスが天井を見たのでそれに釣られたゴールドは天井に己の剣が刺さったままになっている事に気付いた。
 背中の翼を開いて上昇したエヴァ・フェニックスを牽制しようと掴みかかるも一歩及ばず躱され、ゴールドは床に倒れた。
 エヴァ・フェニックスはゴールドの剣を天井から引き抜くと、今がチャンスとゴールドに向かって投げつけた。床に倒れていたゴールドは起き上がって振り向いた直後、己の剣で腹から刺し貫かれた。
 《ぐわっ!》
 「今だ!ゲッター・ビームッ!」
 よろめき片膝付いたゴールドは今度はゲッター・ビームを避けることはできなかった。
 《ぎゃああああーーーっっっ!!!》
 ゴールドの身体は燃え盛る炎に包まれた。
 「やったか!?」
 だが、ゴールドは火焔に包まれながらも恐るべき執念でまだ生きていた。
 《お、おのれ、ゲッター・エヴァめ…ついにこのわしまで倒すとは…だが、タダでは死なぬ!きさまも地獄に道連れにしてやる…。》
 ゴールドは這いずりながら床のとある所まで辿り着くと、隠しボタンを押した。すると、床に大穴が開き、ゴールドはその中に落ちていった。
 「何だ、あの穴は?」
 「まさか、秘密の脱出口とか?」
 エヴァ・フェニックスがその大穴に近づいて中を見ると、そこには本物の火口があった。そして、河口の中には真っ赤に燃えるマグマが煮えたぎっていた。落ちていったゴールドはそのマグマの海の中に没した。
 「これで終わったわね。」
 「ああ。流石、敵の首領だけあって手強い相手だった。」
 「…変だよ、二人とも火口の中をよく見て!マグマが活性化している。」
 ケイタの声にムサシとマナも火口をよく見てみると、マグマが下からどんどん吹き上がって来ていた。ゴールドは己に残った最後の力でマグマを活性化させたのだ。
 『いかん!直ちに脱出しろ!』
 「了解!」
 エヴァ・フェニックスは元来た通路―と言っても元々あった通路ではなく無理矢理破壊して造った穴だが―を戻り始めた。だが、マグマの勢いは激しく、全てを焼き砕きながらエヴァ・フェニックスに迫り来る。
 「ムサシ!前の穴が!」
 無理矢理破壊して作ったせいか、瓦礫が崩れ落ちていてエヴァ・フェニックスは通り抜けられそうになかった。だが。
 「オープン・ゲット!」
 エヴァ・フェニックスは分離して、三機のエヴァンゲッターとなってその狭い穴を潜り抜けた。そして、三機は上方に開いたダミーの火口から外への脱出に成功した。その直後、マグマがそこから吹き上がり、その火口はダミーから本物になってしまった。
 火山の噴火により、流れ出たマグマと吹き上がった噴煙・火山弾に襲われた箕面島の中でメカザウルスは次々と破壊されていった。
 「これで恐竜帝国も壊滅ね。」
 「ああ。」
 「…でも…もっと他に方法は無かったのかな…。」
 呟いたケイタの視線の先では、箕面島に生息していた動物達が逃げ場も無く次々とマグマに飲み込まれていた。人間の手が初めて触れられたこの日、箕面島は動物達の楽園から地獄へと化したのだ。
 「仕方ないわよ、火山の噴火もどうせ敵の首領が私達を道連れにして死のうとしたからだろうし。」
 「俺達には敵を倒すしか無かったんだ。」
 『ムサシ、マナ、ケイタ。三人ともご苦労だった。各機、直ちに帰還せよ。』
 「「「了解!」」」
 三機のエヴァンゲッターはネルフへ向かって茜色に染まる大空を翔けていった。
 こうして恐竜帝国との戦いは終わり、人類は束の間の安息を手に入れたのだった。










 それから一ヶ月後。ゲッターチームはまだ戦いの中にいた。
 「海の中なら私の番よ。チェンジ!ゲッターGO!」
 マナのコールで三機のエヴァンゲッターが合体し、エヴァ・マーメイドはそのまま海の中に飛び込んで敵を追撃する。
 「逃がさないわよ!ゲッター・ランス!」
 エヴァ・マーメイドの両腕からパーツが一部外れ、それが自動でつなぎ合わさると棒状に長く伸び、その先端は鋭い錐のようになった。
 敵の後方から接近していったエヴァ・マーメイドは狙い済まして手にした槍を投げつけた。槍はものの見事に敵を背中から貫いた。
 もはやこれまで…そう思ったのか、敵はエヴァ・マーメイドの目前で自爆して散った。勿論、Gフィールドに守られたゲッター・エヴァが傷付けられる事は無かった。
 「たった一投で仕留めるとは見事だぜ、マナ。」
 「これも日頃の訓練の賜物ね。」
 「その訓練というのがTVゲームだというのが信じられないけどね。」
 敵を撃破したゲッターチームは第三新T市へと帰還の途についた。

 私の名は神村マナ。人類を脅かす存在と戦うために結成された、国連直属の特務機関ネルフの特殊戦闘部隊・ゲッターチームの一員。特殊戦闘機エヴァンゲッターに乗り、三機のエヴァンゲッターが合体した戦闘ロボット・ゲッターエヴァで敵と戦っているの。ゲッターチームとは私の他に若松ムサシ、泉ケイタ、そして隊長の神ハヤト。ムサシとケイタとは同い年で三人ともエヴァンゲッターのパイロット。このムサシというヤツは…顔はイイんだけど、ちょっと無鉄砲な性格なのが欠点かな。あれさえなければホレてもいいんだけどね。対してケイタは少し幼いカンジの顔立ちで、地味ってゆーか物静かな性格だけど、やるときはやる不言実行の男。で、神隊長は戦闘時に指示を出す人で、私達とは一回り年齢が違うんだけど頼りになる兄貴分ってカンジ。
 それと、ゲッター・エヴァは合体の仕方で三つの姿になるの。メイン・パイロットがムサシの場合は二足歩行型のエヴァ・フェニックス、私がメインの場合は人魚型のゲッター・マーメイド、ケイタがメインの場合は四つ足のゲッター・グリフォン。ゲッター・フェニックスは空も飛べるから汎用タイプとして一番出番が多い。私のゲッター・マーメイドは水中戦専用だからあまり出番はないのがちょっと悔しい。まあ、ケイタのゲッター・グリフォンはもっと出番が少ないけどね。
 どうして戦闘機が合体したり変形できるのかはよくわからないけど、ゲッター線というエネルギーによるものらしいわ。そのゲッター線というのもどういうものかよくわからないけど。だから、そのゲッター線について世界で最も詳しい早乙女博士という人がネルフの最高司令官をしているの。
 私たちが今戦っている敵は百鬼帝国。信じられないけど、何と空想上の生物だった鬼が実在していて、それが国を作っているらしいわ。そして、人類よりも優れた科学技術を持っていて、メカ兵鬼と呼ばれるロボット兵器で日本を攻撃してきたの。つい此間までは爬虫類が二足歩行体に進化したジャシンカ帝国…じゃなかった恐竜帝国というのが相手だったけど、その時のメカザウルスよりもこのメカ兵鬼というのは強かった。でも、メカザウルスとの戦闘時ではゲッター・ビームの他には徒手空拳で戦っていたゲッター・エヴァにも武器が備わっていたのよね。エヴァ・フェニックスにはゲッター・ソード。エヴァ・マーメイドにはゲッター・ランス。エヴァ・グリフォンにはゲッター・アロー。パワー・アップしたゲッター・エヴァは余裕でメカ兵鬼に勝てた。勿論、ゲッター・エヴァの力だけでなく、普段からの訓練の成果でもあるけどね。

 えーと、以上は今現在の私の話、そしてここからは昔の私の話。
 今、17歳の戦乙女である私は、数ヶ月前は14歳の中学二年生だったの。年齢が合わない…と思うかもしれないけど、これは本当よ。どう言う事かというと、戦略自衛隊付属中学校に通っていた私・霧島マナは、ある日目覚めたら違う世界の人間になっていた…。目が覚めてすぐは胸が大きくなっていたからすっごく嬉しい気分だったものの、鏡で自分の顔を見たら別人になっていたんで唖然呆然。ただ、チャーミングなタレ目は変わっていなかった…。でも、何故か不思議な事にこの神村マナという女性のそれまでの知識・記憶はちゃんと私の頭にも入っていた―何か言い方がヘンかも?―という事で、私は神村マナとして生きていく事になってしまったの。
 最初は自分の知らない―本当は知ってる筈…って、ああもう、頭の中がこんがらがっちゃう―メカを操縦できるという事で内心は嬉しい気分だったわ。本当に嬉しがっていたら怪しまれちゃうんで心を隠すのが大変だったけどね。でも、いつだったか、ある事実を知ってそんな気分は吹っ飛んだの。そのある事実とは…私の前任者・神アスカという女性が訓練中の事故で死んでしまったという事。言うまでも無く、神隊長の妹さん。神村マナが慕っていた学校の先輩。神隊長の胸中を慮ったら、嬉しいとか感じてる場合じゃないもの。
 私は人類を守る為に選ばれたパイロット。生半可な気持ちでいたら死ぬ事になる。正直言って、身体は17歳でも心はまだ14歳なのだから挫けそうになる事もあったわ。だけど、前の世界にいた時の恋人や親友と同じ名前のムサシとケイタの存在が私に安らぎを与えてくれるの。
 私は負けないわ。いつか、元の世界に還れる日が来る事を信じて、今はただゲッター・エヴァで戦い続ける。


 長くなるから端折るけど、私達は何度もメカ兵鬼と戦ってそれらを全て倒してきた。メカ兵鬼と言ってもそれは総称で、各個体には旋風鬼、千面鬼、戦鐸鬼、双児鬼、食鬼、貫槍鬼、螢傘鬼、錐帆鬼、砲鬼、電爪鬼、電羽鬼、弓刀鬼といった名前が付いていた。もっと正確に言うと、それらはパイロットを務める人間と同じサイズの鬼の姿を模したらしいけど。そして敵の本拠地は科学要塞島という名前の移動要塞。質量とエネルギーとを相互に変換できる〔シムラティック・バランサー〕と言う、何だかよくわからないシステムで動いているとか。
 何でこんな事がわかったのかと言うと、なんとネルフのオペレーターの一人・青葉さんの友人だった人が敵の一員だったからなの。その人はテルオって名前らしいんだけど、青葉さんが趣味でやってるロックバンド〔コバルト・スカイ〕のベースマンだったとか。そのテルオさんはある日突然鬼になってしまったらしい。人間が突然鬼になる…よくわからないけど、考えられるのは突然変異によるミュータント、というのが鬼の正体かもしれない。まあ、中には無理矢理鬼に改造された人間もいるらしいけど。それで、テルオさんは鬼になってしまったけど、鬼である自分のアイデンティティと青葉さんとの友情との間で板ばさみになって…青葉さんに百鬼帝国の情報を告げた後、失踪した。次に現れた時はメカ兵鬼・旋風鬼に乗って攻撃してきたの。青葉さんは人類の平和のために心を鬼にして職務を全うした。私達はゲッター・エヴァで旋風鬼を倒した。そうするしかなかった。
 そして、百鬼帝国はついに最後の決戦を挑んできたわ。科学要塞島がなんと海上に姿を現して東京湾に接近してきたの。すぐにエヴァンゲッターは出撃した。
 恐竜帝国との最終決戦の時と同じように、JSDFとJMDFが援護してくれた。と言っても、エヴァ・マーメイドが海底から接近する際の囮役みたいなものが殆どだった。
 ありがとう、JDFのみなさん…あなた達の死は無駄にしないわ。必ず百鬼帝国は倒してみせるから。
 私は強い決意を胸にエヴァ・マーメイドを科学要塞島に突撃させた。
 「ちょっと、マナ!敵の動力炉のサーチが先だろ!」
 「のんびりサーチなんかしていられないわ!今もJDFに多くの犠牲が出てるんだから!とにかく、敵要塞の中に侵入して片っ端から破壊して、敵を混乱させるのよ!」
 「俺も賛成だ!行け、マナ!」
 ケイタは神隊長の作戦どおりに動くべきだと言ったけど、ムサシは私の思いをわかってくれた。サンキュー、ムサシ。
 海上の戦闘に気を取られていた敵はエヴァ・マーメイドの接近に気付くのが遅れたらしく、メカ兵鬼を出さずにミサイルで迎撃してきたけど、そんなものGフィールドで守られているゲッター・エヴァにとっては蚊ほども効かないわ!
 今の私はムサシと同じくらい熱血していた。何か不思議。

 エヴァ・マーメイドは敵のミサイルを吹っ飛ばして科学要塞島の底部に取り付いた。その頃になって敵はメカ兵鬼を発進させてきた。だが、エヴァ・マーメイドはそれを待っていた。
 「ゲッター・ランス!」
 発進口が開いたその瞬間を狙って投げられたゲッター・ランスがメカ兵鬼を貫き、爆発させた。発進口も破壊され、科学要塞島の内部に侵入したエヴァ・マーメイドは気密ブロックをブチ破った。流入する海水とともにエヴァ・マーメイドも敵要塞内部を破壊しながら奥へと進んでいく。
 マナの意図したとおり、このままでは要塞が沈没してしまうという事で敵は大混乱に陥った。かと言って、要塞内部でメカ兵器にゲッター・エヴァを迎撃させる訳にはいかない。そんな事をすれば内部の破壊がさらに進んでしまうからだ。
 やがてエヴァ・マーメイドはやたら広いエリアに到達した。
 「ここは…。」
 「随分広いエリアだな。」
 直後、後方のシャッターが上から降りてきて、侵入口を閉じてしまった。
 「しまった!これは罠だよ、マナ!」
 ケイタの読みは当たっていた。そこまでは壁を破壊されて侵入を許してきた敵はエヴァ・マーメイドを広大なスペースに誘い込んで、まずは海水の流入を遮断する事にしたのだ。そのエリアは広すぎて、エヴァ・マーメイドが活動するに十分な水位には届かなかった。おそらく、途中の通路も今頃はシャッターで遮断されているだろう。排水も始まっているだろうし、また海水を流入させれば水位を高くできるだろうが、そのためにシャッターを破壊しに戻ってなんかいられない。
 「ようし、マナ。ここからはエヴァ・フェニックスの出番だ!」
 「オッケー!任せたわよ、ムサシ。オープン・ゲット!」
 空中にジャンプしたエヴァ・マーメイドは三機のエヴァンゲッターに分離して飛行する。
 「チェンジ!ゲッターGO!」
 三機のエヴァンゲッターは再び合体してエヴァ・フェニックスとなった。
 「光子流探知開始!」
 シムラティック・バランサーはアインシュタインの数式、E=mc^2で表されるエネルギーと質量を相互変換できるシステムである。物質があればエネルギーを得られ、エネルギーを入れれば物質が作れる。その相互変換の際に介在するのが光、すなわち光子の波動流である。従って光子の強烈な流動が発生している場所にシムラティック・バランサーがある筈なのだ。
 このシステムは勿論現在の科学技術では実現不可能だった筈だが、その基本構造を考え付いた者がいた。早乙女博士のかつての友人、志村博士である。だが、実現不可能なそのシステムを提唱し続けた彼はマッド・サイエンティストの烙印を押され、30年前のある日に突然失踪した。
 テルオのもたらした情報からMAGIが導き出した敵の動力源がシムラティック・バランサーだと知った早乙女博士は、敵の首領の正体に薄々感づいていた。
 「ようし、こっちだ!」
 エヴァ・フェニックスは強烈な光子流を感知、その方向へ移動を開始した。敵兵が小火器で応戦するも空気のように吹っ飛ばし、進行を妨げる壁はゲッター・ソードで切り開く。そして、エヴァ・フェニックスは科学要塞島の中心部に到達した。
 「これがシムラティック・バランサーなのか?」
 壁をブチ破った先の広大な空間の中心には光り輝く球体があった。そしてその円周部から16本のアンテナのようなものが突き出し、回転を続けていた。周囲を見ると、その空間の壁は銀色のパネルに覆われていた。
 「その通りだ。」
 声がして、エヴァ・フェニックスの真向かい側の壁の一部が開き、角を生やした巨人が現れた。
 その面影は、早乙女博士が知るある人物に良く似ていた。
 「ついにここまで来たか、ゲッター・エヴァ。だが、このシムラティック・バランサーを破壊させはせん。断じてやらせん!」
 巨人は腰に下げていた鞘から長刀を抜き放った。
 「まさか、こいつが…。」
 「ついに敵のラスボス登場ね。」
 「流れから言って間違いないよ。」
 「我が名は百鬼帝国の支配者にしてこの世界最高の科学者、ブライト大帝。このブライトの名において、きさま等を葬ってくれる!死ねい、ゲッター・エヴァ!」
 ブライトは長刀で切り掛かって来た。
 「それはこっちのセリフだ!」
 エヴァ・フェニックスはゲッター・ソードでそれを受け止めた。そして、鍔迫り合いの後、双方は後方へ飛び退って体勢を整えなおす。
 さらに双方は剣で切り合うが、ブライトの長刀はG−フィールドに阻まれて傷一つ付けられず、逆にゲッター・ソードは着実にブライトの装甲にダメージを与えていく。
 数合の後、ついにゲッター・ソードがブライトの胸の装甲を切り裂き、その刃先が心臓部まで達した。
 「ぐわあああーーーっ!」
 断末魔の声を上げると、ブライトの身体は爆発飛散した。至近距離からの爆発だったが、G−フィールドのおかげでエヴァ・フェニックスは無傷だった。
 「これで百鬼帝国との戦いも終わりだな。」
 「待った、ムサシ!あれを見て!」
 ケイタに言われてブライトの破壊された身体を見たムサシは、ブライトの頭部の額が一部開き、中から人間―頭に巨大な二本の角が生えているが―が這い出てくるのに気付いた。
 「まさか、あれが本当の敵の親玉か?」
 「今までのメカ兵鬼と同様だったわけね。」
 それが本当のブライト大帝であり、人間だった頃は新たなエネルギー源の模索で早乙女博士と凌ぎを削っていた男だった。
 「うう…流石だ、早乙女…きさまの作り上げたゲッター・エネルギー・システムに私のエネルギー変換システムは敗れた…。」
 『そうではない!』
 エヴァ・フェニックスの外部スピーカーを通じて早乙女博士の声が響き渡った。
 『ゲッター・エヴァが勝ったのは、平和を愛し正義を信じる三人の若者の心によるものだ。人類への復讐のために狂気に走ったお前の心が勝てる筈もなかったのだよ、志村…。』
 「何!?」
 「じゃあ、この鬼が志村博士だったの?」
 「迫害を受け、人類を憎んで復讐しようとした報いで鬼になってしまったという事か…。」
 今は鬼となってしまった志村博士、いや、百鬼帝国の支配者ブライト大帝は床を這いながらシムラティック・バランサーに近づいていく。
 「さらばだ、早乙女…だが、そこの三人も地獄へ道連れだ…。」
 危険ゾーンに入ったブライトはアンテナから迸った稲妻を浴びた途端、融けて蒸発した。その直後、シムラティック・バランサーは暴走を始めた。周囲のアンテナの回転速度がどんどん上がって猛スピードになり、中央の光の球体から四方八方に稲妻が迸りだした。ブライトが死ぬと、暴走するようにプログラムされていたのだ。
 『いかん!ムサシ、マナ、ケイタ、すぐに脱出しろ!』
 「了解!」
 ゲッター・フェニックスは破壊しながら進んできた道を戻り始めた。しかし、行く手がシャッターで阻まれる。
 「そんな壁なんぞ、ゲッター・ソードで―」
 「ちょっと待って、ムサシ!下に海水が溜まってる!」
 「それがどうした?」
 「来る時はここでゲッター・フェニックスにチェンジしたのよ!つまり、あの向こうは海水で一杯よ!」
 「じゃあ、どうする?ここではエヴァ・マーメイドにチェンジしたって動けないぞ?」
 『ゲッター・ソードを起点にしてゲッター・ビームで破壊しろ。再合体が遅れたら命は無いぞ!』
 「なるほど、その手があったか!了解!」
 神の指示をムサシはすぐに理解し、エヴァ・フェニックスはゲッター・ソードを構えた。
 「マナ、ケイタ。タイミングを間違えるなよ。」
 「ムサシこそ。」
 「いつでもいいよ。」
 「ようし!」
 エヴァ・フェニックスはゲッター・ソードをシャッターに突き刺した直後、後方に飛び退った。
 「オープン・ゲット!」
 三機のエヴァンゲッターに分離し、すぐにポジショニングを合わせる。
 「チェンジ!ゲッターGO!」
 マナのコールで再びエヴァ・マーメイドに合体。
 「ゲッター・ビーム!」
 エヴァ・マーメイドの額から発射されたビーム流がゲッター・ソードに直撃し、爆発させた。シャッターが吹き飛び、あっという間に流入した海水にエヴァ・マーメイドは包まれた。

 「科学要塞島、沈降を続けています。」
 「ゲッター・エヴァの脱出は?」
 「まだ、確認できません。」
 「間に合ってくれ…。」
 そして、暴走により周囲を破壊し続けていたシムラティック・バランサーはとうとう支えを失って落ちてきた天井の構造物に押し潰され、破壊された。
 海中から巨大な光が上昇してきたかと思うと、海上に巨大な水柱を上げて大爆発を起こした。
 「科学要塞島、大爆発しました。」
 ゲッター・エヴァははたして脱出できたのか?沈黙が発令所を覆ったが。
 「パルス確認しました!ゲッター・エヴァは健在です!」
 青葉の報告と共にモニターのマップに光点が灯った。
 エヴァ・マーメイドは海上へ飛び出すと三機のエヴァンゲッターに分離した。
 「終わったな…。」
 「ギリギリだったけどね。」
 「うん…。」
 ムサシとケイタに比べ、マナの言葉は弱々しい。
 「どうした、マナ?」
 「いえ、勝ったのは嬉しいんだけど…志村博士って元々は人間だったんでしょ?それが迫害されて、人類に復讐しようとして、突然変異で鬼になってしまった…もし、迫害を受けなかったら…。」
 鬼達は元人間、或いは人間から突然変異したミュータントであり、意思の疎通もできたのだ。和解の道はなかったのだろうか…とマナは思うのである。
 「仕方ないよ、時の流れは戻せないし、ればたらを言ってたらキリが無い。」
 「俺達には敵を倒すしか無かったんだ。」
 『ムサシ、マナ、ケイタ。三人ともご苦労だった。各機、直ちに帰還せよ。』
 「「「了解!」」」
 三機のエヴァンゲッターはネルフへ向かって茜色に染まる大空を翔けていった。
 こうして百鬼帝国との戦いは終わり、人類は束の間の安息を手に入れたのだった。

 








 それから一ヵ月後。ゲッターチームはまだ戦いの中にいた。
 「ゲッター・ファイヤー!」
 エヴァ・グリフォンの口から吐き出された火炎流に包まれた敵は爆発四散した。
 「敵の殲滅を確認。任務終了。」
 ケイタは淡々と報告し、敵を撃破したゲッターチームは第三新T市へと帰還の途についた。

 自分の名は泉ケイタ…まあ、ムサシとマナがしつこく説明したからゲッターチームとかネルフとかゲッター・エヴァの説明はしなくてもいいと思うので省略する。
 今、説明しなくてはならない事があるとすれば、それは現在の敵についてだろう。恐竜帝国、百鬼帝国を倒して日本に平和が戻ったと思ったら、今度は北極で大事件が発生した。ポーラー・ステーションがマッド・サイエンティスト、プロフェッサー・ランドウの手に落ちた。世界中で上空にオーロラが目撃され、空が曖昧な色になった事で異変は察知された。奴は地球全体の命運を左右する地軸をいわば人質にして、世界各国に宣戦布告してきた。そして最初にその野望の手を伸ばしてきたのがここ、日本だった。ランドウの造り出したメタルビーストが襲ってきたとき、ゲッターチームは出動した。
 メタルビーストはメカ兵鬼よりも高い性能を持っていたが、エヴァンゲッターには更に新たな武装が追加されていた。
 エヴァ・フェニックスには角から発射されるゲッター・サンダー。エヴァ・マーメイドには胸から発射されるゲッター・サイクロン。エヴァ・グリフォンには口から発射されるゲッター・ファイヤー。
 神隊長の進言によって更なるパワーアップを果たしていたゲッターエヴァはメタルビーストを撃破していった。

 さて、ここからはムサシとマナに倣って自分の事を話そう。
 二人と同じく、自分も違う世界からやってきて他人に憑依した形で今を生きている。だが、数ヶ月前の自分は戦略自衛隊付属中学校に通う14歳の中学二年生、浅利ケイタだった。
 本当の自分がいた世界では、西暦2000年にセカンドインパクトという人類史上最悪の異常事態が発生し、地軸が傾いてしまったせいで南極大陸が氷ごと融解し、多くの都市が水に沈んでしまった。そんな時に日本は生物か兵器か全く判らない正体不明の[使徒]という生命体の襲撃を受けた。
 こんなこともあろうかと、じゃないけど人類にも備えはあった。[使徒]を迎撃し殲滅するために組織された、国連直属の特務機関・ネルフ。そしてネルフの保有する汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン、通称エヴァ。エヴァは三機あり、それを操縦するのは自分達と同じ14歳の少年少女だった。
 それに対し、日本政府と戦略自衛隊はネルフとエヴァに対抗しようと、特殊機甲部隊を作ろうとした。その中核を為すのが陸上巡洋艦とも言われるロボット兵器・グリフォンで、ムサシとマナと自分の三人はそのパイロットだった。
 ちょっと話が脱線気味と思うので修正しよう。とにかく、そんな自分達はある日突然、この世界のムサシ、マナ、ケイタという人間に憑依していた。ムサシとマナは、三人とも同じ状況だという事にまだ気付いていなくて、それを言い出したら(キ)扱いされると思っているみたいだ。
 何故、自分達がこの世界に飛ばされてきたかは不明だが、何かしらの理由はあったと思う。自分達と同じ名前の人間がいた事、ネルフという組織があった事…。
 この世界のネルフも万が一の事態に備えて組織された特務機関だった。ただし、決定的に違う事実もあって、人造人間エヴァンゲリオンではなく超戦闘機エヴァードが開発されていた。しかし、その試験中に突如発生したディラックの海という超次元断層に三機のエヴァードは飲み込まれてしまった。三機のエヴァードを取り戻すためにネルフが敢行したのは、現存する全てのN2爆弾でディラックの海を破壊し、エヴァードを外に弾き出すという方法だった。そんな無茶苦茶な方法でもエヴァードは何とか取り戻す事ができた。しかし、その爆発の衝撃にエヴァードの機体は耐えられたものの、三人のパイロットは耐えられなかった。一堂レイ、風間シンジ、神アスカ…自分達の前任者は全員死亡。その責任を取って、ネルフの総司令・六文儀ゲンドウは辞任、同じく戦闘指揮官・葛木ミサトも辞任した。
 だが、戻ってきたエヴァードを調査した結果、ディラックの海の中でゲッター線を浴びた為に特異な変化が起きている事が判った。そこで、ゲッター線研究の世界的権威である早乙女博士がネルフ総司令に就任し、早乙女博士に呼ばれて戦闘指揮官になったのが神隊長。
 ネルフのスーパーコンピューター[MAGI]による分析の結果、エヴァードには信じがたい変化が起きていた。それは、同時にゲッター線を浴びた三機は合体融合変形をする可能性があると言う事だった。かくして、三機のエヴァードには早乙女博士が開発したゲッター・チェンジ・システムが組み込まれた。パイロットの意思で機体からゲッター線のエネルギーを迸らせ、絶対無敵のゲッター・フィールド(通称Gフィールド)を張り巡らせると共に、三様の合体形式で三種のロボット兵器へチェンジする…三機の超戦闘機エヴァードはエヴァンゲッターと呼ばれるようになり、ロボット兵器はそれぞれエヴァ・フェニックスとエヴァ・マーメイドとエヴァ・グリフォン、まとめてゲッター・エヴァと名づけられた。
 ゲッター・エヴァは怖いくらい無敵だ。もしこれと一緒に元の世界に戻ったら、エヴァンゲリオンにも勝てるかもしれない。

 そして、今日も襲撃してきたメタルビーストを殲滅するため、ゲッター・エヴァは出撃した。だが、メタルビーストは突如三体に分離すると、腹部についている球体から何か光を発し始めた。その光、輝きは色・明るさ・発光時間を何かしらの周期で繰り返しながら明滅を繰り返していく。そんな光の明滅など、物理攻撃を弾き返すG−フィールドを破る事ができる筈も無かったが、それは機体に対する攻撃ではなく、パイロットに対する攻撃だった。
 [MAGI]がその光の明滅状況の分析結果を報告した時は既に手遅れだった。ムサシ、マナ、ケイタの三人はその光によっていつの間にか意識を失っていた。
 プロフェッサー・ランドウは力押しではなく搦め手の作戦をぶつけて来たのだ。
 メタルビーストから発射された幻覚光線で意識を失った筈のケイタ、マナ、ムサシの三人は気付くとそれぞれアナザーワールドにいた。



 F2リーグのプロサッカーチームとは名ばかりで解散寸前の弱小チーム、FCオレンジ。だが、ある日そこに救世主がやってきた。
 その名は若松武蔵。弱冠17歳の天才ストライカー武蔵の活躍でFCオレンジはF1リーグ昇格を目指して意気上がる。

 秋水女子大付属中学一年の神村真名の趣味は、同じく付属高校一年の姉・綾瀬にいろいろなコスプレをさせていじる事。
 今日も言葉巧みにクノイチだ魔法少女だバレリーナ(…これは当たり前か)だの衣装を着せては「イカスー!」と絶叫。

 悪の忍者軍団、風魔忍軍の魔の手から日本を救うために戦う正義の忍者、その名も「忍者キャプター」。
 キャプター6・風忍こと泉敬太はその一員である。自慢の武器・風貝で今日も敬太は悪と戦うのだ。



 「ムサシ!マナ!ケイタ!返事をしろ!!」
 「ダメです!パイロットの反応、ありません!」
 ゲッター・エヴァは沈黙、戦闘不能に陥った。しかし、敵メタルビーストの攻撃がパイロットへの心理攻撃だとわかった今、手をこまねいているネルフではなかった。直ちにJLDF―Japan Land Defence Force、すなわち日本陸上防衛軍に協力を要請し、メタルビーストに攻撃を加えて光を遮ったのだ。
 そして、三人はゲッター・エヴァから搬出され、ネルフ内の医療施設へ運び込まれた。

 「今こそ絶対の好機!ゲッター・エヴァが使い物にならぬ今、我がメタルビーストを妨げるものは存在しない!世界各国へ攻撃を開始せよ!」
 プロフェッサー・ランドウは最後の大決戦を仕掛けてきた。何と、世界中の主要国10ヶ所の一斉攻撃を開始したのだ。たとえエヴァンゲッターが復活したとしても、たった一機では手が回らない。世界中に危機が訪れようとしていた…。

 「ふっふっふ、最初に我が手に落ちるのはどの国かな?」
 だが、スクリーンを見つめるプロフェッサー・ランドウは自慢のメタルビーストが次々と破壊されていく衝撃のシーンを目撃した。
 「な、何だ、あのロボットは!?」

 「ブレスト・ファイヤー!」
 「サンダー・ブレーク!」
 「スペース・サンダー!」
 「ハイドロ・ブレイザー!」
 「ゴッド・アルファ!」
 「ムーン・アタック!」
 「サン・アタック!」
 「ゴー・フラッシャー!」
 「スピン・ストーム!」
 「サンダー・フラッシュ!」

 世界中に危機が訪れた時、ついにスーパーロボット軍団が立ち上がったのだ。
 北京ではマジンガーZが。
 ニューヨークではグレートマジンガーが。
 モスクワではグレンダイザーが。
 ロンドンではガイキングが。
 パリではライディーンが。
 ベルリンではザンボット3が。
 ローマではダイターン3が。
 プレトリアではジーグが。
 キャンベラではゴーショーグンが。
 ブラジリアではバルディオスが。
 数多くのスーパーロボット達が次々とプロフェッサー・ランドウのメタルビーストを撃破していた。
 「お、おのれ〜、私のメタルビーストをよくも…。」
 「ランドウ様!」
 「どうした?」
 「ホーク、ポーター両名とも連絡が取れません。」
 「…お、おのれ〜、逃げおったな!」
 二人はテキサス・マックを強奪しようとアメリカに潜入していたのだが、敗色濃厚だと悟ってさっさと逃亡していたのだ。
 せっかくゲッター・エヴァを戦闘不能にした勢いで世界中に攻撃を開始したランドウだったが、メタルビーストを次々とスーパーロボット達に撃破され、はっと気付いた時には守りが薄くなっていたポーラーステーションに既に別のスーパーロボットが侵入していた。
 鬼かと見紛えるその機体は紫色をしていた。
 こうしてスーパーロボット軍団によってランドウは倒され、ポーラー・ステーションは人類の手に取り戻された。今度こそ、ようやく世界に平和が取り戻されたのであった。



 しかし、ムサシ、マナ、ケイタの三人は未だ幻覚に囚われたままだった。
 “ムサシ、マナ、ケイタ…何故、帰ってこない………お前達はその世界が好きなのか?”
 現実世界とも憑依した世界とも異なるまた別の世界で三人はそれぞれ永遠に生き続けるのだろうか………?



超人機エヴァンゲリオン3

「妖夢幻想譚」第九章 ゲッターエヴァ!

 完
あとがき