文明の章

第伍話

◆ささやかな反抗

7月6日(月曜日)、今日からシンジは第3新東京市立第壱中学校に通う事になる。
シンジは学校に良い想い出はない。母、碇ユイがいなくなった際の様々な事で、周囲から人殺しの子だと非難され苛められた。最終的には、最高裁で無罪の判決が出たが、それは、証拠不充分によるものであり、完全に殺人を否定したわけではない。疑わしきは罰せず、限りなく黒に近き灰色も白であると言う司法の大前提をマスコミも、周囲の人間も理解していない。いや、たとえ理解していたとしても、それを認めてしまえば、今まで非難中傷していた事が自らの罪になる。だから、その後も決してそれらを認め様とはしなかった。マスコミでは、何故無罪になってしまったのかと言う番組を最後に組み、一言の謝罪も無く、以後取り上げなかった。
そして、周囲の人間は、卑怯な手を使って無罪になった殺人者の息子として非難し、結局それまでとは変わらなかった。そして、シンジの天才ぶりは、必然的に苛めの口実となる。解決策は目立たない事、何事も中の中から中の上にいる事、シンジは無意識の内に殆どの才能を封じ込め、更に封じ込めたと言う事すらも意識から消し去った。そんな小学校時代から学び、それなりにレベルの高い公立中学校に進学、そこでは、ひたすら目立たない事に徹した。目立たなければ、苛められる事は無かったから・・・
只、一つ、シンジ自身も気になる事と言えば、ユイの墓があり、墓参りまでしているのに、書類上失踪となっていると言う事である。
「・・・行ってきます。」
シンジは8時前に家を出て学校に向かった。
ミサトはまだ寝ている。
一度起こそうとしてミサトの部屋に入って、ミサトの寝相による痴態を見てから、声をかけるだけに変更した。
今日は、声をかけたが起きてこなかったので、朝食を机の上に置いて、出てきた。


学校に近付くと数人の第壱中学校の生徒が歩いていた。
シンジはそれらの生徒と共に学校に入った。
校舎に入ると先ず職員室に向かった。職員室の前に着くとドアをノックして、中に入った。
「失礼します。」
職員室はかなり広いが、空いているスペースがかなり大きい。
「あの、2年A組の担任の先生はどなたですか?」
「転校生?」
近くにいた教師が尋ねてきた。
「はい」
教師は窓際で御茶を啜っている老教師を指さした。
「有り難う御座います。」
シンジは礼を言ってから老教師の所に行った。
「碇、シンジ君かね?」
老教師は湯飲みを机の上に置いた。
「はい。」
「じゃあ教室に行こうか。」
シンジは老教師に付いて教室に向かった。
(やさしそうな先生で良かったな)
チャイムが鳴った。
「今日、明日と期末テストなんだが、大丈夫かね?」
シンジは曖昧な返事を返した。
選抜入学試験がある第2新東京市の公立中学で、それなりの成績を取っていたシンジである。この学校が無試験制の校区による通常の中学校である以上、多少は大丈夫であろう。
そして、シンジは教室のドアの前に待たされた。
・・・
「今日は皆さんに、転校生を、紹介します。入って来なさい。」
シンジはドアを開けて教室に入った。
「碇、シンジです。宜しくお願いします。」
やはり緊張しているようである。
「じゃあ取り敢えず、あそこの席に座ってくれるかな?」
「はい」
シンジは真ん中ほどの空席に座った。普通に考えると真ん中の席が空いているのは変だが、使徒襲来のせいで転出が続く第3新東京市では普通の事である。
「洞木さん、後で碇君に学校を案内してあげてください。」
「はい。」
洞木と呼ばれた女子生徒が元気のいい返事をした。
「起立!」
「礼!」
洞木は、クラス委員長らしい・・と言っても、この状況下である。断定は出来ないが。
休み時間になったが、シンジの周りには人は集まって来なかった。シンジは、転校生が来ると良く転校生の周りに人だかりが出来ていたが、自分の回りには出来ていないのは、取り敢えずテストのせいだと考える事にした。
「では、国語の試験を始めます。」
テスト問題が配られチャイムと同時に解答を始めた。
その日は、英語、数学、理科、社会と主要5教科を受けた。明日は、保険体育(筆記)、技術家庭、美術、音楽の副4教科である。
全般的にそれなりに解けた。授業進度は、先の戦闘を考慮しても遅いようである。


放課後、洞木がシンジの所に来た。
「碇君、学校を案内するわ。」
「あ、有り難う。」
「あ、私、洞木ヒカリ、クラス委員長を務めているの」
「洞木さん、親切だね」
シンジは素直な感想を言っただけなのだが、ヒカリは突然くすくすと笑い出した。
「な、何か変だった?」
「い〜え、じゃ行きましょ、くすくす」
・・・
ヒカリの左をシンジは歩いている。
「今、私たちがいる校舎が本館ね、ここ2階は、1年生と2年生のクラスが入っているの。2年生は5クラス有るんだけど、私たちの2−Aを除くと皆2人とか3人、近い内に1クラスに成るわ」
「・・・・そうなんだ」
3階に上がった。
「3階は、3年生のクラスと図書室とコンピュータールームと生徒会室よ」
図書室に入った。
中学校の図書室にしては大きい。
「結構、大きいんだね」
「ええ、公立の中学校としては大きいわよ、第3新東京市立第壱中学校は、生徒数2800人を想定して作られているの」
「・・・でも、今では200人を切っているわ」
ヒカリは寂しそうに付け加えた。
「・・やっぱり、皆、疎開するんだね」
シンジは、コンビニでの主婦達の会話を思い出しながら言った。
「そうね・・・でも、碇君は逆に転入してきたけど」
「・・父さんの仕事の関係でね・・・」
「碇君のお父さんもやっぱりネルフ関係者?」
「あ・・うん」
(関係者と言うよりも・・・・)
「私のお父さんもネルフに所属してるの」
「そうなの?」
「ええ、技術部・・碇君のお父さんは何部なの?」
(総司令って部とかあるの?)
「ごめん、わからないや」
シンジは微妙な苦笑いをした。
「そうなの」
「それに、まともに父さんと話した事無いんだ・・・今も、父さんの部下の人のところに居候させてもらってる状態だし」
「ごめんなさい」
詳しくは分からないが他人が余り触れて良い話ではなかったと感じヒカリは申し訳なさそうだ。
「いいよ・・・」
「・・次、案内するわね」
(ああ、司令部か・・・ま、言わなくて良いか・・・)
・・・
コンピュータールームには200台近いコンピューターが置かれていた。
「普段はノートを使えば良いんだけど、どうしても能力が低いし、通信速度が低いから」
ヒカリは、学生証をコンピューターにセットした。
「学生証で起動するようになっているの」
「ふ〜ん」
・・・・
「1階は、職員室、校長室、応接室、会議室、保健室、カウンセリング室があるの」
「1階は、朝来た時に大体見たよ」
「じゃあ、特別棟に行きましょう」
・・・・
「こっちは、特別教室ばかり集まっているの、1階が家庭科室と工作室、2階が理科室と美術室、3階が音楽室」
「良い施設だね」
「ええ、多くの学校がセカンドインパクト以前の施設を補修して使っているのが現状なのに、この学校は、新設なのよ・・・」
・・・・
「あそこに見える校舎が2号館、その向こうの建設中なのが3号館、でも使われることは無いの・・・」
・・・
「で、渡り廊下を渡ると体育館と講堂」
体育館はかなり広い。
「広いね」
「ええ・・・でも広すぎて寂しいだけね・・・」
・・・
そして、テニスコート、プール、グラウンド等も案内された。


2−A、
「今日はどうも有り難う。」
「気にしないで、じゃあまた明日、バイバイ。」
「バイバイ・・・」
シンジはヒカリが去り自分一人になった教室に暫く居て、その後、帰路についた。


7月10日(金曜日)、期末テストの成績が発表された。
5教科
 1 綾波レイ(追) 496
 2 洞木ヒカリ   442
 3 高橋セイコ   427
 4 大北ジュン   410
 5 碇シンジ    408
 6 順天堂テツヤ  378
【中略】
12 相田ケンスケ  346
【中略】
32 浜原ヨシト    65
欠席 鈴原トウジ     0
欠席 山田ヨウコ     0

最高 綾波レイ    496
最低 浜原ヨシト    65
平均         316
在籍  34 受験者  32

   9教科
 1 洞木ヒカリ   782
 2 高橋セイコ   733
【中略】
10 碇シンジ    648
11 相田ケンスケ  643
【中略】
20 綾波レイ(追) 496
【中略】
欠席 鈴原トウジ     0
欠席 山田ヨウコ     0

最高 洞木ヒカリ   772
最低 浜原ヨシト   178
平均         580
在籍  34 受験者  32


シンジの成績は結構良かった。
(トップの綾波レイって、どこかで聞いた事無いか?)
シンジは暫く考えていた。
(でも、496ってすごいよな〜、どうやったらそんな点数とれるんだろ?)
試験勉強の試の字もしなかったシンジが5番を取れるという事は、そう大したレベルではないということである。
が、このクラスとなると話は別である。


翌朝、学校に着くと教室には、あの髪の青い少女が窓際の席に座って外を眺めていた。
(同級生だったのか・・・)
少女は包帯やギプス、眼帯を付けており、未だ怪我は完治していない様だ。
HRで彼女の名前が綾波レイである事が分かった。


1時間目と2時間目の間の休み時間、シンジは自分の席に座っていると、教室に黒のジャージを着た男子生徒が入って来た。
「鈴原!貴方10日間もどうして学校休んでたの!」
ヒカリが叫び声を上げて鈴原に寄って行った。
他、眼鏡を掛けた男子も寄って行った。


2時間目、数学、
先程から老教師はセカンドインパクトの話に入りだした。
「大質量隕石が南極に衝突したのは皆さんも御存知だと思いますが、これにより、氷の大陸は一瞬にして溶解し、海洋の水位は20メートルも上昇したわけであります。そして、干ばつや洪水、火山の噴火など異常気象が世界中を襲い、更には経済恐慌、民族紛争や内戦・・・僅か半年の間に地球の人口の半分が永久に失われたのであります。これが世に言うセカンドインパクトでありますな。」
老教師の話すセカンドインパクトは、地球の事だけである。地球の経済が崩壊した為に連鎖反応的に崩壊した国や地域がいったいどれほどあるか・・・。
ディスプレイに文字が書かれた。
《碇君があのロボットのパイロットだって噂ホント? Y/N》
驚いたシンジは周りを見まわすと、後ろ方の女子二人が手を振っていた。
《ねぇ、ホントなんでしょ    Y/N》
シンジはY、E、Sとキーボードを叩いて送信ボタンを押した。
その瞬間、教室中の生徒が驚きの声をあげ、一瞬にしてシンジはクラス中の者に取り囲まれて質問責めにあった。
「ちょっと!!授業中よ!!!」
二人の男子はシンジをただ見ているだけで、ヒカリはシンジを取り巻いている者に注意をしているが効果はない。
窓際の席のレイは寝ていた。
チャイムが鳴って休み時間になると、質問責めにあっているシンジに鈴原が近付いて来た。
「転校生、ちょっと顔かせや」
シンジは軽く頷き、鈴原について体育館との渡り廊下の近くに来た。
鈴原は拳を振り上げシンジの左頬を殴りつけた。
シンジは訳が分からないまま後ろに吹っ飛ばされた。
「ぐっ」
「わしはなあ、お前を殴らなあかん、殴らな気が済まんのや。」
シンジは鈴原の顔を見た。
「わしの妹はこの前の戦闘で瓦礫に挟まれて怪我したんや、敵やのおて味方が暴れて怪我させられたんや。」
そんな事はシンジの責任ではない。むしろ、命が助かったのだから感謝されなければならない事だし、先の戦闘でシェルターが破壊されたと言う事実は無い。つまり、避難命令が出ているにも関わらずシェルターの外にいて怪我をした、鈴原の妹が全面的に悪い。
しかし、シンジが思った事は、どうして、無理やり乗せられて、恐い思いをして、その上に訳も分からず殴られなければ行けないんだと言う、理不尽な現実に対する不満位のものである。
「僕だって好きで乗ってるわけじゃ・・」
シンジが起き上がりながら反論しようとすると再び鈴原が近寄り、又殴りつけ去っていった。
暫くそのまま空を眺めていると日の光が影に遮られた。
「・・碇君、非常召集・・・先に行くから・・」
「・・じゃ」
レイはシンジを置いて歩き出した。
「待ってよ、僕も行くよっ」
シンジは急いで起き上がりレイを追った。


シンジが右、レイが左を歩いている。
『只今、東海地方とした関東中部地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。速やかに指定のシェルターに避難してください。繰り返します・・・・』
市内放送が鳴り響いている。


シンジとレイの二人はジオフロント降下エスカレーターに乗って地下に潜っていた。
二人とも一言も口を開かないままセントラルドグマについた。
シンジは更衣室でプラグスーツに着替えケージに行きエヴァに乗った。
(僕は何でエヴァに乗ってるんだろ・・・・)
(乗る理由なんてあるのか?)
(人に殴られてまで父さんの傍にいたいのか?)
(あの父さんが、いつか僕を振り向いてくれるとでも思っているのか?)
(ばかばかしい・・・・そんな事あるはず無いじゃないか)
(そんな人間なら如何して10年間も放って置くものか)
(父さんにとって僕はただの道具、使徒と戦うエヴァを動かすための道具)
(父さんが道具を大切に思うはずが無い)
(・・・・じゃあ、僕は何故ここにいるの?)
『シンジ君良い?』
ミサトからの通信である。
「・・あ、はい」
『敵のATフィールドを中和しつつパレットの一斉射、練習通り大丈夫ね?』
今度はリツコ。
「はい」
『エヴァンゲリオン初号機発進!!』
射出され、兵装ビルから地上に出た。
今度の使徒は奇怪な形をしていた。イカとゴキブリを合わせたような使徒である。空中に浮いている。
使徒は体を起こした。
(目標をセンターに入れて、スイッチ!)
初号機は使徒に向けてパレットガンを撃った。使徒は見る見る弾煙に隠れて見えなくなったがまだ撃ち続けた。
『バカ!敵が』
ミサトが叫ぶのと同時に、煙の中から2本の触手が伸びて来て吹っ飛ばされた。使徒が触手を振り回しながら近付いて来るに連れ、シンジの中の恐怖が大きくなった。
「うっ、あ、ああ」
パレットガンは真っ二つになっている。
使徒の次の攻撃はなんとかかわしたが、直撃したビルが切り刻まれ吹っ飛んだ。更に2回続けてかわした。直撃したらやばい。
『アンビリカルケーブル断線!』
アンビリカルケーブルを切られた。
『シンジ君早く倒さないとヤバイわ。』
初号機の足が触手に掴まれ振り上げられて投げ飛ばされ丘の中腹に激突した。
「いたた、ん?」
初号機の丁度左手の指と指の間にびびりまくったトウジとケンスケが居た。
「ウッソー!」
『シンジ君!早く起きて!』
使徒が触手を振り下ろした。
(駄目だ動けない)
使徒の触手を掴み動きを止めたが両手に痛みが走った。
『初号機活動限界まで後3分30秒』
「う、ぐ、ぐ・・・」
『シンジ君其処の二人を一時エヴァに収容その後、一時退却、そして再出撃よ。』
『越権行為よ!葛城1尉』
『今の責任者は私です!』
本当の責任者、冬月がこの時何を思ったかは本人以外知る由は無い。
『シンジ君!』
シンジはミサトの指示通りホールドモードにしてエントリープラグを排出し、二人が乗り込んだ事を確認して通常モードに戻した。
何かリツコの叫び声も聞こえたような気もするが・・・
初号機は使徒の腹部を蹴り上げ、立ち上がった。
『今よ、退却して!回収ルー』
(プログナイフ装備)
初号機はプログナイフを装備した。
『!、何を考えてるの!!!』
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ」
「わああああああああ!!!!」
初号機は使徒に向かって突撃した。
使徒の触手が初号機の腹部を貫きシンジの腹部を激痛が突き抜けたが、初号機はそのまま、プログナイフを使徒のコアに突き刺した。
「があああああああ!!わああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
使徒のコアが割れ、使徒の動きが止まり、続いて初号機も活動限界に達した。
二人はシンジに声を掛ける事が出来なかった。


その夜、ネルフ本部エヴァンゲリオン操縦者待機室。
「如何して私の命令を無視したの?」
ミサトは壁に凭れながら尋ねた。
「・・・済みません」
「使徒殲滅は1秒程度の差だった、もし、使徒を倒せなかったらどうなっていたと思うの?」
「・・・済みません」
「人類はその場で滅亡していたのよ!済みませんで済む問題じゃないわ!」
ミサトは済みません以外言わないシンジにいらついて来て叫んだ。
「貴方は、作戦本部長、貴方の作戦責任者で、貴方は作戦部所属のパイロットで、その命令に従う義務があるのよ!」
シンジは、俯いたままだった。
「もういいわ、今日は帰って休みなさい。」
耐えられなくなったミサトは、シンジと目を合わさずに言った。
「・・はい・・」
シンジはゆっくりと部屋を出て行った。
「くっ」
ミサトは壁を殴り、壁が拳の形に凹んだ。壁が柔らかかったとは思えないが・・・
「何やってんのよ、子供相手に当たり散らして・・・」
元々乗る事を望んだわけでもない民間人の子供に、人類の滅亡の回避と言う大義を掲げ、無理やりエヴァに乗せ、そして、何も有効な指揮が出来なかった自分にいらつき、更に、自分達とは違う思考をするシンジにいらつき、最後は、大人の理論、それも、軍隊の理論で、つい先日まで民間人だった子供を断罪した自分が余りにも愚かに思えた。
しかし、実態を言うと、シンジはまだ正規の契約をしていないので、ミサトの命令を聞く義務は無い。親の手伝いをしている総司令の息子と言う立場なのだ。本当に愚か過ぎる。
廊下で待機していた日向が入って来た。
「葛城さん・・・」
「日向君・・・見てた?」
ミサトは振り返らずに尋ねた。
「いえ、でも、だいたいは推測できます」
「リツコ達には黙っててくれる?」
「はい」


7月13日(月曜日)朝、ミサトのマンション
ミサトはシンジが置き手紙をして出て行った事に気が付いた。
「あの、バカ・・・」
ミサトは手紙を読みもせずに、握り潰してごみ箱に投げ入れた。
そして、憂鬱な気分のまま出勤した。


夜、ミサトが家に帰ってくるとペンペンが上機嫌で近寄って来た。
「只今〜、ペンペン。」
ミサトはペンペンを抱き抱えるとシンジの部屋に行き、部屋を開けたが、やはりシンジは帰っていなかった。
(あいつ・・・帰ってないか・・・)
扉を閉めてから、嫌な事を忘れようと風呂に入った。
しかし、風呂に入ってもビールを飲んでも拭い切れはしなかった。


7月14日(火曜日)昼、ネルフ本部赤木博士研究室。
ミサトはシンジの事をリツコに話した。
「なんですって?・・シンジ君が行方不明?」
リツコは非難と言うよりも驚いたような表情を出した。
「様子が変だとは思ってはいたけど、まさか家出なんて・・・」
ミサトは仮初めとは言え、保護者の責任を全うできなかった負い目から、俯き加減に言った。
「貴女、それでの彼の監督係なの?」
しかし、リツコはミサトがサードチルドレン監督担当者としての任務を全うしていないことを非難し、カップを机に置いた。
「止めてよ、そんな言い方」
「仕方ないわね、上に報告するわ。」
リツコは電話を取った。
「待ってよまだ」
保護者と被保護者の問題としてではなく、監督者と被監督者としての問題として処理されようとしている事に不満を感じ止めさせようとした。
「何か有ってからじゃ遅いでしょ。それとも貴方自分で探し出すって言うの?」
何も言う事が出来ずに、ミサトは俯いた。
冬月への報告をした後、リツコはデーターベースにアクセスした。
「シンジ君は箱根から出ていないわよ」
「そう・・・でも、私に、シンジ君の行くところなんか想像できないわよ」
結局、シンジの事を何も知らなかったと言う事を自覚した。


2時間後には、ミサトの元に2週間の減棒のお知らせが届いた。
自動販売機コーナー、
「くそ〜〜!!保安部の奴ら〜〜!!そりゃ家出は私のせいかも知んないけどさ〜!行方不明は保安部の責任じゃないの!!」
ミサトは自動販売機に八つ当たりの蹴りを入れた。
ファンファーレが鳴り響き、ジュースの缶が次々に吐き出された。
その時、冬月が歩いて来た。
「葛城君、本部の備品を壊さないでくれよ」
「ふ、副司令!!!」
ミサトは片足を上げた状態で固まった。
「因みに、保安2課サードチルドレン班の担当者と責任者は3ヶ月の減俸処分となっている」
「は、はあ」
「それと、司令系統の混乱に関する始末書を持ってきたまえ」
「・・・はい?」
ミサトには冬月の言っている意味が分からなかった。
結局、シンジの命令違反等に関する監督不行き届き等の始末書を提出した。


昼休み、第3新東京市立第壱中学校、屋上、
ケンスケとトウジが手すりに凭れながら話をしていた。
「転校生・・・来ないな」
ケンスケが突然呟くように言った。
「・・ああ・・・せやな・・・」
「悪いと思ってるのか?」
「ああ、ナツにも言われた」
「妹さんに?」
「せや、あのロボットがいたから私達が生きていられるのよってな」
「そうか・・」
「なあ、トウジ、これから謝りに行かないか?」
「家、知っとんのか?」
「ああ、任せとけよ」
「ケンスケ、いっつもお前どこから情報仕入れてくるんや?」
「企業秘密さ」
何故かケンスケの眼鏡が光ったような気がした。


放課後、ミサトのマンション、
葛城とネームプレートにかかれた部屋の前にトウジとケンスケがいる。
トウジはインターホンを押した。
暫くしてドアが開いた。
ドアの向こうには、ペンペンがいた。
「「ペンギン?」」
「クア〜」
「碇は?」
ペンペンは首を傾げた。
「おらへんのか?」
ペンペンは頷いた。
「そか」
ペンペンはボタンを押してドアを閉めた。
「なあケンスケ、世の中にゃ、不思議な事があるもんやの」
「ああ、そうだな」


7月14日(火曜日)夜、
シンジはススキが広がる野原を歩いていた。
(バカだな・・・いくら歩き回ったて、結局どこにも僕の居場所なんかありはしないのに・・・・)
ススキの野原に白衣を着た女性が立っている。
どことなくレイに似ている。
女性はシンジの方を見て微笑んでいる。
「あの・・・何をしているんですか?」
女性は笑みを浮かべながらその姿が薄くなり始めた。
「え?」

・・・またね・・・・

女性の姿は完全に消えた。
シンジは暫く女性を捜したが見つけられなかった。
(気のせいかな?)
「碇ぃ!」
シンジはケンスケから呼ばれたようなきがして声がした方を見ると、ススキの中にケンスケが野戦用迷彩服を着てモデルガンを持って此方に手を振っていた。
シンジはケンスケの方に近付いて行った。
「もしやとは思ったけど、やっぱり碇か・・」
「相田だったよね・・・何してたの?そんな格好で?」
「戦争・・・ごっこかな?」


夜、シンジはケンスケのテントに泊めてもらうことになった。
シンジはケンスケの左に寝ころんでいる。
「トウジの奴、小学生の妹に叱られてたんだぜ。あのロボットがいたから私達が生きていられるのよってな。」
「そう」
「それにしてもさ〜、碇は羨ましいよな〜あんなかっこいいロボットを操縦できて、俺も一度でいいから思いのままにエヴァを操ってみたいよ。」
ケンスケは本当に羨ましそうだが、シンジは顔を顰めた。
「止めておいた方が良いよ。お母さんが心配するから・・・」
「家、御袋いないんだ・・・碇と同じだよ。」
妙に親近感を覚え、その後、少し話をしていたがいつしか眠ってしまった。


7月15日(水曜日)深夜、東京帝国グループ総本社ビル会長室
耕一がそろそろ今日の仕事を終え様かと思っていると、榊原が入って来た。
「如何した?」
「サードチルドレン碇シンジが行方不明になりました。衛星による探索の結果、大体の現在地が掴めました。」
「榊原ヘリを出せ!接触のチャンスだ。」
耕一は部屋を出て屋上に向かい、ヘリに乗り込んだ。


7月15日(水曜日)深夜、ケンスケが何者かの気配に目が覚めシンジを起こした。
二人でそっと外を見てみるとテントが数人の黒ずくめの男達に包囲されていた。
「碇シンジ君だな。我々はネルフ保安部の者だ、君をネルフ保安条例第8項の適用により本部まで連行する。」
シンジは黙って男達に連れて行かれた。
ケンスケがその場に立っていると、東の方から数十機のヘリの大編隊が来てススキの野原に着陸した。
「な、何だ!?」
数十人の女たちがこの辺りを包囲した。
(あの制服は、耕一親衛隊?)
ケンスケに二人の男性と一人の女性が近付いて来た。耕一、榊原、蘭子である。
「碇、シンジ君は?」
「さ、さっきネルフの人に」
(なんで、統監が出て来るんだ〜!!!)
「一歩遅かったか・・・榊原帰るぞ。済まなかったな、驚かして。」
「い、いえとんでも有りません・・・」
(だからぁ、何で統監が来るんだよ)
ヘリの大編隊が飛び立ち、辺りには又静けさが戻った。
ケンスケは暫く呆然と立ち尽くしていた。

 

あとがき
淋しい学校ですね・・・・シンジの頭が結構良い、レイはレベルが違う。
トウジのこの行動には、やはり、問題がありますね・・・
ケンスケの場合は、それ以上になっていますが、
ススキの野原に立っていた白衣の女性の正体は果たして?

次回予告
ミサトは、シンジをエヴァから降ろす事を決意する。そんなシンジは戸惑いと混乱を覚える。
拳によって償おうとするトウジ、一方内罰的なシンジは自分が悪いと言う結果を弾き出した、そんなシンジをミサトはやさしく迎える。
レイの驚愕の成績が明らかになり、碇がレイに渡した封筒、そして、それは、シンジの手へと渡される。
封筒の中に入っていた1枚の写真、果たしてそこに写るものは?
次回 第六話 第3新東京市の夏