文明の章

第八話

◆明日という名の希望

P.M.2:01、ネルフ本部作戦部作戦立案室
ミサトや日向その他、数人の作戦部の人間が集まっていた。
「始めて」
1/1エヴァンゲリオン初号機バルーンダミーが、湖上の船の上に浮かんでいる。
バルーンダミーが使徒に接近したと同時に加粒子砲によって消滅させられた。
「ダミー蒸発!」
「次」
線路上を独12式自走臼砲が走って来た。
因みに未だUNのマークがついている。
独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したが、肉眼ではっきりと確認できるほどのATフィールドに弾かれ、カウンターで消滅した。
「12式自走臼砲消滅!」


P.M.2:16
「これまでに採取したデーターによりますと目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと思われます。」
日向が事務的に報告した。
「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち・・・エヴァぁによる近接戦闘は危険過ぎるわね。」
ミサトは相当不利な状況にいる事が分かり額に汗を浮かべた。
「ATフィールドは?」
「健在です。相転移空間が肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています。」
独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したビデオが再生された。
「爆撃、誘導火砲のような生半可な攻撃では、痛い目を見るだけですね。こりゃ。」
「攻守ほぼパーペキ、まさに空中要塞ねぇ・・・で、問題のシールドは?」
「直系17.5メートルのシールドがネルフ本部に向かい穿孔中、明日0時6分54秒には22層全ての装甲隔壁を貫通しネルフ本部に到達するものと思われます。」
「後10時間足らずか・・・初号機の状況は?」
ミサトはケージに回線を繋いだ。
『胸部第3装甲まで見事に融解、でも機能中枢をやられなかったのは不幸中の幸いね。』
『後3秒照射されていたらアウトでした。』
リツコの解説に続けてマヤが付け足す。この2人のフォームのようだ。
『3時間後には換装作業終了予定よ。』
「零号機は?」
『再起動自体には問題は有りませんが、フィードバックにまだ若干の誤差が残っています。』
『実戦は、』
「まだ無理か・・・」
ミサトは大きく息を吐いた。
「初号機パイロットの容態は?」
「体には問題ありませんが、まだ眠っています。強制覚醒は心理パルスを不安定にするため、余り薦められません」
「・・・状況は芳しくないわねぇ〜」
ミサトはボールペンを額に当てた。
「如何します?白旗でも揚げますか?」
日向が冗談を言った。
無論、白旗を揚げることは許されていないし、揚げたところで人外の物が敵では変わりは無いだろう。
「ナイス・アイデア!・・でもその前にチョッチやってみたい事があるの。」
「やってみたい事ですか・・・」
ミサトの顔には少し笑みが浮かんでいた。一方日向は少し戸惑っているようだ。


P.M.2:26、ネルフ本部総司令執務室
ミサトが作戦の許可を取りに来ていた。
「目標のレンジ外からの長距離射撃かね。」
冬月は報告書を机の上に戻した。
「はい、高エネルギー収束体による1点突破しかありません。」
「マギは?」
「賛成が2、条件付賛成が1でした。」
「作戦成功率は7.8%か・・・他に案はなかったのか?」
「カスパーから、勝率99%以上の案が2つ出されましたが、いずれもメルキオール、バルタザール両機の大反対により否決されています」
「因みに、どのような案だったんだ?」
「一つは、エヴァぁの零距離自爆です」
「当然却下だな」
「もう一つは、核弾頭を殲滅するまで打ち込むことです」
「却下だな」
「後は?」
「初号機零号機を同時に使い、攪乱させながらATフィールドを中和、同時に、全火力を持って攻撃ですが、勝率は2.3%でした。」
「反対する理由は何も無い。存分にやりたまえ。」
「はい」


P.M.2:31、ネルフ本部技術部第3格納庫
リツコは計画書を捲った。
「これがねえぇ」
「時間内に実現可能、且、最も勝算が高い方法よ。」
「7.8%がねぇ・・・あの使徒のATフィールドを撃ち抜くのに要する出力は最低1兆5000億キロワット・・でも、そんな出力、うちのこれじゃ持たないわよ。いったいどうする気?」
リツコはロールアウトしたばかりの陽電子砲を見ながら言った。
「決まってるジャン、借りるのよ。」
「借りるってまさか」
リツコは嫌な予感に顔を顰めた。
「そう、戦自研のプロトタイプ。日向君、日本政府と戦自は任せたわ。」
「はい」
いつの間にかミサトの斜め後ろに立っていた日向が返事をした。
「私はもう一つの大きな所に行くわ。」
流石にミサトも緊張する所である。


P.M.3:11、東京、東京帝国グループ総本社ビル会長面会者用控え室。
ミサトは部屋に入るとその顔ぶれに驚いた。
中規模国家の国家元首や超巨大多国籍企業の社長、会長などが30人近く待っていた。
「ネルフ本部作戦部長葛城ミサト様どうぞ。」
ミサトは蘭子に連れられて会長室に入った。
部屋には東京帝国グループ総会長兼地球連邦統監である耕一がいた。
「どうぞ、かけてくれ。」
ミサトは勧められるままにソファーに座った。
「今回の作戦に関して、協力を頂きたいのですが。」
ミサトは資料を耕一に差し出した。
耕一は資料に目を通し始めた。
「・・・分かった。全面的に協力しよう」
「ありがとうございます」
「後、これを届けてくれ、君も読んでも構わん。」
「はい」
ミサトは封筒を受け取った。
「蘭子、特に優秀な技術班をネルフに向かわせろ。陸軍に送電線の準備をさせろ。榊原、キャノンの用意を」
「「はい」」
ミサトは退室した。


P.M.3:26、筑波、戦略自衛隊付属研究所、第2格納庫、
日向が書類を出した。
「以上の理由により、只今より、自走陽電子砲は、特務機関ネルフが徴発いたします。」
「し、しかし、そんな無茶な」
「申し訳ありません、国防のためでもあると思って下さい」
「・・・・・そうですね、はい」
「可能な限り原形をとどめて返却いたします」
「レイ、持っていってくれ」
零号機が格納庫の天井を開けて覗き込んだ。
研究者達がびびっている。
簡単に開くような天井で良いのだろうか・・・


P.M.3:51、双子山、仮司令部、
戦略自衛隊の技術部門の幹部がやって来た。
「今回の協力の条件に関してですが」
「・・・分かっています。協力お願いします」
リツコは頭を下げた。
「ところで、赤木博士」
「なんでしょうか?」
「今回の我々の協力は、あくまで、国防のためである事はお忘れなく」
「・・分かっています」
今回日本政府が出した条件は、費用はネルフ持ち、陽電子砲改造、整備等には、戦略自衛隊の者が当たり、ネルフは細部までは関与しないであった。
そして、東京帝国グループが予算面での多大な支援を申し出、経済の停滞に関する賠償・補償は全て東京帝国グループが肩代わりする事になった。
その為、ネルフ司令部も素直に条件をのみ、協力を要請したわけである。
続いて東京軍の幹部が到着した。
「ようこそ」
「ええ、早速ですが、キャノンを持ってきました」
「キャノン?」
極秘と銘打たれたファイルがリツコに手渡された。
中には、魔力砲に関するデータが載っていた。
「魔力砲ですか・・・」
リツコは眉間に皺を寄せた。
確かに魔導国などでは魔導文明も進んではいるが、科学至上主義者のリツコにとっては・・・
「魔導学は修められていないので?」
「え、ええ」
幹部は少し考えた。
「では、ネルフには扱えませんね、我々が独立して準備します」
「・・・ええ、お願いします」
リツコはこめかみを押さえた。
(不確定要素か・・・)


 ????年?月??日?????
「シンジ君」
先生である。
「シンちゃん」
おばさんである。実の叔父叔母ではない。
「シンジ君のお勉強部屋を作ってあげたよ。今日からここで勉強するといい。」
「シンちゃんも来年から中学生だからねぇ」
「自分の部屋が欲しいと思ってね、庭に作ってあげたんだよ。」
「ありがとう、先生、おばさん。」
シンジは作り笑いを浮かべた。


翌日の夕方、雨の中、シンジは一人で傘もささずに歩いていた。
シンジは川原に大人用の自転車が捨ててあるのを見つけてそれにのって走り出した。
そして、普段は通りもしない道を走り派出所の前をわざと通った。
「其処の君止まりなさい。」
シンジは警官に呼び止められて止まった。
「その自転車は君のかな?」
「いえ・・・でも橋の下に捨ててあったから」
「嘘をついちゃいけないよ」
警官はシンジを初めから疑ってかかっている。ならば、シンジの物かどうか聞く必要は無いだろうに・・・
「本当です嘘じゃない」
「話は中で聞こうか」
シンジは交番で尋問された。
「名前は?」
「碇シンジです。」
「住所は?」
「・・・・・・・」
「保護者の名前は?」
「碇、ゲンドウです。」


1時間半後、
おばさんが駆け込んできた。
「シンちゃん!」
「何て事をしたの!?自転車が欲しいなら言ってくれれば良かったのに」
「・・・ちが・・・」
(違うんだ、おばさん・・・・父さん、こんな時でも迎えに来てくれないんだね。母さん、もし母さんが生きていたら、迎えに来てくれた・・・・・・・?)
 


・・・母さん・・・



2015年8月1日(土曜日)P.M.5:01、ネルフ中央病院第2特別病室
「・・・母さん・・・」
「・・え?・・・」
シンジが目を開けるとレイがベッドの脇に立っていた。
(何?・・この感じ・・・良く分からない・・・)
「綾波・・・?」
シンジには一瞬レイに誰か別の人が重なって見えたような気がした。
レイは食事が乗せられたトレイを台の上に置いた。
「・・・食事・・」
「・・・・・・何も食べたくないよ」
「・・食べた方が良いと思うわ。61分後には出発だから・・」
「え?」
レイは手帳を取り出して読み始めた。
「・・碇・綾波両パイロットは本日17時30分ケージに集合、18時エヴァンゲリオン初号機及び零号機起動18時5分出動、同30分双子山仮設基地到着、以降は別命あるまで待機・・」
レイは手帳を閉じた。
「・・明朝、日付変更と同時に作戦行動開始・・」
「・・・・・・・・・・・・・・又、あれに乗らなきゃいけないのか」
「・・嫌なら、そのまま寝ていれば、初号機には私が乗るから・・・」
少し驚いてシンジはレイの目を見た。
「・・・赤木博士がパーソナルパターン書き換えの準備をしているわ・・・」
「・・・・」
「・・じゃ、25分後に又・・」
レイは部屋を出て行った。


P.M.6:08、第3新東京市立第壱中学校屋上、
トウジとケンスケがエヴァの出撃を待っていた。
「ほんまにこの時間でええんか?」
「パパのデーターを見たんだ間違いないよ」
ケンスケはビデオカメラをセットしている。
山の一部が動き、中から初号機と盾を持った零号機が現れた。
「おお〜」
「エヴァンゲリオンだ!」
「綾波も乗っとんのか」
「「シンジィ〜綾波ぃ〜がんばれよ!!」」
シンジは2人に気付き、初号機は軽く手を振った。
・・・・
「行ったな」
「ああ、せやな、そろそろわし等も避難」
「相田ケンスケ君と鈴原トウジ君だね」
「え?」
屋上に10名の黒服が立っていた。
「我々は、ネルフ諜報部の者だ、君達を連行する」
(ちょ、諜報部!!!)
ケンスケは汗でびっしょりになった。
保安部ではなく、諜報部が動いたのである。


P.M.10:45、双子山山頂仮設基地
ミサトとリツコに向き合ってシンジとレイが立っている。シンジが右側に立ちレイが左側に立っている。
シンジはポジトロンスナイパーライフルを見た。
急造だけに様々なパーツが剥き出しになっており、素人目にもとても野戦に向くとは思えない。
「こんな野戦向きじゃない兵器使えるんですか?」
「仕方ないわよ、間に合わせなんだから、理論上は、これだけの大出力にも耐えられるわ、ただし、実際に撃って見ない限り、銃身や加速器が持つかどうかは分からないわ、こんな大出力で試射できるはず無いもの」
「・・そうですね」
「本作戦における担当を通告します。」
ミサトがライトの前に立って言った。
演出のつもりかあるいは顔を見られたくないのか、逆光でミサトの姿が見難い。
「シンジ君は初号機で砲手を担当、レイは零号機で防御を担当」
「これはシンジ君と初号機とのシンクロ率の方が高いからよ。今回はより精度の高いオペレーションが必要なの。」
リツコが理由を付け加える。
「シンジ君、陽電子は地球の自転・磁場・重力の影響を受け直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでね。」
「でも、そんな事まだ練習してないですよ。」
「それは大丈夫、貴方はテキスト通りにやって、真ん中にマークが揃ったら撃てば良いのよ。後は機械がやってくれるわ。」
(たく、リツコは、だったら初めから言わなくても良いのに)
(・・説明する必要あったの?)
「もし・・1発目が外れたら・・・?」
「2発目を撃つには冷却や再充填等に合計1分以上掛かるわ。最終的にはレイの盾に守ってもらう事になるわ。」
(2発目は考えるなって事か。)
「・・私は・・・碇君を守ればいいのね」
「そうよ、御願い」
「時間よ、二人とも準備して」
「「はい」」


P.M.10:58、東京、東京帝国グループ総本社ビル会長宅
耕一達4人が南西の方を見ていた。
「蘭お姉ちゃん」
ターニアの呼び掛けに蘭が振り向いた。
「何?」
「今回はかなり不利なんでしょ・・・大丈夫かな?」
蘭は耕一とルシアの方を見た。
「耕一さん」
「大丈夫ですよ。勝算はあります。」
「あ!」
北の方から都市の明かりが消え始めた。
そしてこのビルも主電源がカットされ副電源に切り替わった。
「人の力と使徒の力・・・さてどちらが上かな?」
耕一はこの状況を楽しんでいる。


P.M.11:05、双子山山頂仮設基地内仮設ケージ
(町の明かりが消えた。)
普段なら都市の明かりが明る過ぎて1等星と月しか見えない夜空に5等星までの星が輝いて見える。
「僕達、死ぬかもしれないね・・・」
「・・どうしてそんな事を言うの?」
シンジは答えなかった。いや、答えられなかった。なんとなく零した言葉だったから、
・・・
「綾波はなぜ・・これに乗るの?」
「・・・絆・・だから。」
「父さんとの?」
シンジは恐る恐る聞いた。
「・・いえ・・私と繋がる皆との・・」
「そう・・・」
少しほっとしたのかもしれない。
「私には・・・他になにもないから・・・」
「・・・そんな悲しいこと言うなよ・・・」
暫く沈黙が流れた。
レイはシンジの顔を見た。
「・・・碇君はなぜエヴァに乗るの?」
「・・・・・・・・・・」
(本当になぜだろう?)
「・・そう・・自分でも分からないのね・・・」
暫く沈黙が流れた。
「綾波」
「・・何?」
「綾波にとって父さんってどんな人?」
レイは瞼を閉じた。
「・・大切な人・・・」
「どんな風に?」
「・・・・・・・・・」
(私を作り出した創造主、私の存在意義を与えてくれた存在、私の魂を解放し、虚無へと回帰させてくれる人。でも、私を見ていない人、私に、碇君とお母さんを重ね合わせてみているだけ・・・・私をこの世界につなぎ止めておく物、それが絆、まだ、約束の時は訪れていない、私はまだ絆を守らなければならない)
(綾波もよく分かってないのかな?)
レイはその理由を言う事が出来なかったが、シンジは分からないから答えられないと解釈した。
又沈黙が流れた。
レイは時計を見た。
《23:45》
「・・時間よ、行きましょう・・」
「あ・・・うん」
二人は立ち上がった。
「碇君」
「ん?」
「貴方は死なないわ。」
レイはシンジの方を向いた。
「私が守るもの」
シンジはレイの瞳に何か酷く大人びた感じを受けた。
「さよなら」
レイはリフトに乗り下りて行った。


12式大型発令車
中央に、ミサトとリツコが立ち、2人の脇にマヤ、前に、日向と碧南が座っている。
《東京標準時 23:59:57》
《東京標準時 23:59:58》
《東京標準時 23:59:59》
《東京標準時 00:00:00》
「作戦スタートです。」
日向がミサトに告げた。
「シンジ君、日本中のエネルギー貴方に預けるわ。」
『はい』
「第1次接続開始。第1から第6520区まで送電開始」
日向がレバーを起こすと、付近一帯を地鳴りのような音が包んだ。
「ヤシマ作戦スタート!!」
ミサトが作戦の開始を告げた。
「電圧上昇中、加圧水系へ。」
「全冷却機出力最大へ」
「陽電子流入順調なり」
「温度安定依然問題無し」
「第2次接続!」
「全加速器運転開始、強制収束機作動!」
エネルギーを示すメーターが順調に上がっている。


ネルフ本部第1発令所
「全電力双子山増設変電所へ」
発令所の明かりが落ちた。
「順調だな」
「ああ、全てシナリオ通りだ。」


キャノン発射台、
「ヒュージマテリア装填!」
巨大な魔力の結晶が砲台の中に入れられた。
「発射準備OKですわ。」
「発射命令があるまで待機!」


双子山山頂エヴァンゲリオン初号機
『最終安全装置解除!』
『撃鉄起こせ』
初号機は撃鉄を起こした。
『第6次接続』
マークが真ん中に集まり始めた。
『誤差修正プラス0.0009』
『第7次最終接続、全エネルギーポジトロンライフルへ』
『カウントダウン開始10、9、!、目標内部に高エネルギー反応!!』
『まだ、先に撃てれば勝機はある』
マークが中心に集まった。
『撃てぇ!』
ミサトの叫びと同時にシンジはスイッチを押した。
初号機が引き金を引き、陽電子が打ち出されると同時に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れた。
かなりの衝撃が走った。陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。
加粒子砲は山の中腹に激突し、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒した。
(ミスった!!)
『第2射急いで!!』
初号機は再度弾を込めた。
『ヒューズ交換』
『再充填開始!!』
『目標内部に再び高エネルギー反応!!』
『銃身冷却開始』
『東京軍、キャノン発射!』
『使徒加粒子砲を発射!!』
前方から迫り来る加粒子砲の下を光が走り、加粒子砲が上空に弾かれた。光は山に激突し爆発を起こした。
「なっ?」
『発射まで25秒』
『再び使徒内部に高エネルギー反応!!』
『後22秒』
『使徒加粒子砲を発射!』
正面が光り初号機が光に包まれた。
「!!、うわああああ!!!!」
シンジが思わず閉じた目を開けると、零号機がシールドで加粒子砲を遮っていた。
「綾波ぃ!!!」
「早く!」
マークが真ん中に集まりかけた。
シールドが溶け切り零号機のボディに加粒子砲が着弾した。
「早く!!」
零号機が溶けていく。
マークが揃った。
シンジはスイッチを押し陽電子砲を発射させた。使徒を貫き陽電子が上空へと上がっていった。
零号機が崩れ落ちた。
「綾波!!」
初号機は零号機の後方部を破壊しエントリープラグを取り出した。
シンジは直に初号機を降りてエントリープラグに駆け寄った。
「綾波!!大丈夫か!!」
シンジはハッチに手を掛けた。
「あつッ」
「くそぉ!」
シンジは無理やりハッチを抉じ開けた。
ハッチが勢いよく開き、中から加熱したLCLと物凄い蒸気が噴き出し、シンジはとっさに飛び退いて交わした。
「うわっ!」
LCLの流れが収まると同時にシンジはエントリープラグに顔を突っ込んだ。
「綾波!」
エントリープラグの中でレイが気を失っていた。
「綾波!!」
レイが薄っすらと目を開けた。
一瞬、シンジに碇の姿が重なって見えたが、直ぐにシンジの姿になった。
「・・碇・・・君?」
「綾波・・・」
「別れ際に、さよならなんて言うなよ。悲し過ぎるじゃないか。」
シンジは俯いた。
シンジの目から涙が零れ落ちた。
「・・何、泣いてるの?」
「バカ、綾波が生きてたから・・嬉しくて泣いてるんじゃないか・・」
レイは驚いたような顔をした。
「・・そう・・・・・・ごめんなさい、こんな時・・どんな顔をしたら良いのか分からないの・・」
「笑えば良いと思うよ。」
シンジは涙を拭いながら顔を上げた。
(碇君、碇司令とは違う、私を見ている。綾波レイという存在を見てくれる。心地良い、自分を見てもらえる。自分の存在を認めてもらえる。それは、とても心地良いことなのね。)
レイは、少し驚いたが、少しして緊張が解けて自然に顔に微笑が浮かんだ。
シンジは初めて見たレイの微笑みに思わず見惚れていた。
「・・どうしたの?」
「あっ、うん」
シンジはレイに手を差し出した。
「立てる?」
レイは軽く頷いて、シンジの手を掴み、シンジはレイの手を肩に掛けさせレイを立たせた。
そして二人はエントリープラグから出た。
「綾波・・・今、僕らにはエヴァに乗る事以外何も無いかもしれないけれど・・・・でも、生きてさえいれば、いつかきっと必ず生きてて良かったって思う時があるよ・・・」
レイは月を見上げていた。その瞳には何か特別なものを感じた。
(月が綺麗・・・・私は、初めてこの世界にいたいと感じたのかも知れない、碇君、貴方となら・・・存在できるかも知れない・・・・でも、私の真実・・・・受け入れてくれる人がいるとは思えない・・・・私はやはり、碇司令の与えてくれた役目を果たし虚無へと還るしかないのだろうか・・・・)

 

あとがき
レイの心の独り言、重要事項が盛り沢山。
うう〜〜、レイの心情が上手く書けない〜〜・・・いずれ改訂しよう。
ええ、因みに、陸上・海上・航空の3自衛隊は、国際連合第2方面軍に所属しています。使徒戦に於いて激しく喧嘩を吹っ掛けていた馬鹿どもは、全てこいつら国連軍です。主に、セカンドインパクト以前の旧式の兵器の流用や、改造兵器が中心で、平和ボケしていた頃の兵器で戦略兵器は極端に少なく、まさに数による物量作戦しか出来ないと言って良いでしょう。
そして、戦略自衛隊は、日本政府防衛省の管轄です。戦自は、日本政府の管轄下の軍で、今までのところ、使徒戦には一切出てきていません。なんと、殆どの兵器が、セカンドインパクト後の新兵器、更に、ネルフや東京帝国グループに勝る技術力を誇る分野もあり、相当数の秘密兵器があると思われますが、防諜がしっかりしていて殆ど外部に情報が漏れていません。
東京軍は、東京帝国グループが所有する私設の軍隊です。地球連邦から首都防衛の代行報酬として僅かな予算が与えられていますが、99%以上、東京帝国グループの出資です。セカンドインパクトの際に相当数が残り、又、桁を間違えているのではないかと言う予算が投じられ続けている為、数、質共に、大気圏内の軍隊としては地球連邦有数の戦力を備えています。
地球連邦軍は、殆どが宇宙軍のみで、大気圏内の防衛は東京軍などに任せています。
それぞれの関係ですが、国連軍とネルフは、予算の出所が同じであるが、司令系統が別であるので、お互いに牽制し合い結果として、国連軍が泣きを見ている。
ネルフと戦自は、お互いに、口を出すなと言い合っている仲、今回、ネルフが先に手を出しました。今後どうなるやら・・・
ネルフと東京軍は、今回初めて接点が出来ました。今後、どうなるかがその他の軍隊への影響も大きく左右します。

次回予告
レイの病室を訪れ、お礼を言うシンジ、シンジの火傷を気遣うレイ、二人の心が触れ合い近付く。
そんな中、京都のユイの家から1枚のディスクが発見され、リツコを苦しめる。
果たして、ユイのパスワードにリツコとマギは勝てるか?
シンジの家事能力のうち、料理の才能は人並み外れている事が発覚し、驚くリツコとマヤ。
次回 第九話 夏休み