文明の章

第弐拾話

◆ゼーレ、魂の座

12月9日(水曜日)、国際連合人類補完委員会。
《時にA.S.15年》
《第3の使徒》
《サキエル、襲来》
サキエルの映像が流れた。
サキエルと国際連合軍との戦いの映像である。
《使徒に対する通常兵器の効果は認められず》
《国際連合軍は作戦の遂行を断念》
《全権を特務機関『ネルフ』へ委譲》
《同深夜、ネルフ本部直上へ到達》
《当日、接収された》
《3人目の適格者》
シンジの顔が映った。
《碇シンジ》
《搭乗を承諾》
《エヴァンゲリオン初号機初出撃》
初号機が射出される様子が映し出された。
《ネルフ、初の実戦を経験》
《第一次直上会戦》
使徒に初号機が攻撃される様子が映し出されている。
《エヴァ初号機、頭部破損、制御不能》
《完全に沈黙》
《後、》
初号機が再起動した様子が映し出された。
《暴走》
《第参使徒及び初号機における》
《A.T.フィールドの発生を確認》
サキエルのATフィールドを初号機が破る所が映し出された。
《初号機、目標のATフィールドを侵食》
サキエルが自爆する様子が映し出された。
《使徒、殲滅》
《迎撃施設、一部破損、エヴァ初号機、中破》
《同事件における被害者の有無は公表されず。》
《『第3新東京市街戦』 中間報告書 責任者 作戦課長 葛城ミサト一尉》
『その結果として我の損害が極めて大なりとは言え、未知の目標に対し経験ゼロの少年が初陣に挑みこれを完遂せしめた事実、碇シンジ君の功績は特筆に値する物である。』
『只、作戦部としては、更なる問題点を浮き彫りにし、多々の問題点を浮き彫りにする苦渋の戦闘であった。』
《第4の使徒》
《シャムシェル、襲来》
迎撃の様子が映し出された。
《当時、地対空迎撃システム稼動率48.2%》
《第3新東京市戦闘形態への移行率96.8%》
《使徒、第3新東京市上空へ到達》
《第二次直上会戦》
初号機との戦闘の様子が映し出された。
《外部電源断線のアクシデントに見舞われるも》
初号機がシャムシェルのコアにプログナイフを突き立てた映像が流れた。
《使徒、殲滅》
《ネルフ、原型を留めた使徒のサンプルを入手》
《だが、分析結果の最終報告は未だ提出されず》
《第5の使徒》
第伍使徒が映し出された。
《ラミエル、襲来》
《難攻不落の目標に対し、》
《葛城一尉、ヤシマ作戦を提唱、承認される》
《最初の適格者》
レイが映し出された
《エヴァ零号機専属操縦者》
《綾波レイ》
《凍結解除されたエヴァ零号機にて、初出撃》
《同深夜使徒の一部、ジオフロントへ進入》
《ネルフ、ヤシマ作戦を断行》
狙撃の様子が映し出された。
《ヤシマ作戦、完遂》
《エヴァ零号機、大破》
《だが、パイロットは無事生還》
《第6の使徒》
《ガギエルに、遭遇》
《旧伊東沖遭遇戦》
「シナリオから少し離れた事件だな」
「しかし、結果は予測範囲内です。修正は利きます。」
《二人目の適格者》
アスカが映し出された。
《エヴァ弐号機専属操縦者》
《惣流・アスカ・ラングレー》
《エヴァ弐号機にて、初出撃》
《海上での近接戦闘》
一連の戦闘が映し出された。
《内部電源が切れる前に、使徒、殲滅》
「この遭遇戦で国際連合海軍は全艦艇の6分の1を失った。」
「失ったのは君の国の船だろう。本来は取るに足らん出来事だよ。」
「左様、この程度の被害で済んだのは又しても幸運だよ。」
《第7の使徒》
《イスラフェル、襲来》
1度目の戦いの映像が流された。
《初の分離・合体能力を有す》
《しかし、エヴァ初号機、同弐号機の二点同時加重攻撃にて》
2度目の戦いの様子が流された。
《使徒、殲滅》
《第8の使徒》
浅間山が映し出された。
《サンダルフォン、浅間山火口内にて発見》
《ネルフ、特令A−17を発令》
《全ての優先された状況下において、初の捕獲作戦を展開》
《統監権の行使により、作戦指揮権が地球連邦統監皇耕一に移る》
「地球連邦の介入か」
「いかんなこれは」
《極地専用D型装備の破損により、捕獲作戦失敗》
「しかし、まだ、修正範囲内です」
「確かに、予想された事ではある」
《NN爆雷と3体のエヴァを使用した作戦により》
「しかし、碇君、些か早過ぎはしないかね」
《使徒、殲滅》
「その件に関しましては、いくつか手を打ってあります」
「間違い無いな」
「はい、お任せを」
《エヴァ零号機、損傷復旧及び改装作業終了》
《第9の使徒》
《マトリエル、襲来》
《エヴァ3機による同時作戦展開により》
《使徒、殲滅》
《第10の使徒》
人工衛星から撮られた第拾使徒の映像が流された。
《サハクィエル、襲来》
《成層圏より飛来する目標に対し》
使徒戦が映し出された。
《地球連邦・国際連合・日本・ネルフによる》
《史上最大の合同作戦に続き》
《エヴァ3機による直接邀撃にて》
《使徒、殲滅》
《第11の使徒》
《襲来事実は、現在未確認》
《ネルフ本部へ直接侵入との流説あり》
「いかんなぁこれは」
「早過ぎる」
「左様、使徒がネルフ本部に侵入するとは予想外だよ」
「まして、セントラルドグマへの侵入を許すとはな」
「もし、接触が起これば全ての計画が水泡と化した所だ。」
「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実は有りませんよ。」
「では、碇、第拾壱使徒侵入の事実はないというのだな」
「はい」
「気をつけて喋りたまえ、碇君、この席での偽証は死に値するぞ」
「マギのデコーダーを調べてもらっても結構です。その事実は記録されておりません。」
「笑わせるな!事実の隠蔽は君の十八番ではないか」
「タイムスケジュールは死海文書の記述どおりに進んでおります。」
「まあいい、今回の君の罪と責任は言及しない。だが、君が新たなシナリオを作る必要は無い。」
「分かっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」


???、????、????

・・・山、思い山、時間を掛けて変わる物・・・
・・・空、青い空、目に見えない物、目に見える物・・・
・・・太陽、一つしかない物・・・
・・・水、気持ちの良い事、碇司令・・・・
・・・花、同じ物が一杯、要らない物も一杯・・・
・・・空、赤い、赤い空・・・
・・・赤い色、赤い色は嫌い・・・
・・・流れる水、血、血の匂い・・・
・・・血を流さない女・・・
・・・赤い土から作られた人間・・・
・・・男と女から作られた人間・・・
・・・町、人が作り出した物・・・
・・・エヴァ、人の作り出した物・・・
・・・人は何?・・・
・・・神様が作り出した物・・・
・・・人は、人が作り出した物・・・
・・・私に有る物は・・・
・・・・・命・・・・・
・・・・・心・・・・・
・・・・心の入れ物・・・・
・・・エントリープラグ・・・
・・・それは魂の座・・・
・・・これは誰?・・・
・・・これは私・・・
・・・私は誰?私は何?・・・
・・・私は何?私は何?私は何?・・・
・・・私は自分・・・
・・・この物体が自分、自分を作っている形、目に見える私・・・
・・・でも、私が私で無い感じ・・・
・・・とても変・・・
・・・・体が溶けて行く感じ・・・・・
・・・・私が分らなくなる、私の形が消えて行く・・・・
・・・私で無い人を感じる・・・
・・・誰かいるの?この先に・・・
・・・・碇君・・・・
・・・この人知ってる、葛城3佐・・・
・・・赤木博士・・・
・・・皆、クラスメイト・・・
・・・弐号機パイロット・・・
・・・碇司令・・・
・・・貴方誰?・・・
・・・貴方誰?貴方誰?貴方誰?・・・



昼過ぎ、ネルフ本部実験棟、初号機
『どうレイ?初めて乗った初号機は?』
「碇君の匂いがする」
・・・・
・・・・
『では、テスト終了、レイ、上がって良いわよ』
「え?」
レイの頭の中に映像が流れ込んで来た。


 どこかの大学、
若い冬月が横を歩いている。
「先生、あの人の事なんですが、」
「ああ、彼か・・・どうかしたのかね」
「ゼーレと言う組織はご存知ですか?」
「ああ、100の悪い噂があっても、1つも良い噂がない組織だな」
「彼はゼーレの一員です。」
「そうか、まあ予想できた事だがな」
「私もゼーレに籍を置くことになりました」
「ちょっと待ってくれ!」
冬月は声を荒たてた。
「私は未来を残すために、ゼーレに入りました」
「ゼーレが未来を残す?そんな馬鹿な」
「ええ・・私はゼーレを利用しています」
「利用?」
「彼らの計画と、私の考えている事は、途中までは同じです。人類の滅亡を防ぐ」
「まさかゼーレがそんな事をするはずが」
「いえ、彼らの計画が発動する前に人類が滅亡してはどうしようもありません、ですから、彼らは、人類の脅威となる存在を打ち払おうとしています」
「なるほどな・・例え支配する事ができる力があっても支配するものが無くては意味が無いという事か」
「はい、私も、人類が滅亡しては困りますから、そこまでは協力します」
「しかし、それならば、国際組織や国の力を借りればいいのではないのか?」
「残念ながら、万人の理解が得られるものではないのです」
「・・・・よっぽどの事なのだな」
「ええ、余りにも酷すぎる事ですから・・・むしろ、自然淘汰されたほうが良いと考える人もいるほどです」
「先生にはいずれ彼の為にご協力頂くかも知れません」
「私がか?」
「ええ、その時は」
「・・・・分かった。考えておこう」
「はい」


どこかの部屋、
目の前に幼いレイがいる。
「レイちゃん」
「何?」
「明日、芦ノ湖に行きましょうか?」
「芦ノ湖・・・行く」
「それじゃ用意はしておくから、レイちゃんは早く寝るようにね」
「はい」
レイはベッドに潜り込んだ。
「お母さん、おやすみなさい」
「ええ、お休み」
 

初号機、
『レイ、どうしたの?』
「・・・・・問題ありません」


30分後、零号機、
シンジが乗り込んでいた。
シンジは少し緊張気味である。
『エントリースタートしました。』
『LCL電化、第1次接続開始』
『どう、シンジ君?零号機のエントリープラグは?』
「何だか変な気分です」
『違和感があるのかしら?』
「ただ、綾波の匂いがする。」
・・・
『では、相互間テスト、セカンドステージに移行』
『零号機、第2次コンタクトに入ります。』
・・・
『第3次接続を開始』
・・・
・・・
『A10神経接続開始』


司令室
「でも、先輩、シンジ君とレイのパーソナルパターン本当に酷似していますね」
「だからこそシンクロ可能なのよ、多少の緊張があるのかしら?初号機ほどの数字は出ないけど、良い数字だわ」
「せ、先輩・・・」
マヤの声が震えている。
「どうしたの?」
「こ、これを」
パーソナルパターンの線が1本だけ映し出されている。
「すご〜い、完全に重なっちゃったわ」
「信じられない事ね・・・どの位一致してるのかしら?40%くらいは有りそうね」
「40%?100%じゃないの?」
「パーソナルパターンは、点で表されるのよ、それを、曲線で繋いだのがこれよ、」
マヤの顔が青ざめている。
「マヤ、一体いくつが出たの?」
「・・・99.9・・・です」
「何ですって!!!!」
「何をそんなに驚いてるのよ?」
「パーソナルパターンは双生児でも80%以上一致する事は稀なのよ!こんな事はありえないわ、測定誤差範囲なのよ」
「どう言うこと?」
「NN爆雷の爆心地に無傷で立っていることくらいありえないことよ」
「偶然、では片付けられないの?」
「分からない、分からないわ」
(リツコも知らない事、シンジ君とレイの関係は何?)


何かが直接シンジの頭の中に流れ込んで来た。
「な、なんだこれ」
シンジは頭を押さえた。
レイの映像が次々に見えた。
(綾波?綾波だよなこれ)
突然、レイが無気味な笑みを浮かべて近づいてくる映像が見えた。
シンジは意識を失った。


起動実験室、
零号機が暴走を始め、拘束具を引き千切った。
「実験中止!電源を落として!」
リツコの指示で、直ぐにアンビリカルケーブルが切断された。
「完全停止まで30秒!」
零号機は拳を振り上げ、司令室のガラスを殴りつけた。
超強化ガラスに無数の罅が入った。
ミサトはレイがガラスの前に立ち一歩も動かずに零号機を見詰めている事に気付いた。
「レイ!!」
再び殴りつけられガラスが飛び散った。
レイはそれでも動かずに見詰め続けた。
零号機は動きを変え、頭を抱え、そして、壁に頭をぶつけ始めた。
やがて、内部電源が切れ、動きが止まった。
(まさか、零号機がレイを殴ろうとしたの?)
(・・・零号機が殴りたかったのは私ね・・間違い無く・・)
両部長は全く異なる結果を導き出した。


総司令執務室、
「・・零号機の暴走か・・・ダミーシステムの開発に心配を残すな・・」
「問題無い、その後の、レイとのシンクロには成功している」
「・・そうか・・だがな・・・」


夜、ミサトのマンション、アスカの部屋、
「ミサトも加持さんも教えてくれない、シンジは知りもしない。」
「ファーストっていったいどんな子なの?」


東京帝国グループ総本社ビル会長室、
「本日の実験中に零号機が暴走しましたが、特に支障はありません」
蘭子が報告した。
「そうか、ならば良い」
「今日はこれで戻る」
「おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ、蘭子」
耕一は自宅の方に向かった。

 

あとがき
パーソナルパターンの一致は、何を意味するのでしょうか?
レイが初号機の中で見たイメージは?
さて、そろそろ、変えた設定が出て来そうです。

次回予告
母、碇ユイの命日、第3新東京市郊外に有る共同墓地、其処を訪れた3人。
シンジは発見をアスカに話す。その事実はアスカを恐怖させる。
リツコは、レイにとって、シンジは、碇以上に特別な存在であると告げる。
ネルフ本部最深層、ターミナルドグマに存在した巨人。
加持の告白はミサトに上層部への疑いを持たせる
次回 第参節 恋 第弐拾壱話 忘却の時