文明の章

第参拾八話

◆Rei T

3月16日(水曜日)、朝、ミサトの家、リビング、
アスカはねっころがってテレビを見ていた。
『では、次のニュースです。』
「ん〜〜」
『地球連邦統監信任総選挙まであと1年足らずと迫って来ました。5年に1度行われる各国等の代表による信任選挙ではなく、50年に1度行われる信任総選挙です。今回の信任総選挙では、セカンドインパクトに始まる一連の事態への対応に焦点が集まり、民衆の判断が下される事になります。』
「ふ〜ん、信任総選挙か・・・アタシ選挙権無いのよね」
『東京リサーチグループの発表によりますと、現在、皇耕一統監の支持率は日本国内で96.4%、地球全体では81.3%、地球連邦全体では84.7%と、かなりの低水準となっていますが信任は確実視されています。』
アスカはさつま芋スティックスを口に入れた。
『前回の総信任選挙時の、97.6%、95.1%、92.3%に対して日本以外では大きく落ちており、セカンドインパクトと、その後の対応が如実に現れている様です。』
「・・・やっぱ・・・政治屋とは違うわね」
個人的に接していても、全く違う事は分かる。
まあ、個人的に接点がある方が異様なのだが、
『では、次に、地域毎の、支持率の分布を見てみましょう』
「アスカ〜!そろそろ本部に行く時間だよ〜!」
「ん〜!分かったわ!」
アスカは起き上がり、テレビを消した。


昼、ネルフ本部、技術棟、
4人がシュミレーションプラグに入ってハーモニクスのテストをしていた。
「皆調子はどう?」
順調に数値が計測されている。
『問題有りません』
『特に問題は無いわね』
『問題は無いね』
『・・・・・・何か違和感が』
レイだけが違う反応を示し、司令室に少し緊張が走った。
「具体的に言える?」
『・・良く分からない、けど、何かがいつもと違う・・』
最も実験を長く行っているレイならば他の者達には感じられなかった、何か微妙な変化を感じ取ったのかもしれない。
「異常は?」
マヤは表示に目を通し、暫くして首を振った。
他のオペレーターも同様である。
リツコは顎に手をやって少し考えた。
計測対象外か・・・何にせよ調査してみた方が良い可能性が高い。
「一先ず実験はこれで終わりにします。3人はもう上がって良いわ」
・・・
3人のシュミレーションプラグが排出された。
・・・
『・・・赤木博士、』
「どうしたの?」
『・・違和感が消えました』
「変化は?」
マヤが表示に目を通した。
「特には」
「どう言う事?」
皆首を傾げた。


第15男子ロッカールーム、
シンジとカヲルがプラグスーツを脱いでいた。
「ふぅ・・」
「シンジ君、今日、時間有るかな?」
「・・うん、今日は実験の予定だったから・・」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれるかな?」
「あ、うん」
2人は、着替えを終わらせて一緒に部屋を出た。
二人の位置関係は、やはり、シンジが左、カヲルが右である。


ネルフ本部大浴場、
現在シンジとカヲルが入浴中であった
(カヲル君が言っていたのはここの事なのかな?)
シンジは富士山の絵を見た。
この絵を見ていると時々違和感に襲われる事がある。
「サブリミナルだよ」
カヲルがシンジの耳元でそう告げた。
「へ?」
「この富士山の画像は極僅かな時間ずつネルフのマークに変わっている」
「画像?」
「そうさ、サブリミナルにより人の脳に無意識の内にネルフのイメージを焼き付けてしまうつもりなのさ」
「特に君のような純粋な心を持った人には効果的さ」
カヲルはわざわざシンジの正面に移動し少し顔を近付け、目を真っ直ぐに見詰めながら言った。
「君の心は、ガラス細工のように繊細だからね」
シンジは一瞬、同性であるカヲルにときめきかけてしまった。
(・・・僕って・・・・)
軽い自己嫌悪で、俯いてしまった。
「何を悩んでいるんだい?」
「あいや・・・・その・・」
シンジは軽く顔を赤くし、それを見てカヲルは笑みを浮かべた。
「それは、光栄だねぇ・・・」


夕方、第3新東京市立第壱中学校、
既に下校時間は過ぎ校内には殆ど人は見当たらない。
そんな中、二人の姿があった。
「こっちだよ」
カヲルは校内に入って行った。
それについてシンジも追いかけた。
少しして、校門の陰からアスカがひょっこりと顔を出した。
「フィフスの野郎、こんな時間に学校になんかシンジを連れてきて何するつもり?」
アスカは昇降口の方へそっと移動した。
その時、何かにぶつかった。
「いたっ」
ぶつかった物体を見ると、ヒカリがおでこを押さえている。
「あら?ヒカリ・・・ごめん」
「良いわよべつに・・・それよりもアスカ達こんな時間に学校来てどうするつもり?」
「私はあいつらをつけてきたんだけど」
「・・・私も一緒に行くわ」
二人は校内に入った。


体育館に明かりが灯っている。
「ここね、」
「確かに電気が付いてるわね・・」
「行くわよ」ヒカリは頷き、二人は体育館に入ったが、フロアには誰もいなかった。
「・・・まさか」
アスカは体育準備室を見た。
「ひょっとして・・・・」
アスカは体育準備室の扉を勢いよく開けた。
黒板消しがアスカの頭の上に落ちて来た。
「へ?」
『引っ掛かったね』
カヲルの声の放送が聞こえて来た。
見ると2階にマイクを持ったカヲルとシンジがいる。
『ごめんアスカ、カヲル君がどうしてもって言うから』
アスカの顔がピンクに染まった。
「・・・・まてぇええ〜〜!!!!!」
その後、日没まで命がけの追いかけっこが行われた。


3月17日(木曜日)、朝、ミサトのマンション、
「全くあのフィフスの野郎、本と〜〜〜にあんたに似てるわ」
アスカは、半分やけ食いになっている。ベビーカステラを袋から掴み出して掌一杯分纏めて口に入れる。
「・・そう?」
「本当よ」
レイは、何か考えている。
「ったく、シンジはどこ行ったの?結局帰って来なかったし」
「ただいま〜」
シンジの声が玄関でした。
暫くしてシンジがリビングに姿をあらわした。
「どこ行っていたのよ?」
「カヲル君の所に泊まらせてもらっていたんだけど」
「何にも無かったんでしょうね」
「何が?」
「え、え〜っと、まあ良いわ」
アスカは自分の部屋に戻って行った。
レイがソファーに座りながら何か考え事をしている。
シンジはそっとしておく事にし、自分の部屋に入った。


P.M.5:14、東京帝国グループ総本社ビル会長秘書課、
ミユキの胸が普段よりかなり小さい。
「はぁ〜、この貧乳パット、きつくって」
ミユキは何か良くわからないが罰ゲームをやらされているらしい。
「ふふふ、それくらいの方が良いんじゃ有りません事」
「嫌よ。こんなペッタンコ」
その言葉を聞いた。コトミがなんだか泣きそうになっている。
「それでも私のよりもおっきいですぅ」
「どうせどうせ私のはペッタンコ以下のえぐれ胸ですぅ!!」
「あっ」
コトミは泣きながら走り去った。
「あ〜あ、泣かしちゃった」
蘭子が呟いた。
「待ってよ!」
ミユキはコトミを追った。
「なんだか騒がしいな」
榊原が会長室の方から歩いて来た。
「はぁ〜・・・なんで会長あんな無茶俺にばっか押し付けるんだろ」
「今度は何?」
「国産の松茸持って来いってさ」
「完全に苛められてますわね」
「お〜い、高田君」
「はい」
「北海道の業者に問い合わせて国産の松茸が無いか調べてくれ」
「はい」
「ああ、それと、セカンドインパクトの前の国産松茸が冷凍保存されていないかも調べて」
榊原が大きな溜息を付いた。
(こんな人達が動かしている世界って一体・・・・)
新入りの秘書官は顔に縦線を大量に入れていた。


3月18日(金曜日)、P.M.0:15、国道1号線、
ミサトがアクセル全開でネルフ本部を目指していた。
「たくっ、新横須賀にまで行かなきゃ良かった」
ミサトは電話を発令所の日向にかけた。
『ミサトさん、使徒は強羅絶対防衛線を突破しました。』
「今、使徒を肉眼で確認したわ」
リング状の使徒が宙に浮いているのが視界に入った。


第3新東京市の外れにあるビルの屋上に耕一が立っていた。
「使徒か・・・」
使徒は第3新東京市にかなり近づいて来ている。
「・・弐号機は修復中、初号機は凍結中・・・つまり、」
零号機が射出された。
「レイか・・」
兵装ビルからライフルを取り出し構え、使徒に狙いをつけた。


零号機、
「来る!」
レイがマギよりも早く使徒の動きの変化を察知し、叫んだ瞬間リング状の使徒が一本の線状になり零号機に急速接近して来た。
「くっ」
零号機は交わそうとしたが、交わせず腹部に突き刺さった。
「うぅっ!!」
レイは激痛を感じたが無視し、零号機は使徒に対してライフルを零距離射撃をしたが、弾は表面で弾かれ全く利いているようには見えない。
零号機とレイの腹部に妙なラインが浮き上がった。
『使徒が零号機と生体融合をしています!!』
『初号機の凍結を現時刻を持って解除、救出に向かわせろ』
『パイロットの自我境界ラインに侵食!精神を犯しています!!』
『緊急精神防壁展開!シンクロ率をフィードバックで10%下げて!』


2人のレイがLCLの海の中で向き合っていた。


・・・貴女誰?・・・
・・・ファーストチルドレン・・・
・・・貴女は3人目?・・・
・・・いえ、1人目よ・・・
・・・赤木博士に絞殺されたのではなかったの?・・・・
・・・ええ・・・
・・・でも、魂の欠片が貴女の中に、極僅かだけど存在しているいる・・・
・・・どうするつもり?・・・
・・・質問の意味が分からないわ・・・
・・・私の存在を消す、或いは押さえるつもり?・・・
・・・何故そんな事をしなければ行けないの?・・・
・・・貴女は身体は要らないの?・・・
・・・別に・・どちらでも良い・・・
・・・なぜ?・・・
・・・どちらでも貴女を護るだけだから・・・
・・・なぜ、貴女が私を護るの?・・・
・・・貴女がオリジナルだから・・・
・・・オリジナル?・・・
・・・貴女の事よ・・・
・・・繰り返しているわ・・・それに、むしろ貴女が・・・
・・・貴女は、自分がファーストチルドレンだと思っているだけ・・・・
・・・どういう意味?・・・
・・・私達ファーストチルドレンは、貴女のダミーでしかないわ・・・
・・・それは魂の存在という意味?・・・
・・・いえ、違うわ・・・
・・・貴女の言っていることは理解できないわ・・・
・・・今はそれでも良い・・・貴女の幸せが・・・
・・・・私達、ファーストチルドレンの望みであり・・・
・・・・存在意義なのだから・・・・


レイの意識は現実に戻った。
(今のは何?)
全身が侵食されており、痛みが走る。
「くぅ・・」
視界に初号機がパレットガンを手にこちらに近寄ってくる様子が入った。
「・・・シンジ君・・」

・・・心が痛いでしょ・・・・
・・・オリジナルに手は出させないわ・・・
・・・無駄よ・・・

使徒が初号機に反応したのか、反対側の部分が初号機に襲いかかった。

・・・痛い?只単に淋しいだけでしょうが・・・
・・・ふふふ、もう遅いわ・・・

「シンジ君!!」
レイは自分の激痛など構わずにシンジの事だけが心配で叫んだ。

・・・くっ・・・
・・・絶対にオリジナルは護る・・・

初号機はぎりぎりではあるが、使徒を交わした。

・・・その程度の力で何が出来ると言うの?・・・
・・・ううう・・・

次々に襲い掛かり、初号機を追い詰めて行く。
「シンジ君と一つになりたい・・・・これは私の心?」

・・・そうよ・・・
・・・嘘を言わないで、意味が違うわ・・・
・・・ふふふ・・・
・・・だめ!!・・・

頭部にまで侵食が広がった。
二つの存在が意識の中に流れ込んでくる。
一つは、先ほどの1人目、もう一つは・・・侵食者である使徒。

・・・同じよ・・・
・・・このままでは・・・

「・・・だめ」
レイは零号機のATフィールドを全開にした。

・・・何をするの?・・・
・・・何をするつもり?・・・
・・・碇君を守る・・・

零号機のATフィールドが今までに観測された事が無い域にまで強まり、使徒のATフィールドを侵食し反転させて押さえ込んだ。

・・・まさか、自爆するつもり?・・・
・・・そうよ・・・
・・・止めなさい!・・・

レイは起き上がり後部にあるレバーを引いた。

・・・駄目!・・・
・・・嫌〜〜!!・・・

ディスクの回転が加速し始め、音を立て始めた。
「これで、碇君は守れる」
『レイ!!早く逃げて!!』
『綾波!!』

・・・逃げて!・・・
・・・早く脱出しなさい!・・・

「だめ、私がいなくなったらATフィールドが消えてしまう。」

・・・貴女は死んでは駄目・・・
・・・私が・・・
・・・あなたは逃がさないわ・・・

「それに・・・私が死んでも替わりはいるもの」
レイは決意を魂の言葉にして、その理由を身体の言葉にした。

・・・貴女の代わりなんかいない・・・
・・・私達は貴女のダミーでしかないのよ・・・

全てが光に包まれた。
『レイィ!!』
『綾波ぃ〜〜!!!!!!』
シンジの絶叫がハウリングを起こすと同時に零号機に物凄い衝撃が走った。
凄まじい激痛が走りレイの意識は一瞬にして消し飛んだ。

・・・いやぁ〜〜〜〜!!・・・
・・・くっ・・・



ネルフ本部第2発令所、
「零号機臨界を突破!!」
メインモニターが切れ、施設を凄まじい衝撃が襲った。
・・・・
・・・・
・・・・
そして復旧したモニターに映ったのは、クレーターに呆然と立ち尽くす初号機だけだった。
「生存者の、救出、急いで」
ミサトが震えながら言った。
「・・いたらの話ね」
ミサトは目を潤ませながらリツコを睨んだ。
リツコ自身、淋しそうとも悲しそうとも取れそうな顔をしていた。
司令塔では碇が小刻みに体を震わせていた。
「・・碇・・」
「くっ」
碇は激しくコンソールを叩き、立ち上がって発令所を出て行った。
「・・・・これは・・」
床には、小さな雫が点々と落ちていた。
「・・・・・碇・・・・・・お前・・・・」


アスカとカヲルの二人はチルドレン待機室で自爆の映像をモニターで見ていた。
「・・・ファ、ファースト・・・嘘でしょ・・・」
その気持ちは、レイが大切だからなのか、それとも、シンジの為に自らの命を捨てることができ、そして、それを実行した事から来るのか・・・それは分からない。
恐らくアスカ自身も分かっていないであろう。
カヲルは、腕を組み、黙ってモニターに視線をやっていた。


クレーターの中に立ち尽くす初号機の中では、シンジは、身動き一つせず・・いや、出来ずに、只、爆心地の方向に目を向けているだけであった。


あとがき
さて、第弐部も残すところ後僅かとなってきました。
・・・・では、

次回予告
シンジは余りの哀しさで、涙を流す事すら出来なかった。
大半が消滅し瓦礫と化した第3新東京市、その瓦礫の中で、ミサトは何かに憑かれたかのようにエントリープラグを探す。
そして、遂に、目的の物が見つかった。しかし、それは、その場に絶望を齎す結果にしかならなかった。
そんな中、一本の電話が掛かって来た。
レイ生存の知らせに心底喜び、中央病院に駆け付けたシンジ、しかし、シンジは絶望する結果となる。
リツコの説明からアスカはレイの出生を悟る。
子供達は何を感じ何を想うのか
次回 第参拾九話 ReiU