文明の章

最終話

◆最後の使者

3月27日(日曜日)、第3新東京市、ジオフロント、
ジオフロントの地底湖にかかる橋の上でミサトと日向が秘密の会話をしていた。
話の内容は、カヲルに関するもののようである。
「・・ええ・・・そのとおりです。」
「シンクロ率を自由に変えられる・・・・何かあるわね・・・・フィフス」
(委員会は何を考えているの?)
ミサトは飲み終ったビールの空き缶を地底湖に投げ捨てた。
【マナー違反です。】
「諜報部のコンピューターにも忍び込んだんですが、さっぱり・・・ネルフ自体、彼の正体を掴みかねているようです。」
「・・危ない事したのね、」
「大丈夫ですよ」
「気をつけてね・・」
「へまはしませんよ・・・・」
(貴女の為ですから・・・)
日向は軽く得意そうな笑みを浮かべており、かなりの自信がある事を窺わせる。
「そう・・・」


ネルフ総司令執務室、
「委員会・・・いや、ゼーレはファーストチルドレンの出頭を要請して来たぞ」
「今は東京の監視が強過ぎ、レイを動かすのは得策ではない。老人達はそんな事も分からんのか、」
どこか呆れたような声でもある。
「仕方が無かろう、委員会とて必死なのだ、」
「赤木博士を代理とする。」
「2人目はつかわんのか?」
「内部が拙い」
「確かに、早計だったな、まさか統監がレイを助けていたとはな、」
「ああ、だが、問題無い。」
碇はミスを犯したのだが、レイが助かった事でどこか嬉しそうである。
・・・・・
・・・・・
30分後、召喚されたリツコが入室して来た。
「御呼びでしょうか?」
「委員会からファーストチルドレンの出頭要請があった。しかし、今レイを動かすのは得策ではない、痛くない腹まで探られて肝心な部分を失う事になる。」
リツコは軽く頷いた。
確かに、今、レイを動かすのは得策ではない。そして、もし、委員会にレイを拉致されたら・・・全てにおいて拙い。
「そこで、赤木博士、君が代理人として出頭して欲しいのだよ。」
「私が・・・ですか?」
「候補者としては、葛城3佐もいるが、レイほどではないものの監視が強い、うちの諜報部が舌を丸めるほどだ・・・まあ、その上、彼女の性格からして、委員会・・いや、ゼーレとの接触は我々にとってマイナスと成る可能性が高い、」
「分かったな」
「・・・はい」
「ところで、レイのことですが、自我が完全に形成されています。このままでは、」
「分かっている。」
碇はリツコの言葉を遮った。
「それよりも、今は委員会とゼーレ対策が優先だ、そうしなければ本末転倒だ」
「・・はい、」
(司令の執着は私が考えていた物よりも弱いのかしら?)
・・・そんな事を考えながらリツコは返事をした。


昼前、第3新東京市、12エリア、
零号機自爆の際の爆発で、この辺りまで芦ノ湖が広がっていた。
その湖の辺にシンジ、レイ、耕一の3人がやって来ていた。
耕一は、もうギプスを外しており、包帯だけになっている。
レイは、さして大きな外傷は無いが神経をいためており、車椅子を使っていて、丁度、今は耕一が押している。
レイも自分も助かった。
だが・・・・
第3新東京市の市街地は消え去った。
被害者は明らかにはなっていないが、死亡者も当然多いだろう。
シンジは小石を拾って芦ノ湖に向かって思いっきり投げた。
生き残った多くの者が疎開し、ヒカリやケンスケなどの級友も第3新東京市からいなくなり、シンジが護りたかった日常は崩れ去った。
小石は水面に落ち、波紋が広がって行く。
「・・何を悩んでいるの?」
車椅子に座りながら本を読んでいたレイは本を読むのを止めてシンジに問いかけた。
「いや・・・・別に・・・・」
シンジはもう一つ小石を拾って投げた。
「・・そう、」
レイの座っている車椅子を押していた耕一がシンジに語り始めた。
「シンジ・・人類はかつて、楽園を追われ、全てを失った。」
「しかし、人類は生きていた。そして、生きて行く為に人工の楽園を作った、そして、その楽園は子孫の繁栄と共に数規模共に多くなっていった。」
「人工の楽園は何もここだけではない、今やどこにでも楽園は有る。それに、破壊されたとしても何度でも作り直せる。」
「ここを離れる事になった者は多い・・・しかし、生きていれば必ず巡り会う。ユイ君も、生きていればどこでだって幸せになれると言っていた・・・」
「そして、その時まで、人類の火種を消さない為にも、勝たなくては成らない。」
シンジは耕一の言葉をじっと考えた。
次が最後の戦いなのだ。
次現れる使徒にさえ勝てば良いのだ。
「碇君、車椅子を押してくれる?」
「あ・・・うん」
レイが珍しく自分の頼み事をした事に暫くシンジは戸惑っていたが返事をした。
耕一が車椅子を放しシンジが代わりに押し始めた。
(あれ?思ったよりもかなり軽いや)
暫くそのまま湖の淵に沿って前へ進み続けた。
耕一はそのままの場所で二人を見詰めた。
(かつて私達もああだったのだろうか・・・・・・・・・・いや・・違うな。我々とは全く違う。育ってきた環境、人としての強さ・・・・背負っている物とは余りに不釣合い。我々のような物では無い。だが・・・・・)
カヲルがこちらに歩いて来た。
「・・渚君、だったかな?」
「渚であっているよ」
「そうか、私は・・・止めておこう・・・・今は、このような話をすべき状況では無い、」
「ああ、そうだね」
二人はシンジとレイに視線を向けている。
「あの二人をどう見る?」
「嫉妬、羨望、しかし、二人の幸せを願う、と言った所かな」
「私も、嫉妬、羨望、だが、それを凌駕する物があるな。それが何かは言わないが、結局は二人の幸せを願っている。」
「二人の対象は同一ではないがな、」
カヲルは一瞬驚いたような表情をした。
「・・・、よく気が付いたね」
「伊達に人類を1億年間もやっていない。感情に関する事なら大抵は分かる。感情に関して言えば人類は天使よりも遥かに複雑且つ・・・いや高度かどうかは分からんな・・・」
カヲルは暫く耕一の顔をじっと見詰めていたが、結局何も読み取れはしなかったようだ。
「・・・・」
それが分かったのか、耕一は軽く笑いを浮かべた。


人類補完委員会、
「赤木博士、碇は、我々のファーストチルドレン綾波レイの出頭命令を拒否し、君を代理人として遣した」
「お言葉ですが、車椅子のまま出頭させるのはどうかと」
「確かに・・・だが、それはファーストチルドレン、綾波レイの正体を知っていて言っているのかな?」
「・・レイの正体?」
「綾波レイの戸籍、そのほかは、A.S.6年に削除された事になっている」
「はい」
「しかし、だ、それ以前のデータに、綾波レイなる人物は存在していない」
「つまり、A.S.6年に削除されたのではなく、A.S.6年に削除されたように見せかけて作られたのだよ」
「思えば、ファーストチルドレンは、ある偉大なる科学者の幼少の時の姿にうりふたつだ」
「君が碇に何を求めているか、凡その事は知っている」
「しかし、碇は君にそれを与えるのかね」
「身代わり人形の身代わりに、」
「・・・・」
「どうかね、我々につき、碇に復讐をしないかね?」
・・・・・
・・・・・
「・・・折角ですがお断りします。司令から、その貴方方が言う身代わり人形を取り上げる為の私の計画はもう直ぐ最終段階ですので、」
「何?」
「自分の計画がうまく行きかけているのに、他人の良く分からない計画にのる必要はありませんので」
「・・・そうか、だが、それはうまく行くのかね?」
「妨害したければどうぞ、いずれにしても、司令の元からその貴方方が言う身代わり人形は排除されますから」
「・・・」
「ま、うまく行かなかったときは、こちらから協力させてもらうように申し出るかもしれませんね」
「心待ちにしているよ、君の計画が失敗する事を」
「では、失礼します」
リツコの姿が消えた。
・・・・・
・・・・・
「マギ開発者の赤木ナオコの娘、赤木リツコ、唯一マギを完全に扱える人間」
「彼の者は、我々の計画に必要な存在」
「左様、マギ無くしては計画に大きな遅延が起こる事は免れないよ」
「赤木博士の計画とはいったいなんだ?」
「ま、いずれにせよ、碇の事だ、身代わり人形を失おうとも、再び身代わり人形を作るだけだ、」
「赤木博士はそんな事も分からんのかね」
「目の前の事しか考えておらんのだよ」
「ふん、直ぐに気付く」
「人類補完計画の下準備には今だ暫く時間がかかる、それまで放っておいても良かろう」
「そうだな」
「では、碇の方への対策を実行に移すか、」


第3新東京市、芦ノ湖、
カヲルは崩れかけた像の上に立っていた。
数百メートル離れた所からミサトが双眼鏡でカヲルを見ている。
「こんな所に一人で何しに来たのかしら?」
ミサトは飲み終わったビールの缶を潰して近くのごみ籠に投げ入れた。


更に離れた丘の上から、親衛隊員達がカヲルを監視をしていた。
「何をしているのでしょうか?」
「渚カヲルの周囲の空間に歪みが検出されています。」
計器を見ていた下級隊員の一人が報告した。
「歪み?」
「今、分析中です。」
「出ました!」
モニターに映った光景は、カヲルの周りに12枚のモノリスが浮かんでいる映像だった。
そして、モノリスは全て直ぐに消えた。
「遅かったか・・・」
「直ぐに会長に報告を!」


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一は、蘭子に親衛隊からの報告を受けた。
「・・・うむ・・・近い内に動くな」
「はい、そう思われます。」
「・・・方法は・・・・・・・、防がねばならんな、」
蘭子は頷いた。
「・・・恐らくは、明日辺りに動くだろうな・・・・上級隊員を何人か連れていこう」
「はい、準備をさせます。」
「・・・後、ネルフの譲渡に関する事項を早急に纏めておいてくれるか?」
「・・いよいよですか?」
「そうだな・・・来月の頭には行動に移したい」
蘭子は少し眉を顰めた。
「少し、時間が少ないですかね・・・」
「そうだな・・・予定が少し繰り上がった様だからな・・・」
「・・・何かあったのでしょうか?」
「さあな・・・それよりも、ネルフの件は頼む」
「はい、分かりました。」


夕方、総司令執務室、
車椅子のレイが2人の司令官の前にいる。
シンジは部屋の外で待っている。
「碇司令・・・・私がオリジナルとはどう言う意味ですか?」
二人はかなり驚いたと言った表情をした。
「「「・・・」」」
暫く沈黙が流れた。
「・・・レイ、そのことに関しては、今は未だ知る必要は無い・・・・いずれ、時期が来たら教える。」
「・・はい、」
・・・・
・・・・
「失礼します」
「シンジ君、レイを送っていってくれたまえ」
「はい」
シンジは車椅子を押して退室した。
・・・・
・・・・
「・・・何故気付いた?」
「・・・拙いな、」
碇は眉間に皺を寄せ、考え込んだ。
「未だ、・・・早い・・・・・未だ・・・」
「ああ・・・これからどう転ぶにしても・・・未だ早すぎるな・・・」


夜、ジオフロント降下エスカレーター、
その上部の終端でカヲルが待っていた。
なぜか怪我が完治しているレイがエスカレーターに乗って上がってきた。
「やあ、綾波レイ、君は僕と同じだね」
レイはカヲルに一瞥をくれた。
「・・・・知らない・・・私は2人目だもの・・・」
無機質なその反応にカヲルはちょっと戸惑った。
「そ、そうかい・・・」
「・・・貴方誰?」
「ぼ、僕は、カヲル、渚カヲル、仕組まれた子供、フィフスチルドレンさ、って、説明しただろ・・・」
カヲルは汗を掻いている。
「・・・・そう、良かったわね・・・」
・・・
「さよなら」
自称2人目はその場を去った。
「・・・・あれ?」
カヲルは首を傾げた。


深夜、ネルフ本部のケージは立ち入り禁止になっていた。
その人っ子一人いない中を、碇がゆっくりと歩いていた。
高質的な足音だけが妙に広い空間に響く。
そして、初号機の前のアンビリカルブリッジで立ち止まり、ゆっくりと赤い冷却液に浸されている初号機を見上げた。
暫く碇はじっとだま待ったまま初号機の顔を見詰めていたが、漸く口を開いた。
「・・・ユイ・・・俺は・・・どうすれば良かったんだ・・・」
碇の呟きは、この広いケージに吸込まれて行く。
「・・・・俺は、お前を取り戻す為に、全てを捨て・・・全てを利用してきた・・・・シンジも、レイも・・・冬月先生も、ナオコ君も・・・リツコ君も・・・・利用できる者は何でも利用して来た、老人達も、政治屋達も・・・・多くの民衆も・・・・」
「だが・・・・シンジやレイを見ていると・・・・この二人から、ほんの僅かしか持ち合わせていない・・・俺が奪い・・・・そして、再び、自分達で掴んだ・・・・・その、ほんの僅かな幸せを奪う事は、辛過ぎる・・・・・俺には、余りにも・・・・」
「・・・余りにも・・・・」
雫が、アンビリカルブリッジに落ちる。
「・・・ユイ・・・・俺はこれからどうすれば良いんだ・・・・」
だが、それに答える者はいなかった。
しかし、碇は気付かなかったが司令室のガラスの向こうには一つの影があった。
「・・・碇、」
協力者であったその人物、冬月はアンビリカルブリッジの上に立っている碇に視線を向けた。
「・・・お前は、これからどう言う決断をする?」
・・・・・・・
・・・・・・・
「・・・・いずれにしても、俺はそれに従うしか道はないがな、」
軽く自嘲する。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
暫く何かを考えていた様だが、碇がケージを去るのを見て、冬月も司令室を出た。


3月28日(月曜日)、朝、第3新東京市、ネルフ本部、ジオフロントゲート、
碧南がゲートの前で待っていた。
暫くして、耕一と刀剣などを手にした7人の上級隊員がやって来た。
「おはよう御座います」
「ああ、おはよう」
「こちらがIDカードと地図です。」
碧南は8人にIDカードと地図を配った。
「地図上で色が変えられている区画はダミーの管理情報を流しているので、発令所に気付かれる事はありません。」
「済まんな、」
「いえ、」
9人はジオフロントゲートをくぐった。
(・・・決戦・・・か、未だ力は使いたく無いんだがな・・・奴等に今、気づかれると厄介極まりない事になる・・・・しかし、万が一の場合は仕方が無いか・・・)


A.M.10:11、ネルフ本部第2ケージ、
大体修復が完了した弐号機の前にカヲルが立っていた。
カヲルは、弐号機を見、暫くの間、これから起こす事に躊躇していた様だ。
しかし、遂に行動を起こす事に決め、顔を上げた。
「・・・・・・・・さあ、おいで、アダムの分身・・・リリンの僕たるエヴァ、」
カヲルは空中に浮きあがり、弐号機の目が光り起動した。


第2発令所、
警報が鳴り響いた。
「何事!!?」
『セントラルドグマにATフィールドの発生を確認。』
「弐号機?」
日向が目を開いた。
「パターン青!間違い無く使徒です!!」
「反応が二つ、使徒の他は・・・弐号機!」
リツコが叫んだ
「緊急停止コードは受けつけません」
「全館放送!!」


その頃ジオフロント降下エスカレーターをシンジ、レイ、アスカの3人が降下していた。
「警報?」
3人が警報に何事かと思っていたところに放送が入った。
『セントラルドグマに使徒が侵入したわ!!シンジ君!!直に第7ケージに向かって!!』
ミサトの悲鳴が響き渡った。
「アスカ!」
レイを頼むと言う意味で、アスカの方を振り返りながら名を呼んだ。
「分かったわ!任せなさい!」
シンジは急いでエスカレーターを駆け下りて行った。
・・・・
・・・・
「・・・勢いで言っちゃったけど・・・アタシは?」
既にシンジの姿はかなり離れている。
「・・発令所に連絡して指示を仰ぐべきね、」
レイに言われて気付き、アスカは携帯電話を取り出して発令所にかけた。


第2発令所はゼルエルの時にも匹敵・・・いや、それ以上とも言える緊張感で包まれていた。
「全装甲隔壁閉鎖完了」
「委員会め無茶をやるわね・・・まさか直接送りこんでくるとは・・」
それも、チルドレンとして・・・
ミサトは歯を噛み締めた。
「如何なる方法を用いても目標のターミナルドグマ侵入を阻止せよ!」
「初号機発進準備」
「サードチルドレンをエレベーターにて確認。後3分で到着します!」


ターミナルドグマに耕一の姿があった。
耕一は、碧南から受け取ったレベル6の改造IDカードをスリットに通した。
扉が開き奥へと進む通路が現れた。
耕一は、ターミナルドグマの更にその深部へと進んで行った。


第2発令所、
「装甲隔壁は弐号機により突破されています!!」
今、自分達にできる事は何も無い。
シンジが早く到着し、追撃してくれる事を祈るだけである。


第7ケージでは碧南達がシンジ達を待っていた。
シンジが到着した。
「そのままで良いから早く!」
シンジは軽く頷き直にエントリープラグに入った。
「エントリー開始!」
・・・・
・・・・
『シンジ君、聞こえる?』
「はい、聞こえます」
『目標は彼よ、彼は委員会に通じていた。そして、実は使徒だった・・・』
ミサトの声は震えている。
「・・・・・・・・・・・・カヲル君が・・・使徒・・・・」
『シンジ君、先ずは彼のターミナルドグマ侵入を止めて、説得ならそれからでも出来るわ!』
マヤが言った。
シンジは首を振って考えを散らし、マヤの言葉に従う事にした。
「・・・・はい、」
初号機が動き出した。


第2発令所、
「初号機追撃を開始!」
「目標は、第4層に突入!」
「ターミナルドグマ到達まで後13分です」
ミサトは日向に耳打ちした。
「日向君、もしもの時は」
「分かっていますよ。ここを自爆させるんでしょ・・・サードインパクトを起されるよりはマシですからね・・・」
「良いですよ・・・貴女と一緒なら・・・」
「済まないわねぇ・・・・」
果たしてその言葉に続くのは何だったのであろうか?


ターミナルドグマの最深部、
二又の槍が突き刺さった巨人の前に耕一が立っていた。
耕一はゆっくりと巨人を見上げた。
「・・・私が、最後の砦になろうか・・・・」
・・・・
・・・・
「・・・しかし・・・碇もなかなか・・・レイにしろ、エヴァにしろ・・・・」
「・・・そして、リリスか・・・」
その呟きはこの広い空間に消えて行った。


チルドレン待機室ではカヲルが使徒であった事を知ったアスカが悪態をついていた。
「あのやろう、使徒だったわけ!」
「・・・そのようね、」
「全く、あんたも使徒なんじゃないでしょうねぇ・・・」
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
「肯定か否定位しなさいよ!」
「え?・・・何?」
レイは少しぼうっとしていたようである。
「・・・・」
アスカは暫く複雑な表情を浮かべていたが、一瞬に浮かんだ嫌な考えを首を勢い良く振って散り飛ばした。


セントラルドグマの中央を貫通するメインシャフトの中で親衛隊の上級隊員7名がカヲルを待ち構えていた。
「ん?」
上級隊員はそれぞれが扱う事の出きる極大の魔法をカヲルに向かって放った。
瞬間、NN爆弾並の衝撃がメインシャフトを走りぬけ、施設を揺らした。
しかし、ATフィールドに阻まれ有効なダメージは無い。
「その程度では無駄だよ、」
上級隊員達が剣や刀を手にカヲルに襲いかかった。
「む」
カヲルが手を翳すとATフィールドが展開され親衛隊員は弾かれた。
「はぁああ!!」
エネルギーを収束して放つが弾かれる。
「むだだよ」
「きゃああ!!!」
カヲルが手を横に払うとATフィールドの壁によって弾き飛ばされ、壁面を突き破りそのまま施設の中に突っ込んでいく。
「くっ」
更に魔法を連続して放つが、カヲルにとってはそよ風程度にしかならない。
「心の壁、光の壁の前には如何なるものも乗り越えられない、」
カヲルは軽く目を閉じた。
「はああ!!」
そして、球形のATフィールドを一気にその範囲を広げる事で全員を弾き飛ばした。
「「「「「きゃああ!!!」」」」」
・・・・
暫く経ったが親衛隊員達は現れない、どうやら全員あれでやられてしまった様だ。
もはや、遮る物は無い。
「遅いなぁ・・・シンジ君」
カヲルは軽く呟き、遥か上方を見上げた。


第2発令所、
「目標は降下しながら親衛隊と戦闘中・・い、いえ、突破されました。」
「初号機、後2分で追いつきます」
司令塔の二人も流石にただならぬ様子である。
「まさか、ゼーレが自ら送り込んでくるとはな・・・牽制ではなく切り札だったとは・・・」
「・・・想像できなかった事ではない・・・老人達は計画を一つ早めるつもりだ。自らの手でな、」
「しかし・・・これでは、本末転倒だぞ、」
「老人達は確信して進めているのだ、」
「くっ、」
冬月は顔を顰めた。
「・・・」


ゼーレ、
空間に12個のモノリスが浮かんだ。
「セントラルドグマに侵入した」
「我らの目指す人類補完計画の前には障害は取り払っておかねばならぬ」
「そして、碇に知らしめねば成らん」
「もはや計画を止める事はできん」
「あとは、約束の時の到来を待つだけだ」


ネルフ本部、セントラルドグマ、メインシャフト
初号機が降下している。
既にかなり深部にまでやって来ている筈である。
遥か下に弐号機とカヲルが見えた。
「いた」
「カヲル君!!」
『シンジ君、漸く来たね』
・・・・・
・・・・・
暫くして初号機はカヲルと並んだ。
「・・弐号機、」
弐号機がプログナイフを装備した。
「・・くっ」
初号機もプログナイフを装備した。
弐号機が振り下ろしたプログナイフを初号機は横に貫ぬいたが、プログナイフがカヲルの方へ向かって行っていまった。
「あっ!」
しかし、カヲルに当たる前に空間結界に弾かれ赤い光が散った。
「え、ATフィールド!!」
『そう、君達リリンはそう呼ぶね。ATフィールドは心の壁、自我と他とを分かつ境界、光の壁、』
「カ、カヲル君、君が何を言っているのか分からないよ!」
シンジは首の根元に痛みを感じた。
見ると初号機の首の根元に弐号機のプログナイフが突き刺さっていた。
「アスカ、ごめんよ・・」
弐号機はアスカにとって大切な存在である。
一言、詫びの言葉を発してから、初号機も弐号機に突き刺した。
火花が飛び散る。


第2発令所、
「目標及び初号機は最終層侵入、ターミナルドグマ侵入まで後1分」
全員只、モニターを祈るような気持ちで見詰めるだけであった。


ターミナルドグマ最深部、
(さて、どう出るか・・・間も無く来るな。親衛隊上級隊員7名を容易く突破するとは・・・流石に人類と使徒の差は大きいか・・)
耕一は巨人を見上げた。
「後は最後の鍵を手に入れれば全ての謎は解けるが・・・大事に至らないと良いが・・」
最後に親衛隊員への思いやりも見せる。


メインシャフトを通って、セントラルドグマから初号機と弐号機とカヲルがターミナルドグマに落下して来た。
初号機と弐号機は地面に激突し、ターミナルドグマ全体を振動させた。
カヲルは初号機に一瞥をくれた後、奥へと飛んだ。
『カヲルくんまっ!』
初号機の動きは何かに止められた。
後ろを見ると初号機の足を弐号機が掴んでいた。
「くっ」


カヲルはターミナルドグマ最深部へと続く通路を塞ぐ巨大な扉、ヘブンズドアの前に立った。
レベル6の最重要機密区域、複雑に制御され、そう簡単には通る事はできない筈である。
しかし、それがまるで自動ドアか何かのように開いていく。
カヲルは最深部へと入った。
「・・良くここまで来たな、」
耕一が中央に立っていて声を掛けて来た。
カヲルは中へと進み入った。
「アダムより生まれし者はアダムに帰らねばならないなのか、人を滅ぼしてまで、」
カヲルは耕一を無視して巨人を見上げた。
「・・・ん?これは・・・リリス?」
「そうだ、アダムでは無い、」
漸くカヲルは耕一を見た。
今まで敢えて無視していたのか、それとも、気付かなかったのか・・・
「これは人類の母たるリリス・・アダムでは無い、」
二人の視線が交錯する。
「アダムは?」
「さあな・・残念だが私には分からないな」
「全ては仕組まれていたのかい?」
「どうやら、そうらしいな・・・」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
暫く沈黙が流れた。
遠くで初号機と弐号機が戦う音が聞こえる。
時折軽い揺れが訪れる。
「・・・どうするつもりだい?」
「出来れば、お前にはアダムへの帰還は諦めて欲しい」
「嫌だと言ったら?」
「力尽くでも、」
カヲルは戦闘態勢を取る為にATフィールドを展開した。
が・・・打ち消された。
「馬鹿な!!」
絶対領域を打ち消されカヲルは戸惑い、辺りを見まわした。
そして、その対象となるべきものは見当たらなかった。
耕一を睨みつける。
「どっちを見ている?」
耕一は軽く嘲り笑うかのような口調で言った。
はっと気付き、カヲルはリリスを見た。
「・・正解、まさか、彼女の前で、アダムより生まれし者が、人類を殺せるとでも思ったか?」
「・・・無理だね、子供がピンチになって動かないような親じゃないだろう、」
「神とは、自分の保護する存在には、多大な無償の愛を注ぐ、だが、自分や保護する存在に害を成す存在に対してどう言う態度を取るか、」
カヲルは軽く目を閉じて、考えた。
「・・・負けたよ、出来ればシンジ君に殺してもらいたかったけれど、仕方が無い、僕を殺しておくれ」
「断る。」
はっきりと言いきった。それは、多少の驚きをカヲルに与えた。
「むしろ君にはやってもらいたいことは無数ある。どうだ、回帰を放棄し、人として生きて見ないか?それなりの制限がつくがな、」
「・・・人の道か・・・」
カヲルはその言葉を噛み締めた。
「嘗て、リリンが歩んだ道だ・・・リリンに最も近い、タブリスが歩めない事も無かろう」
「・・・何者にも束縛されず自由意思に従う使徒、タブリスか・・・はっきり言って嘘だね、」
自嘲する。
「でも、他の使徒よりは選択の幅が広いようだ、」
「どうするかな」
「・・・」
カヲルは耕一の目をじっと見据えた。
「「・・・」」
「・・・」
「・・・」
カヲルはふっと表情を緩めた。
「・・・他に選択肢は用意されていないようだね、」
その言葉は多分に自嘲を含んでいた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
数分後、壁が破壊され初号機が乗り込んで来た。
『カヲル君!!会長!!』
「シンジか・・・カヲルの事だがな、」


2時間後、総司令執務室の中央に、シンジ、耕一、カヲルの3人が並んでいた。
その周りを取り囲むように、正面に碇と冬月、背後に、ミサト、リツコ、レイ、アスカ、マヤ、日向、青葉等が立っている。
「シンジ君、なぜ使徒を倒さない?」
「シンジ君!彼は使徒なのよ!」
ミサトたちが口々に声を掛ける中アスカはレイの車椅子を支えながらカヲルを睨んでいる。
「・・・碇、私は、今から聞く問いの答えを知っている。」
「だが・・・ここにいる者全てが知っているわけではない。ぜひ、この場で答えてもらいたい質問ばかりだ、必ず答えてもらおう。さもなくば職員の反乱も止むなしと思え・・・隠したいと言う事は言えない後ろめたい事があるのだからな、」
耕一の言葉に全員が黙った。
一体、何を尋ねるつもりなのであろうか、
「・・・先ず、使徒がインパクトを起こす。これは本当か?」
直ぐにミサトが一番反応を示した。
「な、何を言っているのですか!!?セカンドインパクトが実際に起こっているじゃありませんか!!」
「・・・では、言い方を変えよう。あれが第壱使徒アダムが起こしたものだとどうして言いきれるのだ?」
・・・・・
碇は言葉を考えているようだ。
・・・・・
「・・衛星の映像に、そこにいる葛城君の証言で、十分では?」
「葛城博士が、SS機関を暴走させた為に起きたのが、セカンドインパクトで無いとどうして言いきれる。」
「見たことも無いような巨人、それも、凄まじい大きさの、そんなものが暴れたら一大事だ。幸い、ここは南極、地球の全滅は避けられる。そんな考えで、SS機関を暴走させてアダムを消し飛ばした可能性は無いと言えるのか?」
碇は言葉に詰まり何かを考え始めた。
沈黙が流れた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「・・・ありえませんね、たとえ葛城博士が提唱者であっても人間が扱える程度のSS機関で、あの破壊力はかなり難しいでしょう、それこそ、葛城調査隊だけでなくそれ以前の調査隊も全て、その為だけに派遣され、暴走するためだけのSS機関を作る等と言った馬鹿げた事が無い限り、」
「それに、私も、葛城調査隊に参加しています。しかし、その際に該当するような物は見た記憶はありません。」
碇が葛城調査隊に参加していたと言う事は、知らなかった者一同に驚きを齎した。
「ふむ、その通りだな。」
「・・質問を変えよう。アダムがセカンドインパクトを起こしたからと言って、どうして、第参使徒以降の使徒がアダムと接触すると、インパクトが発生すると言える?空白の第弐使徒とアダムの接触を見た人間や機械は無いんだぞ、仮にあったとしても、全てセカンドインパクトで分子や原子レベルにまで分解された。」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
暫く碇は言うのを戸惑っていた様だが、長い沈黙の後、口を開いた。
「・・・・端的に言うと、予言書の存在です。」
「ふむ、」
「最初はその内容に懐疑的でしたが、アダムとセカンドインパクトがその内容を支持し、使徒襲来に備え、ゲヒルン、そしてネルフが作られた。結果的には、その後の使徒もその内容をリンクしています。」
「なぜ公開しなかった?」
それは、この場にいる者の多くの今の気持ちと同じであった。
「セカンドインパクト以後の世界において、民衆は、その日を繋ぐのが精一杯でした。そんな者達が説得できますか?来るべき未来の為にこのパンを我慢してくれと、その病人に薬を投与するのを我慢してくれと・・・そして、今でもそれは続いています。」
空気が重くなった。
多くの者を犠牲にして戦ってきたのだ。
それも桁外れの数の者を・・・その数は、使徒戦で直接死亡した者の数を大きく超える。
直接は見えない、書類の上に書かれた数字・・・良くても、テレビ等で流される画面越しの脚色された映像でしかない。その為、つい、その存在を忘れてしまいそうに成る・・・
「・・・ふむ、それは私も賛成だ。」
「人間が未来のことを考える事が出来るのは、その時まで生きていると言う保証があるか、期待をしているからだ、1月先も分からぬ者にその様な事は判断できない。そして、その様なものが大多数を占めていたという事実・・・・」
セカンドインパクト期の事を思い出す。
あの時は、この日本でさえも凄惨たる状況であった。
しかし、後復興国では、未だに・・・いや、それ以上に酷い状況にすらなっている。
「だが、それを切り捨てない限りは、人類は生存できない・・・・苦肉の策と言うわけではないが、仕方が無いとしか言う事ができない・・・」
耕一の言葉が皆の心に次々に重く圧し掛かった。
・・・・・・
・・・・・・
「では・・・なぜ、ここにいる者に知らない者がいるんだ?まあ、シンジとこいつは例外としてもだ、」
「・・・ネルフの防諜はざる、貴方達が証明したでしょう。東京の支援なしでは、チルドレンを日の下を歩かせる事すら困難だと、コンピューターは物理的に遮断できる。だが、人の口に蓋をする事は本質的には不可能です。」
自分達は信用されていなかった・・・それはショックであった。
しかし、心当たりが無いわけではない者もおり、複雑な表情を浮かべた。
そして、実際、外部に色々と情報が漏れていた事を知っている者ばかりである為、何も言う事はできなかった。
「うむ、その通りだ・・・だが、少々やりすぎな気もするがな、」
「万全をきして損は無いでしょう」
「あるぞ、不信感がな」
「「「・・・・」」」
「何も知らないで作戦を立てていた葛城君が可哀想ではないか・・・疑っていたな」
「当然、」
碇に疑われていた事を知り、ミサトは驚愕の表情を浮かべた。
しかし、直ぐに考えが加持の存在に行きつき、何も言う事は出来なかった。
「例えば第六使徒、太平洋艦隊を急襲した理由、囮の艦隊、そして、護衛のセカンドチルドレンと弐号機、」
碇はここでそれを持ち出すかと、かなり驚いたようだ。
「第壱使徒アダムのサンプルの一部を運んでいた。接触によってインパクトが起きるかどうかは微妙だが、太平洋艦隊の方々が知ったら、ここを砲撃するだろうな」
「問題ありませんよ、議会は承認していましたから」
アスカが殺気に近いものを放っている。
「落ち着けアスカ、あの時の君は、信用に足る人物か?」
「え?」
「本部にとってのアスカの知識は報告書によるものでしかない。紙に書かれた文字の羅列など、ここで信じる者がいると思うか?」
「その上、アスカの性格から考え、3体のエヴァによる複雑な作戦展開は不可能、独断先行娘が勝手に飛び出す。これは無策な指揮官のせいでもあるが、事実、第七使徒戦はその象徴だ」
「「うぐ」」
「結局、作戦部としては判断を迫られる。当時最強のエヴァ弐号機による単独殲滅と、初号機と零号機による連携殲滅どちらが良いかとな、シンジがアスカを抜くまでも無く途中で予備に下げられるであろう。しかし、性格からそれを許容する筈が無い・・・戦力外通告が出される可能性すらあった。そんなチルドレンに、誰が極秘中の極秘を教えるものか、」
「・・・・」
アスカは軽く俯いた。
その通りであろう。使徒戦は、ゲームではないのだ。人類の命運をかけた生存戦争なのだ。
最近気付いたのだ・・・それ以前の自分には確かに、それを教える事はできないだろう。
「では、質問に戻ろう、死海文書のコピーは私も入手した。完全な形ではないものの、結末は余り良いものでない事は知っている。むしろ悪いと言っても良いかもしれない・・・お前達は、その結末を変えるつもりだろう、都合の良いように、」
「・・・・・その通りですよ、」
「何も結末だけ変える必要は無い、途中を変えても良いではないか、」
「?」
「第拾七使徒タブリスたる、渚カヲルは、アダムを前に、還える事を躊躇った。」
(口裏を合わせろ、なるほどそう言う事かい)
((・・なるほどな・・))
「途中も変えられるのではないか?幸い、彼は人として暮らすのに大きな問題は無いだろう、ATフィールドが張れるとか、空が飛べるとか、異常な再生能力があるとか、むやみやたらに寿命が長いとか・・・そんな程度だ」
(((((((そんな程度じゃない))))))))
耕一の言葉に後ろの皆は汗をかいているようである。
「これまでの使徒にしてもそうだ、向こうから攻撃を掛けてきたのは、第六使徒と第拾四使徒くらいのものだ、後は殆どが、こちらから先制攻撃か、その準備をしている。第拾弐使徒なんかは、いまいち良く分からないが、本当にアダムを狙っていたのかどうか分からない、第拾四使徒にしても妙だ、なぜ発令所を襲った?死海文書の記述通りに進めているのは、運命では無くお前達だ。最後で確実な方向転換するためにな、」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
碇は沈黙で返した。
「使徒は邪魔だ、だから人類の敵とした・・・・否定はしない。だが、今ならば良かろう、それに、ここで過程を変えて行けない理由など無い」
「・・・・」
「あ、あの・・・じゃ、じゃあ、使徒は人類の敵ではないと・・・?」
ミサトの声は恐怖に近い物を感じているのが良く分かる。
もし、そうでないとしたら、自分はどれほどの罪を犯してしまったのか・・・
「集合の順番を間違えているんだ。使徒⊆人類の敵ではないと言う事だ。」
「使徒は人類を滅ぼす事が可能だと言う事で、それならば、アメリカやロシアの大統領は、命令一つで地球上を灰に出来るのだから使徒並かな?私に至っては、それを遥かに超えて危険な存在かな?」
それは違うであろう。
人類の代表であり、誰も危険などとは考えもしない。
「何も使徒だけが敵と言うわけでもない、ここにいる者だって、殺そうと思えば、人の一人や二人殺せる。だが、あえてそれをするような者はいないとは言い切れないが、必要無ければしないだろう。」
セカンドインパクト期には他者を殺めなければ、自分の命が護れないと言う事は多々あった。
だが、好き好んでそんな事をし様とは思えない。
「だが、自らを護ると言う口実でで過剰防衛で人を殺すもの、自分の快楽や欲望のためだけに人を殺すものもいる。・・・・人類にしてもこれだけの個人差がある。どうして使徒には許されないんだ?・・・・個人差を無視して、一方的に、人類の敵だ、見つけた、そら攻撃しろでは、誰だって切れるぞ・・・少なくとも見かけからは人間以上の個人差はありそうだが、」
それが真実かどうかは別として、そう大きく離れているわけではないであろう。
「では、使徒戦は過ちだったと?」
「そうは言わん。明らかにアダムを狙った第六使徒もいたし、人類は、アダムに辿り着く途中にある障害物の一つとして見ていた者もいた。」
「結局のところ意思疎通の方法が無い。ならば、安全の為に怪しいカードは切っておく方が良い。結果、人類と言う種は護れたのだからな。」
仕方ない・・・全ては仕方ない・・・であろう。
「だが、それはこれまでの話だ。幸い意思疎通が出来る使徒が出て来たし、その上、アダムを目の前に躊躇う等と言った行為も見せてくれた。妨害しようとしたのは、ここにいる一応人類の私だけだ。」
「殺ろうと思えば殺れただろう。だが、まだ生きている。それに、彼は途中で親衛隊員と喧嘩したが、全員一応病院で生きている。それでも尚、使徒だからと言う理由で抹殺しようとするのか?」
碇は耕一とカヲルを睨んだ。
猛烈な威圧感をこめて、
流石に、カヲルは威圧されかけているが、耕一の方はどこ吹く風、その程度では、全く影響無い。
寧ろ、その後ろにいる、直接その威圧感を向けられていない者達のほうが影響を受けていると言える。
暫くその状態が続きむかついたのか、お返しとばかりに耕一が碇に向けて桁外れの威圧感を放った。
瞬間、この広い司令室の空気が肌を刺す様に冷たくなった。
碇とその横にいる冬月は呼吸さえままならない。
横にいるシンジとカヲルも余りの事に体が自然に震える。
カヲルはATフィールドを展開して防御し、その陰のシンジも開放され、ほっと息をついた。
背丈は、平均的な女性程度しかないのに、異様に大きく感じられる。
横に、シンジとカヲルが居なかったとしたら、それはより顕著に感じられたであろう。
普段の耕一とはまるで違う雰囲気、長きに渡り、6大次元の政治と経済を支配し君臨して来たその経歴や経験から来るものなのであろうか?
或いは、その存在自体か・・・
数秒してから、ふっと雰囲気を元に戻した。
皆脱力して崩れてしまいそうに成ったが、何とか堪えた。
「・・・さて、何か言えるのならば言え、」
「・・・使徒の保護など・・・私の権限を越えています。」
碇の声は少し震えていた。
「ならば、地球連邦統監の権限で許可しよう、そして、渚カヲルの、ターミナルドグマ及びその関連施設への侵入の禁止、侵入した場合、殲滅とする。」
「・・・良いですよ、僕は人に興味が出た・・・」
その後は、特に、貴方に・・・と続いたであろう。


2時間後、東京帝国グループ総本社ビル、特別通信会議室、
地球連邦、国際連合、東京帝国グループの緊急合同理事会が緊急開催され、耕一の決定が発表された。
全員一致で当然のごとく大反対であった。
特に国際連合安全保障理事会常任理事国の代表の反対は物凄い。
彼等は、セカンドインパクトの恐怖に直接さらされたのである。
当然と言えば当然である。
東京帝国グループは、耕一の完全支配下にあると言っても過言でない為、反対はしない。
地球連邦安全保障理事会は、常任理事長として、耕一が、常任理事として、副統監の和也と、ルシアが、他は選挙によって選ばれている。
地球連邦政府は和也の派閥によってその殆どの閣僚が選ばれており、副統監府と同義となっている。
安全保障理事会は意見が分かれているが、地球連邦政府閣僚は殆どが反対である。
サードインパクトが発生すればどうなるか、知っているからである。
『断固反対です!』
「使徒の言う事など信用できません!」
『統監!!騙されては成りませんぞ!!』
「信用以前の問題です!サードインパクトの恐れは0にしなければ行けません!!」
出席している者は口々に反対する。
耕一はゆっくりと掌で制した。
大きな通信会議室が静寂に包まれる。
「・・・私の統監の席を賭けよう」
全ての者がとんでもない驚きに包まれた。
永きに渡り、地球連邦統監の席に座り続け、地球連邦を支配してきた。
その地位を賭ける。
「渚カヲルがサードインパクトを発生させた場合、若しくはさせようとした事が、誰の目から見ても明らかな場合、私は、地球連邦の統監職や安全保障理事会常任理事長、その他全てを辞任し、地球連邦の政治から一切手を引く」
「「「「「「「「統監!!!!」」」」」」」」
「「「「「「「「会長!!!!」」」」」」」」
これは東京帝国グループからも大きな反対があった。
地球連邦政府関係者からはこれ以上あろうかと言うほどの大反対である。
彼等にとって、耕一の在位の問題は、サードインパクトの問題よりも大きいのである。
一方、反耕一派からは、賛成の声が聞こえる。
耕一の支持率は大きく低下したとは言え80%を優に超えており、数々の功績が無数にあり、信仰にも近いものが存在する為、今、サードインパクトが起こったとしても、耕一は失脚にまでは追い込まれない。実際、不支持率は5%にも満たない。
もし今、耕一が失脚すれば、地球連邦政府は完全にパニックに陥る。
そうすれば、自分たちが政権を握るチャンスができる。そう言う考えからである。
最終的には耕一が身内からの反対を押しきった形で、第拾七使徒タブリスたる、フィフスチルドレン渚カヲルの保護が決定された。


P.M.10:40、第3新東京市、0エリア、
カヲルが湖面に立っていた。
「人として生きるか・・・」
カヲルは夜空を見上げた。
星は東京の光で見にくいが、月が辺りを照らしている。
視線を湖面に写る月に落とす。
「・・全ては、定められていたのだろうか・・・」
カヲルの呟きは静寂に吸い込まれて行った。


湖の辺にミサトとシンジがいた。
「ミサトさん、僕は、カヲル君は信用できると思います」
「そう・・・」
「数少ない友達ですから。トウジもケンスケも疎開してしまったし・・・」
「私は使徒その物を許す事が出来ない。父の敵の、でも・・・・」
心の整理ができないのだろうか、ミサトは言葉を続ける事はできなかった。


疑念、不安、恐怖、興味、友情、共感、葛藤、蟠り、怨念、様々な者が様々な感情を持ちながらではあるが、漸く、死海文書に記述されていた第拾七使徒までの使徒との戦いが終了した。


これから、チルドレン、ネルフ・・・東京帝国グループ、地球連邦・・・そして、人類はどうなって行くのであろうか?
 
あとがき
遂に、エターナルストーリー文明の章第弐部が完結しました。
長かったなぁ・・・・


次回予告
敵対する使徒は全て倒された。
しかし、新たなる敵の襲来が予見される。
その時が訪れるまでの束の間の平和、新たなる敵に向けた準備を進める一方で、
その僅かな時間でも、子供達にはそれを過ごさせてやりたいと思う大人達。
しかし、そんな大人達の思いも虚しく、人は愚かであった。
子供達は大人達の助けを借りそんな世界を懸命に生きる。
第参部 戦いの後

敵対する使徒を駆逐し、漸く平和を掴んだ子供達、
しかし、その平和を脅かす存在が変わっただけで、いなくなりはしなかった。
政治・経済・軍事・・・全ての場において、様々な思惑が子供達に向けられる。
漸く掴んだ平和を護り切る事ができるのか?
第参部 第壱節 復興

地球連邦、国際連合、東京帝国グループの合同会議によって、ネルフの地球連邦統監府への譲渡、そして、最終的には、東京帝国グループに譲渡されることが決定する。
だが、その際、統監権の部分制限等、ネルフ・ゼーレにとって有利な条件がつく。
そして、ネルフの新生への動きが始まった。
そのような環境で、皆は何を考え、どのような行動を取るのか?
次回 第参部 戦いの後 第壱節 復興 第壱話 ネルフ新生