文明の章

第壱話

◆ネルフ新生

4月1日(金曜日)、第3新東京市、ネルフ本部、総司令執務室、
今、ネルフは非常に困った問題を抱えていた。
東京帝国グループがしかけたと思われる、所属組織の移行待望論が、もはやネルフ本部全体に広がっていた。いや・・未だそれだけなら未だ問題は無い。
アメリカを初めとする諸国がネルフの解体や規模縮小、或いは他組織への譲渡を主張してきたのだ。
その代表のアメリカは規模縮小を主張しているが、解体を主張している国は決して少なくは無い。
「・・・委員会とゼーレは押さえ込めなかったのか?」
「・・・そのようだな、アメリカが上がっている時点でそれは明白とも言えるだろう・・・欧州諸国を現状維持に留めているだけで精一杯だろう。」
「・・・困ったな・・・・」
「ああ・・・展開次第では計画の遂行が危ない・・・ん?来たようだ」
諜報部長が報告書の束を抱えて入って来た。
「失礼します。」
「どうだったかね?」
「これを」
諜報部長は机に報告書を並べた。
二人はそれらに目を通している。
「・・・」
「これを止めるのは少々骨が折れそうだな、」
「・・・」
「いかがされますか?」
「・・・そうだな、今のところネルフの存続を訴えている欧州諸国に我々からもできる限り色々と働きかけてくれ、」
「はい」
諜報部長は一礼して退室していった。
「・・・どうする?このままでは拙いぞ」
「・・・委員会の定例会議は、明日か・・・」


4月2日(土曜日)、人類補完委員会、
「碇、この事態分かっておろうな」
「承知しております。」
「・・タブリスが未だに残っているとはいえ、一通り、使徒を殲滅した事になっている。」
「はい」
「ネルフは不要として解体を求める者、規模縮小を求める者、他組織への委譲を求める者、それらは日に日に増加しておる。」
「実際、我々にもこの流れを止める事は難しい」
「碇君、ネルフの規模が縮小されたり、他組織に委譲されたりした場合、補完計画を進める事は可能かね?」
「・・・そうですね・・・規模が縮小された場合は、その規模にもよりますが、難しいのではと、」
「他組織の場合・・・どれだけ予算と行動に自由性が与えられるかでしょう、」
「そんなものかね、」
「ええ・・・」
「・・・・」
「明日、天聖界で地球連邦、国際連合、東京帝国グループ等の首脳が集まってネルフをどうするかを話し合う事になっている」
「・・・・」
「他組織に委譲となった場合、その行動性の自由の保証と、委員会かゼーレから補完計画に当てる予算が与えられれば計画の続行は出来ますが、しかし、それを得る事自体が難しいと言う事は事実でしょう。」
「・・・・」
「まあ良い、下がり給え、後は委員会の問題だ」
「はい」
碇の姿が消えた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「老人達は、随分弱腰だったな」
「ああ」
「何か企んでいるのではないか?」
「・・問題無い、今我々を切れば、これまでの計画が水泡に帰すか、大幅に遅れるかだ、」
「・・・まあ、そうなんだがな・・・」
どうも、委員会・・いや、ゼーレの動きが腑に落ちない。
それが我々の計画に影響を及ぼす事なのかどうかは分からないが、やはり非常に気に成る。
「・・ところで、・・2人目の事だが、あれで良かったのか?」
「ああ、問題無い、」
「・・・そうか、」
「再び同じ事はできん。だが、予備は常に必要だ」
「・・・たしかにな、」


4月3日(日曜日)、天聖界、
嘗ては前線基地とする為に作られた人工星、天聖界、その役目を果たした後も、地理上かなり重要な場所に位置していた為に、その後も中継地として交通の要所となり中心地機能も大きくなっていった。
そして、地球連邦の中枢機関の設置によって、政治の中枢へと進化した。
天聖界の中央を占める地球連邦の関連施設群、その中の一つ、地球連邦副統監府、普段は地球連邦政府と呼ばれている。
特別会議室に東京帝国グループ、地球連邦と国際連合を初めとするネルフ関係組織の代表が集まっていた。
現在話し合われているのは、ネルフの処遇についてである。
碇や冬月、人類補完委員会委員など、ネルフそのものに強く関係している者は出席していない。
もう一つ、耕一は欠席していて、議長は副統監の和也が務めている。
地球諸国ではアメリカを初めとした多くの国は、参号機と四号機の件でネルフとエヴァを余りにリスクが大き過ぎると判断し、現在消極的になっている為と、日本が微妙な立場を取っている事で、欧州諸国の後押しだけでは国際連合は現状のネルフを維持できず、又維持する必要も無いと言う意見も強い為、国際連合全体としても、ネルフの規模縮小或いは、別国際組織への委譲を考えている。
その場合、本来ならば、地球連邦が最適なのだろうが、地球連邦は地球連邦で、セカンドインパクト以来の大赤字財政が続いており、今尚、後復興国や紛争地域の問題で頭を悩ませており、ネルフを引き取る余裕はない。
実際、3つある連合艦隊の実質稼働率は低迷を続けており、新配備艦も無い。
一方、東京帝国グループは財政的には全く問題なく、ネルフを引き取るのは容易である。だが、国際組織であると同時に、企業でもある。そのようなものにネルフのような特別な組織を受け渡して良いものか・・・
だが、その一方で、ネルフ関連組織がある国では、規模縮小よりも、別組織・・・特に、自己分担のない東京帝国グループへの委譲は経済効果の面から見て好ましいものである。
もし、ネルフ解体ともなれば関連組織から大量の失業者が発生し、更にその取り引き企業も倒産の危機に陥る。そうなれば・・・、その結果は火を見るよりも明かであろう。
会議は、比較的早いうちに、ネルフの東京帝国グループへの委譲の方向で進める事が決まった。しかし、無条件で委譲するわけには行かず、会議はその条件に関して紛糾した。


地球、第3新東京市、ネルフ本部、総司令執務室、
「さて・・・どんな結果が出るのやら・・・」
「・・・我々を出席させなかったか・・・」
「ネルフを1組織として見るのではなく、国際連合所属の1機関として見たわけだな・・・まあ、本来その通りなんだが・・・」
「・・・まあな、」
「だが、せめて傍聴はしたかったな」
「ああ、」


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
蘭子が入って来た。
「どうだ?」
「やはり、相当もめているようです。」
「まあ、予想通りだな」
「はい・・・それと、例のものは今週中には準備が終わります。」
耕一は表情を緩めた。
「そうか、それは楽しみだ。」


ネルフ本部、技術部長執務室、
リツコの執務室にミサトとマヤが来ていた。
3人はコーヒーを片手に、今地球連邦政府で行われている会議について話をしている。
「ネルフはどうなるんですか?」
「マギは79.72%の確率で、地球連邦統監府直轄下に置かれると予想しているわ」
ミサトは少し驚いた。
「東京帝国グループじゃないの?」
「ええ、」
「どうして?」
「東京帝国グループは、財政的には全く問題なく、ネルフを引き取るのは容易よ、寧ろ、望んでいるでしょう。でも、国際組織であると同時に企業でもある。そのような組織にネルフのような特別な組織を無条件で受け渡して良いと思う?」
それは、流石に問題ありであろう。
「その条件の一つとして、移行期間を設け、先ずは、地球連邦統監府直轄下に置かれた上で、曲がりなりにもネルフの自治のようなものを認め、その間に色々と拙い物を処理して、その後改めて東京帝国グループ下に入る物と思われるわ、」
「・・・成るほどね、」
ミサトは軽く納得して、コーヒーに口をつけた。


4月4日(月曜日)天聖界、地球連邦政府、副統監執政室、
和也は頭を悩ましていた。
耕一から色々と裏の情報を知らされている。
それが説明できたら、この会議はそう時間は掛からずに決議に至るだろう。
だが、現時点ではとてもそれらを明かす事は出来ない。
和也は大きく溜息をついた。
そろそろ時間である。
ドアがノックされた。
「ああ、分かっているよ」
和也は立ち上がり、部屋を出た。
「では、会議室に、」
和也は秘書官達に続いて特別会議室に向かった。
・・・・
・・・・
和也が特別会議室に入ると既に和也の到着を待っていた面々が一斉に立ち上がり和也を迎えた。
そして、和也が議長席につき、皆が再び席に座り、和也の再会の声で会議が再開された。
長い会議はその後も何度かの休憩を挟み、漸く条件が決まった。
その中の一例を挙げると、
ネルフの予算は、主に東京帝国グループが出資し、残りを地球連邦と各ネルフ関連施設を保有する国家が負担する。
ネルフは、先ずは地球連邦統監府管轄に置かれ、最終的には東京帝国グループ下に置く。但し、その時期の詳細に関しては定めない。
地球連邦、国際連合、及び、各国家は、ネルフの特務権限(改訂)を認める。
A.S.16年度中にネルフを一般に公開する。
チルドレンを保護する為の法令を制定する。
他、ネルフの総司令と統監府の権限等を始めとした数々の条件が決まった。
全体的に見ると、明らかにネルフ側に有利な条件と言える部分が多い。
上げるとすれば、チルドレンの立場に関することぐらいだろうか、
チルドレンは司令部直属とするが、正式な契約相手は地球連邦統監府とし、チルドレンに対して何らかの処分を行うには統監府の承認が必要である。


地球、第3新東京市、ネルフ本部、総司令執務室、
碇は、会議での決定事項が書かれた書類を机に置いた。
「・・・予想よりもかなり条件が良いな、」
多少は制限はされているとは言え、依然ネルフ司令部には大きな権限が与えられている。
例えば人事権も、本部は各部長格以下、支部も副部長格以下の人事は自分達で決める事ができる。
これは、これまでとほぼ変わらない。
「ああ、会長が欠席していたのがその最大の理由だな・・」
「・・・・単にタブリスの事で、又もめたくなかっただけではないだろうな・・・」
「・・・・まさか、」
奇妙な沈黙が流れた。
「・・・まさかな・・・何か考えがあっての事だろうな・・」
「・・・警戒はするか、」
「そうだな・・・」


4月6日(水曜日)、ネルフ本部、総司令執務室、
耕一が秘書官達を連れてやってきている。
対して、ネルフの幹部やチルドレンが勢揃いしている。
この広い部屋が丁度良い。まあ、それを意図して作られているかどうかは定かではないが・・・
今日は、新しい人事が発表される事になっている。
それに伴い階級も完全に一新される事になっている。
それは、昇進する者だけでなく、降格する者も出て来る可能性が高いとの事である。
皆緊張して発表を待っている。
「皆知っている通り、先の東京帝国グループ、地球連邦、国際連合等の合同会議によって、ネルフは地球連邦統監府の直轄となる事が決定された。」
「しかし、これは、最終的に東京帝国グループに委譲されるまでのいわば橋渡し的なものである。」
耕一の言葉が終わった後、蘭子が進み出た。
「では、本日、4月8日より移行を開始し、5月1日より正式にスタートする事になる地球連邦統監府所属特務機関ネルフ及びその付属組織とその新人事を発表します。」
「ネルフ総司令、碇ゲンドウ、1将」
まあ、当然の事であろう。
「副司令、冬月コウゾウ、2将」
「他、もう1名副司令を置く予定ですが、現在のところ未だ誰になるかは決定していません。」
幹部のほぼ全員が緊張を走らせた。
それが、ネルフを押さえる為に地球連邦から派遣されてくる存在なのである。
今、発表されないと言う事は、どう言う事なのか・・・本当に未だ決まっていないのであろうか?
それが、東京帝国グループ、または、それに近しい人物か、地球連邦政府や総会の人間なのかでも全く話は変わってくる。
「第1支部司令、ケーン・マックス、准将」
「第3支部司令、千代田マサル、3将」
「第4支部(ロシア支部)司令、佐藤賢作、准将」
「第5支部(中国支部)司令、李仁徳、准将」
「第6支部(フランス支部)司令、大友マリアポール、准将」
各支部の司令の発表が終了し、発表は本部の部長格に移った。
「本部技術部部長、赤木リツコ博士、1佐」
「本部作戦部部長、葛城ミサト、3佐」
「本部情報部部長、相田サトシ、3佐」
そして、副部長格へと、
「本部技術部副部長、伊吹マヤ、3佐」
「本部作戦部副部長、日向マコト、1尉」
そして、代表的な職員へと・・・・
尚、碧南ルイや青葉シゲルは2尉と成った。
そして、最後に、チルドレンに、
「エヴァンゲリオン初号機正規操縦者、碇シンジ、2佐待遇」
驚きの声が上がった。
「エヴァンゲリオン弐号機正規操縦者、惣流・アスカ・ラングレー、3佐待遇」
一人悔しがる声が聞こえたような気が・・・
「エヴァンゲリオン初号機予備操縦者、綾波レイ、3佐待遇」
「エヴァンゲリオン弐号機予備操縦者、渚カヲル、1尉待遇」
全体的に見て、これまでの勤労年数は余り関係無いようで、むしろ、その立場か能力で階級が決められているようである。
「何か、質問はありますか?」
リツコが手を挙げた。
「もう一人の副司令には誰が?」
「予定は未定とも言いますので何とも、」
「そうですか・・・」
「尚、分かっているとは思いますが、新制ネルフが本格的に動き出すのは東京帝国グループ委譲後ですので、」
「それと、3人のチルドレンの階級が高い事は?」
「半分は、使徒戦における功績、もう半分は地球連邦最強クラスの戦力であるエヴァを操れる貴重な存在であり、未成年と言えども、相当の待遇を与える必要があると判断しました。」
アスカが不満そうな顔でシンジを睨み、シンジは苦笑いを浮かべた。
「・・と言う事は、成人後は更に?」
「その件に関しては未だなんとも・・」


その後色々と発表が続き、それらも一通り終わったので耕一、蘭子、碇、冬月、リツコ、ミサトとシンジ、レイ、アスカの3人のチルドレンが残こり、他の者は退室した。
「尚、チルドレンの契約は正式にはネルフ司令部ではなく地球連邦統監府と交わす事となります。」
「それでは、チルドレンの権利と義務に関して説明します。」
「1、チルドレンは、人類の種の存続にエヴァが必要とされると判断した、若しくはされた場合、エヴァを使用し、人類の種の存続を死守する義務を負う。又、これはいかなる物よりも優先される。」
「2、前項に反しない範囲であれば、命令の拒否権があり、理不尽な命令は拒否できる。」
「3、給与は、1を満たす限り終身支払われる。」
「4、エヴァを使用した実戦や作業の他、エヴァ関連の実験や訓練を行った場合、特別手当が支給される」
「5、ネルフ及びその付属組織関連の機密に関する守秘義務を負う」
「6、1に反しない範囲で、チルドレンの就学は保障される。」
「7、この契約は1年単位で行われ、地球連邦統監の交代・規約の改定時には、チルドレンは契約を中途破棄する事ができる。」
その後、何点か説明された。
「さて、今後の扱いなどは分かったと思う・・・正式に契約を結んでくれるかな?」
かなりの高待遇である。
だが、逆に、全て、それこそ自らの命よりも、人類の種の存続を優先させなくては成らないと言う枷がつけられる。いや・・・自らその枷を嵌める事になるのだ。
「・・因みに断った場合は?」
レイが尋ねた。
まさかレイが言い出すとは思わなかったネルフの4人は驚いた。
「ネルフ関連の機密の守秘義務だけだ。だが、重要性を考え、護衛はつく。そして、終身年金が支払われる事になる。」
「そう・・」
「で、どうする?」
「問題無いわ」
レイは即答した。
「アタシもね、」
「僕も」
直ぐに続けて二人も答える。
「では、こちらにサインを」
3人は書類にサインをして正式に契約を結んだ。


技術棟、伊吹研究室、
マヤに与えられた専用の研究室は赤木研究室の隣の研究室である。
荷物が少ない事もあり既に綺麗に片付いており、入ってきたリツコは少し驚いた。
「あら?もう片付いたの?」
「はい、荷物少ないですから」
リツコは椅子に座った。
「ふ〜、伊吹研究室か」
「へへへ」
マヤは照れ笑いを浮かべた。
「・・・・マヤ、」
「・・・はい」
リツコの真面目な顔に、マヤも真面目な顔で答えた。
「マヤはこれからどうするのか決めなくては行けないわ」
「・・・どう言う意味ですか?」
「マヤはこれから何を担当するかよ、」
「担当?」
「例えば、マギ関係は私が、エヴァ関係はマヤが担当することもできる。もちろん逆も可能。分野毎ではなく仕事毎に分けるという事もできる。」
「でも・・・」
一生リツコの元で仕事をすると既に勝手に決心していたマヤにとって、リツコの副官でなくなると言う事も、副官に別の人間・・・候補としては、碧南等が付く事などは、意に反する事であった。
「はっきり言うわ、今後、ネルフの組織の中で唯一、確実に大幅な拡大がされるのが技術部門、恐らくは、私一人で指揮するのは不可能、つまり、今までのような、指揮と補佐という関係だけでは、技術部門は成立できないわ、」
「・・・・はい、」
その通りであろう、理解は出来る。だが・・・納得はしたくは無い。
「未だマヤの専属職員もいないし、暫く時間は掛かるでしょう。初めは、私の代わりに指揮をするということからね・・・具体的にどうするかはゆっくりと決めなさい。」
「・・はい」
リツコはラッピングされた白衣をマヤに渡した。
「え?」
「私の白衣と同じ特別製の物よ」
ネルフ本部の技術部で、白衣を着ているのはリツコのみで、残りの者はネルフの制服や作業服である。白衣、それもリツコの物と同じ白衣を渡されると言う事は、ネルフ本部技術部では最高の名誉である。
「・・・・・有難う御座います〜!!」
マヤはうれし涙を浮かべてリツコに飛び付いた。


作戦部会議室、
「いや〜、日向君、副部長昇進おめでと〜」
「有難う御座います」
「これで私も楽できるってもんね」
「貴女の場合、日向君に全てを押し付けるだけというのは変わらないでしょうが」
突っ込みと同時に、リツコとマヤが入ってきた。
「うっ、リツコ」
「日向君、副部長として、作戦部のだらけている所を叩き直してね、」
「は、はあ〜・・・」
分かっちゃいるけど出来ないんだろうな〜と思いつつ、日向は相手がリツコなので答えないわけにも行かず、生返事を返した。
「何よ〜、私の事だって言いたいの?」
「・・・自覚、あったんですね・・・」
マヤが呟いた。
「誰もミサトの事だとは言っていないけど、」
「文脈考えれば当然でしょうが」
「あら?貴女にもそのくらいの知恵あったのね、シンジ君と同居前のあの住環境や執務室の環境、基本的連絡事項の伝達ミスが50%を越えてる事から考えればね〜」
「何なのよ」
心当たりがあるので、強くは言い返せないが、それなりに返した。
「そうね、貴女をからかいに来た訳じゃないのよね」
「あのね〜」
「何か文句あるの?シンジ君をからかいまくってる貴女に、」
「うぐ」
「で、連絡事項は、マヤの事よ、今日の発表と白衣を着てることから分かるように、マヤは、今後、技術部を指揮する側の人間になるわ、」
「へ?」
「よろしくお願いします」
「は、ま、がんばってね」
丁寧に頭を下げたマヤに対して、余り良く分かっていなかったが、一応の応援の言葉をかけた。
「はい、では、失礼します」
二人は出ていった。


夕方、シンジは買い物に行こうとしたが、財布の中身が少し少ない事に気づいた。
「・・銀行に寄って行くか、」
そして、下ろそうとしたのだが、エラーが出た。
「はい?」
表示を見たシンジは目を疑わずにはいられなかった。
・・・残高 2万8633円・・・・
(・・・もっと残っていた筈だけど・・・・)
暫く考えたシンジは月末にミサトが完全に酔いつぶれて帰って来た事を思い出し、青筋を浮かべて拳を握り締めた。


夜、ミサトのマンション、
今シンジが夕食を作っている。
「あ〜あ、2佐様がわざわざ私達のために夕食を作って下さって、誠にありがとう御座います」
「アスカ、嫌味なんか言わないでよ」
特にこんな時にと付け加えたい。
「・・シンジ君、弐号機パイロットは何故不機嫌なの?」
「いや、その、アスカが3佐なのに、僕が2佐だったじゃない」
「・・どうして?・・正当な評価よ・・」
アスカはレイをキッと睨んだ。
「ま〜ま〜、アスカもレイも、別にあんた達の間じゃ階級なんか関係ないじゃないの、」
「まあ、そうなんだけどさ〜」
階級の上下関係もそうだが、使徒戦の評価である。たしかに、正当と言えば正当だが、納得はできない。
「・・惣流3佐?」
「ファースト、あんた喧嘩売ってる?」
当然のごとくアスカは青筋を浮かばせた。
「・・どうして?・・貴女が一番拘っている呼び方をしただけだけれど・・」
一方、それが全く理解できないレイは聞き返した。
「へ?」
「ああ、なるほど、それで、綾波はずっとアスカを弐号機パイロットって呼んでいた訳か」
レイは頷き、シンジの意見を肯定した。
暫く考えて、アスカはその意味が分かった。
「そう・・・だったら、アスカって名前で呼びなさい、アタシもレイって呼ぶから、」
「・・わかったわ、アスカ・・」
「うむ、それで良いのよ」
「じゃあみんなの昇進記念でぱぁ〜〜っと!!」
「駄目ですよ」
むすっとした表情で返す。
「よ〜し、じゃあ、レイとアスカがお互いを名前で呼んだ記念で」
取り敢えず何かにつけて酒が飲みたいミサトであった。
「・・・ミサトさん、家計知ってます?」
シンジの鋭い突っ込み、しかも、青筋を浮かべている為、ミサトは沈黙した。
「・・・・シンちゃんお金持ちじゃない、」
「第3新東京市復興基金に残金全額寄付しました。」
「「・・・・」」
「・・・あんたバカ?」
「僕たち子供がそんな大金もってても仕方がないよ」
アスカは軽く息をついた。
「いったい、いくらだったの?」
「だいたい670億円くらいかな?」
「バカシンジィ!!!」
「シンジ君はバカじゃない」
「ファーストは黙ってる!!」
レイと呼ぶようにしたのではないのか?
「アタシ達の給料入るのは月末だってのに、家計が苦しいのに何考えてんのよ!」
「家計が苦しいのは、ミサトさんの給料の手取り58万円、僕とアスカの養育費26万円、合わせて84万円もあるのに、どこかに使ってしまったせいなんだよ」
どうやら温厚なシンジも、今回ばかりは相当に怒っているらしい。
その事をびんびんに感じミサトは汗を滝のように流している。
勿論、全ては使徒戦勝利祝賀会の11次会まで飲みまくったミサトのせいである。
最後までつきあっていたリツコもかなりピンチになっていたが、元々給料が違うし、ミサトと違ってかなりの額の預貯金があったために助かったが、葛城家は洒落になっていなかった。
割り勘のようだが、実質8割以上ミサトが飲んでいた。リツコ曰く、「今年最大の失態だわ」だそうだ。
「・・・シンジ君・・」
レイがシンジの袖を引っ張った。
「何?綾波」
レイはシンジにカードを差し出した。
「・・使って・・」
「いや、綾波それは駄目だよ」
「・・使って・・」
「駄目だよ」
「・・駄目なの?」
レイはシンジを上目づかいにじっと見つめた。
「うっ」
(か、可愛い・・・・)
余りの可愛さにシンジはノックアウトされかけたが、ここは、ぐっと理性を前面に押し出して堪えた。
「はっ、そうじゃなくて、そんなことをすると」
「良いじゃない、折角レイが使ってほしいって言ってるのに、レイの行為を無駄にするわけ?」
アスカは、後半月間続くであろう貧相な生活から開放され、あわよくば御馳走が食べられるチャンスに一気に攻め込むつもりらしい。
「いや、そうじゃなく・・て・・・」
「・・使って・・」
「・・・・うん、」
結局顔を赤く染めてシンジはカードを受け取った。
「因みに、レイの口座っていくら位入ってるの?」
「・・私のじゃない・・」
室温が氷点下に下がったような気がした。
「・・・・あ・・綾波・・・このカードどこで・・・」
「・・会長がくれたの、好きに使って良いって・・」
「会長が?」
「いったいいくら入ってるの?」
レイはシンジからカードを受け取り、じぃ〜と見つめた。
「いや、チップは見ただけじゃ分からないって」
「・・・そうね、」
「じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ、会長にもちゃんとお礼も言っておくから」
「ミサトさん、絶対禁酒ですからね!」
しっかり、釘を刺しておくことは忘れない。
「そんな〜!!」
勿論パーティーはなし、結局料理も普通の物で終わった。
普段ならアスカの怒りはシンジに向けて放たれるのだが、今日ばかりは、ミサトに向けて放たれ、一方、シンジも責めるような雰囲気で、レイは、無関心。
孤立無援で、ミサトは余計に酒が飲みたくなって苦しんだ。
そして、コンビニに酒を買いに行こうとしたが、財布の中身は殆ど空で、ベッドに蹲り涙を流す事に成った。

あとがき
さて、いよいよ、第3部のスタートです。
地球連邦統監府に所属する事に成ったネルフとチルドレン達。
果たして、これからどのような出来事が起こるのでしょうか?
後は、シンジがレイと呼べばお互いがお互いを名前で呼び合う仲になりますね。
では、又

次回予告
突然耕一が一つのケースを持ってやってくる。
その中身はユイのディスクの中に入っていた写真等を印刷した物であった。
記憶に無い想い出、今は失われてしまっている家族の絆・・・
それを事実としてして認識した時、シンジは何を思うのか、
次回 第弐話 想い出・・・