背徳 逆行編

◆第12話

ゼーレ、
「準備は整った」
「約束の時まで24時間を切った」
「リリスとアダムによる補完」
「我等の夢がかなう」
「人は新たなるステップへと進むのだ」
「神への道を上る」
「新たなる神の誕生を望む」
「先ずは、マギシステムの制圧からだ、」
「伊吹博士相手に大丈夫か?」
「ふっ、手は打ってある。第8世代コンピューターだ」
「第8世代コンピューター?」
「そうだ」


アメリカ、ネルフ第1支部、大深度施設、電脳室、
白衣を着た研究者達が右往左往する部屋の中央に位置するカプセルには、無数のコードに繋がれた人間の脳が浮いていた。
「どうだ?」
「問題ありません。まあ、流石ですね」
「ああ、凡人の脳とは違うよ、流石は、赤木博士ですよ」
第2支部と共に消滅した筈の、リツコの脳である。
リツコは、事故の前に、拉致され、脳を取り出され第8世代コンピューターにされてしまったのだ。
しかも、皮肉にも、ナオコに対抗する為に、リツコが発案したが、並みの脳では、その負荷に耐えられず、崩壊してしまう為にその計画を断念した物であった。
彼女は、自分の望まない形で、強制的に自らの計画を完成させられてしまった。
その脳を代償として、


ネルフ中央病院、病室、
ナツの抜け殻が横たわるベッドの直ぐ横の椅子にトウジが腰掛け、それをじっと見詰めていた。
「ナツ、兄ちゃんがまもったるでな」
トウジは妹を守る為にエヴァに乗り、ゼーレと戦う意思を固めていた。
その、エヴァ参号機にこそ、妹の魂が宿っていると言う事など知らずに、
トウジは立ち上がり、本部の待機室へと向かった。


第2新東京市、新千代田区防衛省、最高司令室、
根回しが上手く行った結果、自衛隊の各将がこの場にいる。
4自衛隊が総力を結集して戦う。
しかし、それでも、勢力比は、2:8、圧倒的に不利である。
だが、お互いにどれだけカードを隠しているか、それが決め手になる。
「艦隊は?」
「間も無くですね」
「ああ、海自も展開を終了した」
「戦自は?」
「大丈夫です。準備は出来ています。」
防衛大臣が答えた。
「・・中国が動いてくれるかどうかだな・・」
ゼーレ支配圏ではない中国には極秘に情報を流した。
それらを見てどう判断するか・・・
「可能性は?」
「マギ2は、36%と見ている」
「やはり、ゼーレの力は強大ですか・・」
「これで、あの槍がヨーロッパに落ちていなかったらと思うとぞっとしますな」
「あれで、向こうの戦力の20%を削いだ上に影響力も低下したが・・・それで、これだからな」
竹下は、広域作戦マップに目をやった。
小笠原列島付近の公海上をゆっくりと北上している嘗て無いほどの大艦隊。
衛星からの情報によると、空母は25、戦艦は36、総艦数は800を超える。
詳細な数は不明だが潜水艦も相当数存在する。
更には、軽戦車などを満載した軍用ではない輸送船も相当数確認されている。
対するは、伊豆諸島付近に展開されている海自と戦自の艦隊。
海自は、空母が2、戦艦は6、総艦数は70弱・・・
戦自の通常艦隊は、空母が3、戦艦が5、総艦数は50程度・・・
そして、今回のゼーレ戦の為に作られた特殊戦艦による艦隊は10艦
中国の指揮下には、戦艦3、巡洋艦と護衛艦を合わせて40程あると思われる。
形勢をひっくり返すにはまるで足りない。だが、指揮系統はかなりの打撃を受けるであろう。
そして、更に、日本海の船影に目を移した。
正体不明の艦隊。
恐らくはゼーレの直轄艦隊。
位置と進路から目標は、ここ、第2新東京市。


ネルフ本部、伊吹研究室、
マヤとユイがマギのシステムを最適化していた。
第666プロテクトも1分以内に発動できるよう準備をした。
その他にも防壁をかなり厚くしている。
マギコピー相手ならば十分これで持つ、だが、何か、奥の手を用意して来ているとしたら、これでは難しいだろう。
「お互いに隠してるカードが多過ぎるわね」
「ええ、」
「蓋を開けるまで分からない。レイの力を発動させずに済めば良いのだけれど・・・」
レイがリリスの力を使えば、確実にゼーレは潰せる。
だが、それは、レイの幸せを奪う。
人はレイを恐れ、逃げるだろう。
レイが、人類の母たるリリスの力を受け継いだと分かれば、或いは、拝み崇めるかもしれない。
だが、いずれにせよ、レイの望む幸せは手に入れられないだろう。
マヤは短い間だがユイと接してみて驚いていた。
能力が凄まじ過ぎる。
マヤのレベルでは到底及ばない。
それに、今のマヤの成果の多くは、シンジから渡されたユイのレポートに基づいていると成るとやはり・・・
マヤは嘗てリツコに向けていた憧れ、尊敬などの視線をユイに向けた。
暫くしてユイはそれに気付いたようで、くすっと笑った。
「尊敬してもらえるのは嬉しいですけど、貴女ほどの才能があるのならば、誰かの下にいるよりも、自ら未来を切り開いた方が良いですよ」
考えていた事を読まれたマヤは少し赤くなった。


戦略自衛隊制圧区画宿舎、
「・・綾波・・」
「・・碇君・・」
二人はラブラブの真っ最中だった。
二人の唇が近付きそして重なり合う。
思えば、シンジがキスをした回数は、両方の歴史を含めて5度。
1度目はアスカ。
挑発されて、意地になって行ったキス。
鼻をつままれ、息が出来ないにも関わらず長時間のキスをかまされ、もう少しで気を失うところであった。
2度目はミサト。
迫り来る戦自の手からシンジを庇い、そして、致命傷を受けたミサト。
初めての大人のキス・・守られることは無いと分かっていた約束・・・・
3度目はレイ。
サードインパクトのキャンセルの時の別れの口付け、
シンジを狂わせた口付け・・・
4度目もレイ。
この歴史のヤシマ作戦の準備の時、前回の思い出を重ね合わせていた時のキス。
お互いの存在を確かめ合うキス。
ミサトに邪魔をされた。
もし邪魔をされていなかったら、第1射の後に行うつもりだったが、はっきり言ってむかついた為、あのような行為に出た。
今の5度目もレイ。
只触れ合うだけ、だが、最後の戦いを前に、お互いの愛を確認したい、そんな気持ちからのキス。
思えば、アスカとのキスを除けばまともな状況下でのキスとはとても言い難い。
そして、そのアスカとのキスも、まともなキスではなかった。
この戦いが終われば、平和の中での愛を確認し合うキスが出来るのであろうか?
それは、全てこの戦いの勝敗に掛かっている。
長い触れ合いだったが、二人の唇が漸く離れた。
「・・レイ、良いかな?」
シンジはレイを苗字ではなく名で呼んだ。
「・・・」
レイは無言で頷いた。
「・・本当に僕で良いの?」
「・・私はシンジ君と一つになりたい・・」
レイはシンジに抱き付いた。
「・・うん・・僕も、レイと一つになりたい・・」
シンジはレイをそっとベッドに寝かせた。


伊吹研究室、
ユイの手元のモニターに微弱なATフィールドの共鳴が映し出された。
「・・・辛いわね・・・」
ゆっくりとモニターを切った。
「・・・もっと・・・・もっと、楽な戦いならば・・・」
「・・・」
ユイにとって、この戦いは、単なる、組織そしてそれを構成する者の生存をかけた戦いでは無い。
想う所が余りに多過ぎる・・・
今どのような気持ちなのであろうか、とても、想像できない。
マヤには声を掛ける事が出来なかった。


小笠原諸島付近の公海を凄まじい艦隊が北上していた。
国際連合海軍、太平洋艦隊、大西洋艦隊、インド洋艦隊
アメリカ、フランス、ロシア、イギリス、中国、
そして、その他の国の海軍もほぼ勢ぞろいしている。
前世紀のアメリカでも、勝ち目は無いかもしれない。
只、心配事は3つ、一つは、急造の寄せ集め軍隊である為、指令系統の混乱が発生する可能性が高いこと。
個体の能力に差があまりにも有り過ぎる事。
そして、各国は、防衛を目的とした訓練は十分になされているが、侵略を目的とした訓練は少ない事等である。
後は、未だに反応が全く無い中国か・・・


三宅島の沖に展開されている海上自衛隊の艦隊、
前世紀の海上自衛隊の艦は日本海に避難し、かなりの数が生き残った。
そして、使徒戦に備え増強されており、戦艦や空母などの姿もある。
実戦を想定しての訓練も頻繁に行われており、練度は相当なものである。
だが、どうしても、相手が大き過ぎる。


神津島の沖に展開されている戦略自衛隊海洋艦隊、
なんと全ての艦がセカンドインパクト後の新造艦である。
圧倒的な性能、正に脅威である。
だが、やはり、相手が悪過ぎる。


そして、その両艦隊の中間ほどに展開されている戦略自衛隊のステルス艦隊。
10艦全てが50センチ速射砲を装備している。
2016年の時点では当然存在しない筈の砲兵器である。


しかし、艦隊が領海に入り、更には互いに射程距離に入っても未だに戦闘は始まってはいなかった。
今回、連合軍の表向きの目的は、サードインパクトを発生させようとしている日本の制圧である。
いくら大義があるとは言っても、一方的に攻撃を仕掛ける事は出来ない。
ゼーレの支配力が強い国だけなら問題は無いだろうが、この艦隊はそうではない。
下手に混乱を招くよりは、先に日本に攻撃させ、それを口実として一気に攻めるつもりである。
そして、その戦闘は、日本本土から発射された10発の巨大なミサイルによって火蓋が切って落とされた。
ミサイルは凄まじい速さに加速し、連合艦隊を目指し一直線に飛んでいく。
連合艦隊はいっせいにミサイル迎撃を開始した。
しかし、ミサイルは迎撃されるどころか、迎撃用のミサイルや砲撃を遮断し、更に加速していく。
そして、ミサイルはそのまま目標の艦に直撃して貫き、更にその後方の艦も貫き海中に沈み、爆発を起こし海中を航行していた潜水艦や付近海上の艦を破壊した。
それを見ていた者達は恐怖した。
ミサイルで戦艦が破壊されるのも、海中で大爆発を起こすのも分かる。
だが、なぜ、迎撃できないのか、そして、なぜ、戦艦を貫いたのか、
そして、海上自衛隊と戦略自衛隊の艦隊が砲撃を始め、同時に無数の艦載機を飛ばした。
それに対抗して、艦載機を次々に離陸させた。


箱根外輪山、
巨大なミサイル発射台が設置されていた。
そして、其処に装填される巨大なミサイルは、エヴァの廃棄体を素に作った物であり、ATフィールドを展開しながら飛ぶ。空気抵抗も、ミサイルや砲撃などによる抵抗もほぼ0、正に迎撃不能なミサイルである。
第2射が発射された。
これは、エヴァの廃棄体の処分も兼ねており、技術の封印にも役立ち1石2鳥である。


ネルフ本部、伊吹研究室、
現在、マギの管理・主操作は発令所ではなく、ここで行っている。
発令所は、第2新東京市の最高司令室と同様に松代のマギ2にまかせてある。
「来たわ」
開戦と同時に、アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランス、ブラジル、インド、サウジアラビアから一斉にハッキングが行われた。
「防壁展開します」
二人は凄まじいスピードでキーボードを叩いた。


日本海側、
ゼーレの直轄艦隊が日本に接近していた。
目的は、第2新東京市の制圧である。
中央集権が甚だしい日本は第2新東京市を失えば極度の混乱に陥る。
その為の艦隊である。
突如、陸上から粒子ビームを照射され瞬時に戦艦が吹っ飛んだ。
更に、掃射され、次々に艦が破壊されていく。


能登半島にある山の中腹ほどに巨大な遠心加速器付きのビーム砲が置かれていた。
人工的に発生させた微弱なATフィールドを利用しており、通常の遠心加速器とはその性能が桁外れに異なる。丁度、ラミエルの加粒子砲と同じ原理である。
ビームは、ゼーレの艦隊を攻撃し次々に沈めている。
ゼーレ側はミサイル放ち、艦載機を飛ばしたが、速度が違い過ぎる。
次々に破壊し、暫くすると、避難命令が出され、職員はいっせいに逃げ出した。
その直後、無人のビーム砲台をミサイルが襲った。
生き残った艦や航空機を攻撃する為に、空自の航空機編隊が次々に周囲の空港や基地を飛び立った。


富士山山頂付近、
巨大なレーザー砲にJAが繋がれていた。
JAの原子炉のエネルギーをレーザーに変換し照射する。
日本重化学工業が開発した兵器である。
そして、南海で戦闘を続けている艦隊が飛ばした艦載機に向けて発射した。
いくら戦闘機が早いといっても、光速にすれば十分遅い。


ネルフ本部、発令所、
「作戦通りです。」
メインスクリーンには各部隊と敵各軍隊の戦力が表示されていた。
開戦当初よりもその差は縮まっている。
とは言え、その差は大きい。


日本南海、
無数のミサイルが飛び交いレーザーや廃棄体再利用ミサイルが飛んで来る中、戦自のステルス艦隊が放った砲弾が次々に着弾した。
そんな連射をしてもまともに当たる筈が無い、無い筈なのだが・・・結構着弾している。
通常の戦艦の砲弾よりも3回りも大きい砲弾が次々に艦を破壊していく。
そんな中突如、中国軍の軍艦が周囲にいた艦に攻撃を加えた。
突然の事に艦隊の統率は混乱した。
しかし、中国軍の多くは陸軍であり、輸送船に乗り込んでいる。現時点ではまともな戦闘は不可能である。
混乱から回復した艦からの集中砲火によって次々に沈められていく。
予想した上で、正義を貫いたのであろうか?それとも・・・・・


ゼーレ、
「よもや、日本がここまでの抵抗を示すとは、」
「中国の裏切りは予定外だ」
「愚かな、いずれにせよ勝ち目は無いものを」
「だが、アダムとリリスが日本にある限り、核は使用できん」
「量産型エヴァの投入だな」


ネルフ本部、発令所、
「探知しました。量産型エヴァ9機起動しました。」
「指向性NNミサイル及び、廃棄ミサイル一斉射!!」
加賀の声と共に残存する殆どの両兵器が撃ち出された。
ここで、撃破、例えそれが不可能でも、何機か減らせれば、


日本南海、
9機の量産型エヴァが中に舞い上がった。
しかし、次々に指向性NNミサイルと、廃棄体再利用ミサイルが直撃した。
中心部は数千万度から数億度にも達するであろうプラズマの塊に全てが飲みこまれ、瞬間爆発した。
周囲にいた艦をも蒸発させ爆風が破壊した。


ネルフ本部、伊吹研究室、
電子戦は既にかなり押されていた。
「第666プロテクトを発動するわよ」
「はい」
そして、第666プロテクトが発動し、マギが完全防衛モードに入った。
完全な防壁に守られ、侵入は全て阻止された。
しかし、その防壁を破ってくるコンピューターが検出された。
「嘘!」
「なんですって?」
凄まじい計算速度である。
二人は逆探知を試みた。
反応は、第1支部。


第1支部、大深度施設
カプセルに入れられたリツコの脳が発光していた。
脳内を凄まじい勢いで流れ続ける電流による発光である。


精神世界、
リツコはその膨大な情報に自我は崩壊され、魂の領域にまで侵食を受けていた。
そして、魂さえも、情報に埋め尽くされていく。
崩壊するリツコの魂は母ナオコの姿を見たような気がした後、消えさった。


大深度施設。
リツコの脳が負荷に耐えられずに崩壊を始めた。


ネルフ本部、伊吹研究室。
既に、カスパーの最終ブロック以外は完全に制圧されていた。
そして、最後の瞬間、突然ハッキングが停止し、マギが状態を回復した。
「・・何・・が、起こったの?」
流石のユイにも何が起こったのかわからなかった。


第1発令所、
メインモニターに残骸となったエヴァ量産機が海中に没して行く映像が映し出された。
ここで、加賀は初めてミスを犯した。
エヴァ量産機の再生能力を甘く見過ぎていた。
量産機は、海中で、その構成物質を全て再生させ、そのまま戦自のステルス艦隊を襲った。
加賀はミスを悔やんだ、後もう一段攻撃すれば・・・
首を振って考えを振り払い、直ぐさま新たな指示を飛ばした。


開戦から2時間後、日本側の艦隊は全滅した。
そして、艦隊は二手に分かれ、それぞれ、相模湾と駿河湾を目指し、量産型エヴァは、直接第3新東京市に向かった。

あとがき
祝!!公開半年!!
と、言う事で、一気に逆行編をエピローグまで公開します。
遂に、シンジとレイが結ばれました。
長かったですねぇ・・・・
いよいよ、量産機戦、勝つのは、どちらか?
シンジとレイは幸せを掴む事ができるのか?

ウィルスに感染してとんでもない事態に陥っていましたが・・・
何とかなったようです・・・多分・・・