復讐…

◆第伍話

 ヤシマ作戦の翌日、シンジはレイのお見舞いに来ていた。
「やあ、調子はどう?」
 レイはベッドに横たわったまま首だけシンジの方に向けた。
「…特に問題ないわ、週末には退院も出来る」
「そう、大したこと無くて良かったよ、あ、これここに置いておくね」
 売店で買ってきたフルーツ盛りを台の上に置いた。
「…用事は何?」
「ん〜、綾波の様子を見に来たんだけど、迷惑だったかな?」
「…別に迷惑ではないわ」
 親しくなっていく過程のレイとの会話…その反応が楽しく嬉しい反面、親しくなった後のレイであれば、どういう反応を示してくれていたのだろう?と考えると、少し哀しくもなってしまう。
 暫くの間レイと会話を交わしていたが、その気持ちが変わることはなかった。


「ただいま、」
 玄関の方からシンジの声が聞こえる。
「おかえり」 
 キッチンでレイラは今日の御飯を作りながら声を返した。
「いい匂いがしますね。何作ってるんです?」
 シンジがひょいとキッチンを覗き込んできた。
「オムライスよ、」
 レイラは良い色に焼けたオムライスを皿に移しながら答えた。
「美味しそうですね」
「もうすぐ出来るから、待ってて」
「うん」


 レイラは自分の部屋でシンジの資料を読んでいた。
「シンジ君、良い子なのに…」
 資料に書かれているシンジとレイラの前でのシンジはいまいち結びつかない。
「私が、ひいき目で見てるだけとは思えないけど…う〜ん」
「…くすっ…、なんだか、私シンジ君のことばっかり考えてる」
 シンジのことが気になる…何でこんなに気になっているのか、単なる同居人、家族という関係からだけなのだろうか?


 ヤシマ作戦から時が流れ、夏休みも明け学校も2学期が始まった。
 シンジとネルフに関しては、小さな事は様々あるが、取りあげて大きいと言うような変化はない。
「シンジ君、朝よ」
 今日もレイラに起こされて目を覚ました。正直、こうしてレイラと家にいると凄く和んでしまう。
 かつて、ミサト達と暮らしていたときも和むと言うことがなかったと言ったら嘘だが、こんなにも心地良いと言うことはなかった。その差は、レイラとミサトやアスカとの性格の差から来ているのだろうか?それともレイラがユイに似ていると言うことから来ているのだろうか?
 長年求めてきた父と母…父には完膚無きまでに裏切られ利用し尽くされた…だからこそ母への思いがより強くなっているかも知れない。そして、似ているレイラにその一端を感じているのかも知れない。
 レイラが出ていった後着替えしながらそんなことを考えていた。
 着替えを済ませて一緒に食事を取り、それから暫くして学校に出かける…それが最近の標準になっていたのだが…ふとカレンダーを見て思い出した。
 もうすぐアスカが弐号機とともにやってくることになる。あのアスカが、
「どうしたの?」
「あ、いや、何でもないよ」
「そう…そう言えば、少し良い知らせがあるんだけど、今日あたり葛城3佐から知らされるかしら」
「良い知らせ?」
「ええ、」
 レイラは秘密よ言ったような表情をしている…おそらくはアスカのことだろう。
 

 学校に着いてからアスカのことを考えていた。
 あのまさにわがままをそのまま表したがごとくの性格…どこが良い知らせなのであろうか?冗談ではない。
 あの時、到底その気持ちを抑えることは出来ず…抑える気もなく、アスカを殺したが…今は、どうでも良い存在かも知れない。全ての根源の奴達に比べれば、所詮愚かな邪魔者であるだけである。
 しかし、ミサトの時もそうであったが、レイラのマンションには部屋が一つ空いている。あそこにアスカが入る…なんて事は到底耐えられる物ではない。
「…どうするかな?」
 今度の使徒はユニゾンの訓練があるため、このままではアスカと組まされることになるかも知れない…そうなったら、必然的にアスカがやってくる。今、レイラとの暮らしは非常に心地良い物になっている。それをあのわがまま娘のせいでかき回されたりなどは絶対にしたくない。
 シンジはアスカへの対策を考えているとトウジが登校してきた。長く姿を見なかったが、あのままずっとであったのだろうか?
「鈴原!一体今の今までどこに行ってたのよ!」
「…そ、それは…」
「正直に言いなさい!」
「…しょ、少年院…や…」
 教室の空気が固まった。
「い、一体、な、何をしたのよ!!?」
「いや…その…難しい話は聞き流し取ったから…わからへん…」
 実にトウジらしいかもしれないが、今となってはいい気味である。シンジは軽く鼻で笑ってから授業の準備をした。


 そして学校が終わった後、ネルフでシュミレーションによる訓練を受け、そして今、会議室でレイとともに待たされていた。
「綾波は聞いてる?」
 軽く首を振る。レイにも知らされていないようである。
 ミサトが入ってきた。まずは今日の訓練のことを労い、その結果を口にする。
 そして、本題に話を移した。
「ドイツで弐号機が建造されていたことは知っていたかしら?」
 レイは頷く…まあ、このくらいは問題ないだろうとシンジも頷いた。
「その弐号機がセカンドチルドレンとともに日本に向かっているわ、来週には新横須賀に到着して、本部に加わる予定よ」
「…セカンドチルドレンですか?」
「ええ、女の子なんだけど、仲良くしてあげてくれると嬉しいわ」
「仲良くなれるような性格なら歓迎ですよ」
 どこか棘があるような口調にミサトは怪訝な表情を浮かべる…そう、仲良くできるような性格ではないから歓迎しないのだ。
「訓練に関しては、弐号機の調整が終わるまでは別々だけど、終わったら3機による訓練を行うわ、これまで以上に複雑な物になるけど、戦力はぐんと増すわね」
 何も知らないからかミサトはどことなく嬉しそうであるが、その予想は必ず裏切られることになるだろう。 


 そして、太平洋艦隊が横須賀に到着する予定の日に緊急の呼び出しを受けて本部に向かった。
 今回、ミサトとの関係がドライだからなのか、それとも司令部の関係があるのかは分からないが、太平洋艦隊にわざわざ出向くと言うことはなかった。
 しかし、使徒が来たと言うことには変わりはないのだろう。
 シンジが発令所に到着したときメインモニターにガギエルと交戦中の太平洋艦隊が映っていた。
 辺りを発令所を見まわすと、碇、冬月、リツコの姿が見えない。代わりに、ミサトの姿がある。
「副司令は?」
 ミサトが青葉に尋ねた。
「連絡は取れません!」
(…あそこにいるのか…)
 サブモニターの一つに弐号機の拡大映像が映っている。
 フリゲートを足場に跳躍して飛び掛かってくる使徒を上手く交わしつつソニックグレイブで攻撃している。
 足場になって船が次々に大破・沈没していくが、上手く立ち回り使徒にかなりのダメージを与えている一方で、弐号機自身のダメージは皆無といえる。
 アスカ一人ならこんなに上手く戦えた。結局シンジが乗っていたから…否、わざわざ自分の力を見せつけるためにシンジを無理矢理載せたアスカの性格がもろに出たと言うことだろう。
 いくら高い能力があっても性格がアレではどうしようもないと言うことだ。
 大破沈没し多くの水兵が海面に投げ出されるのを見て、一瞬、碇や冬月も死んでくれれば…と思ったが、こんな巻き込まれた、半ば事故のような死に方をして貰っても、気が晴れるとは思えない。やはり、それなりの目にあって貰わないと
 暫くの戦闘の後、殲滅に成功したようである。
 発令所内でほっとした息が先ず漏れる。
「副司令たちの確認急いで」
「はい」
 そして、碇の生存が確認されると、ここにいる意味もなくなったためシンジは発令所を後にした。
(いよいよ明日…アスカがやってくる…)
 アスカへの対応も考えておかないといけないだろう…絶対に今の生活を破壊されたくない。
 …しかし、そうすると、ユニゾンを使わずにイスラフェルを殲滅しなければならない…果たして可能であろうか?シンジの能力を全開にしてやれば可能かも知れない。だが、後々のことまで考えるとそれは拙いだろうし、そうなるとかなり難しいのではないだろうか、
(綾波とユニゾンと言う風になるなら良いけど、どうかなぁ…)
 アスカに対してレイは、何となく膜が存在するようなところがあるのだが、アスカとはそもそも比較にならない。あと、アスカと違って、碇達の干渉で作戦期間中の一時的な物はともかくその後の同居は認められないのではないかと言う考えも出来る。しかし 今零号機は修復と同時に改修作業も進められている。前回はこれが完了したのはマトリエルの時…未だ結構先のことになる。果たして、どうなのだろうか…
「確認してくるか」


 零号機は半ば青い新しい装甲に覆われ、随分改装も進んできたように見える。
 マヤが他の技術部の職員達とともに入ってきた。
「あ、シンジ君」
「随分、作業進んでいるんですね」
「ええ、来月には完成するわ。弐号機も来るし、そうしたら3機になるわね」
「そうですね…ところで、全力で完成させるとしたらどれくらいでできるんです?」
「ん?突貫でやれば…10日位かしら?でも、調整とか色々と省くことになるから、出来るかぎりしたくはないわね」
「そうですか、」
 何とかなりそうである。これから、レイとのユニゾンに持っていくようにできる。
 

 翌日、目をあわすなりアスカはシンジに対して敵意の視線をぶつけてきた。
(こりゃいいや、)
 これはシンジの方が上回っているシンクロ率から来る物なのかも知れないし、特に意味はなく単なるライバル心から来る物なのか何なのかは分からないが、これを利用させて貰おう。お互いを敵視しているような状況に陥れば、少なくともユニゾンの訓練を行わされる必要はないだろう。ユニゾンには二人が息を合わせなければ行けないがその前提自体が崩れ去ることになるのだから、
 アスカに対してシンジは更に強烈な敵意…殺意に近いような物をぶつけ返した。二人の間で火花が散っている気がする。
 二人の状況を見てミサトは汗をかいた…これでは、仲良くなどと到底無理そうである。一体何故、この二人は初対面からこんな火花を散らすような状態になっているのか…一つ溜息をついてから仕切り直す。
「紹介するわね、」
「セカンドチルドレン、惣流アスカラングレーよ、宜しくね」
 言葉こそだが、口調と態度は明らかに上から見下すようなもの…やはり、このアスカという存在は相容れない存在でしかない。
「全く…初対面の人間に対してそんな巫山戯た態度をとるのがドイツ式の礼儀なのかな?」
 アスカの眉毛がピクンと跳ねる。
「それとも、単に君が礼儀のれの文字も知らないような社会不適格者なだけかな?」
 完全に挑発している…ミサトは、ああどうしてこんな風になるのよ、と言ったような感じになっている。
「なんですってぇ!!」
「どうやら図星みたいだな、全くどうしようもない奴のようだ…こんな奴が仲間になるかと思うと…」
 かなり大げさに盛大な溜息をつく…アスカの顔が怒りで赤く染まっていく。後もう一押しすれば、ぶちきれるだろう。
「正直言って、こんな味方にすると連携が乱れに乱れて戦力が下がりそうな奴とは、とても組めるとは思えなぁ…まだ、無駄に高いだけのプライドやら何やらがない素人と一緒に戦った方が良いよ全く…」
 あ〜あ、こりゃサードインパクト確定かなぁ〜等とも呟いている内にぶちっと何かが切れる音が聞こえたような気がした。次の瞬間、アスカが一気にシンジに向かって飛び込んできて、旋風を纏ったハイキックがシンジの脳天に向けて放たれる。ミサトの制止も間に合わない。かつてのシンジならこれでノックアウトであっただろうが、今は違う。
 シンジはにやり笑いを浮かべながら、そのハイキックを避けつつアスカの鳩尾に拳を叩き込んだ…かと思ったのだが、少し離れた位置にいた耕一が間に入って両者の攻撃を受け止めていた。
 予想外のことに驚きがもろに表情に出る。
「全く…仲間割れは止めて欲しいものだな、」
 耕一は2人の手と足を開放した。
 アスカは耕一の顔をじっと見詰めている…アスカにとっても相当に予想外のことであったようである。
 暫くして、思い出したかのように又シンジに敵意をぶつけてきたのでこちらもそれに応じぶつけ返す。
 部屋の中でいくつか溜息が漏れる。
「…敵の敵とは…協力しても良いんじゃないのか?」
 この瞬間…2人の脳裏に使徒と協力して相手を叩き潰すと言った内容の事が映らなかったと言う事を祈るものもいたかもしれない。
 もう一人のチルドレンであるレイは、これだけのことがあったのだが終始黙ったままであった。


「え?シンジ君が?」
 今日の顔合わせに出ていた蘭子から一件のことを聞きレイラは驚いていた。確かに、報告書にはシンジの学校での様子なども書かれていたが、普段のシンジの様子からは何故シンジがこんな様子になっているのか分からないと言ったような感じだったのだが…
 あまりにはっきりとしている今日の行動…いくらアスカの方から挑発をしたとは言えそれを更に煽るような事をする人間には思えなかったのだが…
「シンジ君、良い子なはずなんだけど…」
「貴女の前だから、何じゃない?」
「それ、どういう意味?」
「さぁね」
 蘭子は答えを濁しレイラが入れた紅茶に口を付けた。
「蘭子さんはいつもそうなんだから、」
 レイラはぷいと横を向いて、同じく紅茶を飲んだ。
 何にせよシンジとこの事について少し話してみなくては行けないだろう。


「シンジ君、今日惣流さんと会った時のことだけれど…」
 一端間をおいてシンジの反応を見る…シンジは聞かれたく無いなぁ、と言ったような感じの表情をしているのだが、ここはやはり聞いておいた方が良いだろう。
「そんな煽るような事をする必要があったの?」
「そんな事してないですよ」
「そう、まあ良いわ。彼女に言ったことは本心なの?売り言葉に買い言葉というのなら未だ分かるけれど、そうじゃないわね」
 そんなに言いにくいことなのか、どんどんシンジが困ったという表情を強くしていく。
 答えを言うのを待つ…暫くして口を開いた。
「…ああ言った態度を見て我慢できなくなるんです。全部が本心って訳じゃないです…」
「そう、」
「……今日のことは反省してます」
 どこか、後悔しているようでもあるのでこれで良しとする。
「分かったわ。今度からもっと気を付けてね」
「…はい、」


 シンジは湯船に浸かりながら今日のことを振り返っていた。
 アスカのことは急ぎすぎたかも知れない…あるいは方法を間違えたかも知れない。アスカとのユニゾンは防げたとしても、今回の行動は、話を聞いただけのレイラにもあからさまに不可解に思われてしまった。直接見ていた者はなんと思ったであろうか?
 家族であるレイラだから、不可解に思った…そう思いたいところだが、難しいかも知れない。
 これも又少し疑問ではあるのだが、そもそも、かなり不可解な存在であるはずなのである。例えば、ミサトがチルドレン監督日誌を付けていたように、何らかの形でレイラから司令部への物があっても良いかも知れないが、今のところそう言ったものやそう言ったものが存在するような雰囲気はない。単にレイラがミサトのような無能…と言うよりもずぼらではなくやり手と言うこともあり得るが、そう言ったものはないとはっきり言える気がする。
 根拠はまるでないのだが、レイラはそんなことをしていないと…信じているのかも知れない。何故かと聞かれてしまったりすると辛いが、ユイにそっくりというのが影響しているのかも知れないし、あるいは又違うものが影響しているのかも知れない。
 だが、下手をしてしまったとき…レイラにその様な任務が与えられてしまったらどうなるだろうか…今の非常に和める雰囲気が崩壊してしまう気がする。何のために
「何とかなって欲しいなぁ…」
 溜息混じりに思いと言うよりも願いを口にした。


 1週間後、イスラフェルが現れた。
 現在耕一は出張で日本にはいない。
 今、ウィングキャリアーで初号機と弐号機が迎撃地点に向けて空輸されているが…先ほどから、アスカが回線越しに色々と言ってきている。
『アンタだけには負けないからね!!絶対に!!』
 何を考えているのか知らないが、使徒に勝つことよりもシンジに勝つことの方が重要であるようだ。
使徒と戦っているのはあくまで生き残るため…だが、アスカにとってはそうではない。二人の間がこういう関係になってしまったのにはシンジにも責任があるとは言え、ここまで来るとむかつかずにはいられない。
 冷静にならなくては思わぬミスをしてしまうかも知れない…このままアスカの言っていることを聞いているのは得策ではないと判断し回線を切り、イスラフェルのことに集中することにした。
 やがて海岸に到着し、投下される。着地すると直ぐに既に待機していた部隊などがアンビリカルケーブルを接続した。
「目標は?」
『もうすぐ現れるはずよ…お願い』
 このお願いは、倒すという意味だけでなくアスカとあわせてと言う意味も含んでいるが、前者は当然だが後者はちょっとごめんであり、特に答えを返さなかった。
 ミサトとアスカがなにやら言い争っているのが聞こえてくる…どうやらアスカが先行させろと言っているようだが…シンジにとってはある意味ありがたい事である。
「ミサトさん、構いませんよ、別に…僕の目的は活躍する事じゃなくて、生き残ることですから」
 その事をやんわりと伝えているようだ。
『じゃあ初号機は装備をスナイパーライフルに変更、バックアップに回って、』
 これはシンジとってほぼ理想的な展開である…シンジはひそかににやりと笑った。


 暫くして海面に水柱が立ちイスラフェルが海面に姿を表した。海面に現れた使徒に向かって初号機はスナイパーライフルを連射する。
 弐号機は水中のビルを足場にして跳躍し、一気にソニックグレイブを使徒に振り下ろし真っ二つにした。
 得意そうに弐号機が初号機を振り向いた瞬間、二つに分かれた使徒其々分離し2体になった。
『何ですって!!』


 作戦部の視聴覚室で、反省会が行われている。
「本日午前11時7分、目標甲の攻撃により弐号機沈黙」
 マヤが説明を続けているなか、弐号機が海中に逆さになって沈んでいる写真が映し出された。
「初号機との戦闘を続けるも、異常な再生能力により有効なダメージはなし」
「午前11時24分をもってネルフは作戦指揮権を断念、国際連合第2方面軍に移行」
 NN爆雷投下の映像が流された。
「同27分、新型NN爆雷により目標を攻撃」
「また地図を書き直さなきゃならんな」
 冬月がぼやき、焦げた使徒の写真が映し出された。
「これにより目標の構成物質の28%の焼却に成功」
「E計画責任者のコメント」
『無様ね』
「…倒したの?」
「足止めに過ぎんよ、再度侵攻は時間の問題だな」
「これからどうする?」
 シンジが尋ねる。
「ある程度時間が出来たので、その間に対策を考え実行…と言うのが妥当ですね」
「基本的にはその通りだろう。出来るかぎり早く対策を考案したまえ」
 冬月はそう言い残し、視聴覚室から出ていった。


 日本に向かう機の中で今回の使徒戦の報告を受けた。
「お父さん、使徒戦の報告が来たわ」
「そうか、どうなったかな」
 二人は報告書を読む…シンジとアスカの不仲に二人とも顔を顰める。
「使徒が厄介な能力を持っているようだが…それ以上に深刻そうだな」
「…そうみたいね…」
「帰ったら、何か対策を考えないと拙いな」
 レイラは頷いた。
 

 レイラ達が本部に戻ると作戦部の会議室に呼ばれた。
 作戦に関する相談があると言うことである。
 ミサトが今回の作戦案に関して説明する。エヴァ2機を使ったユニゾンによる殲滅…これが最適な方法であると考えられる。その他の方法としてもいくつか作戦案はあるが、どれも、時間的・技術的にそれよりは劣ると言うことである。
 但し、そのユニゾンに根本的な問題がある。シンジとアスカでは、どう考えてもユニゾンは極めて難しいとしか言いようがない。対するシンジとレイでは、零号機の改装に全力を注がなければならないがかなりきわどく、中途半端な状態で戦闘を行わなければならない可能性がある上に、その時は弐号機の修復は完全に諦めなければ行けない。
 そしてアスカとレイの組み合わせは、零号機と弐号機両方の作業を時間内に終わらせるのは不可能であることからこれは選択肢と出来ない。
 際どい問題だけに、耕一の意見が欲しいと言うことである。
「二人はどう言っている?」
「はい、碇副司令、冬月部長ともに、シンジ君とアスカの組み合わせを支持しています」
「最大の理由は、今後を考えると、二人の関係をこの機会に何とかしたいと言うことと、ここで、アスカが仲間はずれとされた場合は、その後のアスカの精神状態が極めて心配であるからと言うことです」
「ふむ、確かに正論だな…だが、二人のユニゾンは可能なのか?」
「何とも言えないです。二人の関係は最初から劣悪でしたが、反面、長い付き合いがあるわけではありませんから」
(シンジ君、なんでそんなに酷く当たるの?貴方はもっと上手くつきあえる人間だと思うけど…)
「マギは、条件付き賛成が2、条件付き反対が1と際どいところです」
「何とも参ったな…もう少し様子を見てみたいところだが、そうも言っていられないし…」


 シンジがミサトかレイラがレイを連れてくるのをマンションで待っていると…レイラがレイを連れて帰ってきた。
「お帰りなさい…綾波?」
 分かっていて疑問そうな声を出す…最近役者だなぁと思う。
 レイラから説明を受ける。レイは既に受けていたようであったが、
「暫くレイにはここに泊まって貰うけれど、良い?」
「ええ、良いですよ」
 泊まるであって、ここに引っ越してくると言うことではなかった。よく考えたらアスカと違い、とんでもないところであるとは言えレイは住居を持っているのだから引っ越してくる必然性もない。一時的なもので、シンジの望んだ形に近い。
 シンジは心の中でガッツポーズをしていた。