再び

◆第21話

 いよいよ、明日が第拾六使徒襲来の日である。今日はそれに備えて万全の状況を揃えておかなければならない。
 普段よりも早めに起きて身支度を調えた。前のようなことにはしない。絶対に……そう決意を新たにして部屋を出る。
「おはようございます」
 丁度レイがテーブルを拭いているところだった。
「ええ、おはよう」
「あれ?ミサトさん今日は早いんですね。何かあるんですか?」
 冷蔵庫から食材を取り出していたシンジもそんなこと言ってくる。
「えぇ〜?私って何か無いと早く起きちゃいけないわけぇ?それってちょっと酷くない」
「あ、いや、そう言う意味じゃ……」
「ま、いいわ。シンちゃんもおはよう」
「はい、おはようございます。直ぐに朝御飯作りますね」
「美味しいの期待しているわよ〜」
 と言っても、今日ではないが何かあるから早めに起きたと言うことは事実であった。そう言うわけで渋い顔をすることになったミサトを見てレイは小首をかしげていた。

 
 三機が連携して火力集中ポイントに使徒を誘導する訓練がシミュレーターで行われている。
 使徒はマギが勝手に作り出した使徒で、明日現れる使徒とは随分姿形も能力も違うが……
「どう?」
 脇の日向に尋ねる。
「そうですね。よほどの場合以外は誘導そのものはできていますが、それでも火力が通用するかどうかは使徒の能力次第でしょうね」
 あの使徒の強さはどうなのだろう?通用する程度の能力であってほしい。
「三人の連携については?」
 今度はマヤに尋ねる。
「それについては問題ありません。弐号機の能力が突出していますが、上手く他の二機にあわせています」
「なら良いわ、あと一本やったら休憩にしましょうか」


「お疲れ様」
 更衣室から出てきたシンジにスポーツドリンクを声を掛けながら差し出す。
「ありがとうございます」
「二人も出てきたら一緒にお昼にしましょう。頑張った御褒美に何でも奢るわよ」
「本当ですか?」
「ええ……でも、職員食堂に限るわよ」
「ちぇっ」
 いつの間にか出てきていたレイとアスカの内アスカが舌打ちをする。
「昼からフレンチのフルコースとか頼まれたら冗談じゃ済まないわよ。さすがに」
「ふ〜ん。じゃあ、夕飯なら良いのね。みんなミサトがフルコース奢ってくれるって」
「ってそう言う意味じゃないわよ」
「何よ〜太い腹して、太っ腹じゃないのねぇ」
「な、なんですってぇ〜!」
「まあまあ二人とも、それよりも混む前に早く行こうよ、」
 シンジが話を切り上げさせて、みんなで職員食堂に向かうことになった。
(でも……今日くらいは良いかもね)
 通路を歩きながら三人をフルコースに誘おうと決めた。
 

 そしてついに当日……あの時は、第3新東京市を離れていたが、今回は本部の自分の執務室で事務処理をしながらその時を待っていた。
 しかし、どうにもいらいらとしてしまい、何もはかどらない。
 そんなわけで眉間に思い切り皺を寄せているところに日向がファイルを持って入ってきた。
「失礼しま……葛城さん何かありました?」
 挨拶を途中で止めてしまうほどになってしまっていたのか……
「何かあったって訳じゃないけれど、何をするのもはかどらなくてね。悪いけれど、何かいれてくれるかしら?」
「わかりました。コーヒーで良いですか?」
「ええ、ありがとう」
 そして、日向が入れてくれたコーヒーを飲みながらさっき持ってきてくれたファイルを開ける。
 しかし、どれだけも読まないうちに警報が鳴り響いた。
(来たわね)
「葛城さん!」
『第拾六使徒と思われる正体不明の飛行物体が本第3新東京市に向かい侵攻中!』
「行くわよ」
 日向とともにすぐに部屋を出て発令所に繋がる通路を早足で進む……ミサト達が発令所に入ったときはまだ映像情報も入っていなかった。
 ややあって碇と冬月の二人が司令塔に姿を現し、その直後映像が入ってきた。
 海上を進むリング状の使徒……間違いなくあの使徒だった。
「目標到達まで800!」
「国連軍に威力偵察を要請して」
「了解」
「エヴァぁは?」
「三機とも400秒で出撃可能です」
「作戦案は、B−5でしょうか?」
「ええ、支援兵器の配置を、それとエヴァぁにはシールドを持たせて」
「了解」
 リツコが発令所に入ってきた。
「これが目標ね」
「そうよ」
 使徒が上陸し、要請通りに空自の航空機が攻撃を仕掛け始める。
 重ミサイルも直撃するが、やはりATフィールドを前にダメージらしきものは与えられないし、反撃もしてくれなかった。
「やはりATフィールドですね」
「それは仕方ないわね。作戦の予定に変更は無し、このまま実行するわ」
 サブモニターにエヴァに搭乗した三人の顔が映し出される。
「作戦の概略をモニターに出すわ。火力集中ポイントに誘導し、ATフィールドを中和。後は支援兵器がやってくれるわ」
『エヴァはシールドなわけ?』
 アスカが聞いてくる。
「ええ、相手の攻撃方法も良くわからないし、今回は安全策をとることにしたわ」
『そっか、分かったわ』
 と、言いつつも少しつまらなそうにしている。前よりも勝利への拘りは少なくなっただろうが、逆に手に入れることができた圧倒的な力を実戦で使いたかったと言うようなものがあったのだろう。
「各機射出口に移動します」
「みんな、必ず無事に帰ってきてね」
『何心配してるのよ、大丈夫よ。ねぇ、二人とも?』
『うん』
 レイも頷く……少し心配しているというのが表に出すぎていたか、指揮官がこれではないけない。
「私も、最善を尽くすわ」
「目標は?」
「間もなく外輪山を越えます」
「では、各機発進」
「了解」
 三機のエヴァが射出され、作戦マップに作戦ポイントとその周辺の地図と情報が表示された。
「配備順調です。稼働率は9割以上を見込めます」
「あとは、実行に移すだけね」
 使徒が近付いてくる……
「作戦開始!使徒を誘導して!」
 三機のエヴァが中和距離まで近付き、三機を取り巻くVTOLやヘリなどが攻撃を仕掛ける……爆煙で使徒が見えなくなると拙いので煙がでにくいタイプの兵装を使うように指示してある。
 攻撃は利いているようには見えなかったが……使徒は空中で静止し、二重螺旋が一本に合わさる。
 そう、次は紐状になって突っ込んでくる。
「待避して!!」
 リングの一カ所が切れて紐状になった使徒が一番前にいた弐号機に襲いかかってきたが、アスカはひらりと回避しシールドでぶん殴るおまけを付けて作戦ポイントの方に下がった。
 最初は上手く躱せた。少々余計なことをして冷や冷やさせられたが、実害はなかったから良しとしよう。誘導の実行中にお小言を言うのは非常に良くない。
「誘導順調です」
 今までのとろとろとした動きから一転、結構な速さになっているが、攻撃を避けたりシールドで凌いだりするのには十分な程度であった。
「間もなく作戦ポイントです」
「リツコ。頼むわよ」
「全力を尽くすわ」
 攻撃中使徒の姿が見えなくなるが、各種の反応から使徒の状況をリアルタイムで分析し表示する。その役目をリツコ達にお願いした。
 使徒がポイントに達した瞬間、全ての火力が一斉に注ぎ込まれた攻撃が始まった。
 瞬時に光と煙の中に使徒の姿が消えるが、リツコがコンソールを叩き始めると、マギが作った仮想的な映像がメインモニターに表示された。荒いパラパラ漫画のような動きだが、中和距離内で陽電子砲や大口径砲を含む猛攻撃を受け使徒がのたうち回っている様子が映し出されている。
「利いているわ!続けて!」
 そんなのが十数秒続いただろうか……しかし、突然使徒の姿が消えてしまった。
「……え?」
 何があったのかとリツコに目を移すが、リツコは眉間に皺を寄せてコンソールを叩きまくっている。何があったと言うのだろうか?
「攻撃止め!エヴァは待避し、目標を確認して!」
 やがて煙が晴れてきたが、使徒の姿は見えなかった。
(どうしたというの?)
「警戒して!どこから出てくるか分かったものじゃないわ!」
「ひょっとしたら、地面に潜ったのではないでしょうか?」
「なるほど……下やビルに警戒して!」
「拙いわよ!」
 突然リツコが叫ぶ。
「どうしたの?」
「分からない!?地面に潜ったと言うことは!」
 リツコが早口で説明しようとしたとき警報が鳴り響いた。
「何?」
「射出口に侵入者です!おそらく使徒と思われます!」
 使徒はここへ向かっている……エヴァを放って置いてインパクトを起こすつもりと言うことか。
「緊急回収!ジオフロントに繋がる射出口以外閉鎖!ジオフロントで迎え撃つわ!」
 直ぐに指示通りにエヴァが高速回収され、シャフト内の隔壁が選択的に閉じられていく。敢えてふさがっている隔壁をぶち破って本部内に直接侵入してくると言うことがなければいいが……
「又、目標が消えました!!」
「何ですって?」
 センサーが働かない場所……この場合はシャフトから地中に移動したと言うことか、しかし何のために?
「各機回収中止緊急射出!!!!」
 ひらめいた瞬間に叫んだ。日向が指示を実行に移してからどうしてか尋ねて来たが、ミサトが答えるよりも早く答えが示された。
「使徒が零号機のシャフトに侵入しました!!」
「追いつかれます!!」
 加速が間に合わない……零号機から送られてくる情報で使徒がぐんぐん迫ってきているのが分かる。
「レイ!!」
 零号機はシールドをシャフトを昇ってくる使徒に向けて投げ付ける……それで使徒を一時的に遠ざけることができたが、再び迫ってくる。
 零号機の位置からして地上まで間に合うかどうかは微妙……
「ストッパーは外して!間に合ったら、射出口からでた使徒に集中攻撃!」
 しかし、間に合わなかった。
『きゃあ!』
「使徒が零号機の足首から侵入してきます!!」
「生態融合を仕掛けられています!!」
 過程は違ったがこのままでは同じ結果になってしまう。
「……ミサト、」
 リツコがミサトの耳元で小さく囁いてきた。あの時言っていたことを実行しろと言うのか?
 レイを自爆させろと?……そんなことできるはずがない。
「司令、レイ・零号機の自爆による殲滅を提案します」
「「「なっ!!?」」」
 突然のとんでもない提案に声を上げたのはミサトだけでは無かった。
「生態融合され、すでに基幹パーツまで犯されている以上零号機は破棄するしかありません。ならば、自爆させ、使徒の殲滅をはかるべきです。ですが、ATフィールドが無ければ、自爆であっても倒せる可能性は低いものとなってしまいます。これ以上に戦力の喪失はさけるべきです」
「リツコ!!」
「黙ってなさい!!」
『そんなのだめだよ!!!!』
 そう叫んだのはシンジだった。
(回線がオープンになってる!!?)
『碇、君……』
『綾波早く逃げるんだ!!』
(まさか!!!?)
 リツコの方をきっと睨み付けるが……リツコは否定はせずに無言で肯定した。
『……』
『綾波?』
 今もなお浸食され続けている零号機が郊外に向かって走り出す。
『綾波!!!!!』
「レイ!!」
「レイ!!やめなさい!!」
『……私が死んでも代わりはいるもの』
 レイの顔はひどいものである……涙もこぼして、今レイが呟いた言葉は、掛けられた制止の言葉に対する返答ではなく、自分に言い聞かせるためのものにほからならない。
「初号機射出口をよじ上っています!」
『綾波!!!今行く!!』
『来てはだめ…』
『何を言っているんだ!!』
『碇君、あなたは私が守る。絶対に』
「零号機自爆装置作動!!!」
「止められないの!!?」
「無理です!!」
 日向が必死にキャンセルしようとしているが、上手く行っていないようである。
「プラグを強制射出!!!」
「だめです!!零号機の方でロックされています!!」
 万が一に備えて強制射出をする系統は増強しておいたはずなのに、
「レイ……」
 いったいどうすれば?また為す術もなくこうしてモニターの前で立ちつくしていろと言うのか?それならば、いったい何のためにこうしてやり直していると言うのだ?
「綾波!!!」
「レイ!貴女が死んだらシンジ君がどれだけ悲しむと思っているの!!」
 あの時、シンジは涙すら出ないほどに悲しんでいた……けれど、今の二人の結びつきはあの時よりもずっと強い。あの程度ではすまなくなってしまう。ここでレイを死なせてしまったら、全てが潰えてしまう。
 シンジが悲しむと言うことを出すと、レイが戸惑う表情を浮かべた。
「初号機地上に出ました!」
 零号機は郊外の山陰で静止している。とても間に合わない…
「レイ!お願いだから脱出して!!」
『碇君、今までありがとう』
『綾波〜〜〜!!!』
「3,2,1,」
 モニターが一瞬真っ白になって砂嵐状態になる。そして衝撃と振動が発令所をおそった。
 無力感に脱力しきっていたミサトはそのまま地面に倒れることになった。
「……どうして、どうしてよ……」
 無念さ、悔しさ……そう言ったものがあふれている。それがあまりにも強かったから、誰もミサトに声をかけたり、立たせたりするようなことができなかった。


 ヘリコプターで爆心地の上空を飛んでいる。
(……レイ……)
 クレーターと化した爆心地……零号機の残骸が見える。
 その残骸に向かって降下しているときに無線が入ってきて、日向が取った。
「え?本当か?」
「葛城さん!!」
「……どうしたの?」
「レイが発見されました!!」
「え!!?」
 一瞬その報告に驚き、そして喜びかけたが……あの時も似たようなことがあったことを思い出して、逆に思い切り気分が沈んでしまった。
(そうだったわね……)
 あの時よりも早いが、リツコに話しておいたせいなのだろう。自爆させた後、すぐに替わりを使えるように……


 本部に戻り自分の執務室に入ると今回の戦闘の被害報告の速報が届いていた。
 軽く目を通したが、結構それなりの被害が出ている。
 とは言え、あのときは第3新東京市が消滅してしまったのだから、それに比べれば雲泥の差ではあるが……
 零号機はロスト……搭乗者・ファーストチルドレン綾波レイは重傷で中央病院に収容。
 とりあえず、もう少し情報が集まってくるまでは、取り立ててすることはないが、かといって病院に足を運ぶ気にはなれなかった。
「……こんな時こそ、飲みたいわねぇ」
 とは言え、本部の中で飲むわけにはいかないし、今外に飲みに行ったり家に帰って飲んだりと言うことができるはずもない。
 とりあえず、他のものでごまかすことにして自動販売機コーナーに向かった。
 そして、自動販売機群を前にして何を飲もうかと考えていると、リツコが通りかかった。
「……まだ病院には行っていなかったのね」
「行く気になれるはずがないでしょ?」
 確かにリツコがとって手段は、大勢的に見れば最善の方法だったのかもしれない。しかし、それがどうであれ、たとえ事前に言われていたとしても、ミサトにとって許容できるものではない。
 そう言った意味を込めての言葉だったのだが……リツコは少しきょとんとした表情を返してきた
「……どうしたの?」
「なるほどね……ミサト、レイは生きているのよ?」
「へ?」
 リツコがわざわざ言うと言うことは……まさか!!?
「まだ、目を覚ましていないけれど、早く行ってあげれば?」
 リツコの言葉の途中で駆けだしていた。
 しかし、病院への連絡通路を走っているうちに、嬉しさの中から疑問がわいて出てきた。
 リツコがああ言っているのだから間違いはないだろう。だが、どうやってレイは助かったというのだろう?
 プラグの射出は確認されていない。自爆の瞬間までレイは零号機の中にいたはずである。
 考えながら走っていたのだが、レイが助かった理由に思い当たると、自然足が止まってしまった。
 これは、シンジやアスカではなく、レイだからこそ助かったのである。
 けれど、それはそれだけレイ自身が死にたくなかった……生きたかったと言うことでもあるが……


 レイは集中治療室に入れられていた。
 ガラス越しにレイのベッドの周りで医師や看護婦が色々としている様子が見えていて、シンジがそのガラスにぴったり張り付いて中に様子を見守っていた。
 そっとシンジの隣に並ぶ、
「レイ、無事だったのね」
 シンジはうなずきで返した。
「レイが助かったのはシンジ君のおかげなのかもね」
「え?どういうことですか?」
「シンジ君と一緒に生きたかったんでしょ」
 そう言うと恥ずかしくなったのか顔を赤らめてうつむいてしまった。
 医師が中から出てきたので頭を下げる。
「彼女についてですが、一月もせずに退院もできるでしょう」
 その程度ですんでいたと言うことで、二人そろって喜ぶ事になった。
「ミサト、遅かったわね」
 自動販売機か売店にでも行っていたのだろう、二つ缶ジュースを手に持ってやってきたアスカがそんな事を言う。
「ごめんごめん。色々とあってね」
「まあ、作戦の責任者だから仕方ないか」
「やっぱり、大変なんですか?」
「ま、ちょっちね。でも、やることは済ませてきたし、今夜は、無事に使徒を倒せたって事と、レイが無事だったお祝いって事で、いっちょ、ぶあ〜っと行きましょうか」
「良いわね」
「うん」
 二人とも乗り気で、ミサト自身も本当にお祝いをしたい気分である。……財布の中身が寂しいが、それは貯金を下ろしてしまえば良いだろう。そうと決まったら、早速銀行に行かなければ、
「それでは、レイのことをよろしくお願いしますね」
「はい、」


 そして、次の日には集中治療室から通常の病室に移される事になった。
 病室にはヒカリの姿も見える。
「無事で良かったね」
「ありがとう」
「いや〜、ホント良かったわ、」
 アスカにも微笑みを返す。
 シンジやミサトは当然だが、アスカやレイ自身も凄く嬉しそうであったのだが、ヒカリだけは少し微妙な表情をしていた。
 喜んではいるのだが、何かあるのだろうか?もうすぐ第3新東京市を離れると言っていたが、そのことだろうか、
「ところで、この美味しそうなフルーツ盛り誰が持ってきたの?」
 アスカがあたらしい話を振ったことで、考えを切られてしまった。
 それはミサト達が来るよりも早くお見舞いに訪れていた人からのものだろうが、確かにミサトが持ってきたものよりも美味しそうで、棚に置いたときに見劣りしてしまってちょっと嫌だったものである。
「司令が持ってきてくれたの」
 どうやら先客は碇だったようだ。
「へぇ、司令がね」
「そっか、父さんが……切ろうか?」
「ええ」
「じゃ、早速もらうことにしましょうよ」
 と、言うことで、シンジが早速切り分けてみんなで食べることにした。
 その時に、シンジにレイに食べさせてあげれば?等と言ったり、からかったりもしていたのだが……ヒカリの微妙な表情が変わることはなかった。


 レイと話をするために、夜にまた病室を訪れたのだが、ちょうど先客がドアをたたいているのを見かけることになってしまった。
 ヒカリがドアを開けて中に入っていく……
 ずいぶん真剣な表情だったが、レイにどんな用だったのだろうか?
「……また、今度にするか」
 昼からああだったのだ。ヒカリとの話がどれだけのものになるのか分からない。自分は良いとしても、レイにあまりに夜遅くまで話をさせるわけにはいかないだろう。
 今日のところは帰ることにして、明日また来ることにした。