リリン

第13話

◆それぞれの資格

作戦部長執務室、
ミサトは部屋に戻った後、ネルフとリリンについて考えていた。
自分も含めて、ネルフ上層部は、使徒をでは無く、リリンに、に執着している。政治問題も有るだろうが明らかに過剰な反応である。
対立も、もはや敵対と言っても良いほどの者である。前世紀の米ソの冷戦にも似ているところもある。
どうして其処まで対立する必要があるのか?同じ目的、それも人類の命運が掛かっているのならば共同作戦を展開すれば良い、いや、むしろそうしなければならない。実際ネルフの中層や下層部はリリンを快く受け入れている者がいる。
対抗心は持っているが、少なくとも、敵対心は持っていない。
敵視しているメンバーを考えてみると、全て上層部、全てミサトよりも上の立場の者である。
セキュリティーが上・・・それは、何かを知っているからと言う可能性が有る。
それは何か、少なくとも、公にできるものではない。
そして、それが、リリンとは相容れない為に対立せざるを得ない・・・いったい何が?
それは使徒との人類の命運をかけた戦いよりも大事・・・それはありえない、それがいかに重大なものであっても、人類の命運よりも・・・・・・
まさか・・・使徒との戦いは人類の命運をかけた戦いではない・・・
サードインパクトの発生は嘘?
使徒は敵ではない?
では・・セカンドインパクトは?
あれは、使徒によって引き起こされたものでは・・ない・・
では、人為的に?
それを隠そうとしたのは・・・
第1次セカンドインパクト調査団団長、碇ゲンドウ!、現ネルフ総司令!
隠そうとした組織がゲヒルンそしてネルフ!?
では、セカンドインパクトを起こしたのは?
最後の回答に辿り着く直前に呼び出し音が鳴り、ミサトの思考は中断された。
『葛城2尉、間も無く時間です』
「・・分かったわ、今すぐに行くわ、」
ミサトは一旦この思考を凍結し、作戦に集中する事にした。


第3新東京市、七号機、
レイラは、じっと作戦の開始を待っていた。
『使徒、降下を開始!』
『作戦スタート!!』
レイラはアンビリカルケーブルを切り離し、全速力でマギの誘導に従い、サハクィエル目指し駆けた。


ジオフロントの中央で初号機は待機していた。
中にいるシンジもレイも、レイラやアスカの事を心配していた。
そして、自分達の出番が来ない事を祈った。
ネルフの作戦が成功する事を
『サハクィエル、現在のところ変化は見られません』
『六号機、直上に落下します』
シンジは少しほっとした。
シンクロ率100%のカヲルと六号機ならば、何とかなる可能性は各段に上がる。
少なくとも他のエヴァが到達するまでは持つだろうと、
しかし、レイの方は何か嫌な予感を感じ、ホッとできないでいた。


ネルフ本部、発令所、
完全に六号機の守備範囲内であることが分かり、皆、作戦は上手く行くと確信していた。
「おっしゃ〜!9th死んでも受け止めなさいよ!!」
只一人、碇だけは、冷静にモニターに写るサハクィエルを見据えていた。


リリン本部、発令所、
「これは、どうでしょうね・・」
「・・スーパー化していないと良いのですが・・」
司令塔の二人は、モニターをじっと見詰めた。
ジュンコ他、技術系の職員はサハクィエルのデータを分析している、現在までのところ異常な数値は観測されていない。
ただ、ジュンコは、他の職員よりも集中して表示される膨大なデータを見詰めている。
レイや司令塔の二人のように嫌な予感を感じているのだ。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一は、ガラス越しに、第3新東京市を目指し落下していくサハクィエルを見詰めた。
部屋の中央にある空間ディスプレイには膨大なデータが表示されている。
「・・会長何か?」
耕一の場合、嫌な予感では済んでいない。
一歩進んでスーパー化していると確信している。
だが、何故、そう思うのか、そして、スーパー化しているとしたら何が変わっているのか・・
それが分からなければどちらにしても意味は無い。
耕一は考え込んだ。


第3新東京市、六号機、
カヲルは真上のサハクィエルを見詰めた。
「・・・どこか違う気がする。」
自分の知っているサハクィエルとは違う気がする。


ネルフ本部発令所、
『何か嫌な予感がするんですが』
「今更弱音吐くな!!アンタは作戦を実行すれば良いのよ!!」
報告したカヲルを一喝した。
「・・何かおかしい・・」
レイはリリスの力、カヲルは使徒としての知識、ジュンコはその頭脳で、碇は策謀、蘭子は経営・経済戦略、榊原は戦略・戦術でそれぞれ培ってきた経験から、今のサハクィエルの単調過ぎる行動を不審に思っていた。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
(もし私が使徒ならばどうする?)
(・・・最も、人類が受ける被害が大きい行動は?)
(第3新東京市を大きく外れて全てを爆発力に変え、日本を消滅させる)
(だが、これは、使徒がそれぞれ一個の存在である以上不可だ・・・)
(・・・・分からん・・・・)
(では、シンジ達の歴史ではどうだ?)
(・・・・3機のエヴァの中央を突くか・・・それが普通の行動であり、事実そうなっていた)
(私ならば、一番弱い零号機を直接狙う、そうすれば、他の2機が到達する前に破壊し、消滅させる事が可能だ)
(・・・これも同じか?)
(・・・そうか、六号機を破壊する自信があるわけか・・・)
(方法は?)
(・・・・・)
(恐らくは・・・ATフィールドだな)
「・・間違い無いな、回線をリリン本部に回せ」
「はい」
ミユキは直ぐに回線を繋いだ。


第3新東京市、リリン本部、発令所、
「間も無くです」
「会長からです」
発令所に緊張が走った。
「はい」
『蘭子、サハクィエルはスーパー化されている。そして、その強化されているのは、ATフィールドだ』
司令塔の二人は考え込んだ。
「会長、どう言う事ですか?」
ジュンコが尋ねた。
「シンジ君、サハクィエルはATフィールドを強化しているわ」
『何ですって!?』
「七号機に回線を繋げ!」
ジュンコは戸惑った。
耕一からは何も説明は無い。だが、二人は、耕一の言った事が事実だとして動いている。
これは、ジュンコが、科学者であり、論理的に組み立てられなければ納得しないと言う事もあるが、耕一の元で長く働いて来た二人は、耕一を全頼しているのだ。
事は一刻を争う、根拠を聞いている時間など無い、
「マギによって回線は遮断され繋げれません!!」
「飛龍博士!!マギをハッキングして下さい!!」
「し、しかし!!」
ジュンコは急展開に付いて行けない、そんな事をすれば、切り札を一つ失う。
「急いで!!」
耕一の方もいちいち根拠を説明して集中力を削ぐような事はしなかった。
ジュンコは軽く首を振って、裏コードを組みこんだプログラムを使った。
この前仕掛けたばかりの切り札なのに・・・とも思いながら・・・


ネルフ本部、発令所、
『人工知能カスパー及びバルタザールより、七号機に関する全ての情報回線をリリンに移行する事が提訴されました』
「な、なに!?こんな時に!!」
リツコは手元のモニターを覗き込んだ。
「母さん!!」
メルキオールのみが反対、カスパーとバルタザールは絶対賛成である。
『可決、可決、全回線をリリンに移行します』
「むぅ」
ミサトは首を振って今は考える事を止めた。
「落ち着きなさい、他のエヴァがあるわ!!作戦は続行!!」


第3新東京市、七号機、
『レイラ様!!サハクィエルはATフィールドを強化しています!!危険ですお逃げ下さい!!』
榊原は回線が繋がると同時に叫んだ。
サハクィエルは雲を突き破りその姿の全てを表した。
「だめ、私はもう逃げない」
『レイラ様!?』
レイラは回線を切った。
「シンジ君、私はもう逃げない!」
七号機はサハクィエルの下に入った。


六号機、
「え?」
カヲルは異変を感じ取った。
サハクイエルが赤い光に包まれた。
「何だって!!」
尋常でないほど強力なATフィールドである。
「くそおお!!」
カヲルは、六号機と自らのATフィールドを全開で張り、共鳴させた。
ATフィールド同士が接触した。
「ぎやああああ!!!」
瞬間的に、六号機が凄まじい重圧を受け、パーツが次々に砕け散り、カヲルの全身に激痛が走った。シンクロ率100%、実際に四肢の組織が破壊されるのと同じ激痛を受ける。


ネルフ本部、発令所、
「何ですって!!」
ミサトの叫びは発令所にいるもの全ての心の声と一致していた。
リツコはモニターの一点を見詰めがくがくと震えるマヤの横から覗き込み、表示されていた数値に驚いた。桁が1桁違う。
『きゃあああ!!!』
『ぐおおおお!!!』
『きゃああああ!!!』
『ぎええええ〜〜!!!』
一方向に去れた六号機と、七号機を除いた4機のエヴァの通信回線からは全身の痛みを訴える悲鳴だけが響いた。
「くっ」
七号機も同時に支えているがこれでは時間の問題である。
「司令!!リリンの初号機と零号機の投入許可をお願いします!!」
ミサトは叫んだ。もはやこれしかない。
碇は唇を噛み締めた。
予感で済ませるべきではなかった。
あの時に分かっていれば、或いは何らかの対策が取れたかもしれない・・・
もし、ここで、投入してしまえば、反逆罪で近い内に間違い無く解任される。
確実に計画が破綻してしまう。
逆に投入しなければしないで、ほぼ間違い無く、結果は見えている。
結論、奇跡に賭け様・・・だが、単純に司令権限で許可しなければしないで、組織の崩壊の可能性もある。
委員会に擦り付けるか、
「・・・残念ながら、リリンとの共同作戦他に関しては、人類補完委員会において、6対1で、禁止されており、司令権限では許可できない」
事実である。完全に事実そのものである。
だが、言い方と言うものがある。
これで、職員は、碇としては、許可したいが出来ない。そして、補完委員会での、決議が多数決によって行われた正式なものであり、反対は受け入れられなかった。そう暗に言っているように思うだろう。
そして、委員会への敵対心が上がり、自分の支持率が上がる。今までの、とんでもない命令も、その上位組織たる委員会の政治的な遣り取りが全て悪いと、勝手に思いこんでくれる。
まあ、全部が全部うまく行くとは思えないが結構な効果はある筈だ。
ミサトは口を噤んだ。発令所のものは黙り、只、4人の悲鳴だけが響いている。
しかし、このままでは、自分がこの官職に居座りたいが為なだけだと思われてしまう。
いずれにせよ、失敗すれば、自らの命はないのだ、
ならば・・・
「ネルフ総司令の権限でネルフ本部の自立自爆の準備を命ずる」
「「「「「「「「「「「な!!!?」」」」」」」」」」」」
「作戦失敗により天井都市が崩壊後、全作戦指揮権をリリンに移行、その後、リリンも殲滅に失敗した場合、ジオフロント崩壊と同時に自爆させる。」
『人工知能マギは自立自爆の発動条件を承認しました。』
「葛城2尉、現時点での、作戦時における第2位の権限は君にある。自立自爆の条件を承認したまえ」
ミサトは固まった。
自分が自爆の承認を・・・?
全員の注目がミサトに集まる。
「既に決定された事を権限の持たないものが、覆す事は決して起こっては成らない。」
「だが、サードインパクトはいかなる事があっても阻止しなければならない」
「両方を満たす唯一無二の方法だ。」
「我々の命と本部施設を引き換えに、サードインパクトを阻止する。」
「承認したまえ」
ミサトは体を振るわせた。
自ら死を選ぶ覚悟等できていなかった。
「ミサト、」
リツコが声をかける。
今のミサトの心境は前回の歴史のサキエルの時のシンジの心境にある意味近いものがあるであろう。
だが暫く考え、自分には承認する以外に選択肢はない事に漸く気付いた。
シンジと大きく違う事は、選ばなくても自分は死ぬと言う事を知っていると言う事だ。
ミサトは首を振った後に、口を開いた。
「葛城2尉、自立自爆の条件を承認します」
『承認されました。条件成立後、2秒でネルフ本部は自立自爆します』
普段ならここで最高の攻撃力を持つにやり笑いを浮かべるのだが、流石に今は、そのような事は出来なかった。
じっとモニターを見詰め、奇跡に賭けた。


地上、七号機、
「くっ」
レイラは全力でATフィールドを張っている。だが、出力が違う。
支えるのがやっと、とても押し返せない。
今、他の機体がやられれば、間違い無く心中である。
「私は逃げない、もう逃げない」
レイラはその全身の激痛に立ち向かい、歩みを進めた。


参号機、
「ぐがああああ!!おりゃあああ!!!」
叫ぶトウジに対して、ヒカリは何も出来なかった。
ただ、おろおろしているだけである。
フィードバックは切られている。
ヒカリの不安定が、シンクロ率にも響き、20から40で激しく上下している。
そんな時、ヒカリはモニターの端で、必死に歩みを進める七号機を見た。
パーツが次々に破損し、全身を激痛が襲っている筈である。
「・・レイラさん・・・」
ヒカリは目を閉じて決心した後に再び瞼を開き、フィードバックを、自分に移す操作をした。
「きゃああ!!!!」
全身を激痛が襲った。
「い、委員ちょ!!」
「す、鈴原は!あうっ!」
「くっ」
トウジは歯を食いしばり、全力でATフィールドを展開した。
火事場の馬鹿力かシンクロ率がどんどん上昇して行く。
「どおおうううおおおおおおおおりゃああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」
参号機のシンクロ率は瞬間的に120%に達し、近くの七号機への負荷が大幅に軽減した。
その為、七号機は只、歩くだけではなく、走る事が出来た。


ジオフロント、初号機、
シンジは顔を伏せていた。
リリンからの再三再四の要請も全て断られた。
レイラを助ける為には、規定を一方的に破り、初号機でサハクィエルを破るしかない。
だが、それでは、リリンと言う組織が・・・ゼーレとネルフの暴走が、
逆にこれは、ゼーレとネルフを潰す絶好にチャンスでもある。
レイラ、他のチルドレン、第3新東京市を捨てれば、ネルフとゼーレの壊滅は確定する。
だが、・・・・・
どちらを選べば良いと言うものでもない。
「・・碇君・・」
「・・・・・・・・・・・・・、行くよ」
心配そうに声を掛けられても暫く何も言葉を発することが出来なかったが、漸く決意を口にし、レイは頷いた。
「行きます、ゲートを開けて下さい!」
モニターの蘭子は頷き、ジオフロントの壁面のゲートの一つが開いた。
初号機はゲートに向かって走った。
レイラの元へ、


地上、中心部、
六号機は既にその機動力を失い、ATフィールドを張り耐えているだけである。
急に負荷が軽くなり、カヲルは驚いて周囲を見回した。
七号機がこの状況下ここまで来ていた・・・
『だ、大丈夫・・で、すか?』
レイラの顔が通信モニターに写った。
「・・中和を!少しでも良い穴を!」
レイラは頷き、ATフィールドの一点中和を試みた。
支えを失い、再びサハクィエルが地面に向かって落ち始めた。
ATフィールドによって大地が掘削される。
周辺部分では機体が破壊されたかもしれない。
カヲルは僅かに出来た穴に精神を集中させた。
そして、前回のラミエルの加粒子砲に匹敵する光をコアに向けて放った。
光はもはやガラクタ同然になっていた六号機を突き破り、僅かな穴を通り、サハクィエルのコアを貫いた。


地上ゲート、
初号機はサハクィエルに向けて全力で走ったが、丁度中心部を貫き光が天空へと登って行くのが見えた。
「・・消えたわ」
「レイラは!?」
『無事です確認しました!』


結果、第3新東京市の衛星都市の一つを消滅させ、その周辺部にも甚大な被害を齎し、サハクィエルはネルフの独力によって殲滅された。
高いシンクロ率が仇になったが、カヲル以外では最も良く支え続けた弐号機は大破、アスカは全身の神経にダメージがあり、全治1週間。
極度の負荷が全身に異常を起こしており大破した参号機、二人のパイロットは仲良く全治3日。
低シンクロ率によって、四号機、伍号機は、中破、パイロットに問題はなし。
六号機は破棄、カヲルは、入院。意識不明の重体。極度に衰弱しており、予断を許さない状況。
やはり無理をさせた七号機も大破、レイラは全治3日。

あとがき
・・・長かった。
一つの戦いでここまで引っ張るとは・・・
しかし・・・カヲル哀れ・・・
さて、この一件で、ネルフとリリンはどう変わるのでしょうか?
レイラの問題は?
では、
又、神威さんからサブタイトル頂きました♪