リリン〜もう一つの終局〜

◆第8話

 11月17日(火曜日)、ドイツ、ネルフ第3支部付属空港、
 エヴァ八号機を搭載したウィングキャリアーが滑走路に向かっていく。
 管制塔ではドイツ政府の高官や第3支部の幹部がウィングキャリアーが離陸するのを見送っていた。
「…ふぅ、はたして、八号機は活躍してくれるのだろうか?」
「何とも言えませんね…」
「本部にとられてしまった以上は、活躍して貰わないとな…アメリカの九号機に負けるわけにはいかんのだ…我々第3支部の技術が一番でないと…」


 第3新東京市、ネルフ本部、起動実験司令室、
 九号機の起動実験が行われようとしている。
「準備できました」
「では、予定通り正午から起動実験を行います」


 チルドレン控え室でアスカは一人ゴロンと簡易ベッドに転がっていた。
「……」
 弐号機以外の機体に乗る。慣れ親しんだ弐号機…絶対に他人を乗せるつもりは無かった。同じように、絶対に他の機体に乗る気も無かった。しかし……
「…ふぅ、」
 何度目かの溜息をつく、
「悩んでても仕方ないか…」


 第1発令所、
「あれ?」
「どうしました?」
 疑問の声を上げた青葉に碧南が尋ねた。
「ああ、八号機を運んでいた輸送機と通信が取れなくなったんだ」
「八号機をですか?」
「なにか…」
 その時、警報が鳴り響いた。
「まさか、使徒!?」


 起動実験司令室、
「使徒!?」
「先輩、起動実験はどうします?」
 リツコは少し考えた。
「そうね、九号機の起動は実験ではなく、即実戦投入になるわね…調整も行わないといけないし…かと言って…」
「……」
「マヤは発令所に行って、私はこのまま九号機を起動させるわ」
「分かりました」
 マヤは大急ぎで発令所に向かった。
「皆急いで準備して!」
 オペレーター達が全力で起動の準備をする。


 リリン本部、発令所、
「…ゼルエルですか…」
 榊原はメインモニターに映るゼルエルをじっと見つめた。
「…こまったな…」
 榊原は少し考えた後、付属病院に電話を入れた。


 ネルフ本部第1発令所、
「初号機の発進は少し遅れるそうです」
「そうか…」
 日向は腕組みをして暫く作戦を考えたが、いい作戦は出てこなかった。
 既に軍隊と軽い衝突が起きて半端でなく強いと言う事は分かっている。
「…強羅絶対防衛線に各機を配置、部隊も展開できる限り展開してくれ」
「「了解」」
(…頼みは、九号機か…)
「…碇、困ったな」
「ああ、」
「…九号機は間に合うか?」
「…間に合うかではなく、間に合わなければならん。全ては間に合うと言う仮定の上の事だ」
「…そうだな、赤木博士とセカンドに掛かっているな」


 起動実験司令室、
 突然の使徒の襲来を聞いたことでアスカの気が立ってしまい、精神状態が不安定になってしまったことで起動に必要とされる許容範囲を超えてしまい、起動に移れずに困っていた。
「アスカ、気持ちはわかるけど、もっと落ち着いて」
『そんなの分かってるわよ!さっさとしなさい!』
 全然落ち着いていないどころか更に…的な状況である。
「…だめです。精神状態が不安定すぎます」
「…初起動、ましてやSS機関搭載型…このまま起動させるのは危険すぎるわ…何とかしてアスカを落ち着かせないと…」
 拳をぎゅっと握る。
「…しかし、どうすれば…」
 リツコはオペレーターの言葉に返すことができなかった。


 強羅絶対防衛線に展開された零号機、参号機、四号機、伍号機、七号機がそれぞれ武器を持ち、又周囲には、ネルフとリリン、そして、東京軍や戦自、自衛隊の部隊が展開されていた。
 レミはモニターに映るそれらに視線を向ける。
 かなりの戦力ある…これだけの戦力があればよっぽどのことがなければ容易く勝てるはずである…だが、
この使徒は元からしてよっぽどの使徒なのである…更に何らかの力がプラスされているとしたら…
「…レイもアスカも未だか…」
 二人が来たら、随分変わるだろう。と言うよりも今のままでは勝てる気がしない…
『目標外輪山を越えます!』
 遂に、ゼルエルの姿が視界に入った。
「…来た…」
 レミは首を振って以前のゼルエル戦での事を振り払い、スナイパーライフルを構えゼルエルに向けて放った。


 シンジがケージ到着した…しかし軽くふらつきどこか足元が怪しい。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
「碇君」
 レイが心配げに小走りに駆け寄って来る。
「ボクは大丈夫、行こうか」
 眉間に皺を寄せたが、ややあって頷いた。
 二人は初号機に乗り込む…普段はシンジが主操縦者だが、今はレイがメイン、フィードバックもその大半がレイであり、シンジはシンクロに関わるだけである。
『シンクロ始めるわよ』
「ええ」
 シンクロがスタートした。
 施設を衝撃が襲う、ゼルエルの攻撃である。
「…急がないと、」
 発進準備がすすめられる中、シンジの呟きがもれた。


 東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室では蘭子たちがモニターに映る戦闘を見ている。
「……」
 ほぼ…いや、完全に一方的な殺戮である。
 エヴァや支援兵器、軍隊が猛攻を繰り返しているが、有効と思われるようなダメージは確認できていない。対して、ゼルエルの攻撃は一瞬にして多くの部隊を消滅させていく…
「…なんと言ったら良いのかしら…」
「…そうだな…」


 地上に初号機が射出されてきた。
 状況を見てみるとかなりの攻撃を受けているものの、エヴァそのものの損害は小さい。
「遅れてごめん」
『シンジ、アンタもいるの!?』
「うん、大丈夫だよ」
 初号機は新型プログソードを構えた。
(力が漲ってる…)
 シンクロ率は190%台を示している。
 今までと比べると倍近い出力になる。無論このクラスの初号機を扱うのはレイにとっては初めてである。
「行くわ」
 シンジが頷くと同時にレイは初号機をゼルエルに向けて走らせた。
 ゼルエルの触手とビームを避け、中和距離に入り、ATフィールドを中和して一気に新型プログソードで切りかかる。
 触手を片方肩の部分から切り落とす。そして、直ぐにその場を離れる。
 その直後ビームが襲い掛かってきたが、それも交わす。更に間合いを詰め、切りかかろうとしたとき、もう一つの触手によって弾き飛ばされた。
「くっ!」
 そして、次来るビーム攻撃を避けるために直ぐに移動するが間に合わず脇腹を掠めた。
「くうう!!」
「綾波!」
「…大丈夫、」
 距離を取って新型プログソードを構えなおす。


 ネルフ本部、起動実験司令室、
『早くしてよ!!』
「もっと落ち着いて、今の精神状態では」
『わぁってるわよそんなの事!!だからさっさとやりなさいよ!!』
(支離滅裂ね…)
 リツコはこめかみを抑えた。
 どうすれば良いのか…今の状態で起動させても失敗は目に見えている…
(催眠や薬は使えない…方法が…)


 第1発令所、
「…ん?」
 碇はサブモニターの隅に小さく映る機体に気付いた。
「どうした?」
「34番のサブモニターをメインモニターに切り替えろ」
「あ、はい、切り替えます」
 メインモニターの映像が切り替わる。
「拡大します」
 拡大されたその映像はまさしく、エヴァの輸送機ウィングキャリアーである。
「ウィングキャリアーですね」
「とりあえず付属空港に着陸させろ」
「了解」
 メインモニターが元の地上での戦闘に戻る。
「変です!ウィングキャリアーと交信が取れません!」
「…どういうことだ?」
「…何かあったと考えるべきだ」
「それはそうだろう…だが、いったい何が?」
「…無線機の故障などと言う他愛も無いことなら良いが…」
「ウィングキャリアーは戦場にまっすぐに向かっていきます!」
「チルドレンは見つかっていないはずだが…ダミーか?」
「いや、老人たちもそこまでのサービスはしまい…まずいな…乗っ取られているようだ」
「乗っ取られる!?」
 拡声されないが、メインフロアにまで冬月の驚きの声が届き、メインオペレーターたちも驚きを表情に出す。
「…司令、どうしましょうか?」
「戦闘は続行、ウィングキャリアーに関しては空自に警戒させろ」
「了解」
「…乗っ取ったのはどこかのきちがいでも無ければ、使徒と考えるべきだろうな…」
「そうだな…まあ、異常者の可能性は低いだろう…民間機ではなく軍用機、それもウィングキャリアーを乗っ取るなどと言う事だからな…」
「ああ、」
 二人はメインモニターの戦闘ではなくサブモニターに戻されたウィングキャリアーをじっと見詰めた。


 リリン本部発令所、
「…榊原さん…」
「…ええ、バルディエルと考えて差し支えないかと…」
 レイラは榊原の言葉にいっそう表情を暗くする。
(…拙い…)
 ゼルエルだけでも劣勢としか言いようが無い…更に支援兵器の損害も考えれば徐々に支援兵器による支援攻撃を減少し、更にその形勢は悪くなるしかない…
「……」


 地上ではウィングキャリアーへの攻撃が許可されたことで攻撃が仕掛けられ、それによってATフィールドの存在が明らかになった。
 そして、ウィングキャリアーは急激に高度をおとし、又速度を上げてくる。
『ウィングキャリアーが更に速度を上げています!』
『避けろ!!突っ込んでくるぞ!!』
「なっ!?」
「えっ!」
 初号機はモニターの反応を頼りにウィングキャリアーの特攻を避ける。
 他の機体も次々に避けたが、ゼルエルは迎え撃った。
 触手でウィングキャリアーを破壊しようとしたが、ATフィールドのせいで破壊しきれず大破しただけでそのままウィングキャリアーはゼルエルに突っ込んだ。
 瞬間大きな爆発が起こりすさまじい量の土が舞う。
「特攻…」
『な、なんなわけ?』
 そして土煙が収まる。
「…どうなっ」
 その時土煙が二つ上がり、ゼルエルと八号機が地面から姿をあらわす。
「…八号機…」
「…バルディエルよ…」
「え!!?」
 レイが感じ取った情報から下した判断を聞き、シンジは心底驚いた。
 いったいどういうことなのか…

あとがき
アスカ「ふ〜ん、なんか、凄いことになってきたわねぇ」
シンジ「うん、使徒が2体同時に現れちゃったしね…」
レイ 「まさにピンチね…本編では上手く切り抜けられたけど、果たしてどうなるかしら?」
シンジ「本編でも大きな被害が出ちゃったしね…」
アスカ「ま、敵が敵だし、しょうがないんじゃない?しかも2つもいっぺんにでてきたら…
    まあ、こっちでも、大きな被害が出るって事だけは間違いないでしょうね、
    それが、これからのバランスに更に大きな影響与えるわね」
レイ 「本編と比較したらこちら側の戦力的には良いと思うわ、
    特にアスカが間に合えば明らかに上回ることになるわ」
アスカ「ふふん」(得意そう)
レイ 「但し…バルディエルも敵になった場合…」
シンジ「間に、合うよね…」
アスカ「あったり前じゃないの!このアタシを誰だと思ってるのよ」
レイ 「…アスカだから…」
アスカ「あんですってぇ〜!?」
シンジ「ははは」(苦笑)



どこか、
カヲルの部屋は、純和風に改装されていた。
キール「…うむ…日本にいる間に随分日本にかぶれたようだな…」(汗)
カヲル「日本文化は良いねぇ…リリンが生み出した文化の極みだよ…」(お茶を啜る)
キール「……」
カヲル「おや?どうしたんだい」
キール「いや…気にするな」
カヲル「和服は良いねぇ〜この着心地、快適さまさに」
キール「そうかまあ良い、言うことは分かっている。それよりも、これからのことなのだが」
カヲル「どうかしたのかい?」
キール「今回の戦いは、使徒戦においての最大の山となる。
    しかし、問題は…使徒が同時に2体も出てきてしまった。
    あまりに大きい被害を受けるとそれはそれで困る。
    むろん敗北して貰ってはいけないと言うのは当然だが…」
カヲル「ゼルエルとバルディエルかい?確かに、ゼルエルの力は凄いからねぇ」
キール「うむ」
カヲル「でも…まあ、いいや、君たちリリンの運命は僕には左右できないからね。
    そして、どういう道を歩むのかと言うことも…
    僕が使命を果たすという方法以外ではね」
キール「そうか…」
カヲル「ま、大丈夫だよ、彼らは強いから」
キール「強すぎても困るのだ」
カヲル「そうだったね…君たちはリリンがどういう道を歩むかという戦いもしているんだったね」
キール「何か、参考になるようなことでもあれば…とは思ったがどうやら無駄足だったようだな」
カヲル「まあ、そう言わず、お茶の一杯でも飲んでいったらどうだい?」
キール「…そうするか、予定が空いてしまったからな」
カヲル「僕のせいかい?」
キール「いや、判断を誤った儂が悪いだろう」
カヲル「そうかい、じゃあ、一つ点てるよ」
………
カヲル「どうぞ」
キール「うむ…」
キール(からっ!!!)
キール(…たしか、抹茶は苦いとは聞いたことがあるが…何故辛いのだ?)
カヲル「そんな顔をして、どうかしたのかい?」
キール「いや…」
カヲル「お茶菓子もどうぞ」
最中を出してくる
キール「頂こう」
キール「…ぐはぁ」(吐血)
カヲル「おや、血なんか吐いてどうしたんだい?」
キール「…儂を…殺す気か…」
カヲル「殺すなんてとんでもない、このカレー最中美味しいじゃないか」
美味しそうにそれを食べている。
キール(ふっ…やはり人と使徒は相容れぬ存在のようだ…)(ぱた)
カヲル「う〜ん、折角葛城さんに教えて貰った通りに作ったんだけどねぇ…口に合わなかったようだね」
キール「……」
カヲル「…困ってしまったなぁ…どうしようか」