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第7話

◆知る者

ネルフ本部、加持の執務室、
3人が加持に会いに来ていた。
「何か俺に用かな?」
「加持さん、マンションに来て下さい」
「ここでは話せないのか?」
「はい」


マンション、
「如何して俺をここに呼んだんだ?」
「目と耳から逃れるためですよ」
「私が、このマンションの内部と外部を隔離しているわ」
「そら凄い」
レイに対して半分からかい気味に答えた。
「で、話って言うのは?」
「私からは、情報を上げるから、加持さんは、3足の草鞋を脱いで」
加持は溜め息をついた。
「内務省の方はばれてるとは思っていたんだけどな・・・・ゼーレまでばれているとは・・・しかし・・・君達から言われるとは思わなかったな」
「加持さんが死ぬと、ミサトさんが悲しみますから」
「そうか・・・」
「加持さんには真実を話すわ」
「そうだね、加持さんなら信用できるし」
「私は反対するわ」
レイが反対した。
「何故!」
加持を信用しているアスカは叫んだ。
「加持1尉が知れば、その確認を取ろうとする。それが命取りになる」
「おやおや、ずいぶんと観察してるんだな・・・その通りだ。俺は、他人から聞いただけでは信用できない、君たちから聞いたらその裏づけを調べるだろう」
「どうせ無理よ、絶対にたどり着けないんだから」
「違う、その前段階で既に命が無い」
「・・・そうだったわね」
アスカは言葉と表情を暗くした。
「おいおい、勝手に話を進めないでくれよ」
「すみません、じゃあ、全部は無理でも、一部だけでも」
「そうね」
「私が話すわ、」
「御願い」
「さて、何を話してくれるのかな?」
レイは髪の毛を抜いてテーブルの上に置いた。
「私のDNAは、人間の遺伝子に対して99.94%一致しているわ」
「・・・・は?」
「私は、第弐使徒リリスと、第拾八使徒リリンである人類の遺伝子を組み合わせて作られた者、」
「人類側のオリジナルは、碇ユイ、」
「そして、私はリリスの力が使える。第伍使徒戦で見せた大爆発は私が起こしたもの、」
「・・・・」
「例えば、」
レイはATフィールドを展開した。
シンジとアスカには何も影響が無かったが加持はかなり強烈な圧力を受けた。
「ぐ」
「ATフィールドは心の壁、私は貴方に対して完全には心を開いていない、だからATフィールドの干渉があるの」
赤い干渉光が光った。
「確かに・・・この赤い光は、ATフィールド」
レイはATフィールドを解いた。
「ATフィールドとは、心の壁、精神的な境界。本来は心理的精神的な次元に存在する。勿論人も持つ。」
加持は黙って最後まで聴くことにした。
「ATフィールドは、先ず、自己と他を分ける。その出力を強めれば、周囲に精神場を作り出す。これが、他者に与える無意識でのイメージの元となっている。更に強めると、存在場となり、精神的結界を形成し。意識下への干渉能力を持つようになる。」
「更に強めると次元が上がり、物理場を形成し、物理的な影響力を持ち物体に干渉するようになる。始めは、圧力を与える程度、しかし、強めれば、弾丸でも、果てはNN兵器による爆発エネルギーや、電磁波をも遮断する。」
「ただ、普通の人類は、存在場を作り出すのが限界、使徒として力は殆どが失われている。しかし、群れをなすことと科学を扱う事で、人は生きて来た。」
加持は眉を跳ね上げたが、続けて聞くことにした。
「第参使徒から第拾八使徒までの中で未来が与えられる種族は一つだけ、そして、第拾七使徒まではアダムより生まれた。だから、アダムへと還ろうとする。そして、還ったものには未来が与えられ、他の種族は消え去る。」
「第拾八使徒リリンは、第弐使徒リリスより生まれた。しかし、その末裔たる人類は、使徒としての力も本能も殆ど失われていたが為に、最も初めに目覚め、繁栄したにも関わらず、リリスの在り処と、帰る方法が分からなかった。」
「そんな中、20世紀後半になって死海文書により、他の使徒の覚醒が近い事が分かった。そして、南極の地下空間で、アダムを見つけた。」
「その情報を握ったゼーレは、二つの方法を考えた。一つは、アダムを卵にまで還元し、使徒の覚醒の引き伸ばし、更に、目覚めた使徒にアダムを発見させ難くし、時間を稼ぎその間に有効な打開案を見出す方法。もう一つは、アダムからコピーを作り出し、同等の力を持つ物を戦わせ、更に科学による力を足す事で、全ての使徒を殲滅する方法。」
「そして、後者を薦めたのが、葛城博士。葛城博士は、碇ユイ博士の研究を元に、アダムのコピーの原型を作り上げる技術を開発する。その際に、アダムのコピーをコントロールするのには、コピーの中枢神経の一部を排除し、その代わりに、人間が直接乗り込み、神経を接続する方法を取った。接続にはA10神経が選ばれた。そして、その接続をより上手くする為に、特定の条件を満たした子供が操縦者に選ばれた。」
「そして、隠された被験者、ゼロチルドレン葛城ミサトが葛城調査隊に同行した。一方、前者はゼーレを中心としていた。後者に協力していたが、六分儀ゲンドウは、ゼーレ最大勢力のトップキールローレンツの指示で協力していただけだった。そして、キールと六分儀ゲンドウは、搭乗実験が失敗し、アダムが覚醒する事を知っていた。」
「そして、碇ユイも南極基地を訪れ、危険性を警告している。しかし、葛城博士は、警告を無視、アダムの還元がいかに大きなエネルギーを放出するかを知っていた。また、これを知っていたからこそ、碇ユイは説得し切れなかったと思われる。」
「そして、六分儀ゲンドウは、搭乗実験が失敗しアダムが覚醒した際に、アダムを強制的に還元できるよう準備を整え、帰国。その翌日、搭乗実験は失敗し、アダムが還元された際に放出された膨大なエネルギーでセカンドインパクトが発生した。」
「キール達が予め世界に警告を発しなかった理由には、混乱に乗じてゼーレの主導権を握り、国際連合を乗っ取る事と、もし、生存率が高いと、極度の食糧不足などによる飢餓、紛争、略奪などにより、逆に生存率を落としてしまう可能性があった。」
「又、これが碇ユイが警告を発しなかった理由でもある。そして、六分儀ゲンドウは予定通り、碇ユイはやむを得ず、前者の道を進む。そんな中、第弐使徒リリスが東京に襲来する。これに対し、核兵器とNN兵器の複合攻撃でその力の大部分を消滅させた。その後の調査で、リリスである事が判明し、箱根の地下に存在する空間に運び込まれ極秘に研究がなされる。」
「そして、リリスが覚醒すれば、その力は、セカンドインパクトのそれに匹敵する事が分かったが、他に、人類にとってリリスは敵対するものでないと言う事も確認される。リリスは、ただ、人の多かったところに来ただけだった。中心部は壊滅したとは言え、人口4000万を抱える東京大都市圏は、明らかに最も人口が多い。ニューヨーク大都市圏は、内陸部に住民が避難したため、そう大きな人口集団にはなっていなかった。」
「そして、国際連合を乗っ取ったゼーレは、早速、南極にアダムを回収するために調査団を送る。そして、箱根の研究所は、人工進化研究所として国際連合の研究機関となり、エヴァの建造を始める。リリスのコピーならば、人類に害を成さないため、かなり高い水準のコピーが作られた。そして、前回の反省点などから、人格移植OSを搭載し、コアを搭載する。そして、零号機が完成し、正式機である初号機も十分に準備が進んでいた。そして、パイロットとしてレイの準備も進んでいた。」
「一方、第3支部では、アダムのコピーによるエヴァが作られていた。それが、弐号機、以下連続して作られる予定だったが、碇ユイの搭乗実験で、碇ユイがコアに取り込まれたことで、碇ゲンドウは人類補完計画を利用し、碇ユイと再会する計画を思いつき、冬月コウゾウも賛同。」
「この際、将来必要と考えられる事を見越して、綾波レイの素体を大量に作る。又、E計画最大の責任者であり、最高の科学者である碇ユイを失ったため、エヴァの新規建造は見送られる。そして、翌年の、エヴァ弐号機による惣流キョウコの人格吸収は追い討ちをかけ、エヴァ新規建造は当分凍結される。」
「そして、碇ユイの事故は、赤木ナオコの作為によるものであると掴んだ碇ゲンドウは、綾波レイの素体の一つを利用し、自殺に追い込んだ。又、赤木ナオコの研究成果の一つ、成長促進剤を利用し、綾波レイの素体の成長を、綾波レイに追い付かせた。そして、ゼーレの進める人類補完計画。それは、群体である人類を、リリスに還元し単体とする事で、完全な存在、神になろうという計画、いえ、神を作ろうと言う計画。その際に、全ての時間と全て空間が同一視される。碇ゲンドウは、それを碇ユイとの再会のために使おうとしている。」
レイは長い話を語り終えた。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「長かったな・・・・」
「そうね・・・・」
「綾波がこんなに喋ったの初めて・・・」
「で・・・俺に信じろと?」
「私のDNAが証明になると思う。」
「じゃあ、聞くが、第弐使徒リリスのコピーである君の目的は何かな?」
「私の目的、それは、使徒の殲滅と補完計画の要、碇司令をお母さんの元に導く案内役だった。」
「だった?」
「でも、今は、碇君の望む世界を作る事」
「そりゃまた、リリスの力が扱えるとなるとまるでシンジ君は神様だな」
「そうよ」
レイの言葉に加持とアスカが固まった。
「どう言う事?」
「碇君は、補完計画の依代に選ばれる。それは、神となる存在」
「・・・・本当なのか・・・」
加持は汗をかいていた。
「でも、私は補完計画は発動させない、碇君は、神になることを望んでいないから」
「綾波」
「私は碇君の為に存在している。これは変わらない、」
「・・・・本当なんだな・・・・・しかし、それだけでもまだ一部なのか」
「そう、まだ言ってない事があるわ」
「・・・今日は聞くのはやめておくよ」
「そう」
「もう遅いし、夕食作りますね」
「シンジ君家事上手いらしいな」
「ええ、」
「私も手伝う」
二人はキッチンに歩いていった。


ネルフ本部、第4発電所、
突然電気が一斉に点いた。
「そこまでだ、」
数人の工作員は、数十人のネルフ警備員に包囲された。


発令所、
「工作員を全員確保しました。被害は、ごく僅かです」
「うむ、御苦労」
冬月は碇を見た。
(いったい何があった。)
碇の表情には、焦りのようなものが浮かんでいる。
「碇、何があった?」
「問題ない」
(話がかみ合っておらん)
元々そんなものではなかったかと言うような突っ込みが入りそうなところだが・・・
「総括司令部より入電!使徒を確認、第3新東京市まで30分の位置です!」
「パイロットを呼べ!特別非常事態宣言発令!エヴァ発進まで時間を稼げ!」
「了解、東ブロック87から101番までの兵装ビルを展開しました。」
「射程距離まで、3分」
「使徒を光学で確認、」
蜘蛛のような使徒が映し出された。
「見難いな」
「ああ、醜い」
夜に黒い体は見難い。
「赤外線映像に切り替えます」
「攻撃開始!」
そして、モニターの映像が消えた。
「何だ!」
「分かりません!暫くお待ちください!」
・・・
「映像回復します。」
クレーターが現れた。
「使徒が爆発したものと思われます」
「生存者の救出急げ!」
「はい!」


加持の車、
「本当か!」
使徒殲滅の報を受けて加持は叫んだ。
「使徒を倒したらしい」
「嘘でしょ!エヴァはまだ出ていないわよ!」
「通常兵器で倒したらしい、ただ、本来は足止めのための攻撃だったんだ、まだ避難は完了していなかった」
「じゃあ、民間人に被害が」
「ああ、3桁は越えるな・・・」


翌日、第3新東京市立第壱中学校、
いくつか空席が増えていた。
「あれ?ヒカリさんは?」
ヒカリの姿が見えなかった。
「いや、見てへんなあ」
「大変だ!」
ケンスケが飛び込んで来た。
「委員長が昨日の爆発で入院した!」
「なんやとぉ!!!」
「何だって!」
「ヒカリが!」
「ケンスケ!病院はどこや!」
「市立東病院だけど、面会謝絶らしい」


第3新東京市立東病院、病室の前、
面会謝絶の札が掛かっている病室から医師と看護婦が出て来た。
看護婦は面会謝絶の札を外した。
「先生!委員長は大丈夫なんでっか!?」
「あ?ああ、洞木ヒカリさんはご家族の死を目の当たりにして錯乱状態にあったが、今は薬で寝ているよ」
「家族?」
「ああ、洞木コダマさんだったかな、お姉さんが、目の前で亡くなってしまってね」
「委員長は?」
「本人の怪我は軽いもんだよ、打撲と擦り傷が何箇所かあるだけだ」


屋上、
シンジとレイが満月の下に立っていた。
「・・・・綾波」
「何?」
「コダマさん何とかなら無いの?」
「ごめんなさい、」
「そう・・・・分かっていたんだけどね・・・・」
シンジは月を見上げた。
(シンジ君の願いをかなえられなかった)
レイの目から涙がこぼれた。
「綾波、」
シンジはレイを抱き寄せた。
「僕は今つらい・・・・でも、いつも、ミサトさんやリツコさんはこんな気持ちだったんだ」
「碇君・・・泣いてるの?」
シンジの頬を涙がつたっていた。
「綾波も・・・」