立場の違い

第7話

◆マグマダイバー

碇邸
「ええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
朝からアスカの絶叫が近所一帯に響き渡った。
「修学旅行に行けないですってぇえ!」
シンジとレイは耳から手を離した。
「待機任務、いつ使徒の襲来が有るか分からないもの」
「でもぉ!」
「アスカも、勉強した方が良いんじゃないかな?」
「どうしてよ!」
「模試の結果、今朝届いたよ」
アスカの個票はまだ未開封である。
アスカは乱雑に封を破り中を見た。
にやっ、なんかそんな音が聞こえたような気がした。
「ふっ、976/1000、全国3番よ!」
アスカは個票をシンジの前に突き出した。
「どうよ〜、このアタシの実力見た〜?」
シンジは平然と味噌汁を啜りながら自分の個票を見せた。
997/1000、全国2番
「うっ・・・」
「何か?」
「レイはどうなのよ!どうせ大した事無いんでしょ!」
レイは無言で個票を見せた。
1000/1000、全国1番。
「良い機会だよ、勉強すれば?」
「きいいい〜〜〜!!!」
結局アスカは修学旅行に行けなくなった。


ミサトのマンション、
「ふみゅ〜」
布団虫が床を這っている。
「うみゅ〜」
布団虫は冷蔵庫の前で止まり、布団の隙間から手で出てきて、冷蔵庫の扉を開け、中からビールを取り出した。
布団虫は扉を閉め、ビールを布団の中に取り込んだ。
・・・
布団が宙に舞った。
「ぷは〜!!よっしゃ〜!!今日も快適な目覚め!!ばしばし行くわよ〜!!」
朝食を作っている加持は、大学時代以上に凄まじいミサトのライフスタイルを見て大きな溜め息をついた。
電話が鳴った。
「はい、葛城・・ああ、日向2尉か、ミサトだな、代わるよ」


数時間後、浅間山観測所
浅間山の火口の中に不信な影があるという報告を受けて、ミサトは日向を連れてここに来ていた。
「観測機降下開始」
・・・
・・・
「深度650」
「深度700」
「已然反応無し」
・・・
「深度1800」
「もう限界ですよ。」
「壊れたらウチで弁償します。後500お願いします。」
主任が小さくガッツポーズをした。
「深度1850」
「反応がありました、分析開始!」
日向が叫んだ。
・・・
反応が消えた。
「大破しました」
「どう?」
「ぎりぎりですが間に合いました。パターン青です。」
ミサトは所長の方を振り返った。
「以後、この件に関する一切の指揮権はネルフが取ります。尚、過去24時間の一切の情報を封鎖します。」
一般職員を退室させると日向は直ぐに映像などの分析に掛かった。
「・・・葛城さん、これを」
モニターには使徒の幼体らしきものが映っていた。
「・・・日向君、使徒捕獲の最優先の特令何だっけ?」
「え?確か、A−17だったと思いますが・・・あれは、」
「そっ、ありがとね」
笑顔で礼を言いミサトは電話を掛ける為に部屋を出て行った。
ミサトに恋心を寄せている日向は、それだけで舞い上がり、とてつもなく重要な事を知らせ損ねた。


廊下、
ミサトは本部に電話を掛けた。
「碇司令に、A−17の発令を要請して」
『気をつけてください、これは通常回線です』
「分かってるわよ、さっさと特別回線に切り替えなさい」
『しかし、本気ですか?A−17は、』
「分かってるわよ、早くしなさい」
『は、はい』


ネルフ本部、総司令執務室、
「青葉2尉、用件は?」
「あっ、はい、浅間山の葛城1尉から、A−17の発令要請が」
「・・・・」
シンジは暫く考えた。
「レイ、どう思う?」
「減俸」
「そうだな、葛城1尉を1ヶ月間の減俸に処す、直ちに連れ戻せ、浅間山には私が直接向かう、冬月、後は任せた」
「ああ、分かった」


浅間山、
「葛城1尉、ネルフ保安条例第16項の適用により、貴女を本部まで連行します」
「は?」
ミサトは両脇を黒服に固められ連行された。
「なんで?私なんかやった?」


2時間後、シンジがレイ、アスカを連れ到着した。
アスカがごねた為、零号機にD型装備を取り付けている。
「レイ、頼んだよ」
「大丈夫、シンジ君、私を信じていて」
「うん」
レイは零号機に乗りこんだ。
シンジは司令室に向かった。


火口、
零号機は、ケーブルにつるされ、弐号機が火口で待機している。
零号機は、低温冷媒が入ったタンクを背中に背負っている。
冷却用のものではなく、使徒を内圧で倒す、若しくは、温度差で構成組織を破壊するためである。
ケーブルはクレーンに繋がれているもの以外に、弐号機がその端を持っている物がある。
これは、いざと言う時、弐号機が零号機を引っ張り上げる為のものである。
作戦が開始され、零号機が火口に向かって下ろされていった。


零号機、
本来は耐熱用のプラグスーツを着る筈なのだが、レイの「これを着るのは嫌」の一言と、元々がアスカ向けに作られていた事でエントリープラグの冷却装置の拡張とパワーアップで代替された。
「・・・暑い・・・」
レイはもう汗を掻き始めている。
『冷却装置の出力を上げろ』
『了解』
少し振動音がし始め、早速温度が下がり始めた。
が、プラグだけではなく、シンクロしているエヴァも冷やさないと暑い。
極論、プラグ内が冷たく、エヴァの外が熱ければ、本当に訳の分からない感覚になるだろう。
『深度、800』
『レイ、大丈夫?』
「・・問題無いわ・・」
それは、作戦の遂行には問題ないという意味であって、嫌な事には変わりは無い。
いくら日本が常夏の国で暑さには強いとは言っても、マグマの中ではねぇ、


その頃、ネルフ本部、副司令執務室、
「葛城1尉、君が要請した、A−17、その意味が分かっていて敢えて要請したのかね?」
「はい?使徒の最優先捕獲の為の特令では?」
冬月は大きな溜め息をついた。
「A−17が、発令された場合、現有資産の凍結を含む様々な命令が出される。その際の被害推定は、日本のGDP1日分、約1兆円だな、そして、世界中で日本企業の株価、円、国債、社債が売られる。そして、関連する主用先進国の企業が大打撃を受ける。被害は最低でも10兆に達するだろう。そして、その影響は、先進国では失業、経済不安、後復興国では、難民、避難民の発生・・・多くの人命が失われる事に成る。」
「・・・・」
ミサトは口を大きく開けて固まっていた。
「今回、1月間の減俸に処す事にした。使徒を倒すのは当然だが、今、生きている人間を殺すようなまねはしないでくれ」


浅間山、司令室、
「深度、1800」
「レイ」
『・・やっぱり暑い・・』
「冷却速度を上げろ」
「了解」
「冷却速度限界です。」
・・・・
・・・・
・・・・
「深度、2000、予想敵出現地です。」
『・・・・目標、確認できません。』
「予想よりも対流の流れが速いみたいですね。」
「後、どの位行ける?」
「安全深度まで200、限界深度まで700です。」
「後・・600行く。」
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
「深度、2700、限界深度です。」
「くっ」
シンジの眉間に皺が寄った。
玉のような汗を大量に浮かべ、レイはかなり暑そうだ。
『まだ・・まだ行けます』
「・・・弐号機スタンバイ、作戦続行」
サブモニターに映る弐号機はいつでも引き上げられる準備をしている。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
シンジは、モニターをじっと見詰めた。
「深度、3100、敵予想出現位置です」
『・・・目標、確認・・』
「接触のチャンスは一度です」
「レイ、頼んだぞ」
レイは頷いた。
零号機は、使徒に接近し、繭状の薄いATフィールドを中和し、低温冷媒を一気に噴き掛けた。
一瞬で、気化し、使徒の体が内部で膨らむ圧力に耐え切れずに崩壊した。
「パターンブルー、消滅を確認」
「レイ、御苦労様」
レイは笑みを浮かべた。


温泉宿、
「「「かんぱ〜い」」」
3人は勝利を祝いジュースで乾杯した。
「いや〜レイ、おめでとう」
「ま、アタシならもっとスマートに華麗に決めてたけどね」
自分でごねたくせに、まあ良くぬけぬけと、
「だったら、やりゃ良いだろ」
「ふん、アタシの弐号機にはあんな装備は似合わないわ」
「だったらそのまま潜るつもり?」
「そんな熱い事出来るわけ無いでしょ」
「・・・」
結局、只の我が侭娘だ。
山の幸をふんだんに使った料理が並んでいるのだが、レイ以外まだ箸をつけていない。
「・・食べないの?」
「ん?食べるよ」
「ああ〜〜!!その松茸はアタシのよ!!」
レイが取ろうとしていた焼き松茸をアスカは奪い取った。
「むっ」
レイは恨めしそうな視線を笑顔で松茸を頬張っているアスカに向けた。


夜、露天風呂、
月光の中、二人が温泉に入っていた。
「ふあ〜〜!気持ち良い〜〜!」
「・・・」
「・・・」
「貴方は何故エヴァに乗るの?」
「・・そんなの、決まってんじゃない。自分の存在を世間に知らしめるために決まってるでしょ。」
「・・他人に認められると言う事?」
「まっ、似たようなものね。」
「・・嘘ね」
「なっ」
アスカは見抜かれて驚いた。
「・・・教えてくれる?」
「・・・アタシのママは弐号機を作ったの・・」
「惣流キョウコ博士ね」
「そう・・アタシが本当に見てもらいたい、誉めてもらいたいのはママなの」
「・・・・」
「・・でも・・・ママは・・・・」
レイは無言でアスカを抱き寄せた。
アスカの目は潤んでいる。
「・・辛かったのね・・」
アスカは無言で頷いた。
「・・私の事聞いてくれる?」
「・・うん・・」
「・・私は、2004年以前の記憶は無いの・・・私には、シンジ君以外何も無かった・・・」
「・・私は、シンジ君が与えてくれた絆、そして、シンジ君を護る為に、エヴァに乗っている・・」
「・・・そう・・・」


ジオフロント内バー、
ミサトとリツコが飲んでいた。
「・・・でも、何考えてA−17を要請したの?」
「・・・いや、使徒捕獲の最優先に関する特令だって」
リツコは呆れたような表情を見せた。
「呆れた・・最優先の意味を考えなさいよ、それこそ、人命よりも優先されるのよ」
「・・・私が馬鹿だったわ・・」
「無様ね」
「・・・そうね・・・」
ミサトはカクテルに口をつけた。


あとがき
レイ 「碇君は私が護る。碇君は私の全て」
シンジ(ぽっ)
アスカ「な〜にやってんのよあんた等」
レイ 「ふふふ、我が侭な弐号機パイロットは、司令で十分」
アスカ「奴は嫌だって言ってんでしょうが!」
シンジ「流石に、アスカを母さんって呼ぶのはちょっと」
アスカ「シンジ、このアタシをおちょくってんの?」
レイ 「ふふふ、アスカお義母さん、」
アスカ「嫌〜〜〜!!」
シンジ「でも・・YUKIさんいませんね、どうしたんだろ?」
レイ 「さあ」
シンジ「次はどの使徒?」
レイ 「・・次回は、サハクィエルの襲来ね」
シンジ「あっ、結局マトリエルは消えちゃったんだ」
レイ 「そうらしいわ」
アスカ「ふん、あんな恥ずかしい格好しなくて良いから有り難いわ」
シンジ「でも、アスカが自ら盾を申し出る見せ場の一つだったと思うんだけど」
アスカ「YUKIはどこ!?」
レイ 「さあ」
アスカ「探してくるわ!」
シンジ「・・・アスカ行っちゃった」
レイ 「お義母さんはお帰りになったわね」
シンジ「あんまりからかい過ぎるのもどうかと思うけど・・・」