立場の違い2R

第8話

◆心、重なる時

10月6日(火曜日)
レイが同居してユニゾンの特訓をする事になった。方法は曲に合わせて二人でダンスを踊ると言うものである。


P.M.2:04、ミサトのマンション。
二つのエレベーターが同時に開いた。
片方からはヒカリ、他方からはケンスケとトウジが出て来た。
「あっ、3バカトリオの二人」
ヒカリは、二人の存在に驚いた。
「委員ちょーが何でここにおるんや?」
「私は碇さんの御見舞い」
「こっちはシンジのや」
そして3人ともミサトの部屋の前で止まった。
「「「何でここで止まるんだ?」」」
3人の声がハモる。
呼び鈴を押すと中から声が帰って来た。
「「はーい」」
シンジとレイの声が重なって聞こえる。
扉が開くと中からシンジとレイがお揃いの格好で現われた。
「お、お揃いルックでイヤーンな感じ」
「こ、これは日本人は先ず形から入るものだってミサトさんが!」
シンジは反論しようとしたが、
「不潔よ!二人とも!」
誰も聞く耳を持たなかった。
・・・その理由の一つが・・・レイがほんのり頬をピンク色にして黙り込んでいたからでもある。
「あら?どうしたの皆お揃いで」
ミサトがユイを連れて帰って来た。


P.M.2:16、
二人の説明で皆は納得した。
「何やそんなんやったら言ってくれれば良かったのに」
聞く耳を持たなかったのに・・・
「で?どうなんですか?できは?」
「そうね、今から始めてくれる?私も出来を見たいわ」
「「はい」」
シンジとレイは、装置の中央ほどに立ち踊り始めた。
先ずスタートは綺麗に揃っている。
そして、シンジが間違えた瞬間、レイは敏感にそれを察知し、シンジの動きに合わせて、動きを修正した。
そんな事が何度か続き、フィニッシュまで辿りつき、リツコ特製の測定器で点数が表示された。
得点 86.17点
誤差  0.61秒
因みに合格点は92点、誤差0.22秒以内。
「ん〜、未だ始めたばかりなのにこの数字は立派なものね」
「ふ〜ん、」
「基本的には、シンジ君のミスが多いって事なんだけど、それで減点されている様では駄目ね」
「どう言う事ですか?」
「実戦には、決められた動きなんかないわ、パートナーが例えどんな行動をしたとしてもそれにあわせなくてはいけないの、そうでなければ、攻撃を回避した時とかに、タイミングが狂ってしまうわ」
皆納得して軽く頷いた。
3回ほど練習した時、初めて90点に到達した。
「そうね、ちょっと休憩にしましょう・・・ん〜、そうね、貴方達もやってみない?」
「え?私達もですか?」
ユイの発案で、トウジとヒカリが踊る事に成った。
まあ、その後、メンバーを変えたりするなどとして、お遊びになって行った。


その頃、ネルフ本部のシュミレーションルームでは、アスカが一人シミュレーションを続けていた。
一人で両方の使徒を同時に撃破する為に、
『48回目・・・本当に大丈夫?』
通信モニターのマヤが少し心配そうに問い掛けた。
「・・大丈夫よ・・続けて・・」
『・・あ・・うん・・』
声から限界が近付いている事は分かるが、その気迫に押されたのかマヤは頷き、操作をした。
シミュレーションがスタートし、画面上に2体の使徒が現れた。
弐号機は使徒の攻撃を次々に避け両方を操り、動きを重ね合わせていく、しかし、ビームを回避しきれず、片方のプログソードを落としてしまった。
「あっ!」
その後は、一方的にボコボコにされた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
『アスカ!アスカ!大丈夫!?』
アスカは気を失ってぐったりとしていた。


夜、ネルフ中央病院の病室のベッドの上で目を覚ましたアスカは、いきなり壁を強く殴り付けた。
「くそ・・・・どうしてよ・・・・どうして・・・」
再び殴りつける。
その行動は、慌てて飛んで来た医師や看護婦が無理やりその行動を止めさせるまで続いた。


ミサトのマンションのリビングには2枚の布団が敷かれていた。
片方にはシンジが、もう片方にはレイが寝ている。
シンジの方は緊張で全然寝つけなかった。
耳に入ってくるのは、レイの静かな息使いと、自分の妙に大きく聞こえる鼓動である。
そんな時、レイが突然むくっと起き上がり、トイレの方に歩いて行った。
「・・・ふぅ・・・」
シンジは軽く息を吐いた。
レイがもどって来る前に寝てしまおう。
そう思ったのだが・・・・暫くして、誰かが布団に入ってくるのを感じて驚いて目を開けた。
そこにはレイの寝顔があった。
どうやら寝惚けて布団を間違えたらしい。
シンジは一瞬全ての思考が停止していた。
・・・・
レイの愛らしい唇に目が行ってしまう・・・今なら・・・
シンジはゆっくりと自分の唇をレイの唇に近付けて行く。
「・・んん・・・」
シンジは固まり、全身から汗が噴出すのを感じた。
・・・・
・・・・
どうやら、寝たままであるようなので、再びゆっくりと近付けていく。
突然レイの手がシンジの首の後ろに回された。
「え?」
「・・ん〜・・・」
そのままぎゅっと引き寄せられて、レイのふっくらとした胸に顔を押し付けられる結果になった。
(・・う、うわぁ〜・・)
「・・・ん?」
レイの二つの瞼が開き、赤い双眼が現れた。
シンジの方もそれに気付いたのか、上目使いにレイの顔を見上げた。
「「・・・・・」」
「「・・・・・」」
「きゃっ、」
レイはシンジから飛び離れた。
「あ、あの、あの!」
「ご、ごめんなさい!」
シンジが何とか弁解しようとしたが、レイが謝った。
レイは物凄く恥ずかしいのか真っ赤になっている。
「あ、あの・・・ごめんなさい・・ちゃんと自分の布団で寝るから・・」
レイは自分の布団に戻って行った。
色々と気まずい雰囲気で、二人ともなかなか寝られなかった。


10月7日(水曜日)、
朝、シンジが起きた時には既にレイは着替えを済ませていた。時計は既に10時を回っており、どうやら昨日の一件で完全に寝過ごしてしまった様だ。
二人は台所で食事を済ませて特訓を開始した。
やはり、気まずいのか、どうも点数も伸びない。
結局、1日行ったが最高点は87点だった。


一方、ネルフ本部のシミュレーションルームでは、アスカが鬼気とした必死の形相でシュミレーションを続けていた。
負傷した両手には包帯が巻いてある。
『・・・アスカ・・・』
「アタシは、やんなくちゃ・・なんないのよ・・・アタシが・・・」
『・・もう止めましょうよ・・・』
アスカはプラグの内壁を負傷した拳で強く殴り付けた。
「やるのよ」
マヤは、少し天を仰ぎ、そして、シミュレーションをスタートさせた。
そして、再び気絶し、中央病院に運ばれた。


赤木研究室、
「・・先輩・・・これ以上アスカが自分を傷つける姿見たくありません・・・」
「ふぅ・・・潔癖症は辛いわよ、」
「・・でも・・・」
「・・マヤ、貴女は、アスカの秘密に携わっているのよ、今更、」
「でも先輩!!」
マヤはリツコの言葉を遮って叫んだ。
「・・・分かったわ・・・」
リツコはアンプルを白衣のポケットから取り出した。
「睡眠薬の一種よ、これをアスカに投与しなさい・・・但し、貴女の手でね」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・分かりました。」
マヤはリツコからアンプルを受け取ると、軽く頭を下げて研究室を出て行った。
「・・・・」
リツコは無言で煙草に火をつけた。
「・・・・」
そして、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「・・・でも、アスカの問題はいずれにしても大きいわ・・・私の手には余るか・・・」


夜、ミサトのマンション、リビング、
二人は、布団の中に入り、静かに寝ようとしているのだが、それで、昨夜の事が思い出されるのか、恥ずかしくて気まずくて、となかなか寝付けないでいた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「・・六分儀君、未だ起きてる?」
「・・あ、うん、」
・・・・・
「・・・・昨日の事未だ気にしてる?」
レイの言ったのは、勿論、レイが寝惚けてシンジの布団に入り込み、更に、シンジの頭を抱き抱えてしまったと言う行動の事なのだが、シンジに先ず思い出されるのは、レイにキスをし様としてしまった事の方である。
「あ・・・いや、その、別に・・」
とは言え、どう言う意味で言ったのかは、思い至ったので、そう答えておく
「そう・・ごめんね、」
「いや・・・その・・・・」
何か、レイがした行為は、両方ともが知っており、その事でレイは謝ったが、自分のした行為はレイは知らず、謝ってなどいない。その事がどこか卑怯に思えてくる。
・・・・
・・・・
「あ、あのさ・・・」
「・・何?」
「あの・・・その・・・」
レイはシンジは何か言いづらいことを言おうとしていると言う事が分かり、暫く待つ事にした。
・・・・・・
・・・・・・
「あのさ・・・あの時・・・寝ていた、碇に・・・キスし様としてたんだ・・・」
レイは驚きで少し大きく目を開いた。
「ご、ごめん!」
「・・・私が女の子だから?女の子だったら誰でも?」
「違うよ・・・そ、その、碇が・・・綺麗だから・・」
レイはふっと表情を緩めた。
「未遂に終わったのよね。」
「あ・・うん、」
「私、六分儀君にファーストキス上げるつもりは無いから・・・未だね、」
シンジは目をパチクリさせた。
それは単なる拒絶の意味ではなく、未だ、と言う事を協調していると言う事は明白であった。
「・・おやすみ、」
「あ、うん・・お休み・・」
シンジは、どこか不思議な気分だったが、取り敢えず、今までの気まずさは無くなったのか、暫くして眠りにつく事ができた。


10月8日(木曜日)、
朝食を取り、準備が整った。
「さっ、訓練始めましょ」
「あ、うん」
昨日までとは一変し、かなりの高得点が連続していた。
「もうちょっとね」
やはり、シンジのミスが減点対象になっているところが多いが、上手くレイがそれに合わせる事で、大きな減点を避けている。
「うん、」
二人は、特訓を続けた。


10月9日(金曜日)、今日も高得点が連発していた。
少し休憩を取る事にした。
シンジはコップにジュースを汲んで片方をレイに渡した。
「・・ありがと・・」
二人は、並んで座った。
特に言葉を発しなかったが、妙に心地良い雰囲気が流れている。
「・・・」
「・・・」
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
「・・続き、する?」
「・・あ、うん、」
二人はユニゾンの特訓を再開した。


10月10日(土曜日)A.M.11:21、ネルフ本部第1発令所、
「目標、包囲完了!」
「エヴァ両機作戦位置に付きました。」
「弐号機は?」
「後方に待機しています。」
「よし、作戦開始!!」
初号機と零号機が一気に使徒に接近し、使徒は自己修復を中断し回避行動に入った。
そして、同時にビームを放ち、又それを両機は同時に回避した。
使徒は一気に飛び上がり両機に向かって襲いかかって来た。
「援護攻撃!!」
周囲に配置された部隊から一斉に攻撃が仕掛けられ、使徒の動きを制止させ、その場に叩き落した。
2体のエヴァは大きく跳躍した。
『だあああああああ!!』
『え〜〜い!!』
二人の叫びとともに2体のエヴァの飛び蹴りが同時に起き上がった使徒のコアに直撃した。
そのままの勢いで使徒は海面を滑っていく。
使徒のコアが破砕し爆発した。
「回線切り替えます。」
高空からの映像になった。
使徒が爆発した後はクレーターになっていてその中心にエヴァ同士が重なり合って倒れていた。
「やった!」
「どうやらその様ね」
リツコも頷いた。
「良くやったわ、二人とも」
「おめでとう」
画面に映った二人の顔は満足そうだった。
発令所が湧き上る中、ユイ、リツコ、マヤの3人はサブモニターに映る、その身を震わせているアスカをじっと見詰めていた。

あとがき
レイ 「ふふ、これで良いの、素晴らしいの」
YUKI「有難う御座います」
レイ 「弐号機パイロットは自滅の道を歩んでいるの」
YUKI「まあ、これはこれで何らかのフォローをするつもりではありますが・・・」
レイ 「まあ、それでも良いの、碇君と私の絆に影響なければ、と言う条件付で」
YUKI「たはは」(苦笑)
レイ 「私はもう行くわ」
YUKI「はい、では、又」