立場の違い2R

第12話

◆使徒、侵入

 12月6日(日曜日)、ミサトのマンションにアスカがやってきた。
「いらっしゃい」
「お、おじゃまするわよ」
 レイに出迎えられてアスカは少し恥ずかしげである。
「あれ?綾波…」
「私が呼んだの、お昼でも御馳走するからって」
「あ、それで、量が多かったんだ」
「ええ、少し待っていて、もうすぐ出来るから」
「分かったわ」
 アスカは椅子に腰を下ろし、二人はキッチンで昼食を作る。
「六分儀君卵取って」
「うん、はい」
 二人が昼食を作っていく様子をじっとアスカは見つめていた。
(六分儀シンジと碇レイか……)
 やがて昼食が出来あがり食卓に3人分の料理が並んだ。
「どうぞ、召し上がれ」
「あ、うん、じゃ、頂きます」
 アスカは二人が作ったオムレツに橋を延ばし口に運んだ。
「…美味しい、」
 その言葉の二人はふっと表情をゆるめる
「さっ、私たちも食べましょ」
「うん」


 そして、昼食が終わった後、3人はリビングでテレビゲームに興じることにした。
 初めは余り興味を示さなかったアスカだが、レイに勧められてやっている内に一番のめり込み始めた。
 今はシンジと二人でレーシングゲームで対決している。アスカはすぐに順応し、わずか1時間少々で既にシンジと同じぐらいの実力にまでなっている。シンジが下手なのか、アスカに素質があったのか、あるいは、その両方なのかは分からないが…
 そんな光景を、レイはおだやかな表情で見ていた。


 夕食まで御馳走になってアスカは帰ることにした。
「今日は楽しかったわ…ありがとね」
「ううん、僕だって楽しかったよ良かったら又来てよ」
「ええ、私も歓迎するわ」
「是非そうするわ。じゃ、又ね」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
 アスカは軽く手を振って帰っていった。
「綾波って思ったよりも良い奴なんだね…」
「そうね。彼女は、自ら溝を作っていたから…その溝さえ越えられれば、根は優しいのよ」
「そんな感じだね」

 
 12月8日(火曜日)、ネルフ本部プリブノーボックス。
 今日は、プラグスーツの補助無しで、直接肉体からハーモニクスを抽出する試験が行われている。
「各パイロットエントリー準備完了しました」
「実験スタート」
 リツコの指令で実験が始まった。
「シミュレーションプラグを挿入」
「模擬体経由でシステムをマギ本体と接続します」
 膨大な情報がガラスの中のプラズマモニターに表示され流れている。
「お〜早い早い、初実験の時1週間も掛かったのが嘘みたいだわ」
「アスカ、右手を動かしてみて」
『分かったわ』
 模擬体の手が動く。
「データ収集順調です」
「問題は無い様ね、マギを通常に戻して」
『マギ通常モードに戻ります』
 3体のマギのイメージが表示され討議を行っている。
「ジレンマか・・作った人間の性格が伺えるわね」
「何いってんの?作ったのはあんたでしょ」
「何も知らないのね」
 ミサトはちょっとむっとした。
「リツコが私みたく自分の事べらべらと話さないからでしょ」
「私はシステムアップしただけ、基礎理論を作ったのは母さんよ」
 決議が出たようだ。


 実験開始からおよそ1時間後、異常を告げる報告が入った。
「又水漏れ!?」
「いえ、侵食だそうです。この上の蛋白壁」
「参ったわね・・・テストに支障は?」
 マヤは表示を見回した。
「いえ、今の所は何も」
「ではテストを続けて、このテストはおいそれとは中断できないわ」
「六分儀司令も五月蝿いし」
 リツコは呟き正面を向いた。
「テストは3時間で終了する予定です」
「エヴァ零号機コンタクト開始、マギ経由でエヴァ零号機本体と接続します」
「ATフィールド、発生します」
 アラームが鳴った。
「如何したの!?」
『シグマユニットAフロアに汚染警報発令』
「第87蛋白壁が劣化、発熱しています」
「蛋白壁の侵食が拡大、爆発的な速さです」
「第6パイプにも侵食発生」
「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖」
「はい」
 マヤはボタンを押し、次々に表示が赤から緑に変わった。
「駄目です、侵食は壁伝いに拡大しています」
「ポリソーム用意、レーザー出力最大で侵入と同時に発射」
「侵食部更に拡大、来ます」
 緊張が走る。
『きゃあ!』
 アスカの悲鳴が聞こえた。
「「アスカ!」」
 模擬体が動いている。
「模擬体が動いています」
「まさか」
 リツコはマヤの方に行った。
「侵食部更に拡大、模擬体の下垂システムを犯しています」
 模擬体の手が近付いて来る。それを見てリツコはケースを割り、緊急レバーを引いた。そうすると模擬体の手が千切れ、手がガラスに激突し罅が入った。
「アスカは!?」
「無事です」
「全プラグを緊急射出!レーザー急いで」
 エントリープラグが射出される。
 レーザーが侵食部に向けて放たれたが、何かが光り、レーザーが反射された。
「ATフィールド!」
「まさか」
 模擬体が赤く光り始める。
「何!?」
「分析パターン、青、間違い無く使徒よ」
 リツコは非常事態を告げる緊急警報を鳴らした。
『使徒?使徒の侵入を許したのか』
「申し訳ありません」
『言い訳は良い。』
『セントラルドグマを物理閉鎖』
「ボックスを破棄します。全員退避」
 全員その場を脱出した。


 六分儀の命令で警報を停止し、日本政府と人類補完委員会には誤報として報告し、エヴァは地上に射出された。
 現在侵食部はシグマユニット全域へと広がっている。
 主モニターに映る使徒が発光している。
「凄い、進化しているんだわ」
 リツコが驚きの声を出してすぐにアラームが鳴った。
「如何したの!?」
「サブコンピューターがハッキングを受けています」
「くそッ、こんな時に」
「疑似エントリーを展開します」
「疑似エントリーを回避されました」
「防壁を展開します」
「防壁を突破されました」
「疑似エントリーを更に展開します」
「コリャ、人間業じゃないぞ」
 青葉は汗を垂らした。
「逆探に成功、この施設内です。…B棟の地下、プリブノーボックスです!」
 使徒が激しく発光している。
「光学模様が変化しています」
「光っているラインは電子回路だ。コリャ、コンピューターその物だ」
「メインケーブルを切断」
「駄目です、命令を受けつけません」
「レーザー撃ち込んで」
「ATフィールド発生、効果無し」
「くっ」
「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを操作中、12桁、14桁、Bワードクリア」
「保安部のメインバンクに侵入されました!メインバンクを読んでいます、解除できません」
「奴の目的はなんだ」
 青葉は使徒が接触している部分を見て驚いた。
「このコードはヤバイ、マギに侵入するつもりです!!」
 リツコの目が大きく開く。
「I/Oシステムをダウン」
 六分儀の命令で日向と青葉が手動で電源を切ろうとしたが切れなかった。
「電源が切れません!」
「使徒更に侵入、メルキオールに接触しました」
「駄目です、使徒にのっとられます」
 画面表示の一部が緑から赤に変わる。
「メルキオール使徒にリプログラムされました」
「ロジックモードを15秒単位にして!」
 ユイの指示が飛ぶ。
『人工知能メルキオールより自立自爆が提訴されました。・・否決、否決。』
「「了解!」」
「今度はメルキオールがバルタザールをハッキングしています」
 ロジックモードが変換され、使徒の侵食スピードがかなり遅くなった。
 それを見て冬月が一つ大きな溜息をついた。
「どの位持ちそうだ」
「今までの計算速度からすれば、4時間ぐらいは、」
「マギが敵に回るとはな・・・」
 リツコは俯いていた。


 ネルフ本部第7作戦会議室、
「彼らはマイクロマシーン、細菌サイズの使徒と考えられます」
「その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成に至るまでに爆発的進化しています」
 リツコが報告し、いつもの通りマヤがその続きを言う。
「進化か・・」
 六分儀が呟いた。
「はい、彼らは常に自分を変化させ如何なる状況にも対処するシステムを模索しています」
「まさに生命の生きるためのシステムその物だな」
 冬月が言った。
「そうですね…」
「自己の弱点を克服、進化を続ける物に対する有効な手段は、死なばもろとも、マギと心中してもらうしかないわ」
 ミサトは六分儀の方に顔を向けた。
「マギシステムの物理的消去を提案します」
「無理よ。マギを切り捨てる事は本部の破棄と同義なのよ」
 リツコが反論した。
「では、作戦部から正式に要請します」
「拒否します。技術部が解決する問題です」
「何意地はってんのよ!?」
「…、私のミスから始まった事だから」
「貴女は昔っからそう、1人で全部抱え込んで、他人を当てにしないのね」
 ミサトは、嘗て、自分を頼って欲しいのに頼っては貰えなかった経験を思い出し呟いた。
「使徒が進化し続けるのであれば勝算はあります」
「進化の促進ね?」
 ユイが尋ねた。
「はい」
「進化の終着点は自滅、死その物だ」
「ならば、進化を此方で促進させてやれば良いわけか」
「ようはそう言う事ですね」
「使徒が死の効率的回避を考えれば、マギとの共生を選択するかも知れません」
「しかし、どうやって?」
 日向が尋ねた。
「目標がコンピューターその物ならば、カスパーを使徒に直結、逆ハックをかけて自滅促進プログラムを送り込む事が出来ます。が、」
「同時に使徒に対しても防壁を開放する事にもなります」
 マヤが回答した。
「使徒が早いか、カスパーが早いか、勝負だな」
「はい」
「そのプログラム間に合うんでしょうね。カスパーまで侵されたら終わりなのよ」
「…、約束は守るわ」


 ジオフロント内の地底湖に浮かぶことになったシミュレーションプラグの中でシンジはぼうっとしていた。
「…何があったのかな?」
 大きな音がしてハッチが開かれレイが入って来た。
「…い、碇!!」
 2人とも裸…シンジは股間を押さえ視線をレイから外した。
「…アスカの所に行くわよ、その後、本部へ」
「え?」
「本部で何か起こった。そう考えるのが自然よ」


 地底湖を泳いでアスカのいるプラグへと向かった。
 レイの泳ぐ姿はどこか幻想的でもあった。
「うぷっ」
 レイに見惚れてしまったシンジは沈んでしまった。
「…大丈夫?」
「あ、うん」
 プラグに辿りつくとレイはハッチを開けて、中を覗き込んだ。
 何かアスカと会話をしているようだ。
「…六分儀君、先に行っていて」
「あ、うん…」
 シンジは一人先に向かうことにした。


 ネルフ本部第1発令所、カスパーの前。
『R警報発令発令、R警報発令、ネルフ本部内部に緊急事態が発生しました。B級以下の勤務者は全員退避して下さい。』
 リツコはロックを解除し、カスパーを展開した。
 カスパーの内部を覗いて見ると辺り一面に様々なコードが書かれた紙が貼り付けられていた。
 リツコ、マヤ、ミサト、ユイの4人は中に入った。
「開発者の悪戯書きだわ」
「凄い、裏コードだ。マギの裏コードですよこれ」
「…ナオコさんのメモか」
「宛らマギの裏業大特集って感じね」
「わ〜凄い、こんなの見ちゃって良いのかしら」
 マヤは楽しそうである。
「これなら、意外と早くプログラムできますね、先輩」
 リツコは頷いた。
「有難う母さん、これなら確実に間に合うわ」
「お母さんからのプレゼントね」
「ええ」
 その後、カスパー内部の様々な回路を引出し、別のコンピューターに接続した。
 暫くすると、少し上が騒がしくなった。
「何かしら?」
 メインフロアを見ると3人が作業服を着て戻ってきたようだ。
「あら、あの子達自分で戻ってきたのね」
「ホントね」
「じゃあ、私が、」
「お願いね」
 ミサトがメインフロアに上がってきた。
 3人を見ると、服はいずれもサイズが全然あわずぶかぶかである。
「まずは、御苦労様。特に今貴方達が何かすることはないから、その服着替えてきなさい、詳しい説明は戻ってきてからするわ」
 

 30分後、着替えて戻ってきた3人はミサトから説明を受けて眉をひそめてメインモニターに映るマギの勢力図と、サブモニターに映る使徒に目をやった。
「……あんな使徒がいるだなんて…」
「貴方達は万が一のことを考えて地上のエヴァの方に行ってくれる?」
「え?」
「ここにいても、特にすることはないし、万が一のことが起こったら事だしね」
「…ミサトさんは?」
「え?私?私は一応作戦部長だしね。見届けるためにここにいるわ」
「そう…幸運を祈るわ」
「ええ、又あいましょ♪」
 3人はミサトと別れて地上を目指すことになった。
 通路を歩きながら話をする。
「アスカ、多分今日はミサトさん帰ってくるの遅くなると思うし、夕食食べに来ない?六分儀君も良いわよね」
「あ、うん、良いよ」
 アスカは二人に視線を向けてくる。
「じゃ、おじゃまする事にするわ」
「ええ、ところで何かリクエストはある?」
「…そうね、ラーメンとか良い?」
「ええ、良いわよ…ところで、ラーメン好きなの?」
「そうね、結構好きよ」
「ふ〜ん、綾波ってラーメン好きなんだ」
「…意外だった?」
「ん?あ、そんなんじゃないんだけどね」
 3人はエレベーターに乗り込んだ。
 ドアが閉まり、上への加速と共に体が重く感じる。
「それよりも…失礼になるかもしれないけど…少し聞いて良いかな?」
「ん?良いわよ、」
「あのさ…最近、なんて言うかさ…その、前と変わらなかった?」
「……そうかもしんないわね、詳しくは言えないけど、レイのおかげって事だけ言っとくわ」
「碇の?」
 シンジはレイの顔を見るがレイの方はにっこりと微笑み返しただけで特に口を開きはしなかった。


 地上に到着すると、射出されているエヴァの近くのネルフが管理するビルに入った。
 空調が利いた部屋の中に、モニターがいくつか並べられていて、発令所のモニターと同じものが映し出されている。それらを見てみると、バルタザールの9割ほどが使徒に乗っ取られているようである。
「…大丈夫なの?」
「ちょっと俺達に聞かれても分からないな、俺達には赤木博士達を信じるしかないよ…」
 用意された椅子に座り、渡されたジュースを飲んで、成功を祈りながらモニターをじっと見つめる。
 それから半時間ほど立ち、殆ど乗っ取られたが、突然一気に押し返し、発光していた使徒も消えていった。
「やったの?」
 発令所から喜びの声が聞こえる。
「そうみたいね」
 みんな表情をゆるめる。


 夜、食卓に3つのラーメンが入ったどんぶりが並んだ。
「へ〜、美味しそうじゃない」
「これは、主に六分儀君が作ってくれたわ、私は軽く手伝いをしただけ」
 少し恥ずかしいのかシンジは頭をぽりぽりと掻いた。
「じゃ、じゃあ、食べよっか」
「ええ、」
「「「いただきます」」」
「ん〜、結構美味しいわね、」
「ええ、美味しいわね」
 二人から誉められシンジは頬を少し紅くさせながら又頭をポリポリと掻いた。

あとがき
レイ 「……」
YUKI「どうかされましたか?」
レイ 「…すこし弐号機パイロットが碇君に接近しすぎではないの?」
YUKI「そうでしょうか?」
レイ 「ええ…まあ、それは、私と碇君との間の接近がかかれていないからかもしれないけれどね」
YUKI「…そちらが言いたいことの趣旨ですか…」
レイ 「知らない…」
YUKI「まあ、次は…原作では嘘と沈黙に当たる話ですか、
     未だどういう話にするか決めていませんが…一応善処することにしましょう」
レイ 「非常に期待しているわね」
YUKI「……」(汗)
レイ 「…さよなら」
YUKI「……さて…どうしようかな……」