立場の違い2R

エピローグ

◆新たな歴史へ

 新しい生活から月日が流れシンジ、レイ、アスカの三人は揃って高校に進学した。
 そしてそれに続いて更にもう一つ生活環境の変化があった。六分儀がリツコと結婚したのだった。
 それまでもリツコは六分儀との関係は随分良かったし、実際に結婚に至るまででも、良く家に来て、色々とシンジやアスカと接してくれていたから、六分儀がリツコと再婚するというのは結構すんなりと受け入れることができた。
 それでも、シンジにとって母とはキョウコだけであり、リツコを母と呼ぶことはできないでいる。しかし、リツコはそれも当然だからと、それで良いと言ってくれてはいるが、どこか少しすまなさも感じてしまう。
「ああ、シンジ君待って」
 鞄を持ち靴を履き、いざ学校へ…と言うところでリツコから呼び止められた。包みを片手にぱたぱたと小走りにやってくる。
「あ」
「はい、お弁当忘れているわよ」
「ごめんなさい」
 シンジはリツコからお弁当を受け取って鞄にしまう。このお弁当はリツコが作った物である。
 リツコの手料理はそんなに凄いと言うほどの物では無いが、いつもちゃんと心を込めて作っているというのが良くわかる。ネルフの技術部門の長としての役目を続けてるが、ちゃんと家での家事をシンジと協力してこなしている。
 シンジはリツコにこんなに家庭的な面があるとは思わなかった。もっと仕事というか研究に没頭するような人間だと思っていたから、そう言った事が分かったときは随分驚いたものである。
 六分儀の方はネルフの長としてリツコよりもずっと忙しいようで、冬月やユイと共によく世界中を飛び回っているし、本部に泊まってしまう事もままある。しかし、戻ってきたときはその分最大限父親として接してくれている。だから多少寂しさも感じるが、家をよく空けることも構わないと思えている。
「今日はゲンドウさん達が帰ってくるんだから寄り道はしないでね」
「分かってますよ。それじゃ、行ってきます」
 リツコにそう言ってから家を出る。今日、六分儀とユイがヨーロッパから帰ってくる。今晩は6人揃って夕飯が食べられそうである。みんなが揃っての御飯はシンジ達も楽しみにしているのだから、真っ直ぐに帰って来るに決まっている。
 家の前では既にレイと一足先に家を出ていたアスカが待っていた。
「おっそ〜い!いったい何やってたのよ!」
「はは、ごめんごめん。お弁当忘れちゃって」
「全く、いっつもぬぼ〜っとしてるから悪いのよ、もっとしゃきっとしなさいよ、でないと一応妹って事になってるアタシが恥ずかしいじゃない」
「そうね…シンジ君がぬぼっ〜っとしていると私も恥ずかしい」
 アスカは腕組みをしながらそんな事を言い、レイは少し笑いながらそんな風にあわせてきた。
「も、もう、レイまでぇ〜」
「そう言われたくなかったら、その態度改めなさいよ全く、」
 そんな言葉のやり取りを交わしながら、学校への道を3人で歩いていく。
 その途中、ふと視界に空を飛ぶ一機のSSTOが入った。深く蒼に澄んだ空に濃い灰色の底部が見えている。
 方向から、第3新東京国際空港に向かっているのだろう。
「あ、あれ父さん達がのってるのかな?」
「今の時間だと…多分そう。夜が楽しみね」
「うん」
 3人は六分儀達が乗っているだろうSSTOが高度を下げながら東の山の向こうに消えていくまで見送っていた。
「あ!時間がないわよ!」
 アスカが腕時計の針を見て叫ぶ。
「え?うそ!?」
「ホントよ!」
 3人は学校に向けて走る。
 学校に着くまでの間中シンジとアスカがシンジが悪い悪くないと言い合い、レイはそんな二人を見ながらくすくすと笑っていた。


 その日は夕飯はやはり六分儀家のリビングで6人が揃ってとる事になった。
 リツコとシンジ・レイも色々と作ったが、余り時間がなかった事もあってメインは出前を取った。
「それじゃ、父さんとユイさんが無事に帰ってこれた事を祝って…乾杯」
 シンジが音頭をとって乾杯を行う。
 ………
 ………
 今日は久しぶりに6人揃っての食事で、しかも明日がフリーだからなのだろうか、六分儀はかなり気持ちよく飲んでいて、結構良い感じに酔って来ているようである。
「シンジ、もう一杯注いでくれ、」
「父さん、大丈夫?」
 注文されたとおりに六分儀のグラスにブランデーを注ぎながら聞く。
「問題ない。そんな事よりもシンジ、レイ。二人はいつ結婚するんだ?」
 六分儀が唐突にそんな事を言い出してシンジは思わず、口を付けたコーラを速攻で吹き出してしまった。
 吹き出した飛沫がその相手のレイにかかる。
「あ…」
「ご、ごめん!」
 慌ててタオルをとってきてレイにかかった飛沫を拭き取る。
「六分儀さんだめですよ、未だ二人は16なんですから」
「問題ない。法律は変えるために存在する」
「父さん何言ってるんだよ!」
「ああ、それは良いですねぇ〜」
 六分儀の飲み方に隠れて今まで気付かなかったが、いつの間にやらユイの方も結構酔っていたようで顔が真っ赤になっている。
「お母さん!」
「レイだって、シンジ君と早く一つになりたいんじゃないの?」
「そ、それは…その…もごもご……」
「はっきりせんな…まあ、だが、女なんだから仕方ないな。シンジ、お前は男だろう。はっきりとしろ」
「そ、そんな事言っても!」
「なんだ、女々しい女々しいとは思っていたが…」
「もっとはっきりしないと、誰かにシンジ君とられちゃうわよ」
 六分儀がシンジに、ユイがレイに絡み始めた。
「……良いの、あれ放っておいても?」
 巻き込まれないように少し待避したところで焼き鳥をつまみながらリツコに聞く。
「良いんじゃない?二人だって照れたり恥ずかしがっているだけで嫌がっているわけじゃないんだし」
「そんなもんかしらねぇ」
 今度は手羽先のフライを銜えながら、ぼそっと零す。
「そんなに嫌なら、孫の顔を見せろ!」
「もっと無茶苦茶な事言わないでよ!」
「二人ともちょっと奥手過ぎるわよ〜」
「私たちは未だ……」


 結局、土曜日から日曜日に泊まりがけでデートに行ってこいと言う事にされてしまった。
 六分儀は気持ちよく記憶の大半が吹っ飛んでいたようだが、この事だけはしっかりと覚えていたらしく、金曜日には電車の指定席から、遊園地のフリーパス、ホテルに至るまで全てが完全に用意されてしまっていた。
 何でこんな事になったんだろうなぁ等と心の中でぼやきながら、列に並び売店でソフトクリームを2つ頼む。
 代金を払って二人分のソフトクリームを受け取る。白いバニラ味と、ピンク色のストロベリー味、それぞれを両手に持ってレイが待っているベンチに戻る。
 レイは池の傍のベンチに座りながらレイは脇にいる猫と戯れていた。撫でられて猫は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
「はい……その猫どうしたの?」
 レイにストロベリー味のソフトクリームを渡し、猫を挟んで反対側に腰を下ろしながら尋ねる。
「この子の方から寄ってきたの。野良のよう」
「ふうん。やっぱり、レイは動物から好かれるんだね」
「ふふ……そうね」
「……僕もさわって良いかな?」
「良いと思う」
「うん。じゃあ」
 暫くシンジも一緒に猫と戯れていたが、いつまでも猫と一緒にいるわけにもいかないので、売店で猫が食べそうな物を買って与えてから猫と別れた。
 アトラクションの間を貫いている通路を歩きながら、次に楽しむものを探していく……
「次は何に乗ろっか?」
「あれなんかどう?」
「え゛?」
 シンジがジェットコースターが苦手な事を承知で加速度が世界記録と言うジェットコースターを指さすと、シンジは面白いように思った通りの反応を示した。
「くすっ。別のにしておきましょう」
「ん、もぉ〜」
 半分からかっているというのは分かっていたのだが、それでもほっとせずにはいられないシンジであった。



 そう言った新しい日常をみんな楽しんでいた。しかし、その日常はそう長くは続かなかった。
「dxを0に近づけていった極限が…」
 今日もいつも通りに家を出て、学校にきていつも通りに級友と談笑したり、授業を受けていた。そして今もいつも通り黒板が数式とそれについての説明や操作についての文章と図で埋め尽くされていた…しかし、
『2年1組、碇レイ君、六分儀シンジ君、六分儀アスカ君、至急職員室に来なさい』
「なんだろ?」
 授業中に三人揃って呼び出し、いったい何があったというのだろうか?クラスメイトたちも、何があったのだろうかと色々と勘ぐっているが、シンジ達にも予想ができないのだからクラスメイトに分かるはずはなかった。
「碇、六分儀直ぐに行ってこい」
「はい」
「なんだかわかんないけど急ぐわよ、」
「ええ」
 3人は教室を出て職員室に向かった。
 職員室に入ると直ぐに担任が声を掛けてきた。
「来たか。今、ネルフの方がみえている」
「ネルフ?」
 親はみんなネルフの幹部であるが、最近はシンジ達はネルフと殆ど接点を持っていない。いったいどんな用事なのだろうか?単にネルフから伝えたい事があると言うだけならば、電話でも良いし、電話で伝えられないような内容ならば、ネルフの幹部であるリツコを介せば良いだけである。
 シンジは少し首をかしげながら二人と一緒に職員室の横の応接室に通された。
 応接室のソファーには士官用の制服を着込んでいる日向が座っていた。日向はミサトの右腕として随分頑張っているらしく、詳しいところまでは聞いていないが出世したとも聞いている。
 その日向がどんな用事があってここにきたと言うのだろうか?
「あ、日向さんお久しぶりです」
 3人が向かい側のソファーに座り、先生が出て行ってから日向は口を開いた。
「3人には直ぐに本部に来て欲しいんだ」
「何があったんですか?」
「……司令達が乗った専用機が大西洋上で消息を絶った」
「「「……え……」」」


 久しぶりにやって来たネルフ本部ではみんなが慌ただしく走り回っていた。
 しかし、シンジ達の姿を見るとみんな動きを止めてしまう。大抵はそのまま声をかける事すらできず、会釈をしたくらいでどこかへ又駆けていく。それが、3人にとって事態が深刻なものであるという事を強く印象づけていた。
 総司令執務室ではミサトやリツコ達ネルフの幹部が深刻な顔で集まってきた情報や対策などについて話していた。
「あ、貴女達……」
 ミサトの口から集まっていた情報を伝えられた。
 六分儀達が乗ったSSTOが大西洋上空で通信を絶った。同時刻レーダーなどからSSTOの反応が消失していた。更に、大西洋の上空で多数の流星のような物が確認された。そして、先ほど反日テロ組織がネルフのSSTO爆破の犯行声明が出したという事である。
(テロ……)
 ネルフには敵が多いのは知っているし、六分儀自身にも敵が多いのも酒に付き合ったりしているときに愚痴として色々と聞いていたが、それがまさかこんな形で現れるなんて……シンジには実感が持てなかった。頭では理解しているのだろうが、六分儀達が無事でいて欲しいと祈るという事もしっくり来ないように……
 レイの方を見てみるとシンジとは違って随分暗い表情をしている。レイはシンジとは違って今の事が現実なのだと確かに認めているのだろう。
 沈み込んでしまっているレイ……シンジが支えなくてはいけない。シンジは本当の事だと思えないから、余裕があるのだが丁度良いかも知れない。今は余裕があるシンジがレイを支えなければ、
 まずはどうするか……このままここにいれば続報が入ってくる。それがどんな情報になるのかは分からないが、良い報せなら良いが、今のレイに悪い報せは聞かせたくない。
「レイ、あっちに行く?」
 だから、他の部屋に誘導する事にして執務室についているプライベートルームを指した。
「……うん」
 一言ミサト達に言ってから二人はプライベートルームに移動する。
 このプライベートルームには何度か入った事があるが、やはりこの部屋は六分儀の匂いがする。
 最近は本部を空ける事が多かったが、シンジ達と一緒に住むようになる前はずっとここで寝泊まりをしていたし、シンジ達と一緒に住むようになってからも、遅くなって本部に泊まっていくようなときは、いつもここを利用していた。だから、家の部屋よりもこの部屋の方が六分儀の匂いが強いかも知れない。
 何故なのだろうか、勝手に涙が出てきてしまった。涙のせいで視界に映るもの……六分儀が使っていた品々の全てが歪んでしまう。
「…シンジ君…」
 レイがシンジに体をピッタリをくっつけてきた。レイが不安…あるいは哀しいからと言うのもあったかも知れないが、シンジが涙を流していたから今こうしてくれたのだろう。
 伝わってくるぬくもりがシンジの気分をどこか癒してくれているような気がする。癒されるような物など何もシンジは感じていないはずなのに……その筈なのに……
「何なんだろうね。変だよね。僕、父さん達に何かあったなんて、全然実感なんか湧かないのに……なんで、涙が出てきちゃうんだろ」
 レイの目からも涙が溢れる。
 それからずっと二人は身を寄せ合いお互いのぬくもりで心を癒しあっていた。



 次の日には大西洋や西欧で六分儀達が乗っていたSSTOの破片や残骸が発見された。殆どは海中に没してしまったために、発見されたのは一部であったが、六分儀達の生存は絶望だった。
 即座に世界はテロを実行した組織やそれに繋がる組織、更にそれらを支援する国などを徹底的に洗い出し、追求が始まったが、その結果がどうなったとしても失われた命は戻ってくることはない……六分儀ゲンドウ、冬月コウゾウ、碇ユイ。
 六分儀リツコや葛城ミサトやその他の幹部は命を落とすことはなかったが、トップ3人を一度に失ったネルフは大混乱に陥った。最も、もはやシンジ達にとってその混乱もそれほど重要なことではなかったが、

 

 シンジとアスカの二人が六分儀の遺影と位牌が収められている仏壇に手をあわせている。
 リツコの姿は見えない。六分儀達の葬儀からも暫く経ったが、まだネルフの混乱は大きくリツコはミサトと共に事態の収拾に走り回っている。ネルフでは勿論落ち込んでいたり悲しんでいたりするところは見せないし、家でもシンジ、レイ、アスカといるときは気丈に振る舞っているが、一人になってしまうと多分誰よりも深く悲しみの海に沈んでいる。多分、反動という事もあるのだろうが……
 シンジとアスカだけでなくレイもユイを失っている。今やレイも家族同然になっているが、みんな肉親がもういない。
「ねぇ、シンジ」
「何?」
「お義父さんって、シンジにとってどんな存在だった?」
「……勿論良い父親だったと思うよ。何でそんなこと聞くの?」
「そっか、何となく訊いてみたくなかっただけだから」
「そう」
「…そろそろ行く?」
「そうだね。父さん、行ってきます」
「行ってきます」
 二人は六分儀に一言挨拶をしてから鞄を持って家を出た。
 特に事故以来、レイは六分儀家に泊まっていく事が非常に多くなっていたが、ユイの家をずっと開けっ放しにするわけにもいかないし、シンジとアスカが六分儀に手をあわせるように、レイもユイに手を合わせているのだろう。泊まっていかない事がある。今日はそんな日だった。
 碇家のチャイムを鳴らして暫くするとレイが鞄を持って出てきた。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよ、さ、さっさと行くわよ」
「うん」
 レイも頷いて3人一緒に歩き出す。いつも変わらぬ3人揃っての登校だが、交わされる言葉の数は少ない。事故以来特にからかったり、口喧嘩をしたりと言った事がまるでない。
 暫く3人とも黙って歩いていたその時、一機のSSTOが第3新東京空港に向けて着陸態勢に入っているのが目に入ってきた。
 あれに誰が乗っているのかは知らないが、六分儀やユイが乗っていないという事は分かる……それはみんな同じだったのか、自然にSSTOを無視して歩き始めていた。



 環境が落ち着いてきたある日、ミサトが話したいことがあるからと言うことでやって来た。
「いらっしゃい」
「御邪魔するわね」
 あの一件からは殆ど途絶えていていて、片手の指で収まってしまうくらいであるが、その前は普段からちょこちょこと暇なときには遊びに来ているミサトなので、わざわざそんな風に言ってくると言うことは重要な話があるのだろう。だから、ミサトを応接間に通す。
「飲み物を持ってきますね」
「ありがと」
 コーヒーとケーキを持ってくる。ミサト相手にこういう事をするのは本当に珍しいかもしれない。
「このケーキ美味しいのね」
「アスカが美味しい店を見つけてきたんです。最近、洞木さんと美味しい店を探しているんだって」
「ふ〜ん、そうなの…」
 最初は他愛もない話で、多少愚痴も聞いていたりもしたのだが、暫くしてミサトがその話という物を切り出した。
「実は、私が司令から預かっていた物があるの」
 鞄から一通の封筒を取り出してテーブルの上に置く。
「預かっていた物ですか?」
「ええ…司令の遺書よ」
「え?遺書?」
 シンジは封筒を手に取ってみる。何の変哲もない無地の封筒で中に結構な枚数の紙が入っていることしか分からない。
「開けて良いですか?」
「私に聞く事じゃないわ」
 六分儀の遺書?一応、葬儀の後色々と探したりもしたが財産の相続等に関して書かれた遺言状はあったが、それ以上の物は何も無かった。
 封筒を開けて中の紙を取り出す。
 それは確かに遺書だった。しかし、書いてある内容はとんでもない内容だった。
 人類補完計画、ゼーレ、ネルフ、リリス、アダム、エヴァ、そう言った単語が並んでいる。セカンドインパクトから始まり、E計画の裏側の話等、そして六分儀達は計画を利用してキョウコを復活させようとその計画の遂行に携わっていたこと。人類補完計画は一端途絶えはしたが、まだゼーレの老人達は諦めていないこと。六分儀達は老人達にとって利用価値があったから、暫くは生かされていた。そう言った舞台の裏側の真実と、六分儀のシンジ、アスカ、リツコ達、そしてキョウコへの想いが書き綴られていた。
「……これって、何なんですか?」
「私は見ていないけれど、多分舞台の裏側の真実と司令の想いでしょう。私はそれまで機密に全然関わっていなかったから、消されることはないだろうと言うことで、その遺書とその計画に立ち向かうことを託されたの」
 六分儀がミサトに託した事は、それが何だったのかこの遺書からわかる。
 だが、いきなりこんな事を伝えられても、シンジは戸惑ってしまうだけだった。六分儀達は、今の今までシンジをこういった真実から遠ざけてきたのだから……
「私はね。使徒との戦い、ずっと復讐の事を考えていたの。私のお父さんもお母さんもセカンドインパクトで死んでしまっていた。特にお父さんは南極にいたしね。だから、お父さんやお母さんの命を奪った使徒に復讐したかった。だから、ネルフに入ったんだし……」
「でも、そんな単純な話じゃなかったのよねぇ〜」
 ミサトは天井を仰ぎ、どこか過去を自嘲しているかのような口調で零した。
「私は結局掌の上で踊らされていただけ。その事は凄く腹立たしいけど、正直その事に拘っている場合じゃない……」
 どういう事なのかは、大凡推測する事ができる。この真実と現実には複雑なものがあったのだろうが、ミサトは過去をひとまず置いておき、今と未来を選んだと言う事なのだろう。
「これからの事、どうするのも全て自由。だけど……リツコのことはシンジ君達が支えてあげて欲しい」
 今回の事で一番深く悲しんでいるのはリツコである。勿論アスカやレイだって随分悲しんでいるけれど、同じ立場の者同士でいる事ができるから何とかやってこれた。しかしリツコはそうではない。確かにミサトという親友がいたし、家族もいたが、家族の前では気丈に振る舞い、このことでは親友はそこまで深く関わる事ができないでいるのだから……


 ミサトが帰っていった後、シンジは何度も六分儀の遺書を読み返した。
 シンジには分からない事やわかりにくい事も色々とあった。アスカやリツコへの想いの部分でもそう言った事があったから、その部分はそれぞれへ送ったメッセージという事なのだろう。これは、後で二人に渡さなければいけない。
 真実や状況のところは、シンジが知っている情報が間違っているか足りないからなのだろう。これは、ミサトやリツコに聞けば解決する話ではあるが……
「…これからどうしようか?」
 遺書を机の上に置いて、ポツリと呟いた。
 ミサトは六分儀達の意志を継いだ。リツコもそう。二人は六分儀達に代わって、ゼーレという巨大な存在に立ち向かっているのだ。
「僕も……」
 六分儀の意志を継ぎたい。六分儀はシンジ達の命と未来を守るために今まで頑張ってきた。それをついやしたり、ミサトやリツコ達に任せっきりにしておく事など出来ない。自分も関わっていきたい。
 この事をレイやアスカにも話してみる事にした。一人でやるよりも二人の力を借りた方が良い。それに、リツコを支えるという意味では、二人の力は何よりも大きい。


 ユイの家に行きリビングのソファーに向かい合って座る。
 雰囲気から何か真剣な話があるというのが分かっていたようで、レイは真剣な表情でシンジの話を待つ。
 シンジは碇の計画の事からゼーレ、補完計画…そう言った六分儀の遺書に書いてあった事と、ミサトに伝えられた事を一通り話した。
「…そう、」
 話し終わった後のレイの反応は大した物ではなかった。事情を知っていたのだろうか?
「知っていたの?」
「色々と……」
「そっか…」
「……でも、もっと時間があると思ってた。だって、お母さんも小父さんもそんな素振り、ぜんぜん見せなかったから……」
 レイの頬を涙が伝う……思い返してみれば、あの事故以来シンジの前でレイが哀しみの涙を流したのはほとんどない。それは事情を知らなかったシンジの前ではそれを押し隠していたからだったのだろう。それが、今はその必要がなくなったから……シンジはレイをぎゅっと抱きしめていた。レイのそんな配慮が凄く済まなく、そして同時に凄くありがたく思う。だから今度はレイを自分の胸で泣かせてあげた。
 二人とも本当にそんな様子はまるで見せなかった。六分儀と最後に会った時も、電話で話をしたときも、本当にいつも通りだった。だから、シンジも六分儀が死んでしまったと本当に認められるようになるのには時間がかかってしまった。
 ひょっとしたら六分儀やユイ達も自身も未だ時間があると思っていたのかも知れない。だが、早く二人の結婚式や孫の顔が見たいと言ったような事を酔うとよく口にしていたのは、こんな事が頭にあったからなのかも知れない。避けがたい物だったのなら、その前に二人に見せてあげたかった……冗談としか捕らえていなかったが、法律を変えてでもと言うのを肯定していたら……今更そんな事を思っても遅いと言うのがひどく悲しい……涙で視界が滲んでいく。


 どれだけそうしていたのだろうか、やがて二人とも泣きやんだ。
 悲しむのもの良い。だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。だから、今は…今だけは気持ちを切り替えて、これからの事を考え話さなければいけない。
 紅茶を淹れて一旦気持ちを落ち着かせる。
「レイ、」
「何?」
「一緒に二人の意志を継ごう」
 レイはゆっくりと、但し想いを込めて頷いた。
「アスカにも協力して貰いましょう」
「うん。それに、リツコさんを支えるのにも」
「ええ」


 事情とこれからの事を話すと、アスカは即快諾してくれた。
 むしろ、六分儀達を命を奪ったゼーレを絶対に許せないと言う事でシンジ達よりも積極的になるかも知れないと思わせるような雰囲気であった。このあたりは、大切に思っていたかどうかと言うよりも性格に起因するのだろうが、何にせよ、これで3人が協力して行く事が決まった。
 ……そしてリツコ、リツコを支えるというのはどうしていったらいいのだろうか?
「……リツコさんを支えるか、どうしたら良いんだろう?」
「私たちが、計画の協力するという事だけでも、随分大きいと思う」
「どうして?」
「私たちの前で、無理に気丈に振る舞う必要が無くなるから、弱い面を見せてくれると思う」
「そうすれば、それを支える事ができるってわけね」
「ええ」
「うん、そうだね」
「あ、父さんの遺書…」
「遺書?」
 アスカにも見せなければいけないと思っていたのに、忘れてしまっていた。
「父さんの遺書をミサトさんから渡されたんだ。これに、アスカやリツコさんへの想いも書いてあった」
「アタシにも?」
「うん」
 六分儀の遺書を手渡す。
「……お義父さんから……」
 アスカは遺書を読み始めた。
 最初は舞台の裏側の真実…先ほど話した内容である。読み進めアスカへの想いが書かれたところに達すると途端表情が物凄く真剣になった。そして、アスカへの部分を読み終わると、後は流し読みだけで遺書を机の上に戻した。
 暫くそっと目を閉じ六分儀との想い出に浸っていたようだが、再び目を開けたとき、アスカの目は決意と自信に満ちていた。
「絶対にやり遂げるわよ」
「うん」
「ええ」
 リツコの車の音がしてきた。今夜は帰ってきたようである。
「早速、帰ってきたみたいだね」
「ええ、」
「じゃあ早速リツコに話す事にしましょ」
 帰ってきたリツコに六分儀の遺書を見せ事情を知っていると言う事を示した。
 話が終わるとリツコは一つ大きく息をついた。
「……ゲンドウさんの遺書があったの」
「はい、ミサトさんが預かっていたんです」
「そう、ミサトが…」
「それと、父さんの遺書には、リツコさんへの想いも書いてありました」
「私への想い?」
「はい」
「…貸してくれる?」
 リツコはシンジから六分儀の遺書を受け取って目を通し始めた。
 舞台の裏側の真実などが書かれている部分は読む必要がない事ばかりで斜めに読んでいく。一方それぞれへの想い……特にリツコへの想いとキョウコへの想いは熱心に読んでいる。
 暫くして読み終わり、遺書をシンジに返す。
「…3人も協力してくれるの?」
 3人揃って肯定の返事を返したが、リツコは一つ息を吐いてからもう一度問い直してきた。
「ゼーレと争っていく手だては、ゲンドウさんやユイ博士達が残してくれたわ。でも、相手はとても巨大な存在よ、敗北すれば当然。ゲンドウさん達みたいに負けはしなくたって、命を落とす事にもなりかねない…それでも良いの?」
「はい」
 レイも頷き、アスカは当然と返す。
「分かったわ。一緒にゲンドウさん達の意志を継ぎましょう」


 翌日、計画に協力するという事を伝えるためにミサトの執務室を4人で訪れた。
「いらっしゃい」
 ミサトはシンジ達が来るのを待っていたようで、直ぐにコーヒーやお菓子が出てきた。
 5人分のカップにコーヒーが注がれ良い香りがしている。
 シンジは一口だけコーヒーの口を付けてから即本題を切り出した。
「ミサトさん。僕達にも協力させてください」
 シンジの言葉でミサトはにっこりと笑みを浮かべた。
「ええ、一緒に協力していきましょう」
「三人の協力は大きいけれど、残された時間はそう多いわけじゃない。これからが大変ね」
「ええ、丁度もうすぐね…」
 既に国際宇宙ステーションの建設計画は始まっている。
 そして、今まさに計画が実行に移されようとしている。テレビを付けると、そのステーション建設のための大型SSTOの離陸準備の中継が映っていた。
『国際宇宙ステーションの建設の先発隊となる新型シャトルの離陸まで、後僅かに迫ってきました』
『セカンドインパクト、エンジェルインパクトと言う相次ぐ危機を乗り切った人類が再び宇宙に飛び出そうとしているのです』
 宇宙開発には主要国や企業達にも様々な思惑があるのだろう。ゼーレはそれらを利用して、ゆくゆくは槍を回収しようとしている。それがいつの事になるかは分からないが、どんな事をしても必ず補完計画を防がなければいけない。
 離陸の時間になり、テレビモニターの中でSSTOが離陸し深い青に澄んだ大空へと上っていった。







あとがき
アスカ「完結したわね」
レイ 「そうね…これは、立場の違い2R2に続くの?」
アスカ「続きがあるのかないのかはしんないけど、
    そんなタイトルじゃない事だけは間違いないわね」
レイ 「そうね。タイトルが何になるかは関係ないけれど、続かなくては駄目よ」
アスカ「いや、ここで打ち切っておいたほうが良いんじゃない?
    こっから続けたって、蛇足になるだけよ」
レイ 「いえ、必要よ、ここから真のLRSが始まるんだから」
アスカ「LRSなんて溢れてるじゃないのよ、そんなのどうでも良いわよ、それよりもLASよLAS」
レイ 「LASね…」
アスカ「あによ?」
レイ 「……良いわ、2Rでは貴女は最初は随分酷かったのに、
    最後はちゃんと家族に収まってしまったわね」
アスカ「ま、最初はYUKIのバカがアレだったからねぇ、
    その割には良くこんな風になったもんね
    YUKIがアタシの魅力に気付いたって事かしらね?」
レイ 「一応2Aの方が先だからそうじゃないとは思うけど」
アスカ「そう言う意味では、アンタの方は、途中からあんまりかわんなかったわね」
レイ 「だからこそ、真のLRSを始める必要があるのよ」
アスカ「はいはい、わかりましたよっと」
レイ (むっ)
アスカ「まあ、いいじゃない」
レイ 「……次は「復讐…」?」
アスカ「じゃない?いい加減完結させなさいよってとこね」
レイ 「「復讐…」はLRSね」
アスカ「いや〜案外、そうはいかないかもよ」
レイ 「…どうして?」
アスカ「……結局レイラさんは綾波じゃないんだ。綾波はもういないんだ…
    みたいな感じでシンジが呟いて、家出しちゃうとか」
アスカ「ま、それもある意味レイ×シンジなのかも知れないけど、ラブラブじゃないわよねぇ〜」
レイ 「……それはないわ」 
アスカ「そこで、アタシが登場するのよ傷付いたシンジをアタシが優しく癒してあげて」
レイ 「…今の二人の状態からどうやってそう持って行くの?」
アスカ「そんなの、シンジがどん底まで落ち込んで、公園のベンチにいるのを私が見掛けて、
    いったいそんなところで落ち込んで何やってるわけ?
    見たいに聞いて、そこから新しい話が始まるのよ」
アスカ「ぽつりぽつりと真実を語るシンジ……そこをアタシが受け入れてあげれば完璧よ」
レイ 「可能性は限りなく低いわね」
アスカ「でも、可能性は0ではないって事よね?」
レイ 「極限は0よ」
アスカ「どうかしら?」
レイ 「隕石が落ちてくる事を心配して道を歩いてはいられない。そう言う事ね」
アスカ「歩道にダンプが突っ込んでくる事もあるから注意しなさいね」
レイ 「運転手が貴女でなければ気にしなくても大丈夫ね」
アスカ「ふふふ、そう。どうなるのか楽しみねぇ〜」
レイ 「そうね」
アスカ「くすくす」
レイ (……何を企んでいるの?)