プロローグ

 早く着きすぎた。
 入学式そのものの開始前にもいろいろとあるが、それにしてもあまりに早く着きすぎた。校内には入学式の準備なのだろうか、慌ただしく動く人をたまに見かけるだけだ。かすかに聞こえてくる楽器の音色は、音楽と呼べる状態ではなく、それぞれが音を確かめている程度なのだろう。
 クラス分けの表で自分のクラスが一年椿組だと確認し、案内の張り紙にしたがって、これから一年間過ごすことになる自分のクラスに到着。
 ご丁寧に机一つ一つの隅に名前のシールが貼られている。『細川可南子』のシールが張ってあった席に荷物を置いて腰掛けると、早くもすることがなくなってしまった。
 まだかなりある時間をどう過ごすか思案を巡らせ……このリリアンの校内を散歩してみることにした。
 ……
 ……
 あまり人気のなさそうな道を選んで進んでいくと、一人の生徒がたたずんでいることに気づき、思わず立ち止まってしまう。彼女の、その憂いを帯びたような表情は、足を止めるだけのなにかがあった。今が秋だったら、さぞかし絵になったように思う。
 新しい生活に心を躍らす新入生とも、その新入生を受け入れるための準備にいそしむ在校生ともずいぶん違う、そんな雰囲気だったのだ。
 この人は、いったい何があって、こんな寂しい場所で、そんな表情を浮かべているのだろうか?
 そんなことを考えているうちに、彼女は軽く目をつむったかと思うと、深呼吸をして再び目を開いた。
 その表情はとても美しかった。
 何か強い決意を秘めているのが誰の目にも明らかなほどりりしく、そして格好いい。カトリック系の学園で言うのも何だが、例えるなら……戦女神、それがふさわしい気がした。
 彼女は私には気づかないまま校舎の方へと歩いて行く。
 私はその姿が完全に見えなくなってしまうまで、その場に突っ立って見ていることしかできなかった。
 圧倒的な強さと気高さ……あのような人がいるなんて。
 ほんのわずかな時間の間に私は魅せられてしまったのだった。


「白薔薇さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 昨日のあの人に数人が整列して挨拶をしていた。それに応える優しい微笑みは、まるで天使のよう。
 『ごきげんよう』はこのリリアンの挨拶の言葉だが『ロサギガ何とか』とは何のことだろう? 他のグループも同じように呼んでいる。
 『ロサ……ギガンティア?』はどうやらあの人のことのよう……日本人のように見えるが、ひょっとして違ったのだろうか?
 そんなことを思った二日目の朝の登校。
 そしてその疑問は、日をまたがずに解けることになった。
 リリアンの何%かは善意と親切心でできている……そんな事すら思うところがある。昨日の入学式のあとも、あれやこれやと皆そろって親切心の押し売りをしてきたものだ。
 そして、今日も……
 うっとうしいという表情を隠さず前面に出していれば、普通ならそっとしておこうと思うものだと思うが、ここではそんな考えは通用しないらしい。
「わからないことは、なんでも聞いてください!」
 言葉のままの態度にため息をつきかけたが、ふと、あの人のことを思い出した。それで、聞いてしまったのは果たして正解だったの不正解だったのか……
 私からのほとんど初めての質問に気をよくした彼女は、あの人……福沢祐巳さまの話に始まり薔薇さまやら、山百合会やらの話を始め、さらには山百合会幹部それぞれの話まで頼んでもいないのに始めてしまった。おしゃべりが好きな人。そう考えておこう。
 彼女の言葉を左の耳から右の耳に通しながら、話してくれた中で私に有意な話……あの人のことを考える。
 あの人……いや、あの方と呼ぶべきなのだろう。
 名前は福沢祐巳さま。入学式でも数少ない在校生の席に座っているのを見かけたし、それなりの立場の方かもしれないとは思っていたが、『白薔薇さま』というこのリリアンの三人の生徒会長の一人だった。しかも、他の二人は三年生で、祐巳さま一人だけが二年生。彼女の熱っぽい言葉を聞いていれば、それがいかにすごいことであるのかよくわかる。
 休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴った。
「残念だけれど、ここまでですね。何でもお話ししますから、遠慮なくお聞きになってね」
 そういって、彼女は自分の席に戻っていった。
 祐巳さまについて語った内容でも、意味がよくわからない内容が多分に含まれていた。
 語る側も承知の上で、途中途中にいろいろ用語解説も加えてくるのだが、あのようにマシンガンのごとくそれをやられると、取捨選択のしようもなく、大半を聞き流すしかない。
 祐巳さまのこと、それに付随する話なら聞いてみたくもあったが……あの止まらない・止められない語り相手では悩ましい。


 結局、これといって祐巳さまの情報を手に入れることも数日が過ぎてしまった朝、登校途中にビラ配りを見かけた。
 昇降口の前で紙の束を抱えた生徒が配っている。
 新学期だしどこかのクラブの宣伝だろうと思ったが、その割にはみんながむしろもらいに行っている。
 近づくと、それが学校新聞の配布だとわかった。
 みると、もらったみんなが熱心に読んでいる。どうやらこのリリアンでは学校新聞は人気のようだ。
「はい、あなたもいかが?」
 ピンポイントで差し出されてしまった。駅前で差し出されるティッシュのようにそのまま無視して通り過ぎようとも思ったが、ちらりと祐巳さまが写っている写真が載っているのが目に入り、自然と手に収まっていた。
 幾分早足で廊下を歩く。学校新聞を読みながらゆっくりと歩いている人たちを追い越し、教室の自分の席について学校新聞を広げた。
 そこには祐巳さまが、リリアンの表舞台に登場するきっかけになった話が書かれていた。
 去年の秋、先代の白薔薇さまである佐藤聖さまに見いだされ、姉妹体験なるものを通して本当の妹……白薔薇のつぼみになったという。
 書いてある以上の余計なことを語ろうとしない、そんな記事だった。新聞のあり方として好感は持てるが、今、この時点だけで言うなら、若干残念だった。
 姉妹制度を含めて、入学式の日に怒濤のごとく聞かされ抜けていった知識が、このかわら版によってかなり補充することができた。


「可南子さん」
 そして、またある日の朝。入学式から連日、親切の押し売りをしてくる人たちの一人にして、もっともこちらから声をかけようとは思えない人が、なにやらいつも以上の笑顔で私のところにやってきた。
「……なんです?」
「ふふ、可南子さん白薔薇さまのことが好きですよね?」
 別に否定することでもないが、なぜそんなことをそんな楽しそうに言うのか理解できない。
「可南子さんったらいつもつまらなそうなのに、祐巳さまの話の時だけは違うんですもの。かわら版を熱心に読んでいたのだって、祐巳さまの話だったからでしょう?」
 よく観察されていたようだ。つまらなさそうだというのがわかったのなら、そっとしておいてほしいが、彼女たちにそんな考えは通用しないというのはさすがに分かっている
 ここで肯定しようものなら、このチャンスを逃すまいとばかりに、親切の押し売り攻勢が始まるのは目に見えている。祐巳さまのことを知りたいのは事実だが、あまりのうっとうしさが目に浮かぶだけに、ここはノーコメントを貫くことに決めた。
 しかし、それはわずか数秒で打ち破られることになってしまった。
「そこで、私は可南子さんのために、白薔薇さまの話が載ったかわら版のバックナンバーを持ってきました!」
 じゃーん!とか言って何枚ものリリアンかわら版が入ったクリアファイルを見せてきたのだ。
 自然とゴクリとつばを飲み込んでしまっていた。
「やはり、でしたね。はい、可南子さん」
 クリアファイルを差し出され、受け取ってしまう。後にして思えば、リリアンかわら版すべてに興味があるという顔をして、新聞部に直接バックナンバーを借りれば良かったのだ。これだけ生徒に人気の学校新聞なのだから、さほど不自然でもないだろうし。
 しかし、このときの私にその後のお節介だのなんだのを考える余裕はなかった。
「それらはコピーですから差し上げますわ」
「……ありがとうございます」
 とりあえず満足したのか、鼻歌を歌いながら去っていく彼女に目もくれず、早速目を通し始めた。
 編集者が違うのか、書き方がセンセーショナルで、普段ならそれだけで目をしかめるような記事も、ことあの方のことに関しては、よりそのすごさ、すばらしさを輝かすスパイスに思えてしまった。
 山百合会幹部になって、わずか三ヶ月で迎えた選挙。合唱部の歌姫である蟹名静と激戦を繰り広げた末、わずか一票差で当選を果たした。
 そこからわずか二ヶ月で、お姉さまは卒業してしまう。そのお姉さまはリリアンの大学にいるとも書かれていたが、別れは別れ……
 そうか! そういうことだったのか。
 今にして気づいたが、初めてお見かけした時、祐巳さまの視線の先にあったのは大学の校舎だった……姉妹になってほんのわずかなひとときでお姉さまが高等部を去り、二年生にもかかわらず白薔薇さまとしてリリアン高等部を率いなければいけない。その寂しさ、そして決して大きくない肩にのしかかる責任感、そう言ったもろもろのものがあったのだろう。そしてしばしのあと、再び決意を固めて歩き出した。それが忘れることのできない表情に現れていたのだろう。
 昨年度の最終号である年度の総集編に書かれていたように、姉妹体験の話が出るまで誰にも注目もされたことがない平々凡々な一生徒に過ぎなかったとしたなら、生徒会役員選挙までの三ヶ月、さらにはそれから今までの二ヶ月半で、いったいどれほどの成長をしたというのか。
 きっと、祐巳さまははじめからそれだけのものを秘めていたに違いない。けれど、その大輪のつぼみは固く閉じていたから、誰も気づかなかっただけ。いまやその光の花が開き、多くのものを照らしているのだ。
 私も、祐巳さまに照らしていただけたら……そんなことを思う。


 二条乃梨子……彼女がうんざりしているのは、私がそうであったから容易に見て取れた。
 私の方は「少し変わってらっしゃる」という実にありがたい評価が定着し始め、だいぶ下火になったが、彼女の方はまるで変わらず。
 いいこぶって丁寧に対応しようとするから、彼女たちの親切の押し売りはやまない。迷惑なら、それなりの態度を貫けばいいのに、そうしないから、あんな風に連日何人もが入れ代わり立ち代わりやってくることになる。
 さらには祐巳さまとの姉妹体験なんて話が飛び出してからは、その話に興味を持った人たちも集まってきて、見世物に近い。とはいえ、あれは自業自得というやつなのだろう。
 そんなことを考えていたが、彼女が祐巳さまと本当に姉妹体験をするなんて事になった時は、本当に驚いた。
 まさか、お姉さまを失った寂しさを穴埋めするために妹を……そんなわけない!
 あれほどの方が、そんな安易に特定の者のお姉さまになるはずがない。何か別の理由があるに違いない。
 姉妹や白薔薇のつぼみについて、知れば知るほどのその重みがわかる。
 祐巳さまはこのリリアンにいるものすべてのお姉さまなのだ。
 

 あれは、祐巳さま?
 本当に姉妹体験を始めた、そんな記事がリリアンかわら版に掲載されてから数日たったある日の放課後、日本史の課題を調べるため、図書室に行き、本棚を適当な本がないか探していると、祐巳さまを見つけた。
 祐巳さまは精一杯背と手を伸ばして上の段にある本を取ろうとしていた。
 しかし、あと一歩のところで届かない。
 いつもはうっとうしく感じるこの身長も、こんな時ならお役に立てる。祐巳さまのお手伝いをしようとそちらに向かったが、同じ事をしようとしていた人がもう一人いて、先を越されてしまった。
 その人は祐巳さまの横からすっと祐巳さまの目当ての本を取った。
「あ……」
「はい。祐巳さん」
「ありがとうございます」
 祐巳さまは本を受け取る。
「すみません。あいにく踏み台がみんな使用中で」
「そういうときは順番を待ってちょうだいね。祐巳さんにけがでもされてしまったら、私の方が困ってしまうわ」
「すみません」
 恐縮する祐巳さま。
 何を祐巳さまに説教のようなことを言っているのか。
「ちなみに、この前の本だけれど、書庫の方でいくつかいいのを見つけたからあとで寄ってちょうだい」
「ありがとうございます。それなら今からいいですか?」
 書庫の方? どうやら図書委員かなにかのようだ。ならば、立場上仕方ないかもしれない。すると、悪いのは祐巳さまがふみ台を必要としていたのにもかかわらず占有し続けたものたちということになる。
「あらそう。それなら行きましょう」
「それにしても静さまには本当にお世話になりっぱなしですね」
 静?
 リリアンかわら版に載った顔写真を思い出した。そうだ。祐巳さまと白薔薇さまの座を争ったロサ・カニーナこと蟹名静だ。
「いいのよ。好きでやっていることなんだし。でも、これからも時々でいいから図書室にも顔を出してね。祐巳さんが二年生になって音楽室の掃除に来てくれなくなったから、ちょっと寂しいのよ」
「あー、善処します」
 二人はそんな話をしながら書庫の方に歩いて行った。さっきのやりとりからロサ・カニーナが祐巳さまと会えたことを喜んでいたように思える。これは……
「祐巳さまはロサ・カニーナを取り込んだ?」
 うん、ロサ・カニーナに祐巳さまの魅力を認めさせたに違いない。そして、白薔薇さまを争う敵から、その魅力に惹かれるものの一人にしてしまったのだ。二人のクラスやクラブ・委員会など多くの支持者を巻き込んでの激戦が繰り広げられたというからには、遺恨やら何やらがあっただろうが、祐巳さまの魅力の前にそんなものは関係なくなったということだ。
 なんというお方なのだろう。


 5月の大型連休が終わりを告げてからのある日、昼休みももう半分を過ぎたころだろうか、外を歩いている祐巳さまを見つけた
 この時間にあまり人が行くような方向ではなかったが、なんと言っても祐巳さまは白薔薇さま。この学園の高等部のどこにでも用事はころがっているものかもしれない。来週の月曜日は新入生歓迎会があるし、それに向けての準備か何かかもしれない。
 ひょっとしたら私が何かお役に立てるようなこともあるかもしれない。この前の図書室ではお手伝いをし損ねてしまったが、今度こそ。
 祐巳さまのあとについて歩き始めて少したった時、祐巳さまが何もない並木道で急に立ち止まった。
 なんだろう? 斜め後ろ気味から祐巳さまのお顔を見てみると、とても幸せそうな顔をしていた。
 その周りを虜にする笑顔に引き込まれるのをぐっとこらえて、祐巳さまの視線を追ってみた。すると、その先には大きな木の下に紅薔薇のつぼみと乃梨子さんの二人が座って仲よさげにおしゃべりをしているではないか。
 個々の姉妹関係などどうでもいい。祐巳さまは、かつての敵ですら虜にする学園全体のお姉さまというにふさわしい方なのだから。
 とはいえ、その祐巳さまのお膝元で妹体験をしている彼女が、他の薔薇さまの妹と姉妹のように仲よくしているとは不敬きわまりない……とまで思ったのだが、そんな考えはすぐ吹き飛んでしまう。
 気を引き締めてこらえないといけないくらい、祐巳さまの微笑みがまぶしすぎるのだ。
 なぜ、あなたはそこまで幸せそうにしていられるのですか?
「どうして」
 しまった。笑顔に気を取られすぎて、声を出してしまった。
 い、いったい、どうすれば。どうか聞こえていませんように。
 しかし、そんな願いも空しく、しっかり聞こえていたらしい祐巳さまはこちらを振り向き……
「……うん? あ、なんでしょう?」
 私を見上げながら、ちょっと焦ったように口調を変えた祐巳さまが可愛らしくて、緊張がほぐれていくのが分かった。
「一年生です」
「あ、そうなんだ。で、何かな?」
 祐巳さまのおかげで、意識してしまったら固まらざるを得ない初会話の出だしをスムーズにすることができたので、思い切って聞いてみることにした。
「白薔薇さまがご覧になっていたのは、紅薔薇のつぼみと二条乃梨子さんですよね?」
「うん、そうだけど……あ、私、そんなに長いこと二人のこと見てた? 恥ずかしいなぁ」
 頬をぽりぽりとかきながら答えてくださる祐巳さまがまた絶品なのだが、祐巳さまに誤解させたままなのは失礼極まりないので、慌ててフォローする。
「い、いえ、たまたま通りかかって、何をご覧になっているのか気になりまして……」
「そうだったんだ。いや、二人が幸せそうでうれしくてさ。うん、仲良きことは素晴らしきかな」
 うんうんと頷きながらそうおっしゃる祐巳さま。そこに嘘やごまかしは全く見受けられなく(そんなことをする方ではないのは当然だが)、心の底から二人の様子に満足しているようである。
 なんという懐の広さ。祐巳さまは、いったいどこまで器が大きいというのか。
「えっと、ごめんなさい。予鈴が鳴る前に寄るところがあるから……」
「あ、いえ、こちらこそ急に呼び止めてしまい、失礼しました、白薔薇さま」
「ううん、じゃあね」
 そういって笑顔で去っていく祐巳さまを、姿が見えなくなるまで見送っていた。


「両天秤?」
「そう、そういう話よ。白薔薇さまの大ファンであるあなたにとっては許し難いことではない?」
 彼女にとってはいつもの親切心なのだろう。だが、その言い方や態度からは、親切心とは到底言えそうにない暗いものを感じるとることができる。この人は祐巳さまか、あるいは紅薔薇のつぼみのファンの一人だったのだろうか?
「ばかばかしい。乃梨子さんがお二人を秤にかけるなんて事ができるわけがないでしょう」
 あの二人の姿をみる祐巳さまのあの幸せそうな顔。乃梨子さんがあれだけの方を秤に乗せられるような存在なはずがないし、それでも無理に乗せようとすれば、その秤が壊れるだけだ。
「でも、乃梨子さんは志摩子さまのお弁当のおかずをいただいたりしたのよ。あんなの普通できないわよ」
「それは乃梨子さんが、もの知らずでうかつすぎるだけでしょう」
 そう言いつつ、乃梨子さんが彼女の言うようなおろかな人でないことを祈る。むろん、乃梨子さんのためではなく、祐巳さまのあまりにも広大な懐を利用して、妹を体験していたなんてことになったら、祐巳さまを汚しかねないからだ。
 彼女は私の言葉に黙り込んだ。
「そんなことよりも、そろそろお聖堂に行かなければいけないのでは?」
「あ、そう。そうね。参りましょう」
 ……
 ……
 そして、祐巳さまたちが開いてくださった新入生歓迎会ではとんでもないことが起こってしまった。
 祐巳さまが笑いものにされている。
 お聖堂中のものが祐巳さまのことを笑っている。
 先ほどからくり広げられていた宗教裁判めいたものや、今の祐巳さまの行動にどんな意味があるのかはわからない。だけど、どんな理由があろうとも私にはとても耐えられなかった。
 なんとしても止めさせようと列を飛び出したところで、黄薔薇さまが「そんなことあるわけないでしょう、白薔薇さま。でも二人とも、私物の持ち込みは気をつけましょう。瞳子ちゃんもそれでOK?」と話をまとめてしまい、私には何もできなかった。



 第一話へつづく