暗闇

◆第1話

少年、碇シンジは、支援をしてくれている皇耕一から呼び出され第3新東京市に向かっていた。
「・・会長か・・・」
シンジは再び手紙に目を通した。
耕一の仕事を手伝ってもらいたい事、内容は機密事項の為に手紙では伝える事は出来ない。直接来て、決めて欲しいとの事、
「・・・僕なんかに何をさせるつもりだろ?」
列車はトンネルを抜け箱根に入った。
遠くに第3新東京市が見える。
『特別非常事態宣言発令の為、次の駅にて停車します。』
「特別非常事態宣言?」
結局、全ての機関が止まってしまい、シンジは、駅の前で迎えを待つ事に成った。
「・・蘭子さんか・・」
第3新東京市駅まで迎えに来る蘭子は、シンジの記憶では耕一の主席秘書官だった筈だ。


第3新東京市市内、
白色のスポーツカーが無人の市街を凄まじい速さで走っていた。
「会長の判断は正しかったわね」
蘭子は、蘭子の車では無く耕一の車を運転していた。
ギアを8速にいれ、更に加速した。
あの、ミサトでさえも真っ青に成るであろう速さである。
メーターはデジタル表示だが、上桁が4になっているのは気のせいだろうか・・・
蘭子はシンジがいる筈の駅に向かっていた。


駅前、
爆音が響き、シンジは耳を塞いだ。
そして、暫くして、山陰から、サキエルが姿を表した。
「・・な、なんだよ・・あれ・・・」
何か警告音が鳴り、地面が口を開け、白色のエヴァ参号機が姿を表した。
「・・・どうなってるんだ・・・・」
そしてそのままサキエルと参号機が戦闘を始めた。
衝撃波がシンジを襲う。
シンジ目掛けてビルが倒壊して来た。
「うわあああああ!!!!」
しかし、いつまでたっても、衝撃がこない、恐る恐る目を開けると、エヴァがビルを支えシンジを救っていた。
「・・あああ・・・」
轟音を轟かせ蘭子が駆るスポーツカーが突っ込んで来てシンジの横で急停車した。
「乗って!!」
シンジは運転しているのが蘭子だと分かり慌てて飛び乗った。
蘭子はシンジが乗ると同時にアクセルを踏み込んだ。
凄まじいGが掛かる。
蘭子はギアをどんどん切り替え凄まじい速度で戦場を逃げ出した。
「あの・・・助かりました・・・」
「・・・お礼なら」
後方で凄まじい光が光った。
「きゃ!」
「うわあ!!!」
ゲートに飛びこみ何とか衝撃波からは避けられた。
蘭子の表情はかなり暗い。
「あの・・蘭子さん・・」
「急ぎましょう」
蘭子はトンネルを突き進んだ。
やがて、ジオフロントに入った。
「・・・ジオフロント、」
「そうよ、ここが、人類最後の砦、第3新東京市よ」
そのままネルフ本部の駐車場に車を止め、中に入った。
「歩きながら説明するわね、」
「はい」
「先ず、ここは、あの、使徒と呼ばれるさっき見た怪物を倒す為に作られた組織、ネルフと言うの」
「ネルフですか、」
「ええ、で、その兵器が、さっき見た。ロボットみたいなもの、汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン。」
「・・エヴァンゲリオン・・」
「そして、」
ケージ司令室に入った。
丁度、回収された参号機から、レイラが救出されたところだった。
「・・・レイラ?レイラ!!」
シンジはガラスにへばり付いて叫んだ。
「じゃあ、さっきの!?」
「恐らくは・・」
ケージに耕一が走りこんで来た。
医師達がレイラに近寄ろうとする耕一を制し、レイラを処置室に搬送した。
「シンジ君、貴方に頼みかった仕事とは、あの、ロボットの4番目のパイロットになって欲しかったの」
「4番目?」
「ファーストチルドレン綾波レイは、重傷で入院中、セカンドチルドレン惣流アスカは、ドイツ、そして、サードチルドレン、レイラ様は・・先ほどの戦闘で負傷・・・」
「・・・僕が?」
耕一がシンジ達に気付いたようだ。
『蘭子、説明は?』
「一応は、」
『シンジ、頼む、エヴァに乗ってくれ』
シンジは少し迷ったが、レイラが負傷してしまったのは自分のせいである以上、自分には責任があると考え承諾した。


その後、シンジはリツコから簡単な説明を受けた後、初号機に搭乗した。
『冷却完了、ケイジ内全てドッキング位置。』
『パイロット・・・エントリープラグ内コックピット位置に着きました!』
『了解、エントリープラグ挿入』
『LCL排出開始』
『プラグ固定完了、第一次接続開始!』
『エントリープラグ注水』
突然足元からLCLが満たされ始めた。
「なっ!な、何だこれ!!」
驚き怯えるシンジを無視して液体は直に頭の上まで満たされた。
『心配しないで、肺がLCLに満たされれば直接酸素を取り込んでくれます。』
シンジは息を止めていたが、我慢できずに空気を吐いてLCLを飲み込んでしまった。
確かに息は出来るようだが、
「・・・・ぎぼち悪い・・・」
『我慢なさい!男の子でしょう!!』
作戦副部長のミサトが言い放った。
(男女差別だ〜)
『葛城1尉、今度君も試してみるか?』
耕一がミサトに尋ねた。
『え・・・いや、あの、その・・もじもじ』
ミサトは当然無視されて行程が進んでいく。
『主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート、シナプス挿入』
周りの壁に突然文字や幾何学模様や様々な模様が現れた。
『A−10神経接続異常なし、初期コンタクト全て問題無し。』
今度は、壁に回りの映像が映し出された。
『全ハーモニクスクリアー、シンクロ率42.63%、暴走、有りません。』
『エヴァンゲリオン初号機発進準備!』
榊原の声が響いた。
『第一ロックボルト外せ!』
『解除、続いてアンビリカルブリッジ移動!』
周りの物体が動いていく。
『第一、第二拘束具除去』
『第3第4拘束具除去』
『1番から15番までの安全装置解除。』
『内部電源充電完了、外部コンセント異常なし。』
『エヴァンゲリオン初号機、射出口へ。』
エヴァが移動し始めた。
そして止まった。
『進路クリアー、オールグリーン!発進準備完了。』
『碇シンジ君、戦う覚悟は良いか?』
シンジは少し迷ったが、決めた。
「はい」
『では、これより作戦を開始します。宜しいですね』
『ああ』
『発進』
榊原の声とほぼ同時にいきなり強いGが掛かった。
「ぐぅぅぅぅ」
少しして衝撃と共に止まり、都市の中に出た。
前方に使徒がいた。
『最終安全装置解除』
肩の安全装置が外された。
『死なないでね。』
ミサトの声は懇願のようにも聞こえた。
『シンジ君、先ずは歩く事だけを考えて。』
リツコの声が聞こえる。
シンジはレバーを取ってボタンを押した。
(歩く)
初号機が右足を前に踏み出し、その衝撃で傍の電話ボックスや商店のガラスが割れた。
(歩く)
そして左足も前に出し歩く事に成功したが、もう1歩踏み出した時に体勢を崩し、転倒する事になった。
「いつっ」
何か良く分からないが、痛い。
目の前に使徒が見え大きな恐怖を感じ、歯が振るえ出した。
『シンジ君戦って!』
喧嘩も出来ない少年には無理である。使徒に頭部の突起物を掴まれ吊り上げられた。
『喧嘩も出来ん少年には無理だ!シンジ君!そいつを殴ってでも一旦離れて距離を取れ!!』
使徒に初号機の左腕を掴まれ引っ張られるとシンジの左腕に痛みが走った。
「ぐ!」
シンジは痛む手を押さえた。
『落ち着いてシンジ君、貴方の腕じゃないのよ!』
ミサトが叫んでいる。
『葛城1尉!!シンクロシステムくらい把握しておけ!!!』
事実痛い物は痛い、そうシンジも言いたかったのかもしれないが、初号機の腕が更に引っ張られると嫌な音がして初号機の筋肉繊維が断ち切られ、シンジに腕を激痛が走り抜けた。
「ぎゃああああ!!!」
シンジの左手の、丁度初号機が破損した部分が、内出血を起こしたらしく赤く膨れ始めた。
使徒が初号機の頭部を掴んだ
『避けて!シンジ君!!』
ミサトが又叫んでいるが、掴まれているのにそれは無理である。
前が光ったと同時にシンジの右目に激痛が走った。
「ぎゃあああ!!」
数度光り、痛みが走った後、激痛が脳髄まで駆け抜け意識が途切れた。


発令所、
メインスクリーンに映る初号機は使徒に目を貫かれ血を吹き出していた。
「頭部破損!被害不明!」
「制御神経断線!」
「シンクログラフ反転!」
「パルスが逆流します!!」
「せき止めて!」
「駄目です!命令を受け付けません!」
「又、又なの」
リツコが恐怖に震えていた。
「パイロット生死不明!一切モニターできません!」
「初号機完全に沈黙!」
発令所に悲壮感が流れた。
初号機の目が光った。
そして顎部拘束具を破壊して雄叫びを上げた。
「初号機・・・再起動」
「そんなバカな!」
「暴走・・・」
(これも、シナリオ通りか・・)
冬月が耕一と蘭子を睨んだ。
初号機は雄叫びを上げながら使徒に攻撃を開始した。
数発の打撃攻撃で使徒は宙に舞い、ビルをなぎ倒した。
初号機は跳躍し、使徒に飛び蹴りを食らわせようとしたが、赤い光の壁、ATフィールドに阻まれた。
「ATフィールド・・・・」
「ATフィールドがあるかぎり使徒には有効な攻撃を加えられない」
初号機の左腕部が復元した。
「初号機、左腕部復元」
「嘘でしょ!」
「初号機もATフィールドを展開!位相空間を中和していきます」
「いえ、侵食しているのよ」
リツコはマヤの報告を訂正した。
そして、使徒のATフィールドは破られた。
その瞬間、初号機はビームで弾かれ吹っ飛んだ。かに見たが、初号機は無傷だった。
初号機は一気に間合いを詰め、使徒の手足を砕いた。
そして、初号機は使徒のコアに対して執拗な打撃攻撃を加え始めた。
使徒のコアに罅が入り始めた。
使徒が突然形を変え、初号機の頭部に取り付いた。
「まさか自爆!!」
ミサトが叫んだ。
「・・そのようだ・・」
そして使徒は自爆し第3新東京市にエネルギーの十字架が現れた。
しかし、初号機は顕在していた。
オペレーター達は余りのエヴァの強さに恐怖を感じた。
「パターン、ブルー・・消滅を確認」


翌日、人類補完委員会、
冬月が出席していた。
「冬月君、先の零号機に引き続き、君等が、初陣で壊した参号機に、初号機、どれだけ予算があっても足りんよ」
「遊んでいたわけではなかろうな」
「だが、君の仕事はそれだけではない」
「はい」
「人類補完計画、これこそが、この絶望的状況下における唯一の希望なのだ」
「わかっております」
「まあ、いずれにせよ、計画に遅延は認められない、今後もこれを維持せよ」
「・・はい」
5人の姿が消えた。
「・・・碇・・・私には重過ぎるよ・・・」


総司令執務室、
当然大きい部屋だが、旧所長室のように出鱈目な広さではない。
ミサトが耕一と蘭子の前に立っていた。
ミサトは何故呼ばれたのか良く分かっていない。
「葛城1尉、先の戦闘中、君は何ら有効な指示を与えられないばかりか、数々の無能さを曝け出した。更には、それによって、初号機操縦者の集中を削ぐ結果となった。よって、2尉降格と作戦指揮権の剥奪処分とする」
ミサトは絶句した。
作戦指揮権を剥奪されてしまえば、仇討ちが出来ない。
「以上だ。下がり給え」
「し、しかし・・」
「葛城2尉、会長は、下がれと言われたのですよ」
「・・・はい・・・」
ミサトは1礼して退室した。


作戦副部長室、
ミサトは、屈辱に全身を震わせていた。
なんの為にここまでやって来たのか、この15年間は何だったのか、
途中、日向が慰めに来たが、ミサトの深層心理を知らない日向には慰めきれなかった。