暗闇

◆第2話


2012年、長野、皇邸、
シンジはレイラを紹介された。
シンジは怯えるような視線をレイラに向けた。
レイラは軽く苦笑した後に言葉を発した。
「宜しくね、シンジ君」
「・・う、うん・・」
レイラは相当な破壊力の有る笑みを浮かべていたのだが、シンジの心を解すまでには至らなかったようだ。
その後も、レイラは何かとシンジの世話を焼き続けた。
そんな有る日、シンジはレイラに尋ねた。何故こんな自分に優しくしてくれるのか?そんな事をして何に成るのかと?
親が死に孤児になった自分に価値は無くなった。相続したはずの莫大な遺産も親戚がよってたかって奪って行き、預けられていた家庭でもまるで家畜のような扱いを受け、遂には孤児院に放り込まれた。
そして、その孤児院でも酷い扱いだった。
レイラは不思議そうな顔をした。
「どうして?シンジ君は私の友達でしょ、友達が困っているのを救うのに理由が要るの?見返りが必要なの?・・・私はそうは思わない」
シンジはその時、数年ぶりに笑顔を見せた。


ネルフ中央病院、病室、
シンジは病室のベッドで目を覚ました。
「・・・知らない天井だ・・・」
ドアが開いた。
「・・・おや、もう、起きていたか」
耕一が入って来た。
「あっ、会長」
「ああ、3体目の使徒のことは何とかなったよ」
「そうですか、良かった」
「レイラの方ももう起きて昼を取っている。シンジも食事を取ったら、顔を出してやれ」
「はい」
「あと、後で話がある。」
「はい」


昼食を取ったシンジはレイラの病室を訪れた。
レイラは手や頭に軽く包帯をしているがどうやら怪我は軽いようである。
「あっ、シンジ君、無事だったんだ。良かった〜」
レイラは笑顔で言った。
「うん、有り難う、でも、ごめんね」
「良いのよ、シンジ君が無事だったんだから」
その後、二人は暫く話をしていた。


特別病棟、廊下、
シンジと耕一が並んで歩いている。
「話って言うのは?」
「シンジには妹がいたんだ」
「妹?」
「知らないのも無理は無いがな、で、その妹と言うのが、ファーストチルドレン、綾波レイだったんだ」
「綾波レイ?」
「私も聞いた時は驚いたよ、」
「・・はあ・・」
「まあ、今のところ、唯一の肉親だ、仲良くしてやってくれ」
「・・・はい・・・」
シンジは不安そうである。
「大丈夫だ、自信を持て、シンジが兄なのだからな」
「・・・・」
そして、レイの病室に入った。
レイは全身を包帯に包まれていた。
レイは視線を二人に向けた。
「・・会長・・その人が、フォースチルドレンですか?」
「レイ、その質問は間違っている。」
レイは良く分からないようだ。
「説明した通り、シンジはレイの兄で、お互いに唯一の肉親だ。」
「・・・・その人が、お兄さんですか?」
「そうだ。シンジ、妹に挨拶くらいしてやれ」
シンジはおどおどと前に進み出た・
「あの・・碇・・シンジです・・」
「・・初めまして・・綾波レイです・・・お兄さん・・」
眼帯や包帯に隠されてはいるが、その表情は、5年ぶりに確かな絶対的な絆を手に入れた事で、最高の笑みを浮かべていた。
シンジはこのレイを可愛い、そして、護りたいと感じた。
こんな事は、生まれて、2度目である。
「・・うん、宜しくね・・」
シンジはこの僅かな時間でレイを受け入れた。
レイラの時よりも遥かに短い、これが、血の力のなのかと、シンジはレイが妹である事を改めて確認した。
レイは微かに頷いた。


総司令執務室、
「シンジ、これからも、エヴァに乗ってくれるか?」
シンジは少し戸惑った。
「訓練も行えるし、今回の様に何も知らずにと言うことは無い、」
「・・・分かりました。」
「そうか、良かった。レイやレイラを護れるくらいに頑張れよ」
「はい」
耕一は書類を出した。
「これが契約書だ。良く読んで疑問点があれば聞いてくれ、そして、全てに納得したら下にサインを」
シンジは契約書を良く読み、2、3点の質問だけでサインをした。
「住居の事だが、レイとの同居は当然としてもだ、出来れば、レイラとも一緒に住んでくれんか?」
「・・どうしてですか?」
「最重要人物だからな、固まっていてくれた方がガードがしやすい。私の親衛隊を回す。優秀だが、人数には限りがあるのでな」
「はあ、まあ、分かりました。」
保安部は親衛隊、1課、2課、3課に分かれている。
親衛隊は、東京帝国グループの最高幹部を守る為の部隊で、その能力は、ゼーレの実行部隊をも上回る。


シンジは作戦部と技術部に挨拶に行く事にした。


作戦部、休憩室、
「ぷは〜〜!!やっぱこれよね〜〜!」
ミサトがビールを飲んでいた。
シンジはなんて言って良いのか分からなくて戸惑った。
「むっ」
ミサトはシンジに気付いたようだ。
「ん〜、確か、碇シンジ君だっけ」
「は、はい・・・お姉さんは?」
大体これくらいの年齢の女性はおばさんと言われると怒る。
シンジのその軽く怯えるような雰囲気にミサトの心に火が灯った。
「あんら〜、お姉さんだなんて嬉しい、シンちゃん見る目があるのね〜〜」
ミサトはその豊満な胸をぐいっとシンジに近づけた。
シンジは完全に怯えている。
鈍い音がしてミサトが崩れ落ちた。
「葛城2尉!何を考えている!?」
榊原の鉄拳がミサトの脳天にぶち込まれていた。ぷすぷすと湯気が出ている。大丈夫か?
「部下の不始末申し訳無い。私は榊原孝義、作戦部長だ。今後、シンジ君の直轄の上司と成る。宜しく頼む。」
榊原は握手を求めてきた。
「あ・・はい・・宜しくお願いします」
シンジは手を握り返した。
「おい!葛城2尉、こんな所で何を寝ている、これは問題だぞ。」
榊原はミサトを肩に担いだ。
ミサトは完全に白目を剥いている。
シンジは苦笑いをした。
「ああ、作戦部への挨拶だが、シンジ君の方が上官だから、そのつもりでして貰って構わないよ」
榊原はミサトを担ぎながら作戦局1課に入った。
戦術作戦部のメイン。数々のブレインを備え、作戦を立案する事を担当する。
一応日向マコトが南極基地への無期限出向中の局長にかわり、指揮をしている。
「ああ、皆注目」
皆の注目がシンジに集まった。
「フォースチルドレン碇シンジ君だ。綾波レイやレイラ様と同様で3佐として扱われる。分かったな」
「「「「「「はい」」」」」」
「日向2尉」
日向が一歩進み出た。
「はい、作戦局の局長代理の日向マコト2尉です。宜しくお願いします。」
日向はシンジに頭を下げた。
「あ、あの、よ、宜しくお願いします。」
大人に目上の人物として扱われるとは、シンジは戸惑った。


その後、作戦局3課までや、戦闘局を回ったが、終始似たような感じだった。
榊原と分かれ、技術部を目指した。


技術棟、
はっきり言って、研究組織を母体とするネルフの技術部の規模は、作戦部の比ではない。
リツコの直属であり、マヤが率いる技術開発部技術局1課は、作戦部よりも、予算、人員、施設、全てにおいて大幅に上回っている。
シンジがあまりの広さに迷子になっていると偶然リツコと出会った。
「あら、シンジ君、挨拶回り?」
「あ・・はい」
「じゃあ、案内するわね」
リツコに連れられて、技術局1課第1会議室に入った。
「皆を集めて、」
佐官尉官が集結した。
「フォースチルドレンの碇シンジ君、皆宜しくね」
「あと、マヤ」
「はい、私が、技術部長補佐の伊吹マヤ1尉、宜しくね」
マヤはシンジに微笑みかけた。
「あ、はい、宜しくお願いします」


その後、3課までと、開発局を回ったが、此方は、作戦部と違い、シンジを子供、研究対象等として扱った為、シンジは作戦部ほど戸惑いは覚えなかった。
皮肉なものである。シンジを重要な存在として位置付け、それ相応の対応をしている作戦部よりも、末端のパイロットとして駒と扱う技術部の方がうけが良いとは・・・
これは、作戦部が東京帝国グループ側の勢力が強く、技術部は、逆に国際連合側の勢力の方が強い事に関係している。


保安部保安2課課長比叡の案内で、シンジは、与えられたマンションに着いた。
第3新東京市でも有数の高級マンションだった。
「君の荷物は、既に搬入されている。これがカードキーだ」
シンジはカードキーを渡された。
「あ、はい、有り難う御座います。」
「これが、携帯電話、*1でネルフ司令部、*2で発令所、*3で作戦部、*4で技術部、*5で保安部、*6で、周囲にいる保安部員に繋がる。何かあったら連絡してくれ、些細な事でも良い」
「・・はい・・」
シンジは携帯電話を受け取り中に入った。
中はかなり広い、置かれてる家具も立派なものだが、派手さは無い。
「・・・豪華だな・・・」


夜、シンジの部屋、
シンジは、ベッドに潜りこんで、考え事をしていた、
「・・・レイラに・・レイか・・・・」
仄かな恋心を抱く唯一の親友と唯一の肉親。


ネルフ中央病院、病室、
レイラはシンジの事を考えていた。
「シンジ君・・・やっと会えたね・・・」
レイラは胸に手を当て3年前の事を思い出した。


特別病室、
レイもシンジの事を考えていた。
「・・・お兄さん・・・暖かい人・・・今、私にある・・・唯一の・・・絶対的な絆・・・」
レイはシンジを守り抜く事を決意した。
今度は決して失わない。