ダブル チェンジ 最終話

- ネブカドネザルの鍵 -


「冬月、俺と一緒に人類の新たな歴史を作らないか。」
ターミナルドグマで、零号機の原型を見せられた上で、冬月はゲンドウにそう言われた。

冬月は、体が震えるのを感じた。
(こいつ、そこまでのことを考えていたのか!)

それは、感動的ですらあった。
だが、かぶりを振って冬月は答えた。

「断る! 
 前にも言ったように、セカンド・インパクトを起こした君やゼーレを許すつもりはない。」
そう言って冬月は、ゲンドウと袂を別った。



「何、これ?」
あたしは、思わずつぶやいた。

あたしの意識が、あたしの肉体を離れ、過去だか未来だかのできごとを観ている。
たしか、前にも一度、同じ様な経験をした。
そう、たしか第12使徒に取り込まれたときと同じだ。
だとすると、ここは虚数空間…?

過去か未来かというなら、今観た光景は過去のものだろう。
冬月副司令が、若い。
どう見ても40代だ。
すると、いっしょにいた人相の悪い男はだれだろう?
どこかで、聞いた様な声だったが。

この声…そうだ、シンジのパパだ。

『赤木君、本当に…。』
使徒が見せた光景の中で、リツコが撃たれる前にたしか、そうつぶやいていた声だ。

あの世界では、シンジのパパはネルフの司令だったという。
ひょっとすると彼は、冬月副司令をネルフに引きこもうとしているのだろうか。

それにしては、あっさり断られている。
歴史が変わろうとしているのか、それとも、この後で意外な展開があるのか…。

そんなことより、何故、あたしが今ここにいるかだ!
この雰囲気は、さっき感じたように、虚数空間だ。
何故、あたしはこんなところに来てしまっているのだろう。

あたしは、たしか、ついさっきまで………。




「マリ、ごめんね。あなたには何もしてやれなくて…。」
「そんなことはないわ、ママ。」

今度は、違う光景が見えた。
病室らしきところで、マリがあの女の手を握っている。

「せっかく、大学まで出たというのにね。
 あなたなら、エースパイロットになれた筈なのに。
 たとえそれが無理でも、碇所長の息子に次ぐ2番手にはなれた筈だった。」

「まあ、あの子は博士号まで取っていたからね。
 でも体力ないみたいだし、実戦では負けたりしないわ。」

「だけど、現時点でのエースパイロットは彼ではないの。
 あの、アスカなのよ。
 わたしは、それが悔しくて…。」

「アスカが?」

「そうよ。あなたと同じく、幼いときにエヴァとの適合処置をされていながら、何の英才教育も施されずに
 放置されていたあの子なのよ。」

「………。」
 
「わたしは、もう長くはない。
 だからもう、今のうちにあなたに助言することしかできない。
 ゼーレにお行きなさい、マリ。
 そこでなら、アスカよりあなたの方が優秀だと証明できる筈よ。
 ママの最後の願いよ。」

「そんなこと言わないで、ママ!」

「お願いよ、マリ。聞き届けてくれる?」

「うん…。わかった。」




そう。
そういうことだったのね。
でも、なぜあたしにこの光景を見せるの?
これは、誰かの意思?
あたしたちが気付かなかった、使徒が潜んでいたというの? 第12使徒のような…。
それとも、これもリリスの思惑なの?




「こ、この泥棒猫が!」

あの女が、”あたし”に向かって喚いている。
さきほどの姿より、ずいぶんと若い。
あたしがまだ、幼いときの光景なのだろう。

「あんたなんか、エヴァに乗る資格はないのよ。
 それなのに、なんでマリと一緒に適合処置をされなきゃいけないのよ。
 あの人の娘だからって、たいした血筋でもないのに。
 わたしが長年心血を注いだ、エヴァとヒトとのシンクロの研究を、なんだと思っているのよ。
 研究の成果を実証する被験体は、マリでなきゃいけないし、それで十分なのよ。
 あんたなんか、生まれてこなければよかったのよ!」

「え? 今、何て…?」

”あたし”は、茫然として訊き返した。
パパと再婚してから、それまでずっと作り笑顔をあたしに向けてきたその女の豹変ぶりに。

「あ、あら、ごめんなさい。」
我に返ったように、彼女は言った。

「アスカちゃんは、知らなかったことなのよね。
 自分が何をされたかなんて。
 わたし、どうかしていたわ。
 今のことは、忘れてちょうだい。」

いつもの作り笑顔にもどり、抱きしめられても、”あたし”はショックから立ち直れないでいた。

『あんたなんか、生まれてこなければよかった』
それが、この女の本音なんだろうと、”あたし”は幼いながらもそう感じていた。




「嫌なことを、思い出させてくれるわね。」
その光景を見ながら、あたしはつぶやいた。

「もう、ずいぶんと長いこと、忘れていたことなのに。
 …そう、これのせいであたしはしばらく、人というものを信じられなくなった。」

(もし、これを第15使徒の心理攻撃の中で掘り起こされていたら、あたしは耐えられなかっただろう。)

「でも、君はそのトラウマを克服し、今の強さを身につけたんだね。」
すぐ近くでカヲルの声がしたので、あたしは驚いた。

「カヲル! あんた、どこへ行ってたのよ。」
いつの間にか、隣に並んでその光景を見ていたらしいカヲルに向かってあたしは言った。

「と、いうか、他のみんなはどうしたのよ!
 トライデントは、あたしたちの街は、どうなったのよ!
 あたしたちは一体、何処にいるのよ!」

「そんなに一遍に、いろんなことを訊かれても困るね。」
カヲルは苦笑して言った。

「誰かが、本来の”ネブカドネザルの鍵”を使ったらしい。今はそれしか、分からないよ。」




『会いたいか、君の妻に?』
「誰だ、おまえはたちは?」

あたしとカヲルの前に、また別の光景が見えた。

暗い部屋だ。
パパの執務室に似ている。
いや、部屋どころか、会話を交わしている一方の男は、間違いなく若い頃のパパだ。
電気も点けずに、机の上に両肘をついて座っている。
その傍らに、二人の男が立ったまま、パパを見降ろしていた。

『後悔しているのだろう?
 とっくに愛情など冷めたと思っていた彼女が、実験の最後に、消える直前に君に向けた笑顔を見て。』
最初に話し掛けたのとは別の、初老の男がパパに言った。。

「帰ってくれ。」
パパは二人に、顔をみようともせずに言った。

「おまえたちの知ったことではない。
 ここのセキュリティがまったく反応しなかったということは、この世界の住人ではないのだろう?
 ならば、おまえたちには関係のないことだ。帰れ。」

『わたしも、かつて君と同じ苦しみを味わったから言っている。
 そして、失った妻に会おうとした。』

「会えたのか?」

『ああ。だが、わたしの場合、彼女に受け入れてもらえなかった。
 いや、わたしからそれを避けたのかも知れない。』

『わたしもこの男も、彼女にもう一度会うことだけが、その生きる目的だったからな。』
初老の男が付け加える様に言う。

「そうか…。」

『君も、君の妻に会うことだけはできる。』
『我々は、そのためにここに来たのだ。』

「わたしにどうしろというのだ?」

『これを預けておく。』
そう言うと、男の一人はパパに、眼鏡ケースの様なものを差し出した。

「これは?」

『ネブカドネザルの鍵…いや、そのレプリカだ。
 本物は別のところにある。それを探せ。』

「それを手に入れたら、どうなる?」

『我々にも分からん。
 ”アダムの胎児”に代わるものとして、初めてリリスに託されたものだからな。
 ”人の生き血を吸い、地獄の扉を開き、そして人の願いを叶える”ものだと聞いている。
 ただし、このレプリカにはそれほどの力はない。
 最初の適格者として選ばれた者に預けておくのがいいだろう。』

「適格者…エヴァのパイロットか。」
 
『ああ。だが適格者とはパイロットであると同時に、リリスと我々を繋ぐ者たちでもある。』

「オリジナルを親機、このレプリカを子機として、適格者を通してリリスに願いを伝えろとでもいうのか。」

『それは、君が考えることだ。
 すべては、人類の存続を脅かすモノたちを排除した後で、適格者がこの世界を否定したときに始まる。
 鍵が扉を開き、願いは叶えられるだろう。』

「…わかった。受け取っておこう。」
悪魔に魂を売ったかのように、決意を込めてパパは頷いた。

『それと、もうひとつ。この世界で、この男を探し出し、右腕にするといい。』

傍らの初老の男を指差した。

「この世界で、その男を? そうか、おまえたち、並行世界の者か。」

『さすがに理解が早いな。だが、この姿は君たちの時間より10年ほど後のものだ。
 この男、もとは京都大学の研究室にいたが、今は開業医のようなことをしている筈だ。
 引き込むことができれば、君の補佐として役立つ。
 そればかりか、何かと有効な助言をしてくれるだろう。』

『ヒトを買いかぶるものではないぞ。』
初老の男は苦笑して言った。

『わたしは、ただの傍観者に過ぎなかった。
 せいぜいが、おまえが先走りしない様、手綱を絞ったに過ぎない。』

「それで十分だ。これから先、そういう男がいてくれると助かる。名は、なんという?」

『フユツキ コウゾウだ。
 だが、簡単に説得できると思わない方がいいぞ。
 彼は、セカンド・インパクトを起こした者たちを憎んでいるからな。
 過去はともかく、これから起きることを十分説明することだ。
 わたしも、何度か袖にされたが、最後は分かってもらえた。
 味方にすれば、これほど心強い男はいない。』

「そうか。
 それでは彼には、わたしの知る、すべてを話すとしよう。
 これから人類に、何が起きるのか。
 わたしが目指す補完計画とは、どういうものか。
 そのために、何故わたしは自分の娘を選んだのか。」

『それでいい。
 最後にひとつ、忠告しておこう。
 ゼーレにはぎりぎりまで、従順な態度を見せておくことだ。
 早くから不信感を抱かれると、君の計画にも支障が出るだろう。』

「まるで、おまえたちはわたしがやろうとしていることと、同じ道を歩んだかの様に言うのだな。」

『おそらく、同じ道だろう。わたしと君とが、入れ替わっているだけで。』
「なんだと!」

『だから、君には同じ失敗をしてもらいたくはない。それだけだ。』
「…わかった、肝に銘じておこう。」




「なるほどね、そういうことだったのか。」
カヲルが、さも合点がいったかの様に、頷いて言った。

「ねえ、これって、誰のしわざなの?
 あたしたちに、過去や並行世界でのできごとを見せている者って…。」

「リリス以外に考えられるかい?」
「やっぱり…。でも、それって何のために?」

「おそらく君が真実を知って、正しい道を選ぶことができる様にだろうね。」
「だって、あたしは何とかの鍵を持っていないじゃない! 鍵を持っているのはあんたなのよ!」

「ぼくはただ、預けられていただけのようだ。」
「他人事みたいに! パパからそれを渡されたんじゃないの?」

「気が付いたら持っていた。そしてそれが、ぼくの過去生を語りかけてくれる様な気がした。
 でも今思えば、逆に必要以上のことを思い出さない様、コントロールされていたのかも知れない。」

そしてカヲルは、例のケースをあたしに差し出して言った。
「これは、やはり君の物だよ、アスカ。」

「でも、それはあんたが…。」

「だから、たまたま最初の適格者…チルドレンであるということで、預けられていただけなんだ。
 真にこれを持つ資格があるのは、君だ。」

そう言ってカヲルはそれを、”ネブカドネザルの鍵”のレプリカを、さらにあたしに差し出す。
あたしはやむなくそれを受け取った。
 
「…わからないわ。あたしなんかに、何の資格があるというの。」

カヲルは、肩を竦めた。

「ぼくにもわからないさ。
 でも、ラングレー司令は、”補完計画”を起動させる者として君を選んだと言っていた。
 そのために、エヴァへの適合処置を君に施し、時が来るのを待っていた。
 英才教育の真希波さんとは別に、君自身が自分で成長を遂げるのを待っていたんだよ。」

「そんなの嘘よ!
 あいつが、そんなことをするわけがない。
 実の娘を知人に預けっぱなしで、見向きもしなかった奴なのよ!
 それだけじゃない。
 ヒカリのことだってあるし、他にも許せないことはいっぱいあるわ。」

「別に、ラングレー司令のやり方が正しいというつもりはないよ。
 だけど、この世界が君を選んだことだけは間違いないと思う。

 君は君自身の意思で、級友を、街を、この世界の人々を守ろうとしてきた。
 おそらくそれは、ラングレー司令が目指す”補完”ではないだろう。
 ぼくが望んだ”シンジ君との再会”とも、綾波さんが願った”シンジ君の幸せ”とも違う。
 君がこの世界で経験を重ね、培ってきた君自身のものだ。

 君が何をしたいのか、どんな世界にしたいのか、その気持ちに素直であればいい。
 それこそが、リリスの望んだ結果なのじゃないかな。」




「そうだ。」
聞き覚えのある声が背後でし、あたしは驚いて振り返った。

「パパ!」
そこにいたのは、本部の発令所にいる筈のパパ、そして冬月副司令だった。

「おまえは、おまえの望む世界を願えば、それでいい。 
 わたしの望んだ”補完”は、どうやらリリスは望んでいないらしい。」

「いつからそれに気付いていました?」
カヲルの問いかけに、

「…さあな。おそらく、ずいぶんと前からだろう。
 それがいつかなのかは、分からない。
 わたし自身が、それを認めたくなかったからな。」
 
「だけど、”補完計画”に必要な槍を使徒殲滅に使用する許可を与えた時点で、あなたは腹を括った。
 違いますか?」

「そのとおりだよ。わたしに何の相談もなく。
 そしてこの男は、自分の娘に槍を棄てさせることで、自分の悲願を清算することにしたのだよ。」
冬月副司令が、パパの代わりに答えた。

「さあ、アスカ。
 レプリカの鍵を使って、このオリジナルの鍵を起動させろ。
 そして、望む世界を念じるのだ。
 あとはリリスがうまくやってくれる。」

「戦自やゼーレを含め、ネルフとエヴァに関わった全ての人間がこの空間に送り込まれている。
 元の世界に戻りたいのならば、誰を連れていくのかを決めたまえ。」

パパと冬月副司令がそう言った。
 
「人間どうしで再び戦うのがいやならば、ゼーレと戦自はここに残してゆけばいい。
 ただし、わたしもここに残せ。」

「パパを? どうして!」

「用の済んだ”ネブカドネザルの鍵”を、誰かが悪用することを避けるためだ。 
 わたしとともにオリジナルがここに残れば、それでいい。」

「そんな!」

「できれば、わたしがキョウコのもとに行けるよう、願ってくれればありがたい。」

「そんな…そんなことできないよ、パパ!」

そう言うあたしの肩にカヲルは手を置き、黙ったまま首を横に振った。

「…わかったわ。」
あたしは低い声でつぶやく様にそう言い、俯いた。

あたしの視線の先には、カヲルから受け取ったレプリカのネブカドネザルの鍵がある。
あたしは、意思を込めてそれを見つめた。
あたしの想いを、オリジナルの鍵に送り届ける様に念じて。

そして、あまりにもあっけなく、それは起こった。




小鳥のさえずる声がする。

あたしたちは、早朝の第3新東京に戻ってきていた。
零号機、弐号機、3号機、いずれも元の場所に、元の姿のままで静止している。

あたしの初号機も、例外ではなかった。
違いがあるとするなら、初号機はS2機関とやらのおかげで活動できているのに対して、他の3体は電源 
ビルが破壊されたときの影響で、活動停止したままであるという点だ。

あたしは、注意深く周囲に敵の姿が見えないことを確認した上で、カヲルたちに声をかけ、本部とも連絡
をとった。
本部のスタッフも、全員が戻ってきていた。
…パパを除いて。

とりあえず、エヴァ全機は撤収することになった。
唯一動ける初号機が、他の僚機をリフト口まで運んだ。
パイロットたちもそれぞれがエントリープラグから出てきており、全員元気そうだった。
ただ、マリだけは両腕を負傷しているので、そのまま入院することになった。

他のパイロットとあたしは本部に戻った。
とりあえず、あたしたちはしばらく休憩できそうだ。

ただ、他の本部のスタッフはまだ、何かと大変そうだった。
何が起こったのかと、報道関係者が取材を申し込んでいるらしい。
昨日の午後から、戦自の部隊が第3新東京に攻撃をしかけ、最後は20機以上のVTOLが編隊を組んで
押し寄せていることが知られていた。
その戦闘が、突然に終わった。
ネルフ側も、戦自側も、戦闘中のメカが突然消え去ったのだ。
そればかりか、ネルフの各支部や戦自の一部でも、人員の消失がほぼ同時に発生していた。
ネルフの広報に問いあわせてみても、とっくに戦闘行為は終わっている筈なのに、ついさきほどまで音信
不通の状態が続いていたのだ。

取材申し込みについては、冬月副司令が記者会見という形で応じた。
さすがは副司令、ウルトラCを用意していた。

戦闘中のメカが消えた原因は、不明。
同時にネルフ関係者も、全員が気を失うという不可思議な事態が発生した。
そして今朝、エヴァだけが帰還した。この原因も不明。

ただ、ひとつ言えることは、戦自(の過激派)が使用していたメカに、”トライデント”というコードネームのも
のがあり、どうやらそれにはJAと同じシステムが組み込まれていたらしいこと。
そう、あのアメリカ第2支部を、丸ごと消失させたらしいJAと同じシステムを。

そしてそのシステムは、ゼーレやネルフの各支部、戦自の一部にも研究対象として存在していたらしい。
常識では考えられない”消失現象”は、JAやトライデントの”PS装甲”が発生させているフィールドに何か
が共鳴して発生するのではないか、そういう推測を冬月副司令は報道関係者に伝えた。

科学的な根拠はまったくないが、世論はこの推測を大きく取り上げた。
エヴァの帰還は僥倖であり、そんな危険な装置は今後使うべきでないということで、”PS装甲”の開発や
運用は、国際的なレベルで禁止されることになった。




「ねえ、カヲル。」
落ち着きを取り戻して数日がたったある日の学校の帰り道、あたしはカヲルに訊ねた。

「うん? なんだい、アスカ。」

「パパのことだけど、ちゃんとママに会えたのかな。」

「どうだろうね。」

「ばか、そういうときは、気休めでも『そう思うよ』と言うものよ!」

「アスカは、それを願ったんだろ、”鍵”を使って。」

「ええ、そうよ!」
”ネブカドネザルの鍵”のレプリカは、今もあたしの学生鞄の中に入っている。
なぜか知らないが、あたしはこれを手放せないでいるのだ。

「あいつには、ちゃんとママに謝ってもらいたいもの。」

「だったら、大丈夫だよ。それは、そういうものだから。」

「なら、最初から、そう言えばいいじゃない!」

あたしが、口をとがらせてそう言っているところへ、

「アスカ〜!」
ヒカリがあたしを呼ぶ声がした。

見ると、ヒカリと鈴原が、あたしたちに向かって手を振っている。
シンジとレイも、二人の近くで並んであたしたちを見ていた。

「これから、わたしの家で、碇君たちと期末の勉強会をするの。
 アスカたちも、どう?」

そう言えば、期末テストが近づいているのだ。
遅れを取り戻すためにも、がんばらなきゃいけない。

「行く、行く。待ってて〜。」
あたしは、カヲルの返事も待たずに、ヒカリに向ってそう叫んでいた。
                     − 完 −