マナの誕生日
Bパート
  

誕生日パーティは、最初はお約束のプレゼント渡しから始まった。

 シンジはハンカチを、レイは携帯ホルダー&ストラップを、アスカはキーホルダーを、
あまり高額にならない様考慮して、昨日のうちに買っておいたものをマナに手渡しした。

カヲル、ヒカリ、トウジ、ケンスケもそれぞれにプレゼントを渡す。

そして、ヒカリの合図で、みんなでお祝いの言葉を言う。
「霧島さん、お誕生日おめでとう。」
「「「「「「おめでとう!!」」」」」」

「みんな、ありがとう!」
マナは素直に、喜んで受け取っていた。

「さあ、みんな。たんと召し上がってちょうだい。」
マナのお母さんが料理を運んできた。

「お、待ってましたでぇ。」
トウジが相好を崩す。
それをヒカリがたしなめる。
「鈴原! みっともないこと、言わないの!」

「お子様ねぇ。」
アスカが、つぶやく様に言った。

「なんやとぉ、惣流は自分は、お子様やないとでも、いうんか。」
「少なくとも、あんたほどはね。」

「なにぃ!」
「まぁまぁ、料理も冷めちまうし、そこまでにしようぜ。」
ケンスケがトウジの肩をたたいて言う。

「そうよ、けんかしないで、どんどん食べて頂戴ね。」
そう言うと、マナのお母さんは料理の追加をとりに台所へ戻った。

「そうだ、みんな。パパのワインがあるんだけど、飲まない?」
マナが、ふと言った。

「えぇ! マナ、そりゃまずいよ。ぼくたち、未成年だし。」
シンジがあわててとめる。

「大丈夫よ。パパと一緒によく飲んでたけど、全然平気よ。」

「そういう問題じゃ、ないと思うがねぇ。」
カヲルは、シンジに味方する。

「そや、おやじさんの酒を、勝手に飲むのは、まずいでぇ!」
「大丈夫だって。好きに飲んでいいって言われているんだから。」

「無茶苦茶ね。」
さすがのレイも、あきれている。

「ねぇ。シンジ、飲もうよ。」
マナは、しつこくシンジを誘う。

「いいよ、ぼくは。明日、学校だし。二日酔いになったら困るから。」
二日酔いのミサトの、酒臭さを思い出してシンジは言った。

「だめよ、シンジを誘っても。お子様だし、根性なしだから。」
アスカがそう言うと、
「じゃあ、アスカさん、付き合ってくれる?」

「え、あたし?」
「うん、アスカさんは飲めるんでしょ。」
「そりゃあ、まあ。 ドイツでは子供でもワインくらいは飲んでるし。」

「よかった。さすがは、アスカさん。話がわかるわ。」
「マナ〜っ!」

シンジはもう一度とめようとしたが、聞き入れてもらえなかった。
マナとアスカは、それこそ張り合うかの様に、がばがばと飲み始めた。

「あらあら、ほどほどにしておかないと、駄目よ。」
マナのお母さんは、止めるでもなく、そう言ったきりだった。

『こんなこと、日常茶飯事なんだ。』
シンジは、肩を落としてあきらめた。

「碇君、食べよ。」
レイにそう言われて、シンジは目の前のご馳走に気を向けることにした。



「ほらぁ、鈴原。こぼしてるわよ!」
ざわめきの中で、ヒカリの怒声がひときわ響く。

宴もたけなわになってきていた。

ヒカリがハンカチでトウジの胸元を拭いてやっている。
「まったくもう、世話がやけるんだから!」
「す、すまんな。」

そんな二人の姿を、ケンスケはしっかりデジカメで写している。
あまつさえ、カメラを構えながら
「ほら、二人とも、こっち向いて!」
などと言う。

「こらぁ、ケンスケ! おまえ、なに撮っとるんじゃあ!!」
「ちょっ・・・やだぁ!」
トウジが怒鳴り、ヒカリが真っ赤になって俯く。

「そのカメラ、没収じゃ!」
トウジは憤怒の形相でケンスケに迫る。

「うわっ!」
ファインダー越しにその顔をアップで見たケンスケは思わず後ずさりしようとして、
滑って尻餅をついた。
はずみでデジカメが宙をとんで、カヲルの膝の上に落ちようとする。

「おっと。」
カヲルは危うくそれを受け止める。

「なんだい、これは。」
そう言いながら、モニタ画面に切り替えて撮影内容を覗き始めた。
「おやおや・・・。」

「おい、カヲル。返してくれよう。」
ケンスケは尻餅をついたまま、手を伸ばす。

「カヲル、わしに貸せや。」
トウジも言う。

「やーだね。」
「なんやて。」
「こんな面白いもの、もう少し見てからだよ。」

「なになに、何が写ってるの?」
マナが身を乗り出して、覗き込もうとする。

「あれ、アスカは?」
そのときになってシンジは、この場にアスカがいないことに気付いた。

「ああ、アスカさんね。」
マナはいたずらっぽく笑って言った。
「すっかり酔いつぶれちゃって、わたしの寝室でママが介抱してるわ。」



「うう〜、最悪・・・。」
アスカは、ぼやいた。 
「心臓が、ばくばくするぅ。」

動悸が激しくて、身動きすらろくにできなかった。

「窓を開けて、少し風にあたりましょうか。」
マナのお母さんはそう言うと、アスカが寝ているベッドの側の窓を、
少しだけ開けた。

四月の風が部屋の中に流れ込み、熱くほてったアスカの頬を撫でていく。
「ふう・・・。どうも、すみません。」

「いいのよ。どう、少しは楽になった?」
「ええ、おかげさまで。」

「濡れタオルでも持ってきましょうか。」
「大丈夫です。だいぶ、落ち着いてきましたから。
じっとしてれば、すぐによくなると思います。

・・・にしても、あの子があんなにお酒に強いとは、思いませんでした。
やっぱり、お父さんゆずりなんでしょうか。」

マナのお母さんは、アスカの傍らのイスに腰掛けた。
「いいえ、あの人はからっきし。
娘と飲むのは好きみたいだけど、すぐに酔いつぶれてしまうわ。
どちらかというと、私に似たのかしらね。」

「え、おばさまに? ・・・そうなんだ。」

「だから、うちの人は酔いつぶれるとあの子に、
『おれはもう飲めんから、おまえは好きなだけ飲んでいいぞ。』
などと言うのよ。」

「父親の言うせりふじゃ、ないですね。」
「ほほほ・・・・そうね。」
マナのお母さんは、楽しそうに笑った。

「せっかくだから、アスカちゃん。少しお話ししましょう。
いいかしら?」
「ええ、あたしはかまいませんが・・・。」



リビングでは、ケンスケのデジカメ写真の品評会が、始まっていた。

「へぇ、綾波さんがねぇ。」
カヲルが、意外そうな声でつぶやいた。

「どれどれ。」
マナが覗き込む。
「うそぉ。これ、綾波さん?」

その液晶モニタには、形ばかり左手をそえて、
大欠伸するレイの姿が写っていた。

「あなたたち、趣味が悪いわよ。」
ヒカリはたしなめながら、つい覗いてしまう。
「やだぁ。」

「もう、いいだろ。返してくれよぅ。」
ケンスケの懇願は、無視された。

「確かに、これは貴重な写真だね。」
「ほんまや。シャッターチャンスを逃さんところは、さすがケンスケやな。」
カヲルとトウジが、感心したように言う。

最後に、レイがちらりと液晶モニタを眺め、
「そう、よかったわね。」
と告げた。

ケンスケは、その声に凍てつくような冷気を感じた。



アスカはベッドに横になりながら、マナのお母さんの話を聞いていた。

「主人は、マナには本当に甘くてね。
甘やかされて育ったものだから、あの子はわがままで、言い出したら聞かないのよ。
あなたたちに、迷惑かけたことはなかったかしら。」

『おおありよ!』
と、アスカは思ったが、

「別に。そんなことないです。
あたしもけっこう、自分の思い通りにやろうとするタイプですし、
それはそれで、お互い様だと思いますから。」
と、言っておいた。

「そう? だったらいいんだけど。
あの子が、戦自に行くと言い出したときは、さすがに主人も反対したわ。
でも、言い出したら聞かないものだから、とうとう折れてね。

体を壊して除隊されたと聞いたときは、私も主人も、心配するやら、
ほっとするやらで、大変だったわ。」

「除隊・・・されたんですか?」
「違うの? 自分から、やめたとは言ってなかった思うけど。」

『スパイをやってたことは、言ってないんだ。
そっか、たとえ身内でも、スパイをしてるなんてこと、
守秘義務で言えるわけないか。
それに守秘義務がなくなったところで、今さら言う気にもなれないわよね。』
アスカはそう考え、納得した。

同時に、
『マナの弱点(スパイをやってたことを隠していること)、めっけ! 』
内心、ほくそ笑んでいた。

「除隊されたのに、どうして彼女はご両親のもとに、
返してもらえなかったのでしょうね。」
このへんは、どうやって誤魔化したのだろう、そう思ってアスカは尋ねた。

「それは、やっぱり『ロボット兵器』の秘密を握っていたからでしょうね。
一定期間、監視をつけて様子を見た上で、秘密を守れると判断できてから、
戻してくれるつもりだったのでしょう。

でも、芦ノ湖畔でのロボット兵器の脱走騒ぎで、戦自のロボット兵器の存在は、
日本中に知られてしまった。

そしてそのとき、あの子も複雑な事件に巻き込まれたようね。
ロボット兵器の元搭乗員ということで、その秘密を探ろうとする他国のスパイが
接触してきたのかも知れない。

私は、そんなとことだろうとは思うのだけど、
あの子は決して身を隠さなくてはならなくなった理由を、話してはくれないのよ。」

「そうだったんですか。」
見かけによらず、けっこう自分で抱え込むタイプなんだな、
とアスカは思った。



一方、リビングでは__。

「あ、これ。わたしだ!」
マナは、カヲルの手からデジカメをひったくるようにして、見入っていた。

デジカメの液晶モニタには、シンジたちと談笑するマナの横顔が写っていた。

「まだあるわ!」
次の画像は、一人で歩いているところの全身像だった。
さらに数枚、マナが単独で写っている画像があった。

「ふうん。」
「ほう、ほう。」
カヲルとトウジは、感心したように見入っている。

「どういうこと?」
顔を上げて、ケンスケに尋ねるマナ。

「う・・・。そ、それは。」
即座に返答できないケンスケ。

「また、商売を考えとったのやな、こいつは。」
「ケンスケ、いいかげんにしないと、友達なくすよ。」
トウジに続いて、シンジがため息まじりに言った。

「だって、去年は霧島さんの写真、ろくに撮る機会なかったし・・・。
おまえたちになら、『友達価格』で譲ってやっても・・・あ!」
つい、女の子たちがいることを忘れてケンスケは口走ってしまった。

「相田君、サイテー!」
「・・・・・・・・・。」
ヒカリに突き放すように言われ、レイからは相変わらず冷たい視線。

「うう・・・。シンジ、トウジ、なんとか言ってくれよう。」
「知らないよ、自業自得だよ。」
「せや、せや。」

「ふーん・・・。でも、よく撮れてるわ。」
マナはあらためて、画像を見て言った。

「マナは、気にならないの。」
シンジが尋ねると、

「全然。そりゃ、商売のネタにされるというのはいやだけど、
わたしの写真を喜んで見てくれる人がいるのは、うれしいもの。

そうだ、お料理も冷めちゃうし、せっかくだからプロジェクターにつないで、
食べながら見ようよ。」

「プロジェクター?」
「うん、デジカメに直接つないで、壁に投影できるのがあるんだ。
わたし準備するから、テーブルのこのへんを整理して、置く場所あけてくれる?」

「おれのデジカメ〜!!」
「あきらめいや、ケンスケ。」



アスカは、この際、マナについて聞けることを聞いておこうと思った。
「でも、どうして戦自になんか行くと言い出したんですか、女の子なのに。」

「修一のことがあってね・・・。」
マナのお母さんは、遠い目をして言った。

「修一?」
「ああ、ごめんなさい。マナには、十歳年上の兄さんがいたのよ。」
「一人っ子かと思ってました。」

マナのお母さんは、わずかに首をふって、
「三年前に死んだの。」
「え・・・。」

「そのとき、マナは小学校六年生で、修一は戦自に入ったばかりだった。
マナはともかく、私たち一家は全員、戦自に所属していたのよ。

もちろん、マナは活発なところはあったけど、普通の女の子として、
育てるつもりでいたわ。

でも、あの雨の日、マナが修一を駅まで迎えにいったとき、
不良に絡まれているマナを助けようとして、修一は刺されたの。」



そぼ降る雨の中、少女マナは兄修一に傘を届けようと、駅に向かう道を走っていた。
そのとき、そんなつもりはなかったのだが、マナのさしている傘が、
すれ違おうとしていた不良の一団のだれかと接触した。

「あ、ごめんなさい!」
そう言って通り過ぎようとしたところを、背後から掴まれた。
「ちょっと待てや!」

マナの悲鳴を聞きつけて駆けつけた修一は、問答無用で不良たちに
殴りかかり、そして刺された。
さらに、倒れた上から、近くにあったゴミバケツをかぶせらた。

通行人の通報で、警察がすぐに来たが、おりからの雨で傷口から
細菌が入り、敗血症を起こしてしまった。そして・・・。



「主人は、すごく落胆したわ。それこそ、仕事も手につかないほどに。
せっかく、自分の後を継ぐ者ができたのに、と思ったのでしょうね。

そんな主人をみかねたのか、マナが『わたしが戦自に入る』と、
言い出したの。
マナも修一を、兄を人一倍尊敬していたものね。」

アスカは、起き上がっていた。

「あら、ごめんなさい。つまらない話をしてしまったわね。」
「いえ・・・。続けてください。」

「もちろん、主人も私も、猛反対したわ。
だって、マナはまだ年端もいかない子供だったし、
女の子には、女の子らしい道を歩んでほしかった。

でもマナは、ああいう性格でしょ。
言い出したら、聞かないもの。

それにちょうど、戦自は少年兵の募集を考えていたときで、
少女のマナを入隊させることは、適性を調べる上でも有益だと、
すんなりと通ってしまったのよ。」

「・・・淋しくなかったですか。」

「もちろん、淋しかったわ。
でも、あの子が望むことなら、好きなようにさせてあげようと、
主人とも話し合ったの。

でも、少年兵が『ロボット兵器』のパイロットの養成を目的とするものと
聞いたときは、マナにやっていけるかどうか、不安になったものよ。」

「パイロット養成訓練て、相当厳しいものみたいですね。」
「ええ。」

「それでも、霧島さんは、弱音ひとつ吐かなかったのでしょう?」
たぶん、そうではないかと思い、アスカは尋ねた。

「そうね。結局はついていけずに、早々に体を壊すことになったけど、
私はそれでよかったと思ってる。
早い段階で、あきらめることができたもの。

もし、なまじ適性があって、ずっと続けていたとしたら、マナの体は
どうなっていたことやら。
そうでなくても、サードインパクトとやらで、部隊ごと消え去って
しまっていたかも知れないわ。」

「そうですね。
せっかく、再会できたんですもの、大事にしてあげてください。」

「ふふ、ありがとう。」



リビングでは、プロジェクターの準備ができていた。

「なあ、やめようや。」
ケンスケは、なさけない声で中止を求めている。

「未練だよ、相田君。」
カヲルにそう言われて、ケンスケはすごすごと引き下がる。

「じゃあ、始めるね。」
マナが宣言して、映写会が始まった。

最初の画像は、始業式のときのものだった。
廊下の掲示板の前で、シンジの両手を握ってはねるようにして喜んでいる、
マナの姿が映っていた。

「へぇ、ここから始まっているんだ。」
マナがつぶやく。

「仲良さそう・・・。」
ヒカリの言葉に、
「えへへ、ちょっと恥ずかしいな。」
照れているマナ。

「ちょっとじゃないよ。次、行こうよ。」
顔を赤くして言うシンジ。

続いて、3年A組の教室の写真。
ケンスケのクラスの写真だ。

それから、A組の女子生徒の写真が数枚。
このあたりは、一枚ずつ被写体が違う。

「もう、かわいい女子(おなご)を物色しとんのか、ケンスケ。」
「ううっ・・・。」
トウジに言われて、返す言葉がないケンスケ。

次に出てきたのが、一連のアスカの写真だった。
制服で颯爽と歩く写真、体操服で水を飲んでいる写真、
机に頬杖をついて窓の外を眺める写真が続く。

「アスカばっかり・・・。」
シンジがつぶやく。
「おまえ、こんな写真、去年も撮っとったやないか。よく飽きんな。」
「しょうがないだろ、需要があるんだからさ。
それに今回は、メールで送信できるように、あえてデジカメで、あ・・・。」

ケンスケの言葉に、
「やっぱり、売り物の写真なのね。」
「語るに落ちたね。」
レイと、カヲルが言う。

「アスカが見たら、怒るわよ〜。」
「ううっ・・・。」
ヒカリに言われて、ケンスケは俯く。

「アスカさんが戻ってこないうちに、次行きましょうか。」
マナはプロジェクターを操作しながら、そう言った。



その頃、アスカはベッドから降りて立ち上がっていた。

「もう、いいの?」
マナのおかあさんが尋ねる。

「ええ、お世話をかけてすみませんでした。パーティの方に戻ります。」

「そう。気をつけてね。
激しく動いたら、また動悸がするわよ。」
「はい。」

「ごめんなさいね、つまらない話を聞かせてしまって。」
「とんでもないです。お話しできて楽しかったです。」

「ありがとう、私も本当に楽しかったわ。
だけど、今の話は、マナにはナイショにしといてね。」

「わかっています、だれにも言いません。」
・・・スパイの件も、ご両親には内緒にしておいてあげるわ。
アスカは、そう思った。



プロジェクターの投影画面には、アスカほどではないにしても、
レイの写真がしばらく続いた。
そして今は、ヒカリを初めとする、その他の「需要のある」写真が
次々と映し出されている。

「これらは、全て『商品』なのかい。」
「あきれたものねぇ。」
「・・・・・・・・・。」
カヲルとヒカリに言われて、ケンスケは激しく落ち込んでいる。

「でも、綺麗に撮れているじゃない。
わたしは、相田君の才能に感心するわ。」
マナは、フライドチキンをほおばりながら、能天気に言う。

「そう言う問題じゃないと思うけど。」
と、シンジ。

そこへ、アスカが戻ってきた。
「あんたたち、何やってるの。」

「あ、アスカ。もう大丈夫なの。」
シンジに続いてマナが、
「相田君のデジカメ写真の、『品評会』をやってるのよ。
お水は、いらない?」

「いただくわ。」
マナは水差しから氷水をコップに注いでアスカに渡す。
「はい。」

「ありがとう。」
アスカは、コップを受け取った。
そして、じっとマナを見る。

『あんたが、がんばり屋だということは、よくわかったわ。
認めてあげる。
シンジは、あんたのそういうところにも惹かれたのかもね。

でもね、それとこれとは別よ。
あたしも、まだあきらめるわけにはいかないのよ。
ん? あきらめるって・・・まさか、このあたしが、シンジのこと・・・。』
アスカの頬に、ほんのりと朱が差す。

「アスカさん?」
まだ酔いが冷め切っていないのかと、少し心配そうにマナは言う。

「なんでもないわ!」
そう言うと、アスカはその冷たい水を一気に飲んだ。
「ふう。」

「おや、相田君。この子はだれだい。見慣れない顔だけど。」
「ほんまや、初めて見る顔やな。」
カヲルとトウジが騒いでいる投影画面には、ストレートヘアの長髪に、
眼鏡をかけたおとなしそうな顔の少女が写っていた。

「何枚も写ってるね。でも、だれだろ、」
と、シンジも言う。

「あ、わたし知ってる!
わたしといっしょにこの4月から転入してきた子で、
たしか、A組の『山岸マユミさん』よ。」

「なんだか、大人しそうな子ねぇ。」
マナの説明を聞いて、ヒカリが感想を言う。

「ケンスケの、好みか?」
トウジが揶揄すると、
「違〜〜う!!」
ケンスケは、大声で否定した。

「図星ね。」
「そのようだね。」
レイとカヲルが、顔を見合わせて言うと、
「違う、違う、違〜〜う!」
ますます焦ってケンスケは否定する。

「心配ないよ、相田君。」
マナは言う。
「人を好きになるということは、そんなに恥ずかしいことじゃないよ。」

そして、マナはアスカの方を見ると、にっこり微笑んで言った。
「ねえ、アスカさん。」

「むっ!」
アスカは、それを新たな宣戦布告として、受け取った。