闇の中に動き回る気配は、常にレイのそばについて回っていた。
それは今も同じ、レイが今いる路地は薄暗く、
湿気も多くて周りはビルにかさまれたまさに誰の目にも見えない場所。
レイは数人のチンピラに囲まれていて、皆人相も悪く、人目で不良と分かるようなやつらだった。
「なあ、嬢ちゃん、俺達と一緒にいい事をしようぜ?」
レイは町に一人で買い物に出ていた。
その途中、この数人のチンピラに話し掛けられて、なにも言わぬままこの路地に歩いてきたのだ。
それに不良もやすやすとついていって今のこの状況になっている。
「そうだぜ、俺達とくれば、とっても幸せになれるぜ。」
不良はゲスな笑みを浮かべて、無表情にただ立っているレイに話し掛ける。
その言葉にレイは不良の方向に顔を上げて、無言を通していたそのつぶらな唇を開いた。
「遠慮しておくわ、幸せは間にあっているから・・・・・・。」
そう言ってレイを囲む不良達の横をすり抜けようと歩いて行く。
だが、その歩みも不良達がレイの肩に置いた手によって止まった。
「だめだぜ、逃げようたって。
こんなところにやすやすついてきたんだ、ヤられる覚悟だってできてるんだろう?」
不良の一人が舌なめずりをしながらレイの胸へと手をよせる。
しかし、その手がレイの胸に届く事は、未来永劫叶う事はなかった。
その手はまるで、その一部分だけが何万年の時を遂げたように腐って生き、やがて土へと還って地面へと落ちた。
「う・・・うああああ・・・・・」
恐怖に歪む不良達の顔。
この時、不良達は初めて気づいたのだろう、自分達があまりにも巨大な存在に手をだしてしまったという事を。
しかし、それに気づくも彼らはあまりにも愚かすぎた。
「こ・・このやろう!!!!みんな!!無理やりヤっちまおうぜ!!!」
そして、あまりにも遅すぎたのだ。
「みんな!!!無理やりヤっちまおうぜ!!!!!」
一人が大きな声で叫ぶと、ほかのうろたえていた仲間もさっきまでの威勢を取り戻して、
腕のなくなった仲間とともにレイのきている服を無理やり剥がそうと一斉に襲い掛かろうとした。
「・・・・・クスクス・・・・・」
襲いかかろうとした不良達は体全体が動かない事に気がつき、
一体どういう事か見ようとするも、それがわかる事もなく腐り果てて土へとなった。
その空間だけまるで時間が早送りされているかのように、顔はやせこけていき、髪は白髪になり。
さらに眼球は飛び出して皮膚も剥がれ落ちていって内蔵までもが露出して、ゾンビのような姿になって腐り果てる。
恐ろしい・・・・そうとしか言えない光景は、たった一人の少女によって引き起こされたものである。
「・・・・・クスクス・・・バカね・・・、最初からこんな事しなければ、こんなものになる事もなかったのに。」
そう言いながら不良達が変わった土を見て薄く微笑んだ。
それは愚者をあざ笑うかのように、静かに、そして細い笑みだった。
『・・・・相変らずえげつないですね・・・・・その力は。』
どこからともなく聞こえるその声は、明らかにレイに対するものだった。
「・・・・・・・・・・・・・」
レイは突然聞こえてきたその声に反応する事もなく、無言に空中を見つめていた。
その目は何を写す事もなく、ただ前に広がる壁が見えるのみ。
レイの後ろの空間がぼんやりとして、その空間からうっすらと人らしき輪郭がうかび、
その輪郭は高校生ぐらいのGパンとタンクトップを着たメガネをかけた真面目そうな少年へと変わっていった。
背は175ぐらいだろうか、髪は耳に少しかぶるぐらいで左右に分けている。
「お久しぶりですね、レイ様・・・・いえ、リリス様。」
「・・・・・・・・・・・・・」
少年の声は狭い路地に響き渡った。
それはまるで少年の声はこの空間全体から聞こえたかのように。
「私達はそろそろ活動をしたいと思います、と言っても何時というのはまだ決まっていませんが。
ほかのものもそれに賛成しておりますが、リリス様はどうお考えなのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
レイはまだ反応はしない。
ただ少年の言葉に耳を傾けるのみ。
「碇シンジ・・・・そしてその二人の妻、
反乱の天使の名と力を受け継いだものと戯れているようですが、あなたは間違いなく我々の母・第二使徒リリスです。」
その言葉と共に、レイの周りに渦巻く雰囲気が重く、そして冷たく変貌した。
「・・・・・何が言いたいの?
わたしが望んでこの力を手にいれたわけでもないし、わたしはあなた達と手を結んだ覚えはないわ。」
レイの瞳に写るもの、それは確固たる意思と常人とは思えない殺気。
「そうですか・・・・ならば、僕達は全力で碇シンジ達を殺します。」
少年の瞳も冷たく鋭いものへと変わった。
が、そんな事にレイは何の反応も見せはしない。
「シンジ君は死なないわ、・・・・だってわたしが守るもの。」
言葉と共にどこともなく吹きぬくそよ風と、その風の中にあるのはあまりにも剣呑で、あまりにも重くのしかかる強大な力。
そのどこまでも感じられるレイの力の奥深さから醸しだされてくる威圧。
少年のすぐそばにある壁が土へと変わり、サラサラと地面へと落ちていった。
少年もそんな事に動じる事なく不敵な笑みを浮かべ、
かけているメガネは空から入ってくるわずかな光に反射して、その目を見ることはできない。
流れる静寂・・・・・・・それは数分、だが永遠に感じられるほど重く、そして長く感じられた。
「・・・・・・なぜそこまであの少年にこだわるのです?
あなたがやろうとすれば、あんな組織など瞬く間に破壊して、人類を全ての起源へと返す事も可能のはず。」
少年の口から漏れたのはレイに対するささやかな疑問。
「・・・・わからないわ。・・・・・でも、確実にわかる事もある。
わたしは人としてシンジ君を愛してしまった・・・・だからシンジ君のそばにいたいと思う。
そう思うからわたしは人類を滅ぼそうとは思わないし、シンジ君と一緒に暮らしている、そしてシンジ君にこだわるの。」
レイの瞳が一瞬優しいような、悲しいようなものになり、またいつものような目になっていた。
レイはそう言い終えると、少年のそばを抜けていき、もと来た道へと足を進めた。
だんだんと少年から離れていくレイに少年は言った。
「これだけは覚えておいてください。
僕達はいつでもあなたの事を待っています、そして、あなたの事を愛しています・・・・・すくなくとも僕は・・・・ね。」
この声は確かにレイの耳に聞こえていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
が、返事が返ることはなく、レイの姿は路地の先へと消えていった。
そして一人取り残された少年は、誰にともなく自嘲のような笑みを浮かべ、宙を見つめながら壁へともたれた。
少年は顔を上げて、上空に広がるよどみない澄んだ青空を見つめている。
手の平を広げると、黄色い光の玉のようなものがその3センチほど中空に浮かび上がってきた。
「フフ・・・僕はなぜこんな存在として生まれてきたんだろう・・・・・、
ただでさえ僕らの命は偽物なのに能力までまね物なんて・・・・・・・
そんなろくでもない運命と現実に、それでも振り回されている・・・・・そんなとこが僕の嫌な所なのかな?・・・・
僕はうらやましいんだろうな・・・・・、自分の心に素直になれるリリス様が。」
そう言うと、少年は寂しそうな瞳を浮かべたまま輪郭がぼやけていき、そして消えていった。
そして、またいつもと同じ時間は流れていく。
何も変わらず、日常と呼ばれる平凡な日々が。
数日がすぎ、レイの零号機機動実験が行なわれようとしている。
実験所に集まっているNERVの面々、リツコとミサト、ゲンドウ達首脳三人組みにシンジとマナミにサヤカ。
皆それぞれの表情でこの場で行なわれる実験にのぞもうとしている。
シンジ夫婦はそんなに深刻な表情ではなく、どちらかというと明るい感じでたわいもない話をしていて、
リツコとミサトはそれと反対に深刻な顔、ゲンドウ達三人は無表情といった所だ。
シンジ達本人達からすれば、
「暗い顔しててもいい事はないでしょ?それに、レイが心配しないように笑顔でいてあげなくちゃ。」とのことだ。
モニターから映るレイに表情に心配といった感情は見えず、落ち着いた感じが見て取れた。
そして、機動実験は開始された。
「これより、零号機による機動実験を開始します。」
モニターを見ながら開始を合図するメガネの青年。
そして、部屋の丈夫にあるモニターに複雑な回路図のようなものが現われて、
オペレーターの安全確認の声と共にその回路のようなものが順々にオレンジ色に染まってゆく。
「基礎神経接続よし。」
「パイロットと機体の調子問題なし。」
「A10神経接続します。」
「10・・・・・・9・・・・・・・」
「8・・・・・7・・・・6・・・・・・」
「5・・・・・4・・・・・3・・・・・・・」
場の全ての人が緊張し、そして集中した。
「2・・・・・・・・・1・・・・・・・・0・・・・・パイロットと期待シンクロします。」
ヴン・・・・・ビーーー!!!!!ビーーーーー!!!!!!
発令所にこだました警報の音。
それは零号機がシンクロに失敗したゆえになったものではなく、それよりもっと最悪、使徒が侵入した事によるものだった。
雰囲気がいっぺんに変わり、さっきまでとはまた別の緊張感と危機感がこの広い空間に充満した。
あわただしくなる発令所、ものすごい速さで解析を進めるオペレーター達。
ジオフロントないのはじからはじまでを調べ上げ、
その中で最も以上があった場所をピックアップして、それを実験場内のオペレーター達が目を通していく。
ジオフロントだけでもかなりの広さがあるのに、この短時間で調べ上げる事ができるのはやはりMAGIのおかげだろう。
次々と出てくるジオフロント内の資料。
オペレーター達はパソコンと向かい合いながら、ものすごいスピードでダウンロードされる資料を見て、
画面の早さよりもさらに早い神がかり的なてつきでその情報を処理し、そして次の資料へと目を通す。
そして出てきた画像の中に、明らかに不振人物と思われる人影が映しだされた。
その人影は少年・・・・・・・。
年は15.6歳程度で、髪は紫に近い青で髪が耳にかかる程度、全体的に見れば普通より少し長めだろうか。
人影は明らかに一つの目的地を目指していた。
それは・・・・・・あろうことか、レイの機動実験が行なわれているこの場所だ。
「侵入者発見しました!!!!場所はBー16ブロック!!!!!!
向かっている先は・・・・・・・こ、ここです!!!!!!ここを目指してのルートを通っています!!!!!!!!」
オペレーターの叫びがここ空間に響く。
恐怖とあせりの混ざり合った声が他のオペレーターの耳にもはいっていった。
無表情に手を組み宙を見つめるゲンドウと、その両隣にいる2人には、なんの戸惑いも恐れも見えない。
血相を変えてリツコが叫ぶ。
「侵入者が通る可能性がある通路を封鎖して!!!!
そして、諜報部と保安部を総動員させて!!!!ここに入ってこれるという事は並の人間じゃ無理よ!!!!!!!」
その言葉を、オペレーターが保安部と諜報部の事務所につたえ、
それを聞いた諜報部員と保安部員が一斉に侵入者がいる通路へとむかった。
数分もたたぬ内に、侵入者の元へと諜報部と保安部はたどり着いた。
・・・・・・・が、それだけだった。
侵入者に一斉に襲いかかる保安部と諜報部、しかし、その行動は侵入者を捕らえる事はない。
襲い掛かった諜報部と保安部は侵入者に無残にも殺されていった。
侵入者使う力はあまりにも人間離れをしていて、“普通の”人間である彼らにはかなうはずもない。
諜報部と保安部、全員が殺されるころにはあたりは血にまみれ、むろん侵入者自身も返り血に染まっていた。
血という赤の色をバックに立つその姿は、まさに地獄の鬼のような印象を与えていた。
「・・・・・・・・どこだ?リリスは。そろそろあっちもつくころか。」
そう言うと、再び侵入者は血で赤く染まった通路を抜けて、ゲンドウ達のいる所へと歩いてゆく。
「・・・そ、そんな・・・・諜報部と保安部がなす術もなく殺されるなんて・・・・・」
ミサトはあまりにも信じられない自体に思わず口ずさんだ。
オペレーター一同もリツコも心に思う事はミサトと同じ。
ただ、ゲンドウと冬月・ユイだけはなんの驚きもなく、さっきとなんら変わりなく黙っていた。
そしてさらにきつい事態に陥る事になる。
「し、指令!!!!使徒の接近を確認!!!!まもなくここに到着します!!!!!!」
声を張り上げて叫ぶオペレーターの声。
それはあまりにも不運で現時点で最悪の報告だった。
「正八面体形の使徒です。目標第三東京市に到着まであと10分。」
「なあんですって!!!!!!初号機をいますぐ出撃させて!!!!!!」
ミサトが他の整備員やオペレーターに命令する。
そして、ミサトはエヴァが動くには最も欠かせない者、パイロットの姿を探した。
・・・・・しかし、その場にミサトが求める人影は存在しなかった。
代わりにいたのは碇シンジの妻、サヤカのみ。
マナミもシンジも実験場に姿は見えない。
さっきまでいたのだが、あの侵入者が発見された直後から姿が見えないのだ。
「シンジ様とマナミなら、用事があるっと言って出ていかれましたよ。」
サヤカは冷静にミサトに言ってのける。
その態度がミサトの怒りをさらに上げてしまう。
「ふ、ふざけた事言ってんじゃないわよ!!!!!シンジ君はどこにいるの!!!!!!」
「さあ、どこでしょうか。
わたくしも二人の事を追い回してるわけじゃありませんし、そんな事まではは知りませんよ。」
サヤカは睨むミサトの目を真っ向から見つめ返していた。
「じゃあ、あんたが初号機に乗りなさい!!!!あんただって、不思議な力を持ってるんでしょ!!!!」
どうやらこの前の病院で使った力が、MAGIによって記録されて、ミサトたちの耳にもはいっていたらしい。
サヤカもその事には少し驚いて、眉をよせた。
「なぜその事を?・・・ああ、どうせ監視カメラか何かがつけられていたんでしょうね。
先ほどの話しですが、答えはNOです。
私は魂は別として、あの汚い初号機の中に入って戦うつもりは露ほどもありません。
もしもの時でも、別に初号機に乗らなくとも、あの形の使徒を倒す事ぐらいできますよ。
でも、だからってそんな簡単に私達が使徒を倒してしまってはいけないんですよ。
そうしてしまうと、あなた達は絶対に私達に頼り切って、自分達で努力というものをしなくなります。」
サヤカはやれやれといった感じでミサトに答える。
ミサトの頭の中にはどう言えばいいかわからないほどの感情が駆け巡る。
が、これだけはわかる。
この感情は決していい方向の感情ではないという事が。
「それに、あなたがたネルフの人達は世界を知らなさすぎます。
あなた方には信じられなくとも、それだけの異質な力を持った人・・・・
SEELEの天使と魔王、バチカンの王宮守護騎士パラディン、
人間という言葉の枷を外れてしまっている人達は数多くいるのです。
異質な力のある者がもしここを襲ってきたらどうしますか?
答えは単純明快、あなたがたなど抵抗する事もなく殺されるでしょう。
それだけの力をもつ者達に抵抗するにはそれに値する力が必要なのです。
しかし、あなた方はその力を持っていない。
となれば、力とは反対の対をなすもの、科学と閃き言う名の知恵を使うしかないんですよ。
精一杯その頭を絞り込めば何かが生まれてくるはず、その何かを発見して、
実行するのがあなた達の勤めであり、エヴァンゲリオンという名のモノを作りあげた人間の運命でもあるんですよ。」
サヤカの言葉の意味を痛感するネルフのスタッフ達。
今起きている現実は、サヤカの言葉の意味と重さを語るには、十分に事足りるものだったからであろう。
だが、その事で考えにふける余裕など、
正体不明の者がここにむかい、そのうえ、使徒の出現が確認された今にあるはずもない。
「みんな、今はそんな事を考えている時間わないわ。」
リツコの声が静まり返っていたネルフスタッフの耳に響き渡った。
「それを考えるのは今ある問題を解決してからにしましょう!!」
そう言い終えると、リツコはMAGIにアクセスして、
今ある二つの問題をどう解決すればいいか、どうすればいいかを探し初めている。
それに当てられたかのように、ほかのオペレーターやスタッフも自分達が何をすべきか考え、そして動きはじめた。
そして、その場にはさっきまでとは別の静けさが漂いはじめた。
「どうやら皆さんも自分のすべき事がわかったようですね。
でわ、作戦部長さん、あなたにヒントをあげます。
今回の事態はあなたには荷が重いでしょうから。
あの正六角形の姿から見て、近距離戦を得意とした使徒ではないでしょう。
と、なると、中距離以上の戦いを得意とし、何かの攻撃方法をもっているはずです。
・・・・・・・例えば、レーザー砲とか・・・・・・
という事はあの使徒は素早く動く事はないと言う事です。
どうしたら効率よくあれを倒せるかよく考えて見てください。」
そう言うと、サヤカも実験場を出て行こうと身を返した。
「あ、接近戦を使用なんてバカな事しないで下さいよ、わざわざ相手の狙いにはまるようなものですから。」
顔だけミサトに向けてそう言うと、また前を向いて歩き出した。
そして使徒は第三東京市に到着した。
あとがき
ども、マーシーです。
投稿遅れてすいません、イギリス・フランスまで旅行に出ていたもので。
報告遅いですね。まあ、それはおいといて。
今回の話しはレイが主人公みたいな感じですね。
忘れてはいないでしょうが、レイはリリスです。
べつに魂をもってるから遺伝子が混じってるからとかじゃあなくて。
それは、まあ秘密というものがあるんで・・・・フフフフフ(怖いよおい!!!)
そして出てきたあの少年・・・・まあ、少年が何なのかは皆さんお察しだろうと思います。
そしてあのキャラとの関係は・・・・特にないか。
まあ、ある事はあるんですが、本人はべつに対抗意識とか持ってねえし。
それに新しく出てきたバチカンの王宮守護騎士パラディン。
実はシャルマーニュの十ニ騎士からとった者で、これもあるキャラが・・・・あわわわ。
まあ、世界は広いって事で、
また新しい団体さんが出てくるかも・・・・とんでもない事になりそうだな。
それでは、僕、EVA白書を書き上げるんでしばらく投稿しないかも・・・・
たぶん今月中には投稿できると思うんで、また会いましょう。