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第二話 心は変わるモノ

 これが一目惚れっていうやつ何だろうか?

 朝、彼女を見てからというもの、頭から彼女の事が離れない。

 僕の後ろに座る綾波レイの事が気になり、窓から外を見る振りして、窓に反射して映る彼女の姿を見てはドキドキしていた。

 彼女は真剣にノートをとっていて、その姿がとても美しく見えた。

 時たま、彼女はふと窓の外を見る。

 その時、反射した窓ガラス越しに視線が合わないように慌てて前を見るんだけど、今までこんな自分を見たことが無くて戸惑っていた。

 今日の午前中は一般教育(国語や数学)だったから、僕はその行動をずっと繰り返していた。

 そんな感覚のまま、どうやらお昼休みになった様で、各々お弁当を広げていた。

 僕がそれに気づき慌てて弁当箱を鞄から取り出すと、ニコニコしながら僕の前に座っているカヲル君がいた。

「気になるのかい? 彼女のことが」

 笑顔を崩さず、いきなりそんな事を言ってきた。

「な! なに言ってるのさ!? べ、別に僕は…………」

 慌てて否定して、後ろをチラッと見てみるも、彼女はそこにいなかった。

 残念なようなホッとしたようなよく分かんない感覚に包まれていたんだ。

 そこで、カヲル君の事を思いだしてハッと見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。

「ふふ、まさかシンジ君が恋に落ちるとはねえ。嬉しいような悲しいような気分だよ」

「そんなんじゃないよ! ただ、気になるっていうか……」

 そう、この気持ちが好きかどうかは分かんないけど、彼女のことがとても気になるんだ。

 朝見せた僕に対する無関心、あれがどうにも忘れられない。

 僕を見た人は必ず負の感情を持って僕を見るのに、彼女は僕、というより自分以外のことなんか興味無しって感じだった。

 あんなに綺麗なのに誰とも仲良くしようとしない。

 休み時間のたびにちょくちょく男子が彼女に話し掛けるんだけど「ええ」とか「そう」といった一言で彼女が返すから会話が続かず、声を掛けた男子も諦めて遠ざかるっていう光景が繰り返されてたんだ。

 どうして彼女はあそこまで孤独を突き通すんだろう。

 その後もカヲル君が僕を色々からかってたんだけど、午後から始まる実技の準備をするため、更衣室へと向かった。

「今日の実技はきっと君も楽しめるはずだよ」

 制服から悪趣味な指定のジャージ――誰の趣味かは知らないけど1年生は紫――に着替えてる時に、カヲル君がそんな事を言ってきた。

「何で?」

「それはこれからのお楽しみさ」

 僕の疑問に答えず、それだけ言うと彼はさっさと更衣室から出ていった。

 カヲル君がその手の嫌みを僕に言うはずがない。

 何故なら、僕の苦しみをただ一人理解して、僕を信頼してくれる唯一の他人がカヲル君だからだ。

 僕も彼を心から信用、信頼してる。

 だから、本当に何かあるんだろう、と考えていると、始業のチャイムが頭上から聞こえてきて、慌てて体育館に向かった。



 他の学校がどうだかは知らないけど、ネルフがとる実技の授業スタイルは次にあげる形だ。

 超能力には本当に様々な種類がある。

 だけど、大抵の人は『基本の七種』のどれかに当てはまる。

 その、基本の七種――英語で正しい言い方があるんだけど、そんなの僕は覚えておらず、大抵の人はこの呼び方で言っている――は、火、水、電気、風、重力、物質変化、ATフィールドの七つ。

 まあ、火や水、電気、風なんかは説明するまでも無く、それらを生み出し操るんだけど、残りの三つはちょっと違う。

 まず重力は、そのエスパーの力の範囲内に限り、重力をコントロールすることが出来るんだ。

 例えば、自分の体重を軽くしたり、手近な物を重くしたりすることが可能なんだ。

 世界トップレベルの重力エスパーなんかは、空間を歪曲して小さなブラックホールを生み出すことも出来る。

 僕もあんまりよく分かんないんだけど、そんな感じかな。

 次に物質変化。

 これはエスパーの手に触れてる物を、硬くしたり柔らかくしたりすることが出来たりする。

 他には自分の筋肉を強化して強くしたり、拳銃を撃たれても平気なぐらい体を硬くすることが出来るんだ。

 ガードマンや警備会社に勤める人の大半がこの能力って言っても過言じゃない。

 最後にATフィールドなんだけど、これはイマイチよく分かんない。

 何も無いところに目に見えない壁を生み出せるらしいんだけど、何の力の無い僕には全く理解できない。

 それを扱う人の強さで見えづらかったり、見やすかったりするんだけど、それは普通のエスパーの人の話で、僕には全然見えず、一度フラフラ歩いててそれにぶつかって痛かった経験があるくらいだ。

 まあ、基本はこんなところでこれ以外にも沢山あるんだけど、大抵の人はこのどれかに当てはまる。

 本当にごくまれに珍しい能力の人が出てくるけど、僕の学年で基本の七種以外の生徒はいないから、今はその説明はいいかな。

 そしてネルフでは、だだっ広いグラウンドで最初の四つの、これまたあり得ないぐらい広い体育館では残りの三つの授業を行う形をとってるんだ。

 僕はどれにも当てはまらないから、好きな所を見学――最初に邪魔だから関わるなって言われた――していいことになってる。

 だから僕は体育館でボーッとしてたり、外で風に吹かれてたりと、およそネルフの生徒らしからぬ事をして時間を潰してる。

 だけど今日はカヲル君があんな事を言ってきたから、全部を覗いてみようと思ってまずは体育館に行ってみた。



 一学年全員で行うだけあって流石に人が多い。

 まず、グルッと見て回ったけど、いつも通りで特に楽しいことは無かった。

 強いて言うなら、僕のクラスメートの鈴原君が自分の筋肉をふくれるだけふくれさせ、ボディビルダー顔負けの体になってて、他の皆が大爆笑してた。

 僕もちょっと面白いと思ったけど、これはカヲル君の言う楽しい事じゃないだろう。

 突発的なことだからね。

 う〜ん、他には何も無いし、グラウンドに行ってみよう。

 そして、僕は先生に何も言わず勝手に体育館から出ていった。

 今日はいい天気だね、太陽が雲に隠れて無くてちょっと暑いけど。

 外に出た僕は気持ちのいいくらい晴れた空を見上げていたんだけど、やることを思いだしてグラウンドに駈けていった。

 すると僕の目に飛び込んできたのは、大勢の生徒が一カ所に集まって何やらざわざわとしてるものだった。

 あれ? 今日はどうしたんだろう。

 いつもはその『力』に別れて広いグラウンドを目一杯使ってるのに、今日は中心に集まってたんだ。

 僕がそっちに歩いていくと、何やら女の子の大声が聞こえてきた。

「…………さい! いつまでも澄ましてんじゃないわよ!」

 この声は惣流さん?

 何やらギャラリーは彼女と誰かを囲んでいるみたいなんだけど、その中心は人垣で見えなかった。

「遅かったね? シンジ君」

「うわっ!?」

 急に肩に手を置かれ、耳元でそんな事を言われたんだ。

「な、何でこんなことするのさ!?」

 僕は耳を押さえながら振り向き、それをしてきた人物に恐らく赤くなった顔で怒鳴った。

「ふふ、別に意味は無いさ。それより真ん中に行こう?」

 カヲル君は前髪を軽やかに掻き分けてそんな事を言ってきたと思ったら、僕の右手を掴んで歩き出したんだ。

「ちょ!? 離してよ!」

「こうでもしなきゃ君は見られないよ…………おっと、ごめんよ…………悪いけど、通してくれるかい? …………」

 僕の手を引っ張って、人混みを掻き分けてくカヲル君。

 確かに僕一人じゃ行けないけど、何だってこう、いつも彼は僕に接触をしてくるんだろう。

 違うと思うけど彼はよく僕に触れてくるから、もしかしてホモなの? カヲル君って、と思っちゃうときが時々あるんだよね。

 さっきだって、別に耳元で囁かなくたっていいじゃないか。

 彼のことは好きだけど、こういうところがよく分かんないんだよね。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか僕らは輪の中心で起こってることを見やすいベストポジションに来ていた。

 目の前には仁王立ちの惣流さんと、無表情で突っ立ってる綾波さんがいた。

 何が起こってるのか全然分かんない僕は、説明を求めてカヲル君を見た。

「これから、彼女達が決闘するらしいよ」

「け、決闘!? そんなことしたら綾波さんが……」

 なんて事は無い顔でそう言うカヲル君に、僕は驚きを隠せなかった。

 決闘って言っても殺し合いの戦いってわけじゃなく、お互いが合意の上でその超能力を使って戦うものなんだ。

 まあ、スポーツで言うところの試合みたいなもの。

 だからといって、当然戦う訳だから怪我もするし、結構危険なんだよね。

 その手の事が好きな男の子や自分の力を試したい人は楽しんでやるんだけど、学年で上位を争う惣流さんと戦って大人しそうな綾波さんが無事で済むはずないじゃないか。

 彼女は上級生と喧嘩してもあっという間に勝つくらいの実力者なんだから。

「まあ、黙って見てなよ。その心配はすぐに解消されるから」

「え?」

 それを知ってる筈のカヲル君はこの争いを止めるでもなく、いつもの笑みで僕の心を読んだかの様なことを言ってきた。

「行くわよ!」

 僕がまだもやもやしてたら、惣流さんの大声が聞こえてきた。

 彼女を見ると、両手を綾波さんに突きだし、その先からはマシンガンさながらの小さな火の玉を高速で何発も放っていた。

「お〜!」

「すげ〜」

「カッコイイ!」

 周りからは男女問わずそんな感じで賛美の声があがっていたが、それも当然だと思う。

 火のエスパーだからそんな事ぐらい出来て当たり前だろ? なんて思うかもしれないけど、物事には順序ってものがある。

 彼ら――火のエスパー――が最初にすることがまず何も無いところに火を発火させること。

 次にその大きさを変えていき、好きなように形を変える訓練をする。

 そして、自由に動かしたり、同時に発火させたりと色々な練習をするんだ。

 それで今、惣流さんがやっているのが、炎を彼女の出来る限り圧縮させて、高速で綾波さんに放ってるんだ。

 それを何発も繰り返してるって感じだと思う(僕は知識しかないから正確に把握できないんだ)。

 なんて悠長に見てたけど、それを喰らった綾波さんはただじゃ済まないと思い、慌てて彼女を見ると、全く身動きせずそこに立っていた。

 どうして? そう思った僕がよく見てみると、綾波さんの体に火の弾が当たる直前に何故かそれが消えてるのだった。

「くっ!」

 焦ったような惣流さんの声が聞こえたと思ったら、攻撃をやめて手を上に掲げだしたんだ。

 綾波さんが無事な理由もよく分かんないまま、何するのかな? っと思っていたら、惣流さんの頭上に大きな火の玉が出来ていた。

 直径は少なく見ても一メートルはある巨大なもので、あれを喰らえば死んでしまうんじゃって思わせるものだった。

「カヲル君。あんなの喰らったら綾波さんが……」

「大丈夫だよ」

 僕の心配をよそに彼は彼女達に集中していた。

「いっけ〜〜!」

 そして惣流さんが綾波さんに向かってそれを飛ばした。

 すると綾波さんの背後から青い巨大な龍とでもいったものが突然姿を現わしたんだ。

 何あれ? あれが綾波さんの力? でも、こんなの初めて見た……

「おー!」

「ひゅー!」

「すてきー!」

「好きだー!」

 僕が呆然とそれを見ていると、他の皆は興奮しながら大声を出していた。

 その龍は火の玉の正面に行き、その大きな口を開けて何かを吐きだした。

 何かって曖昧な表現なのは、何を吐いたのか全く分からなかったからだ。

 ただ純白な煙みたいなものが火の玉を覆い、その後には何も残っていなかったんだ。

 そして火の玉が消えると、その巨大な龍は役目を終えたとばかりにその姿を消した。

 惣流さんを見てみると、悔しそうに握り拳を振るわせ、下唇を噛んで俯いていた。

 それに対し綾波さんは何事も無かったかのように、全く動いていなかった。

「これで勝ったと思うんじゃないわよ! 今日はたまたま油断してただけなんだから!」

 顔をバッと上げた惣流さんがそう怒鳴った。

「……そう」

 と、たった一言で返す綾波さん。

 その態度に惣流さんはクルッと背を向けて人垣に歩いていき「どきなさい! 邪魔よ!」って言いながらどっかに走っていった。

 残ったギャラリーは綾波さんにさっきの戦いを、これでもか! ってぐらい褒めちぎっていたんだけど、大した反応をしない彼女に落胆しながら離れていった。

 僕はさっきの龍の美しさに感動して、未だ立ちつくしていた。

「どうだった? 僕の言ったとおり楽しめただろう?」

 カヲル君を見ると、僕を面白そうに見てる彼の顔があった。

「……うん。凄かった……でも、あれはどういうこと?」

「それは直接訊いた方が早いんじゃないかい? ……綾波君、ちょっといいかい?」

 そう言うや否や、カヲル君は僕の手を引っ張って彼女に声を掛けた。

「何?」

 顔を僕らに向け、小さな声でそう言ってきた。

「彼が訊きたいことがあるみたいなんだ」

 そしてカヲル君は一歩下がった。

 綾波さんは僕の事をじっと見てきて、その目は「用件は何?」とでも言ってるかのようだった。

「あ、え〜っと、さっきのはどうやったのかなって……」

「……どうしてそういうことを言うの?」

 すると、綾波さんはそんな事を言ってきた。

「へ? ど、どうしてって、よく分かんなかったからなんだけど…………」

 予想外の事を言われ、僕の声は小さくなったんだ。

「…………」

 何故か分かんないけど、綾波さんは無言になり僕を凝視してきた。

 別に変なこと訊いてないよね? 何か不安になるな……

「……あれは水を練りこんで造ったモノ……火の玉を消したのはマイナス192度にまで冷やした龍の体内から吐きだされた息……」

 僕が悩んでいたら、急に一気に説明してくれた。

「あ、ありがとう」

 そう返すのが精一杯だったんだ。

 すると彼女はクルッと背を向け歩き出したんだ。

「あ、あの!」

 僕は自分でも無意識の内に声を出していた。

 それに振り向いた彼女は、何の関心も無いような瞳で僕をただ見てた。

「ぼ、僕は碇シンジっていうんだ。その、よろしく」

 言ってから気付いたんだけど、僕が誰かに自分から話し掛けるなんて生まれて初めてということに。

「…………綾波、レイ……」

 彼女の口から出た声は小さかったけど、僕の耳にはハッキリと聞こえた。

 それだけ言うと、彼女はさっさと歩き去ってってしまった。

「はあ〜」

 安堵の溜息を吐きながら、こんなに緊張したのは何年ぶりだろう? なんて考えていた。

「ふふ」

「?」

 含み笑いが聞こえた方を見てみると、カヲル君が楽しげに微笑んでいた。

「どうかした?」

「シンジ君が自己紹介するなんて思ってもいなかったから、ついね」

 そう言ってまたクスクスと笑いだした。

 まあ、その通りなんだけどそんなに笑わなくたっていいじゃないか。

「それより、どうしてあんな事を言われたんだろう?」

 この雰囲気が嫌で話を変えようとしてみた。

「あんな事って?」

「綾波さんが「どうしてそういうことを言うの?」って言ってきたやつだよ」

「ふーむ……」

 唸ったカヲル君は何かを考えてるようだった。

「……もしかして、彼女は君が超能力を使えないことを知らないのかもしれないね」

 やがてゆっくりとそう言ったんだ。

「え?」

 そんな人はこの先進国、日本にはいないと思うんだけどなあ。

「これから言う事は別に君を卑下してるわけじゃないから、気に障ったら謝るよ」

 と言って僕を見てから話を続けた。

「よっぽど力が弱くない限り、どんな能力を使ってるのかは大抵分かるんだ。だから、さっき見てたギャラリーは全員分かっていたと思うよ。そしてここ、ネルフにいるからにはそれなりの力を使えると彼女は思ったんじゃないかな」

 そういうものなんだ。

 そんな事授業で習わないから、世間一般では常識とされているんだろう。

「でも、僕のことを知らないってのは……」

 あれだけ僕が小さい時に取り上げられたのに、っと昔の事を思いだしたんだ。

「まあ、推測だから分からないけどね……今度本人に直接訊いてみればいいさ」

「うん」

 そうしよう。

「ねえ」

「何だい?」

「カヲル君なら綾波さんに勝てる?」

 ちょっと気になった。

 カヲル君はこの学校で、先生を抜かせば誰よりも強いんだよね。

 上級生だろうが彼に挑戦して勝った人は誰一人としていない。

「どうかな? 今度手合わせしてみるとするよ」

 カヲル君にしては珍しく曖昧に答えた。

 だからといって彼が自分を過大評価してるわけじゃなくて、全てを客観的に冷静に見ることが出来るからなんだ。

「そう……ところで、どうして惣流さんと綾波さんが決闘するって分かったの?」

「昨日、君は休んだだろう? その時、実技で綾波君が皆にさっきのを見せたんだよ。それを見たアスカちゃんが決闘を申し込むって朝言ってたのを聞いてね」

「ふぅ〜ん」

 惣流さんは気が早いからすんなりと納得できた。

「そろそろ僕は行くけど、シンジ君はどうするんだい?」

「僕はあそこで座ってるよ」

 グラウンドの端の方を指差した。

 そしてカヲル君は皆が固まってる方へと歩いていった。

 僕はグラウンドの端に行き柵に寄りかかりながら、さっき見たあの綺麗な龍を思い出して、雲一つ無い青空を見ていた。






 綾波さんと最後に話してから早くも一ヶ月が経った。

 その最後っていうのは、あの実技の授業の時なんだよね。

 今までの僕らしくもなく、彼女に興味をひかれた僕は何度も話し掛けようとしていたんだけど、カヲル君を抜かして誰かと親しく話した事のない僕にとっては難題だった。

 あれから、彼女はだれとも仲良くならず、孤高を貫いていた。

 たまに惣流さんが彼女に決闘を挑んでいたりしたんだけど、その戦績は全敗。

 カヲル君は彼女とまだ戦う気は無いらしく、行動を起こしていなかった。

 いつだったか僕の誕生日に、父さんが買ってくれた最先端のパソコンをいじりながら、そういった学校での事を思い返していたんだ。

 僕は特に意識もせず、のろのろとマウスを操作してる。

 そして、適当にネットをウロウロしていたら、ここまで豪華にしなくても、ってぐらいのエレキカーの広告が目に飛び込んできた。

 僕はそれを見ながらボーッとしていたんだけど、ふと思い出した。

 そういえば、僕を誘拐した犯人は黒いエレキカーを使っていたような気がしたな。

 あの時の事を思い出そうとするも、気を失った直後に見た物だから鮮明に思い出せなかった。

 結局、母さんは僕のためにいくらとられたんだろう? こんな僕の所為で母さんが苦しむのは間違ってる。

 どうにか犯人を見つけて捕まえられないかな。

 僕にしては珍しくそう前向きに考えていたんだけど、大きな壁にブチ当たった。

 やっぱり無理だね……あんなに凄い力を使えるんだから、もし僕が犯人を特定できても簡単にやられちゃう。

 僕って無力だな……。

 椅子の背もたれに寄りかかって、深い溜息を吐いた。

 僕に綾波さんぐらいの力があれば…………いや、そんな考えはよそう。

 それは何度も想像してたけど、結局は何の解決法も無かったし、ただ空しいだけだったじゃないか。

 諦めた僕はパソコンの電源を落とし、もぞもぞとベッドに潜り込んだ。

 僕にどうこう出来る事じゃないよね…………ん? 綾波さんに協力を求めたら……いや、彼女なら無視するか、素っ気ない一言で拒否するかだね。

「ふぁ〜あ」

 軽くあくびをした僕は、次第にまどろんでいって、夢の中に誘われていった。






 翌日、今は放課後。

 殆どのネルフの生徒は何かしらの部活に入っているから、あちらこちらで元気のいい声が聞こえてくる。

 旧世紀から衰えない人気を誇るサッカーから始まり、野球、アメフト、テニスみたいに体を使う部活、かと思えば辺りを水浸しにしてる陸上水球や、学校指定のエレキカーを広いサーキットをびゅんびゅん走らせてるE1競技、といったものが僕の周りで繰り広げられている。

 そう、いつもなら僕もさっさと帰路について、今頃テレビでも見ているような時間なんだけど、ここは校舎裏で僕の目の前には綾波さんがいる。

 何も離さずにただお互いを見つめ合っている僕ら。

「何?」

 焦れたのかよく分かんないけど、綾波さんがそう言った。

 何でこんな事になってるかというと、昨日考えていたことを実行してみようと思ったんだ。

 断られたらそれはしょうがないし、もしも協力してくれるなら母さんを助けて、ひょっとしたら彼女と仲良くなれるかもしれない、って思ったからなんだ。

 今までの僕からは考えられない積極性。

 もしかしたら、綾波さんが持つ雰囲気が僕を後押ししたのかもしれない。

 そうして今、呼び出すことに成功して僕が言い出せずにいた。

「え〜っと、まず、ここに呼び出したのは告白とかっていうのじゃないから安心して」

「そう」

 警戒されないように言い訳がましく言ったんだけど、彼女は本当にどうでも良さそうだった。

「実は……あ、先に言っとくけど嫌だったら断っていいから……」

「何?」

 最初と同じ事を言ってきた。

「うん。まだ綾波さんとは一回しか話したこともないし、親しいわけでもないのにこんな事頼むのはアレなんだけど…………ちょっと、協力してもらいたいことがあるんだ」

「…………」

 僕は緊張で彼女の顔を見ることが出来なかった。

 本当ならもっと詳しい説明をするつもりだったし、するべきなんだろうけど、僕の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。

 そうして、どのくらい続いたか分かんない沈黙は、彼女の綺麗な小さな声で破られた。

「……いいわ」

「え……」

 そして顔を上げて彼女を見てみるも微動だにしていなかった。

「あなたに協力するわ」

 彼女の蒼い髪の毛が、ふわりと風に揺れていた。










 あとがき

 シンジが力の説明を軽くしましたが、彼の言ったように基本は七種類です。でも、彼が言ったようにそれ以外にも力があるんですが、そんな人は珍しくてあんまりいないんです。っていうことは、ちょっとはいるってことで、後々出てきます。設定ではアスカはそれなりに優秀だけど、カヲルやレイの方がずば抜けて優れてることになっています。これには、僕の趣味が思いっきり出てます。シンジは犯人を捜そうと多少前向きになり、レイは詳しい説明も聞かず協力することになりました。まあ、その辺のレイの気持ちは後ほど。別にLRSにしようとしてる訳じゃないんですが、何かそんな形になってきましたね。それでは、次回もよろしくお願いします。