満月の夜

 走る

 走る

 様様な匂いがあふれる中を

 酒や肉

 人間が体につける香料

 さらにかすかにどぶのような匂いが混じっている

 人間の街の匂い

 その中を泳ぐように走る。

 走る

 走る

 二ヶ月の幽閉で衰えた四肢に鞭打って

 脱走の際傷を負った腹部の痛みを絶えて

 走る

 走る

 夜の街を

 

 

 

 


 

狼精日記

第1話

『出会い』

 

 


 

 

 

 

 

 

 ずっと狙っていた今日

 港町につくこの日

 二週間の上陸

 奴らが羽目をはずして

 監視でさえ羽目をはずして酔いどれていたから大丈夫だと想ったのに

 あの眼鏡ザル、自分一人だけ飲まずに金の勘定なんかしてて

 おろかなことに見つかってしまった。

 あのゲスどもに射られた左横腹が痛む

 長い幽閉で体が衰えていなければ皆殺しにしてやるものを

 封印で力が落ちていなければ徹底的になにからなにまで破壊してやるのに

 

 人間たちが駆けるワタシを見るたびに悲鳴を上げている。

 貴様らのような連中ばかりならかわいいものを

 

 歓楽街を突っ切り、街の大通りに出た。

 このあたりに私が隠れる場所などありそうにない。

 なにより、やつにつけられた目印をはずす暇がない

 ともかく奴らを引き離さなければ

 大通りは一直線に小高い丘の建物に向かっている。

 あそこはかなり広いし、緑も多そうだ。

 

 

 ワタシは弱った体を叱咤し、そこに向けてかけていった。

 

 

 丘のふもとまで来た。

 少し手前から建物が途絶え、あたりは鬱蒼とした森に覆われている。

 かなり離したようだがまだ安心できない。

 かなりきつい傾斜で、大通り同様平たい石で覆われた道が周りをめぐるように続いている。

 しかし、いくら傷ついているといってもワタシには関係ない。

 いい具居合に木々が斜面を覆っていたので、奴らから弓で狙われることもなく駆け上った。

 自慢の蒼銀の毛並みが血に塗れる。

 早くどこかで………………・

 

 

 

「・・・・・・・・・なにやら騒がしいね、マナ」

「はい、どうしたんでしょう? 」

「まぁいいや、それにしても相変わらず夜のにぎやかな街だね。あれから七年、まるで変わら無い」

「レン様、船乗りたちには久し振りの陸ですもの。しょうがありませんわ」

 

 前のほうから声が聞こえる。

 ようやく丘を上り詰めたら、やけに広い空間に出た。

 どうも人間の手の入った木々や下草が目立つ。

 辺りも先ほどまででないが人間くさい。

 

 ふと、なにかよい香りが漂ってくる。

 大好きな林檎の匂いだ。

 山にいるときはよく、ふもとの村の林檎畑であさったものだ。

 妙に甘ったるいような匂いだが気にしない

 先ほどの声の主が食べているのだろう

 脅して奪うつもりで、茂みから出た。

 

「ひゃぁっ! 」

「――――――ほう・・・・・・・・・・・・」

 

 人間が二人

 想ったとおり、食事か何かの最中だったらしい

 しかし、ワタシはそんなことを気にしている余裕がなかった。

 

 

 

キレイ

 

 

 

 そんな言葉が頭を過ぎて、そのまま何も考えられなくなった。

 目の前の人間二人

 一人は、年のころなら十五、六歳

 なにやらひらひらとした、人間の女が着るものを着て、小さく華奢だ。

 オスのにおいがするけど

 背も低く、ワタシを見ておびえている。

 

 そして、もう一人を見たとき、ワタシは呆然とした。

 

 年は二十歳前後だろうか?

 男性もののような黒地に銀の縁取りの入った上下

 美しく伸びた足

 キレイな線の腕と、白魚のように伸びやかな指

 限界まで引き締まった腰

 豊かで形のよい胸

 美しい刀剣のような肢体

 腰まである黒髪に月光を浴びて青く輝く肌

 そして、炎を閉じ込めたよな紅の瞳

 人間のはずが………・なぜか人外の匂いを漂わす目の前の背の高い男装の女に目を奪われているうちに

 目の前が真っ暗になった。

 

 

「お・・・・・・・・・・・、」

「ま、大変! 」

 

 突如目の前に現れた、身の丈五メートルはある巨大な狼は

 しばらく二人を見ていたと想ったら、急に倒れてしまった。

 よく見れば、その蒼銀の毛並みはわずかに薄汚れ、己が流した血に塗れている。

 

 メイドらしい姿をした、癖毛のショートカットの少女はすぐさま駆け寄り

 先ほどまで怯えていたのがうそのように、エメラルド・グリーンの瞳を気遣わしげに狼に向けている。

 

「急いで手当てしないと! 私、人呼んで来ます」

「必要ないよ」

「でも!! 」

「まぁ、待って」

 

 男装の麗人・レンは、そう言って自分のお気に入りの召使・マナをとめると

 蒼銀の狼の頭に左手をかざし、いきなり右手をその患部に突っ込んだ。

 

「ヒッ!!! な、何をしてるんです!? 」

「治療」

 

 端から見ても、まったくそうは見えないが、狼はピクリとうごめいただけで特に反応しない。

 左手が青白く光っており、それはずっと頭に翳されたまま

 そして右手ゆっくりと引き抜く。

 血まみれになったその手には短く根元の木が残った鏃が握られていた。

 彼女がその紅く染まった手で、その鋼鉄製の鏃をいとも簡単に握りつぶし、粉々にする。

 右手が抜けた時点で、患部はみるみるうちに塞がっていく。

 

「まったく……、もうちょっと見てるほうが安心できることしてください、レン様」

「鏃を取り出したし、傷も治ったのだからいいでしょう、ついでに封印も解いたし」

「まぁ、そうなんですけどね。でも、ほんと綺麗ですね。この狼さん」

「ああ、アルピノかな? 先ほど見たら、目も赤かった」

「そうですね。起きてたときは怖くてそんな余裕なかったですけど、確かに綺麗ですよね」

「うん・・・・・・・・・」

 

 レンとマナは手当てが終わったこともあり

 今は安らかな寝息を立てて眠っている巨大な狼を見ていた。

 すると……・・

 狼が突然淡く輝きだしたではないか

 

「へっ!? 」

「―――――――――フム・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 光が収まると、そこには年のころはマナと同じぐらいの、

 ぼろを身にまとった蒼銀の髪の、美しい少女がいた。

 

 

 

 

 

 朝

 レンは岸壁沿いの、小高い丘の城の南に突き出した自室で目覚めると

 その神々しい裸身を惜しげも無く朝日にさらしながら、バルコニーに出る

 晩夏の日に祖のみを輝かせながら、眼下に広がる大海原をひとしきり眺める。

 朝日の中を黒いシルエットと化した帆船が何隻も行き交い

 港のざわめき、市場の賑わい、かもめの鳴き声が風に運ばれてくる。

 

 ここは東西の大陸の間にまたがるアドリア海のほぼ中央

 エニシアン島

 西の大陸の憂国、ネルフ皇国の西端の領土であり東西大陸をつなぐ海路の要

 碇皇家の最も信認厚く血も近い霧島家が代々治める要所中の要所

 そして、今代の女帝・ユイと宰相・六分儀ゲンドウの間にできた第一王子

 皇太子・碇シンジが預けられた

 いや・・・・・・・・・・・・・幽閉されている場所

 

 

 レンは雲ひとつ無い空を見上げる。

 色素の薄い赤い瞳にはまぶしかった。

 一向に日焼けも潮焼けもしないほのかに青い肌だが、さすがに日差しを浴びつづけるのは熱くて

 レンは部屋に入るとそのまま白いローブを羽織って、引き綱でベルを鳴らす。

 

 トントン

「入れ」

「おはようございますっ!レン様」

「おはよう、今日も元気がよいな」

「ええっ、それが私の数ある美点の一つですから」

 

 2、3分もしないうちに、今日も今日とて元気欲やってきたのは

 濃紺のワンピースに大きなリボンのついた白のエプロンをつけたマナである。

 レンの身の回りの世話は、ほとんどマナがしていた。

 

「今日はモリフォァ茶ですよ。少し香草もブレンドしてみました」

「そう………ん……・おいしい」

 

 手際良く用意され、テーブルに出された茶を一口のみ

 微かに微笑みながらそれだけつぶやく

 マナにも満足そうな笑みが浮かぶ。

 

「ありがとうございます。お風呂の準備はできてるので、どうぞ」

「わかった、ところで・・・・・・・・・・彼女は? 」

「あ、あの方ならとりあえず汚れていたので服を脱がせて、体を吹いてから着替えさせて・・・・・・・・・・・・」

「い・ま、今はどうしているの? 」

「あ、はい。今はまだ客室で寝ているとおもいます」

「そう」

 

 そのまま部屋を出るレン

 ついていくマナ

 いつものように湯殿に向かっていたのだが、レンの着替えを用意していたマナは

 先ほど以来ずっともの問いた気にレンの背中を見つめており

 

「あの、」

「どうしたの? 」

 

 敏感にそれを察知していたレンは、少々居心地悪くて苛立ちはじめ

 そのせいで歩調が早くなったため、マナも主人の心模様を敏感に察知

 とうとう声をかけたのだが

 

「あの方のことです・・・・・・・・・」

「――――何? 」

「起きたとたんに飛び出したりしないでしょうか・・・・・・・・・・・・それも、狼の姿で」

「大丈夫。ボクが行くまで絶対に目覚めないよ」

「そうですか・・・・・・・・・・・・」

 

 マナがまだなにか言いたそうだが

 とりあえず湯殿についたので、一度会話を打ち切った。

 

 

 湯殿はやたらと広く、下には滑らないよう多少凹凸を残した黒い石が敷き詰められ

 壁面もすべてそれで覆われていた。

 そして、一度に二十人は入れそうな無意味に広い湯船は、レンの趣味で檜造りである。

 東の果ての、日ノ本の国に多少かぶれたレンの道楽のひとつだ。

 そのまま木製の腰掛に座ると、自分も日ノ本の湯浴みに着替えたマナが手桶でレンの体を流し

 髪から丁寧に洗っていく

 

「レン様・・・・・・」

「今度はなに? 」

「また、あの方のことなのですが・・・・・・・・・」

「まだ何か? 」

「はい、それが・・・・・・・・・・・・・・・」

「―――――ほう・・・・・・・・・・」

 

 しっかりくつろいで、その長身を投げ出しているレン

 その肢体を手馴れた手つきで洗っていく。

 マナの湯浴みも湯に透けて、体の線があらわになっている。

 発育が悪いのか胸が無かった。

 

「それではごゆっくりどうぞ」

 

 レンの体を一通り洗い終えると、マナはそのまま湯殿から下がる。

 レンはしばしの間、檜の湯船につかってのんびりしていた。

 

「ふむ・・・・・・・・・・・よいかも」

 

 広すぎる湯船でその四肢を十分に伸ばしながら

 レンは一人呟いた。

 

 

「やはり、これを着なくちゃダメ? 」

「はい♪」

「――――――――どうしても? 」

「どうしてもですっ♪♪ 」

 

 湯殿から上がり、マナに体をふかせ

 しばしマッサージの心地よさに身をゆだねた後、レンはいつものように下着について駄々をこねていた。

 マナのほうは問いえば、これまでの従順な様子が嘘のように居丈高に迫っている。

 

「いったいいつになったら慣れるんです? いい加減あきらめて素直に着てください」

「しかし1年前までそんなものまったく縁が無かったんだよ、ボクは」

「では、慣れてください。そんな大きな胸、下着でしっかり補正しないとそのうち垂れちゃいますよっ、」

「そんな簡単に垂れてたまるかっ! 」

「それにゆれて肩こるし、痛いでしょう? 諦めて着けてください。コルセット付けろって言ってるんじゃないんですから」

「いらんわそんなもの、布でも・・・・そうだなサラシでも巻いておれば良いのでは? 」

 

 とことん男装にこだわるレンは、女性の下着を着けるのがどうにもなじめない。

 困り果てているのか、その秀麗な顔がいつも以上に青ざめ、誰が見ても困惑気味である。

 そして、今日も今日とて、朝から服を薦めるマナに抵抗していた。

 そのマナの手にはレースの入った黒の下着がまず握られている。

 

「そんなことしたらその綺麗な形が崩れちゃいますっ、諦めて、さぁ! 」

「しかしだなぁ」

「さぁ! さぁさぁ!! 」

「う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さぁさぁさぁ、さぁ!!!!」

「―――――――――わかった・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 下着を目の前に突きつけられ、ローブを身にまとっていたレンはやはりいつものように諦め、承諾する。

 そして、派手なデザインの、やはり黒のショーツを身につけて、ため息をついた後

 よいよ、ブラをつけようとするのだが・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「マナ・・・・・・たのむ」

「もう、まだできないんですか? いい加減覚えてくださいよ」

「――――――覚えたくない・・・・・・・・・・・・・・」

 

 気が遠くなるほどイヤイヤなもだから覚えも悪く、結局マナに手伝ってもらうことになった。

 

 

 多少悄然とした雰囲気のレンをつれて、マナは廊下を案内していく

 レンが着替えの都度、このように駄々をこねて最後に憮然としていたりするのはいつものことなので

 いまさらそれを気にして入られない。

 こんなときはマナのいかにも溌剌とした様子とは好対照である。

 

 レンは絶世といってよいほどの美人である。

 が、相変わらず上から下、ついでに手袋と靴まで真っ黒に身を固めているため、おまけに196cmという長身である。

 その落ち込んでいる様は非常に鬱陶しかったりする。

 

「ほら、いい加減いつものことなんだか気を取り直してくださいよ」

「――――嫌なものは嫌・・・・・・・・」

「あの子もそりゃぁ綺麗な顔してますよ。楽しみでしょう? (ちょっと、いやかなり妬けるけど)」

「そうだね、気を取り直すかっ! 」

「そうです!(まったく、調子いいんだから)」

 

 とりあえず主人の気分を高揚させることには成功したものの

 レンの普段めったに見せないような軽さが気に入らず

 心中複雑なマナであった。

 

 

 そんな話をしているうちに、二人は客室の一つについた。

 

トントン

 

 さっそくマナがノックをして相手が起きているか確かめようとする。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

トントントン

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

トントントントン

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 しかし、まったく返事が無い。

 

「――――――マナ、なぜノックをするの? 」

「それはもちろん、いきなり入ったりしたら失礼だと想うから」

「――――――彼女はボクが行かぬ限り起きぬと言ったけど・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「―――――――――――じゃぁ、はいりますね」

 

ガチャ

キィー――――――

ガチャ

 

 主の言葉に、自分のしていることの無意味さを理解して赤面するマナ

 それでも、数瞬ごには何事も無かったかのようにドアを空けた。

 

 

 部屋の客は確かにいまだ寝ていた。

 東向きのこお部屋は、窓からは水色のカーテン越しからでもまぶしく感じるほどの光が入っていて

 天蓋付ベットのレースのむこうの華奢な影がはっきり見える。

 レンはそのまま無造作にレースを払うと、少女の枕元に立つ。

 昨日の蒼銀の髪の少女が眠っていた。

 

「――――――にしても、綺麗ですね」

「ああ」

 

 おそらマナと同年代であろう。

 たしかに下手をするとベットの清潔なシーツよりも白く、しみ一つ無い肌と、恐ろしく整った顔

 裸で寝ているのか、除いている肩のラインもシーツの上からわかるシルエットもとても華奢で美しい。

 

 マナの言葉に空返事をすると、右手を少女の額に翳す。

 しばらくすると、少女に変がおとずれた。

 

「−−−−−−−−−−ううううん・・・・・・・・・・・・・・」

「起きるな」

「大丈夫ですか? 狼に変身して襲ってきませんかね」

「さぁね」

「そんなぁ〜〜」

「冗談」

「ぶぅ〜〜〜」

 

 軽くうめき声をあげた少女に、昨日の巨大な銀狼を思い出し怯えるマナをレンがからかう。

 おかげでしっかり騒がしくなり

 

はっ!

バッ!!!!

 

 少女はいきなり飛び起きると床へジャンプし、二人をにらめつけながら四つんばいになり

 全身に力を入れるが・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・なぜ・・・・・? 」

「悪いが、一時的におまえの能力を封印させてもらった。狼に変身することはできない」

「――――――そんあことしてあるんなら、どうして教えてくれないんですかっ!? 」

「その方が面白いから」

「ぶぅぶぅ〜〜〜〜」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 自分の体に何の変化も無いことにしばし戸惑い、立ち上がる少女にレンが説明し

 知らされずに怯えていたマナはまた文句を言った。

 

「ところで、そなた名前は? 」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「手当てしてあげたんだし、あなたを追っていた商人から買い取ったんだから、名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃない? 」

「――――そう、ワタシは貴方たちに売られたのね」

「別にそなたをどうこうしようとは思わぬ。ただ、名前を教えてくれると呼びやすいのだが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「せめて名前ぐらい言いなさいよ。あ、私はマナ、霧島マナね」

「余の名はレン。ただレンだ」

「――――――――レイ、綾波レイ・・・・・・・・・・・・・・」

 

 諦めて立ち上がった彼女は、レンとマナに瞳を向ける。

 最高級のルビーを思わすその瞳は、しかしなんの表情も映していない。

 しなし、考えているのか軽く視線をさまよわせたが、結局ぼそりと答えた。

 ちなみに頭には狼の解きの名残か三角の犬耳がぴょこんと出ており

 おしりには尻尾があるので下着の後ろに穴があいている。

 

「綾波レイか、良い名だ。響きも良いし、これからは綾波と呼ぶことにしよう」

「――――――か、かまわないわ・・・・・・・・・(ぽ)」

(ワタシ、どうして頬が熱いの、でも嫌じゃない)

(もう、相変わらず自覚無しに人を惹きつけるんだから)

 

 レンが見せた暖かい笑みに、レイは思わず頬を染め

 どこか良い雰囲気とさえ言えるその様子が、マナには気に食わない。

 

「そういえば、あなた男なのね? 最初見たときはてっきり女の子かと思ったんだけど」

「え?」

 

 そう

 裸で床に飛び降りたのだから当然体も丸見えなわけで

 背はマナよりこぶし二つは高いものの、華奢で線が細く、まったくといっていいほど平らな胸で

 おまけに手足もなにも、つるつるで産毛もろくに見えないが

 股間には朝の整理現象で健康的なそれがある。

 

「きゃっ!?」

(ナゼ・・・・・・・下着姿なの? )

 

 思わず悲鳴を上げて、再びベットに飛び込みシーツを体に巻きつけるレイ

 

(ワタシ変、どうして動悸が激しくなるの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハズカシイ・・・・そう、これが恥ずかしいということなのね)

 

 その様子はしっかり女子のしていた。

 犬耳はしっかりたれてしまって可愛らしい。

 

「あ、着ていたあの服はぼろぼろで汚れもひどかったから脱がしておいたわ」

「―――――――――――――メ 」

「そんな顔しなくとも、着替えは用意してあるから・・・・・・・・・・」

(あらら、ほんとに女の子みたいね、でも、そういえばあの服も女物だったわね)

 

自分が裸であることをこれだけ長い間失念していたのだから、それほど恥ずかしがりやでも無いのに

何故か妙に赤面してしまった自分に戸惑うレイと、その様子を少しあきれて眺めるマナ

そんな二人を尻目に、レンは再び目の前の少年?レイに注意を向ける。

なにせ、狼のときには股間のものは無かったはずだ。

 

「それで本当はどうなの? 綾波は男の子? ボクが見た感じ、それにしてはどこか女性的だけど・・・・・・・・・・」

 

よほどレイのことが気に入ったのか

レンはすでに公式的な一人称「余」を使わず、口調も親しいものにつかうそれだ。

 

「ワタシはどちらでもないわ。それにアナタ達はどうなの? そっちのマナは間違い無くオスでしょ? 」

「オスって言わないでよ。そうよ、私は男の子よ。似合うんだからいいでしょ」

「しらないわ」

「―――――――ついでに、ここの今は名目上の領主、霧島家の嫡男よ」

「そう、良かったわね(嫡男が変態・・・・・・・・だめなのね、もう・・・・・・・・・・)」

「・・・・・・・なんかむかつく・・・・・・・・」

 

 嫡男が女装趣味で、おまけに似合いすぎているのだから終わりである。

 

「それで、アナタは? どうして完全なメスなのにオスの匂いがするの? それに人間以外の匂いも」

「それはボクが元は男だったから。名前はシンジ、碇シンジだった」

「どうして今はメスなの? 」

「ん〜〜〜、幽閉されていたところいきなり妙なのに接触を受けて、融合しようという話に乗るとこうなった」

「―――――――――――?」

「レン様・・・・はしょりすぎ」

 

 あまりに短い説明にレイは混乱し

 さすがに哀れにおもったマナは注意した。

 

 

 ともあれ、これがこの奇妙極まりない3人(二人と一匹?)の出会い



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