「さて、こちらの準備はすでに終わった」

「お前の端末と羽根、想った以上に役だったようだ」

「そう・・・・・・・」

「楽しそうだな、レンよ」

「それはそうだよ。この姿で、しかも外で戦うなんて初めてだし・・・・・」

「それに?」

「それに、随分と派手な舞台になりそうだからね」

 

黒曜の間

相変わらず空と海を映し出したその空間に実体化した空と鳥の王クァード、水界の王者ストラーシャ

そしてレンが供に立つ。

レンは楽しげに笑いながら片手でいくつもの幻影を開閉し、様々なものを映し出し様子を見ていた。

そこにはミサト達の船団だけでなく、ブリデン島から急行しているアスカの”紅の風”

シンジ達の連合艦隊が映し出されている。

予定外の客だがこれはこれでおもしろい

すでに後一時の距離であり、舞台のフィナーレを盛り上げてくれるだろう。

 

「ともあれ、約束は果たした」

「また次に呼び出されるのを我らは楽しみにしている」

 

本来界の王達はこの現実世界の住人では無く、それぞれが統べる界の者である。

いかにレンでもそんなに長い間呼び出しておくことはできないのだ。

 

「ええ、また力を借りるときも在ると想う。その時は遠慮無く呼ぶよ」

「良かろう」

「また会おう、レンよ」

「またね」

 

そして二柱の王達は消えていった。

 

「さてと・・・・・・・」

 

レンは華やかに笑いながら再び幻影の群を振り返る。

そこには急いで戦闘準備を整えようとしているミサト達の船団

大急ぎでその場に急行しているシンジやアスカ達の艦隊が大写しになっている。

 

「準備はととのった。そろそろ行こうか・・・・・・」

 

楽しげに呟くと、レンは思いきり翼を広げ

そして掻き消えた。

あとには、幻影も魔法の光りも消えた真っ暗な黒曜の間だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼精日記

第十二話

『十六翼・真の黒色』

その3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員魔法戦闘、および戦闘配備完了しました」

「よろしい、指示が在るまでそのまま待機」

 

まんまとレンとストラーシャ、クァードの罠にはまってしまったミサト達の船団

鯨、鳥たちの群と黒い羽根と捕虜を媒介にしてすでに己の結界の内側にさらにレンの結界をはられ

見事こちらの結界を破られて、おまけに巨大な敵の赤い結界に捕らわれるという大失態を演じたものの

すぐにショックから復帰して船単位の多層結界と防御結界に切り替えた。

 

レンの結界は非常な広がりを見せ、すでにマコト達が張っていたものの倍の大きさになっている。

そして魔力を満たした黒い羽根は船団の船の周辺からは閉め出されたものの、その周辺を乱舞し

次第に無数の固まりになりつつある。

 

『そうだ・・・・はやくそっちの魔法装置を置いて・・・・・・』

『違うそこではなく、そうそこ設置するんだ』

『それでその結界の強度が上がる。あと四番艦はそちらの・・・・・・』

 

そんな中、マコト達魔導師は矢継ぎ早に各船の他の上級魔法使い、魔法兵に心話で指示を出し続け

少しでも有利な体勢を創ろうと躍起になっていた。

すでに自分たちは船団ごとレンの結界に捕らわれており、逃げることもかなわない。

だとすればどんなに不利な体勢でも降伏があり得ない以上、今は戦うのみ

 

唯一の救いはレンが張り巡らせた結界の持続時間が短いこと

実際にはレンの力と端末

端末である警備隊の兵士達と羽根に埋め込まれた待機プログラムを利用

それらから二柱の王が眷属を使って張ったものだが、マコト達はそんなことは知らない。

 

刻限はおそらく日が暮れるまで

自分たちを捕らえている結界の保たれる時間が大変短いものであることであるならその時間を耐えればよい

現在ブリデン島にいる碇シンジ率いる連合艦隊に所属している魔導師の報告によれば

彼女はそう長い時間は己の結界以外の場所で力を振るえないから

 

ともあれミサトやマコト達が大方の迎撃準備を整えたその時

それを待っていたかの用に、新たな動きがあった。

無数の固まりに別れて飛んでいた黒い羽根がさらに集まり出すと急に赤く光りだしたのだ

妖しい赤い光でその全てが覆われた次の瞬間

そこには一固まりの羽根の群の後に一人ずつ

赤光の羽根を持つ十五・六歳の、160センチ程度の少女がいた。

黒い布を巻き付けただけの少女は一対の羽根をはためかせ、手には身長を優に越すやはり赤光の剣を掲げている。

その数、百

いずれも未だかなり高い高度を保ち

 

「似てるわね・・・・・・・陛下に・・・・」

「ええ、似てます」

 

微笑んでるその美しい顔は何処か皇国の女帝ユイを想わせる。

 

「そういえば敵の親玉の前身、皇太子シンジは母親の皇国皇帝に似ていたと聞きますが?」

「あれ?会ったこと無かったかしら?」

「はい、一度も。でも現在の”碇シンジ”には会ったことがあります」

「なら、それでいいわ、ホントそっくりだから・・・・・」

「つまり」

「あれは陛下に似てるというより敵の大将そっくりなわけ」

 

複雑な表情で見上げるミサトと苦笑しているマコト

多少呆然としていたが、それでも自失から立ち返ると

 

「クロスボウ隊、及び弓兵隊前に!!」

 

ミサトは指令を出し、それは伝令の魔法兵を通じて次々と各船に伝えられていく

長弓や片手サイズのクロスボウを持った兵士達が直ちに甲板を走り所定の位置に着く

 

「狙え!!」

 

全ての船の弓兵達がねらいを定める。

200の兵士が一斉に狙いを定める。

弓を引き絞りゼンマイを巻き上げ

狙いの向こうに未だ余裕の表情を浮かべる翼のある少女達を見据え

 

「打てっ!!」

 

号令ともにたくさんの矢とクオレルが少女達を襲った。

弓隊は間髪を入れず次の矢を放ち

クロスボウ隊も多少遅れて二度目の矢を打つ

膨大な数の矢の雨が少女達を貫くかと想ったその時

 

「なっ!」

 

船団の者たちはその光景に思わず絶句した。

少女達が剣を前にかざしたと想うと

赤い光がカーテンの用に広がって少女達を覆い隠してしまったのだ。

少女達に突き立つ筈だった矢は全てその赤い幕に遮られてむなしく海に落ちていく

 

「撃ち方止めっ!!」

 

膨大な矢が無駄に落ちていくのを見たミサトは直ぐ攻撃を止める。

 

「両隊は待機。魔法兵、魔法攻撃用意」

 

すぐさま次の指示を飛ばすミサト

そして上空の敵たる翼の少女を睨み据えたまま、後ろに控えたマコトに聞く

 

「ねぇ日向君、あれどうにかできない?」

「無理です。現在我々魔導師はこの船団それぞれの船を覆う多層結界と防御結界の制御で手一杯です」

「困ったわねぇ・・・・」

「魔法兵に攻撃させるのが得策です」

「そうね、じゃぁ、あれはどんな攻撃を仕掛けてくると想う?」

「さぁ?とりあえずあの光の剣が変幻自在とまではいかなくともかなり形の変わるものであることはわかりました」

「そうね」

「かたち通りの剣による接近戦だけではないでしょう、槍程度には伸びる可能性も考えた方が・・・・」

 

マコトもまた上空を見上げつつ答える。

ただし、一見ただ立っているようで実は船団の多層、防御結界のエネルギー供給の二割強を支えていて

もはや手一杯である。

 

相手の多層結界に包み込まれた状態

少しでも気を抜けばこちらの結界は消えてしまう。

現在の状況

その恐ろしさをもっとも身近に感じているのはマコトだろう。

そうこうしている内に敵に動きが出る。

 

「頭領!!敵が」

 

後から入ってきた荒くれ者達の一人が叫ぶ

上空高く留まっていた翼の少女達が一斉に剣を掲げ、振り下ろす

すると剣からそのまま伸びた赤光が一斉に船団に襲いかかった。

船それぞれを守る防御結界に過半がはじかれ、逸れて海に落ち

その度に海水の表面一部が蒸発して、すぐに辺りが水蒸気で覆われる。

そして、光線の幾つかは防御結界をも貫き通し、甲板やマスト

兵士達を襲い始めた。

 

「ぐっ!」

「ひぅ!!」

「ぎゃぁっ」

 

結界を越える時点で減衰されているのか木で出来た甲板の一部を焦がし、鎧を耐え難いほど熱くする程度だが

それでも幾人かは決運悪く素肌をさらした股や首や腕等の辺りに受けてしまい、傷つき倒れていく

 

「魔法兵、一斉射撃、まずは上空右の敵襲団を集中的に狙いなさい!!」

 

ミサトの次なる号令とともに、赤い光の雨が船団に降り注ぐ中

それぞれの船から魔法兵の放った炎の矢、フレア・アローが翼の少女達

特にその向かって右側の集団に襲いかかる。

魔法の矢は上空で翼をはためかせ回避行動をとる少女達を追いかける。

ホーミング機能がついたそれから逃れられぬと判断した少女達は

 

「またシールドを展開しましたね」

「ええ」

 

攻撃をやめ、シールドを展開する右の集団の少女達

先ほどの矢やクオレル同様、魔力の矢も光の幕に逸らされていく

同時に上空からの光のシャワーは半分に減少した。

 

「敵の攻撃が薄くなった今がチャンスよ。全船に連絡。鉄砲隊用意!!」

 

向かって左側の集団の攻撃だけでは船団の防御結界を貫くには足りず、全ては弾かれ逸らされていく

 

「日向君!結界は!?」

「大丈夫です。この程度の攻撃なら防御結界にも綻びもできません」

「わかったわ。魔法兵はそのまま攻撃継続!相手の右半分を釘付けにして。そして鉄砲隊、構え!!」

 

すると大人の足の長さほどもある黒い金属性の棒丈に木で持ちやすいよう支えをつけた

船ごとに火縄をつけた重そうな筒を持った十名から五名近くの者たちが並ぶ

 

火縄銃

 

火薬の爆発の力で人差し指の先ほどの鉄球を飛ばす兵器だ。

破壊力はともかく、その貫通力はすさまじく鉄板でできた鎧、ちょっとした魔導師一人の防御結界も貫き通す。

火縄に一斉に火をつけ、火薬と玉を銃身に詰め込み銃口についた狙いでよく狙う

 

「打て!!」

 

先のちょこんと突き出た小山に少女達を合わせたとき

ミサトの号令が響く

 

パン・パパパンパンパン!!

 

兵士達が引き金を引き、火薬に引火

一切に乾いた大きな音が響き、煙がたなびく

すると左側から未だ攻撃していた集団の内の何人かに鉛の弾丸が命中し少女達が落ちてくる。

 

パン・パパンパンパン

パーンパンパンパン

 

五列にならんだ鉄砲隊が交代で火薬を詰めて弾を込め狙いを定めると次々と鉄砲を撃ち

その度に幾人かの少女達の翼は力を失い、落ちていく

海面に落ちる前に少女達の遺体は黒い羽根の集まりに変化し、再び赤い光で囲まれた結界の内を舞う。

未だ火縄銃の攻撃にさらされた少女達も攻撃を中止してシールドを展開する。

 

「有効のようですね」

「それはそうよっ!なんてったって虎の子の火縄銃まで使ったのよ」

「あまり弾数がありませんが?」

「だったら一挙に決めるのよ! 伝令、伝令!!」

「はっ!」

 

再び伝令を呼ぶミサト

 

「木砲、アーバンレスト用意!!敵右側のシールドを展開している部隊に向けなさい」

 

船団の船側面に備え付けられた巨大な木製の筒

幾枚もの板をつなぎ合わせ縛り上げ、さらに皮を何重にも巻き、内側に鉄を流し込んだもの

その底に火薬を詰め込み、子供の頭ほどもある弾丸を打ち出すのだ。

 

「しっかり考えて、よく弾道を計算して打ちなさいと伝えて」

 

念を押すように伝令に伝えるミサト

 

「見方の船に鉛の大玉や大人の足ほどもある矢が落ちることなんて無いようにね」

「「「「オオーーーーー」」」」

 

命令を受けた部下達は大急ぎで限界ぎりぎりまで木砲やアーバンレストを上に向け

見方の船に矢や砲弾が落ちないよう最新の注意を払って調節し、狙いを定めていく

 

「打てぇい!!」

 

ドン!

ドンドンドンドン!

 

さらなる爆音とともに鉛の大玉と大矢が飛んでいく

それは魔法兵達の攻撃で釘付けになっていた翼の少女達のシールドを紙のように突き破っていく

同時に

 

「弓兵隊、クロスボウ隊、続けて打てぇい!!」

 

この機に乗じてさらに弓矢で敵の数を減らしていく

上空から次々と少女達が落ちて行き、海面や船に落ちる寸前羽根にもどって飛び交う

 

「おお!敵が減っていくぞ」

「大丈夫だ、勝てる勝てるぞぉ!」

「ブチ殺せ!俺達を閉じこめている奴等を皆殺しにするんだ!!」

 

新旧、正規とならず者いずれの兵士達もその様子に歓喜する。

赤光の檻に捕らわれ海のど真ん中で閉じこめられていた恐怖から、それはつかの間の開放だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、やるね」

 

自分の結界の中心

エニシアン島の黒曜の間を離れ、狭間の世界に一時身を置いていたレンはそう言う

界の王達と違い、この世界でもあえて人の姿に十六枚の翼を背負ったその姿で

時間も距離も関係ない現実世界と表裏な場所で

レンは繋がっている黒曜の間からのエネルギー供給を受けながら己の端末

翼の少女達を操りつつ様子を見ていたのだ。

 

「あの武器、始めて見るな。火縄銃と木砲か・・・・・・・」

 

目に付いたのは葛城ミサトの率いる船団が使う新たな武器

 

「どちらも筒の底で火薬を爆発させ、その力で詰め込んだ鉛玉を飛ばすわけだ。大きさは違うけど」

 

レン自らの羽根を持って産まれた機動端末群のシールドを次々と貫くその力は見ものがある。

 

「やっぱり、さっさと自分で行かないでよかった。なかなか面白いものが見れる」

 

そう、レンはあえて自分で出ず、相手の出方を伺う為に端末のみを出現させたのだ。

 

本来皆殺してやるつもりだったのだが、アスカの“紅の風”やシンジ率いる連合艦隊まで向かってきている

それを確認したとき、あっさりと敵に対する情報収集とデモンストレーションに方針を変えたのだ。

 

故にやっていることは様子見に近い

ただ兵士達、特に魔法兵を中の端末とすれば、翼の少女達は上である。

これと互角以上に戦えればその相手の実力はなかなかのものということになる。

 

「ま、ボクが出たらストラーシャのこともあるし”アイツ”が来るかも知れないからね」

 

微かに苦笑のようなものを浮かべ、レンは心眼で戦場たる船団とその上空と海域を観相する。

 

「とりあえず、中距離ではこちらの負け、でも超長距離ではどうかな?」

 

どこまでも曖昧なこの狭間の世界で

 

「こんどはどんなものを見せてくれる?」

 

レンは一人悦に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵がさらに上に登っていきます!」

「ふんっ!かなわないと想って逃げ出すんじゃないのか?」

 

兵士の一人、こちらは数少ない正規の訓練を受けた者が叫ぶと

今度はならず者出身の仲間が威勢の良い啖呵を切る

しかし、その蔑みと願望の混じった言葉も見事裏切られる。

 

シュン

バシュ!!!

 

赤いレンの結界内ぎりぎりの高度まで上昇すると、少女達は十数人で前面にシールドを展開

その後ろで十人前後がグループになって力を纏めると

先ほどより十倍は明るく三倍は太い光りが高々度から打ち下ろされる。

 

『結界の強化を!!』

 

危険に気付いたマコトがミサトの許可も得ず魔導師だけでなく魔法兵たちに心話で命令を下す。

魔法兵が本格的に参加することで結界が一挙に強化される。

しかし

 

バシュ!

ズズーーーーーーン!!!

 

強化の遅れた中型帆船が数本の太い黄色い光の柱に貫かれて甲板から船底にかけて大穴が空き沈んでいく

面食らった兵士達があわてて海に飛び込み逃げだす

 

「各船、ボートを出して救出開始!」

 

ミサトはそれを見て指示を出す。

各船とも、荒くれもの、正規との差はあれ皆海に生きる船乗り達

こんな時の反応ははやく、直ちに仲間達を救うべくボートが降ろされていく

 

「日向君、私を差し置いて部下達に指示をだしたこと、今は咎めないわ。だから対処法を教えて」

「・・・・・・・・・・・・・」

「日向君っ!」

「わからないんです!今の攻撃はこちらの防御結界を限界まで強化してもギリギリで受けられる程度です」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・だから私たちはすでに攻撃にさける余裕が全て無くなっています」

 

ズズズズズズズズズズズ・・・・・・・

グラグラグラ・・・

 

それぞれ防御結界と多層結界に守られた船団の各船を黄色い光りの束がひっきりなしに襲い

船は結界に包まれた空間ごと小刻みに揺れる

 

「・・・・・・・・でも、あの距離と高さじゃぁ火縄銃も届かないし木砲は角度が厳しいわ」

「それに届くとしてもほぼ真上、落ちてくるのは私たちの頭の上です」

「アーバンレストもカタパルトも含めて打ちようがない」

 

二人は頭を突き合わせて考えるが良い案は浮かんでこない。

 

ズズズズズズズズズズズズズズズ・・・・・

 

その間にも翼の少女達が放つ光の柱は絶え間なく船団を襲い続ける。

ついにミサトの瞳にある決意が宿る・・・

 

「・・・・・・ここはいっそ私が・・・・」

「いけません!今回は私たち、そして相手にとっても様子見以上の戦いではないんです!」

「でも・・・・・」

「なんで敵がこんなチマチマした攻撃に終始してると思うんですか?」

「それは・・・・・・・」

「そんな戦いで手の内をこれ以上見せるのがどういうことか、解るでしょう?」

「でもこのままじゃぁ・・・・」

「耐えてください。こちらを閉じこめている敵の結界は長く持つものではないんです!」

 

マコトはミサトを思い止まらせるため必死に言い募る。

 

「このまま攻撃を凌げば逃げ切られます」

「でも・・・・・!?」

「くっ!?」

 

ズバーーーーーン!!!!

 

口論していた二人の目の前で、救助にあたっていたボートが光の柱包まれた。

水蒸気爆発とともに乗員もろとも粉微塵に吹き飛ばされるボート

最初のボートの不運は他の救助に当たっていたボートにも例外なく起こり

先に沈んだ船の乗員救助に乗り出していたボートと乗員が全て消し飛ばされる。

 

「おのれぇーーーーーーー!!」

 

一言唸り手を堅く握りしめつつミサトがうなる

握りしめた手の間から血がにじむ

 

ズン!

ドドォォォォォォォォォオン!!

 

その時

突然目の前が真っ白になって轟音が響く

数段強化された結界に守られている筈の超大型帆船『大海原の淑女号』が上下左右に大きく揺さぶられる

 

「!!!」

 

白くそまった視界が晴れ、目が慣れたとき

その光景を見てミサトは絶句した。

魔法兵も加わり全力で張り直された防御結界に守られている筈の船団

その内では比較的弱い結界が貼られていた小型帆船一隻

 

『大海原の淑女号』の側を通っていた船が中央を完全にえぐり取られで真っ二つにされていたのだ。

 

「なななななななん・・・・・・・・・」

 

船体中央が完全に消滅して二つ折りになりながら沈む帆船は

海面より出ている部分で燃えてないところはなく

船体から火だるまの船員が海に飛び込み、あるいは落ちていく

船の沈む勢いに飲み込まれてそのまま船と運命をともにする者が大半で

それでも十人以上もが炎から免れ火傷だらけの身体で必死にこちらの船に泳ぎ着こうとしている。

 

「はやく、はやく救助しなさい!!」

「いけません、結界に守られてないボートなどねらい打ちにされます。餌食になるだけです!!」

「でもっ!?」

「先ほどの惨劇を繰り返したいんですか?」

「くっ・・・・・」

「このまま泳ぎ着いてもらうほうが生存率も高いんです。ロープと浮きを放りましょう」

「そうねっ!?」

 

ミサトがさっそくマコトの提案を呑み行動に移そうとしたとき

そのとき今度は細く赤い光が遥か上空から降り注ぎ

 

「ぎゃっ!」

「ぐぉ!」

「ぐっ!!!」

「ぐぁっ!」

 

・・・・・・・・次々と

次々と手傷を負いながらも必死にミサト達の船に泳ぎ着こうとし、助けを求めていた兵士達を貫いた。

後には沈んだ船の残骸と火傷を負い、身体に大きな穴のあいた死体が漂う

 

「チクショーーーーーーーっ!」

 

ミサトが憎しみと怒りで煮えたぎった溶鉱炉と化した瞳を上空に向ける。

そこでは次の一撃を打つために力をためているのだろう

赤から黄色、そして透明へと変化しつつ明度と大きさを増す光があった。

 

もはや最後の時か?

覚悟を決めたその時

 

「・・・・・・助けてやろう」

 

何処からともなくそんな言葉が響くと、船団と翼の少女達の間に蒼い幕が現れ

ミサト達ののる「大海原の淑女号」を狙った巨大で眩しい光の柱がその幕によって受け流されていく

そして

 

「さぁ、味方が来たようだ。この結界のなかに入れておいてやる」

 

ミサト達の船団を守ったものの心話

なぜかひどくノイズが多く聞こえにくい

 

「刻限も近くなった今はそこまで・・・・・」

 

心に直接響く声がそれだけ告げると遠のいていく

すると、船団から見た前方、夕日の方角の赤い巨大な多層魔法陣の一部が切り崩され敵の結界が綻びる

そこから太い水の柱が幾本も天に向かって伸び

そして光の鞭の軌跡が宙を舞う

そこには

 

「味方だっ!」

 

あるものが叫んだ。

夕日の向こうからシンジ率いる連合艦隊、その旗艦を先頭に素晴らしいスピードで向かってきており

さらにエニシアン島に鳴り響く海賊”紅の風”の赤い帆船群が併走している。

影にしか見えなかったそれらの船の姿がはっきりしてくると、ミサト達の船団から歓声があがる。

 

「「「ゼラス・ブリッド」」」」

 

男装の美少女・アスカの声を中心とした幾人かの唱和が響いたと想うと

次の瞬間光の弾丸が無数に表れ、上空の美しき墜天使たちを襲う。

さらに

 

「消えろっ、悪魔の分身達め!!」

「死になさい」

 

サキエルが三股の矛を操り青い鱗の愛馬を駆って水面を進みつつ

さらに水の柱を竜の如く上空に打ち上げ翼の少女達を叩き潰し

長い銀髪をきらめかせながらシャムシエルが幾つにも別れた光の鞭で次々と相手を打ち据える。

次々と黒い羽根に戻っていく墜天使達

 

 

 

 

 

 

「なんとか間にあったか・・・・・・・」

 

シンジは旗艦甲板で安堵の声を上げ

その後ろで事態を見守っているマユミが胸をなで下ろす

 

「安心するにはまだ早いでぇ」

 

黒いのっぺりした鎧に身を包んだこの連合艦隊の副将・鈴原トウジが

早くも気が抜けそうな二人を叱咤する。

 

「わかるやろ、敵の端末つぶしとるようで、その気配はいっこうに消えんのや」

「・・・・・・そうですね、結界が一時的にゆるんだお陰で入って来れたけど、今はしっかりしている」

 

シンジも辺りを見渡しつつそういう

四十隻近く大型、中型の帆船が集まりにわかに人の集まったこの領域

しかし、敵の結界は健在だし、その圧力をひしひしと今も感じる。

しかも

 

「私にはわかる。奴はまだこちらを見てるんだ」

 

シンジは険しい瞳で海域全てを睨み据えた。

そして全ての翼の少女達が羽根に還って

ただ静かに中を舞い続ける。

なんとも言えない、嵐の前の静けさのようなそんな空気を感じる

その強大な力がこの限られた空間

”奴”の結界を渦巻く黒い羽根のロンド

そのとき

 

「来ます!!」

 

マユミの叫びと同時に、宙を舞っていた羽根が一つのところに集まり輝き出す

そして大きく

より妖しく赤く輝く

 

「ふんっ!」

 

シンジは瞬時に手のひらの上に力を集めると

それをさらにレベルアップし直視できないほどに光輝く力の弾丸を光と羽根の舞う中心に向けて放つ。

強大な魔力の弾道はまっすぐ渦と舞い踊る羽根の中心に向かうと、しかしそこでつと動きを止める。

 

そしてそれは顕現した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前にもいった筈だ・・・・・・・。児戯だと」

 

そこには背の高い完璧に整った容姿を持つ美しい女性がいた。

シンジの放った力の弾丸を手の平に納め、軽く握り潰す

 

「それにしても、見事と言うべきか・・・・・・・・・よくもこれだけ集まったものだ」

 

美女はクスクスと笑いながら辺り一帯、四十隻ちかくの大型、中型、小型帆船とそれに目を丸くして

あるいは放心したように、あるいは憎しみをこめてこちらを見るその乗員達を眺める

なにより

 

「碇シンジ君、久しぶり。トウジはこの姿では初めてだな?山岸マユミさん。初めまして」

 

楽しげに笑いつつ、その背の八翼と両腕両足の八枚、計十六枚の翼をはためかす。

 

「アスカも・・・・直接合うのは久しぶりだ。そして葛城家の変わり種・ミサト殿と魔導師日向さん初めまして」

 

黒い翼が揺れる度に黄金色の粒子が広がっていく

少し前とはうって変わってその様子はむしろ楽しげだ。

表に決して出さないが、これから行使する力、その解放にたいするどうしようもない喜びが心を占める。

 

「余がレンだ。初めての方はお見知りおきを」

 

華やかに輝くように笑うレンは

しかし押さえながらもその存在感は滲み出てあたりを制していく

その存在と意志が世界を歪め顕現したヒトにあらざるもの

ミサトの旗艦「大海原の淑女号」の上空に現れた長身の麗人

エニシアン島、アドリア海の実質的な支配者・レンである。

 

依然ブリデン島を襲ったときとは違う、人間からはかけ離れた気配と十六の漆黒の翼

そして纏う空気がどんなに力を押し殺しても、その絶大な存在感を告げる。

 

多くのものが完全にレンの出現に飲まれてしまった中

レンはさらに一度己の結界内

そこにいる各船団を見渡し、笑い、口を開く

 

「まずは葛城さん、日向さん。生き残れておめでとう」

「なんですてぇっ!!」

「葛城さん、落ち着いて下さいっ!」

「放してよ。日向君、あいつに絶対一発ぶちかましてやんないと気が済まないのよ。弓兵、鉄砲隊!!」

「だから止めて下さい。そんなもの効くはず無いじゃないですかっ!!」

「だからってっ!」

 

ミサト達の真上に表れたレンは黄金の光を纏いつつそのばに停止している。

ミサトはそれを見上げ、余裕綽々のレンを睨み付けバカにされたと感じ叫んでいた。

 

「アイツがアタシ達の仲間を殺したのっ!」

 

ミサトはさらに怒鳴る

 

「ようやく話を聞いてくれるようになってた元海賊達もこの一年間私と苦労をともにしてくれた部下達も!!」

「随分と感情的な司令官だな・・・・。よくそんな様子でこの艦隊が率いることができる」

「なにぃ!?」

「まぁ、それが魅力なのか・・・・・・余にはわからんな・・・・・・・」

「余計なおせわよっ!」

 

ミサトはまったく勢いを帰ることなく

増悪に煮えたぎった、そして何かを期待するような眼差しでレンを見る。

 

「だいたい!あなたでしょ、家の神殿襲ったのっ!お父さんどこやったのよっ!?」

「お父さん?」

「しらばっくれる気っ!私だって知ってるんだから」

 

ミサトは唾をとばす勢いで捲し立てる。

 

「アンタ家の神殿に封印されていたもの奪うために襲ったんでしょっ!殺したんでしょ、みんなを!!」

 

思い起こすのはあるところは焼け、あるところは崩れた神殿

そして粛々と行われた葬儀で埋葬されたよく知る、家族同然だった、友人だった神官達

 

「葛城さん、気持ちは分かりますが落ち着いて・・・・・」

「わかってるわよ」

 

マコトの言葉に荒い息を整え

しばらく瞑目していたミサトは再びレンを見上げ話を続ける。

 

「父の遺体はそこにはなかったわ」

「ほう・・・」

「どんなに探しても・・・・・・・どんなに探しても」

 

マコトが心配そうに見守る中、ミサトはやはり高ぶっていく

そして爆発した。

 

「だったらアンタが連れ去ったに決まってるじゃないっ!!お父さんをかえしてよっ!」

 

さらに必死に言い募るミサトを見つめつつしばし小首を傾げ口元に左手をもっていき考える。

しかし実際は考えるまでもなく思い出していた。

以前あるものを取りに行かせた神殿、そこが葛城ミサトの生家だったことは当の昔に知っており

当然その父親を拉致したことも、ついでにミサト自身の利用方も考えていた。

しかし、そんな様子は欠片も見せず、本当に覚えていないかのように考え込み

そして思いついたように手を打った。

 

「ああ、マナに襲わせたあの神殿だな。ちょっと封印されていたものに用があって赴かせたのだった」

 

それは本当に今思い出したといわんばかりの名演技であり

ミサトは自分と父親と神殿をひどくないがしろにされた気がして歯噛みする。

しかしそれより前に聞かなければならないことがある。

 

「やっぱりアンタ達だったのね。お父さんは?お父さんはどうしたのよ!?」

「そなたの父親なら健在だぞ」

「だったら・・・・・!」

「現在はソナタ達の一族が長きときにわたって封印してきた”あれ”を復活させるための祈りを捧げている」

「なに!?」

「昼夜問わず雨の日も風の日も、ただひたすらに祈ってるよ」

「な・・・・・・・」

「神に祈るより敬虔に、家族に尽くすより真摯に」

「うそよっ!」

「ただひたすら、そのためだけに、”あれ”に苦痛と絶望、呪いと祈りを捧げる為だけに生かされている」

「そ、そんな・・・・・・・・」

 

ミサトは蒼くなって崩れ落ちる

 

「まぁ、役に立ってくれているよ。彼は・・・・・・・君も加わるか?」

 

その前に静かに降り立ち、崩れ落ちたミサトに手をさしのべる。

どこまでも美しく、慈悲深く、情けにあふれた様子で・・・・・・・・・

見上げたミサトが、我知らず魅入られたように手を伸ばす

震えたその手がまさにレンの美しい黄金色のオーラを纏ったその手に近づいたその時

 

「・・・・・・・・ふざけないでよ」

「なに?」

 

ミサトは小さく呟き、レンは聞き取れずに聞き返す。

 

「ふざけるんじゃないわよ!!」

 

目にも留まらぬ早業で腰のブロードソードとショートソードを左右の手で抜き放つと

そのままの勢いで回転するように二回、レンに切りつける。

 

しかし

 

キィン!

キィーーーーーーーン!

 

甲高い金属音とともに折れたのは二振りの剣のほう

ミスリルで加工され魔法によって高度と切れ味が強化されていたはずの剣は

レンを覆うように広がる黒い翼にふれた途端あっけなく折れてしまった。

 

「ちっ!」

 

ミサトは舌打ちすると、今度は両腕を棟の前で交差させる。

すると手にはめ込んだ手甲が腕ごと変化し、長く伸びて鋭利で巨大な刃となる

 

「ほぉ」

「葛城さん!」

「ミサト、援護するわ」

「葛城将軍!」

 

レンが感嘆しマコトとアスカとシンジがとっさに魔法で援護する

シンジの小さな町を火の海に帰ることができるほどの巨大な10の炎弾を腕の一振りでかき消したものの

こちらに無防備に右側面を向けたレンに襲いかかる。

守りと強化の魔法をマコトとアスカからかけられたミサトの腕より伸びた巨大な刃が再びレンを襲う

その速度と質量はミサト自身がリミッターを解放したことと強化の魔法の力で遙かに速く大きくなる

 

しかし

 

キィン!

キィン!

 

ものの見事に刃は防がれ

腕からそのまま伸びた大刃は腕ごと反作用で大きく弾き返される。

 

「なっ!?」

「ほう、余の翼にあたっても砕けぬか・・・・・随分と堅いなそれは・・・・・・・・・しかも」

 

今度は

 

「くらえっ!」

「させない!!」

 

ミサトの方に向けて右手を伸ばしたレンにサキエルとシャムシエルが巨大な水柱と光の鞭を上下からたたきつけるようとする。

しかしそれも

 

「・・・・・・・・前も通用しなかったであろう?ソナタ達の攻撃は・・・・・なぜ無駄なことをする?」

 

レンの手前で消えてしまっては一撃で100人でも200人でも凪払う二人の攻撃もまるっきり意味をなさない

そしてレンは押さえていたものを一挙に開放する。

すると、周りの者たちはほとんど動けなくなる。

空間そのものを歪め、圧するほどの巨大な存在感がその場全ての者の魂を振るわせ悲鳴を上げさせる。

 

目の前でその変化を目の当たりにしたミサトは呼吸すら困難なほどの根源的な恐怖に襲われた。

レンはちらりと離れた連合艦隊旗艦艦上のシンジとシャムシエル

海上の愛馬に乗るサキエルを一瞥すると

蛇に睨まれたカエルの如く動くことのかなわないミサトの顎に手を当て上を向かせ

そしてその瞳を覗き込む

 

「・・・・・・恐怖と増悪、そして羞恥にそまった美しい瞳だ。それに・・・・」

 

目をいっぱいに開いたミサトの瞳を楽しげに観察し

そして未だ固まったままのミサトの身体をなめるように一度見回す

 

「どうやら色々と混ざってるようだ。後天的・人為的に融合させたか・・・・いい仕事だな」

 

そして手を離すと再び崩れ落ちるミサトから離れ、静かに中に浮かび上がる。

舞台はレンのペースで進んでいた。

 

 

そして人々は死の宣告をまつかのように黙って

そしてレンを凝視していた

まだ日が落ちるには今少し時間がある。

刻限にはなっていない

 

だが 

 

「今回は楽しかった」

 

よく通る声が海域全体に響き出す。

最初皆レンが何を言い出したのかわからなかった。

 

「リバイアサンの奴が邪魔をしなければもう少し楽しめたのだが・・・・・・どうやらタイムアップだ」

 

夕日に染まり、黄金色のオーラを纏った黒翼と身体は上に上に登っていく

 

「いずれまた会おう、今度はもっと面白い趣向を用意しよう。君たちも精進に励んでほしい」

 

夕日を背に笑うレン

楽しげで憎しみも焦りも蔑む様子もない

 

「さらばだ」

 

彼女はそれだけ言うと忽然と消えてしまった。

至極あっさりと・・・・・・・・

 

人々は安堵よりも助かった喜びよりも

ただ呆然としてレンが先程までいた宙を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとは憎しみをもはや隠そうともしないでレンの消えた空間を睨み付けるシンジ

魅入られたように立ちつくすマユミ

複雑な表情で消えたあたりを見つめるアスカとトウジ

多少自失気味のサキエルとシャムシエル

そして・・・・・・

 

「葛城さん・・・・・・・・」

「ちくしょう・・・・・・・・・・」

 

どうすることもできず立ち尽くし声だけかけるマコトと

すでに腕も元に戻ったミサトが無力感にさいなまれながら座り込んでいた。

そして船団をとらえていた赤い光のドーム

レンの結界が夕日に溶けて消えていく

 

そしてその日も完全に西の海に消え

やがて星が夜空を覆う頃

のろのろと敗者は撤収していったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサトの船団の損害は中型帆船一隻、小型帆船一隻大破

救命・上陸用のボート多数

82名の水兵

そのほか全ての船は損傷軽微

 

確かにその損害はレンが直接表れたにしては奇跡といってよいほど少なかったが

しかし

兵士達一人ひとりにが受けた恐怖は計り知れなかった。

 

そしてミサトは相手にもならなかったことが余計憎しみを募らせる

 

 

 

彼女は深みに填っていく

憎しみの底なし沼に自ら進んで

抜け出す道は今も彼女に開かれているが、彼女にその明かりは見えない

 

そしてそれこそレンの望みであった。



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