ブリデン島へのレン達の奇襲

巨大な蒼銀の狼・レイの夜討ち朝駆けが始まって一月

ミサトの船団がレンに襲われて三週間

 

アスカのアジト、ブリデン島はシンジ率いる連合艦隊の助けもあり、元の姿に戻り

より活気づいた様子だった。

レイが最後に島中に雷を落としたにも関わらず

町の三割が延焼し、あるいは建物が砕けたにも関わらず、一般民の被害者は一割を切っていた。

そしてそれからほぼ毎日レイが夜討ち朝駆けと襲撃を繰り返したがさしたる被害はなく

魔道師の中でも治癒の呪文を使えるもの達が兵、島民の治療にあたり

動ける兵士達が町を、港を復興させる。

ケンスケによって正規以外の流通経路が充実してきたこと

比較的港の設備が充実してたことから連合艦隊の修理もほぼ終わり

明後日には連合艦隊は島を去ろうとしていた。

 

「ふぅ〜ん、ようやく出ていくんだ。随分と長く居座ってくれたわね」

「やぁ、ご迷惑をおかけしました。おかげさまで船団の修理も早くにすみました」

 

ところはブリデン島の館

アスカの執務室

そこにシンジは単身わずかな護衛と供に来ていた。

アスカの皮肉にもシンジはまったく気にならないのか

相変わらず笑みを浮かべたまま無難に挨拶をしている。

 

「ミサトの船団なんて自分達でどうにかするって立ち寄ったら補給するだけでさっさと出ていったのに」

「はぁ・・・まだ今一良い根拠地が無いんです。現在建設中なもので」

 

ここに立ち寄る前襲った海賊『黒鯱』のアジトの島

現在はそこを根拠地にしようとしているのだが、すでに後詰めを含めて26隻にまで膨れ上がった艦隊

現在は予備役扱いの15隻の大型船とその他の中規模、小規模な帆船

さらに乗員、部隊が詰めているそこで補給、整備を行うにはまだ不具合が多すぎる。

かといって、未だおおっぴらに皇国正規海軍の基地を使うわけにも行かないし連邦のほうは当てにならない。

 

その意味で、地理的条件もあって、このブリデン島は主力艦隊の整備に非常に便が良かったのだ

また、皇国貴族の惣流家の領地であり女帝ユイから直接治外法権お与えられている場でもあり

こちらも未だおおっぴらには皇国に反抗せず表だって活動していないレンも警備船団をここに押し進めたりはしない

 

「まぁ、町や港の修理をしてくれたことには礼を言うわ」

「どうもいたしまして、ほんの御礼代わりですよ」

「それにしても、アイツただのイヤなやつかと思ってたけど、けっこう仕事できるのね」

「商人の相田ケンスケですか?」

 

一ヶ月前、密約を結んだ中で他の者の中で唯一の商人

トウジのような士官やシンジのような正体不明のしかし仮にも皇太子というVIP

そしてアスカのような貴族とはそりが合わないことを差し引いてもあまりに受けは良くなかった。

 

「物資の流通、こんだけまわせば間違い無くエニシアン島の総督府に目をつけられるのに」

「彼は皇国や連邦に充分なコネがありますし、少々のことではさすがのレンも手が出せないでしょう?」

「そう?」

「あちらもまだおおっぴらに行動してるわけではないんですから」

 

そう、こちらがあくまで正規軍でも正式な作戦行動をとらないように

レン達もまた未だ表立っては霧島家が監督する総督府を表に出し、その裏で活動しているのだ。

 

「だから、あちこちにつてのあるあの商人には明確な証拠が無ければ思い切った行動にはそうでれないでしょう」

「なるほどね」

「裏の事情にも詳しいですよ」

「だから、レン達はそう簡単には手を出せない」

「ええ、彼には皇国の貴族との連絡なども勤めてもらっています。使い勝手のいい人ですよ」

「・・・・・・・アンタも言うわね」

 

ハッキリと年長の大商人ケンスケを道具と言いきるシンジにさすがのアスカも毒舌が鈍る。

 

「ま、物資を滞りなく送ってくれればアタシとしては文句無いんだけどね」

「それなら大丈夫でしょう。今後も彼の働きには期待できますよ」

「武器もなるべく早く良いものをまわしてくれないと」

「言っておきましょう」

 

そして会話が途切れ、どちらからとも無く執務室を出て廊下を歩き始める。

こつこつと数人分の足音が響く。

 

あの戦いの後

そしてあの雨の日の湖の一見以来

二人の関係は多少変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼精日記

第14話

『それぞれの思惑』

その1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度、あのブリデン島に詰めていた連合艦隊、今の碇シンジが率いてるあれ」

「それが?」

「どうやら、そろそろ島を離れるみたいよ」

 

珍しく黒曜の間でも城に数カ所ある庭でお茶をしてるわけでもなく

昼下がりの一時

秘書の女官に手伝われながら、自室で黙々と仕事に励んでいたレン

 

そこに前触れもなくリナがやってきた

 

「後から増援として訓練終了した部隊を含め、主力は26隻の大型艦」

「ふむ・・・・」

 

未だ顔を上げることなくペンを走らせ書類を決裁しながら

しかし耳はほぼ全て、そして頭も半分以上がリナの話に向かう

 

「もう!話してるんだから、少しはこっち見なさいよ」

「ああ・・・・・・」

 

レンは注意の大半をリナにむけても、その顔はやはり書類に向いたまま

文字をつづっている手も止まる様子もない

 

そんなレンの状態を知ってしらずか、リナは多少むくれてみせる

 

「あ〜あ、つまんないの」

「・・・・・・・」

「これじゃまるで夫にかまって貰えずイライラしてる暇を持て余した専業主婦者みたいじゃない、私」

「・・・・・・・・誰が?」

「もちろん、私」

「ふむ・・・・」

 

専業主婦

リナにこれ以上似合いそうにないことを言われてレンはさすがに頭を上げ

決済を進めていた手を止める。

 

「・・・・・ともかく、それで何かこちらからすることはないと思うけど・・・・」

「そうね、ただ何となく伝えてみたから、それなりに把握していたと思うけど」

「それはそうだが・・・・・」

「ま、一応伝えとこうとおもってね」

「それはありがとう」

「どういたしまして♪」

 

珍しく少し眺めのスカートの量は時をちょんとつまんで優雅に一礼してみせると

リナはレンの執務室から静かに出ていった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

カカカカカカカカカカ・・・・・・・・・・・・

 

しばらく考え込んでいたが、レンは再び何事もなかったようにペンを走らせた。

 

こんなとき、まったく口を挟まず疑問も投げかけず

邪魔をすることなく己の仕事を忠実に果たしていた秘書官の女官は立派と言うべきだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・そう、猿のところからあのパチモンは出ていくのね」

「そういうこと」

「つまらないわ・・・・・」

 

レイはおもちゃが無くなるのを聞き多少不機嫌だった。

 

「だからそろそろあそこに散歩がてら寄るのはやめた方がいいかもよ」

「そうね、もうあんまりおもしろくなさそうだわ。手応え無くなるし・・・・」

 

執務中のレンに事態を告げた後

その脚で今度は昼食後、南向きの庭

そこの樫の大樹の木陰で巨狼の姿で昼寝を決め込んでいたレイにも話を告げた。

 

眠たげに赤い瞳をしばたかせ

人の手の大きさはある牙の並んだ大口を開けて欠伸をする様は

美しさや動作事態の愛らしさはともかく、その巨体から一般人なら逃げ出したくなるほどの恐怖があるが

少なくともリナは別段感じている様子はない

 

起きあがることなく横たわったまま四肢を大きく伸ばすと、少し丸まりながら頭を起こし

そしてリナの話を一応聞く体制になる。

 

「あなたが言う”サル”こと惣流・アスカ・ラングレー率いる“紅の風”も留守がちになる」

「そう・・・・・・」

 

レン同様、こちらも何とも気のない返事だ。

 

「そうなると、よいよつまんなくなるわよ。あの島を襲っても」

「そうね・・・・・・」

 

しかし、よく見れば二メートルはありそうなフサフサ銀毛の尻尾が押さえられてはいるものの

興味をそそられているのか、ぱたぱたとふられている。

 

(なんか・・・・・・にてるわね、反応も容姿だけでなくレンに・・・・・・)

 

素直でない様子をレンとダブらせつつ、リナはレイに説明を続ける

 

「だから・・・・・・今度から・・・・・・」

「そう・・・・それはいいわね」

 

どうやら好奇心、興味を押さえきれないらしく、レイは巨体をさらに起こし

今度は目も良く開いて話を聞く

 

最近、性格はあまりに違うけれども結構上手くつきあえそうだと発見した二人

更になんらかの悪巧みをしているらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一ヶ月前、ここを襲った連中」

「あいつら!?」

「レンと名乗るあの女性、霧島家嫡男マナ、そして綾波レイと名乗る人の姿と巨大な銀狼の姿を持つもの」

「レイとかいうあの犬女、絶対許さない!必ずぶっ殺してやる!!!」

 

思い出しただけで腹が立つのか

とくにレイのことに関してはとても激しい反応を見せる。

アスカは未だ完全には信用していないシンジの前であるにも関わらず感情剥き出しにして怒り出す。

何せレイだけあれから朝晩ほぼ毎日このブリデン島を襲撃してきたのだ。

 

マユミの占いと予測

そして新たに島にはった結界が無ければひどいことになっていただろう。

それがわかるから余計にアスカは苛立つのである。

そんな様子を微かに苦笑しながらシンジは見ていたが、話しを続ける。

 

「彼らは恐らく当分の間、あなた達を直接襲うことは無いでしょう」

「そうなの?」

「まぁ、あのレイという狼はわかりませんが」

「ふ〜ん」

 

アスカはシンジの話に興味を覚え聞き返す

 

「どうしてよ?」

「戦ってみて判ったのですが彼ら確かに巨大な力を持ちます」

「ムゥ・・・・・そういえばアンタここでレンと戦ったんだっわね、よくも私の館を傷つけたわね」

「はははははは、済みませんでした。なるべく他の者を撒きこむつもりはなかったので」

「ふんっ!それで?」

「レンにいたってはその力は圧倒的です」

「・・・・・・・・・・どのくらい?」

「通常の兵士やちょっとした魔道師、魔法兵では一個師団ぶつけたところでまるで歯が立たないでしょうね」

「ホントに!?アンタ、アタシをかついでないでしょうね」

「こんなことでアナタを騙してどうするんです?、とにかくそれぐらいの力があります」

「・・・・・・・・そう・・・・・・・」

「現に葛城将軍の船団、魔導師も魔法兵もそろったのにまるで歯が立ちませんでした」

「でも、あれは・・・・・」

「相手の結界を内側から、しかも自分の結界で押し破るなんてこと出来ますか?」

「・・・・・・・・・・」

「ついでに最後には我々も加わったのだけどやはり手も足も出ませんでした。悔しいですが」

 

先日も見た相手の予想外の力にアスカは考え込む。

 

「でも彼らは出て来れないはずです」

「なんで?」

「それはそのうち」

「そのうち!?悠長なこと言ってるんじゃないわよ」

「ですから、彼らは直接にはまだあなた達を襲うことはまず無いんですってば」

「だからなんで」

「しょうがないですね・・・・・・・・彼らはまだ力が完全ではない」

「完全じゃない?」

「私の仲間も含めて、私達は確かにレンとこの館で戦い、圧倒されました」

「知ってるわよ、随分と悔しそうにしてたわよね、あんた」

「ぐっ!ともかく、彼は本来随分と有利だった」

 

痛いところをつかれてすこし言葉を詰まらせるシンジ

 

「レイとマナという連れを使って脅してたけど、レンはそれを無視してもよかったんです」

「なんで?」

「ギリギリの戦力だったんです。もしかしたら後から私の仲間が入ってもレイもマナも倒せなかったかもしれない」

「ま、アンタの仲間ならそうでしょうね」

「私と今ここに残っているその時の仲間二人いれば、アナタの海賊団は充分殲滅できますよ」

「な、なによっ!?」

「それぐらい実力差が有るということです。しかもレンはそんな私達3人を圧倒した」

「ふんっ!アタシなら一人でも仕留めて見せるわ」

「・・・・・・・ともかくギリギリの中、何故留めを指さず帰っていったか?」

「もともと一種の脅しと嫌がらせと牽制だったんじゃない?」

「確かにその側面はあるでしょう」

「他になにがあるってのよ!?」

 

中々本音を語らないシンジによいよアスカがイライラし始め

さすがに長かったかとシンジは結論に入る。

 

「確かにそれが目的だったのでしょう。でもアレだけの力を持つものが何故牽制なのです?

「・・・・・・・・・」

「なんで殲滅ではなかったんです?」

「知らないわよ」

「それで、調べたんですが面白いことがわかりました」

「何?」

「レンという存在は、エニシアン島からあまりに離れた場所では活動できないようです」

「活動できない?でも私が相田の船団を襲ったとき警備船団を隠したのはどうやったのよ?」

「それは方法があります」

「だから何?」

「多分なにか中継を通したんです。話を聞くと彼はアナタの邪魔をしたとき必ずオーブから移る幻影でアナタと会話していたとか?」

「そうよ、ものすごいむかつくの」

 

思い出してまた暴走を始めそうなアスカ

 

「まぁまぁ、ともかくそのとき、そのオーブかあるいそれを運んでいる鷲などで力を仲介し送ってたのでしょう」

「だったら?」

「エニシアン島を中心にして貼られている結界より外では、彼は長く活動できない」

「ふぅ〜ん」

 

アスカは一見感心なさそうに適当に相づちを打つが

その目はしっかりシンジのほうを向き、一言一句聞き逃さないようさりげなく注意している。

 

「現に二週間前の葛城将軍とその船団が相手にした時もそうでした」

「ふむ」

「あれだけ圧倒的に有利だったのに、自分の結界の中に私たちを閉じこめていたのにとっとと還ってしまった」

「結界がもたなかったからでしょ?予定より短かったみたいだけど」

「あれは外から我ら以外に干渉した者がいたからですよ。そのもの・・・・・まぁそれは後々」

「ふん!」

「もしや己の結界の中で無ければあの姿すら維持できないのかもしれません」

 

思い起こすのは十六の黒翼を纏った圧倒的な存在感

でも、何故それがなにもせずに?

あの時レンは言った

 

「タイムアップ」

 

 

アスカは次第に考え込み始め

興味を示していることに気づいたシンジも自然と背梅井に力を入れる

 

「あいつは余裕をかまして帰ったんじゃなくて、あれが限界だったんです。あの場にいれる」

「そうなると、あのレンとの直接対決はレンの常備の多層結界がないところなら?」

「タイムリミットまで待てば去っていきます」

 

質問するアスカにwが意を得たとばかり頷くシンジ

 

「でもどうするの、だからってアイツに手段が無いわけじゃないのよ」

「ここには魔道師を五人置いていきます」

「ウソっ!?」

「本当です。彼らとすでにいるあなたの子飼いの五人の魔道師がいればかなり対応できるはずです」

「例え、あの狼女でも?」

「魔法兵として部下に教育をほどこすと良いでしょう、カリキュラムは置いていく魔道師が知っています」

「船団では永続する多層結界が無いし苦しいかもね。でもわかった、対処するわ」

 

無茶をしなければ十分やっていけるはず

シンジはそう予測して己の手駒の一部を渡す

ともわれ大事な戦力であり、しかも今は個人的にも気になる

 

「以後、相田殿とはあまり仲たがいせず、上手く付き合ってくださいよ」

「努力するわよ」

「努力・・・・・ですか・・・まあいいでしょう」

「ふんっ!」

「ともかく、レンやマナといった連中は長く結界の外にはいられない」

「だから」

「正面から当たらないでクダサイ」

「迂遠」

「迂遠でも」

「ふんっ!犬は?」

「やはり正面から当たらないほうがよいでしょう、それは解るでしょう?」

「ん・・・・」

 

「彼女とは散々戦ったじゃないですか。あとは大型のアーバレストを改良し、カタパルトを利用するしかないでしょう」

「随分と無責任ね」

「これが我々に出来る精一杯です」

「判ったわ。さっさと出ていけば」

「出向は明後日です」

「さっさと行けば良いのに」

「・・・・・・・・・・・ははははは」

 

アスカの余りな態度に、さすがのシンジも乾いた笑いを漏らす。

そのうちに玄関までついた。

警備として立っている赤い鎧の兵士がドアを空ける。

二人とそして幾人かの部下がそろってそこから庭に出た。

 

「あと、先程ほど教えた大商人や貴族の船のリスト、かれらは襲わないでくださいよ」

「それも迂遠ねぇ、いっそ全財産毟り取ってやれば良いのよ」

「そんなことは出来ません、なんとしても貴族は全て、大商人は大半を味方に付けねばならないのですから」

 

そう

なんといっても現在霧島の総督府は受けがいい

航路は安心だし税金が低いからだ。

相手が魔法で上回っている以上、そちらを使った情報戦では負ける可能性も高い

ならば今は無茶は出来ない

 

「イライラする」

「ガマンしてください」

「なんとかならないの?」

「とりあえず、巡回している警備隊の船をこまめに襲うくらいでしょう、あとは」

「それはわかってるわよ」

「ふ〜む」

 

ここはアスカに大人しくしてもらうためにもなにか用意したいところだが

しかし、あいにくなにも準備して無く、する予定もない

 

さらに庭を過ぎ、玄関まで歩いてきた。

アスカのシンジに対する態度はかなり改善されていると見て良いだろう。

なにせ、本来なら話は全て執務室で聞いて、後はさっさと追い出したろうから

シンジは彼女の変化に内心笑いが止まらなかった。

が、当然表に出しはしない。

それにシンジ自身悪い気はしなかった。

いや、むしろ心地よかったのだから

 

 

 

 

玄関につくと、二人の豪奢な鎧をまとった男女が馬に乗って待っていた。

二人はともに銀髪で赤い瞳だ。

先日のレンとの戦いで最初に現れたカヲルとシンジの仲間

それ以後ずっとシンジに付き従っている

サキエルとシャムシエルである。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで・・・・・あなたが犬女、狼女と呼んでいる綾波レイですが・・・・・」

「なによ?」

 

そして、シンジが馬に乗り、出発する寸前、思い出したように話し出す。

アスカは今更なんなのかといぶかしげに馬上のシンジに問い返す。

 

「どうも男の子みたいですが?」

「え?」

「ですから、性別は男性のようですよ」

「う、うそ!?」

「本気とかいてマジ」

「ぐっ!?」

「興味あります?」

「な、なんでよ、私はレンとかいう性悪やマナみたいな変態じゃないんだから」

「そうですか」

「・・・・・なんかむかつくわね」

 

どうにもペースを乱され、相手に翻弄されているようで

アスカは気分が悪い。

しかし、同時にどこか気持ちが安らぐのも感じていた。

 

「最後に聞くわ、あんた誰?」

「さぁ、誰でしょう、いずれわかりますと」

「いやな奴」

「誉め言葉と受け取っておきましょう」

「ふんっ!」

 

そして、去っていくシンジ達をアスカはしばらく見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな女役に立つの?」

「俺も疑問だ。とてもではないがレン達に対抗できるとはおもえん」

 

屋敷からしばらく離れて、町との間に広がる草原でシンジと二人の仲間とともに馬上で止まっていた。

 

「あれでも戦士としては超一流、魔道師としても一級品、指揮官としても充分合格点だ」

「まぁ、それは認めるわ」

「なにより、経営者としての能力が高いのがいい」

「そね、その点では艦隊維持に役立つわ」

 

シャムシエルもまた船団、部隊などの整備で利用し、協力を得たアスカの能力・手腕を高く評価していた。

しかし、サキエルは懐疑的だ。

 

「だが、相手の力量を測れない」

「まぁ、そこは経験をつんでもらおう」

「間に合うのか?それ以前につぶれやしないか、そこにいくまでに」

「そのときはそのとき、今はともかくあの戦力は数少ない遊撃戦力だよ」

 

シンジは淡々と答える。

しかし、心の中で先程のやり取りを、その間の安らぎを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所は変わって、東大陸ゼーレ連邦

ブラック・アーケードの屋敷の一室

暗闇の中、十一人の老人とそして銀髪の少年が手元以外見えないテーブルについていた。

 

「二週間前,我々の用意した皇国との連合艦隊がレンたち一味におそわれました」

「報告は聞いているよ、渚君、それで君はどう思う?」

「今回の奇襲はこちらへの牽制と思われます。互いにもまだ表だっては動けませんから」

「なるほど、しかし戦力の消耗。これは痛い」

「さよう、虎の子の魔道師達は考えて扱ってくれたまえ」

「今回は幸いにも被害がありませんでした。相手があまり理解していなかったようです」

「相手の落ち度に期待しないことだ」

「そうとも、魔道師と魔法兵はこれからも大事な戦力なのだから」

「充分承知しています、そこで皆様に御願いがございます」

 

ゼーレ十二使徒

ゼーレ連邦中心中に都市国家のそれぞれの代表たち

その老人達の苦言を表向きは丁重に聞き流し、途切れたところで早速本題に入るカヲル。

 

「なにかね?」

「魔道師の皇国へのさらなる派遣です」

「馬鹿な!?正気かね?」

「魔道は我等の重要な戦略的要素の一つ」

「皇国を始め諸外国に睨みをきかし、さらに連邦内を纏める重要な要素なのだよ」

「君はそのことを知らないわけでも有るまい」

「いったい何を考えているのかね。もしこの優位を失えば連邦は瓦解するかもしれんのだぞ」

「大丈夫です。そんな一朝一夕で戦力バラスが崩れるほどの変化は出ません」

「変化がないのなら、何故君はそのような提案をする?」

「さよう、君は何故皇国にそのような変化に乏しい援助をするのかね?」

 

苦言

反論

疑問

その他余り建設で無い様々な言葉を老人から浴びせられながら、カヲルはやはり表面上は丁重に

アルカイック・スマイルを浮かべて聞き流し、あるいは無視する。

そして、静かになったところで説明を始めた。

 

「レンは未だ完全体にはなっていません」

「どういう意味だ?」

「彼女の力は完全ではないのです。そのため彼女はエニシアン島の結界を離れてあまり活動できない」

「レンという輩が滅多にエニシアン島から出ないこと、それは判っている」

「その間に少しでもこちらの魔法戦力を増やしておくのです」

「むぅ・・・・」

「とりあえず皇国十将軍の一人、現在二十隻以上の小型中型、大型帆船で混成艦隊を作り上げ率いている葛城将軍のもとに五人の魔導師を派遣しました」

「それについては、先日より随分と委員会で問題になっておる・・・・・」

「しかし、効果があったことは否めません。相手が相手なので後手後手に回りましたが」

「結局敵・レンに対して報復もできなかったようではないか」

「クァード、ストラーシャ。空と海の二界の王者とレン相手なら少なすぎるといって良い損害ですが」

「それは認めよう」

「ともかく、あれだけ派遣してやっとそのレベルなのです」

「それがなければ彼らとは戦えない、相手にもされないという訳か?」

「はい、現在の皇国の魔道レベルでは到底役に立ちません。せめて魔法兵の数を今の十倍にしないと」

「それでも戦力バランスは崩れないと言うのかね」

「はい、確かに一時的に皇国の戦力は増大するでしょう」

「当然だな」

「一方こちらの海軍はいまだ充分な整備が出来ていません」

「だから?」

「何が関係有るのかね、渚君」

 

いきなり飛んだ話に多少面食らう老人達

しかし、カヲルは気にした風も無く説明を続ける。

 

「まだ連邦の海軍は動けないので、しばらくは皇国に彼らを牽制してもらうのです」

「ようするに力は与える分、かれらに戦力を消耗してもらうのだな」

「ハイ、そのためにも装備、魔道の援助はしかたがないと」

「むぅ、しかし果たしてそう上手く行くかな、それに魔道のプログラムはかなり流出する」

「確かに、しかし所詮彼らは陸戦能力が低いのです。連邦を襲うことは出来ませんよ」

「彼らからの見かえりは?」

「皇国からの操船、造船技術の援助、海軍の訓練、整備に関する援助、そのぐらいではなでしょうか」

「・・・・・・・よろしい、決をとろう、渚君の案に反対意見の有るものは意義を唱えよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「決まりだな、魔道援助の強化を決定する」

「アリガトウございます」

 

カヲルは静かに頭を下げた。

そして、部屋が明るくなり、老人達は消えていく。

そこはカヲルの執務室。

目の前には己の大きな机一つしかなかった。

頭をあげたカヲルの顔は、どこか皮肉に笑っていた。

 

「せいぜい偉そうにしているがいい・・・・・・なにも知らない、出来ない文句ばかりの老人どもめ」

 

そして静かに立ちあがり、彼は部屋を後にした。

 

 



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