蒼い空

流れる雲

静かな、エメラルドの海

駆け抜ける風

 

遥かなる地平線

散歩中にしては珍しく人の姿を取ったレイは小さな島により

海に突き出した高台、岬の先端にたって空と海を眺めていた。

しずかに、ただ静かに佇んでいる。

素足で柔らかな草を踏みしめて

 

流れる雲を見ながら、今朝から気にかかる何かを考えていた。

自然に口から歌声が漏れ出す。

 

Win dain ―――― a lotica ♪

 

それは遠い昔

大切な、大切な友人と、誰かを思い出しながら

悲しい、寂しい想いを歌声にのせて、あの西大陸の山脈で歌った

遥かな昔、そんなことが

そんな一時があった気がした。

 

幾重にも重ね着した

オリエンタルな巫女を思わせる衣装を着て

いつもの犬耳も尻尾も引っ込めていたレイは

自分の内の何かを解き放つように

遙かな昔を懐かしむように

 

そして誰かを呼ぶように歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼精日記

第16

the visiter from old day

『いつか誰かと歌った、行ってしまった人を想う歌』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Win dain ―――― a lotica ―――

――――― En vai tu ri ―――

―――――― Si lo ta♪ ――― 

 

Fin dein ――――a lotica――――

――――en darku a ―――― sei lain ――

――――――Vi fa-ru――― les shutai am ――

En riga-lint――――――♪

 

 

 

胸を絞めつけるような、冬のせせらぎの冷たい悲しみ

蒼く蒼く澄みきった空ような寂しさ

 

いつか、こんな蒼い空

流れる雲の下で歌ってた。

遠く去った誰かを想い

同じ想いを抱き、取り残された大切な誰かと供に

こんな風を感じながら歌っていた。

 

自分の中の誰かが悲しみに涙するのを感じる。

だけど夢の中の風景と少し違う。

ワタシの隣に今は誰もいない。

あのときともに泣いた友はいない。

 

そして、もはや誰かを思い出して泣く必要は無いのだ。

 

“彼の人”は再び現れたのだから。

 

大切な誰かと供に“彼の人”と過ごそう。

 

 

そんなとき、レイの頭に幾万の敵の前に超然と立つレンの姿が移った。

雄雄しく、力強く、危険に満ちて

しなやかで艶めかしく、しかしどこか清楚な青反するイメージを持つ

十六の漆黒の翼を広げる麗人

 

絶対的な恐怖をもたらし

さりながら美しく人を魅せる

 

はじまりの竜のように

 

 

 

 

 

 

「蒼い、蒼い空・・・・・・か・・・・・ずっと昔、こんな空を見上げて誰かを想っていた・・・・・」

 

レイが歌い出したそのころ

エニシアン島の霧島家の城

日々の日課であるレンの部屋の掃除をしていたマナは、ふと窓の向こうに広がる空を見た。

誰かの歌声がきこえるような気がする。

 

「あなたはじまりの竜だった・・・・・・・・・私の愛する人」

 

空の蒼に引き寄せられるようにバルコニーに出て

マナは手すりに持たれて遥かに続く雲の向こうを見た。

心が寂しさに揺さぶられる。

 

「私,力が足りないなぁ・・・・・綾波さんに遠く及ばない」

 

思い起こすのは先日のブリデン島強襲

マナは街中で騎士達を叩き

レイは巨大な銀狼の姿で艦隊と魔道士達を圧倒した。

強靭な身体と強大な魔力を持つレイ

レンに力を与えられながら、いまだ魔法の使えない自分

 

「リナのほうが・・・たぶんより上手くレン様を手伝える」

 

相手は遙か昔の皇国初代女帝

魔法の能力も凄まじければ様々な謀略にも、そして政策もその豊かな経験から打ち出せるだろう

 

心の片隅に歌声が響く

もっと“彼の人”の力になりたい。

ようやく会えた“彼の人”を、二度と失わないために・・・・・・・・・・

 

「え、私なんで泣いてるの?」

 

その大きな翠の瞳から涙が一筋頬を伝い

その感触にはっと我に返るマナ

 

「どうしちゃったんだろ?私」

 

混乱するマナの耳に

いや魂に

よりたしかに歌声が響く

 

 

Win dain ―――― a lotica ―――

――――En vai tu ri ?

―――――― Si lo ta ――― 

 

Fin dein ――――― a lotica ――― 

En drgu a ――――― sei lain ――― 

 

Vi fa-ru ――――― les shutaiai am ――― 

―――――En riga-lint ――――

 

 

『長かった・・・・・・・・ずっとこの時を待っていた』

「誰!?」

 

不思議な、哀しい歌声と供に誰かの声が響く

声の主を探して左右を見渡し、再び正面をみると

バルコニーの向こうに紅翼の天使がいた。

 

『“彼の人”が再び現れるのを、私はだたずっと待っていた』

「何を言っているの?誰のこと?」

 

マナはその美しさに目を奪われつつ

何故か懐かしさに引き寄せられる。

ダークブラウンの長い髪に隠されて顔は良く見えない。

巨大な黄金の柄と赤く透けた光の刃のサイズを持った彼女は、さながら“紅の堕天使”といえた。

しかし、歌とは裏腹に、供に伝わる彼女の心は、雰囲気は

長い時の流れの疲れと歓喜にあふれていた。

 

 

Win chaent  ――― a lotica

―――― En vai turi ――――

――――― Silota ―――

 

Fin dein ――――― a lotica ―――

Si katigura ―――――― neuver ――

 

Floreia ―――――― for chesti ―――

―――――――― Si entina ――――――ー

 

 

『長き時の中で、私は人の心の片隅で待ちつづけた。“彼の人”がよみがえるのを』

「・・・・・・だ、だれのことよ?」

『そして“彼の人”は再び蘇った。この蒼き空の下に、私は待っていた』

「だから、誰のことよ!」

『私はお前の中でずっと待っていたのだ、“彼の人”が蘇り、レイが歌うのを』

「!!」

 

自分と同じ細身で灰色のボディーに金の衣装で彩られた鎧を着た堕天使が顔を上げる。

ダークブラウンの髪の下に隠された瞳は哀しみと喜びの複雑な色合いを示す翠で

なによりその造形はマナにそっくりだった。

 

 

La La La La La la ―――

La La La ――

 

La La La La

 

  ――――― Fontina blu Cent ―――――

―――― De Cravi esca lesutimo――――

 

La La La La ―――

 

 ――――― De quaantian ―――

―――― La finde reve ―――

 

 

「な、なんで私そっくりなのよ」

『それは、私がお前だからだ。ずっと長いときを“彼の人”を待っていた』

「“彼の人”って」

『さぁ、目覚めよう。そして再び“彼の人”とレイと供に轡を並べ戦うのだ』

「!!!!」

 

自分が女性で、大人に成ればこうであろう

何故か自然にそう受け入れてしまう、そんな紅翼の堕天使が顔を寄せてくる。

マナはなにもすることが出来ず、何も考えられず

目を見開いて彼女の顔が近づくのを見ていた。

そして唇が唇で塞がれる。

目の前が白く弾けた。

 

ああ、歌が聞こえる。

 

Win dain ――――― a lotica

――― En vai tu ri

Si lo ――― ta

 

Fin dein ―――― a lotuca

en dragu a ――――― sei lain

 

Vi fa-ru ―――― les shutai am

――――――En riga-lint――――――ー

 

 

蒼い空に浮き上がるような

藍の海に沈んでいくような不確かな感覚の中

マナは一瞬の永き夢を見た気がした。

 

懐かしき故郷の森の清らかな泉

そこで“彼の人”と出会った。

泉の傍に跪き、その唇に掬い上げた清水が注がれるのを

ファーリーの刈り株のうえから見ていた。

 

戦いに赴いた“彼の人”の

その麗しき姿が戦いの白刃に煌く様を、蒼く輝く銀狼と供に並び見ていた。

その強く気高く

美しく危険な姿を

まるではじまりの竜のように

 

 

 

 

 

ふとマナが目を開けると

そこには地平線が広がっていた。

どこかの島の岬

下を柔らかな草で覆われた高台の上

そこから眺めていた。

蒼き空

流れる雲の

静かなエメラルドの海

駆け抜ける風

そしていつかのように、傍にレイがいた。

 

マナはそうするのが当然のようにレイの隣に行き

二人で蒼い空を

流れる雲を眺めていた。

 

レイの姿が何時もと違うのも

マナの背中に紅蓮の翼が開くのも

そうあるのが当然のように

 

「「LaLaLaLaLaLaLaLaLa〜♪♪」」

 

何時か歌った歌を二人で口ずさむ

しばらく

日が沈むまで胸のうちの哀しみと

そして再び出会えた喜びを載せて、二人は歌った。

 

やがて日が傾き

空と雲と海

全てが黄金色に染まっていく

 

「なんだ、こんな所にいたんだ」

「探したわよ。ホント」

 

突如

二人の背後に闇が集まり、レンとリナが現れた。

いつのまにか何時もの犬耳と尻尾の”じーぱんるっく”とメイド服に戻ったレイとマナが振りかえる。

 

「ほら、そろそろ帰ろう?昼食の時間も過ぎてるし・・・・・」

「あ、すぐ帰って用意します」

「・・・・・ワタシもお腹すいたの」

「こっちは待ちくたびれたわ♪」

「アナタはどうでもいいんです」

「そうそう」

「あら、ご挨拶ね」

 

何時ものように喧嘩が始まりそうなる

 

「そんなことしてないで、まずは帰ろう」

「そうね、お腹すいたし」

「ハイハイ♪ところで綾波さん、何時までレン様にしがみ付いてるつもり?」

「ずっと・・・・・」

「図々しいですね(怒)」

 

レイはレンの胸に飛びつき

マナはそんなレイをたしなめながら

しかし笑っている。

 

何時ものペースに戻った二人

そしてレンとリナは見守る。

 

「それで、レイはともかくマナはどうやってここまできたの?レイに連れてきてもらったの?」

「・・・・・・・・・あれ?私なんでここにいるんだろ?レイさん知ってる?」

「ワタシ知らない・・・・・」

「ま、いいか。ともかく戻ろうよ、我が家に」

「はい♪」

「ええ・・・・・・」

 

4人の頭上

そらに巨大で四つの大きな翼と十二のそれより小さな翼を持つ黒き神獣

竜の影が浮かぶ。

寄り添うのは赤き翼の堕天使と巨大な銀狼

黒馬に引かせた馬車を走らせる瑠璃色の魔女

 

蜃気楼のような一瞬の幻

 

「ようやく揃ったわけね・・・・・・」

 

ちらりとそれを見上げ、リナは楽しそうに笑う

 

そして二人はレンに掴まり

リナは自身ノ力で

それぞれ闇の向こうに消えた。

 

後には黄金色に染まった海と空

駆け抜ける風に流れる雲

 

ああ、歌声が聞こえる。

 

 

Win dain a lotica

En vai tu ri

Si lo ta

 

fin dein aloluca

en dragu a sei lain

 

Vi fa-ru les shutai am

En riga-lint

 

Win chent a lotica

En vai turi

Silota

 

Fin dein aloluca

Si katigura neuver

 

Floreria for chesti

Si entina

 

………La La La………

 

Fontina Blu Cent

De Cravi esca lerisimo

 

………La La La………

 

De quantian

la Finde reve

 

Win dain a lotica

En vai tu ri

Si lo ta

 

Fin dein a lotica

en draku a sei lain

 

Vi fa-ru les shutai am

En riga-lint

 

あなたははじまりの竜だった

わたしの愛するひと

ファーリの刈り株のうえから

わたしはあなたを見ていた

 

いかに美しく、水かその唇にふれたことか

いかにあなたが、戦いの穂先にきらめいたかことか

 

La La La

あなたが飛び立ってから

わたしには空が見えない

 

この糸車を討ってしまおう

すべてが幻であるように

 

わたしの愛するひと

あなたははじまりの竜だった。

 

 

 

 

遥か昔、飛び去ってしまった“彼の人”

二人は長い時をへて出会った。

ずっと待ちつづけていた人に

 

はじまりの竜に

 

 

 

 

 



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