『また待ち構えてる・・・・・・・・・・・・』
海面を疾走しながら敵の攻撃を避け、弾き返す魔狼
目の前に展開している艦隊と海岸線にずらりと並んだ陸上部隊の煌煌としたカガリ火
レンとマナとで行った最初の襲撃以来、ここ一週間レイは毎度朝夕の散歩度にブリデン島を訪れている。
やっていることといえば兵士を吹き飛ばしたり船を壊したりとちょっと町を壊したり
彼（彼女？）にしたら過激なイタズラなのだが
最近毎度の如く行く先々を予測されたかのように待ち伏せされ
巨大な銀狼こと綾波レイは少々うんざりしながらそれを見た。
『どうして？ワタシの行動が予測できるの？』
まだ日も昇らぬ夜明け前、最初はこのアスカ率いる海賊団““紅の風”の本拠地ブリデン島の真正面
町と港に一挙に詰め寄ったときも、待ち構えていた部隊に盛大な歓迎を受けた。
港各所に設置された巨大なアーバレストから前の二倍になった膨大な数の巨大クオレル
三十を越えるカタパルトからは岩、火樽
そのほか槍に矢が雨霰の如く降り注ぎ、一方己を取り巻く無意識に展開される防御結界の働きが悪く
間断無い攻撃にさらされ、結果魔法攻撃も、禄に接近も出来なかった巨狼ことレイ
結局、そのまま一旦島から離れ裏を掻こうと島の反対側の海岸に急行してみた、が
すでにそこにも地上部隊が待ち構えていて、さらに後ろからは回り込んだ艦隊が包囲しようと輪を狭めてくる。
今度はさすがに先程の大型兵器は無かったが、変わりに魔法攻撃の大サービスを受けた。
『魔法戦力が以前よりさらに強化されてる・・・・・・・・』
大半が今だ強力なレイの防御結界を破るものではなかったが、大変に鬱陶しく
前にも感じた危険な者の気配
「幾度も幾度も来ては我らを愚弄しおって、許さんぞ！！」
青いアーマー・スーツに身を包んだ銀髪赤眼の青年が青く輝く鱗に覆われた不思議な馬にのり、トライデントを構えつつ
その銀の槍を媒介に一定範囲の海水を自在に操り、蛇のような鎌首を擡げた大量の海水が襲い
「魔狼っ、覚悟しなさいっ！！」
太陽を紋章化したメリハリのある体にフィットした間接部の多いプレイトメイルを着たやはり銀髪赤眼の女性が
自在に伸びる光の鞭二本で遠くから幾度もレイを襲い
「・・・・・・・・・アイツのペットがっ！！」
変化前のレンにそっくりな姿をした白と銀の鎧を身にまとった黒髪の少年がいまいましげにつぶやきながら
艦隊の魔道士達の赤い炎弾を遥かに上回る巨大で高温の青く燃える炎の弾丸を休むことなく最低三つずつは飛ばしてくる。
いずれも自動展開されている防御結界では防ぎ切れ無い攻撃
レイは鎌首を擡げた巨大な水の蛇を同じだけの質量をもった水の塊で打ち消し
尾の部分から長く伸ばした蒼銀の体毛の束で光の鞭を打ち払い
海面から発生させた巨大な海水の壁で青い火炎弾を防ぐ。
それからも、３人確認されるそれらから打ち出されたであろう強力な攻撃はさすがに無視できなかったし
こちらの魔法攻撃はあらかじめ用意していたのだろう敵の防御結界に阻まれて大半の効力を失っている。
さらに言えば、この島全体がすでに敵方の弱いながらの多層結界になっているようで
こちらの魔力の働きが悪く攻撃、防御ともにダウン、敵は逆に増幅されている。
『魔力を高める暇も無いの・・・・・・』
莫大な数の炎、氷、雷撃、魔力そのものの形をした魔力弾の雨を凌ぎながらの攻撃
これではブリザードや雷撃のブレス、体毛に力を載せ作り出した槍に雨を降らせるしか攻撃手段が無い。
どれも相手の結界に大半が防がれてしまっている。
されど、相手が防御結界を強化している以上接近戦もまたキビシイ。
『今日も退くしかないの・・・・・・・・・・・・・』
散歩の寄り道に来ていただけでもあって、レイは余りこだわることなく
しかし遊びとしてはイマイチどころかいま十といった感じがしてつまらなくて
東の空が白み始める頃、艦隊包囲の一角を破って去っていった。
狼精日記
第７話
『恋の黄金率作戦』
前編
「最近、アチラの対応ずいぶんと早いな・・・・・・・・・」
何時の玉座の間
エニシアン島の霧島家の城、漆黒に覆われた広間に目立つ鮮血の玉座に座ったレンは
その黒曜に覆われた広間の床に先程のレイが闘っていたブリデン島の様子を写しだし
さらに幾つもの幻影から敵の配置、動きを観察していた。
「ホントにレイの動きを逐一予測してるみたいだな・・・・・・・・・・部隊の展開、移動も速すぎるし」
そしてさらに戦いの各場面を拡大してブリデン島側の攻撃の軌跡をたどる。
「物理攻撃にしろ、魔法攻撃にしろ無駄弾がほとんど無い」
最初の港での戦い、そして島の裏側での地上部隊と艦隊との魔法戦
何れも弾幕をはるように膨大な火線が引かれているが、何れも性格にレイとその周辺を狙っている。
まるで最初からそこに来ることが判っているように、無駄なく正確に
「これ程の予測、もしかして・・・・・・・・・・・・・」
「そう、あの子現れたみたいよ♪」
「あなたは・・・・・・・」
「御久しぶりかしら？楽しくやってた？皇子様♪」
レン以外だれもいなかったはずの広間に突然何者かの声が響く。
ふと見れば玉座の正面、広間から廊下に通じる大きな扉の前に一人の女性がいた。
皇国では珍しいミニスカートから出た細く長い脚は紺のストッキングと黒のブーツを履き
灰色と黒でデザインされた上着は肌を露出していないが豊かな胸ををあからさまに強調している。
そのしなやかに伸びた腕は手首まで上着に、細い指には紺の手袋
ポニーテールにした髪はこの部屋の魔法の光を反射して藤色に輝いている。
「髪と瞳の色、変わったんですね」
「あなたが”あれ”を引き受けてくれたからね。もとはこの色よ♪似合う？」
「人にとんでもないもの断りも無く押し付けてってそれですか？ご先祖様」
「あら？やっぱりバレてた？」
「当たり前です」
アンバーの瞳が楽しそうに瞬き、彼女の様子にまったく悪びれた様子は無い。
そのままカツカツとヒールに近い形をしたブーツを鳴らしてレンに近づき
ルビーの玉座に座って呆れているレンに身体を寄せる。
「だって、力はアナタが持つもの」
「・・・・・・・・・・・・」
「それはずっと昔、私が契約したあの時から決まってたのよ」
「そうかもしれませんね」
「そうなのよ、だからアンマリ怒んないの♪」
ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーっ！！
『っ！！！！！！』
ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
ザパーーーーーーーーーーーーーンッ！！！！！
海面のをかなり割りながらすさまじい速度で疾走し
周囲の大気を散々にかき乱し、巨大な波を発生させて、季節はずれの嵐のようなはた迷惑なことをしていた蒼銀の狼
それが急に立ち止まり、それまで巨狼・レイの跡に引き込まれるようについていっていた風と波が千々に乱れる。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
大いに不満な結果に終わった最近の日課たるブリデン島の襲撃
その憂さ晴らしでもと周りの迷惑顧みず海面を爆走していたレイ
しかし、突然その両脚の動きを止めると地面でやるのと同じ要領で前足と後ろ足を前方に突っ張って体重を後ろにかけ急制動をかけた。
結果、大量の海水が前方に押し出され二、三メートルは有にある波となって広がっていった。
『なに・・・・・・・・・・・・？なにか胸騒ぎが・・・・・・・・・・レン・・・・・・・・・？』
付近の島、無人島しか近くに無かったが、たどり着くときは五・六メートルにはなるだろう波を視界の端に認めても気に求めず
レイはしばし立ち止まり、あたりを見回し、何故か鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぎながら心のうちの奇妙な苛立ち戸惑う
『ともかく・・・・戻るのっ、レンのもとに早くっ！！！！』
結局レイは自分の感にしたがって、先程までを遥かに上回るスピードでエニシアン島のレンの元へと掛け始めた。
季節はずれの嵐から台風のごとくにまで進化した巨大な迷惑が駆け抜ける。
普段の軽やかに、伸びやかに美しく走るさまと、たまに見える美少女（？）な姿と
時折見られるこのはた迷惑ながら力感と迫力に溢れる巨大な銀狼は、すでにこのアドリア海で伝説になりつつあった。
「それにしてもホントキレイな肌よねぇ、ピッチピチのスベスベ♪」
「あのねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「髪も艶々・・・・・・・・・・・・・う〜ん、イイ香り〜〜〜〜〜♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・（怒怒）」
「あら、そんなに怒こんないの、キレイな顔が台無しよ」
「アナタが一年ぶりに目の前に現れても、こうやって激昂せず大人しくしてるだけでも良いのでは？」
嫣然と、そして矛盾してるが無邪気に微笑む瑠璃色の髪の美女に対し
その柔らかな肢と甘い匂いを感じているはずのレンはしかしまったく動じた様子も無い。
そして、その無反応ぶりにも美女もまた動じない。
そのまま身体をレンに預けて話を続ける。
「ねぇねぇ、あの時、気持ち良かった？」
「なにを言い出すんです何を？」
「そりゃぁ、あの時は久しぶりに人と肌を重ねたのよ。どうだったか気になるわ♪」
「よかったですよ、半ばレイプされたようなものでしたけどね」
なにうあら自分の胸に向かう手を時折払いながら
しかしいっこうに瑠璃色の髪の美女はレンから離れようとせず、面度くさくなったレンは美女をそのまま己のひざに乗せた。
「あら？いいカンジ♪♪」
「おい！？」
「イイじゃない。気持ちいいんだし♪」
「あのねぇ・・・・・・・」
レンの膝の上に横に座るとさらに寄るすがり、レンの胸に頬を寄せる
かなり高い身長のせいでそれほど目立たないが、片方だけで十分枕になるほどの大きさと心地よい柔らかさで
その小さく形のよい唇を嬉しそうに歪ませながら美女は胸にスリスリする。
「あのときはホントよかったわ〜〜」
「・・・・・・・・・・」
「だって、変化前のあなたってとっても可愛いい男の子だったんですもの♪」
「こちらはそんな余裕かけらも無かったけど・・・・・・」
「ただキス程度で終わらせるなんてもったいなくて」
「聞いてませんね」
一年以上前の情事を思い出して、うっとりする美女と
自分の膝の上でいっちゃってる美女とその身勝手さに呆れる被害者の元皇太子シンジことレン
「ようするにキスで済んだわでだ。継承は」
「そうよ、寝たくなかった？私と」
「どうでしょうね？ところで“あの子”が現れてるってどういうこと？」
「アン♪もう仕事のお話、つまんないのね、こんなに綺麗な姿になったのにもったいないわ」
美女はレンの豊かな胸から顔を上げ、その完璧な造形を誇る顔に手を滑らす
一方のレンは半ば諦めたか疲れた様子だ。
「あなた、女の子も好きなんですか？」
「そうよ、アナタだってそうでしょ？」
「まぁ・・・・・・・・」
「ついでに女の子みたいな美少年好き・・・・・」
「悪かったね！！」
「あの子達もかわいいわよね。後でみんなでイイことしましょうね♪」
「なっ！？」
舌でチロリと小さな唇を舐める美女の様子は、なんとも妖艶で
ゾクゾクゥッ！
「な、なに！？」
そのとき、レンの部屋の一つ掃除をしていたマナが急に襲ってきた寒気に身を振るわせた。
絨毯を使わない、板間とわざわざ東方の島国”日ノ本の国”から取り寄せた畳間に分かれた床を上を履いていた手が止まり
エプロンドレスをまとった身を強く抱きしめる。
しかし、次の瞬間には顔が高潮しはじめた。
「もしかして、レン様のお呼びかしら、イヤンこんな朝からなんて・・・・・・・・・」
頬にてをやり身悶えしはじめるマナ
「・・・・・・あ、ダメ、レン様、まだ仕事が残ってる・・・・・・でも・・・・・・て、キャッ！」
妄想爆走させ、頬をそめながら体をくねらせる美しく可愛らしいメイド
しかし何度も言うようだが霧島家嫡男である。
「それはホントに後で。しかもマナやレイの気持ちもある・・・・」
「あら！？」
再び黒曜の間
マナは身もだえしていたころ
しかし、レンは乗り気ではなかった。
レンのその言葉にポニーテールん美女は心底意外そうに声をあげる。
「あなたのことだから無理やり物にして、もう躾もすんでるんだと思ってたわ」
「誰と比較してるんです。誰と、ボクにそんな経験はありませんよ？」
「あら、そう♪じゃぁ、これからが楽しみね」
「ハイハイ、それからあまり引っ付かないで。レイやマナが見たら途端に機嫌が悪くなります」
「あら、私とこうしてるのはイヤ？」
「別に」
「つれないの」
話しながらもその手はレンの形のよい豊かな胸に伸び
その都度レンに手を払われ、少し拗ねた美女はかわりにレンの豊かな黒髪をいじりながら話を続ける。
「今回も帰ってくれた・・・・・・・・」
ブリデン島の港からみて裏側に展開し、巨狼を迎撃していた艦隊と地上部隊
その地上部隊の陣の奥、臨時に用意されたテントの中
地図を広げられた大きな机を前に、折畳式の椅子に座った少女はほっと息をついた。
「まだ・・・・・・・・・すべての力で戦ってない。でももし本当に危険にさらされたら」
黒ぶちのメガネをかけた長い黒髪の少女は、一人つぶやきつつ震える。
「それより、もしあのキレイな”竜”になにかあったら、あの美しい体に着ず一つでもついたらあの狼は・・・・・・」
最悪な未来が浮かぶ
「気を付けないと、本性をあらわした狼にはまだみんな対抗できない」
浮かぶのは砕かれ、凍り付き粉微塵にされて波間に漂う船団と無数の残骸
そして雷に焼き尽くされ、あるいは銀色の体毛でできた槍に貫かれ、強靭な巨脚で叩きのめされた無数の屍
燃え盛る町や港
少女の知る大切な人たちが無残な姿をさらして横たわるなか、天に向かって吼える蒼銀の狼
「これからも何とかうまく追い返さないと」
口元に黒子のあるどこか気弱げな少女は似合わないほど強く、唇が紫に変わるほど噛み、一人心に決めていた。
小さく俯き左手で椅子を掴み、赤い円錐の石のついたペンダントを右手で強くつかんで
歓声を上げる部隊の兵士たちの声を遠く聞きながら
少女は決意を新たにし、みんなのところに向かった。
「“あの子”は“あの子”よ」
未だレンの膝にのり、よすがったままの美女はわかりきったことのように答える。
「これからこの世界を舞台にした喜劇に重要な役目を果たしてくれる子」
「名前は？」
「山岸マユミ、ちょっと前にアナタがマナって霧島の嫡子に襲わせた皇国の神殿に引き取られた子みたいね」
「ああ、あの時の」
「ええ、神官長の葛城の養女の一人だったみたいよ、貴方が捕まえてる」
「なるほど、ずいぶんと集まっていたんだね。その神殿」
「そうね」
なにやら互いにしかわからない会話をしながら、いつの間にやら打ち解け始めている二人
「それが、“あの”娘だと？」
「間違い無いわね」
「ちょっと早いか、出てくるのが。アレとボクの紛い物が結びつくにはまだ早すぎる」
「そうね、次期じゃないわ、引き離さないと」
「しかし、あの二人なら確実に惹かれ合う」
「だったら別の誰かをアナタの写し身と結び合わせれば良いのよ」
「別の誰か？」
始めて少し戸惑った表情を浮かべたレン
それを見ながら嬉しそうに美女は言葉を続ける。
どこか、いとおしむように
「相変わらずこういう恋愛ざたには初心よねぇ、惹かれ合うのは何も運命の相手だけとは限らないのよ」
「そういうのは苦手ですよ、ご先祖様」
「ま、ちょっと手伝いなさいな。絡み合うのは男と女の情念、ドラマを造りましょう。私達の手で」
「成功するんでしょうね」
「アナタがちゃんと手伝えば」
「判りました」
どちらからという事無く立ちあがるレンと美女
玉座から降りて幻影を消し
魔法の光に照らされた黒曜の間を並んで歩き出す。
「ところで、一つ」
「なんです？」
「そのご先祖様ってのやめない？なんか酷く年寄りみたいに言われてるようでイヤなの」
「事実年寄りでしょう？」
「レディーに向かって何てこというの、しかもこんなピチピチのギャル（死語）に向かって！」
「はいはい、でも今はボクもレディーですよ、誰かのせいで」
コロコロ表情を変えて話す美女に、レンは呆れながら切り返す。
しかし、そんなことで恐れ入るこのアンバーの瞳の美女ではない。
「そんな昔のこと、忘れたわ」
「一年前ですけど・・・・・」
「いいじゃない♪そんなこと」
「随分と大きな変化ですけどね。性別も含めて・・・・・・・・・」
「それより私の名前はリナ、何故か歴史には開祖としか残ってないけど」
繰り返し皮肉を言うレンなのだが、やはり堪えた様子もない美女。
マイペースで話を続けるこの瑠璃色のポニーテール美女改めリナは舌の動きと滑らかさではレンを遥かに上回っていた。
「あなたが妙な相手と手を結ぶからです」
「愚痴が多いわね・・・・・・そんなことじゃぁ、もてないわよ」
「もてなくてけっこう」
掛け合い漫才のような話をする二人
リナはレンの左腕を取ると、自分の右腕を絡ませる。
苦笑し、もはや諦めた様子のレン
そうして二人は広間を後にした。
「今回も無事撃退できたね」
「そやな、損害もたいしたことない。これも山岸の奴があらかじめ占いで予測してくれた御かげや」
「そんな・・・・・・・・私は別に」
「ホント、助かります。アリガトウ」
「いえ・・・・・その」
見事今回も巨大な銀狼を追い返すことができてホッと安心する一同
あの災厄の日
連合艦隊と海賊団“紅の風”の戦士達を散々翻弄し、雷の雨で町と港を半壊させた相手である。
その相手にここ数日は損害も減っていき
今日にいたってほとんどゼロで追い返すことが出来たのは彼ら上層部の自信を取り戻させていた。
そして
「どちらにしてもこうも毎日こ現れるとと矢やクオレル、油の消費も馬鹿にならないわ」
「まぁ、それはしかたないやろ」
「しかたないじゃ済まないの！！ただでさえ町や港の復興大変なのに」
「そう苛つきなさんな、さっさと撤収を済ませてメシにしようや」
「・・・・・・・・・・・・そうね、アンタはヒカリのご飯が食べられなくて残念でしょうけど」
「な、なんやと！？」
にやりと笑った赤毛の男装の美少女にからかわれて顔を真っ赤にして言い返す黒装束に身を包んだ少年の将軍
王都の婚約者のことでからかわれると、この関西弁のまっくろ少年はすぐにムキになる。
そんな様子を薄笑いを浮かべて見ていた白装束の美少年がこの数日最大の功労者に声をかける。
「ともあれ、今日はこのまま夜まで襲撃は無いんですね」
「は、はい、そうみたいです」
「なんでいつもも早朝と夜間なのかしら？」
「あの、ここに寄っているのは、」
「「寄ってる？」」
「あ、その・・・・・・・・いつも散歩のついで・・・・みたいです・・・・・・」
質素な白と薄い桜色のローブに身を包んだ眼鏡の少女が口篭もりながら答える。
口元に黒子のある長い黒髪のその少女の言葉に、集まっている残り３人は名状しがたい表情になる。
少女は想わず身を固くした。
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「なんか凄くむかつくわね」
「そうやな、想い切りこけにされとるみたいや」
「ご、ごめんなさい！」
赤毛の男装麗嬢と黒装束の少年将軍の剣幕に怯え、想わず謝る少女
その肩にそっと白装束の美少年が手を添え言う。
「別に君を責めてるわけじゃないよ」
「で、でも・・・・・・・」
「実際こちらもどれだけ準備しても相手に傷一つ負わせられないんだから」
「あら、おやさしいこと」
「ほんまやな、随分と気にいっとるンやないんか、山岸はんのこと」
「そうだね、なんか一緒にいると落ち着く感じがするよ」
「ハイハイご馳走様、じゃぁ、私は町と港のほうに移るわ。こっち御願いね」
白装束の彼にしては珍しく気の効いたことを言うのと、そしてさり気ない爆弾発言に
赤でコーディネートした男装美少女と黒い鎧を纏った少年は興味深そうに、そして面白そうにからかう。
そしてそれぞれ己の仕事に向かう。
「私も行きましょう」
「じゃぁ、ワイらはこいつ等と一緒にこっちをかたすわ」
（なによ、でれでれしちゃって・・・・・・・）
白装束の美少年こと連合艦隊司令官“碇シンジ”は眼鏡の少女山岸マユミをさそって出て行き
男装の麗嬢こと“紅の風”首領惣流・アスカ・ラングレーと
そして連合艦隊副司令、皇国１０将軍の黒装束の関西弁少年、鈴原トウジは仕事に移る。
しかし、二人して連れ立ちでていったシンジとマユミに、アスカはなにか心の中がもやもやするのを感じていた。
「レン様、これはいったいどういうことですか？」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「マナ、レイ！？」
「あららららっ」
手を触れることなく開いた玉座に通じる巨大な扉
その向こうにはマナとレイが待っていた。
最初、レンを見上げて嬉しそうに駆け寄ろうとするが、隣で腕を絡めているリナを見て一挙に機嫌が悪くなる。
見ればとてつもないスピードで散歩から急遽帰ってきたレイは大粒の汗を浮かべ、肩で息をしており
そしてマナは普段とは違う、短いスカートからフリルを覗かせ
白のストッキングで覆われた細く長い脚を見せ付けるような特殊なメイド服だ。
「そう・・・・・・そうなのね・・・・・・・・」
「レン様、誰ですか・・・・・・・・ソレは・・・・・」
「あのイヤな感じはそう言うことだったのね」
「いつまで腕組んでるんですか？レン様」
「あ、そ、そうだな、離れよう・・・・・」
「アン！つれないわねホントに♪あんなに激しいく愛しあった中なのに」
「「！！」」
「お、おい！？」
にじり寄るマナとレンに呆然としていたレンは我に返ってあわててリナにとられた腕を放しアタフタとする。
が、リナの余計な一言でマナとレイから感じる重圧が一層増し、レンは無意識に後ずさりをはじめる。
「ダメですよ、レン様、ちゃんと話してもらわないと・・・・・・」
「そう・・・・しっかりと説明してもらうの」
「せ、説明っていっても、ボクは別に」
「あら♪そんなぁ〜〜〜〜〜♪”他人”に”私達”のこと話すなんて、恥ずかしいわ、そんなの〜〜〜♪」
「「ッッ！！？？」」
「ヒィっ！？」
リナが余計な一言を言うたびにマナとレイのプレッシャーが増す
レンは先程出てきた巨大な黒い扉まで後ずさり、背にその冷たい感触を感じながら
ゆっくりと歩み寄る二人の修羅を前に珍しくおびえていた。
「覚悟してください、レン様」
「ちょっとやそっとじゃぁ許さないの・・・・・・・」
「い、いやぁ〜〜〜！？」
なんだか完全に女性化してしまったレン
そして詰め寄るマナとレイ
そんな三人を見て、リナは一人笑っていた。
「まぁ、こんな様子じゃぁ到底主導権なんて握れてないわよねぇ・・・・・・・・・・」
と