「それで・・・・・・・」

「なによ?」

「何時の間にこんな場所用意したんです?ボクの結界内のこの城で」

「あら、出来上がったのはついさっき。造り始めたのはアナタと最初に接触した一年前よ」

 

なぜか髪が乱れ、服も気崩した様子でやつれた感じのレンが疲れた声でリナに聞く

リナは腰がフラフラな様子のレンを面白そうに眺めつつ答えた。

しばらく、なぜかレンの部屋に寄り道をして、そこで何をしていたかは謎である。

ただ、そこで行われたことの能動な者達がとても満足な様子でウツラウツラしているマナとレイであり

受動の立場にあったのがレンであり、見物人がリナだったと言える。

 

「要するにこの一年強、ボクとマナにも気付かれず城の地下でずっとこんなもの造ってたわけ?」

「そう、主にゴーレムを使って、結構性能イイのよ、私のゴーレムちゃん♪」

「そのようですね、しかしホントにどうやって出入りしてたんだか・・・・・・・」

「ま、一日の長ってやつよねぇ〜〜♪」

 

エニシアン島の霧島家の城一角

レンの強力巨大で緻密な結界内であるにもかかわらず、彼女さえ気付かなかった階段を降りた城の地下

そこには巨大なドームが出来あがっていた。

どうやら一年以上かけて、結界の主たるレンのも気づかれずに大規模な作業をしていたらしい

リナは得意げにそのドームの説明を始める。

 

「それで、どうするんです?」

「この装置はね。ある程度運命と時空に干渉できるの」

「運命に干渉?」

「ま、大きな動きは制御できないけど♪」

「出来たら驚きです」

 

『運命を操る』という突拍子もいリナの言葉にさすがのレンもあきれ果て

その美しい唇が想わず皮肉を紡ぎ出す。

しかし、当然そんなことで怯むリナではない。

面の皮は年を重ねているだけ、とても厚いのだ。

 

「突っ込みは良いけど嫌味は無し」

「それは残念」

「言うわね、結構。ともかく移ろいやすい人の心ならちょっと動かせるわ」

「ふむ」

「恋愛沙汰なんて風に吹かれてユラユラ♪って感じだから大丈夫、ちゃんと材料も用意してるし」

「髪の毛・・・・・・いつ取ってきたのです?」

「今日」

「御暇そうですね」

 

何故か以上に用意の良いリナに、レンは感心する前に呆れる。

なにしろとても楽しそうなのだ

この瑠璃色ポニーテールの美女は

 

「なに?せっかくアナタの為に用意したのにその態度」

「楽しみたいだけでは?」

「あら♪判っちゃった?」

「わからいでか」

「ま、ともかくこの材料と装置と材料髪の毛と私達の心が材料♪」

「それで」

「そして、碇シンジと名乗るものと惣流・アスカ・ラングレーの想いを高め、結びつけるの」

「そうですか?」

「私達が二人を演じるのよ。嬉しいでしょ?」

「はい?」

 

レンにとってはなにが嬉しいのかさっぱり理解できない

だから間抜けに聞き返した。

正直に

 

「誰が?」

「嬉しくない?」

「だから何故?」

 

リナはなにか思わせぶりに尋ね、見上げるのだが(身長176cmのリナでは190以上のレンは見上げるしかない)

さらに体を寄せてその旨を擽る、どうもレンの豊かな胸が気に入ったらしい

しかし、こんなところでは完全無欠な鈍さをほこるレンは当然気づかない。

 

「・・・・・・・・・・ねぇ、いっつもこんなカンジなわけ、この人」

「ハイ・・・・・・残念ながら・・・・・」

「いつものレンなの・・・・」

「そう・・・」

 

(まいったわねぇ、こんなに鈍いなんて・・・・・なんでこうなっちゃったのかしら?)

 

どこかやつれたカンジのレンと同じく、服こそキレイにきているがやはり疲労感が漂うマナとレイ

しかし二人は”やる”ことを”やった”達成感がその表情に現れていた。

そのせいか、”やる”まで警戒剥き出しにして見ていたリナに対する態度も変化している。

 

そんな様子を、また面白くかんじつつも

しかし、レンの予想外の鈍さにどうするべきかと悩むリナ

 

「むぅ」

「そんなことより、なんか最悪の方向に進んでるみたいですけどね」

 

城の地下にいつのまにか作られた巨大なドーム

その中央に映し出されるのは遥か彼方のブリデン島

その幻影の中で渦中の人物各人の動きが出ている。

そんななか、レンとリナ、二人の女性の話題の人物

山岸マユミがもう一方の碇シンジの艦隊旗艦の執務室に来ている映像が移っていた。

ちなみに、リナは少し不満そうで、拗ねていたが

しかしレンは取り合わなかった。

 

(鈍いわ、この鈍さ結局なおらなかったみたいだけどどうしようかしら?)

 

リナはこれから行う事以外でも、色々考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

狼精日記

 

第八話

『恋の黄金率作戦』

中篇

 

 

 


 

 

 

 

遠く離れたブリデン島

作戦を終えて戻ってきた連合艦隊と“紅の風”が港に並ぶ

その中でも一際大きい船、連合艦隊旗艦の部屋

そこに主のシンジと客のマユミがいた。

 

「その辺適当に掛けてよ」

「あ・・・・、どうも」

「ちょっと待っててね、今御茶入れるから」

「は、はい」

 

マユミが消え入りそうな返事をしながら応接セットのソファ―に腰掛けたのを視界の端で確認しながら

シンジはお茶の用意を始めた。

棚をあさり始めるシンジ

 

「えっと、クリミアのリ茶でイイかな?」

「あ、いえどんなものでも・・・・・・・」

「まぁ、色々あるから選んでよ」

「・・・・・・な、ならやっぱり先程のリ茶をお願いします」

「ホントに?」

「は、はい」

 

積極的でないのにけっこう早くに、しかも棚に並ぶ茶葉を満足に見ないで決めたように想えて

シンジはもう一度マユミに確認する。

なにせ

 

「いや、リ茶で大丈夫?これって匂いが強いから好き嫌い別れるし」

「あ、大好きです!」

「そう、よかった」

「あ、」

 

シンジは自分は好きだがどうにも独特の香りが人気で無いリ茶を好きなものがいて単純に喜ぶ

先程、アスカ達と一緒にいたとき見せた薄笑いとは違うシンジの柔らかな苗見がマユミに向けられ

マユミは赤面しながら俯く

しかし、こんなところはさすが“碇シンジ”の流を組むこのシンジ

そんなマユミの反応も独特の空気も気付かない鈍さでせっせとお茶の用意をする。

 

「お菓子はなにか用意しましょうか?」

「いえ、特に・・・・・・」

「じゃぁ、リ茶の香りを楽しみましょうか?」

「は、はい」

「フフッ、そんな固くならないで」

 

なにか小動物を想わせるマユミの仕草に、シンジは微笑みながら声をかける。

一方マユミはさらに硬直してしまうのだが

そんなことをしているうちにシンジは流麗で正確な動きと手順でリ茶を入れ

独特の香りが漂うリ茶が二カップ用意された。

 

「どうぞ」

「あ、ど、どうも・・・・・」

 

マユミの向かいに座り、独特の香りを楽しんでからリ茶に口をつけるシンジ

そして静かにカップを置いてマユミを見た。

 

「・・・・・・・・・・・」

「確か皇国の十将軍、葛城ミサト殿と縁があるそうで」

「は、はい、ミサトさんは私を引き取ってくれた葛城神官長のご息女です」

「そうですか、昔からの付き合いですか?」

「ええ、十年にもなります」

「ふ〜ん、それでどうしてこの島に?」

「実は二週間前、ミサトさ、いえ、葛城将軍は海賊に偽装した艦隊を率いてブリデン島に立ち寄ったんです」

 

やはり一度リ茶に口をつけ、その香りを楽しむうちに落ち着いてきたのか

マユミもどもることなくシンジの質問に答え始める。

 

「それで?」

「その際、私ちょうど熱病を患ってしまって、航海が続けられそうに無いのでこの島で降りていたんです」

「この島で?またなんでこんな・・・・・」

「危なくは有りませんでしたよ。少し前まではどこの部隊も襲って着たりしませんでしたし」

「すみません、私達のせいですね」

 

そう、レン、レイ、マナの3人?はシンジが艦隊を率いてここに立ち寄ったからこそ襲ってきたのだ。

シンジは静かに頭を下げる。

 

「あ、いえ・・・・・・・・・その。碇さんたちのことを責めようとしてるわけではないんです」

「御気使いアリガトウございます。しかし、この間は災難でしたでしょう、あなた達にとっては」

「いえ、そんな気にして頂かなくても、それに私もなにも出来ませんでしたし」

「普通は誰でもそうですよ。私達自身あの日は翻弄されるだけでした」

 

レンにまったく歯が立たなかったことを思い出してシンジは想わず歯噛みする。

そんな様子に己も何も出来なかったことを悔やむマユミ

まして彼女は・・・・・・・・・

 

「でも、私にはある程度わかっていたんです。彼らが来ることは」

「ほぉ?」

「でもなにも出来なかった。知らせることでさえ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

俯くマユミに今度はシンジがかける言葉を失う。

 

「私に出来たのは、彼女達の襲撃を占いで知りながら、ただ自分の部屋で震えていることだけでした」

「どんな風に判るのんですか?さっきから聞いていると占いと関係あるみたいだけど」

「恐ろしく美しい巨大な狼が見えて、燃え盛る町が見え、人が倒れていき、なんか恐いほど綺麗な人が見えて・・・・・・・・」

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫です・・・・・・・・・。それで、最後に全てが真っ白になるほどの雷が見えたんです」

「雪?」

「はい、雪です」

「ふむ・・・・・・・・・」

 

最後にまったく関係の無いようなビジョンが出てきて、かえってシンジもマユミも落ち着いていく。

シンジはさっそくマユミを慰めにかかった。

 

「・・・・・・・・・・・山岸さんは戦いを経験したことが無かったんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「いきなりすぉんなビジョンが見えれば動揺するよ。それにこっちも言われたからって信じなかっただろうし」

「そうですか・・・・・・・・?」

「そうだよ、だからあまり気にしないで」

「あ、ありがとうございます」

「あ、お茶上げるね」

「・・・どうも」

「いえいえ」

 

殻になったカップにお茶をさらに注ぐ

少し癖の有る、しかし柔らかな香りが再びマユミの鼻腔をくすぐる。

再び、固くなっていた身体もリ茶の温かさでほぐれ、心地良い香りに心もリラックスしていく。

手際よくお茶を入れる碇シンジを見ながら

自分の話を熱心に聞いてくれるこの美少年にマユミの頬は紅潮していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら!なんかイイ雰囲気ね♪」

「ふむ、コレはもはやすでに干渉不可能かな?」

「そうでもないんじゃない?」

「理由は?」

「あの碇シンジって名乗ってる子、前のアナタの特性を受け継いでるなら間違いなく鈍いし朴念仁よ」

「その言葉には反論したいですね」

「無駄よ、事実だもの」

「むぅ〜〜〜〜」

 

ドーム中央を取り囲むように映し出した幻影に移るはブリデン島の連合艦隊旗艦提督執務室

シンジとマユミが見ていて痒くなるような会話と仕草と雰囲気で映っていた。

そんな様子を見ながらリナにからかわれ、今度は抗議しているレン

すると

 

「話が弾んでいるようで、レン様」

「ありゃ、マナ、レイ?どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃぁ、ありません!!もう御昼ですよ。御昼」

「あら、もうそんな時間?」

「御食事の用意が出来たのに、こんなわけ判らないところで女の人と!!まだいちゃいちゃしてて」

「妖しいの、思い切り・・・・・・・」

「あらららら♪」

 

散歩から帰ってきた少女みたいな美少年姿の犬耳尻尾付きのレイ

そして食事の用意を終えてきた紺と城のエプロンドレスのメイドルックなマナ

明らかに怒りをにじませてやってきた二人にリナは楽しそうに笑い

レンは顔を引きつらせる。

 

「マナ、レイ、落ち着いて・・・・・・・・」

「そういえば、まだ聞いてませんでした。誰なんですか?その方?」

「教えて欲しいの」

「あ、コイツは・・・・・」

「コイツだなんて!私達の間で、ヒドイ!!」

「・・・・・・オイオイ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「いや、あの・・・・・・」

 

なにやらまた先程と同じ状況になりそうで

さらにリナは早速演技開始でレンは呆れて困惑気味

しかし二人の視線が痛いのでレンは気を取りなおして(引き締めて)説明にかからなくてはならない。

だが

 

「なんか随分と深いご関係のようで、何時からの御付き合いです?」

「正直に話すの・・・・・聞くの忘れてたの」

「それってけっこうマヌケよね♪」

「「なんですってっ!?」」

「なんでもないわよぉ♪」

「「ムム」」

「それに、いつからだなんて・・・・・・・・このヒトが生まれたそのときから決まった運命の相手よ♪」

「「!!!!!」」

「勝手なこと言わないで!!!マナ、レイ、誤解しないで!!」

「・・・・・・・・・ずっとずっと私が御世話してきたのに」

「所詮ワタシを引き取ったのも気紛れだったのね・・・・・・・・」

「なんでこんな女なんかに・・・・・・・・・・・・・」

「遊び、そうワタシ弄ばれただけなのね」

「許せない」

「可愛さ余って憎さ百倍なの・・・・・」

「ち、ちょっと、落ち着いて、コイツは・・・・・・・」

 

リナの言葉をもろに間に受けた二人から放たれる幾何数的に膨れ上がる殺気に焦りながら

レンは珍しく慌てながら説明を始めた。

ドーム中央に写った懸案の二人を忘れ、二人(一人と一匹?)を加えて

場は痴話げんかの様相を呈してきた。

幻影はさらに砕けた、良い雰囲気に包まれた碇シンジと山岸マユミを映し出している。

 

 

 

 

 

 

 

「そう・・・・・今はそうやって占ってるんだ」

「はい、幸い、最近こちらに来るのは、あの綺麗で大きな狼だけみたいですから」

「成るほどね、海図とその石のついたネックレスとカードを使った占いか・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・あ・・・・」

 

マユミが取り出したタロットカードと首から下げた赤い石のネックレス

シンジは興味深げにそれを見つめる。

ちなみにその熱心な視線にマユミが再び赤くなったことはニブのシンジは気付かない。

 

「へ、兵士の人達が拾ってくれた体毛も有りますし、手がかりがあるから結構よく見えるです」

「すごいなぁ・・・・・」

「そ、そんなこと・・・・・・ないです」

「いや、すごいよ、御かげで最近は損害が出ずに済んでるんだから」

「あ、ありがとうございます」

 

手放しに誉めるシンジによいよ見を小さくして恥ずかしげに俯くマユミ

しかしシンジはとんでも無いことを言い出した。

 

「欲しいな・・・」

「へ、」

「欲しいよ、君が」

「そ、そんな・・・・・・・・・」

 

真剣な瞳に魅入られてマユミは今度はシンジから目が離せなくなる。

耳の奥にはやくなた鼓動が響く

身体が熱く目が潤む。

明らかな反応を示し始めるマユミだが

しかし

 

「君のその能力、ほんと素晴らしいよ。是非とも私の傘下に加わってくれないかな?」

「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「君がいれば、戦力的に極めて不利なこちらも対処のしようが幾らでも出来る。一挙に戦局が変わるかもしれない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「是非とも私達の艦隊に来て欲しい。だめかな?」

「は、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(バカ・・・・・・・・・)

 

シンジはどこまでもシンジだった。

紅潮していた頬がゆっくりと納まっていき、早い動悸は収まって行く。

マユミは一人興奮する碇シンジとは逆に冷めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャハハハハハハハッ! 見たアレ」

「似てるのは嘗ての容姿だけでなく、性格もですか・・・・・・・・・」

「???」

「そうかな、あそこまで朴念仁だったかな、ボク?」

「間違い無くそうでした」

「今でもそうね、あの時も少なくとも女子の扱いに慣れてるようには見えなかったし」

「それにとてつもなく鈍かったですよ、私がそれでどれだけ泣いたことか・・・・・・・」

 

幻影で様子を見ていたエニシアン島の四名

そのうちリナは大笑いし、マナは呆れ果てる。

レンはなんとなく恥ずかしくて反論し

レイは理解していなかった。

そして、マナとリナの会話は続く。

 

「辛かったのねェ・・・・・・」

「リナさん、察してくれますか?」

「ええ、大変だったでしょう?」

「はい・・・・・・」

「私のことは『リナ』と呼び捨てでいいわ」

「では、私のこともマナと」

「・・・・・・・・・・・・・レン、なんか意気投合してるの」

「みたいだね、しかも人をネタにして」

 

仲良き事は美しき事かな

しかし己が出しに去れ、しかもかなりひどいこと言われてる気がして

レンはレイと話ながら憮然としていた。

 

 

 

 

 

 

「なんか気分悪そうだったけど、何だったんだろう急用って?」

「お前ホンマにわからんのか?」

「ええ、でも体調が悪いのなら軍医にでも診せるのに・・・・・・・・・・・」

(コイツ、ホンマにわかっとらん)

 

一方、しばらくしてシンジの部屋には今度はトウジが訪れていて

二人は仕事の話をすまし、雑談していた。

話題はマユミである。

 

「結局、艦隊には来てくれんて?」

「ええ、さらに二週間後に来る葛城将軍の偽装海賊艦隊について行くそうです」

「そっか、残念やの。でもミサトはんのところなら心配ないやろ」

「そうですね、でも確かに残念です。あの能力は素晴らしい。是非とも欲しかったのですが・・・・・」

「ま、本人が来ないっていうならしゃぁないやろ。幸いこれから忙しくなるのはむしろミサトはんのほうやし」

「そうですね、またの機会もあるでしょうし」

「ああ・・・・」

(こりゃあの山岸でも呆れるはずや、ワイも鈍いってよう言われとったがここまでは・・・・)

 

機嫌よさそうだっマユミが急に沈んだ感じになって、『急用』で席を辞した後

入れ替わるように入ってきた副将、鈴原トウジに先程のマユミとの会話の顛末を聞かせたシンジ

薄々マユミの気持ちに気付いていたトウジ

嘗ての自分を遥かに上回る、自分の知る幼馴染の“碇シンジ”に通じる鈍さに呆れたのだった。

(マユミに会うことの多い“紅の風”や連合艦隊の幹部達にとってマユミの気持ちはもはや全体共通認識だった)

 

「とりあえず、これで仕事はすんだ! ちょっと遠乗りに行きます。一緒にどうです?」

「いや、遠慮するわ」

「そですか、じゃぁ」

「まったく・・・・・・・・・変なところまでそっくりやな。この鈍さ」

 

幼馴染の碇シンジと今上官である“碇シンジ”

いったいどこまで似ているのか?

何者なのか?

しかし、次第に隔意が無くなってきているのをトウジは感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、よいよ運命改変の時」

「はぁ・・・・・」

「さぁ、シンジ君、もといレン。私と心を重ね、移ろいやすい恋心を導きましょう♪」

「ちょっと待ってください。その役目、レン様と私がやります」

「ワタシがふさわしいの」

「ね、ねぇ、ちょっと・・・・・・」

 

そしてよいよエニシアン島の四人組みは動こうとしていた・・・・・・・・・

のだが早速役割でもめ始めた。

なにせレンとだれかが役目を演じ、恋人の如く心を通わせるのだから

 

「あら、最初にこの計画を立てたのは私、準備したのも私。ならレンと心重ねるのも私よ、当然」

「いいえ!これは一番長く御傍にいたこのマナの役目!」

「アナタ達ではレンと上手く心を合わせられないの、レンに迷惑。ワタシがふさわしいの」

「だから、ちょっと待ってって・・・・・・・・」

 

レンの静止は当然3人には届かない

 

「だから話を聞いて欲しいな・・・・・・」

「へぇ、私に真っ向から挑むなんて、なかなか良い度胸じゃない。御子ちゃまの分際で」

「穏便に決めようよ・・・・・・・」

「なにが御子ちゃまですが、とんでもない年寄りよりましです」

「暴れたらここが壊れるし・・・・・・・」

「所詮人間の派生したあなた達では無駄無駄なの、ワタシが一番なの。あ、レンは特別」

「・・・・・・・聞いてないし」

 

ただでさえ、こんなとき話を聞いてもらえる可能性は天文学的な分母/1なのに

さらにレンの声には力が無いから効果が無い。

結局レンは最初からそうだったけど諦める。

 

「白黒つけましょうか?」

「イイでしょう」

「当然なの」

 

リナ、マナ、レイの三名は戸惑い、呆れ、静止しようとするレンを余所にヒートアップして行く

灰色のドレスと紺のリボン、手袋、ストッキングにくろのブーツのリナは

余裕を感じさせながら、どこか見下したような妖艶な笑いを浮かべ

今回は藍色の地に白のフリルがあしらわれたメイド服のマナは真っ正直に敵意を剥き出しにして

相変わらずの白のシャツに青の“じーぱん”で裸足のレイは凍れる視線で二人を睨みながら

城の地下にいつのまにやらリナが建設したドームは一触即発の空気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

「アイツったら、最近マユミに馴れ馴れしいのよ」

(なんでアタシじゃなくて・・・・・!?なに考えてるのアタシは)

 

アスカは自室で息巻いていた。

今は相変わらず男装だが、上は下着にシャツの軽装である。

 

「おまけにマユミの寄せてる気持ちに気付いてないし・・・・・・・・・」

(気付いて欲しくない・・・・・・そんなバカな)

 

来て以来友達になった(マユミにとっては軌跡だったが実際はアスカが半ば強制した)マユミを思い

そしてその気持ちに気付かない“シンジ”に苛立ち、そして何故かほっとする。

 

「ホント、鈍いところまでアイツそっくりね。顔や仕草だけでなく」

 

思い出すのは嘗ての幼馴染の少年

 

「まったく、“アイツ”だったらどうしてたかな、やっぱりまったく気付かなかったかな」

 

少年はとても鈍かった。

優しく、心も容姿も綺麗でナンでも出来て身分が高くて

欠点のほうが少なかったが、しかし

 

「ホント鈍かったし、マナのやつが寄せてたアブノーマルな思いも気付いてなかったしね・・・・・・」

(アタシも他にもいたけど・・・・・・・)

 

少年は伝説的なまでに鈍かった。

永久保存版んほどの朴念仁だった。

 

「でも、気付いたら・・・・・・・・・やっぱ答えてたかな?」

(気付く沸けないじゃない。こちらから言わない限り、あの幼馴染が)

 

それは言えなかった思い

 

「“アイツ“好意寄せられるのに、なれてなかったけど、人を絶対傷つけようとはしなかったものね」

(でも、同情なんてマッピラ)

 

だから恐くて聞けなかった。

 

「なんで、アタシが苛つくのよ」

(なんでアイツを思い出すのよ!?)

「あぁあ!イライラするわ。カリン!!ちょっと遠乗り行ってくるわ」

「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

碇シンジがマユミと並んで歩いている。

二人が仲睦まじく一緒に歩いている。

“恋人達の時間”を過ごしている。

そんな想像をして、どうにも成らないモヤモヤを心に抱いてしまったアスカは

勢いよく態々造らせた檜造りおの風呂から上がると、メイドのカリンに支度をさせて

服が整うとそのまま遠乗りに向かった。

 

(バカシンジ・・・・・・・・・・)

 

自分の中で、次第に幼馴染と今この島にいる“碇シンジ”の区別があいまいになってきていることを

そして嘗て幼馴染の“バカシンジ”に寄せていた淡い想いが蘇るのを

しかしアスカはまだ気付いていなかった。



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