結局、人間に進歩があったか?

そういわれれば、非常に疑わしいとボクは思う。

多くの犠牲を払って得たのは、わずかな間の心ばかりの安らぎだったのかもしれない。

 

ただ、巻き込まれたとはいえ、ボクはここにいた。

また、なりゆきまかせにしろ、ボクは、ここで戦った。

そして、自らの意志で選択し、ボクは、EVAに乗った。

 

結果、ボクは多くの選択をした。

多くの人を傷付けた。

敵だという理由で、ボクは友達を殺した。

 

自らの意志でこの世界を選択した。

 

そして今、ここにいる。

彼女と共に

 

成り行きと、選択

偶然と、必然

 

多くが重なりあって原因となり

たった一つの思いが今を決めた。

 

強く、そう実感した。

 

 

ここ、第三新東京に来てから、色々なことがあった。

 

多くの出会い

多くの別れ

友達との友情

仲間との連帯

大人達の裏切り

 

様々な思惑

対立

それによるたくさんの抗争

友人の死

沢山の死

静かな安らぎ

深遠な静寂

小さな選択

大きな災い

ささやかな希望

 

そして、流れ続ける時間

共に来る、見果てぬ未来

 

多くの出来事がボクを少しずつ変えていった。

 

ここに来る前より、ボクは、ほんの少し成長できたように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

新世紀
第二話
「あのとき」


 

 

 

 

 

 

 

サードインパクト

それに続く人類の補完

 

あのとき 

まるで、何年も過ぎたようだった。

そんな錯覚に捕らわれるほど、様々なことがあった。

あまりにもいっぺんに色々なことが起こって、記憶が混乱しそうなほどだった。

 

補完の終わった後、ボクはぼんやりしていた。

ぼんやりとこの新たな世界を見ていた。

世界は、綾波が流したLCLの血で赤く染まっていた。

空は全体が真っ赤だった。

首から流れた血の道が、空を真っ直ぐ横切っていた。

山も建物も、全てが降り続ける赤い雨の色に染まっていた。

黄昏のようなその様子が、世界の新たなる始まりとはミスマッチだった。

 

なんとなく、ボクは笑った。

なぜか無性におかしかった。

心のうちに、大きな絶望が宿ったかのような

そんな空虚な笑いが、自然に胸から沸き上がってきた。

ボクは、訳も分からず笑い続けた。

 

綾波の働きだろうか?

 

幸いなことに、すべてが終わったとき、世界はサードインパクト直前の状況に戻っていた。

違うところは、第三新東京が、以前の完全な姿を持っていたという事だ。

 

二人目の、いや、区別などいらない、“彼女”と共に一度消えたはずの街

 

また、直前の戦闘で死んだNERVの人たちも生き返っていた。

戦自の人も生き返っていた。

人々はそのほとんどが、LCLのたまってできた湖の上に浮かんでいた。

 

多分、全員、生きているだろう。

 

そんな事を考えながらぼんやり赤い空を見ていた。

それまでの出来事に思いをはせていた。

補完の事をぼんやりと考えていた。

そして自分の事を

 

ボクはすべての記憶を持っていた。

補完のときのすべてを

 

それは、世界の人々すべての記憶を呼び出せると言うことだった。

もっとも、そんなことしたら自分が消えてしまうから決してやらないけど

でも己を捨てれば出来ることだった。

 

なぜなら、あの時、全ての人は一つになっていたのだから

その心は、全て繋がっていたのだから

だからこそ、もとになったボクには全てがあった。

依り代の心には、全てが刻まれていた。

 

後で聞くと、綾波も全てを知っていた。

それは、ボク達が半ば人間では無くなったことを示していた。

 

ボク達は、頭の中にある他人の記憶はぼやけさせていた。

ボク達は、そうして”自分”を保っていた。

 

記憶が、”自分の物”になるまで、そうしていくより無かった。

ボク達を形作る、大事なものを守るために

あやふやな、”自分”を守るために

 

”人として、生きていくことを選んで、それから外れる”

”特別であることを嫌っていたのに今は”

 

なんとも皮肉な結果だった。

そして、ボクと綾波以外のすべての人が、補完の記憶とその前後を持っていなかった。

人々にとって不自然なことといったら、零号機と共に消えたはずの第三新東京市が、元の姿を保っていたことだろう。

 

”後でどうするのかな?”

 

他人事のようにそう考えた。

なぜか心は静かだった。

その内に、空虚さが広がっていて

 

 

 

 

 

あの後はちょっとした騒ぎだった。

何しろ、ほんの一時間程度にしろ、すべての人がその形を失ったのだから。

おかげで、ありとあらゆるところで混乱が起こっていた。

飛んでいた飛行機の乗員など、気がついたら全く知らない草原の上にいるということまで起きていた。

特に、第三新東京では、大変だった。

 

何より後始末が

 

 

まず、どう考えても、無くなっていた一つの都市が、元のままの形で有るというのがまずかった。

戦自の人とNERVの職員が同じようなところで目を覚ましたりしたのも困った。

一歩処理を間違えれば、大騒ぎだった。

 

実際、職員と戦自の間では、小さな衝突も起こった。

ただ、両方とも、指揮系統を完全に失っていた。

おまけに、武器が無かった。

ついでに、とっとと綾波とボクとで、この二者を引き離した。

 

無意識だったのだけれども

 

このおかげで、双方ともに怪我人は出なかった。

何より、自分の置かれている状況がまったく分からなかったのがよかった。

おかげで、彼らは、お互いに対する敵愾心や、自分達が与えられていた指令を一時的に忘れさせたようだ。

 

 

補完後、少なくとも第三新東京では、人死には出なかった。

 

 

 

多くの者は、人として帰ってきた。

が、中にはそのまま人の形を失った者もいた。

そして、彼らは、初号機と共にこの地球を離れた。

一つの完全な生命として

 

父さんや、リツコさんもその中にいた。

もちろん、母さんも

 

まぁ、この地にいてくれても困ったのだけど

いたら殺していたかも知れないから

衝動任せに

我慢できた保証はどこにもない

 

そして、人として生きることを選んだ人々が次々と現れてくる。

 

いつのまにか、湖面は浮かんでいる人でいっぱいだった。

そんな中、ボクは、隣にアスカがいるのに気付いた。

あいかわらず、その瞳は何も写していない。

そして、周りの様子に何の反応も示していなかった。

一向に動こうとしない。

喋ろうともしない。

 

なんとなく首をしめてみた。

そしたら、何故か、ボクのほうも見もせず、腕だけが上がってボクの頬をなでた。

 

何故か彼女の上で泣いてしまった。

そのとき、アスカときたらプラグスーツに包帯姿のだったのだけど

いきなり隠れてないほうの目でこちらをギョロッと見てこうのたまった

 

「気持ち悪い」

 

ボクは、アスカを何人かのNERV職員に任せてそこを立ち去った。

 

 

ボクは綾波を探しはじめた

 

ボクは自分の気持ちに気付いたから

心の空洞を埋めるのが誰か解ったから

 

綾波と一緒にいたかったから


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