鋼鉄の巨人

第四章 カヲル君と演奏会

【第三新東京駅】
 「この町に、若き才能の集う音楽堂が所在する。」
 「コンサートホールの舞台に立つなんて、胸がドキドキする。」

【国立音楽劇場・コンサートホール・舞台上】
 「綾波さんが来ている……。」
 「楽器の音って大きい……。」
 「綾波さんが演奏を聴いている、僕のチェロを聴いている……。」
 「楽器が弾けるって凄い、あの碇くんがザルツブルグの天才少年に見える。」
 *「天才少年はいいが、なぜにザルツブルグ?」
 レイは想像した。天使のような羽を広げている自分を抱き上げるシンジを。  「もし、あの服装で抱きしめられたら、全身の毛穴が開いて、体液が蒸発してしまうかも……。」
 *「もう少しロマンチックな言い方はできんのか?」
【国立音楽劇場・ロビー】  「演奏、感動した。お花を渡そうと思って……。」  「ありがとう。」  「今日の碇くん、凄く良かった。その服もカッコイイ。」  「綾波さんも綺麗だよ。」  「碇くんみたいに楽器が弾けたらいいな。」
 *「♪もしも、ピアノが弾けたなら……。」
 「泣いているの?」  「ちょっと感じちゃっただけ。それから、お願いがあるの。」  「どんな?」  「その服、少しだけ抱きしめていい?」  「歓迎するけど……。」  レイをそっと抱きしめるシンジ。  「碇くん、汗かいている。」  「舞台は暑かったんだ。」  「薔薇の香水の匂いがする。」  「カヲル君だ。」  シンジの後ろからカヲルが現われた。  「着替え終わったら、三人で紅茶を愉しもう。」 【カフェテラス・店内】  「シンジ君のチェロは、人間の歓喜を歌い上げる為にある。」  「物心付いた時からバッハを聞いていた。今日は上手く弾けてよかったよ。」  「碇くんの紅茶、飲んでみたい。」  「僕が口を付けたカップだけど?」  「飲んでみたいの、ねえいいでしょ?」  「うん……。」  シンジは自分のカップをレイに渡した。  「……これって、誘われているサインなのかな……。」  「願いを叶えてあげよう。僕と彼女のどちらを選ぶ?」 【砂浜】  「足の裏で砂がはじけるよ!」  はしゃぐレイ。  「転ばないように気を付けて!」  「♪Rollin’ Rollin’転ばぬように、Rollin’ Rollin’気を付けて。」  「濡れてもいいの!だって碇くんと一緒にいるんだもの。」  「綾波さんは僕がいいの?」  「海に入っていると、生きている感じがする。」  「大きな波が来るよ!」  シンジが警告を発したが、結局二人は波を被ってしまった。  「濡れちゃったね。」  「この陽射しなら、すぐ乾くよ。」  上に着ていた衣類を脱いで近くにあった物干し場に吊り下げた。  「新しい自分になったみたい。海へ来てよかった。」  下着姿のレイはベンチの上で笑った。  「ずっと、こうしていたいな……。」