超人機エヴァンゲリオン 2

第1話

転校生・同級生・下級生

 4月。
 新武蔵野市立第一中学校の新しい一年が始まっていた。
 その通学路を駆けていく、外見的にはさして特徴も無い普通の男子生徒と、赤毛に青い瞳という人目を引くような外見の女子生徒。
 「今日、転校生が来るんだって?」
 「らしいわね。ここも来年は遷都されて首都になるかもしれないって噂もあるし、どんどん人が増えていくのは当然じゃない?」
 「そうだね。転校生って男子と女子のどっちだろう?」
 「さあ、そこまでは…。」
 その道と直交する道を、緑の黒髪をポニーテールにした少女がトーストを咥えたまま走ってきていた。
 「あ〜ん、チコクチコクゥ!転校初日から遅刻じゃかなりマズイよねー!」
 そして、はっと気付いたときには目の前に見知らぬ男子生徒が…。
 「アァッ!?」
 避ける間も無く、男子生徒と少女は出会い頭に衝突した。
 「つつつつ…。」
 「あたたた…。」
 男子生徒はその場で蹲ってしまい、少女はその場で尻餅をついてしまった。
 少女の傍らでは、トーストを天がくれたご馳走とばかりに雀が嬉しそうに啄んでいる。
 「あ!」
 ハッと気付いた少女は自分が両膝を開いた、女の子としてはみっともない格好をしている事に気付き、慌てて脚を閉じてスカートを押さえた。
 男子生徒はその頃ようやく頭の痛みが引いたようで顔を上げたところだった。
 「えーと…。」
 「ごっめんね!マジで急いでたんだァ!ほんとゴメンね。」
 少女はそそくさと駆け去っていった。
 “…不思議なコだな…。”
 男子生徒は去っていくその後姿をぼんやりと見送った。傍の女子生徒があらぬ勘違いをして額に怒りの十字を浮き上がらせたとは思いもよらず…。

 「ぬワァニイ〜!!で、見たんか、その女の下着!?」
 「いや、えーと…何か、見たような見てないような…。」
 「カァ〜、朝っぱらから運のエエやっちゃなあ!」
 はっきり「見た。」とは言ってないのに己の妄想が先走りして大げさに羨ましがるジャージ服の男子生徒。
 と、いきなり彼は髪を二つのお下げに纏めた女子生徒に耳を強く引っ張られた。
 「いてててて!いきなり何すんのや、ヒカリ!」
 「トウジこそ朝っぱらから何バカな事言ってんのよ!ホラ、さっさと花瓶のお水替えてきて!週番でしょ!」
 「ホンマうるさいやっちゃなぁ。」
 「何ですってェ!?」
 「尻に敷かれるタイプだな、トウジって。」
 「碇くん、それってどういう意味?」
 「え、いやぁ、別に何でもないよ。」
 「つまり、ヒカリは良妻賢物になれる、って事じゃないの?」
 一瞬、周囲に静寂が訪れた。
 「…惣流さん、それを言うなら良妻賢母じゃないのかい?」
 銀髪に赤い瞳という、これも人目を引く外見の男子生徒が柔らかくツッコミを入れた。
 「い、いちいちうるさいわね〜、そんな細かい事はどうだっていいの!」
 「どうでもよくはないわ。貴女、未だにそんなレベルじゃ碇くんと同じ高校受験は無理のようね。」
 反論したのは蒼い髪に紅い瞳というこれまたさらに人目を引く外見の女子生徒。
 「そんなのあんたには関係ないでしょうが。」
 そんな些細な事での言い争いは終わりそうになかった。
 「いや〜平和だねぇ…。」
 丸い眼鏡を掛け、ワイシャツをだらしなくズボンの外に出している男子生徒は窓の外の青空を眺めて独り言ちた。
 と、校舎のすぐ傍にある駐車場に猛スピードで走りこんできたイタリアン・レッドのフェラーリ328GTBが急ブレーキをかけ、見事なスピン・ターンを決めて停車した。
 「おお、ミサト先生や!」
 クラスの男子生徒数名が一斉に窓に群がる。
 フェラーリから颯爽と降り立ったサングラスの女性はどうやってか自分への視線に気づくと、掛けていたサングラスを取って男子生徒達にVサインを送った。
 男子生徒達もすぐにVサインを送り返す。
 “知らぬは仏ばかりなり、ってか…。”

 朝礼の鐘が鳴り、朝のホームルームの時間となった。
 「起立!礼!着席!」
 「喜べ男子―――!今日は噂の転校生を紹介するーっ!」
 入ってきたのは緑の黒髪の少女。
 「綾野レミです。よろしく。」
 「ああーっ、君は今朝の…。」
 「ああ!あなた、あの時の…。」
 「何やシンジィ〜、もしかして隠していた幼馴染のコか?」
 「違うよ、トウジ。今朝話していた、相手のコだよ。」
 「お、そうか。で、下着は何色だったんや?」
 「何ですって!?あなた、あのドサクサに紛れて私のスカートの中覗いたのね!?」
 「ちょっと、言い掛かりはやめてよ!あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない。」
 「貴女こそ何?すぐにこのコかばっちゃって。何?デキてるワケ?二人。」
 「勿論!私とシンジはフィアンセだもの!」
 「そんなの私には関係ないわ。」
 「あ、綾波、君が出てくると話がややこしくなるから…。」
 「人気者は辛いね、シンジくん。」
 一斉にクラス中から冷やかしの声が起こった。
 「ちょっと、授業中よ!静かにしてください!」
 「はあ〜ぁら、楽しそうじゃなァい。私も興味あるわー、続けてちょーだい(はぁと)」
 今度はクラス中が笑い声に包まれた。

 「さっきはごめんなさい、勘違いしちゃったみたいで。」
 「いや、別に気にしてないよ。元はトウジの冗談だし。」
 今は昼休み。シンジはレミに校内を案内していた。
 本来ならそういう仕事はクラス委員長のヒカリの担当の筈なのだが、ヒカリが忙しい場合には雑務は副委員長に押し付けられる。つまり、シンジが副委員長を務めているのだ。
 新学期になってすぐ、クラス委員長には2年時にも担当していたヒカリが再任された。だが、中学3年生ともなれば受験に忙しくなる訳で、ヒカリは副委員長が必要だと訴えた。そしてそれはヒカリの相棒?であるトウジの任務になる…かと思いきや、普段のバカさ加減からそうはならず、推薦されたのはなんとシンジだった。
 人の上に立つ…というか、人の前に出るのはあまり得意ではないシンジだったが、彼には心強いアシスタントが三人もいる、という事でほとんど強引に副委員長に任命されてしまったのだ。
 ちなみにシンジのアシスタント三人とは、アスカ、レイ、カヲルの三人の事である。
 さて、シンジ達の通う新武蔵野市立第一中学校のレイアウトは次のようになっている。
 「校舎は南棟、西棟、北棟の三つがあって、それらと東側にある体育棟、屋外プールが中庭をぐるりと囲む形になってるんだ。」
 シンジは各階にある校内の案内図板でレミに説明した。
 「真ん中のこれは?」
 中庭の中央に建物がある。
 「それは食堂さ。まあ、とにかくぐるっと廻ってみよう。」
 シンジはレミと共に昼休みの喧騒の中を歩き出した。
 「今僕達がいる南棟は全部普通教室で、一階に1年、二階に2年、三階に3年の各クラスが入ってるんだ。で、東から西にA、B、C、Dときて、その隣が会議室。」
 「えーと、生徒会室って札が有るけど。」
 「三階の会議室は生徒会室専用になってるんだ。一階と二階は風紀委員会とか美化委員会とかが時々会議に使ってるぐらいで、専用ってほどじゃない。まあ、生徒会や各委員会の人達じゃなければ使わない部屋だね。」
 そしてそれにつながっている西棟に二人は進んだ。
 「ここがトイレ。そしてこの先は…。」
 シンジがドアを開くとそこは屋外。デッキになっていて、温かい陽射の中で女子生徒達数名がボール遊びやお喋りに興じている。
 「いいね、こういう空間って。日向ぼっことかできそう。」
 「うん。まあ、雨の日は勿論通行止めだけどね。」
 二人は屋上デッキを通過して今度は北棟に入った。
 「すぐそこは音楽室。ちょっと変わってるんだ。」
 シンジは音楽室のドアを開けた。
 「なんか随分広くない?2クラス分入りそう。それになんで階段みたいになってるの?」
 そう、その音楽室は2クラス分の長さがあり、途中から階段状になっていて前の方の黒板は半フロア下がった所に位置していた。音楽室に付き物のピアノも教室の前と後ろで二台置いてある。
 「これは階段教室というものなんだって。大学とかの講義室って音楽に限らずこういうのが多いとか。」
 「ふーん。この学校は音楽に力入れてるのかな?」
 「そうらしいよ。音楽部は合唱コンクールで何回も賞を取ってるんだって。」
 「詳しいのね。」
 「いや、実は僕も音楽部なんだ。ただ、合唱じゃなくて演奏する方だけど。」
 「楽器は何をやってるの?」
 「チェロ。」
 「ふーん。今度聞かせてくれる?」
 「うん、いいよ。」
 音楽室を出て二人は北棟を東へ進む。廊下の右手には被服室、突き当りには調理室があった。
 その手前の階段で二人は二階に降りた。降りたすぐ傍(つまり調理室の真下)は実験室になっていた。主に物理・化学の授業で使っている。
 今度は北棟を西へ進む二人。廊下の左手(つまり被服室の真下)は理科講義室。主に生物・地学の授業で使っている。廊下の突き当たり(つまり音楽室の真下)は視聴覚室。
 「スクリーンがあってスライドや映写装置やビデオデッキとかもあるから映像を見るための部屋なんだろうけど、実際に授業で使った事なんかないんだ。」
 「なんでこっちの一面は鏡張りになってるの?」
 「マジックミラーだよ。すぐ隣に小さい部屋があって向こうからはこっちの様子が見えるらしい。」
 「何か、ますます何の為にあるのか判らないね。」
 視聴覚室を出て再び西棟に入ると、すぐあるのが図書室。
 「ここは図書室。」
 昼休みの図書室は割と人で溢れていた。
 「わあ、結構人がいて人気のあるスポットなのね。この学校の生徒はみんな本が好きなの?」
 「うーん、それはよくわからないけど、生徒からのリクエストは結構通るらしいから、読みたい本が多いのかもしれない。僕はコースとか時代とかそんなのしか読まないけど。」
 「あれ?碇センパイ、今日は渚センパイと一緒じゃないんですか?」
 図書室の入り口で説明していたシンジの傍に二年生らしき女子生徒がやってきてそんな戯言をのたまった。
 「ノゾミちゃん、そういう冗談はやめてくれないかな?」
 「ふふっ、名コンビ…てゆーか、ナイス・カップルと思うんですけど?」
 こういう時にノゾミを追い払うにはこの方法しかない。
 「…後で洞木大魔神が来るかもしれないよ?」
 「わ、わかりました。何卒穏便に…。」
 ノゾミは慌てて二人の前から去っていった。
 「…洞木大魔神って?」
 「ああ、あのコは洞木ノゾミちゃん。委員長の妹だよ。」
 「…洞木さんって、確かヒカリって名前じゃなかった?」
 「そうだけど?」
 「すると、そのまた上にコダマさんってお姉さんがいたりするとか?」
 レミの何気ない冗談はしっかり正鵠を射ていたのでシンジは本当に驚いた。
 「…正解。凄い、よくわかったね。」
 「うーん、まあ、ノゾミの上がヒカリだったら、その上にコダマが…新幹線つながりね。」
 ちなみに洞木三姉妹の父の名はツバサ、死んだ母の名はコマチである。
 図書室の隣には放送室があって昼休みには放送委員が生徒のリクエストに応えて音楽を流したりしていた。
 「南棟は特に説明する事はもう無いから、このまま下に降りよう。」
 西棟の一階は昇降口と美術室。美術室に入ると、壁には美術部の作品と思われる見事な絵が掲示されていた。
 「結構レベル高いのね。」
 「毎年一度は日展を見に行ってるし、顧問の先生も日展に毎年出展するそうだからね。」
 美術部を後にした二人はまた北棟にやってきた。
 「ここは技術室。」
 「工作とかするところね。私も去年、前の学校で小さな本棚作ったわ。」
 「僕は去年、調理室で白身魚のムニエルとオムレツ作ったよ。」
 中学生は本来は男子は技術、女子は家庭科を専攻するのだが、去年から教育方針が少し変わって、二年時に男子が家庭科、女子が技術を学ぶのもOKとなったのだ。
 「で、この奥は特に行く必要も無いと思う。」
 「何で?」
 「一番奥が職員室、その手前に校長室、その次が生活指導室、そしてすぐそこが保健室。」
 「成る程。いちいち見に行く必要も無いわけね。」
 「うん。じゃあ、後はこっちかな。」
 二人は北棟の手前にある階段から中庭に降りた。
 「ここ、一応外でしょ?上履きで歩いていいの?」
 「この石畳の上なら上履きでもOKなんだ。」
 「雨の日も?」
 「うん。靴底はマットで拭けば大丈夫だし。拭かずに上がると結局掃除の時に苦労するからね。」
 そして、二人は中庭中央の食堂にやってきた。昼休みも終わり近い時間であるのに、食堂の中はごった返していた。
 「凄い混雑ね。」
 「キャパシティが足りてないんだ。その上、食事が済んでもそのまま座ってダベっている生徒が多いから、順番が来ていざ食べようと思っても開いてる席を探すのが大変でなかなか混雑が解消されないんだ。」
 「モラルが無い人が多いって事か。困ったものね。」
 「だから、僕は専ら弁当派なんだ。利用するのはジュースの自動販売機ぐらいなものさ。」
 シンジはそう言ってジュースの販売機に小銭を入れ、紙コップのジュースを買った。
 「何か飲む?一杯だけなら奢ってあげられるけど。」
 「嬉しいけど、遠慮するわ。あの気の強いフィアンセの人が怖いから…というのは嘘だけど。」
 レミは軽い冗談を言って微笑んだ。
 「あ、やっぱりここにいたのね。」
 噂をすれば何とやら、アスカが食堂に現われた。
 「何、どうしたの?アスカ。」
 「あのねぇシンジ。いつまで校内案内してるのよ。もう昼休み終りよ?」
 と、アスカが言ったその時、昼休み終了の鐘が鳴った。
 「ああ、フィアンセを心配して探しに来た訳ね。」
 「い、いや、別に心配という程じゃ…。」
 「案内してくれてありがとう、碇くん。それじゃあ、教室に戻りましょう。あと10分だっけ?」
 シンジ達三人は3年A組に戻り始めた。
 「で、全部案内できたの?」
 「東だけ残った。」
 「好都合じゃない。放課後にやれば?」
 「そうだね。」
 「えーと、何が好都合なの?」
 「放課後にね、部活動紹介が体育館であるのよ。だからその時に合わせてやればいいって事。」
 「部活動か…私も何かやってみようかな?どんなのがあるの?」
 「それは放課後までのお楽しみという事で。」
 「ちなみに綾野さんは前の学校では何をしていたの?」
 「私?新聞部。」
 思わずシンジとアスカは顔を見合わせた。
 「?」
 レミが不思議そうな顔をするのも無理は無い。
 「あ、そう…新聞部か…。」
 「…何?その間は?」
 「いえ、何でもないわ。気にしないで。」
 「ま、いいけど。それで、新聞部ってあるの?」
 「残念ながら、新聞部は無いなぁ。」
 「そうなの。うーん、どうしようかな…いっそ、全部の部活動をやってみようかな?」
 などと、どこぞの何とか春日みたいな事を言い出すレミ。
 「入部してくれたらテニス部は諸手をあげて歓迎するわ。」
 「部活動紹介前の勧誘はルール違反だよ、アスカ。」
 「あ、そうだった。」
 「あらら。じゃあ、何も聞かなかった事にするわ。」
 「有難う。話がわかるわね。」
 「この貸しは大きいわよ。」
 「えっ?」
 「というのは冗談だけど。」



EXTRA HUMANOIDELIC MACHINARY EVANGELION2

CHILDREN’S GRAFFITI

EPISODE:1 A TRANSFER
          A CLASSMATE
          A LOWERGRADE



 放課後、一年生は体育館に集められた。
 その前に体育館とプールをシンジに案内して貰ったレミは、新入生とは離れて体育館の壁際に陣取って部活動紹介が始まるのを待っていた。
 既にステージ脇のカーテンの内側には、部活動紹介の参加者が座って待機している。運動系の部員はほとんどがユニフォーム姿だ。
 この部活動紹介でどれだけアピールできるかが重要なので、誰もが気合の入った顔をしている。というのも、やはり人数が多い部活動ほど、予算を多く取れるからである。
 「やっぱり、新入生の前でビシっと言ってやらんとな。」
 トウジは意気込んでいるようだが。
 “大丈夫かな、トウジ…。”
 問題発言をするか、大ボケをかますか…シンジの心配が杞憂で済めばいいのだが。

 時間になると、一人の三年の男子生徒がステージ上に現われてマイクに向かった。
 「一年生の皆さん、生徒会長の金子シゲキです。これから部活動紹介を始めますが、その前に私から一言。我が校には野球、サッカー、バスケ、バレー、テニス、陸上、水泳、体操の八つの運動部、美術、文芸、手芸、音楽、料理、映像、化学、天文の八つの文化部若しくは同好会があります。強い運動部があればまだまだな運動部もあり、活動が活発な文化部もあれば今一つな同好会もあります。どこの部に入るかはこれからの部活動紹介を聞いた後で決めてください。一人で決めるもよし、仲のいい友人同士で一緒に入るのもよし。また、入った後でやっぱり自分と合わないと感じたらさっさとやめて別の部に入るのもよし、都合が付けば掛け持ちだって構いません。」
 一年生達は成る程と頷きながら聞いている。
 「それと、部活動は学校からの強制ではありません。これは去年、学校側と交渉して認めさせています。だから、帰宅部も有りなので安心してください。」
 一年生の間に感嘆の声が、続いて笑い声が広がった。
 「ただ一つ、お願いがあります。一つの趣味について・目的に向かって上級生・同級生・下級生と一緒に活動する事は人間形成に大いに役立つと思います。だから、やるからには一生懸命やってください。いい加減な気持ちで中途半端な部活動は何の得にもなりません。時間の無駄です。さっさと帰宅部に入ってください。」
 また、笑い声が広がった。
 「あー、今のは笑う所じゃなかったんですが…それじゃ、僕の挨拶はこれ位にしておきます。最後に生徒会からですが…。」
 すると、講壇脇から数名の男子・女子生徒が現われて生徒会長の横に並んだ。
 「縁の下の力持ち、生徒会は人材を募集しています。」
 「みんなの為に何かしてやろうじゃないか、という気概を持つ方は…。」
 「私達と一緒に活動しましょう。」
 「それから、学校生活で何かわからない事、悩み事があれば…。」
 「生徒会はいつでも相談に乗ります。」
 「是非、生徒会室に来てください。」
 「以上、よろしくお願いします。」
 という、生徒会長の挨拶と生徒会の人材募集のアピールが終わって、ようやく部活動紹介が始まった。
 [野球部]
 毎週水曜日と土曜日の二日間、グラウンドで練習している。水曜日は午後四時から六時まで、土曜日は午後一時から六時まで。土曜日はほぼ毎回紅白戦をしているので、初心者でも週一回はゲームに参加できる。これは顧問である加持の‘誰もが楽しく’というモットーによるものだが、そういうやり方のせいか、対外試合ではあまり芳しい成績はあげていない。
 ユニフォームは白を基調にして、帽子の鍔・アンダーシャツ・ストッキングなどのアクセントは紺という地味なもの。ただ、髪の毛は丸刈りなどという時代錯誤な決まりがないのがせめてもの救いか。女子マネージャー募集中。
 [サッカー部]
 毎週月曜日と木曜日の二日間、グラウンドで練習している。どちらも午後四時から六時まで。去年の秋に顧問が新任の教師と交代してから強くなり、地区対抗戦で全勝して初優勝して、今最も勢いがある。ちなみのその新任の教師とは日向で、得意のデータ分析を生かして相手チームの弱点を研究したおかげである。
 ユニフォームは毎年モデルチェンジしてるらしく、今年はスカイブルーを基調にパンツは白、ストッキングは赤というフランス国旗みたいな配色。GKは黒を基調にパンツは黄色、ストッキングは赤というドイツ国旗みたいな配色。こちらも女子マネージャー募集中。
 [バスケ部]
 毎週水曜日と土曜日の二日間、体育館で練習している。水曜日は午後四時から六時まで、土曜日は午後一時から三時まで。第一中で最も輝かしい成績を誇る運動部で、市内大会で優勝したことは数知れず。ただ、都大会になるとベスト8の壁を越えられない状態が続いている。
 「途中でやめるような根性無しは来んでエエ!三年間、頑張れるヤツだけ来てくれや。」
 バスケ部のキャプテンであるトウジの最後の一声を聞いて、一年生の間にざわめきが広がった。
 “トウジのやつ…そんな言い方してどうするんだよ…一年生のほとんどが引いてるじゃないか…。”
 シンジはステージの脇で思わずこめかみを押さえた。
 ユニフォームは黄色を基調にしている。これまた女子マネージャー募集中。
 [陸上部]
 毎週火曜日と金曜日の二日間、グラウンドで練習している。どちらも午後四時から六時まで。運動部ではこことテニス部のみ、男子・女子どちらも活動している。競技内容は短距離、中距離、ハードル、走り幅跳び、走り高跳び。投擲系は危険なのでやっていない。現在の成績は芳しいものはないが、短距離とハードルについては新武蔵野市の中学記録は実はOB・OGによるもの。
 ユニフォームはなく、体育の授業時の体操服の上に校名入りの赤のビブスを着用している。マネージャーの募集はない。
 [テニス部]
 毎週月曜日と木曜日の二日間、グラウンド脇の専用テニスコートで練習している。どちらも午後四時から六時まで。陸上部と同様、ここも男子・女子どちらも活動している。成績については、男子は見るべきものは無いが、女子はバスケ部同様に優秀な成績を毎年修めている。
 「私達テニス部が他の部と違っている事は、何と言ってもウェアが個人の自由で選べる事です。」
 壇上のテニス部副キャプテンであるアスカが紹介すると、講壇の脇へまるでファッションショーかのように数名の男子生徒・女子生徒がペアで歩いてきた。男子はほとんどオーソドックスに白を基調にしたものが多いが、女子はピンクやレモンイエローやライトブルーとカラフルで、おまけにワンピースでやるもよし、ツーピースでやるもよし。ちなみにアスカは練習用のウェアはピンクだが、試合用のウェアは勿論真紅である。
 「新入生の皆さん、テニス部でエースを狙いましょう。」
 [バレー部]
 毎週火曜日と金曜日の二日間、体育館で練習している。どちらも午後四時から六時まで。活動しているのは女子のみ。ここも去年までは出ると負けの弱小チームだったが、去年の秋に顧問が新任の教師と交代すると、練習試合で連戦連勝と好調をキープしている。その新任の教師とはミサトだった。チームがどうして強くなったのか…それはちゃっかり日向の力を借りて自分のチームを分析し、各部員個々人の長所を伸ばしたおかげである。
 ユニフォームは何処かの女子高を真似たかのような鮮やかな緑。そして、ステージ上で勝利をつかみ取った得意技が披露された。その得意技とは回転レシーブとX攻撃。どうやらミサトが手本にしたのはおそらく昔のスポ根ドラマと思われる。
 [水泳部]
 毎週火曜日と金曜日の二日間、体育館傍の屋外プールで練習している。どちらも午後四時から六時まで。活動しているのは女子のみ。ここも去年まではたいした成績は残していなかったが、秋に転校してきた一人の女子生徒が100m自由形で中学生の全日本記録を樹立した事により、一気に校外の着目を浴びる事になった。
 「紹介しましょう、我が水泳部の人魚姫、綾波レイさんです。」
 ステージ脇から歩いて現われたレイは純白のハイレグの競泳水着に身を包んでいた。
 新入生(主に男子生徒)の間に感嘆の声が広がる。それは水着のせいか、その特徴的な外見のせいか…。
 「しまった…私もテニスウェアを着ておけばよかった…。」
 「くっそー、カメラ用意しとくんだった!」
 レイの予想外の姿を見て、アスカは注目度の違いに、ケンスケはシャッター・チャンスを逃した事に悔しがる。
 「あれは反則だよ…。」
 シンジも苦笑を抑えきれない。
 [体操部]
 毎週月曜日と木曜日の二日間、体育館で練習している。どちらも午後四時から六時まで。活動しているのは女子のみ。一昨年発足したばかりで、まだこれといった成績は上げていない。それ故、運動系の部では部員が最も少ない。それでもピンクのレオタード姿の部員が何人かタンブリングしてみせると、新入生の間に感嘆の声が広がった。
 以上は運動系の部活動だったが、以降は文化系の部活動・同好会なので、ステージにはスクリーンが用意され、活動内容の紹介はスクリーンの映像によって行われる事になっていた。
 [美術部]
 毎週月曜日と木曜日の二日間、美術室で作品製作に取り組んでいる。どちらも午後四時から六時まで。顧問の先生は毎年日展に出展している実力者。それ故か、新武蔵野市の美術コンクールでは毎年入選作が出ている。年に一回ある日展を見に行くのが部員の一番の楽しみだとか。
 スクリーンには部員の描いた入賞作品が映し出されていくが、新入生の反応は今一つ。
 [文芸部]
 毎週火曜日と金曜日の二日間、図書室で作品執筆に取り組んでいる。どちらも午後四時から五時まで。活動の場が図書室であるせいか、部員のほとんどは図書委員を務めている。それ故、新規購入される図書は部員の希望が優先される…かどうかは定かではない。作品の発表は文化祭か新武蔵野市の作文コンクール等の他、個人で少女小説誌に投稿したりしている…が、見るべき実績は無い。
 スクリーンには図書室での部活動の様子が映し出されていく(中には、しっかりカメラ目線のノゾミもいた)が、これまた新入生の反応は今一つ。
 [音楽部]
 毎週水曜日と土曜日の二日間、音楽室で活動している。どちらも午後四時から六時まで。水曜日は演奏の部、土曜日は合唱の部だ。
 ようやくシンジの出番が来た。
 「音楽部は大きく分けて楽器を演奏する部員と合唱する部員がいます。割合としてはほぼ同じです。本当はこの場で演奏と合唱を披露したかったんですが、時間が無いという事でスクリーンの映像でカンベンして下さい。」
 スクリーンには音楽部が去年の文化祭で演奏・合唱している映像が映し出されている。ただし、シンジの説明が聞こえるように音を絞っているのが何とも勿体無い。
 合唱の部はシンジがレミに話したとおり、この学校で一番熱心な指導がされており、都のコンクールで金賞を取って全国大会に出場、入賞したこともあるらしい。それに対し、演奏の部は新武蔵野市のコンクールで入賞するので精一杯だった。だが、シンジは今年はバンドマスターという立場なので、より優秀な成績を残そうと決意していた。
 「音楽は心を癒してくれるいいものです。人類が作った文化の極みだと思います。新入生の皆さん、音楽部に入って学園生活をエンジョイしましょう。」
 「音楽は心を癒してくれる…嬉しいね、シンジくんが僕の言葉を使ってくれるなんて。」
 カヲルはシンジの言葉に少し感動しているが、エンジョイなどという古臭い言葉はおそらく演奏担当顧問の青葉が考えたと思われる。
 [手芸部]
 毎週月曜日のみ、午後四時から五時まで被服室で作品制作に取り組んでいる。といっても作品はほとんど個人の趣味によるもので、衣装だったりぬいぐるみだったり小物だったりと様々だ。
 スクリーンには去年の体育祭の各部対抗仮装リレーの様子が映し出されている。どこかで見たようなアニメ・特撮・漫画・ゲームのキャラに扮した生徒達が映っていて、新入生の間に苦笑・失笑混じりのざわめきが広がったが、ようするにそれらの衣装は手芸部が作ったらしい。ちなみに手芸部の顧問はマヤである。
 [料理研究会]
 毎週火曜日のみ、午後四時から六時まで調理室で活動している。
 今度はヒカリの出番だ。
 「私達は料理が好きでみんなで集まって楽しくいろんな料理を作っています。」
 オーソドックスな料理を作ってうまくいく時もあれば、大胆な創作料理にチャレンジしたものの味付けに失敗する事もあるし、自分の為に料理する者もいれば誰かの為に(誰とは言わないが)料理する者もいる。
 スクリーンにはおいしそうな料理の映像が映し出されていく。その中には好評で生徒用食堂のメニューにもなったものがあるようだ。
 「新入生の皆さんの中で、自分で料理を作ってみたい、と思う人がいたら、ぜひ料理研究会に入って下さい。待ってます。」
 [映像研究会]
 毎週水曜日のみ、午後四時から六時まで主に視聴覚室で活動している。
 勿論ここはケンスケの出番だ。
 「我が映像研究会は自主映画制作を活動の基本としています。しかし!百聞は一見に如かず!実際の活動状況を纏めたのでスクリーンに注目下さい。」
 嬉々として?演説をするかと思いきや、ケンスケはこの方がより強くアピールできると考えたらしい。活動内容を映像で紹介する…正に映像研究会にはピッタリだ。
 スクリーンでは企画会議から始まって脚本執筆・絵コンテ製作・撮影(時には校外に出かける事も)等々の様子がナレーション入りのストーリー仕立てで映し出されている。どうやらこの紹介だけの為に一本撮ったようだ。
 「如何だったでしょうか?音楽は聴覚にしか訴えるものは有りませんが、映像は聴覚だけでなく視覚にも訴えるものがあります。映像こそ、音楽より上に位置する、人類の究極の文化だと思います。新入生の皆さん、我々と一緒に映像クリエイターを目指しましょう!」
 なんと、新入生の間から拍手が沸き起こった。
 「やられたなぁ…映像で部活動紹介するんやったら、モロに映研が有利やんけ。」
 「ずるいよ、紹介の順番が音楽部の後なんて。」
 「フッフッフ、これぞ作戦勝ちさ。」
 ステージ脇に引っ込んだケンスケは悔しがるトウジやシンジに対してVサインを出した。
 [化学実験同好会]
 毎週木曜日のみ、午後四時から六時まで実験室で活動している。名前のとおり化学実験好きの生徒が集まって、授業では行わなかった実験を実践している。だが、悪い言い方をすれば、実験器具や装置等の整理整頓あるいは実験室の清掃等で扱き使われているようだ。顧問がリツコではさもありなん、といったところか。
 スクリーンでは文化祭で毎回披露される炎色反応の様子が映し出されている。炎の色と言えば普通は赤だが、物質によって黄色や青や緑や紫の炎が出たりして、新入生達の間から驚きの声が上がった。
 [天文観察同好会]
 毎週金曜日と土曜日の二日間、午後四時から六時まで主に理科講義室で活動している。といっても、そこを使うのは野外観察会についての調整会議や実際に撮影してきた写真の現像が目的である。やはり主な活動と言えば屋外での天体観察で、それはだいたい土曜日の夜に行われている。
 スクリーンには実際に撮影した天体写真が映し出されている…が、新入生(ただし、女子生徒)は誰一人そんなものは見ていない。
 「星を見るのが好きな人は、天文観察同好会に入ることをお薦めするよ。」
 ステージ脇ではヒカリが新入生の反応を見て、溜息をついていた。
 「…渚くんも罪作りな人ね。」
 「どうして?」
 「ほら、見てよ、あの新入生のそれも女子の反応を。みんなスクリーンじゃなくて渚くんを見てるわ。」
 「…確かに。」
 「彼が碇くんにしか興味が無いってわかったら、みんながっかりすると思うの。」
 「そうね…納得。」
 「…綾波さん、納得するだけじゃなくて彼を何とかしてくれないかしら?一緒に住んでるんだから。」
 「無理よ。あれは死んでも治らないわ。」

 という事で、新入生への部活動紹介はお開きとなった。
 「どう?綾野さん。何かやりたい事は見つかったかな?」
 シンジは下で見ていたレミに訊いてみた。
 「そうね…ま、やっぱり実際に自分の目で確かめてからにするわ。誰かが百聞は一見に如かず、って言ってたけど、見るだけよりも体験してみた方がより判るからね。」
 「………そ、そう…もしかして、本当に全部?野球とサッカーとバスケはマネージャーだけだよ?」
 「でも、対外試合には出れないだけで、練習ぐらいはOKなんじゃない?野球部なんか土曜日はいつも紅白戦してるって言ってたし…。」
 「でも、男子と一緒の練習って大丈夫?」
 「御安心を。こう見えても、体力には自信があるのよ。よし、じゃあ早速その先生の所にレッツ・ゴー!」
 今時レッツ・ゴーなんて言葉も古臭いような気がしたが、シンジはレミを加持の元へ連れて行くことにした。
 「まあ、加持先生ならOKしてくれると思うけど…。」
 と、シンジは新入生の中に見知った顔を見つけて立ち止まった。
 すると、その新入生も視線に気づいたのか、シンジに顔を向けた。
 それは、トウジの妹のナツキだった。
 「こんにちは、シンジさん。」
 「やあ、ナツキちゃん。気に入った部活は見つかったかな?」
 「はい。手芸部に入るつもりです。」
 「はは、やっぱりね。」
 シンジが初めて第三新東京市に来たその日、ナツキは瓦礫の下敷きになって大怪我を負った。が、長い入院生活の後のリハビリを経て今は全力疾走できるまで回復していた。
 そんなナツキが入院時に楽しみにしていたのがぬいぐるみを造ることだったのだ。
 「ところで、そちらの方は?」
 「ああ、こちらは今日転入してきた綾野レミさん。」
 「そうですか。私、一年A組の鈴原ナツキっていいます。」
 「よろしく。…あれ、鈴原ってもしかして…。」
 「そう、トウジの妹さん。」
 「ふーん。お兄さんとは性格は正反対みたいね。」
 「それは確かに。」
 どういった意味で正反対なのか…それはトウジの名誉の為に言わないでおこう。
 「あの、お兄ちゃんが何か…また馬鹿な事したんですか?」
 「いえいえ、何でもないわ。それじゃあね。」
 そして、レミはその日のうちにとりあえず全ての部・同好会に体験入部・入会する事を決めてしまったのだった。



超人機エヴァンゲリオン2 中学生日記

第1話「転校生・同級生・下級生」

完
あとがき