超人機エヴァンゲリオン

第2部第7話ウラバナシ

 (場面はレミがシンジの窮地を救う直前)
  “ぐふふ、ここまで計画どおりになるとは思わなかったわ。”
 始まりは、仮装してのクラブ対抗二人三脚に音楽部代表としてシンジが出場するという情報をキャッチした事だった。
 仮装の衣装については毎年手芸部が全面的に協力する事になっている。
 ねえ、伊吹センセ。シンジくんの仮装のネタだけど、意表をついて女装ってのはどうかしら?
 女装ですか…確かに意表をつくという事では○ですけど…。
 何かマズイ?
 いえ、ほら、シンジくんってお母さん似だから中性的な顔立ちでしょう?あまりインパクトが無い様な気がするんですよね。
 そこが重要なのよ。中性的な顔立ちだったら、女装してもあまり違和感が無い。これが鈴原くんだったら気持ち悪い事この上ないわ。
 それは確かに。
 でしょ。それにただの仮装ならまだしも女装しているなんてバレたら、ヘタしたらイジメの対象になりかねないし、本人も嫌がるわ。でも、その点、シンジくんならそう簡単にはバレないし、大丈夫と思うのよ。
 イジメの対象になりかねないのなら女装させなければいいのであるが、ミサトは微妙に論点をずらしながら話を進めていった。
 でも、シンジくん、納得するでしょうか?
 大丈夫。人の言う事にはおとなしく従う、それがあのコの処世術なのよ。
 いや、確かにそれは以前にセンパイから聞いた事はありますが…でも、今はもうかなりしっかりしてますよ?
 問題無い。こちらには切り札がある。
 あの、いきなりそのモノマネはやめて下さい。それで、その切り札って何ですか?
 鈴原ナツキちゃん。鈴原君の妹だけど、シンジくんも自分の妹みたいに思ってるわ。あのコから話が出れば、シンジくんも乗り気になるわ。
 ああ、ナツキちゃんですか。あのコは凄いですよ。何をやらせても早いし上手いし、今後の手芸部を引っ張っていく人材です。
 どうやらマヤもナツキには目をかけていたようで、彼女の話が出た途端、目を輝かせながら反応した。
 そ、そう…よかったわね…。まあ、それで、もし、あのコからシンジくんの仮装について相談されるような事があったら…。
 わかりました、女装の事を話してみます。
 論点がズレそうになったのをミサトは無理矢理軌道修正し、なんだかんだで知らないうちにマヤはミサトの企みに引きずり込まれていた。
 そして、ミサトの睨んだとおりとなった。コミケの時のコスプレの事もあり、シンジは仮装の件で手芸部、それも一番信頼の置けるナツキに話を持ちかけた。どんな格好をすればいいのかわからない、というシンジの相談について何と返事をすればわからないナツキはマヤに相談し、ミサトの思惑どおりに事は進んで、ナツキはマヤにアドバイスされたとおりにシンジに女装を提案した。ナツキと話し合った結果、シンジはユリアン女学園の制服を着てクラブ対抗二人三脚に出場する事になったのだ。
 “根府川センセも上手く引っ掛かってくれたわ。”
 クラブ対抗二人三脚のスターターを根府川が勤めると知ったミサトは早速ある提案をした。
 スタートの時に笑いを取ってみませんか?
 はて…笑いというのはどこかから取れるものでしたか?
 いえ、笑いを取るとはそういう、どこかに落ちている物を拾うというような事ではなくて…つまり、面白い事をしてみんなを楽しく笑わせるという事ですわ。
 ほう、面白い事をするのですか…それはなかなか面白そうですね。
 “このジイさま、日本語わかって喋ってんのかいな?”
 り…理解してくれて嬉しいですわ。それで、どうすればみんなが笑ってくれるのか、という事ですが…。
 そこで、ミサトは例の‘どん、と言ったらスタート’を提案したのだ。
 勿論、根府川はそれで観客が笑ってくれると思い込んでいたようだが、ミサトの真意は出場者がずっこけてくれれば…というものだった。
 “そして狙いどおり、陸上部代表の水沢さんは足を捻ってしまった。水沢さんには悪いけど、リツコにはネコネタで匂い袋を嗅がせて、ムカデ競争出場をストップさせて貰ったわ…。”
 恐るべし、ミサトの企み…と言いたいところだが、実際は運良く事が進んだだけである。
 後はリツコから連絡を貰って女子生徒達を全員保健室に集め、打開策としてシンジ女装案をブチあげた。ここで最大の壁として立ちはだかったのは勿論アスカ。自分のフィアンセに女装させるなんて冗談じゃない、と鼻息荒く憤慨したのだ。だが、アスカの負けん気の強さを知っているミサトはここでもそれを利用し、赤チームの勝利の為にと渋々承諾させたのである。レイについては論外であった。何故論外なのかは敢えて省略する。
 それはともかく、シンジの窮地は続いていた。


(モドル)