超人機エヴァンゲリオン 2

第8話

大騒ぎの文化祭

 11月。
 第一中は今月の第二週目の金・土・日曜日に文化祭が行われる。
 初日の金曜日は午前中が各学年でのクラス対抗合唱コンクール、二日目の土曜日は午前中が3年生による演劇コンクールというのは明確に決まっており、午後と三日目は各クラスや各クラブの催し物を自由に観賞できる事になっていた。
 シンジ達の3Aの演目は、合唱コンクールにおいては課題曲がグローリア、自由曲がエトピリカ、演劇コンクールは白雪姫である。



 文化祭まであと一週間。今日は土曜日だというのに3Aの生徒達は音楽室に集合していた。というのも、合唱の完成度がもう一つといった感じなので、休日を返上して練習する事になったのだ。
 ♪いざや、栄えあれ、萬世までも
  尊き神の御屋に額ずき、祈りを捧ぐ
 シンジがタクトを振り、レミによるピアノ伴奏をバックにコーラスを重ねていくクラスメート達。だが、中には不真面目な者もいるようだ。
 ♪いざや、栄えあれ、よろず家までも
  尊き神の御屋に糠漬け、祈りを捧ぐ
 などと歌詞でふざけるトウジとケンスケにシンジとカヲルは呆れ返った。
 「二人とも、もう少し真摯に取り組んでくれないかな…。」
 「呆れてものも言えないねぇ…。」
 「って、言ってるやないか。」
 「次は自由曲だな。エ…エ…エート、なんだったけ?」
 「エロトピカやろ。」
 「エトピリカ!ったく、このスケベどもが!」
 「なぜ、その言葉がエッチなの?」
 アスカのツッコミにレイが質問モードに突入。
 「エロトピカのエロとはエロスの事よ。ちなみにエロトピカというのは…。」
 レミがそれにノって解説を開始。
 だが、そこにとうとうヒカリ大魔神が出現した。
 「年に一度ぐらい真面目にやりなさい!!」

 「本番が心配ね。あの二人、ちゃんと真面目に歌うかしら?普段が普段だけに心配だわ。」
 帰宅する道すがら、アスカはシンジに例の二人についての不安を訴えた。
 「トウジとケンスケ?大丈夫だよ、クラス対抗コンクールって事はちゃんとわかってるし、勝ち目が無いという訳でもなければ勝負事には積極的になるからね。修学旅行のオリエンテーリングのルート研究は熱心だっただろ?」
 「ああ、そう言えばそうね。体育祭の時もしっかりやってたし、意外とアンデスより産むが如しって事かもね。」
 「それを言うなら‘案ずるより産むが易し’だよ…。」
 「あぅ…。」
 人の事より自分の事を心配した方がいいアスカであった。


 そして文化祭初日。
 合唱コンクールをノーミスで終えたシンジ達は、午後からは1・2年のクラスの催し物を見て廻る事にした。
 「最初はどこに行くの?」
 「1−Dでやってるベクトル・クイズ。」
 ベクトルというのは所謂「→」の事で、つまり向きと大きさを持つ単位みたいなものだ。
 「はい、ベクトル・クイズの時間がやって参りました。司会の押高シノブです、どうぞよろしく。」
 出場者はシンジ他三人。ゲームの内容は早押しクイズで、先にベクトルを5つまで延ばした者もしくは20問出題された段階で最もベクトルが伸びている者がWinnerとなる。ただし、クイズに誤答するとベクトルが一つ減らされるので注意が必要だ。
 「見事Winnerとなった方には賞品を進呈しますので頑張って下さい。それではベクトル・クイズ、始めます。」
 見ていた生徒達の中から拍手が起きた。おそらく1−Dの生徒によるサクラである。
 「では早速一問目…じゃじゃん!脚線美とはズバリ何処の美しさの事でしょうか?」
 一斉に回答ボタンを押すシンジ達回答者。だが、シンジは2着。
 「では、1番の方、回答をどうぞ。」
 「顔!」
 「ブブーッ!不正解!では、回答権は次に移って4番の方、回答をどうぞ。」
 「脚(あし)です。」
 「ピンポンピンポーン!お見事、正解です。4番の方、一歩リードです。」
 黒板に書かれたシンジを示すCの文字の横に[→]が一個書き込まれた。
 「それでは続いて二問目…じゃじゃん!顔を洗う時に使うのはどんな石鹸でしょうか?」
 また一斉に回答ボタンを押すシンジ達回答者。だが、またシンジは2着。
 「では、2番の方、回答をどうぞ。」
 「花王石鹸!」
 「ブブーッ!不正解!では、回答権は次に移ってまた4番の方、回答をどうぞ。」
 「洗顔石鹸です。」
 「ピンポンピンポーン!お見事、正解です。4番の方、また一歩リードです。」
 黒板に書かれたシンジを示すCの文字の横に[→]がまた一個書き込まれた。
 「どんどん行きます、三問目…じゃじゃん!心臓と腎臓、毛が生えているのはどっち?」
 またまた一斉に回答ボタンを押すシンジ達回答者。だが、またまたシンジは2着。
 その時、見ていたアスカは…。
 “内臓に毛が生えているわけ無いじゃないの。”
 「では、3番の方、回答をどうぞ。」
 「毛は生えていません!」
 「ブブーッ!不正解!では、回答権は次に移ってまたまた4番の方、回答をどうぞ。」
 「心臓です。」
 「ピンポンピンポーン!お見事、正解です。4番の方、またまた一歩リードです。」
 “ウソッ!?心臓に毛が生えてるってどういう事?”
 やはりアスカには理解不能らしかった。
 それはともかく、そんな調子でシンジは見事Winnerとなり、賞品としてスナック菓子をGETしたのだった。

 「おめでとう、碇くん。」
 「さすが、シンジくん。君の聡明さはノーベル賞級だね。」
 「他の三人のレベルが低過ぎただけじゃないの!それより…ねえシンジ、心臓に毛が生えてるって本当なの?」
 「いつも碇くんに頼ってばかりいないで自分で調べたらどうなの?」
 「う…るっさいわね、そういうあんたは知ってるの?」
 「碇くん、次はどこに行くの?」
 「誤魔化すな〜っ!」
 次にシンジが足を向けたのは1−Aのオバケ屋敷だった。
 ““チャンス!!””
 アスカとレイは何故かお互い見えないように小さく拳を握った。
 “やれやれ…下心丸見えだよ、二人とも…。”
 二人の意図に気づいたカヲルは心の中で溜息をついた。
 さて、そんな四人がやってきたオバケ屋敷だが、窓を暗幕で覆い、ダンボール紙でルートを作り、ところどころでビックリドッキリ【メカ発進】の仕掛けが待ち構えていた。何もいないかと思ったら、ドラキュラが出てきたり狼男が出てきたりミイラ男が出てきたりフランケンの怪物が出てきたり半魚人が出てきたり…ただ、惜しむらくは道が狭く、一人でしか歩けない事だった。つまり、オバケ屋敷でお決まりの怯える彼女が彼氏にしがみつく、という行為ができなかったのだ。
 オバケ屋敷を出てきたアスカとレイはぶすっとした表情だった。
 「どうしたの、二人とも?そんなに怖かった?」
 「「なんでもないわ。」」「「んっ!?」」
 二人はぶすっとした表情のまま、同時に答え、直後お互いに見合った。
 「気にしないでいいよ、シンジくん。どうやら当てが外れただけらしいからね。」
 「「あんたは黙って…。」」
 図星を刺されたアスカとレイがまたダブルパンチを繰り出そうとした時、シンジが間に入った。
 「まあまあ、二人ともそれぐらいで…それじゃあさ、楽しそうなゲームでもやってみない?」
 「「どんなゲーム?」」

 シンジがアスカ、レイ、カヲルを連れてやってきたのは2−Cの教室。遊戯の研究と題して新しいゲームを考案していた。その名も‘ボウリング・ヤード’…って、何の事は無い、キューでボールを撞く代わりにボウリングでビリヤードを行うと言う事だった。だが、どうやら物珍しさのおかげで結構盛況を呈しているようで、プレイするには順番待ちが必要で、しかもできるだけ1vs1ではなくチームvsチームでするように要望があった。
 「「「「じゃんけん、ポン!!!!」」」」
 シンジはグー、カヲルはチョキ、アスカとレイがパー、と言う事でシンジ&カヲルvsアスカ&レイというチーム分けになった。
 「悪いねぇ、二人とも。これも天が与えた運命(さだめ)と思って諦め給え。」
 「納得できない…何でよりによってセカンドと同じチームを組まなきゃいけないの?」
 「それはこっちのセリフよ!あんたは渚と組めばいいのよ、同じ赤い目なんだし!」
 ニッコリのカヲルに対し、アスカとレイはぶーたれた。
 「二人とも、真剣勝負だからね。(“これはいい機会かも…。”)」
 あちらを立てればこちらが立たず…‘二兎を追うものは一兎をも得ず’という訳ではないが、そんな感じでアスカ、レイ及びカヲルと一緒に同道していたシンジとしてはいろんな意味で都合の良いチーム分けとなった。
 サイズの都合上、的球の数は@ABCDEの6個。番号順に撞かなければいけないが、的球のぶつかり具合によってはバラバラの順番でポケットに落ちる事もあり、その順番を問わずEを落とした方が勝ちだ。
 「それっ!」
 シンジのブレイク・ショットは残念ながらどれも落とせなかった。何せボウリングの球だからワックスを塗ったレーンと違ってラシャの上ではなかなか転がらない。
 ルールの都合上、ミスしようがしまいが1ショット毎にプレーヤーは交代となる。
 「とりゃっ!」
 アスカのショットは手球がBCをギリギリで擦り抜けたものの@より先にEにぶつかってしまい、ファウルとなった。
 「はっ!」
 カヲルはアスカのミスに乗じ、手球を自由なポイントにおいてショット!@DとぶつかってDを落とした。
 「えいっ!」
 次のレイのショットは@Aと当たったものの、パワー不足でAを落とすことはできなかった。だが、七転び八起き…ではなくて、転んでもただでは起きないというか、手球の位置は@を落とせそうに無いところになっていた。
 「こっちならいいかも。」
 シンジは冷静に考えて@にバウンドさせてCに手球をぶつけてCを落とした。
 「チャァ〜ンス!」
 先ほどはファウルだったアスカだが、手球の位置から今度は大丈夫そうだ。見事@EBとぶつけてポケット近くのBを落とすことができた。
 「うん…もしかしたらいけるかな?」
 @EとぶつけてEを落とせるかもしれない。カヲルは慎重にコースを狙ったが、Eが予想外の方向に転がり、結局@EAとぶつかってAを落とし、何とかミスショットにはならずに済んだ。
 次はレイの番だ。残るは@Eのみ。しかも、運良くほぼ一直線上にあった。
 「うーん、結果は良かったのか悪かったのか…。」
 Aを落とせたのは良かったが、相手にチャンスを与えたのは悪かった。
 「まあまあ、‘人間万事塞翁が馬’という事だよ、カヲルくん。」
 「これで@EとぶつかってEを落とせたら勝ち…。」
 緊張の面持ちのレイ。
 と、何を思ったか、アスカが歩み寄った。
 「何、緊張してんのよ、あんた。こういう時は深呼吸よ!」
 「あ、そ、そうね。」
 レイはアスカの助言に従って深呼吸して緊張を和らげた。
 「ま、頑張りなさいな。」
 「ええ。」
 そして、レイは最後のショットを放った。手玉は@Eと綺麗にぶつかって見事Eを落とした。
 「よし!」
 アスカは勝利のガッツポーズ。
 「負けちゃったね、シンジくん。」
 カヲルは肩を竦めた。
 「まあ、仕方ないよ。アスカの負けん気の強さの勝利といった感じかな。」
 シンジは負けたにも拘らず、何故かニコニコ。それは、アスカとレイのチームプレイを見る事ができたからかもしれない。
 「勝ったわ。」
 「うん、上出来よ。」
 振り向いてVサインを出したレイにアスカは小さな拍手で応えた。
 
 さて、ボウリングヤードを楽しんだ一行は最後に2−Bにやってきた。ここでは商売の研究と題してクイズ…ではなく、フリーマーケットを開いていた。
 何か掘り出し物があったらめっけもん…まあ、そんな感じでシンジ達は見て回った。売ってるものはと言えば、衣類(中古含む)、書籍(漫画等含む)、音楽(CD、DVD)、映像(DVD、ビデオテープ)、おもちゃ(ゲームソフト、卓上パズル、フィギュア等)と言ったところだ。
 「うーん、どれもこれもデザインが今イチね…。」
 アスカは衣類のコーナーを見て回ったが、気に入ったデザインのものは見つからなかったようだ。
 「これが<ユリア様がみてる>…。」
 書籍のコーナーでレイはその既刊全セットを見つけた。最近、人気が爆発しているコスモス文庫の少女向け小説で、カトリックの女子高を舞台に女子高生同士の恋愛にも似た関係を主題に綴った作品だ。
 「これは…パッケージが割れてる、という事ではないようだが…でも、こっちは何も加工していない…一体どういう判断基準なのだろうか?」
 カヲルが音楽のコーナーで見つけたのはSCORPIONSの<Virgin Killer>と緒方恵美の<銀河にほえろ!>。そのジャケットに使われている写真を見比べれば、カヲルの疑問も成る程というものだ。(なお、どんな写真なのかは敢えて秘す。)
 「このパズルは…何となく面白そうだな。」
 シンジが目を留めたのは、黒いカードを3x3に9等分し、各辺の真ん中に黄、青、赤、緑の四色のどれかが色づけられた9枚組みのパズル。それらを隣り合う色が同じになるように3x3に並べるというものだ。

 さらによく見ると、その裏面や4つの側面にも何やら絵や模様が描かれていて、どうやら6面全てがパズルになっているらしい。
 「よし、買った!」
 「お買い上げ、有難う御座います〜。」
 なお、値段がいくらだったのかは敢えて秘す。
 そして、下校時間となり、文化祭初日は恙無く終了した。


 文化祭二日目。
 演劇コンクールで一番最初に上演された3−Aの喜劇・白雪姫は大好評だった。何せ、他の3クラスではなかったカーテン・コールがあったからだ。
 そして、シンジ達は今日も午後から1・2年のクラスの催し物を見て廻る事にした。シンジに付いて回るのは昨日と同様にアスカとレイにカヲル。トウジとヒカリは二人で見て回っているし、ケンスケは明日の映研の発表(作品の映写と小道具等の展示)の準備に忙しく、レミはまた別個に一人で見て回っているらしい。
 「シンジ、今日はどうする?」
 「そうだね…昨日行ってなかった所を回ってみよう。」
 という事で、シンジ達はまず1−Cでやっているトランプ大会に参加。
 「ツモ!リーチイッパツピンフイッツードライチ!」
 「マージャンじゃないって!」
 続いて2−Aのファッション・ショー(服飾の研究)を見てみると。
 「…どう見ても、ただのコスプレ大会だよね。」
 例えボロでも身に纏っていれば…カッコつけてファッションと言ってもそんなものだ。
 その次は2−Dの騙し絵・トリックアート(錯覚の研究)だ。
 老婆/見返り美人、杯/見合う横顔など、どこかで見た絵画等が一堂に集められていた。
 「不思議…このメビウスの輪って、表も裏も無いのね…。」
 最後は1−Bのカラオケ・ハウス。業者からレンタルしてきた判定機付きのカラオケが大人気だった。シンジ達もそれぞれ一曲ずつ唄って楽しい一時を過ごしたのだった。



EXTRA HUMANOIDELIC MACHINARY EVANGELION2

CHILDREN’S GRAFFITI

EPISODE:8 AN UPROAR HAPPENED BY A SCHOOL FESTIVULAL



 文化祭三日目はコンクール等の学校側指定の行事は無く、各クラスの催事に加えて各クラブの催事もスタートした。
 シンジ達黄金の七人+1は全員所属クラブが異なるので、今日の行動は全員バラバラだ。
 シンジの所属する音楽部はミニコンサートを開く。午前中が演奏、午後は合唱の担当だ。
 演奏班リーダーであるシンジは管弦楽団の一員としてクラシックや洋楽・邦楽、映画音楽にインストルメンタル、アニメやゲームの有名なメロディをそれぞれメドレーで披露し、割と好評だった。
 午前中の出番を終えると後は終了までほとんど自由だ。
 「さてと、どうするかな…。」
 と考えながら廊下を歩くとすぐに被服室。手芸部が作品の展示やちょっとした小物の販売などを行っている。
 「あ、シンジさん、いらっしゃい。」
 「やあ、ナツキちゃん。今、当番なの?」
 「はい。えっと、何かお探しですか?」
 「いや、ただぶらっと寄ってみただけ。もしかしたら何か買うかもしれないけど、もしかしたら何も買わないかもしれない。」
 「あはは…じゃあ、ゆっくり見ていって下さい。」
 被服室の中には部員が製作した衣服やクッションやヌイグルミその他小物など、ありとあらゆるジャンルの縫製品が展示されていた。過去の作品についてはクリアーファイルに纏められた写真で紹介されていた。つい先日の体育祭での仮装もほとんど手芸部の手によるもので、その写真も大きなパネルにされていた。シンジは気づかなかったが、何人かの女子生徒はその写真とシンジをちらちらと何度も見比べていた。ユリアン女学園の生徒姿があまりにも似合い過ぎていて、そこに女装した本人がいるのだから当然かもしれない。そんな事とは露知らず、シンジは被服室内をゆっくり歩いて見て周り、最後に販売用のヌイグルミに目を留め、その一つを購入して被服室を後にした。
 続いてシンジが訪れたのは調理室。
 「いらっしゃいませ〜。」
 「うわ、凄いね…。」
 何が凄いのかと言うと、料理研究会はここで何とメイド喫茶をやっていたのだ。ただし、メニューは全て料理研のオリジナル。
 「碇くん、何にする?」
 メイド姿のヒカリがお冷とナプキンとメニューを持ってやってきた。
 「えーと、何か簡単なものを…このカラフル・サンドにするかな。」
 「はーい、カラフル・サンド一つでーす。」
 早速、料理研オリジナルのカラフル・サンドなるものが運ばれてきた。と思ったら、何の事は無い、苺ジャム、マッシュポテト、タマゴフィリングを並べて挟んだだけのものだ。
 “断面が赤・白・黄だからカラフル・サンドか…でも、なぜこの三色なんだろう…。”
 等と思いながらも軽く腹拵えを終えたシンジは調理室を後にした。
 続いてシンジがやってきたのは実験室。
 ここでは化学実験同好会が授業では行っていない様々な実験を実演して見せていた。中でも毎年評判なのが炎色反応実験である。赤(Li)、橙(Ca)、黄(Na)、緑(Cu)、青(Ga)、藍(In)、紫(K)など、カラフルな炎に見学者は一同驚きの声を上げていた。
 “本当に綺麗だ…多分、花火も同じ事なんだろうな…。”
 等と思いながらシンジは実験室を後にした。
 続いてシンジがやってきたのは理科講義室。
 ここでは天文観察同好会が撮影した天文写真をパネルにして展示していた。
 「おや、いらっしゃい、シンジくん。」
 「カヲルくん、今、当番?」
 「いや、たった今交代になったばかりさ。」
 「あ、それなら、簡単に案内して貰えるかな?」
 「お安い御用さ。まして、シンジくんの為なら喜んで。」
 シンジはカヲルのガイドで展示されている天文写真のパネルを見て回った。
 過去の写真は例に拠ってクリアーファイルに纏められて閲覧できるようになっていた。
 「これってワープしているみたいだね。」
 「それは、カメラを固定して長時間露出撮影したものだよ。星の動きが光の筋となって映し出されたのさ。」
 「あ、この写真、綺麗だね。七色…じゃ無くて六色の星が…。」
 「それは七色星団だよ。それぞれ赤・橙・黄・緑・青・紫のスペクトルで発光している六つの星と暗黒ガス星雲で構成される混成星団さ。僕も展示されている写真の中では一番気に入っている。」
 「後でこの写真、焼き増しとか貰える?」
 「勿論。本当は料金が要るんだけど、シンジくんのお願いならタダでやってあげるよ。」
 「うん、有難う、カヲルくん。」
 そして、天文写真を見終わったシンジはカヲルと共に理科講義室を後にした。
 続いてシンジがやってきたのは視聴覚室。
 ここでは、映像研究同好会が今までに撮影した映像作品を映写して紹介していた。勿論、今年の新作としてケンスケ主演・脚本の<初号機の一日>なる作品が目玉となっていた。それは、第一中の生徒として転校してきたエヴァ初号機(例のケンスケのコスプレ)の日常を描いた作品だった。プログ・ナイフで結んだロープを裂いたり、ステーキ弁当を食べたり、体育で文字通り暴走したり、セリフはみんな「ウォォォォーン!」だったりと、シュール、ギャグ、ある意味不明(シンジには全部わかってたりして)な場面の連続でかなりの好評だった。
 「いよう、シンジ。珍しく渚と一緒に来たな。」
 「偶々、いいタイミングで交代できたのさ。」
 「しかし、ここまでちゃんとした映像になってるとは思わなかったな。」
 「まあ、それもシンジがいろいろとネタを提供してくれたおかげだな。」
 そう、実はケンスケから体育祭で使ったエヴァ初号機の姿で何か撮りたいと相談されたシンジは、自分の実体験を元にいろんなアイデアを出したのだった。
 全部の作品を見ていると一日掛かってしまうので、シンジとカヲルは【初号機の一日】を見終わると視聴覚室を後にした。
 続いてシンジ達がやってきたのは図書室。
 ここでは、文芸部が詩や小説などの自分達が執筆した作品を展示したり、一部販売したりしていた。
 「あ、いら…い、いらっ…しゃっ、しゃい、ませ…。」
 訪れたのがまさかのシンジとカヲルという事に気づいた受付の生徒は、何故か動揺したかのようにしどろもどろの応えをした。
 「どうしたの?」
 「い、いいえっ、な、何でも…。」
 「ちょっと見学させて貰うよ?」
 「え、えーと…。」
 答えを待たず、シンジ達二人は受付で記帳すると、図書室内を見回した。見学しているのはシンジ達二人を除けば女子生徒ばかり。それも、殆んどがある一箇所に集まっている。
 「何だろうね、あの人だかりは?」
 とその時、受付の生徒が大声で怒鳴った。
 「ノゾミ!碇センパイと渚センパイが!」
 「う、嘘っ、何でっ!?」
 「?」
 カヲルは何を騒いでいるのか全くわからないようだったが、シンジは何か閃いた。
 「一体そこで何をしているの?」
 「きゃー!みんな、隠して隠して!」
 慌てたノゾミは口走ってしまった。語るに落ちるとはこの事だ。
 「…ノゾミちゃん…隠して、という事は、僕達に知られたらマズイ事をしていた、という訳だね?」
 「い、いえ、私は何も…。」
 シンジに目の前に詰め寄られたノゾミの目はあっちこっちにふらふらと泳いでいる。
 「ねえ、キミ…その後ろ手で持っている物を見せて欲しいんだけど?」
 「え、そ、それは…。」
 女子生徒の一人はカヲルに迫られて絶体絶命。
 「僕のお願い、きいてくれないかな?」
 バンコランばりの眼力?に陥落した女子生徒は、頬を赤く染めた顔を俯かせておずおずと一冊の小冊子をカヲルに差し出した。
 「ふむ、どうやら小説の同人誌みたいだよ、シンジくん。」
 カヲルは数ページ捲って内容を確認してからシンジにそれを手渡した。
 パラパラと頁を捲っていたシンジはある頁でその指を止めた。そこに書いてあった文章は、到底許せるものではなかった。
 「…ノゾミちゃん…よくもこんな小説を書いてくれたね…。」
 シンジはその同人誌を床に叩き付けると足で踏みつけた。
 「あーっ、何するんですか!一生懸命作ったのに!」
 「一生懸命だったら何でも許されると思ってるの?君は自分の妄想を人に披露して、僕とカヲルくんを傷付けたんだよ?」
 顔を上げたシンジは、怒りと悔しさと恥ずかしさがごちゃまぜになった、例えようも無い複雑な表情をしていた。
 そう、ノゾミが発行したその同人誌は、シンジとカヲルについてのこれまでのノゾミの妖しい妄想が爆発した腐女子向け18禁小説だったのだ。
 「…だ、だって、渚センパイだって碇センパイを好きだとか言っているし、それに、碇センパイだってまんざらでもないんじゃ…。」
 ノゾミの抗弁はシンジの怒りの火に油を注いだ。
 「カヲルくんがなぜ僕に優しくしてくれるのか、なぜ僕の事を好きだと言ってくれるのか、何も知らないくせに!」
 カヲルは何も言わず、黙っていた。自分の想いをシンジもわかってくれていたからだ。
 「…そんなの、わかる訳ないですよ…だって、私と碇センパイ達は他人だもの…エスパーでもなければ、人の気持ちなんて…。」
 「ノゾミ…もう、よしなよ…。」
 「教えて下さい、私の文章のどこがいけなかったんですか?何が碇センパイ達を傷つけたって言うんですか!?」
 「じゃあ、君は隣のその友達と同性愛者だと言いふらされても平気でいられるの?」
 「そ、それは…。」
 ノゾミは押し黙った。隣の友達も露骨に顔を引きつらせた。
 「最低だね…他人から同性愛者と言われたら嫌なくせに、他人を同性愛者にしようとする…自分勝手過ぎるよ、君は…。」
 「…で、でも…仕方ないじゃないですか…私、腐女子だもの…男同士のそういうシーンにしか萌えないもの…ヤヲイが嫌いな女子はいないって言うし、私は自分の想いを大事にしたい!それはいけない事ですか?男子だって、女子とエッチするエロ本とか見たり、そんな同人誌作ったりしてるじゃないですか!」
 と、そこでカヲルがうんざりした言い方で口を挟んだ。
 「やれやれ…なぜ、ヤヲイが嫌いな女子はいないと言い切れるんだい?君のお姉さんは違うよ、鈴原くんという彼氏がいるし。惣流さんやレイくん、ミサト先生に赤木先生に伊吹先生も違うんじゃないかい?」
 厳密に言えば、ミサトにはショタっ気、マヤには姉萌え属性があるがそれはともかく。
 「男が女の裸を見たがる、性欲を感じて身体を求める…それは生物の摂理として適っているし、普通だよ。だから、その逆も真為り。女が男の裸を見たがる、性欲を感じて身体を求める…それはおかしな事ではないんだ。女はみんなヤヲイ趣味だなんて、少数の嗜好・希望がこれ幸いとばかりに勝手に大多数の意見の如く祭り上げられているだけで、真実じゃないんだよ。」
 はっきり言って、第一中の女子生徒の中でカヲルの人気はダントツである。そこにいる女子生徒の誰もがカヲルの言葉に真摯に耳を傾けていた。
 「いい加減、目を覚まし給え。ヤヲイで誤魔化さないで、自分の本当の想いを大事にした方がいいよ。さっき自分で言ったじゃないか。」
 もう、ノゾミは何も言えなかった。両手で顔を覆って立ち尽くすだけだった。
 「行こうか、シンジくん。」
 「そうだね。」
 シンジとカヲルはもうここには用は無い、とノゾミ達に背を向けて図書室を後にした。
 「あの本、置いてきちゃったけどいいのかい?」
 「まあ、証拠物件としては持っていた方がよかったというのは認めるけど、やっぱり持っていたくないよ、気持ち悪いし。」
 「さっきの事はみんなには?」
 「言わないよ。生徒会や先生達にもね。言ったら大騒ぎになるのは目に見えてるし。」
 「彼女は変わると思う?」
 「わからない。あのコが根っからの腐女子だったのなら、それも仕方ないよ。ただ、また同じ過ちを繰り返すんだったら、その時は…。」
 「その時は?」
 「絶交するだけだよ。まあ、エスパーじゃないんだから、先の事なんてわかる筈ないよ。」
 「エスパーか…‘彼女’だったらどう収めていただろうね?」
 「おそらく、もっと円く、ソフトに諌めてくれたんじゃないかな。あっちでは、女子の中ではヒーローみたいな存在だったらしいし。」
 等と話しながら、続いてシンジ達がやってきたのは美術室。
 ここでは、美術部が水彩画、油彩画、版画やちょっとした小物(オリジナルデザインの栞)等、自分達が製作した作品を展示したり販売したりしていた。
 「あら、いらっしゃい、シンジくんに渚くん。」
 「あれ、綾野さん、当番だったの?」
 「ううん、たった今終わったトコ。まあ、ゆっくり見ていって。それと、できたらアンケートもお願いね。」
 シンジはカヲルと共に美術室内に展示されている作品を見て回った。過去の作品は例に拠ってクリアーファイルに纏められた写真で閲覧できるようになっていた。
 「あれ、またあそこに人だかりが…。」
 「まさか、ね…。」
 だが、そこにあった作品は二人の想像のかなり斜め上を行っていた。それは何と裸婦画でそれも全身像を正面から描いていた。題名は<自画像?>で作者は…なんとレミだった。
 「…綾野さん?」
 「何?」
 「よく、自分の裸を描けるねぇ…。」
 「二人とも、観察力が足りないわよ。もっと良く見て頂戴。」
 当の本人が見てOKというのでシンジ達はもう一度見てみた。すると、題名に何故か?がついているし、実際に描かれている絵では…こう言っちゃ失礼だが、どう見てもその乳房はレミ本人よりもボリュームが有りそうに見えた。
 「これ、綾野さん本人…じゃないよね?」
 「正確には、こうありたい、って言う私の願望をイメージして描いてみたの。まあ、最初のデッサンは本当に自分の裸だったけどね。」
 「いや、でも、裸だよ?」
 「ああ、恥ずかしくないのか?って事ね。問題無いわ。私の裸の写真だったらアレだけど、それはただの絵で、しかも架空のものだもの。」
 どこかのヒステリックな団体に是非聞かせてやりたい言葉である。
 「しかし、何でまた…?」
 「自分が描きたいものは何か?自分の心に問い掛けて、描きたくなったものを素直に自由に描いただけよ。」
 「うーん…。」
 「何?」
 「いや、遠足の時の話も夏祭りのサンバの衣装姿も凄かったけど、綾野さんって何か僕らの想像を超越しているなぁ…って。」
 「そう?」
 “何と言うか、‘彼女’より突き抜けているような…。”
 「例えば、綾野さんってセックスについてどう考えてる?」
 「何でそんな質問になるのかわかんないけど…それはともかく、どう?って言われても…具体的に言って貰わないと答えようが無いじゃない。」
 「じゃあね…セックスは大人になったり、或いは結婚するまでしちゃいけないと思う?」
 「…うーん…そんな事無いんじゃない?お互いを尊重していれば問題無いと思うけど…って、もしかしてフィアンセが拒んでいるとか?」
 「そ、そんなんじゃないって!(“逆に積極的過ぎるんだよね…。”)あ、後さ、もしかしてバイクに乗ってたりする?」
 「何言ってるの?バイクは16歳にならないと免許取れないでしょ。乗れる訳無いじゃない。(“車には乗ってたりするけどね。”)」
 「あ、そ、そうだよね。」
 「一体、どこからそんな質問が飛び出てくるのやら…。」
 「それは、要するに君が僕らの想像を超えた人物みたいだからさ。」
 「あー、それ、前の学校でも言われたような気がする。」
 そんな事を話しながら、三人はいつのまにか美術室を後にしていた。
 続いてシンジ達がやってきたのは体育館。そろそろお腹も空いてきた頃だし、体育館のステージ上でバレー部と体操部が模擬店(それぞれカレー屋とクレープ屋)をやっていたのだ。しかも、いったい何をアピールしたいのかわからないが、バレーのユニフォーム姿と体操のレオタード姿で接客していた。
 13:00から体育館ではバスケ部による花寺学院中等部を迎えての親善試合が行われる事になっていた。他校の男子生徒が来るという事で体育館のバスケット・コートサイドや二階のベランダ部には女子生徒が多く観戦に訪れた。中には前述のバレーのユニフォーム姿、レオタード姿の女子に加えて水着、テニスウェア、体操服姿の女子もいた。勿論、トウジの応援の為にやってきたメイド姿の女子も。
 「ええか、今日は親善試合や。楽しんでplayしようやないか!」
 トウジ達三年生は既に受験の為に引退しており、今日はあくまでもバスケを楽しむだけの試合。それは相手もわかっていて、今日は引退したバスケ部の部員だけでなく、一般生徒もやってきていた。いつ、いかなる時でも選手の交代は自由である。もちろん、第一中もバスケ部部員に限らず参加したい者は誰でもOKである。それは、何も男子だけに限った事ではなかった。
 シンジはレミがじっくりとアキレス腱を伸ばしているのに気づいた。
 「綾野さん、出るつもり?」
 「言わなかったっけ?私一応全部のクラブの部員になってるのよ。」
 4月のクラブ紹介の後で、確かにレミは全部のクラブをやってみよう等と言っていた。
 「あれは冗談じゃなかったんだ。」
 「こんな時じゃなきゃ、試合に出れないもんね。」
 そこに、第一ピリオドの半分で早々と交代したトウジがシンジ達を見つけてやってきた。
 「おう、来とったんか、シンジ。それに渚に綾野も。」
 「トウジ、もう交代したの?」
 「今日は大勢の人にバスケットをやって貰うのが目的やからのう。おっ、綾野もやる気まんまんやな。」
 レミは動きやすいようにスカートの上をベルトの中に巻き込んでいた。
 「ちょっと、綾野さん、そんなにスカート短くしたら…。」
 「御心配無く、こんな事もあろうかと、中にブルマー着けてるから。」
 「準備がええのう。(“まるで真辺先輩みたいや…。”)」
 レミは早速選手の一人と交代してコートの中に入ると、男子顔負けの動きで見事にダンク・シュートを決めた。
 試合はまだ終わっていないが、いつまでも見ている訳にもいかないので、シンジ達は第一ピリオド終了と共に交代して戻ってきたレミと共に体育館を後にした。勿論トウジはヒカリのメイド姿に鼻の下を伸ばしながらメイド喫茶へ。
 続いてシンジ達がやってきたのは体育館の隣のプール。
 プールサイドでは、水泳部が模擬店をやっていた。ジュースのカクテル(と言っても勿論お酒ではなくてミックスジュース)を販売する、これがホントの[プール]バー。
 「あ、碇くん、いらっしゃい。」
 「綾波…やっぱりその水着だったんだね。」
 「流石、水泳部の人魚姫はやっぱりそれでなくっちゃ。」
 他の水泳部員はスクール水着なのに、レイはやはりここぞと言う時の白のハイレグの競泳水着で接客をしていた。
 「何とかの一つ覚えという気がしないでもないけどねぇ。」
 「そう…サービス拒否か料金倍額か、どっちか選びなさい。」
 「究極の選択と来たか…では、第三の選択として料金タダを選ぼう。」
 「そんな選択肢があると思って!?」
 「自分の道は、自分で切り開くものさっ!」
 カヲルはぱっと駆け出すや、プールサイドのクーラーボックスから缶ジュースを一本失敬してスタコラサッサと逃亡してしまった。
 「こらっ、待ちなさい!」
 「ちょっと待って、綾波さん。幾らなんでもそのカッコで校内を走り回るのはまずいわよ。それに当番は?」
 「むうぅ〜…そうだわ!綾野さん、貴女も一応水泳部の一員だったわね。」
 「あ、あはは、ほとんど幽霊部員でゴメン。」
 「だから、時間まで私の代役やって。」
 「はい?」
 レイとレミは二人で部室に向かった。そして…。
 「じゃーん、水泳部の二代目人魚姫、綾野レミでーす。」
 レミはさっきまでレイが着ていた水着を着てシンジの前に現れた。
 「綾波は?」
 「渚くんを追いかけて行ったわ。だから私が彼女の当番の代役。あと、シンジくんにサービスできなくてごめんなさい、って。」
 「やれやれ…何も今追いかけなくてもいいのに…。」
 「ねぇねぇねぇ、それよりもどう、私?水着、似合ってる?」
 “えーと…何をどう答えていいものやら…。”
 「やっぱり、ハイレグの水着って脚が長く見えるのがカッコいいのよね。」
 レミ自身は随分とお気に入りのようだが、普通の水着よりその分Vゾーンが妖しくなっていて、一部のマニアにとってはエロ度萌え度が高くなるのは諸刃の剣といったところか。
 「そんな事よりさ…僕、客なんだけど?」
 実は、シンジが来たら自分が接客する、とレイが言っていたので他の水泳部員は誰もオーダーを取りに来ていなかったのだ。
 シンジはプールサイドに置かれたビーチパラソルの下でテーブルに着くと、レミの持ってきたDrペッパーとジンジャーエールのミックスジュースを飲んでプールを後にした。
 それから、シンジは陸上部の模擬店で焼きソバを立ち食いした後、最後にテニスコート脇にやってきた。
 ここでは、テニス部が模擬店(アイスクリーム屋)をやっていた。他の運動系クラブと同様、ここもテニスウェアで接客をしていた。
 「あ、シンジ、いらっしゃ〜い。」
 「お待たせ、アスカ。」
 シンジは自分用にグレープシャーベット、アスカ用にスイカシャーベットを買った。
 「それじゃあ、後ヨロシク〜。」
 とっくに当番の時間は終了していて、ただ単にシンジが来るのを待っていたアスカは接客の仕事を他の部員に任せてシンジと共に店を後にした。
 「シンジは全部見て回ったの?」
 「うん。ま、いろいろあったけどね。」
 図書室の上の屋上通路にやってきた二人はアイスを食べつつグラウンド内を見渡した。バックネット近くでは野球部のストラック・アウト、その反対側ではサッカー部のキック・ターゲットが行われていた。
 「美術室も行ったのよね?」
 「…そうだけど?」
 「アンケートで一番気に入った絵は何にした?」
 「綾野さんの<自画像?>だよ。」
 「わぁ、やっぱり。あのコ本当に凄いよね。夏祭りのサンバの時もそうだったけど、もう大胆というか何というか…ああいう、私達の想像の遥か斜め上を行く人って言ったら、真辺先輩ぐらいよね。」
 すると、シンジは周囲に誰もいない事を確認してからアスカに小声で言った。
 「真辺先輩のいろんな‘チカラ’の事、知ってるよね?」
 「うん…?」
 「今日、いろいろ訊いてみたんだ。バイクには乗っていないみたいだけど、お互いを尊重していれば大人にならなくてもセックスはOKだって。」
 「私はシンジが求めるならいつでもOKの三連呼よ。」
 アスカはシンジの懐に自分の身を預けた。
 「いや、そうじゃなくて…。」
 「正義のヒーローは、使命を終えたら人知れず何処へと旅立っていく…それでいいんじゃない?彼女がどうであれ、私にはシンジとこうして一緒にいられる時間が一番好き。」
 「うん…そうだね…。じゃあ、アスカ、ちょっとしゃがんで。」
 「?」
 アスカはシンジに言われたとおり、その場にしゃがみ込んだ。これでグラウンドからはこちらは見えない。
 「ねえ、アスカ…キスの反対は?」
 “!”
 アスカは前にもそれをシンジから訊かれた事がある。その時は答えは知らなかったが、今は…。
 「勿論、知ってるわ。スキ、よ。」
 アスカが目を閉じると、シンジはそっとアスカにキスした。
 去年の初めてのキスは触れただけですぐ唇を離してしまっていたが、今日は互いに唇を貪りあう、ちょっと大人っぽいキスだった。
 「…シンジ…この先はしてくれないの?」
 「ごめんよ…今はこれが精一杯…。」
 その頃、調理室では…。
 「トウジ、たんと召し上がれ。」
 「ヒカリの手料理をこんなに食べれるなんて、ワシは果報者や…。」
 トウジとヒカリの座ったテーブルは、そこだけピンク色のラブラブ時空と化していた。
 一方その頃グラウンドでは…。
 「待ちなさい、カヲル!」
 「しつこいよ、レイくん!」
 カヲルとレイの鬼ごっこがまだ続いていた。
 また一方その頃、視聴覚室では…。
 「行くぞ!必殺、エヴァ・ハリケーン!」
 エヴァ初号機のコスプレをしたケンスケが観覧者の前でポーズを取っていた。
 またまた一方その頃、水泳部の部室では…。
 「はぁ…これ以上、膨らまないのかなぁ…。」
 レイの水着を脱いだレミは、服を着るのも忘れて自分の微乳に溜息を吐いていた…。



超人機エヴァンゲリオン2 中学生日記

第8話「大騒ぎの文化祭」

完
あとがき