「オハッス!」 「チワース!」 「ジャース!」 「ちょーーーー!」 「ちょんわ!ちょんわ!」 ジャングルの朝のような挨拶が、にごった曇り空に轟く。 御仏様の庭に集う野郎たちが、今日も羅刹のようなむくつけた顔で、天にそびえる門をくぐり抜けていく。 手入れというものを知らない肉体を包む、濃ゆい色の制服。 正中線は乱さないように、丹田にこめた息吹は裏返さないように、どっしりと歩くのがここでの掟。もちろん遅刻を恐れて走り去るなどといった、ふぬけな生徒など生存できようはずもない。 私立花寺学院。 維新後創立のこの学院は、もとは士族の令息のためにつくられたという、伝統ある仏教系若様学校である。 東京都下。武州の心意気を未だに残している謎の多いこの地区で、仏に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる漢の園。 サムライが死に絶え、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、一八年間耐え続けられれば、男の蒸し呂上がりの純粋培養大和男子が筋金入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貴重な学院である。 「とりあえず撲と祐麒にありす、後は・・・成田は最近黒いから、仰木・・・あっ、でもそうすると橘先生が出ばるから、やばいかなー?」 花寺学院生徒会室で小林が生徒リストを前に悩んでいた。 今度仕組まれたリリアンとの顔合わせ会(極秘)に出る男子生徒を選んでいたのだが、硬漢に事欠かない花寺メンズといえど、女性、それも男嫌いで潔癖症の女子に好感を持たれる男子となると殆ど思い当たらない。 「第一生徒会メンバー自体、あれだからなー」 彼の脳裏に身長2mのツインズ、体つくりに命をかける体育会系が浮かんだ。 「とりあえずあの先輩達だけは外さないと」高田先輩と薬師寺先輩たち名の上に斜線を引いた小林は鉛筆を鼻にはさんで椅子に座ったまま背伸びをした。 その時 「リリアンと顔合わせだとーっ!」 いきなり扉が開けられ固太りの男子生徒が飛び込んできた。 「ぶっ!」思わず鼻にはさんだ鉛筆を噴出した小林はそのまま体勢を崩した。 「あわわわあーっ!」倒れ込そうになった椅子は寸前で2本の腕に支えられた。 「あっ、ありがとうございま・・げっ」 椅子を支えてくれた相手の正体をみた彼は思わず叫んだ。 そこには身長2mの大男がそれぞれ片手で椅子を掴んでいたのだ。 二人はまったく同じ顔を小林に向けて微笑んでいるが・・・・ はっきり言って恐い! 「山百合会と打ち合わせなんだね。」「薔薇様たちが来るんだね。」 獲物を捕らえた熊のような笑みを向けられ、恐慌状態に陥りながらも小林はなんとかはぐらかそうとした。 「あっ、あのーそれはですねー、事前の事前の、予備の前準備という奴で、何も先輩方にお越しいただかなくても・・・・・」 しどろもどろで言う小林の胸倉を高田が鉄の腕力で掴んだ。 「でっ、何時なんだ?今日か?明日かっ?場所は何処なんだっ!?」 小林の胸倉を掴んだ高田は握力100k、腕立て500回以上、ベンチで150kを持ち上げるパワーを全開にして前後に振った。 「ぐわっぐわっぐわー・・・・・」 強烈なスイングで揺さぶられた小林は遠心力による集血効果で意識を失いかけた。 その高田を薬師寺先輩達が押さえた。 「やめるんだな。この前も一人ヤったばかりだよね。」 「小林君が逝っちゃうね。せめて打ち合わせまでは生かしておくんだね。」 あの世にいく寸前だった小林はなんとか河原でのおじいちゃんの対面から別れた。 彼が意識を完全に取り戻す前に机の上にあった紙を先輩達は見た。 「小林くんとユキチとアリスの名前があるんだね。」 「僕たちの名前はないんだね。おかしいね。」 「なんでだー?なんで俺の名がないんだー!?」 再び胸倉を掴んで死のスイングを始めようとした高田を薬師寺ツインズが止めた。 「待つんだ、生徒名簿があるね。」「僕らの名前に印があるね。」 「ちょっと待てっ!なんで斜線なんだっ!」 小林につめよる肉体派3人 小説が違えば貞操の危機のシーンだが、ここでは命の危機。 「おい、この斜線はどういう意味だ?」 「まさかね。」「僕らを外すつもりじゃないよね。」 「おいっ!」×3 (ああ、先立つ不幸をお許しください・・・・) 小林の頭の中にさっき出合ったおじいちゃんがおいでおいでと手招きをしていた。 「あのー・・・それは・・・・そのー・・・なんと言うか・・・」 小林の前に薬師寺達が詰め寄る。 「自分達だけいい目見るような事はしないよね。」 「これはリリアンと出会う人の印だね。」 二人に詰め寄られ声も出せなくなった小林に更に薬師寺たちは顔を寄せ詰め寄った。 「僕たちを驚かそうと黙っていたんだね。」「お茶目だね。」 そこで薬師寺ツインズの声が始めてはもった。 「役者やのー」(×2) にこやかに微笑む言葉の裏に殺意を感じた小林は全てをあきらめた。 「・・はい、先輩方もぜひご出席を・・・・」 うなだれた小林を他所に高田は小躍りしながら教室を飛び出した。 「やったー!来る日に備えてこれから肉体に仕上げをかけるぞ、まずはなんといっても大胸筋!念の為に活扼筋も鍛えなくっちゃ!」 ・・・・・「制服にアイロンをかけようね」「2年ぶりだね」先輩たちが去った後に残されたうなだれていた小林君から、言葉が漏れた。 「・・・紅薔薇様、ごめん・・・・・」
黄薔薇放送局 番外編 令 「黄薔薇放送局、番外編へようこそ!」 由乃 「まさか、番外編、それも投稿作品をいただいたから、なんて日が来るとはね〜」 乃梨子「これっきりかもしれないですけどね」 令 「乃梨子ちゃんはいつも冷静だねぇ(苦笑)」 乃梨子「そうですか?」 由乃 「そうだよ、もっと喜怒哀楽を表さないと人生損するって!」 令 「由乃、人それぞれなんだから……」 江利子「令の言うとおり、私から見れば由乃ちゃんも乃梨子ちゃんもおもしろいわぁ〜」 由乃 「(出たな……)」 令 「あ、お姉さま」 江利子「まずは投稿してくれたユッケさんに感謝しなきゃね 管理者共々飛び上がらんばかりに喜んでいますわ。本当にありがとう」 乃梨子「今回のお話は花寺の生徒会での裏話、と言った感じですね」 由乃 「あの目が回るメンバーが揃った裏にはこんな話があったのね」 令 「あのときの祥子すごかったもんねぇ。 私も驚いたけど」 江利子「あなた達、一度も花寺に行ったことが無かったモノね。 あぁ、その場面見たかったわぁ。 令、何で呼んでくれないのよ」 令 「す、すみませ……」 由乃 「あら、江利子さまはもう卒業なさったのですし、 山百合会のことはどうぞご心配なく。私たちできちんとやっていきますので」 令 「よ、由乃〜(汗)」 江利子「あら? 体育祭も終わったのにまだ妹が決まっていない、なんて話を聞くと 心配で心配で夜も眠れないわ。 あぁ、早くお婆ちゃんを安心させて欲しいわぁ〜」 由乃 「(ムキー)ご心配なく、ちゃんと約束の時までにはお見せしますわ!」 令 「(ハラハラ)って、由乃、そんな約束しちゃったの!?(ハァ……)」 由乃 「あー、令ちゃん溜息付いたでしょ! ひどい! 人がこんなに苦しんでるのに! 約束しましたよ! お姉様のように最初から決まっていた人には分りませんわ!」 令 「よ、由乃〜(おろおろ)」 …… …… 乃梨子「そりゃ溜息もつきたくなりますよね」 江利子「(ニヤニヤ)私としてはずっと楽しめそうだから歓迎だけどね」 乃梨子「そう言えば、作品内でいくつかおかしい部分ありませんか?」 江利子「あぁ、そのことね。 作者さんも途中で気づいたみたいだけどね。 だけど、加筆修正したらかえって作品に勢いが無くなったみたいなのよね だから、あえて、一番勢いがあったと思う初期稿のまま投稿してくれたみたい」 乃梨子「そうなのですか。 確かに勢いは最初からすごいですね」 江利子「そういうこと。 あ、もちろんツッコミ、批判も歓迎ですって 是非ともユッケさんに感想を書いてあげてね。 うちの作者もそうだけど 書く側が(一言だけだ…)と思う感想でも飛び上がるほど嬉しいものだから。」 乃梨子「私もタクヤ君のホームページに感想を書いたのが常連になるきっかけでしたね」 江利子「そう、そう言うことから結びつきは始まるのよ 目指せ、第二の祐巳ちゃん、乃梨子ちゃん!!(笑)」 乃梨子「だ、第二って……」