文明の章

第参拾六話

◆ラストチャンス

3月9日(水曜日)、昼休み、第3新東京市、第3新東京市立第壱中学校2−A、
シンジとカヲルか何か楽しげに談笑しているのをアスカが睨んでいる。
気になったヒカリがアスカに声をかけた。
「どうしたのアスカ?」
「・・・あいつ、気に食わないのよ」
「・・・」
レイがシンジの方に近寄っていった。
「あ、うん・・・これ、お弁当、食べ様か」
シンジは弁当箱を鞄から取り出し、レイは軽く頷いた。
「じゃあ、カヲル君又後で」
二人は机を引っ付けてお弁当を食べ始めた。
「私達も食べる?」
「・・そうね」
アスカはシンジが作った弁当を鞄から取り出した。


夕方、公園のベンチに座ってアスカは考えていた。
どうして、シンジの事に関してまでカヲルを敵視しているのだろうか?
どんなに二人が仲良くなったとしても親友止まり、恋人にはなれないのに・・・・・・
「何でだろ〜、アタシのライバルは、フィフスじゃなくて、ファーストよ、その筈なのに・・・」
(・・・まさか、ファーストとの差は大き過ぎる・・・むしろ、今近いのは・・フィフス?・・・そう思ってるんじゃないわよね)
アスカは嫌な考えを首を振って散らした。


3月10日(木曜日)、A.M.10:15、衛星軌道上、成層圏外警戒部隊、
レーダーにかなり大きなものが映った。
「何でしょうか?戦艦でしょうか?」
「いや・・戦艦にしては大き過ぎる。かと言っても空母1隻で地球に攻め込もう等と言う愚か者はいまい。使徒の可能性があるな。これより接近して確かめる。」
「はい」
「ネルフと東京、日本と台湾に通告を」
「はい」
「光学で確認。拡大します」


A.M.10:22、ネルフ本部第2発令所、
「使徒を衛星軌道上で確認。丁度、台湾上空です」
青葉が報告した。
メインモニターに光る鳥のようにも見える使徒が映し出された。
「地上からの長距離射撃ね・・・レイ、零号機はスナイパーライフルを、アスカ、弐号機はポジトロンライフルを」
『『了解』』
「初号機は?」
「凍結中なのよ・・・碇司令の絶対命令。私の権限じゃどうにも成らないわ」
ミサトは日向の問いに答え、後ろの司令塔の2人を見上げた。
「碇、赤木博士の報告では、レイの自我形成が殆ど完了しているそうだぞ」
「・・・そうか」
「補完計画は、不可能だろうな」
「・・・・」
「それに、シンジ君に恋をしているらしいしな」
「・・・・・・」
「どうする?」
「・・・・・・、ゼーレの補完計画は潰す。いずれにせよ、行う予定だった事を実施するまでだ。何も問題など無い。」
「・・・ロンギヌスの槍を使うつもりか」
「この使徒、行ける」
「口実か」
「その通りだ」
碇はにやりと笑った。


地上、弐号機は長距離用陽電子砲を受け取った。
「アスカ・・・失敗は許され無いわよ・・・あんな奴に弐号機は渡さない・・・・絶対に、」
弐号機は陽電子砲を構えた。
雨が降り続いている。


東京、東京帝国グループ総本社ビル、
耕一が蘭子、榊原を連れて廊下を歩いている。
「使徒は衛星軌道上に」
「そうか」
「本気で?」
「ああ」
「狙撃する様です」
皆エレベーターに乗った。
「距離が遠過ぎる。狙撃には出力が足りない」
エレベーターは地下層のドックを目指して降下を始めた。


第3新東京市、弐号機、
使徒をどうしてもロックできない。
「もぅ〜なんなのよ〜!」
「あっ」
突然使徒から放たれた光が弐号機を包み込んだ。
何かがアスカの中に、アスカの心の中に入り込んでくる。
「きゃあああ!!!!!」


 A.S.5年、ドイツ、ゲヒルン付属病院、
アスカは特別病室の外から精神崩壊を起した母、惣流キョウコツェッペリンを見ていた。
キョウコは、人形をアスカだと思って話しかけている。そして、アスカの事を自分の子供だとは認識出来ていない。
アスカの父とキョウコの担当医師クラララングレーが話をしている。
「見るに耐えないな」
「接触事故が原因でしょう?」
「ああ、」
「彼女の回復の可能性はゼロと言っても過言ではありません。」
「そうか・・・だが、人形を自分の子供と思っているとは・・・」
「そうでしょうか?神が存在するとしたら、我々人類は神の人形に過ぎないでしょう」
「現代医学に従事する方の言葉とは思えませんな。」
「私だって、医者である前に一人の人間ですわ」


A.S.7年、12月、アスカの家、
アスカはこの日セカンドチルドレンに選出されていた。
キョウコがアスカの首をしめていた。
「アスカちゃん、一緒に死んでちょうだい」
「・・あたしは・・・ママの・・・にんぎょうなんか・・じゃない・・・」
アスカは気を失った。
アスカが意識を取り戻し、辺りを見まわすと、首吊り自殺をした母の姿と滅茶苦茶に切り裂かれた人形が目に入った。



・・・どうして?忘れていたことが・・・


幼いアスカが親類のおばさんに慰められている。


・・・表面的には平気を装っていたけど、本当は泣いていた・・・



A.S.8年、ラングレー邸、
アスカは階下に降りて来た所で父とクララの話し声を聞いた。
「・・・正直言って、あの子、どこか怖いんです。」
「怖い?」
「・・・何でも、見透かしているみたい・・・」
「そうか、まあ、確かにそんなところもあるな、」
「・・・・・」
アスカはぎゅっと拳を握った。


アスカが通っている学校のたちの悪い者達に3人に囲まれていた。
「ガキはガキらしくしてりゃ良いんだよ」
「・・・」
因みに、原因は、アスカがテストで1番を取った事に起因している。
「バカはバカらしく、してりゃ良いのよ」
「ん、この!」
よっぽど気が短いのか、たった一言で切れて殴り掛かって来た。
アスカは拳を交わしてカウンターのハイキックを腹部にぶち込む、流石に顔には届かない。
強烈な一撃を食らった男は軽くよろめく。
「この!」
今度は2人がかり、そして、3人に・・・・
ドイツゲヒルンの保安部員が介入した時には、アスカは骨折を含む重傷だった。
まあ、6ヶ月後に復学した3人を報復として血の海に沈めたが・・・


何かの事で、同年代の子供やその親と会うと、様々な妬みなどの感情をぶつけられたが、
更に大きな事を成し遂げる事で黙らせた。
アスカの価値を認めざるを得ない現実を見せ付けられる事で、


A.S.9年、ゲヒルン、ドイツ支部、技術棟、
千代田マサル副所長に連れられてやって来たケージ、完成した弐号機がそこにあった。
アスカは弐号機を見上げた。
「キョウコさんが未完で残した汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、そして、世界初の制式機、弐号機・・・遂に完成だ。」
「・・・ママの・・・」
「ああ、これが、アスカちゃんの乗る機体になる。」


・・・アタシが、弐号機で世界を救えば、誰も・・・
・・・アタシにとやかく言う事は出来なくなる・・・
・・・皆、私の価値を認める筈・・・
・・・そして、ひょっとしたら、又ママに、アタシを・・・
・・・アタシ自身を見てもらえるかもしれない・・・
・・・ありえない期待をしていた・・・
・・・いえ、縋っていたのね・・・



数々の使徒との戦いの光景が現れた。


A.S.15年9月22日(火曜日)、第3新東京市ゲームセンター
クレーンから鼠の人形が落ちた。
「ぐあ!」
「なによこの機械!壊れてんじゃない!!」
アスカはクレーンゲームにやつあたりの蹴りを入れた。
機械が少し凹んだ。
「あかん、ごっつ性格悪そーや」
「同感・・」
アスカが3バカトリオの方を振り向いた。
「ちょっと!あんた達さっきから何見てんのよ。」
「「「いやべつにあの・・・」」」
「100円ちょーだい」
「へ?100円?」
「ゲーム代なくなちゃったのよ安いもんでしょ一人100円ずつ」
「あほか!なんでワシらが・・」
「見物料よあたしのパンツ見たでしょ。」
・・・・・
・・・・・
「処で君と、君ちょっと乗りなさい。」
シンジとアスカが指名されて車に載せられた。
二人は後部座席に乗せられた。
耕一はアクセルを踏み車を走らせた。
(どうして統監がこんな奴を?)
シンジも何か不可思議な顔をしていた。
「処で、碇シンジ君と惣流アスカラングレー君、」
(え?)
「「えぇーーー!!!!!!!!!」」
二人の声に驚いて耕一はブレーキを踏んで急停車した。
「惣流アスカラングレー」
「碇シンジ」
二人は御互いを指差しながら向き合った。


・・・全くこんな奴がサードチルドレンだとは思わなかったわ・・・
・・・最低限度の夢も理想もぶち壊しだったんだけど・・・



10月6日(火曜日)P.M.2:47、コンビニの飲料類の前
「哀れみの言葉なんか掛けないで」
アスカはジュースの缶を手に取った。
「口惜しい、優等生に舐められるだなんて・・・」
アスカが手に力を込めるとジュースの缶は破裂し中身が噴出した。
中身が詰まったチタン缶を握り潰したのを見て、怖くて店員は何も言えなかった。
暫くアスカは考え込んでいた。
結果、自分がレベルを落とすしかないと言う答えを弾き出した。
アスカは立ち上がってシンジの方を真っ直ぐに向いた。
「シンジ、特訓よ。絶対に優等生や、ミサトを見返してやるんだから」
シンジは軽く微笑みながら頷いた。


10月22日(木曜日)弐号機を支えるケーブル全てが切れた。
「キャアアア!!」
弐号機のボディが沈み始めた。
アスカは死を覚悟した。
その時弐号機に衝撃が走り沈まなくなった。
アスカは上を見上げると初号機が弐号機を支えていた。


・・・まあ、まあ良いかなって思ったんだけど・・・



10月17日(日曜日)
『ミサトさん、さっきの実験の結果は?』
『は〜い、ユーアーナンヴァーワン』
シンジの表情がパッとなった。一方アスカの表情には当惑のような物が見られた。


1月19日(火曜日)
『作戦は、1機が先行し残る2機がそれをサポート援護する。良いわね』
『はい』
『問題ありません』
「はいはい、先生、先鋒はシンジ君が良いと思いまーす。」
『はぁ?』
「何と言ってもシンクロ率実績共にナンヴァーワンのシンジ君だからねぇ」
『何言ってるんだよ』
「それとも怖いの?」
『怖くなんて無いさ、御手本見せてやるよ、アスカ』
「ぬわぁんでぇすってぇえええ!!!」


・・・調子こき過ぎ・・・




・・・でも、何時の間にか・・・
・・・アタシはシンジの事が好きになってた・・・
・・・何でかは分からない・・・
 

A.S.16年3月10日(木曜日)、ネルフ本部第2発令所、
「敵の指向性兵器!!?」
「いえ!センサーには何も反応はありません!ATフィールドの応用と思われますが詳細は不明です!」
ミサトの声にすかさずマヤが返した。
「パルス乱れています!精神場に浸食を受けています!」
「フィードバックを下げて!」
弐号機が陽電子砲を使徒に向けて連射した。
陽電子の弾が雲を突き破り次々に宇宙へと飛び出して行く。
リツコの指示でマヤは操作をした。
「はい!・・・効果ありません!」
衛星からの映像に切り替わり、陽電子が大きく逸れていく映像が映った。
「スナイパーライフルは?」
「発射まで20です」
「LCLの触媒作用もありません!」
「心理グラフDゾーンで上下して!いえ!急激に上昇を始めました。」
「精神防壁は!?」
「展開しています!しかし、効果ありません!!」
「第6次最終接続、誤差修正完了、撃て!」
サブモニターに零号機がポジトロンスナイパーライフルを撃つ映像が映った。
青白い光を放ち陽電子の帯は一直線に使徒に向かって飛んで行った。
「心理グラフEゾーンに突入!!」
メインモニターが衛星からの映像に切り替わった。
陽電子はATフィールドに接触し、いとも簡単に分散された。
「この距離ではエネルギーがまるで足りません!」
「精神汚染が始まります!!」



・・・・何?・・・

 真っ暗な空間に自分とシンジだけが立っている。
「・・・シン」
「わあああ!!!」
アスカが声をかけた瞬間、突然シンジは叫び声を上げて蹲り、怯えるような視線を送って来た。
「もう止めてよ!!どうしてそんなに僕を苛めるのさ!!」
「アタシは!」
「わあああ〜〜!!!助けて!!!助けてよ!!!」
「綾波ぃ〜〜〜!!!!」
「え?」
レイが現れそっとシンジを抱き締めた。
「もう、大丈夫よ」
レイに抱き締められてシンジは安心したようだ。
「・・・弐号機パイロット、どうしてシンジ君に危害を加えるの?」
アスカを責める視線を向けている。
「そ、そんな・・・アタシは・・・何も・・・」
「・・・嘘ね・・・・心当たりはいくらでもある筈だわ」
弁明は聞き入れず、バッサリと切り捨てられた。
「・・・うう・・・・」
「・・行きましょう」
シンジは頷きレイと共にどこかに去って行った。
「待って!!待ってよ!!待ちなさいよ!!!」
しかし、二人の姿は消えて行く。
「シンジ・・・ファースト・・・・」
「・・・アスカ、」
何時の間にかリツコが背後に立っていた。
「アスカ、残念だけど、貴女にはエヴァを降りてもらうわ」
「え?」
「シンクロ率の不安定と低下、そして、作戦命令を無視し、独断によるミス、更には、パイロット同士の協調性を乱した」
「・・・そんな、アタシは!」
「言い訳は良いわ、既に決定事項なのだから、じゃあね」
アスカの言い分は無視し、リツコは去っていく。
「待ってよ!!待って!!」
しかし、リツコも消える。
「アスカ、」
ミサトの声に振り向く、
ペンペンを抱えたミサトが立っていた。
「エヴァに乗れなくなった貴女は、私達と一緒に住む事は出来ないの」
「・・・え?」
「んじゃ、又ね、じゃ、行きましょうか、カヲル君」
ミサトの脇にはカヲルが立っていた。
「・・・・」
「新しい同居人ね、エヴァンゲリオン弐号機の正規パイロット」
「そ・・・そんな・・・」
「ふっ、何を驚いているんだい?当然のことだろう?」
二人は去っていた。
「・・・そんな・・・・アタシ・・・アタシ・・・・」
「・・・こんなの嘘よ!!」
「そうよ、嘘に決まっているわ!!」
ヒカリが現れた。
「アスカ」
「・・・ヒカリ・・・」
「貴女のような乱暴者とはもう付き合えないわ、さよなら」
「嘘よ!!嘘!!これは悪夢よ!!」
「・・・憐れね・・・」
アスカを蔑み、ヒカリはそう言い残して去って行った。
次々に人が現れてはアスカを罵り、そして別れを告げて行く。
「嘘よ嘘よ嘘よ!!皆、皆、嘘よ!!!」
アスカは泣き叫びながらこの世界を否定し続けた。
「・・・アスカちゃん・・・」
キョウコが目の前に現れ、アスカの目が大きく開かれた。
「・・・マ、マ・・・」
 

ネルフ本部、第2発令所
「レイ!弐号機を回収!一旦、退くわ!」
「レイ、ドグマを降りて槍を使え」
突然の碇の命令、特にその内容に発令所が騒然とした。
聖槍ロンギヌスの槍、最強では有るが、それだけでは済まない。
「しかし!碇司令!それは余りにも問題があり過ぎます!」
「東京から緊急通信が入りました!」
耕一がメインモニターに映った。
『苦戦しているようだな・・・ところで、私に一つ案があるんだが、』
「・・・どのような?」
『今回の使徒だが、宇宙空間までエヴァを持っていけば良い、協力してくれるな?』
碇は奥歯を噛み締めた。
槍は使わなければ行けない。しかし、口実無しでは流石に使えない。
『零号機、弐号機の回収に入ります。』
零号機が光の中に入った。


地上、零号機、
「?・・・何?」
レイは何か妙な違和感を感じた。
何かに心が守られているような感じである。
ある程度覚悟していたのだが・・そんなものは訪れない。
レイは軽く首を傾げたが、直ぐに零号機で弐号機を射出口に運んだ。


アスカは現実に戻った。
既に回収されており、弐号機はケージにいる。
『大丈夫だった?』
キョウコに何か言われる寸前だった・・・もし・・・キョウコからも何かを言われていたら・・・アスカが考える事さえ怖くて放棄している事を言われたら・・・
現実ではない、嘘であると分かっていても・・・心が壊れてしまったかもしれない・・・
(・・・あれは全部嘘なのよ・・・そう・・・全部・・・大丈夫・・・アタシは大丈夫なのよ・・・)
「嫌な事思い出しただけよ・・」
顔色はかなり悪い。
『シンクロ率に多少影響が出ているけれど、この程度なら何とかなるわね、』
「・・・・どうなったの?」
『地上からの狙撃は不可能だったわ。』
『宇宙から直接叩くんだ』
耕一からの通信が入った。
「・・・、統監?」


第3新東京市上空を2機のウィングキャリアーが零号機と弐号機をそれぞれ搭載し、飛行しながら高度を上げている。
東京の方から大きな戦艦が護衛艦を伴いこちらへとやって来る。
「・・・あれが、東京の秘密兵器ね・・・」
リツコは、JAの製作発表パーティーの時の耕一の言葉を思い出した。
(考えてみれば、あの時よりも前から、大気圏外の使徒への対抗策を作っていたのね・・・)
(ネルフも当然何らかの手を考えておくべきだったかもしれないわね・・・東京が、死海文書を手に入れているかどうかは分からないけれど・・・当然予測されるべき事だったわね。予算の関係からそれが実現不能だったとしても・・・)
「先輩?」
「ん?・・何でも無いわ」
「・・・そうですか・・」
ウィングキャリアーは順番に収納された。
・・・・
・・・・
アスカとレイ、ミサト、リツコ、マヤの5人は案内されてブリッジへと入った。
耕一は5人の姿を確認して、近付いて来た。
「ようこそ、対使徒専用要撃艦A−001へ」
マヤはきょろきょろしている。
「凄いですね」
東京帝国グループの最先端の技術を駆使して建造された艦である。
「全システム稼動、」
彼方此方のライトが点灯した。
上部と左右前部の壁一面のモニターに次々に情報が表示されていく。
「単独の艦としての戦力は、地球連邦第2位、アースに次ぐ戦力だ。」
耕一が自慢げに話している。
「高度上昇中、現在13万」
「赤木博士と、伊吹博士に席を」
「はい」
リツコとマヤがサブオペレーター席に座った。
「作戦は?」
「今回、特殊艦を用意した。」
モニターに格納中の小型の特殊艦が2機表示された。
「あれが足場だ。」
「1機が先行してATフィールドを中和、もう1機がそれをサポート、最終的にこの艦の主砲で消し飛ばす。」
「私が先行するわ。」
アスカが志願した。
「分かっているの?」
「分かっているわよ。ラストチャンス・・・私には後は無いのよ・・・あんな奴には絶対に渡さない・・・渡さないんだから・・・」
ミサトはアスカの目をじっと見詰めた。
「・・・、いいわ」
「高度50万、目標、補足しました。」
遥か正面に使徒が見える。
「搭乗を始めてくれ」
2人はブリッジを出てエヴァに向かった。


弐号機は、特殊艦の上に固定されていった。
弐号機の回りには透明なシールドが展開されてる。
相当の強度がある。
『シールド展開率100%』
『固定完了』
「了解」
やがて、準備が完了した。
宇宙空間での作戦行動、勿論、経験等ある筈が無い。
まあ、実際には、弐号機の行動自体に大きな差が有るわけでは無いが、
『作戦スタート』
各艦は使徒に向けて砲撃を開始した。
『発進しますよ』
「いいわよ」
特殊艦は使徒に向けて一気に加速した。
・・・・
・・・・
使徒に急速接近している。
暫くは再びあの光を放とうとしていたようだが、あまりに高速で動いているため、狙いがつけられないようだ。
『使徒内部にエネルギー反応!』
「右へ」
使徒は数千のエネルギーの塊を放った。
特殊艦は右に交わした。
A−001は強力なシールドで防いでいる。
零号機が陽電子砲を放って使徒の気を引こうとしている。
陽電子はATフィールドの境界面を歪ませる程度の出力である。
上手く行ったのか使徒は零号機に対してエネルギーの塊を放った。
『目標到達まで70秒』
使徒は先ほどからエネルギーの塊を放ち続けている。
目の前が真っ白になり、弐号機に衝撃が走った。
(被弾した)
『シールド展開率87%に低下』
「・・・大きい」
使徒の姿がどんどん大きく見えてくる。
2q近くある。
『後50秒』
『弐号機上へ』
レイから通信が入った。
「上へ!」
『了解』
特殊艦は上昇した。
護衛艦の1隻が吹っ飛び衝撃波が走り、特殊艦が激しく揺れる。
『うろたえるな』
「こんな程度じゃうろたえたりしないわよ!」
『頼もしいですね』
零号機が被弾した。
「もっと速度を上げて!!」
『全開です!』
『後20秒』
衝撃が走った。
「もう少し!」
目の前は真っ白で何も見えなくなり、次々に衝撃が走った。
その間隔も短くなり一発一発の衝撃も大きくなってくる。
『シールド展開率11%』
シールドが破れ特殊艦が被弾し、爆発した。
宇宙に投げ出された弐号機はそのまま使徒のATフィールドに接触した。
「ATフィールド全開!!!」
弐号機のATフィールドが使徒のATフィールドを侵食して行く。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
使徒のATフィールドに大穴が開いた。
後方から凄まじいエネルギーの収束体が飛んで来てATフィールドの穴を通りそのまま使徒を貫通した。
弐号機は眩い光に包まれた。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
アスカは瞼を開けた。
弐号機は零号機に抱かれていた。
「・・・ファースト」
『・・・良かったわね・・・』
レイにそんな事を言われるなんて・・・アスカはどこか嬉しかった。
『任務、成功しました。』
特殊艦はA−001に帰還した。


ブリッジ、
「おめでとう、良くやってくれた。」
耕一に労われアスカは得意顔になった。
・・・
・・・
リツコがデーターをミサトに見せている。
「これで、又一つ倒したわね・・・でも、弐号機の破損は痛いわよ」
「へ?」
「爆発の直撃、そして真空に投げ出され、又使徒の爆発の直撃。修理には暫く掛かるわね」
「大した事ないっしょ?」
「予算がね・・・」
「・・・そうだったわね。」


夕方、第3新東京市郊外展望公園、
耕一はアスカを連れて、ここにやって来た。
只でさえ人が減っている第3新東京市、そして、この時間にこの場所、辺りに他の者の気配は全くと言って良いほど無い。
まあ、実際には、親衛隊が警護している筈だが、
「どうしたの?私をこんな所に連れて来て」
「アスカの事を話そうと思ってな」
「何が?」
「ま、座ってくれ」
勧められるままにアスカは耕一の横に腰掛けた。
「さて・・・アスカはなぜエヴァに乗っているのか聞かせてくれるかな?」
「そんなの、アタシの価値を他人に知らしめるために決まってるわよ、」
「・・・・本当にそうか?」
「どう言う事よ?」
「自分の価値を他人に知らしめるためならば、別にエヴァに乗らなくたって出来る。むしろ、ネルフが非公開組織である分、知らしめる事が出来ないくらいだ」
その通りである。アスカは軽く俯き、黙り込んだ。
「最初はともかくも、今はそれぐらい気付いているな」
・・・・
・・・・
「・・・もう一度聞こう・・・どうしてかな?」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「・・・不特定多数ではなく、特定の人物に認めてもらいたい、そう言う事か」
アスカは少し驚いたのか顔を上げて耕一の顔を見た。
「・・・ええ・・・」
「まあ、何人もいるだろうが・・・最も認めてもらいたいのは、惣流キョウコ博士だな」
ゆっくりと頷いた。
「・・・・叶わないと、分かっているんだろう。」
「・・・・」
「・・・・簡単には捨てきれない、そう言う事か?」
「・・・ええ・・・」
「・・・そして・・もうひとつ、自分がエヴァに乗れなくなったら、誰も相手をしてくれなくなるからか?」
驚愕の表情を浮かべた。
セカンドチルドレンに成ってからずっと、心のどこかでそれを恐れて来た。
そして、それは、常にトップでなくてはならない。そうでなければ、重要視されなくなる。
・・・そんな考えへとエスカレートして行った。
今や、どっちが主な理由なのかは分からない。
だが・・・使徒によって見せ付けられた悪夢、あれから未だ半日も経ってはいない。
今は、それが、エヴァに乗る理由ではないかとも思う。
「・・・ふむ・・・」
「・・・・」
「確かに、シンジ、レイは、元より、ミサト君、リツコ博士、そして、クラス委員長の洞木ヒカリに至るまで、全て、アスカが、セカンドチルドレンであったからこそ、出会い、知り合ったわけだ。それは間違いの無い事実だ。」
耕一の言葉にアスカの気持ちが落ち込んでいく。
「だが、アスカが、弐号機を下ろされ、エヴァに乗れなくなったら、その付き合いは消えてしまうほど薄っぺらな物なのか?」
「・・・・」
「洞木ヒカリ君が、アスカがエヴァのパイロットだから親友でいる訳ではないと、言うのは誰でも分かる事だから置いておくとして、」
「アスカが、エヴァを降りたら、ミサト君はアスカを追い出すのか?シンジは、弁当を作ってくれなくなるのか?」
・・・・・
・・・・・
「そんな薄っぺらい関係じゃ無いだろう・・・」
「・・・でも・・・」
確信が持てない、そして、否定されるのが怖い・・・ましてやあんな物を見た後では・・・
「・・・何故そこまで、恐れる?・・そんなにも、自信が無いのか・・・」
「・・・・」
「セカンドチルドレン・弐号機専属操縦者と惣流アスカラングレーは同義ではない。・・・それは所詮、アスカの一面、付加価値ににしか過ぎない。」
「・・・・」
「・・・大体、そんな一面しか見ず、それ以外の部分、本質を無視するような者との付き合いで、アスカは良いのか?」
どうであろう?・・・嫌かもしれない。
「シンジやミサト君がそんな表面でしかアスカを見ていない。表面でしか触れ合おうとしていないような者だとでも思っているのか?それは、ある意味侮辱だと思うぞ、」
シンジやミサトが、アスカの本質を見てくれているとしたら、それは確かに侮辱かもしれない。
「・・・そうだな、シンジやミサト君達といっしょにいると色々と心地良いんじゃないのか?」
「・・・・え、ええ・・・」
「それは、アスカの他の部分、本質を見てくれるからじゃないのか?・・・それを無意識の内に感じているからではないのか?」
(・・・・そうかもしれない・・・・・アタシ・・・・・セカンドチルドレンであることに全てをかけているけど・・・・・・・・・誰かに否定してもらいたかったのかも知れない・・・・・・アタシの価値はそれだけじゃないって・・・・・・加持さん・・・・・統監・・・・・・シンジ・・・・・・)
アスカが好き・・・そこまでは行かなくてもそれなりの好意を持っている人達・・・
皆そう、アスカが弐号機パイロットである事をそんなに気にするような者ではない。
まあ・・・シンジの場合は・・・別の問題があってちょっと・・・なのだが、つい手が出てしまうと言うのは、流石に恥ずかしいので黙っている。
「それに、アスカがエヴァパイロットである必然性も、もう直ぐ終わりを告げる」
「?、どう言う意味?」
「エヴァテクノロジーの開発には、何も高いシンクロ率と高い戦闘能力を持つパイロットが必要なわけではない。」
「・・・」
「死海文書に記述されている使徒・・・第壱使徒アダム、第弐使徒リリス、第参使徒サキエル、第四使徒シャムシェル、第伍使徒ラミエル、第六使徒ガギエル、第七使徒イスラフェル、第八使徒サンダルフォン、第九使徒マトリエル、第拾使徒サハクィエル、第拾壱使徒イロウル、第拾弐使徒レリエル、第拾参使徒バルディエル、第拾四使徒ゼルエル、第拾伍使徒アラエル、第拾六使徒アルミサエル、第拾七使徒タブリス、既に、アラエルまで殲滅された。」
「まさか・・・・」
・・・後、たった2体?・・・
「エヴァには、何時までも拘るほどの価値は無い。特にアスカのように多彩な天才にとってはな」
セカンドチルドレン・エヴァパイロットの価値を否定する一方で、誉め、アスカの価値を認める事も忘れない。
「・・・・・」
「じゃあ、何でネルフを手に入れたがってるの?」
素朴な疑問、気になる事である。まさか戦略に?だが、世界の政治・経済・軍事全てを握る耕一にそれが必要だとは思えない。いくらエヴァが強くても、それは所詮地上での話、事実、成層圏の直ぐ外にいるだけであれだけ苦労した。
「それは、次の使徒と戦う為だ。死海文書に記述されていない使徒、いつ到来するか、何体存在するかもわからない、次の使徒と戦う為だ、」
「・・つまり、私達が生きているかどうかも分からない」
「まあ、そう言う事だ。」
「・・・私首なの?」
やはり、不安な声で有る。
「それは無い。数年の内に来る可能性もある。」
「でも、使徒が来なければ、さほどの価値のある職でもない・・・・」
「そうだ」
アスカは軽く俯いた。
「私からエヴァを取ったら後に残るものは・・・」
「客観的に言って、容姿、知能、身体能力、一応他人が羨む物は一通り持っているな」
「・・・そうね・・・」
アスカは、余りにエヴァに執着し過ぎていた事に気付いた。
いや、改めて確認したに過ぎない・・・
分かっていた。只、目を背けて来ただけである。
「エヴァに乗ることが目的になってはいかん。目的・・・例えば、自分の大切な者を護る為に乗り、戦う、等と言った、結局は手段に過ぎない。」
「・・・・そう・・ね・・」
「ゆっくり考えてみると良い」
「・・・ええ・・・」
「友人、仲間、恋人、自分の支える者はいくらでもいるし、いくらでも作る事が出来る。どんな人間にも短所と長所がある。自分と付き合う人間の本質を見る事だ。それだけでも、自分の世界の見方が変わる。」
「・・・そう・・」
「送っていこうか」
いつしか日は沈み、辺りは、暗くなっていた。
 

あとがき
いよいよですね。
アスカと耕一の話、しかし、その中で、耕一は結構大変な事を言っていますね。

次回予告
人が次々に去って行く第3新東京市、
シンジが楽しいと感じた日常が消えて行く、彼は残されたこの日常を守りたいと思う。
だが、事態は、少年の想いとは無関係に進んで行く。
残された日常には既に陰りが見え始めていた。
ネルフからの帰り、シンジはレイと二人で歩いて帰る事にする。
その時二人の間で交わされた話とは?
次回 第参拾七話 最後の日常