背徳

◆第7話

 ネルフ本部の起動実験室では、新型エヴァ03の起動実験の準備が着々と進められていた。
 今ユイとマヤが司令室でデータを確認している。
「どうですか?」
「…そうね、こちらは問題ないわね」
「では、後は開始を待つだけですね。」
「そうね…」
「じゃあ、そろそろ呼んできてもらえるかしら?」
「はい」
 職員がミサを呼びに司令室から出ていった。


 それから、半時間後、ミサが搭乗し全ての準備が整った。
「では、これより起動実験を開始します」
 ユイの言葉で起動実験が開始されオペレーター達が一斉に機器を操作し始める。
「順調です。今のところ何も問題ありません」
「そう…」
 ある意味分かっている当然の事でもあるが、それでもどこか少し安心する。
 暫くの行程の後、03は無事起動した。
「起動しました。シンクロ率などは01に比べるとやや低いですが、調整することで01に近い値に出来ると思います」
「そう、じゃあその辺りはお願いするわね。私はシンジに会ってくるわ」
「分かりました」
 ユイは司令室を出て総司令執務室に向かった。

 
 そのころ、総司令執務室ではシンジと蘭子が話をしていた。
「……ゼーレがですか?」
「おそらくは…」
 二人が話しているのは先日中国の軍事兵器研究所が襲撃され、大型輸送機の試作器が強奪されたと言うことに関してである。
「……大型の輸送機、エヴァでも運ぶつもりか?」
「エヴァの高速輸送を目的とする物であるという疑いのある輸送機でもありましたから、先の艦隊襲撃の件と繋がりますね」
「奪われた輸送機のステルス性は?」
「決して低くはないですね、軍事機密のため詳細は公表されていませんが、諜報局が入手した情報では、現在ネルフ本部が使っているウィングキャリアーよりは上のようですね」
「拙いですね…発見が難しいと」
「現在東京軍はその警戒レベルを1つあげていますが、場合によってはさらなる引き上げも必要かもしれないと言う意見も出ています」
「戦自と自衛隊は?」
「戦略自衛隊はまだあげていませんが2つほど引き上げることを検討していると言うことです。自衛隊の方はその性質上、引き上げることはないのではないでしょうか」
「しかし、ゼーレの今の力で必要数を揃えられるとも思えないし、ましてや東京とネルフ本部をうち破るなどと言うことは不可能……何か仕掛けてくると見た方がいいですね」
「そう見てまず間違いないと思います。会長は警戒はするがもう少し様子を見たいと仰っておられましたが」
「様子見…ですか」
「司令はどのように考えられますか?」
「そうですね……、罠を張りますね」
「罠ですか?」
「ええ、例えば…ダミープラグを輸送させてそれを襲わせるようにし向けるとかですかね」
「…リスクが大きくありませんか?相手側にカードを渡してしまうことになりますし」
「かもしれません。まあ、これは例えでしかありませんが、」
「そうですか…」
「まあ何にせよゼーレ側の状況を知らなくては始まりませんね。家の諜報部にも輸送機の関連を調査させます」
「お願いします」
「…それで……誰か来たようですね」
『私だけれど、いいかしら?』
「ユイ博士ですか」
「ええ」
「では私はこの辺りで帰ることにしますので」
「そうですか…どうぞ」
 シンジはボタンを押してドアを開いた。
「…蘭子さん」
「おじゃましました。それでは、私はこの辺りで」
 蘭子は軽く二人にそれぞれ頭を下げて執務室を出ていった。
「…シンジ、何の話をしていたのか教えてくれないかしら?」
「…母さんは知る必要のないことですよ、」
 暫くお互いの目をじっと見据えていたが、シンジは何を言っても喋ることはないだろうと言うことを悟ったユイの方が先に力を抜いた。
「そう……、ところで、03の事だけれど、無事起動したわ。突貫で調整を行えばすぐにでも戦力に出来ると思うわ」
「そうですか、それは良かった」
「それと、ミクの事なんだけど、又時間が出来たら会ってあげてくれないかしら?」
「考えておきます」
「今の時点で言わなければいけないことはそのくらいね」
「御苦労様…、ミクの事これからもお願いします。」
「分かっているわ…」


 そのころ、ミクは学校で安齋達と話をしていた。
「ふ〜ん、そんなことがあったんだ」
「ああ、強奪された大型輸送機はかなりステルス性が高いという話もあるし、やっかいなことになるかもしれないな…とは言ってもそんな者をちょっとやそっとの組織が隠しておけるはずもないし、後ろに国かそれに匹敵するような大きな組織がついているんだろうな」
「う〜ん、ロシアあたりかしら?」
「単なるテログループじゃさすがに難しいね」
「そうね・・・」
 4人とも先の大西洋艦隊襲撃の件と結びつてはいたがミクの事を考え、又ミク自身も余り考えたくはなかったと言うこともあり、敢えて話には出していなかった。
 チャイムが鳴って授業の開始が告げられたとほぼ同時にミクの携帯が鳴った。


 ネルフ本部の発令所のメインモニターには大きな目玉と無数の触手のような物が生えた物体が映っていた。
 …今度のは又気持ち悪いな…と誰かのつぶやきが漏れた。
 シンジとユイが発令所に入ってくる。
「どうなっている?」
『はい、目標は現在、日本海を南東・ここ東京を目指して時速450kmで進んでいます』
「…ふむ、周囲に展開されている軍は?」
『…近くを海上自衛隊の護衛艦隊が航行中です』
「ミサイル攻撃を要請しろ」
『了解!』
「それと、侵攻ルート上にある各自衛隊と戦自の基地に出撃要請をだせ」
『『了解』』
「チルドレンとエヴァは?」
『先ほど03の調整は完了しました。5分以内に02、10分以内に03が、20分以内に初号機が出撃可能です』
「03の出撃準備が揃い次第02と03をウィングキャリアーで上陸予測地点付近の適当な場所に輸送しろ」
『わかりました』
 ユイは作戦マップをじっと見つめた。


 日本海の沿岸にエヴァ2機含むネルフ軍と戦自や自衛隊、東京軍の部隊が集結していた。
 発令車に日向が乗って現地の指揮を行っている。
「どうだ?」
「配置は完了しました。目標は後30分ほどで射程に入ります」
「そうか、」
「映像もう一度確認しますか?」
「ああ、頼む」
 モニターに使徒と海上自衛隊の艦隊と航空自衛隊の航空機が映る。
 艦隊と航空機からそれぞれミサイルや砲弾が使徒に向けて放たれるが、ATフィールドによってそれらを全て弾く、そして触手の内のいくつかをのばしてそれを振り下ろすことで航空機を次々に切り裂く、
「やはり触手がやっかいだな…近距離では手数が非常に多くなるからな。当初の予定通り遠距離攻撃でしとめる」
「分かりました。」


 そのころ、日本東海に光の玉が現れ、その光の玉は一直線に日本に向かい始めていた。
 ネルフ本部の発令所はその情報が入るなり一気にあわただしくなった。
『パターン確認中、暫くお待ちください』
マヤ達がパターンの分析をしている。
「…使徒の同時進行?」
「その様ですね…」
『出ました!パターンブルーです!!』
「直ちに各軍に出撃命令、並びに作戦ポイントを選び、直ちに初号機を輸送しろ」
『『『了解!!』』』
 使徒の同時侵攻への対応に向けてネルフが一斉に動き出した。


 海岸に東京軍と戦自の中心とする部隊が展開されており、そこに初号機が到着した。
『いい?まだ目標の能力は良くわかっていないわ、はっきりとするまでは迂闊に近づかないでね』
 ケンスケはいなくなり、日向は日本海側で指揮を執っていることもあり、シンジとユイが直接指揮を執っている。
「うん、わかった」
 ミクはそう返事してからモニターの望遠映像をじっとにらんだ。
 使徒はこちらにまっすぐ向かっている。
 そして東京軍の艦隊や各軍の航空機編隊が使徒に向けて攻撃を開始するが、やはりATフィールドによって全て弾かれ、使徒はそのままこちらに向かってくる。
『目標射程距離まで30』
 初号機はスナイパーライフルを構え照準を合わせた。そして射程距離にはいると同時に引き金を引き撃つが、この距離ではATフィールドが中和できるはずもなく砲弾はATフィールドによって弾かれる結果となった。
 使徒から攻撃することはなくそのまま猛攻を浴びつつ沿岸に近づいてくる。
「接近戦に入ります」
 初号機はプログソードを手に使徒に向かって駆ける。
 海の中にまで入り、中和距離にはいると同時に、ATフィールドを中和する。
 その瞬間、無数の攻撃が使徒を突き抜けた。
「え?きゃ!」
 沖の方から放たれた砲弾が使徒をすり抜け初号機に命中し吹っ飛ばされた。
「いつつ」
『なんだ、いったい?』
「どうするの?」
 使徒への攻撃は使徒の体をすり抜けていく、これでは倒しようがない…
 突然使徒の周りが暗くなったかと思うと、次の瞬間使徒の周りにいた部隊は一瞬にして消え去った。
「えっ!?」
『なに?…ミク!すぐにそこから離れろ!』
 シンジの指示に従ってその場を離れる。
 その直後再び使徒の周りにいた部隊は一瞬にして消え去ってしまった。
「あれが、攻撃なの…」
 ミクは恐怖を感じていた。
『時空間をゆがめて、その歪みに引きずり込んでいるようです…』
「そんなの…」
 おそらく食らってしまえばそれまで…ATフィールドならば防げるかもしれないけれど、中和距離ではそれは意味がない。
 ミクは恐怖を持って光の玉の使徒を見つめた。
「…?」
『ミクちゃんどうしたの?』
「…影、」
 ミクは発光しているはずの光の玉の使徒に影があることに気づき、又ミクの言葉でユイもそのことに気づいた。
『分析させます!』
『一端全ての部隊は距離をとれ!』
 そして、使徒の上陸後1分ほどで、スーパーマギの判断が出た。
『使徒の本隊はあの影の方よ、』
「影が本体…」
『ATフィールドを中和し、それと同時に全火力を影に集中させる事で倒す』
 ミクはゆっくりと頷いた。
『モニターに作戦までのカウントと作戦地点を表示させるわ、許される誤差はおよそ1秒よ』
 モニター、そして上陸し東京に向かって侵攻している使徒を見つめる。
「うん、頑張ってみる」
『よし、では、実行しろ』
 モニターに表示されているカウントが減っていく、
(いかなきゃ)
 ミクは初号機を使徒に向かって走らせ、そして、のこり3秒と言うところで中和距離まで到達し、一気にATフィールドを中和した。
 次の瞬間、周囲一体からすさまじい数の攻撃が使徒の影に向かってかけられ、すさまじい爆発を引き起こし、初号機はその衝撃ではじき飛ばされた。


 ミクは病院のベッドの上で目を覚ました。
「…ここは?」
「目が覚めたようだな」
 ミクが声の方に視線を移すとシンジとユイがベッドの脇の椅子に座っていた。
「お父さん、ユイさん」
「ミクちゃん御苦労様」
「良くやったな、ミク」
 二人から労われ、ミクは嬉しげな笑みを浮かべた。
「ところで、来週の日曜日に時間とれるか?」
「日曜?」
「ああ、その日は予定をあけれそうだから、どこかに一緒に行こうかとも思ってな」
「うん♪約束だよ♪」
「ああ、約束だ」
 その後暫く話をした後、シンジは病院を後にした。


 東京帝国グループ総本社ビル会長室にシンジが入ると耕一が待っていた。
「失礼します」
「ああ、良く来てくれた」
 ソファーに座る。
「早速だが…先の使徒の同時侵攻を何とか切り抜けることが出来たが、もし、今後も発生するようであれば、エヴァ3機では十分とは言いづらい」
「…分かっています」
「そうか、」
「具体的にはどうする?」
「…新たなチルドレンの選出、でしょうね。エヴァ自体は余っているわけですし」
「そうか…」
 ダミーシステムに関してはやはり思うところがあるか、そう続くような言い方でもあった。
 シンジはファイルを机の上に置いた。
「…一応、新たなチルドレンとして使える可能性のある候補の一覧です」
 耕一はファイルをぺらぺらとめくって目を通した。
「当たり前と言えば当たり前だが…厳しいな」
「……」
 エヴァ自体があわせられていたところがあるシンジやレイ、あるいは長い間訓練を受けてきたアスカやミサ、リコ…そして適格者同士の子であり、ある意味最高の素質を備えているミクとは訳が違う……そうそう戦力となり得るような者がいるわけがない。
「……」
「……」
 二人はじっとお互いの目を見据えあう。
 そして、そのまま半時間ほどが経ち耕一の方が肩の力を抜いた。
 お互いに世界を救う、生き残ることなどを第1目的にしているわけではない、後の世界に生き残ってもそれが意味のない物になっては、結局は敗北であるし、又、その存在価値に触れるようなことは出来る物ではない。
「…仕方ないな、これを当たると同時にこちらでも色々と当たってみよう」
「…お願いします…」

あとがき
すみません。前回の更新から随分間が空いてしまいました。
う〜ん・・・話を覚えている人がどのくらいいるのか少し心配です。
まあ、その話はこの辺りにして、内容に入ると使徒の同時侵攻が出ていますね。
実際エヴァ3機で同時侵攻をされてしまうと、1機で相手をしなくてはならなくなり、
有利に戦いを進めることが難しくなり、
更に本部を空にするわけにも行かなくなってきます。
さて、これから、どういう風になるんでしょうね。
それでは、いつになるか分かりませんが、次の話で、