背徳 逆行編

◆最終話

ネルフ本部、チルドレン待機室、
二人ともプラグスーツに着替えて待機している。
ふと二人の視線が合い、シンジは先ほどの事を思い出して、か〜っと赤くなり、それを見たレイも頬を赤らめて軽く俯いた。
通信モニターにユイが映った。
『シンジ、レ・・あら、』
「か・・義姉さん」
『お邪魔だったかしら?』
ユイは面白そうに軽く笑っている。
「い、いや、からかわないでよ」
『ええ、そうね』
真剣な表情に戻した。
『・・・艦隊が敗北したわ、もう直ぐ量産機がここに来るわ』
「・・・そう」
『貴方達にお願いするしかないわね、第3新東京市市内には、参号機を配置するわ』
二人は頷き、立ち上がった。
そして、待機室を出て、ケージに向かった。
二人手を繋いで、いっしょに・・・


無数のミサイルが箱根の外輪山を抜けた。
第3新東京市やその付属都市の付属防衛施設からも無数のミサイル迎撃が行われ、次々に空中で爆発させていく。
だが、その飛来するミサイルの数が余りに多すぎる。
そして遂には航空防衛ラインを突破された。
迎撃しきれなかったミサイルが次々と防衛施設を破壊していく。
すると途端に迎撃能力が下がり、無数のミサイルが雨霰と第3新東京市に降り注いだ。
ミサイル攻撃が止んだ時、既に兵装ビルは粗方破壊し尽くされ、第3新東京市の防衛機能は著しく低下していた。


ネルフ本部第1発令所、
「現状で使える施設は!!?」
加賀の問いにオペレーター達はモニターの表示に目を走らせた。
「14番と36番、それと115番の射出口は使用可能です!!」
「96番、11番、36番の射出ビルも使用可能です!」
「対空迎撃ビルは残っていません!!」
次々に報告が入る。
「戦自に陸自と空自・・・どれだけ頑張ってくれるかにかかるな」
「参号機を射出!!」
参号機は囮に使用される。
「零号機は!!?」
「既に作戦準備を終えています」


第3新東京市の市街地の中に参号機が射出された。
辺りは瓦礫の山である。
「ナツ、兄ちゃんが守ったるでな」
トウジは操縦桿を参号機はトールハンマーを握り締めた。
量産型エヴァが天を舞っている。
「はよ降りてこいや!」
トウジは上空で旋回を続けている量産機に向かって叫んだ。
量産型エヴァはロンギヌスの槍のコピーは持ってはいない、どうやら先の戦いで消滅したようだ。
尚、JAは、反撃が怖いのでとっとと燃料を抜かれて停止している。
他の軍隊も連合軍の進行を食い止めるのが精一杯である。
量産型エヴァはゆっくりと参号機を取り囲むように着陸した。
「うおりゃああああ!!!」
参号機はトールハンマーを手に一体を目指し走った。
量産機は空中に飛び上がって攻撃を交わし、複数で参号機を取り押さえた。
そして、口を大きく開け、参号機に齧り付いた。
「ぎいやあああああああああ!!!!!!」
トウジは生きながらに捕食される激痛にのた打ち回った。
その時、突然双子山の山頂付近が光り、量産型エヴァを青白い光が貫いた。
ポジトロンスナイパーライフル。
ミサトのヤシマ作戦が数ヶ月遅れで、漸く今実行されたのである。
第2射、第3射と続けざまに発射している。
ラミエルの時のようにふざけた出力のATフィールドではない、出力を落として、連射を可能にしている。
無論、戦略自衛隊による大幅な改造が施されている。
耐久性、速射性、エネルギー効率、何もかもが各段に上である。
次々に量産機が打ち抜かれ、再生に入った。
参号機は血を撒き散らしながら起き上がりトールハンマーを再生中の量産機に振り下ろした。
量産機は圧倒的な質量に押し潰された。
トウジはもう一度振り下ろし残骸を完全に破壊した。
既に、15射目となっている。
4機の量産機が双子山へと飛んだ。
変則的な動きで陽電子ビームを交わしてはいるが、時々着弾する。
そして、それが動きを止め、次を食らいダメージを受け、更にもう一撃くらい地面に落下する。
逸れたビームは、第3新東京市市街に着弾し火柱を上げている。
結果、1機のみが双子山迄辿り着いた。
零号機が起き上がった。
「レイ、行くよ」
「ええ」
スナイパーバイサーを上げながらレイが答えた。
零号機はプログソードを手に取った。
零号機はこの最終決戦でも未だ改造を受けておらず、橙色のカラーリングである。
暫く膠着状態が続いた。
只でさえ基本能力が違うのに、既に量産機に勝ち目は全く無い。
だが、零号機にも、上空の量産機は攻撃できない。
しかし、ユイは、こうなるであろう事は予想していた。
突如量産機のATフィールドとボディが貫かれ、落下した。
零号機は落ちて来る量産機を切り刻み、強力なATフィールドで残骸を圧壊させた。
マスドライバーである。
他の新兵器と違い、目標への照準が難しく、静止している必要がある。
まあ、エヴァを砲台にすれば話は別だろうが、現状ではそれは不可能である。
後、七機、
零号機は、双子山を駆け下り第3新東京市に向けて走った。


第3新東京市では、参号機が3機の量産機と戦っていた。
既に装甲は殆ど崩れ、左腕もなく、内臓がはみ出していた。
「うおおおお!!!!!」
トウジは激痛を振り払い、量産機に攻撃を仕掛けるが、のろのろとした動きで全く当たらない。
量産機は崩れた兵装ビルからソニックグレイブやアクティブソードなどを取りだし参号機に襲い掛かった。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
参号機は切り刻まれトウジは意識を失った。


零号機、
『参号機がやられたわ、後、6機よ』
零号機の前に修復を終えた2体の量産機が現れた。
「行くよ」
レイは頷き、シンジは零号機を量産機に向かって走らせた。


ネルフ本部、伊吹研究室、
マヤは、バックアップとデータ処理に追われていたが、ユイはマギコピーを使って世界中を監視していた。
今回、ゼーレ側にオリジナルのロンギヌスの槍が存在する。
ユイはいつロンギヌスの槍が投入されるのか、はかりかねていた。
ゼーレにとって、ロンギヌスの槍は神具であり、兵器ではありえない、だが、このまま行けば、量産機は全て敗退し、そうも言っていられなくなる筈である。
ここで、インパクトを起こすつもりならば、必ず、短時間でここまで運べる場所にロンギヌスの槍があるはずである。
一体どこにあるのか、一体どのような方法で運ぶのか、それを探していた。


ゼーレ、
「零号機が動いた」
「伊吹博士が生きていたのだ。ファーストチルドレンも生きていた筈だな」
「何故見逃した?」
「むう」
「或いは、行方不明のサードチルドレンやもしれん」
「このままではジリ貧だぞ」
「構わん、所詮内部電源は10分しか持たん」


第3新東京市、零号機、
零号機は、レイのSS機関で動かしていた。
勿論、ユイとマヤ以外は知る由も無い。
既に、10分以上が経過しているにも関わらず、零号機は果敢に戦っている。
まあ、後で調べれば、SS機関を搭載していなかった事ぐらいは簡単に分かり、不思議がるだろうが、よもや搭乗者が動かしているなどと気付く者はいる筈が無い。
量産機は瓦礫の中からソニックグレイブやスマッシュホークなどをだけでなく、パレットガンや円環式陽電子砲まで手に入れそれらを武器に戦っている。
「はああ!」
零号機は又1体切り刻んだ。
「シンジ君右」
シンジはレイの声と共に右へと跳躍した。
その瞬間先ほどまでいた地点に、円環式陽電子砲から放たれた陽電子が着弾していた。
零号機は又1体を切り刻みATフィールドで圧壊させた。
残すところ四機。


ネルフ本部、第1発令所、
作戦マップを見る限り、上陸しての戦いに移っている様だ。
数は圧倒的に劣るが、新兵器や、地の利を生かし、何とか食い止めている。
もはや只、戦局を見守る事しか出来なかった。
全職員が祈るような気持ちで、作戦マップとメインモニターのエヴァ対エヴァの戦いを見ていた。


第3新東京市、零号機、
量産機は次々に波状攻撃を仕掛けてくる。
連携が完全に整うと流石に反撃の機会も無く、防戦一方である。
「くっ」
「シンジ君」
レイが、心配そうな瞳でシンジを見詰める。
「大丈夫だよ」
零号機は猛攻を躱し凌ぎ、何とか現状を維持している。
しかし、このままでは、やがて疲労でこちらが先に参るのは目に見えている。
『シンジ、レイ、マップの作戦ポイントまでおびき寄せて』
モニターにマップが表示され、×印と紫の○、白い○が4つ表示された。
「分かったよ」
零号機は作戦ポイントに向けて徐々に後退して行く。
作戦ポイントは丁度大通りが交わる交差点だった。
量産機がその中心に来た時、一閃、マスドライバーから発射された弾が、1体を貫いた。
この瞬間零号機が一気に攻勢に転じ、攻撃を受けた量産機を沈黙させ、直ぐさま次の機体へと攻撃を仕掛けた。
3体では、零号機相手に満足な戦いが出来ない。
直ぐに量産機は劣勢となり、次々に沈黙させられた。
その後で、零号機はATフィールドで圧壊させ、今、最後の量産機を破壊し、全て片付けた。
「はあ、はあ・・・次は?」
シンジは荒い息をついている。
「・・・来る・・・」
何かを感じたのか、レイは天を見上げた。


ゼーレ、
「仕方ない、補完計画は中止だ」
「何故こうなった」
「今更その様な事を言っても始まりはしない」
「・・・我らに刃向かいしものを一掃する。」
「ネルフと日本を消す。」
「自らを罪を身をもって感じ、そして消えるが良い」
「我等は只では引き下がらんぞ」


第3新東京市上空に巨大な人工衛星が浮いていた。
中央にはロンギヌスの槍が固定され、そして、その先端は、第3新東京市を向いている。
誤差修正が完了し、様々な準備が完了した。
ロックが外され、開放された圧縮ガスの圧力でロンギヌスの槍が発射された。
ロンギヌスの槍は第3新東京市に向けて一直線に向かい、そして、加速している。


ネルフ本部、伊吹研究室、
「来たわ!」
モニターには第3新東京市を目指すロンギヌスの槍が映っていた。
「シンジ!レイ!ロンギヌスの槍よ!!」


第3新東京市、零号機、
「行くよ」
「ええ」
二人はATフィールドのみに集中した。
凄まじく強靭なATフィールドが展開された。
零号機のATフィールド、シンジのATフィールド、レイのATフィールド。
それぞれが共鳴し、更に数倍の強度へと変化する。
完全なる絶対領域、それは、いかなる物もその境界を通過できない。
ロンギヌスの槍がATフィールドに着弾した。
凄まじいエネルギーが迸り、周囲を光の海に変え物体を蒸発させていく。
「ぐぐぐぐぐぐ!!」
「ううううう!!」
二人は必死で領域を確保している。
だが、少しずつ、ロンギヌスの槍はATフィールドを突き進んでくる。
絶対に破れない筈なのに・・・そのATフィールド自体を突き破るかのように進んでくる。
そして、ロンギヌスの槍の先端がATフィールドを突き破り内部へと侵入した。
シンジはもはやこれまでかと思い、目を閉じた。
しかし、何時までたっても何も動きは無かった。
目を開くと、ロンギヌスの槍は丁度半分ほどが侵入したところで止まっていた。
ロンギヌスの槍はATフィールドの解除と共に、地面に落ちた。
「・・終わった・・」
「・・ええ・・」
戦いに疲れ果てた二人は寄り添いながら安らかな眠りへと落ちていった。


最終作戦、核の一斉射は大国がゼーレの敗北を確信して見切りをつけ、日本政府が大国にとってもそれなりに有利な講和条件を提示した事で、その直前で止められ、ゼーレは敗北した。 

あとがき
遂に長かった戦いも漸く終わり、二人は幸せを手に入れられるようですね。
皆が、どうなったかは、エピローグで