背徳 暗黒編

◆第10話

ファースト、サード、6thチルドレンの死亡の報は瞬く間に世界中の関連機関や関連組織に広まった。


ネルフ本部では、多くの職員が恐怖を感じていた。
第1発令所、
「・・アスカに続き、今度は3人も・・・」
青葉が呟くように日向に言った。
日向は正式に作戦部長に就任したが、二人は同期の友人として会話している。
「そうだな・・・」
「エヴァはどうするんだ?動かないエヴァが3機も・・・」
「・・・マヤ・・いや、伊吹博士の話では、松代の実験場で訓練を受けていたフォースとフィフス、参号機と四号機をここに持ってくるそうだ」
「・・・素人が・・使えるのか?」
「・・・さあな・・・」
シンジも素人の筈だった。元からネルフは素人を使うつもりだったのだ、
だがそんな事を覚えている者はいない。
それに、シンジは素人ではなかったのだから、
「・・・委員会、いやゼーレは、ネルフと争うつもりか・・・」
「・・人間同士の戦いにならないと良いけどな・・・」
「・・そうだな・・・」


協力者の二人を失った事で日本政府は対応に悩んでいた。
第2新東京市新千代田区、首相官邸第2執務室、
竹下は組んだ手に額をつけて考えていた。
このままネルフに協力して良い物なのか・・・
ネルフの側の計画が発動してしまうのではないか・・・
しかし、放っておくわけには行かない・・・
ゼーレ側の計画の発動を許す事に成る。
どうすれば良いのだ?
彼は、ゼーレ側に関しては詳しい情報をよこした。
だが、ネルフ側の計画に関しては、最も重要な要素は既に欠けています。その状態でインパクトを起こしても、又不発するだけです。と語っただけで、大した情報はよこさなかった。
その最も重要な要素とは何だったのか・・・そして、それは今も欠けたままなのか?
ネルフの計画は実行不能なのか或いは可能なのか・・・・
分からない。そして、何を基準にすれば良いのかも分からない。
判断する事が出来ない・・・


ゼーレは事が全て上手く運んだと勘違いした。
「タブリスの一件、まさに理想的な形で進んだな」
「ああ、タブリスと引き換えに、ファーストとサード・・・厄介な二人を処分できたのだ」
「左様、もはや、参、四号機とフォース、フィフスしか残っておらん」
「たった2機、それも、素人同然の者で何が出来るか」
「我等の絶対的有利だ」
「いよいよ、最後の使徒が訪れる」
「最後の使徒と相討ちしてくれるのが一番ありがたい事なのだがな」
「だが、アルミサエルが勝てば如何なる?」
「本部最後の攻撃は、本部施設の自爆だよ」
「成るほど」
「さすれば労せず補完計画が発動できる」
「勝利と未来は我等にあり」
「碇、ネルフ、そして、日本には死を」
「終末の狭間へと誘ってやろう」


数日後、ネルフ本部に、戦自の支援も受けて参四号機とイヴが運び込まれた。
イヴは偽装工作がなされ、参四号機の予備のパーツ群として運び込まれたが、あのサイズでは気付く者も出てくるかもしれない、いや恐らく出るだろう。
だが、その能力までは分からないだろう。
単なるエヴァ、せいぜい、新型のエヴァと思うのが精一杯である。


ネルフの大型トレーラーの行列が高速道路を走行している。
その中の一つにヒカリは乗っていた。
視界に第3新東京市が見えてきた。
ヒカリの目には、住み慣れた故郷とでも言うべき物ではなく・・・戦場としてしか映っていないだろう。
「・・・第3新東京市・・」
思い浮かべるのは級友の姿ではなく、これから戦う事になる目標、エヴァ量産機、そして、自らがイヴを駆り、それを破壊する光景であった。
やがて、第3新東京市に入りあちらこちらで街が破壊されている光景が目に入った。
巨大なクレーターも出現している。
「・・どうかしたの?」
反対側の窓際に座っていたマヤが問い掛けて来た。
「・・いえ」
特に感慨は無い。あのクレーターの中に友人の一人の家があった筈である。
だが、戦場で人が死に、物が破壊され、場合によっては地形さえも歪められ破壊されるのは当然の事である。
実際、避難指示が出され、第3新東京市から一般人は次々に逃げ出している。


3日後、ネルフ本部、技術棟内特別病室、
ベッドに横たわるトウジの手をヒカリが握り、語りかけていた。
「鈴原、私が必ずゼーレを潰すわ」
「鈴原が受けている苦しみ、奴等にも味わわせてやるわ」
ヒカリは立ち上がり、訓練を受ける為に病室を出た。
シュミレーション司令室から連絡が入ると、医師達がトウジに薬を投与し、覚醒させた。
そして、トウジは別の場所でシュミレーション訓練を行うのである。


一方、ケンスケは、他の二人とは接点を持たせずに、黙々と訓練を続けさせている。


ダミープラント、
レイはカプセルに入れられデータを取られている。
「・・ふむ」
マヤはデータに目を通している。
完全に心を閉ざしている。これならば補完計画の媒体には最適であろう。
しかし、マヤは補完計画の完遂は望まない。
ネルフの進める計画の完遂は、碇ユイの復活を意味する。
ユイの復活は恐ろしい。
女として碇に捨てられるだけではない、
科学者としても・・・
ユイの開発した初号機を超えるためにあれだけの事をした。
しかも、ユイの開発した理論を踏み台にし、マギを初めとする電子制御技術の発展、そして、10年もの年代の開き・・・
もし、今、ユイがいたとしたら・・・
少なくとも、イヴでは勝てないだろう・・・
・・・・
・・・・
・・・・
データの中に気になる点が出てきた事に気付いた。
「・・・」
マヤはそのデータの指し示す意味を考え、にやりと笑みを浮かべた。


残すは、アルミサエルのみ、そして、遂に、アルミサエルが襲来した。


ネルフ本部、第1発令所、
アルミサエルの映像が映っていた。
「零号機及び弐号機を射出、囮とし零距離自爆をしかけろ」
碇の命令は全ての者を驚かせた。
「しかし!!」
日向が叫んだ。
「第3新東京市に民間人はいない。戦力はゼーレと戦う為に温存しなければ成らない」
日向は俯いた。
この行動で第3新東京市は消え去る。
多くの者が、夢見た新都市、そして、又多くの子供が生まれ育った町、無数の想いが詰まった第3新東京市、それを消し去るのだ。
「・・了解、しました。」
「零号機と弐号機を45番と46番の射出口から射出」
両機が射出された。
「自爆準備」
アルミサエルは、紐状に変化し、両機の様子を窺っている。
暫くして、どうやら安全らしいとでも思ったのか、そろりそろりと零号機に絡み付き、そして、生態融合を始めた。
「・・やはり、零号機か」
「生体融合か・・まさに好都合な能力だ。」
「・・遠距離攻撃でなくて良かったな」
「自爆させろ」
日向は頷き、外部操作で自爆させた。
モニターの回線が切られ、施設を凄まじい衝撃が襲った。
「・・これで、ゼーレとの最終決戦だけだな」
「ああ、いよいよだ」
モニターが復帰した時、消滅しクレーターとなった第3新東京市が映し出された。


数日後、第2新東京市新千代田区、首相官邸第1執務室、
机の上には、報告書が置かれていた。
ゼーレ支配下にある各国の艦隊が日本に向けて集結している事が報告されている。
およそ、1週間後には日本本土に到達する。
「・・・もはや、引くわけには行かないか・・・」
日本は世界を敵に回していると言って良い。
自衛隊が国土防衛の為に協力してくれたが、それでも、余りに差が大き過ぎる。
シンジから与えられた新兵器・・・桁外れに優れた兵器の数々、それを合わせてもこれは余りに差がありすぎる。
第一、エヴァにしても、日本が掴んだ情報だけでゼーレ側には最低6機確認されている。
ひょっとしたら10機を超えているかもしれない。
「・・・・戦闘準備を進めろ」
「はい」
秘書官の一人が答えた。


2日後、ネルフ本部、ケージ、
ユイのサルベージが極秘に進められていた。
マヤは欠陥品のプログラムに目を通した。
巧妙に組まれたプログラム・・・ユイ自身やナオコ、リツコなら見破ったかもしれない、だが、今、マヤ以外にこのプログラムを理解できる者はいない、
「始めろ」
「はい、」
・・・・・
・・・・・
勿論、マヤが細工した通りにサルベージは失敗した。


総司令執務室、
「これで、後戻りは出来なくなったな」
「問題無い、予定通り、計画を完遂させるだけだ」
「・・・そうか・・・」


1週間後、ゼーレ、
「準備は整った」
「約束の時まで24時間を切った」
「我等の夢がかなう」
「人は新たなるステップへと進むのだ」
「神への道を上る」
「新たなる神の誕生だ」
「リリスとアダムによる補完はかなわない」
「唯一のリリスのコピーたる初号機による遂行を願うぞ」
「先ずは、マギシステムの制圧からだ、」
「伊吹博士相手に大丈夫か?」
「ふっ、手は打ってある。第8世代コンピューターだ」
「第8世代コンピューター?」
「そうだ」


アメリカ、ネルフ第1支部、大深度施設、電脳室、
白衣を着た研究者達が右往左往する部屋の中央に位置するカプセルには、無数のコードに繋がれた人間の脳が浮いていた。
「どうだ?」
「問題ありません。まあ、流石ですね」
「ああ、凡人の脳とは違うよ、流石は、赤木博士ですよ」
第2支部と共に消滅した筈の、リツコの脳である。
リツコは、事故の前に拉致され、脳を取り出されて第8世代コンピューターにされてしまったのだ。
しかも、皮肉にも、ナオコに対抗する為に、リツコが発案したが、並みの脳では、その負荷に耐えられず、崩壊してしまう為にその計画を断念した物であった。
彼女は、自分の望まない形で、強制的に自らの計画を完成させられてしまった。
その脳を代償として、


ネルフ技術棟特別病室、
ヒカリはトウジの手を手に取った。
「・・鈴原、遂に、来たわ・・・」
「必ず、ゼーレに思い知らせて見せるわ」


第2新東京市、新千代田区防衛省、最高司令室、
根回しが上手く行った結果、自衛隊の3将がこの場にいる。
4自衛隊が総力を結集して戦う。
しかし、それでも、勢力比は、2:8、圧倒的に不利である。
だが、お互いにどれだけカードを隠しているか、それが決め手になる。
「艦隊は?」
「間も無くですね」
「ああ、海自も展開を終了した」
「戦自は?」
「大丈夫です。準備は出来ています。」
防衛大臣が答えた。
「・・・難しいな・・・」
ゼーレ支配圏ではない諸国には極秘に情報を流した。
だが、ゼーレの支配力は強い
「可能性は?」
「マギ2は、3.6%と見ている」
「・・・3.6か・・・」
面々の表情は重い。
竹下は、広域作戦マップに目をやった。
小笠原列島付近の公海上をゆっくりと北上している嘗て無いほどの大艦隊。
衛星からの情報によると、空母は25、戦艦は36、総艦数は800を超える。
詳細な数は不明だが潜水艦も相当数存在する。
更には、軽戦車などを満載した軍用ではない輸送船も相当数確認されている。
対するは、伊豆諸島付近に展開されている海自と戦自の艦隊。
海自は、空母が2、戦艦は6、総艦数は70弱・・・
戦自の通常艦隊は、空母が3、戦艦が5、総艦数は50程度・・・
そして、今回のゼーレ戦の為に作られた特殊戦艦による艦隊は10艦
そして、更に、日本海の船影に目を移した。
正体不明の艦隊。
恐らくはゼーレの直轄艦隊。
こちらも相当な数がある。
位置と進路から目標は、ここ、第2新東京市。


ネルフ本部伊吹研究室、
マヤがマギのシステムを最適化していた。
第666プロテクトも1分以内に発動できるよう準備をした。
その他にも防壁をかなり厚くしている。
マギコピー相手ならば十分これで持つ、だが、何か、奥の手を用意して来ているとしたら、これでは難しいだろう。
「・・・何を隠しているのか・・・」
マヤはカップに残っていたコーヒーを一気に飲んだ。
突然画面に警告が無数に表示され警報が鳴り響いた。
「来たわね!」
マヤは猛烈なまでの早さでキーボードを叩き始めた。
物凄い勢いで押されている。
「くっ」
マギ2は、戦闘の方にその処理能力を回している為応援は望めない。
既に戦闘は始まっている事だろう。
相手はアメリカ、ドイツ、中国、ロシア、イギリス、フランス、ブラジル、インド、サウジアラビア・・・余りに数が多い。
(・・これは・・・間違い無く、第666プロテクトの発動が必要になるわね)
マヤは時計に目をやった。
どれだけ時間が稼げるか・・・
そして、30分も立たないうちに、発動せざるを得ない状況に追い込まれた。
「・・せめて、1時間は持たせたかったわね・・」
マヤは第666プロテクト発動の操作をした。
第666プロテクトが発動し、マギが完全防衛モードに入った。
完全な防壁に守られ、侵入は全て阻止された。
「・・ふぅ・・・」
マヤはほっと息をついてコーヒーカップを手に取った。
しかし、次の画面表示を見た時、カップを落としてしまった。
「なんですってぇ!?」
その防壁を破ってくるコンピューターが検出されたのである。
凄まじい計算速度である。
逆探知を試みた。
・・・・
・・・・
反応は、第1支部・・・1箇所である。
「・・・一体どんな切り札を・・・」
マヤの声は恐怖からなのか、震えていた。


第1支部、大深度施設
カプセルに入れられたリツコの脳が発光していた。
脳内を凄まじい勢いで流れ続ける電流による発光である。


精神世界、
リツコはその膨大な情報に自我は崩壊され、魂の領域にまで侵食を受けていた。
そして、魂さえも、その余りにも膨大な情報に埋め尽くされていく。
崩壊するリツコの魂は母ナオコの姿を見たような気がした後、消え去った。


大深度施設、
リツコの脳が負荷に耐えられずに崩壊を始めた。


ネルフ本部、伊吹研究室。
既に、カスパーの最終ブロック以外は完全に制圧されていた。
「くっ」
そして、マヤも諦めた最後の瞬間、突然ハッキングが停止してマギが状態を回復した。
「・・・どう言う事?」
「・・・何が起こったと言うの・・・」
マヤは暫くは本当に危機は回避されたかどうかの確かめを行い、良くは分からないが、それが確かめられるとほっと息をついた。
「・・・・・・」
マヤは抽斗から拳銃を取り出し、弾を確認した。
「・・・私は、愚かね・・・」
暫く拳銃を見詰め何かを考えた後、マヤは席を立ち、部屋を出た。


大型輸送機内、
一人の少女が椅子に座り、ぶつぶつと呟いていた。
「・・・絶対に許さない・・絶対に・・・」
「・・・ママを殺したネルフ・・・このアタシが、全てを破壊してやる。」

あとがき
いよいよ、最終決戦が迫って来ました。
それぞれがそれぞれの想いを胸に、最後の決戦にのぞむ。
その結果は如何なる物となるのか?
次が最終話です。