背徳 暗黒編

◆最終話

自衛隊と戦略自衛隊の主力は敗北し、ミサイル攻撃によって、残り少なくなっていた第3新東京市や、その付属都市の付属防衛施設は徹底的に破壊された。


ネルフ本部、第1発令所、
被害、いや、使える施設の報告を急がせている。
だが、1%も無い・・・
日向は唇を噛んだ、
まさに絶望的状況下と言える。
「・・・エヴァ参号機並びに四号機、出撃準備、」
「量産機捕らえました。」
作戦マップ上に13の白い点が表示された。
「光学は?」
「確認可能な光学サイトは生きていません」
司令塔の二人はじっと作戦マップを見詰めていた。
その時、すっと碇は立ち上がった。
「・・先生、後はお願いします。」
「・・ああ、分かっている。・・・・ユイ君に宜しくな」
「ええ」
碇は発令所を出て行った。
「・・・総員、第1種戦闘配置。」
暫くして、映像が入った。
13機の量産機の内、1機だけが、両生類と鳥類の中間のような姿ではなく、人型で白い翼を持ち、まるで天使である。
驚きの声が上がる。
「・・・あれが指揮官機か・・・」
「目標は5分で第3新東京市に到達します」
「参号機と四号機を射出、対空迎撃戦を展開」
日向の指示と共に両機が射出された。
「双子山は?」
「攻撃準備完了しました。」
双子山に配置されている自走陽電子砲・・・ミサトのヤシマ作戦の応用である。


地上に、2機のエヴァが射出された。
参号機のエントリープラグの中にいるトウジの脳は直接有線で接続され、シンクロ率や、反応速度その他を限界まで高められている。
更に、体中の主要な器官にも様々なコードやパイプがつけられており、そう簡単には死ぬことはできない・・・エヴァが大破し、エントリープラグが砕かれるまで・・・
参号機は陽電子砲を手に取り、遠方の量産機群に向けて放った。
陽電子は青白い光となって一直線に飛んで行ったが、複数の機体のATフィールドによって弾かれ、有効なダメージは与えられなかった。
四号機のケンスケも同様の処置が施されている。
四号機は加速し投合用のプログランスを投げ付けたが、結果は同じである。
結局、何もできないまま量産機の第3新東京市上空への侵入を許してしまった。
参号機はトールハンマー、四号機はスマッシュホークを手に構えた。


ネルフ本部のダミープラントに存在する大きな水槽の中をレイが漂っていた。
靴音の響きが近付いて来た。
レイは無反応である。
靴音はダミープラントの中央で止まった。
「レイ」
レイは視線だけで碇の呼びかけに反応した。
やはり、その瞳には何も映してはいない。
「お前は、この日、この為に生み出され、存在していたのだ。」
「・・・来い、」
碇の指示に従い、レイは機械的な動きで水槽を出、そして、二人はエレベーターに向けて歩き出した。


地上では、未だ戦いは始まってはいなかった。
天使の姿のエヴァは頭上に静止し、12機の量産機はその周りを円を描くように旋回している。
双子山の山頂付近が光り、陽電子ビームが量産機を襲い、量産機の内の1機が貫かれ爆発した。
それが開戦の合図となった。
11機の内4機は双子山へと向かい、7機は地上へと舞い降りた。
参号機はトールハンマーを手に四号機はスマッシュホークを手に量産機の内の1機に向かって走った。
四号機がスマッシュホークで強烈な一撃を食らわし、動きを止め、そこへ参号機がトールハンマーで叩き潰す。
しかし、それぞれ3機ずつが纏わりつき、動きを止められてしまった。
必死にもがくが、どうにもならない。
量産機は口を大きく開け参号機と四号機に齧り付いた。
上空では、天使の姿をしたエヴァがじっと、参号機と四号が生きながらにして捕食されている光景を見詰めていた。


双子山に配置されていた部隊は必死に抵抗を試みているがATフィールドに弾かれ何の意味もなさない。
4機のうち2機は撃墜したが、2機の到達を許してしまっていた。
量産機は、先ず自走陽電子砲を破壊し、次に、そこに配置されていた部隊を次々に襲った。
壊滅は決定したかに見えた瞬間、双子山にしかけられていた20を大きく超えるNN兵器が一斉に爆発し、味方を含めた全てを飲み込んだ。
煙が張れた時、山は抉られ、大きなクレーターとなり何も残っていなかったかに見えた。
しかし、僅かに残った組織から量産機は再生を開始していた。
これでは、時間は掛かるとは言え、元通りに成ってしまうだろう。


ネルフ本部の最深部、ターミナルドグマに磔になっているリリスの前でマヤは待っていた。
「・・愚かね・・」
ゲートがゆっくりと開き、碇とレイが姿を現した。
「・・・お待ちしておりました。」
マヤはゆっくりと二人に視線を向けた。
対する碇は無言のままマヤをじっと見詰める。
マヤはポケットから拳銃を取り出して碇に向けた。
「解答次第では、ここで、私と一緒に死んで頂きます。」
ただならぬ雰囲気を含んだ声にも碇は反応しない。
「貴方を、ユイ博士には渡しません」
「・・・」
「私は、貴方を手に入れるために何でもやりました。」
「貴方がユイ博士を取り戻すために・・・・」
「・・分かっていました・・」
「私が求められる事は無い・・・捨てられると・・・」
「ひょっとしたら僅かな希望にでも縋っていたのかもしれません・・・・でも・・・・」
「・・・計画を諦めてください」
マヤはじっと碇を見詰めた。
「・・断る・・」
碇にとっては、ユイのみが唯一の価値であり、それを手にいれる為の歩みは決して止めようとはしない・・いや、止められない・・・それが分かっていたのか、ふっとマヤは表情を緩めた。
「・・・愚かね・・皆・・・私も・・・そして、貴方も・・・・」
「・・レイ・・」
「・・・さよなら・・・」
マヤは引き金を引き拳銃を発射した。
しかし、赤い光りが散り、弾丸が弾かれ高質的な音が響いた。
「・・・」
ある程度は予想していたのか、マヤは余り驚いた風ではない。
碇は内ポケットから拳銃を取り出しマヤに向けた。
「・・伊吹君、本当に・・・・・・」
・・・・
「・・・うそつき・・・」
銃声が響き渡ると共にマヤの体が宙に舞い、LCLに没した。


地上にイヴが射出された。
「鈴原、私が、ゼーレを滅ぼすわ」
その少年は、先ほどまで量産機が食い漁っていた、醜い残骸となっている参号機の中で、今息途絶えようとしている。
ヒカリは上空を旋回している量産機と中央にじっと静止したままのエヴァを見上げた。
「行くわ」
イヴは白き翼を広げプログソードを手に飛翔した。
その姿も天使に似ている。
それに対し、漸く天使の姿をしたエヴァが反応し、容易く回避した。
イヴは逃げるエヴァに追撃をかけようとしたその時、エヴァからの回線が開かれた。
「?」
通信モニターには、目の前の天使の姿をしたエヴァの操縦者が映った。
長い赤みがかった長い金髪に蒼い目をし、赤いプラグスーツに身を包む美少女・・・・セカンドチルドレン惣流アスカラングレー。
「・・・そう、貴女だったのね、」
ヒカリはアスカに物凄い殺意をぶつけた。
アスカもヒカリにそれ以上の殺意をぶつけ返してくる。
『ママの仇、討たせてもらうわ』
「鈴原をあんな目に合わせた罪、絶対に許さない」
量産機の一機が、瓦礫となった兵装ビルからプログソードを探し出して来て、アスカが駆るエヴァに投げ渡した。
『「死ねぇええ!!」』
二人の少女が駆るエヴァとイヴは全力で切りかかった。
プログソード同士がぶつかり凄まじい音と火花を散らしている。
『「くううぅぅ」』
力の勝負、じりじりとイヴが押していく。
エヴァは一気に引きイヴが体勢を崩したところを狙いプログソードを振り下ろした。
しかし、ヒカリはフィードバックにより反射能力を数倍に高められている為に反応し受け止めた。
アスカはその類稀なるセンスで先を読んで戦い、ヒカリは、その高められた反射能力や機体の性能で戦っている。
現在のところほぼ互角の戦いを続けており、一挙一動が全て音速を越えているために凄まじい衝撃波の嵐が吹き荒れている。


ネルフ本部、ターミナルドグマ、
「ATフィールドを開放しろ」
碇は手袋を脱ぎ、アダムが融合されているその掌を露にした。
そして、ゆっくりとレイの下腹部に手を伸ばし、体内へと手を差し入れた。
手首まで体内に入った瞬間、突然レイの表情が変わった、
碇は戸惑った。
心は封印している筈なのに・・・
レイはATフィールドを展開し碇の手首を切断した。
「ぐあああ!!」
そして、空中へと浮き上がり、リリスに向かって移動し始めた。
「レイ!!」
「・・だめ・・・碇君が呼んでる・・」
レイの瞳には今が・・まあ、ある意味今ではあるが、少なくとも、目の前の現実は映っていない。
そのまま、リリスへと同化を果たした。
「・・・レイ・・・」
碇は様々な想いの中、脱力し、しゃがみ込んだ。
リリスの姿がレイへと成って行く。


地上では死闘が続いていた。
量産機の姿は見えない。射出口からネルフ本部に攻め入っている。
目的は初号機、初号機をネルフから奪い、補完計画を発動させるのだ。
エヴァとイヴの戦いは、ヒカリが戦いに慣れるに連れて、イヴが優勢に成って来た。
イヴが次々に攻撃を仕掛けエヴァがそれを凌ぐと言うのが先ほどから続いている。
エヴァの中で、アスカは歯を思い切り噛み締めていた。
このままでは勝てない、
「あっ!!!」
アスカが気付いた時は既に遅かった。
イヴのプログソードが右翼を切り落としていた。
「きゃあああああ!!!!!!!」
人には存在しない器官からの激痛、翼をもがれる激痛、
エヴァは飛行できずに地面へと落下していく。
アスカは受身を取ろうとしたが体が動かなかった。
イヴが体を押さえている。
「なっ!!」
一直線に落下していく。
「くうっ!」
地面に直撃する寸前にイヴは離れたが、そんな短い間ではどうしようもない。
エヴァは頭から地面に激突し、凄まじい衝撃と鈍痛がアスカを襲った。
「くっ・・」
目の前がぼやけている。
その視界の中で、ゆっくりとイヴが近付いて来るのが分かる。
「あ・・・」
四肢に激痛が次々に走る。
「きゃあああああああああ!!!!!!!!」
SS機関のエネルギーにより修復が始まるが意味を無さない・・・
いや、わざと致命傷を与えないように痛めつけているようだ。
「くっ」
アスカはイヴを睨み付けた。
『どお?鈴原の苦しみはこんなもんじゃないわ』
脇腹を激痛が走り抜けた。
プログソードが貫いたのだ。
「きゃああああああああああああ!!!!!!!!!」
修復されてきた翼を再び切り落とされた。
「わあああああああああ!!!!!」
足を切断される。
「もうやめてぇえええええ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
アスカはポロポロと涙を零して泣き叫んだ。
その表情は痛みと恐怖に怯える只の幼い少女である。
『駄目よ、最後まで苦しみなさい』
ヒカリは残酷な宣言をして、再び攻撃を開始した。
「いやああああああああああああああ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
どれだけの時間が経ったのか、もはやアスカは完全に壊れ生ける屍に成っていた。
量産機が初号機と共に地上に現れたので、イヴは、とどめの一撃、エントリープラグ、アスカを貫く一撃を放ち、アスカを絶命させた。
ヒカリは量産機と戦う為にイヴをそちらに向けようとしたが動かなかった。
「・・え?」
ヒカリ自身の体も動かない。
・・・限界を超えてしまったのだ。
エヴァ・・・アスカの殺戮にばかり気を取られていて、完全に失念していた。
あれだけの戦いを繰り広げたのだ。
シュミレーションで受けたものとは桁が違う。
限界は早くなって当然である。
それに気付いた瞬間、ヒカリの全身に恐ろしいまでの激痛が走りぬけた。
もし、これが、LCLでなかったら、息が出来ずに死んでいる。
その方が幸せ・・・いや、マシだったかもしれない。
頭が割れるような激痛が走る。
脳内の血管が次々に切れているのだ。
声も出せない、指一本動かせない、ヒカリはその状態で地獄の苦しみを味わっている。
イヴは力を失い地面に倒れた。
衝撃がヒカリに更なる激痛を齎す。
意識が薄らいで行く・・・
トウジの姿を脳裏に浮かべ、そして、ヒカリは意識を失った。
もう直ぐ訪れる死を止めるものは何も無い・・・


暫くして、初号機の中で目を覚ます者がいた。
「・・・ここは?」
強制サルベージによってユイはこの世界に戻されていた。
ユイは辺りの状況を見て愕然とした。
外輪山の形から、ここが箱根だと言うのは分かる。
巨大な湖・・・芦ノ湖にクレーターが繋がっているのだ。
そして、完全に壊滅し瓦礫と化している街、
「・・・・」
言葉を発する事が出来ない。
暫く、呆然としていると、視点が上空へと昇って行く。
何があったのか、そして何が起こっているのかを把握する事にした。
ここは、エントリープラグ、EVA−01、初号機、
装置を動かして現状を把握しようとした。
そして、次々に映し出される情報にただただ絶句する事しか出来なかった。
何と言う事だろうか・・・
これは間違い無く、自分を依代として、補完計画を発動させるつもりである。
その為に強制サルベージが行われたのである。
初号機は完全に押さえ込まれていて、動かす事は出来ない。
「・・・どうする?」
ユイは顎に手を当てて考え込んだ。
考えているうちにも、高度はどんどん上がっていく。
「・・・何も無いわね・・・」
ユイは大きな溜息をついた。
アンチATフィールドが展開され共鳴していく。
「・・・サードインパクト・・・」
一瞬にして全てが破壊し尽くされ、ジオフロント・・・いや、リリスの黒き月がその姿を表す。
「・・・」
ユイは、これで犠牲と成った者の事を思い、悲痛な表情を浮かべた。
・・・・・
・・・・・
「何?」
下の方から白く大きな物体が近付いて来る。
「レイちゃん!!」
ユイはそれが自分にも似た姿をしている事でレイと分かり驚き叫んだ。
「リリス!!!?」
ユイは思わずモニターに貼り付きリリスを良く見ようとしてしまった。
全面モニターなので意味は無いのだが、
リリスは初号機の正面に来るまでに巨大化した。
「レイちゃん!!!」
外部スピーカーを入れて、叫びかけるが、反応しない、
リリスの瞳は、何も映してはいない。


ネルフ本部、ターミナルドグマ、
碇は地面に倒れたまま動こうともしなかった。
「・・・俺は何の為に・・・」
補完計画が始まれば、全てがLCLに還る。
その世界ならば、ユイと会えるであろう、例え、それが老人達の作り出した世界であろうとも、


そして、補完計画が発動した。


LCLの海で、ユイは蹲るレイを発見した。
「レイちゃん!」
ユイはレイに駆け寄ったが、レイは反応を示さない。
暫く考えた結果、レイに触れてレイの記憶を読む事にした。
「くっ」
単に記憶を読んだだけのつもりだが、感情までもいっしょに流れ込んでくる。
「・・シンジ・・」
涙が次々に零れる。
・・・・
・・・・
「え?」
ユイはレイの記憶からこれが2度目の歴史である事が分かった。
そして、1度目の悲劇を再び繰り返そうとしていると言う事も・・・
「・・レイちゃん・・」
レイの体をそっと抱き締める。
ユイの温もりを感じたレイは僅かに反応した。
「レイちゃん」
再び呼びかける。
レイは視線をユイに向けユイの姿を捉えた。
「辛かったのね・・・後は私に任せて眠りにつきなさい」
・・・・
・・・・
レイはこくんと頷き、体をLCLへと還した。
後にはコアが二つ残っていた。
ユイは二つのコアを自分の下腹部に当てて体内へと取り込んだ。
「・・・シンジ・・・レイ・・・」
暫くは様々な事を思い巡らせていたが、キッと顔を上げた。


ゼーレ、
「・・おかしい」
「補完計画は発動した」
「肉体は還元され、精神だけの存在となった。」
「にも関わらず、なぜ我等には幸福の時が訪れない?」
「どうなっているのだ」
精神は未だ別個の存在で肉体があった場に縛り付けられている。
中央にユイの姿が現れた。
「むっ」
「・・・貴方達に、幸福など訪れはしません」
「・・・二つのインパクトの犠牲者、80億人の声を聞きなさい」
「「「「「「「「「「「「ぐああああああああ!!!!!」」」」」」」」」」」」
一斉に叫び声を上げた。
様々な者の怒り、哀しみ、嘆き・・・・様々なものが直接流れ込んでいるのだ。
「・・・貴方達は、セカンドインパクトの犠牲者の死を無意味に・・・いえ、更なる犠牲者を生み出す為に利用した。」
「・・・貴方達の精神と魂は私が管理しています。全てが終わるまで決して壊れる事はないでしょう・・」
ユイの姿は消え12人の叫びだけが響くようになった。


ネルフ本部、第1発令所、
司令塔で冬月は理解できない事態に戸惑っていた。
皆、LCLに還った。
しかし、自分だけ、精神ではまだ独立している。
足元には、先ほどまで自らの肉体だったLCLが広がっている。
今の自分は幽霊のような物か・・・
「・・先生・・」
冬月は喜びの表情を浮かべ勢いよくユイの声の方を振り向いた。
「ユイ君!」
「・・なぜあの人を止めなかったんですか?」
ユイが猛烈に怒っている事が分かり冬月は固まった。
「・・・止め様とすらしなかった・・・」
恐怖で身を震えてくる。
「先生には、レイちゃんの心を感じてもらいます。どれほど辛かったかを」
「がはっ」
突然冬月は倒れた。
前回に当る分のレイの記憶と感情が流れ込んできているのだ。
「・・・さようなら」
ユイはその姿を消し、その場には余りに大きな負の感情に苦しむ老人だけが残された。


ターミナルドグマ、
「・・・どう言う事だ?」
補完計画は始まった・・・しかし・・・
・・失敗したのか?
「・・貴方・・」
「・・・ユイ」
声の感じからユイが怒っている事を感じた。
「・・・俺はどうすれば良かったのだ?」
「私を追い求めた事自体は間違いだとは言いません。」
「しかし、貴方はその為に何をしたのか、どれだけの者を利用し、不幸にし、そして命を奪ったのか」
「・・・・」
「そして、シンジに、レイ、二人をどうして不幸な目に合わせたのですか、貴方にとって子供とは何ですか?」
「・・・・」
答えられなかった。
「・・・今、レイとシンジは長い眠りについています。二人の見る、悪夢を貴方が引き受けて下さい、それが、二人へのせめてもの償いです・・・」
二人の感情や今見ている悪夢、記憶・・・様々な物が流れ込んでくる。
「ぐおおお!!!」
「・・・さようなら、貴方・・・」
ユイの姿が消えた。彼女はもう戻ってこないだろう。
凄まじいまでの感情に曝されながら、碇は数年ぶりに涙を流した。


全てが消えてからどれほどの時間が経ったのか、
赤い海の傍に広がっている白い砂浜に、この世界に唯一肉体を持って生きるこの世界の神、碇ユイがじっと蹲っていた。
この赤い海、生命のスープと化した海で、生命が誕生し、生命が陸に上がり、進化し、第3代目のリリン、新人類へと進化するまでにはどれほどの時間が掛かるであろうか、
数千万年か、或いは数億年か・・・
ユイは神の力を得たこの不老不死の肉体でシンジとレイの存在を保ち、再び人類が繁栄した時に、その時に二人を普通の人間として現世に戻す。
その時が訪れるまで、悠久の時を待ち続けなければならない。
それが2人の為に出来る唯一の事なのだから・・・

あとがき
背徳暗黒編完結です。
如何だったでしょうか?
それでは、又別の話で、