再び

◆第4話

明日、零号機の再起動実験が行われる。
そして、第伍使徒が来る。加粒子砲と桁外れに強靭なATフィールドを持つ使徒が・・・
又、ヤシマ作戦のような長距離攻撃で仕留めるのか?
それとも近接戦闘で?
それには、問題は山積である。
先ず、あの加粒子砲を避けながら接近し無ければ行けない。
ダミーや兵装ビルを使うにしても所詮、狙われる可能性を下げるだけであり、それで、解決する問題ではない。
そして、中和距離に入ったらあの強靭なATフィールドを中和しなければ行けない。
果たして可能なのであろうか?
特に、先の一件でシンジの精神状態は非常に不安定であり、シンクロ率も大幅に低下している。
とても可能とは思えない。
更にあの巨体の中心部にあるコアを貫くには、配備されたばかりのソニックグレイブを使うしかない、それも、最短距離で正確に・・・
アスカほどの戦闘技能とシンクロ率があれば或いは可能かもしれない。
だが、今のシンジとレイにはとても不可能である。
ならば、やはり長距離射撃以外に方法はないか・・・


ミサトは通路を歩いていたレイを捕まえた。
「レイ、悪いんだけど、今日私帰れないから、シンちゃんの新しいセキュリティカード代わりに届けてくれない?」
「・・分かりました。」
レイはシンジのIDカードを受け取りその場を立ち去った。
「・・・これで二人が近付けば良いんだけどね・・・」
シンジとレイが近付く事は、シンジにとってもレイにとっても、その他の色々な者にとっても好ましいものである。


その深夜ミサトは徹夜で作戦の詰めを行っていた。
声に出す事も紙に書く事は出来ない・・・・・・パソコンなんて更にもっての外である・・・・頭の中で考えるしかない。
「こんなに遅くまで何をやっているの?」
リツコがコーヒーを差し出して来た。
「ちょっちね・・・色々と考えてたのよ・・ありがとね」
コーヒーを受け取り飲む。
「そう・・・で、その結果は?」
「そうね・・・特にはね・・・」
「・・そう、」


翌日、技術棟で零号機の起動実験が行われていた。
シンジは待機室で待機している。
零号機が実験場内に配置されレイが乗り込んだ。
「これより、零号機再起動実験を行う。」
碇の言葉で実験が始まった。
「レイ、準備は良いか?」
『・・はい・・』
「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」
「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し。」
「オールナーブリンク終了。」
「絶対境界線まで後2.5」
(・・もう直ぐ、来る・・)
ミサトは、じっと黙ったままモニターに映るレイを見詰めていた。
「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」
「絶対境界線突破します。」
「零号機起動しました。」
「引き続き連動試験に入ります。」
冬月が電話を取った。
「そうか、分かった。」
冬月は電話を置いた。
「未確認飛行物体がここに接近中だ」
「恐らくは使徒だな」
「テスト中断、総員第一種警戒体制」
「零号機はこのまま使わないのか?」
「未だ、戦闘にはたえん。初号機は?」
「380秒で出撃できます。」
「良し、出撃だ」


発令所、
「サードチルドレン搭乗を完了しました。」 
正八面体の使徒がメインモニターに映った。
「各兵装ビル展開。攻撃開始、初号機は臨出撃体勢に」
「「了解」」
兵装ビルが展開され無数のミサイルや砲弾が使徒に向けて放たれたがその強靭なATフィールドに弾かれた。
「目標内部に高エネルギー反応!円周部を加速させていきます!」
「まさか加粒子砲!!?」
そして、加粒子砲が放たれ、複数のビルが蒸発した。
発令所に妙な沈黙が流れた。
あんな物の前にのこのことエヴァを出す事は自殺行為である。
これで、初号機の修復に当てる分を他の作業に回せてヤシマ作戦が有利に進める筈である。
ここまではミサトの思った通りに進んでいる。
ミサトは表情には出さずひそかに笑みを浮かべた。
しかし、碇の言葉でそれは打ち消された。
「レイ、零号機に戻れ」
碇はレイに出撃を命じたのである。
「司令!?」
ミサトは碇の意図が理解できなかった。
元々、あんな物の前にエヴァを出すのは愚かである。それも、碇が可愛がり、そして、計画の為にも必要な筈のレイを?
「葛城1尉、両機を使い目標の第3新東京市中心部上空への侵入を阻止せよ」
「ど、どうして!?」
「ミサト、あれが本部に攻撃をかけられるようになるまでにどのくらいの時間がかかるかしら?」
「え?あ、いや・・・」
「確かに、あの大きさのものが通れる穴はないわ、でも、第3新東京市には無数の縦穴が存在すのよ、装甲隔壁なんてあんな出力の前では無力よ!例え使徒本体がここに来るまでには時間が掛かったとしてもそのときには本部は壊滅状態になっているわ!」
「更に言えば、例えそうならなかったとしても、既に第3新東京市は完全壊滅・・・何らかの方法でこの使徒を倒したとしても、次の使徒とどうやって戦うつもり!?」
ミサトが何故反論したのか、それは下に向けてはシールドによる掘削であり10時間弱は放置しておいても問題がないと知っていたからである。
だが、それを説明するわけには行かない。
そんな事をすれば確実に消される。
「零号機起動完了、射出口に移動します。」
「葛城1尉」
何か出撃を止めさせる方法を考える。
しかし、そんな方法は思い付かず黙り込む結果になってしまった。
「ミサト!」
「くっ」
考えを変え、近接戦闘を考える。
「初号機零号機、両機の装備はソニックグレイブ、共に最終安全装置解除、目標が射出口の傍を通る時にあわせて射出、ATフィールド中和と同時に全火力を集中して支援、両機は中心のコアを狙い一点攻撃。」
「射出口の上空を23秒後に通過します。」
「ソニックグレイブはまだ準備中、配備はとても間に合わないわ」
「くっ」
ミサトは表情を顰め別の案を出そうとしたが、碇の命令がそれを許さなかった。
「作戦案を採用する。武器はプログナイフを使え」
「射出します。」
ミサトが何か言う前に両機が射出された。
「接触まで10秒」
ミサトはぐっと拳に力を込めた。
「・・シンジ君・・・レイ・・・」
「目標内部に高エネルギー反応!!!」
「何ですって!!?」
「地上に出ます」
使徒を丁度挟む様に両機が射出された。
ATフィールドを中和する。
「ATフィールド中和!」
そして、両機が攻撃に移ろうとした瞬間、凄まじい光に包まれた。
『きゃあああああ!!!!!』
『ぎゃあああああああ!!!!!』
「何!!!?」
「分かりません!!」
第3新東京市の防衛施設からの攻撃ではない、未だ攻撃は行われていない。
モニターが回復すると両機はそれぞれ丁度リフトの上に落ちていた。
使徒は少し離れて距離を置いて空中に静止した。
「両機回収して!!」
「目標内部に高エネルギー反応!!」
大急ぎでリフトが下げられ、その直後加粒子砲が射出口を吹き飛ばした。
「二人は!?」
「気絶しているだけです。」
使徒は0エリアへと移動し、シールドによる穿孔を始めた。


30分後、ネルフ本部作戦部作戦立案室
ミサトや日向その他、数人の作戦部の人間が集まっていた。
「始めて」
1/1エヴァンゲリオン初号機バルーンダミーが、湖上の船の上に浮かんでいる。
バルーンダミーが使徒に接近したと同時に加粒子砲によって消滅させられた。
「ダミー蒸発!」
「次」
線路上を独12式自走臼砲が走って来た。
独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したが、肉眼ではっきりと確認できるほどのATフィールドに弾かれ、カウンターで消滅した。
「12式自走臼砲消滅!」
「次」
生き残っている市内の兵装ビルから同時攻撃が仕掛けられた。
全てATフィールドで防ぎ次に加粒子砲の連射で次々に消し飛ばされた。
・・・・
・・・・
「これまでに採取したデーターによりますと目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと思われます。」
日向が事務的に報告した。
「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち・・・更に、」
初号機と零号機がやられた時の映像が映し出された。
使徒から両機に凄まじい放電が行われていた。
「エヴァぁによる近接戦闘は不可能ね。」
「・・・ATフィールドは?」
「健在です。相転移空間が肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています。」
独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したビデオが再生された。
「爆撃、誘導火砲のような生半可な攻撃では、痛い目を見るだけですね。こりゃ。」
「・・・で、問題のシールドは?」
「直系17.5メートルのシールドがネルフ本部に向かい穿孔中、明日0時8分6秒には22層全ての装甲隔壁を貫通しネルフ本部に到達するものと思われます。」
「後10時間足らずか・・・両機の状況は?」
ミサトはケージに回線を繋いだ。
『電子系統に深刻なダメージを受けているわ、でも2時間後には修復を終えるわ』
「パイロットの容態は?」
「二人とも体には問題ありませんが、まだ眠っています。強制覚醒は心理パルスを不安定にするため、余り薦められません」
「・・・」
アクシデントはあった、だが作戦にはそう大きな影響は無く実行に移せそうだ。
「如何します?白旗でも揚げますか?」
日向が冗談を言った。
「その前にチョッチやってみたい事があるの。」
「やってみたい事ですか・・・」


15分後、ネルフ本部総司令執務室
ミサトが作戦の許可を取りに来ていた。
「目標のレンジ外からの長距離射撃かね。」
冬月は報告書を机の上に戻した。
「はい、高エネルギー収束体による1点突破しかありません。」
「マギは?」
「賛成が1、条件付賛成が2でした。」
「作戦成功率は2.4%か・・・他に案はなかったのか?」
「はい、残念ながら・・・これが、最も高い数字です。」
碇はじっとミサトの目を見据えて来た。
怖い・・だが、ここで退いては成らない。
「・・・・・・・よかろう」
「はい」


10分後、ネルフ本部技術部第3格納庫
リツコは計画書を捲った。
「これがねえぇ」
「時間内に実現可能、且、最も勝算が高い方法よ。」
「2.4%がねぇ・・・あの使徒のATフィールドを撃ち抜くのに要する出力は最低1億8000万キロワット・・でも、そんな出力、うちのこれじゃ持たないわよ。いったいどうする気?」
リツコはロールアウトしたばかりの陽電子砲を見ながら言った。
「戦自研のプロトタイプを徴発するわ。既に手配は済ませたわ」
「・・・随分と手際が良いわね」
「人間必死になればね・・・」


40分後、筑波、戦略自衛隊付属研究所、第2格納庫、
ミサトは書類を差し出した。
「以上の理由により、只今より、自走陽電子砲は、特務機関ネルフが徴発いたします。」
「し、しかし、そんな無茶な」
「国防のためであるとお考え下さい」
「・・・・・そうですね、はい」
「可能な限り原形をとどめて返却します」
「持っていって!」
ネルフの輸送部隊が雪崩れ込んで来て、陽電子砲を運び出す作業を開始した。


第3新東京市、ネルフ本部技術部第4格納庫、
巨大な盾が改造を受けていた。
「エヴァの特殊装甲で表面を覆って、実質22%、装甲を厚くするわ」
「・・ありがと」
「礼を言われるような事ではないわ」
「・・二人の様子を見てくるわ、」
ミサトは中央病院に足を向けた。


ネルフ中央病院、特別病室、
二人が目覚めたとの報告を受けたミサトが病室に入った時、二人はシーツだけを纏いベッドの上に座っていた。
シンジは赤くなって俯いている。
それを見たミサトは、何があったのか直ぐに思い付き、思わずからかい癖が出た。
「あらあら、シンちゃん、二人の関係は進んだのかしら?」
「か、か、関係って!!ぼ、僕らは別にそんな!!な、何にも無いですよ!!」
「・・・関係・・・何?」
どもりながらも真っ赤になって必死に否定するシンジに対して、レイはその意味が分からず首を傾げた。
暫くシンジをからかった後、ミサトは真面目な顔をして、二人に深く頭を下げた。
「ごめんなさい・・・貴方達を危険な目に合わせたのは全て私の責任よ」
「・・そんな、別にミサトさん・・」
「・・・」
暫く、ミサトは作戦を伝えるのを戸惑ったが、思いきって口を開いた。
「・・・これから、貴方達には、あの使徒を倒す為に又エヴァに乗って戦ってもらわなくては行けないの・・・御願いできるかしら?」
「・・問題ありません。」
レイは即答し、シンジはレイの顔をとミサトの顔を交互に何度か繰り返して見て、その後にゆっくりと頷いた。


P.M.10:45、双子山山頂仮設基地
ミサトとリツコに向き合ってシンジとレイが立っている。
シンジはポジトロンスナイパーライフルを見た。
急造だけに様々なパーツが剥き出しになっており、素人目にもとても野戦に向くとは思えない。
「・・こんな野戦向きじゃない兵器使えるんですか?」
「仕方ないわよ、間に合わせなんだから、理論上は、これだけの大出力にも耐えられるわ、ただし、実際に撃って見ない限り、銃身や加速器が持つかどうかは分からないわ、こんな大出力で試射できるはず無いもの」
「・・そうですね・・」
「本作戦における担当を伝えるわ」
「レイは、零号機で砲手を担当」
「了解」
「シンジ君は、万が一の時はレイを守ってあげて」
「・・・はい」
「これはレイと零号機とのシンクロ率の方が高いからよ。今回はより精度の高いオペレーションが必要なの。」
リツコが理由を付け加えた。
「レイ、陽電子は地球の自転・磁場・重力の影響を受け直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでね。」
「了解」
「方法は、テキスト通りにやって、真ん中にマークが揃ったら撃てば良いの。後は機械がやってくれるわ。」


月明かりの中、仮設ケージにシンジとレイの二人が座り、何か話をしている。
今、ミサトはその二人を見上げている。
話の内容は聞こえないので分からないが、どこか穏やかな雰囲気である。
「・・シンジ君・・・レイ・・・」
二人はそこそこ良い関係に成っている様だ。
このまま行けるのであろうか?
暫くの間二人の様子を眺めた後、発令車に向かった。


12式大型発令車、
中央にミサトとリツコが立ち、2人の脇にマヤ、前に日向が座っている。
《日本標準時 23:44:57》
《日本標準時 23:44:58》
《日本標準時 23:44:59》
《日本標準時 23:45:00》
「作戦スタートです。」
「レイ、日本中のエネルギー貴女に預けるわ。」
『・・はい』
「第1次接続開始。第1から第803区まで送電開始」
日向がレバーを起こすと、付近一帯を地鳴りのような音が包んだ。
「ヤシマ作戦スタート」
ミサトは作戦の開始を告げた。
「電圧上昇中、加圧水系へ。」
「全冷却機出力最大へ」
「陽電子流入順調なり」
「温度安定依然問題無し」
「第2次接続!」
「全加速器運転開始、強制収束機作動!」
エネルギーを示すメーターが順調に上がっている。
次々に行程が進んで行く。
「最終安全装置解除!」
「撃鉄起こせ」
零号機は撃鉄を起こした。
「第6次接続」
「誤差修正プラス0.0009」
良い結果を残そうと、無理をして不確定要素を大きくすると痛い目を見る。
シャムシェル戦で思い知った。
ならば、大きな変更は加えない方が良い、強化された盾の耐久時間はおよそ21秒、更に初号機は零号機よりも装甲は厚い。シンジは助かる。
「第7次最終接続、全エネルギーポジトロンライフルへ」
「カウントダウン開始10、9、!、目標内部に高エネルギー反応!!」
「・・来たわね」
「撃てぇ」
ミサトの声と共に零号機が引き金を引き、陽電子が打ち出されると同時に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れた。
加粒子砲は山の中腹に激突し、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒し、かなりの衝撃が走った。
陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。
「第2射急いで」
零号機は再度弾を込めた。
「ヒューズ交換」
「再充填開始!!」
「銃身冷却開始」
「発射まで25秒」
「再び使徒内部に高エネルギー反応!!」
「後22秒」
「使徒加粒子砲を発射!」
初号機が盾を持って零号機との間に割って入り、加粒子砲から零号機を庇った。
「・・・シンジ君・・・」
「後15秒」
『くうぅ』
シンジのうめきが漏れる。
「くっ」
「後11秒」
ミサトはぎゅっと拳を強く握り締めた。
『ううう』
「後7秒」
エントリープラグ内のLCLの温度が急上昇している。
「5」
『うわああああ!!』
シンジはあまりの熱さに悲鳴を上げ始めた。
「シンジ君!!」
「1」
カウントが0になると同時に零号機が陽電子砲を発射させ、陽電子は使徒を貫きそのまま上空へと上がっていった。
初号機が崩れ落ちた。
「レイ!シンジ君の救出を急いで!」
零号機は起き上がって初号機の後部装甲を破壊して、エントリープラグを取り出した。
「回収班急いで!」
周囲に待機していた回収班がエントリープラグに駆け寄り、シンジを救出した。
その後、シンジは無事との報が届き、ミサトはほっと安堵の息を吐いた。